4ー069 ~ 地下の温泉にて
ロミさんとこの温泉なんだけどね、ああ、そうだった、そうだったよ…。
洗い場の蛇口、2セットしか無いんだったここ。
広い湯船の向こう側にもうひとつあるって言ってたけど、ここからだと位置的に直接は湯船中央の岩で遮られていて見えない。そんで、そこへ行くにはここからだとその湯船を通らないと行けないみたい。
そういや脱衣所がもうひとつそっち側にあるって言ってたもんな…。
かと言ってもう脱いでるし、また服着てあっちがわに回るのもなぁ…。
ん?、ああそうだった、向こうにもあるから2セットだって覚えてたんだ。こっち側は1セットしか無かったはずなんだよ。もしかしてひとつ追加したのかな…。
まぁ2セットになってたほうが今は助かるので、良かったって事にしとこう。
「ほれ、タケル様よ、早くこちらに座るのじゃ」
とか考えてたらテンちゃんが呼んでる。
見ると席が埋まってるはずが、ああ、テンちゃんがさくっと椅子を作ったのか、右側の蛇口のやや右手にテンちゃんが座ってぺちぺち椅子を叩いてた。
あれだな、銭湯とかで親子連れがひとつの蛇口の前に座るみたいなもんか。
ここまで来たら仕方ない。開き直ろう。
ちなみにファーさんのほうは左側の蛇口の前で、縛っていた髪を解いてお湯をかけて洗い始めていた。水と熱湯の出る蛇口の使い方を知っていたみたい。
しかしファーさん…、こうして座ってる所を後ろから見るとくびれがすごいな。さすが踊り子さんだ。
「ん」
- あ、ありがと。
差し出されたスポンジを受け取って、椅子が近すぎるので10cmだけ離して座った。
テンちゃんはもうひとつのスポンジで自分の腕から順にごしごし洗い始めてる。
俺はいつも頭から洗うんだけどなーなんて思ったけど、そういえばお風呂セットが桶に入ってたんでそれひとつしか出してなかった。スポンジは3つ出したんだけどね。
そっか、ボトル3本なのはシャンプーとリンスとボディソープか。
そのボディソープがテンちゃんの前に、それ以外はファーさんの所にあった。
じゃあ仕方ないな、身体から洗うか。
珍しく、と言っていいと思うけど、テンちゃんからの過剰な接触は無く、まぁ互いの背中をごしごし洗いはしたけどそれだけで、至って普通に、3者とも全身を洗い終えて湯船に浸かったとこ。
普通、って言っちゃったけど、この状況がもう既に異常だよなぁ…。
とにかく、俺とテンちゃんがほぼ同時に洗い終えて、テンちゃんが先に湯船に行き、俺は手に持って入ってたタオルの新しいのに付け替えてから湯船に行った。
ファーさんはリンスを1回だけ流してからきゅっとタオルでまとめて、身体を洗い終えたあとにまた髪を1回目の時に桶で受けておいたものでもう一度流し、それから洗い流していたので最後になった。
髪の事はよくわからないけど、いろいろあるんだなーなんてちょっと思った。
「うーむ…、いやしかし…」
テンちゃんが温泉に浸かってから何やら考え事をしている。
というか広い湯船の中央にあるでっかい卵型の岩の近くで腰に手を当てて見ながらぶつぶつ言ってる。
でも岩に触れられる距離じゃなくて、2mぐらいあけて立ってるんだけども。
この湯船は、端の方は浅くて平らなんだけど、端から1mほどのところから緩やかに深くなる。と言っても端の深さが40cmぐらいで中央あたりは60cm無いぐらいなので、深いと言っても大したことは無い。
前回、ロミさんが岩のところから近寄ってきた時は、もうちょっと深かったような気がしたんだけど、そう言えばあの時って端に座ってた俺のとこの水位ももうちょっとあったっけ。
んじゃあの時とはお湯の量が違うのか…。
テンちゃんがくるっと振り向いて戻ってきた。にこっと微笑んでいたけど俺は直視しないようにさっと右を向いたら、そっち側に来て、縁に腰かけて足だけを湯にひたした。だって左側はファーさんが1mほどのところに居るんだよ…。だからまた正面を向いたんだけどね。『よっ』なんて小さく言って腰かけるもんだから思いっきり揺れてたよ。直接は見てないけどね!
