4ー068 ~ アリースオムへ
あれからちょっと大変だった。
「ところでその石板はいつ設置したんですか?、タケルさま」
から始まり、俺が『ゆ、勇者として次の予定地の下見にね。ロミさん大先輩だし、案内してもらって現地の情報とかね、必要だったからね』と、苦し紛れに言ってしまい、それでリンちゃんが向かいに座っているロミさんへ視線をゆっくりすーっと動かしたんだよ。こえーよリンちゃん…。
無言の圧力を受けたはずのロミさんの方は、表情を全く変えずに、さも先輩勇者として当然のような顔で『あらリン様、ご存じではありませんでしたの…?』と、テンちゃんとモモさんへと意味ありげに視線を動かしたわけ。
もうこれはさすがと言う他ないね。
ちなみに着席配置は、お誕生日席には椅子が無くて、奥側端からテンちゃん、俺、リンちゃん、ファーさん。向かい側端からロミさん、モモさん、ミドリさん、アオさん、ベニさんで、ミドリさんとアオさんの間には、以前はよく花飾りやフルーツが持ってある大きな器があったんだけど、ミリィとピヨが来てからはそれが無くなって、代わりにその2人(?)の食事スペースになってる。
そのピヨは丸くなってじっとしていて、ミリィはピヨの真似をしたのか、こちらから見てピヨの向こう側で、隠れているかのように身を縮めてじっとしている。
ついでにテンちゃんは澄ました顔で、でも微動だにせずリンちゃんからの視線から逃れているのか、俺を盾にするみたいにして背凭れに身を預けてる。
向かいのロミさんは優雅にお茶を少し飲んだけど、その動作の途中でちらっとテンちゃんの様子を見て少しだけ目を細めたのに気付いた。
矛先をかわしたんで、ちょっと面白がって無いか?、ロミさん…。
そのリンちゃんの矛先がロミさんの隣に並んで座っているモモさんたちへと向かっているわけだが、ロミさんも含めて、モモさんたちも石板の設置については知らなかったはずなんだよ。
だって俺、部屋の隅っこにあった台と花瓶をずらして石板を置いて、それらしい敷き布をポーチから出してかけ、その台と花瓶を乗せた事を誰にも言って無いんだから。
でもリンちゃんの追求は、どうやら石板を設置した事ではなく、俺がロミさんとアリースオムに行ったという事は知っていたのに、リンちゃんに伝えていなかったって事っぽい。
「知ってたんデスか?、モモさん」
「はい、ですが、」
「ミドリさんは?」
「す、少しだけです」
「アオさんは?」
「同じ、です」
「ベニさんも?」
「は、はい…」
すげー怖い。魔力もなんかそんな感じで圧力になってるし…。
結局、モモさんが代表して、テンちゃんがモモさんたちに口止めをしたってことをバラしちゃったわけ。
そしてテンちゃんが別室でお話をしに連れ去られた。
リンちゃんの部屋の扉がかちゃっと小さな音を立てて閉まり、連行中、掴まれている腕が痛いと喚いていたテンちゃんの声が途中でピタっと聞こえなくなって数秒してから、俺とロミさん、テーブルの上で丸くなっていたピヨとミリィを残してモモさんたちが慌しく席を立った。
まぁ逃げたんだろうけど、それは言わないでおく。
「タケルさんに用意したあのお部屋はね、私の連れ添いができた時のためのものだったのよ」
ロミさんがそっと身を乗り出して、テーブルに両肘を置いて言った。
- あ、そうなんですか…。
って、え?、連れ添い…?
「あら、驚かないのね、ヘンドリックの部屋だったのよ」
いえ、驚いてます。反応が遅れただけです。
- そうだったんですか、豪華な部屋だなとは思ってましたけど。
「ううん、あれら調度品はあとで揃えたものよ。当時はあそこまでの品々は無かったの」
何と返事をすればいいのかわからずにいると、ロミさんは続ける。
「彼が使ったものは全て倉庫へ移されていて、彼の部屋だった事を知っているのももう私だけかも知れないわね」
しみじみと言う。
「私が個人的に招き入れたお客様なんて、タケルさんが初めてだもの。イメルダもよくあの部屋を用意したものだわ、女官長の事ね、イメルダって言うの」
なるほど。と頷いた。
「だからあの部屋を他の者が使う事は無いと思うわ」
ああ、そういう話だったのか。
俺が石板をこっそり置いた部屋を、他の人が使ったり、石板を持って行ったりはしないだろうって事ね。
- 一応、隠蔽はしておいたんですけど、たぶんバレてるだろうなーぐらいは思ってました。お城にあれば転移の時にリンちゃんが判断してくれると思うので、もし別の部屋に保管されてたとしても大丈夫かなと。
リンちゃんには悪いけどね。
でも転移時に石板の上に物があっても、周りの空間に転移するみたいだし、そこらへんは心配していない。
現に、この『森の家』の庭は石板が埋められているし、『川小屋』でも部屋の中に石板が露出していたわけでは無かった。ホーラード王国の王城内にあるメルさんの部屋の石板は、祭壇になってたらしいからね。
そう言えばその件はその後どうなったんだろう?