まぁそれで思い出した、前の時って縁ぎりぎりまでお湯があったんだ。今はそれが20cmほど差がある。なるほど。
そういうどうでもいいような事を考えてないとやってられん。
- テンちゃん、あの岩に何かあったの?
「ん?、ほれ、前にアクア分体がロミの影響を受けた事があったじゃろ?」
- あ、うん。
あの時ね。あれは本当に焦った。(※ 4-035話)
異様な雰囲気で迫ってくるモモさんからは逃げられないし、テンちゃんまで来て、知らない女の魔力があるとか言って、テンちゃんがウィノアさんに説明するように言ったら、中立だと思ってたのに言い方がロミさん寄りで困ったっけ。
「あの岩の中にそういう装置が仕込まれておったのじゃ」
- へー、え?
んじゃここのお湯ってやっぱりまずいんじゃ…?
「いや、悪質なものでは無いのじゃ。ほんの少し、という程度なのじゃ。タケル様や吾らには影響は無いのじゃ。のぅ、ファーよ」
「はいですこの程度ファーには何ともありませんですよ旦那様」
- でもウィノアさんには影響あったんだよね?
「ん?、何じゃ其方、分体を置いてきてしまったのか…」
- え?、置いてきちゃまずかった?
「其方が身に着けている限りにおいて、首飾りの分体は影響を受けずに済んだのじゃ」
- そうなの?、んじゃまた影響受けちゃってるって事?
ざばっと立ち上がって脱衣所へ行こうとした。
「落ち着くのじゃ、走ると危ないのじゃ」
- あ、うん。
「ここのアクアと混ざらない限りはそれほどすぐに影響は無いと思うのじゃ」
- え?
ここのアクア?、ああ、既に影響下にあるんだ、ここのお湯のウィノアさんは。
ややこしいな…。
- とにかく首飾りを着けてくるよ。
「うむ」
水を滴らせながら脱衣所に行き、棚においてたウィノア球体をさっと手にとって首に近づけ、装着した。
ってかそういう事情があるなら、ウィノアさんも首飾りを外した時に警告してくれればいいのに、なーんにも言わないんだもんなぁ…。
という気持ちで、浴室に戻りながら首飾りをぺちっと軽く叩いたけど、反応が無かった。いつもなら『あんっ』とか言いそうなもんなのにね。
やっぱりテンちゃんが近いところに居るせいなんだろうか。
壁際の女官さん2名は、俺を見るとさっと動いて、彼女たちのすぐ横の棚に置いてあった服を手にして待ってたけど、俺が『あ、また入りますので』と言うとまた壁際に下がってお辞儀をした。
もしかしてあの服って、スォ族の衣装かな?
やっぱ着ないとダメかなぁ…。
二度手間になるけど、『瘴気の森』に行く前に着替えればいいか…。
と考えながら浴室に戻ると、湯船でファーさんが踊っていた。
それを、縁に座ったテンちゃんが、片手をやや斜め後ろにつっかえ棒のようにした姿勢で見ている。
当然、ファーさんはタオルで髪を纏めているけど裸なわけで、そんなの目で見るのはアレだから見ないようにしてテンちゃんの後ろにしゃがんで話しかけた。
- これ、どういう状況?
「タケル様も隣に座って見るが良いのじゃ」
いやさすがにそれはちょっと…。
「おお、今の動きはとても良いのじゃ、ほれ、タケル様も見てやるのじゃ、ファーの晴れ舞台なのじゃ」
「ありがとうございますですよテン様旦那様もぜひ見て下さいですファーは頑張ってますですよ!」
そう言うとばしゃっと水音がした。
見なきゃダメ?
いやそりゃ魔力感知ってもんがあるので、だいたい見えてるけどね?
動き回ってるからどうしても感知に反応あるし、そもそもファーさんは魔力量があるから感知しやすいし…。
さっきの水音は、ファーさんが飛び上がって脚を優雅に前後180度、まるでバレエダンサーのようなジャンプをしてから膝を曲げ、着地じゃなく着水と同時にその脚をつま先から真下へと伸ばしながら上体は捻るという事をした時の音で…。
もう一度言うけど全裸なんだよ…。目のやり場に困るんだよ…。俺の目は今、目の前の床を見ているんだけどさ。
感知で見えるファーさんはとても美しく踊っていた。
頭に巻いているタオルも、衣装なのかと思えるぐらい、風呂場には合ってるし…、そりゃまぁそうか。
手にはタオルを持っていて、そのタオルがまっすぐ伸びたり、巻きついたり、しぶきを飛ばしたり、まるで小道具のように扱われていた。
手指から足指まできちんと気が配られていて、それと、水深たった60cmあるか無いかぐらいなのに、ファーさんの足の動きで水面の波が渦のようになったり、波紋が円で描かれ重なる模様のようになっていたりする。
風の魔力が働いているので、それも故意にやってるんだろうとは思うけど、この浴室のあちこちに、湯気などが効果的に照らされていて風情のある空間をも取り入れたように、こっちから見てちょうど向こう側にある灯の魔道具の光が、ファーさんが巧みに隠したり見えたりしていて、広い湯船がまるでステージのようだった。
すごいんだよ、でもさ、その灯の位置がまた何とも微妙な位置なんだよ…。股間だったり、上体を反らした胸の先んとこだったり…。
ああそっか、テンちゃんの後ろにいるから、そうなのか…?
でもほんと、笑顔で楽しそうに踊るなぁ、ファーさん。
全裸じゃなければ、目で見てみたかった。
「まあ、素敵ね♪」
「…一体何を…」
「其方らも見るが良いのじゃ、音楽が無いのがちと残念ではあるが、素晴らしい踊りなのじゃ」
カラカラと小さな音を立てて脱衣所の扉が開き、ロミさんとリンちゃんが入ってきた。
入ってすぐロミさんが目を丸くして楽しそうに言ったもんだから、リンちゃんも止めろとは言えなくなったんだろうね。
そのリンちゃんはそそっと俺の隣に来て同じようにしゃがんで小声で言った。
「タケルさま、どうしてこんな事に…?」
- いや僕もわかんない。ちょっと脱衣所に首飾りを取りに戻った隙にこうなってたんだよ…。
「…はぁ、お姉さまですか…」
- うん、たぶん。
「其方ら何を後ろでこそこそしておるのじゃ、ほれ、見るが良い、そろそろ物語もくらいまっくすなのじゃ」
クライマックス?
え?、ファーさんの踊りにストーリーがあったの?
いや俺そんなの全然わかんなかったよ…。
っと、ついテンちゃん越しに見てしまったじゃないか。
うわすっごいジャンプ…。
で、なんで開脚すんのさ…。もろに見てしまった…。回転してたから一瞬だけど。
それを気にしなければすごい大技だった。着水はまるで大きな冠のようにしぶきが上がり、背中をまるめたファーさんが優雅な動きで腕にかけたタオルを相手に見立てたように、誰かを抱き起こすような動作をし、優しい笑顔で水面に顔をつける位置まで沈んだ。
うわーすごい器用な水面下。そんなに深くないのに。どうやったらそうなるのかさっぱりわからん。感知で見えてるけどわからん。
さらにそこからすっと立ち上がり、給仕のひとのように片手にタオルを掛けた姿勢でお辞儀をした。
「素晴らしいのじゃ!、とても良かったのじゃ!」
テンちゃんが拍手しながら言った。ロミさんも拍手していた。俺も釣られるように拍手した。もちろんリンちゃんも。
「ありがとうございますですよ皆様。ファーも久しぶりに思い切り踊れて楽しかったですよ」
「最後のところしか見れなかったのが残念だわ…、でもさすがは風の精霊様、踊り子の衣装をなさっていたのも納得です」
「ファーは毎日でも踊りたいと思っておりますですさっきのはまだ続きがありますです何なら続けて踊ってもいいでしょうか?」
「おお、では悪い魔法使いを倒して呪いを解いて終わりではないのか」
「はいですテン様第二幕はその倒したはずの魔法使いが復活するところからなのですよ」
そういうストーリーだったんだ…。
音楽とか解説とかセリフとかが無いと、踊りだけでは俺にはさっぱりだよ…。
最後のあれがそういう意味だったって事なのか…?、やっぱりよくわからん。
「では第一幕を見ていなかったリンとロミのためにももう一度――」
「ダメですよ、お姉さま。いつまで裸でここに居る気ですか。何もここで裸でじゃなくてもいいじゃありませんか」
「しかしせっかくのすてーじなのじゃ、」
「何がステージですか、ここは浴場で、踊りのステージではありません。確かにそのような場でも表現に生かす技術は賞賛に値するとは思いますが、お姉さまもファーも、それとロミさんも、節度というものを弁えて下さい」
さすがはリンちゃん。と、言いたいところだけど、俺の横で胸を張って片手を腰に、もう片手は人差し指を立てて振りながら言うその姿も、全裸なんだよ…。
テンちゃんはテンちゃんで、身体を捻ってリンちゃんの方を向いてて、片膝を胡坐の片方みたいにこっち向けて曲げててさ、なんでこっち側に捻るんだよ、俺の目の前に片手をついてるから胸もこっちむいてるしさ、俺、やや左斜め前しか見る方向が無いよ。
ロミさんはいつの間にか俺の後ろに立ってて、ファーさんは踊り終わってお辞儀したときには腕にかかったタオルで前が隠れてたのに、タオルを丸めて持っててこっちに歩いて来てるし…。
身体の一部を隠してるのは俺だけっていうね…。ふつー男女が逆じゃね?
もうちょっと恥じらいってもんを…、いやそうされたらされたで今以上に意識してしまいそうだからこれでいいのか…。
俺、もう脱衣所に逃げていいかな…?
●○●○●○●
結論から言うと、俺は脱衣所でしばらく待たされた。
何でかというと、俺たちのアリースオムでの拠点となる客室は、現在ホームコアが絶賛改造中だそうで、リンちゃんが言うにはもうしばらくかかるんだとさ。
これまでそんな事なくすぐにホームコアが設置できていたのは、いくつか理由があるらしいけど、規格の範囲に入っている建造物だったから、というのが大きな理由らしい。
ここは石造りの城の一部でしかも地下なので、改造時の設定も多く、調度品の保全などの問題もあって、それ相応の時間が掛かってしまうんだってさ。
まぁそういう事情ならしょうがない。
でもファーさんの踊りを見るのはちょっとなぁ…。
いや確かに美しいとは思ったよ?、でも全裸の美しい女性たちに囲まれて全裸の美しい裸体が踊るのを鑑賞する…、なんて図太さは俺には無いんだよ。どこの王様の退廃的後宮ショーだよそれ。やだよそんなの。だって興奮したら困るじゃんか。
非接触なのは助かるし、迫って来たりしなかったのも助かったけど、これはこれで困る。えっちな雰囲気では全然無いんだけど、もし俺がそんな中で興奮してしまったら非常にまずいじゃないか。
単純に言って、よそん家の風呂に女の子複数連れ込んで踊らせてそれ観て興奮するとかどんなプレイだよそれ。
というわけで、『これ以上ここに居たらのぼせるから出る』と言って脱衣所に逃げたら、リンちゃんが追っかけてきて説明してくれたので、脱衣所で待たされることになったってわけ。
で、女官さんたちがどこからともなく持って来てくれた椅子に並んで俺とテンちゃんが座り、目の前ででっかい団扇をゆっくり動かして風を送ってるファーさん、という図になってる。
「旦那様テン様風はいかがですかもうすこし強めがいいですか?」
「いやちょうど良いのじゃ、其方もそちらに座って水を飲むのじゃ」
「いえこういうのは雰囲気が大切だと教わりましたですよ」
「そうか」
つまり、別に団扇を動かさなくても風ぐらい操作して送れるけど、団扇で扇ぐという雰囲気が大事だって事ですかそうですか。
現に今、動かしてる団扇とは関係なく風がそよそよと送られていて心地がいい。
もちろん、ファーさんが操作してるわけなんだけども。
「ふふ、餅は餅屋というわけなのじゃ」
「はいですこれくらい消費のうちに入りませんですよ」
あんだけ激しく、でも優雅で美麗に踊ってたのに、逆に元気になってそうな雰囲気のファーさん。
それと、着替えはやっぱりスォ族の衣装だった。ご丁寧にテンちゃんやファーさんの分まで用意されていた。
あとでロミさんに文句を言われそうなのでちゃんと着た。というか着せてもらった。増えてた女官さんたちに。
ファーさんは髪を乾かしてもらってた。
前回のときロミさんが乾かしてもらってた魔道具なんだけど、光の精霊さんたちの魔道具『ドライヤー』のようにコンパクトなものではなくて、設置型で口径5cmぐらいのホースをひとりが構えて、もうひとりが髪を動かし、もうひとりが衝立の向こうで本体を操作するものだった。大掛かりだなぁ。
ちゃんと温風と冷風が切り替えられるけど、もっと小型にできなかったのかとちょっと思った。
でもまぁ機能的には問題無く、ファーさんは髪をちょいと結ってもらったりして、衣装に合う姿になっていた。
テンちゃんのほうはお世話を断り、自分で拭いて髪は魔力を使って乾かしていた。衣装の方も手伝いを断って、でも説明を聞きながら自分で着た。
俺?、俺は手伝ってもらったよ?、女性用より単純だから自分でできそうだったし、前回の事もあって覚えてるから、やろうと思えばできたんだけど、テンちゃんに断られて、俺も断ると何だか気の毒な気がしてさ。やってもらったってわけ。
だから下着もちゃんと着けてるよ!
テンちゃんはノーパンだと思うけどね。たぶん。
それからリンちゃんとロミさんが揃って浴室から出てきて、ちらっとこちらを見ただけで堂々と女官さんたちに拭かれ着せられ髪を乾かされ、結われていた。
ふたりとも、そんでもって女官さんたちもこちらに見せつけるようにしてるんじゃないかって疑うぐらい堂々としてるんだよなぁ…。ファーさんまでわざわざ一歩横にずれるしさー、わけがわからない。
普通さ、女官さんたちは裸を見せないような位置に居たりするもんじゃないのか?
わざわざ俺との直線上を避けるような位置取りをするか?
リンちゃんもロミさんもわかってやってるよね?、にっこり笑みを浮かべてじーっとこっちを見てんだよ。リンちゃんはともかく、ロミさんまですること無いよなぁ…。
絶対風呂で何かふたりで相談したんだよこれ。
ファーさんが全裸で踊ってたのと無関係じゃないような気がする。
テンちゃんは俺の腕を抱きしめたりもせずに、なーんか様子を窺っているような感じだし…。
ファーさんだけはそういうのとは関係なく、団扇で扇ぐのが楽しいのか何なのか知らないけどにこにこと笑顔で、少しだけ何かゆっくりと優雅に踊っているような動きで扇いでたよ…。
●○●○●○●
リンちゃんが『そろそろ終わっているかと』と言って、女官さんたちに前後を挟まれスォ族の衣装5人でホームコアが設置された部屋に戻った。
入室前に、『一応、登録操作をしたほうがいいと思いますので』と言われて俺たちと、いつの間にか来ていた女官長さんと数人の女官さんたちにペンダントが配られ、両開きの扉を外向きに開いて中にぞろぞろと入り、すぐ横の壁にあった操作盤で順次登録処理をした。
もう何度もやった登録処理だったけど、いつもよりさっと終わったような気がした。
慣れたせいかな、とも思ったけど、あとでリンちゃんが『登録済みだからですよ』と言っていた。新規のはずなのにそういうもんなのかなと、その時はあまり気にしなかった。
ところでここの扉は内開きだったと思ったけど、改造によって内側には開かない構造になっているようだった。
リンちゃんがそれを女官さんたちが登録している間に説明をしていた。
温泉へと行く前にちらっとリンちゃんがロミさんに説明していたように、天井が前より少し低くなっていて各所に送風口か吸気口かがあり、空気が流れる音がしていた。
部屋の大きさも変化があり、奥の方には扉が増えていて、それがたぶん脱衣所と浴室、それとトイレだろう。ん?、トイレが2つあるな。脱衣所からも出入りできるほうと、そうじゃないほうの2つ。
台所はこちら側の壁に対面キッチンがあって、厨房設備が見えていた。
その並びにひとつ扉があって寝室があり、それ以外の寝室らしき部屋は扉が90度隣、つまり横の壁に並んで作られていた。
索敵魔法でスキャンしたときには、こちら側の壁は完全に別の部屋で、あちら側の廊下から出入りするものだったはずだけど、ホームコアはそこまで支配下に置いて改造したようだ。
そういえば隣がロミさんの居室だとか言ってたよなぁ…。
- ロミさんの部屋ってどこなんです?
隣でにこにこして座ってるリンちゃんにきいてみた。
「台所の隣がそうですよ?」
と、指差した。
- え?
「え?」
- あ、いやそうじゃなくて、本来の皇帝陛下の居室。
「ああ、それならその部屋の奥に扉があって、その向こうがそうみたいです」
- え?、繋いじゃったの?
「うふふっ」
「はい、裏口のようなものですから」
いあいあ皇帝陛下の部屋への扉を裏口てw
- 裏口って言われてますけどいいの?
「だってこっちのほうが快適なのよ?」
そう仰いますが、普通なら、皇帝の居室に繋がる小さい部屋ってったら護衛たちや女官たちの控室でしょうに。そっちメインにしてどうすんのよ。
そう思いながらちょいと索敵魔法でスキャンしてみたら、やっぱりありました、天蓋付きのでっかい豪華なベッド。その奥が書斎にような部屋になってた。たぶん執務室。
- 向こうに執務室がありますけど、いいんですか?
「執務もそこの部屋ですることになるもの。何ならここでしてもいいし?」
そんなこと言ってますけどいいんですか?、という視線で女官長さんを見たけどにこにこしていらっしゃる。いいんですか、そうですか。
「別にタケルさんや精霊様方に隠すような事は無いんだもの」
- いやそれでも国家機密とかあるんじゃ…
「地図っていう最大の国家機密を私よりも詳しく知ってるタケルさんがそれを言うの?」
ああこれはダメだ。勝てそうに無い。
「それに、タケルさんなら前回の首脳会議の時に、この国の大凡のこと、知ってしまってるでしょう?、今更隠すような事なんて無いわ」
- そうですか…、ところでここにあった等身大ウィノア像は?
話を変えないと。
「ああ、あれならウィノアに言って撤去してもらいました。代わりにここにあるイアルタン教会に、メルさんの所で回収した小型の像を設置しても良いと言っておきましたので、信者たちはそちらに行く事でしょう」
と、リンちゃん。
- 等身大じゃなくなったって言われない?
「見せてもらったけど、すごい出来だったから大丈夫だと思うわよ?」
「さすがに等身大はやりすぎですから」
- だよね…。
「あれを作ったのはタケルさまですよね?」
あ、リンちゃんの隣でファーさんが目を丸くしてこっちを見た。
- そうなんだけどさ、まさかこんな風に使われるなんて思わなかったんだよ…。
「あの時等身大と仰っていたのは氷像の事で、ウィノア像は小型だと思ってましたけど、まさか等身大のものがあるとは思いませんでした」
ああそっか、そう勘違いしてもおかしくは無いか。(※ 2章046・047話)
- いやまぁ、氷像を作った時の流れでそうなっちゃっただけで…。
「何もあんな風に等身大にしなくても良かったと思いますよ?、あれでは崇拝しろと言っているようにしか思えませんよ、しかもあのポーズですし…」
「うむ、まさに宗教のためにあるような仕上がりだったのじゃ」
「そうよねぇ、私も跪いて祈りそうになったもの…」
ああ、見た瞬間ぐらっとしてたね。
「あのアクア様の像、旦那様の作品なのでありますか…」
ファーさんが驚いて固まってたのからやっと復活したっぽい。
「そうですよ?」
俺が返事をする前にリンちゃんが当然ですと言う雰囲気で先に言った。
「水の精霊アクア様ってめったにお姿を現さないのに旦那様はよくあそこまで如実にとファーは驚きと感動でございますですよ」
ファーさんはいつもの揉み手ではなく祈るかのように両手指を組んで目を輝かせて言った。
それとは対照的に、何とも言い難い表情になったリンちゃん、それとテンちゃんとロミさん。代弁するなら『結構良く姿を現してるんだけど…』だろうか。
「それなら品評会に来られるって仰ってましたけど、」
「はいですよ!ヴェントスの地では顕現したアクア様を拝見できるかも知れないと知らされた時には大騒ぎになりましたですよ元々ルミノ様も100年に1度ですし今回はアクア様や大地の方々が来られるという事で大変なんでございますですよ!」
「落ち着くのじゃ」
「あっはいです申し訳ございません」
ロミさんに話を振られて拳を握って立ちあがったファーさんにちょっと驚いた。
まぁでも100年に1度だもんなぁ、それも風の精霊さんのところを持ちまわりだからヴェントスの地での開催は数百年に1度って事になるんだろうからね。
それにしても大地の方々って、ひとりじゃないのか。ドゥーンさんやアーレナさんも参加するのかな。
「あの…、先日お聞きした時にも思ったのですけど、大地の方々って、もしかして大地の精霊様?」
「はいです」
「うむ」
「…実在されたのですね…」
「うむ。世界に5人しか居らぬが、ちゃんと実在しておるのじゃ」
「お姉さま」
「それくらい構わぬではないか」
「ロミさんも勇者ですから、それはいいんですが…」
リンちゃんがちらっと女官長さんと壁際に立っている女官さんたちに視線を巡らせた。
「あ、そうですね。呼ぶまで出てなさい」
「かしこまりました」
ロミさんが言い、女官長さんだけが答え、全員がお辞儀をしてぞろぞろと部屋から出て行った。
俺的には別に精霊さんの存在について、ここの女官さんたちになら多少知られたところで問題なさそうだと思うんだけどね。
リンちゃんが言うなら、おそらく光の精霊さんたちの規則みたいなのがあるのかも知れないね。
しかしあの女官さんたち、リンちゃんたちが精霊さんだって事、知ってるのかな…?
次話4-070は2021年07月23日(金)の予定です。
(作者注釈)
(※ 4-035話)
その後のテンと、今回のテンはだいぶ違いますね。
余裕があるというか。
(※ 2章046・047話)
サクラとネリの小型像は川小屋の自室に、
メルの分はホーラード王城の自室に飾られています。
20211102:登録処理の部分に少し追加。
20220526:温泉の蛇口について少し追加。絶賛に鋭意とルビを追加。
●今回の登場人物・固有名詞
お風呂:
なぜか本作品によく登場する。
あくまで日常のワンシーン。
全裸全裸w
表現はあえて控え目にしています。
こんな非日常でも、日常ですから!
タケル:
本編の主人公。12人の勇者のひとり。
踊りの表現って見慣れている人じゃないと
やっぱりわかりませんよねー
リンちゃん:
光の精霊。
リーノムルクシア=ルミノ#&%$。
アリシアの娘。タケルに仕えている。
何気にアピールを忘れてません。
テンちゃん:
闇の精霊。
テーネブリシア=ヌールム#&%$。
後ろの部分は精霊語のため聞き取れない。
リンの姉。年の差がものっそい。
たゆんたゆん見せつけてます。
踊りにも理解があるところはさすがの長j…、
いえ、さすがだなと。はい。
ファーさん:
ゼファーリィ=ヴェントス#$%&。
風の精霊。
相変わらずの早口。
有能でポンコツという稀有な素材。
今回はダンサーとしての有能さを発揮しましたね。
全裸ですが踊っているうちに忘れたか慣れたかしたようです。
ウィノアさん:
水の精霊。
ウィノア=アクア#$%&。後ろの部分は精霊語。
一にして全、全にして一、という特殊な存在。
今回大人しいのは、
全裸というか、いろいろ防いでいる服を着ていない状態のテンを、
分体は非常に恐れているからです。
アリシアさん:
光の精霊の長。
全精霊中最古というような存在。実は凄い精霊。
だいたい名前くらいしか登場しませんが一応。
クロマルさん:
闇の眷属。テンのしもべ。
試作品零号らしい。
カンカンうるさい。
テンのポケットに、カッティングが複雑で綺麗な石に宿っている。
今回も出番無し。存在は話に出ましたけどね。
出ると消滅の危機になると学習したので、大人しく眠ってます。
テンの服は、そのままでは魔法の袋に入れられません。
畳んでテンの部屋に置かれました。
その服のポケットに入ったままです。
ハルトさん:
12人の勇者のひとり。現在最古参。
勇者番号9番。オオミヤ=ハルト。
ハムラーデル王国所属。
およそ100年前にこの世界に転移してきた。
『フレイムソード』という物騒な剣の所持者。
今回も出番なし。
カエデさん:
12人の勇者のひとり。
勇者番号10番。シノハラ=カエデ。
勇者歴30年だが、気持ちが若い。
でも言動はタケルからするとちょっと古臭い。
お使いで走ってます。
今回も出番無し。
ハルトもですが、そのうち出て来るのでここに残しています。
と言いつつなかなか出てきませんねー
ロミさん:
12人の勇者のひとり。
勇者番号2番。マサダ=ヒロミ。
現存する勇者たちの中で、3番目に古参。
現在はアリースオム皇国皇帝を名乗っている。
便乗アピール。
主の意を汲む女官さんたちはさすがですね。
コウさん:
12人の勇者のひとり。
勇者番号8番。ヨシカワ=コウイチ。
現存する勇者たちの中で、5番目に古参。
コウがこの世界に来た時には既に勇者たちは各国に散っていた。
アリースオム皇国所属。
遊びまくってるのを隠していたが、ロミにバレた事をまだ知らない。
そのうち登場します。
アリースオム皇国:
カルスト地形、石灰岩、そして温泉。
白と灰の地なんて言われてますね。
資源的にはどうなんですかね?
でも結構進んでる国らしい。
勇者ロミが治めている国。
女官長と女官たち:
女官長はイメルダという名前です。
ロミ付きの女官たちはベテラン揃いなので、
あまり若い女官は居ません。
若いのは主に1階で活動しています。
政務官や軍務官についていたりもします。
公認の婚活のようなものですね。
※ 作者補足
この登場人物・固有名詞紹介の部分全ては、
あとがきの欄に記入しています。
本文の文字数にはカウントされていません。
あと、作者のコメント的な紹介があったり、
手抜きをしたり、詳細に書かれているけど本文には
無関係だったりすることもあります。
ご注意ください。