「そうなのね、でもタケルさんの忘れ物だと判断されても、たぶんそのまま置いてあると思うわよ?」
そう言って微笑むロミさんの表情は、前に『タケルさんと居ると退屈しないわぁ』と言っていた時と同じ表情をしているような気がした。
●○●○●○●
翌日。
朝食後すぐ、モモさんたちに見送られてアリースオムへ移動した。
もちろんリンちゃんの転移魔法でだ。
テンちゃんとファーさんを入れて4名となった。
リンちゃんとテンちゃんはあれから朝まで部屋から出てこなかったけど、朝食時には特に何と言う事も無く、普通の様子だったので、そういうもんなんだろう。
前の時もそんな感じだったっけね。
そのテンちゃんはいつもの袋梱包状態での転移だったが、梱包時にリンちゃんが動作を途中で止めて、テンちゃんのポケットのあたりをじっと見た。
「な、何なのじゃ…?」
「いえ、そこにいる眷属の反応がやけに小さいなと思いまして」
「ああ、ゼロなら眠っておるのじゃ」
ああ、そういえばゼロさんの石、テンちゃんのポケットに入ってるんだった。
存在感が無いから忘れてたよ。
「あれからずっとですか?」
「ずっとなのじゃ」
「いつ起きるんです?」
「さぁ…?」
「さぁ…って、わからないんですか?」
「起こせば起きよう。自然に起きるのはいつになるのかわからないのじゃ」
「そうですか…、勝手に逃げ出したりは…?」
「それは大丈夫なのじゃ。吾がでられぬよう、縛っておるのじゃ」
だから出てこれなくて、仕方なく眠ってるのでは…?
なんだかゼロさんが可哀そうになってきた。
「……」
「何じゃその目は、此奴が出てくればまたカンカンうるさいのじゃ、それに其方の手間もかかるのじゃ、出てこぬ方がよいであろう?」
「それもそうですね、じゃ、包みますよ」
「うむ…」
テンちゃんも何だかんだ言って、転移時に包まれるのに慣れてきたのかな?
いつもより詠唱が長かったような気がした。
お城の客室に到着すると、目の前には部屋いっぱいって程でも無いが、跪いた人たちが居た。
え?、ナニコレ…。
見回すと、左右には水盆やお供え物、後ろには等身大ウィノア像…、ああっ!
祭壇になってるじゃないか!
何で?、俺そんなのしてないぞ!?
…そりゃこうなるよなぁ…。
リンちゃんはいつもの転移の時にしているように、俺に抱き着いてたけど、いつもならすっと離れてテンちゃんの梱包を解くところが、解かずに俺をじとっとした目で見上げた。
ロミさんは驚いたまま硬直してて、ファーさんは何故か胸を張り、微笑んで立っている。
俺じゃ無いよ?、とリンちゃんに言い訳するように首と手を横に振ると、リンちゃんは小さく溜息をついてテンちゃんの梱包を解きはじめた。
「ちょっと、どういう事なの!?、説明しなさい!」
あ、ロミさんが硬直から復帰した。
手前に居た女官さんが顔を伏せたまま答える。
「お客様がお帰りになられた後、お部屋を整えた者が、アクア様の像が設えられていると慌てて戻って参りまして、それからややあってこうなりました」
淡々と告げる女官さん。
梱包から上半身が出たテンちゃんは、目の前の様子を見た瞬間、不安げな表情ですぐ横の俺の手をとり、両手で握った。
リンちゃんはそれをちらっと見たが、何も言わなかった。
ロミさんは言葉を失ったように再度硬直していた。
そりゃね、『アクア様の像』と言われたロミさんが後ろを見て絶句したからね。言葉を失ったのもわかるよ。
だって、灯の魔道具で効果的に照らされた、石英ガラス製、等身大アクア像、だよ?
女官さんたちにはわからないだろうけど、本物そっくりだよ?
あまり言うと自画自賛になりそうで微妙な気持ちだけど、これは以前、『川小屋』の外でウィノアさんの氷像を作った時、溶けてしまうのが切ないとか何とか言われて、じゃあ溶けないものをと、代わりに作った等身大ウィノア像だ。
見たまんま写し取ったようなもんだからね。
もう誰が犯人かなんて、ウィノアさん以外ありえない。
ロミさんはウィノアさんを見た事があるので、そっくりだとすぐ分かったんだろう。
それが高い天井に吊るされた複数の灯と、床に配置された複数の灯できらっきら輝いてるんだから、そりゃあ絶句もするだろうよ。
ロミさんが一瞬ぐらっと身体を揺らしたのは、膝の力が抜けかけたのをぐっと堪えたんだろう。思わず跪きかけたんだな。
「まぁ!、ロミ様、お帰りなさいませ。あなたたち!、主が戻ったというのにいつまでそうしているんです!?」
開けっ放しだった両開きの扉のところに、女官長さんが来て声を張り上げた。
それでやっと跪いていた人たちもぞろぞろと部屋を出て行った。
全員が部屋を出て、女官長さんは部屋の内側に立って扉をそっと閉め、こちらを向いてきれいなお辞儀をした。
「改めまして、おかえりなさいませ、ロミ様、タケル様、お連れ様方」
「ただいま、何だか疲れたわ。着替えとかは後でいいから、お茶にしてちょうだい」
「かしこまりました」
女官長さんは軽くお辞儀をして、音も無くすっと扉を開けて出て行った。
ロミさんはそれを見て、部屋の端に寄せられているソファーの所に歩き、こちらを振り向いた。
「全く、こんな事になってるなんてね…、ふふっ、予想外にも程があるわ」
そう言ってソファーの背凭れに少し寄り掛かる感じで手を添え、もう片手は口元に添えて笑った。
- …何だか済みません。
「あら、タケルさんが置いたんじゃ無いのでしょ?」
- ええ。僕は部屋の隅にあった花瓶台の下に石板を隠しただけなんですよ…。
「じゃあアクア様がそれを?」
ロミさんが手でウィノア像を示す。
- そういう事になりますね。
これでやっと、『分体は一時離れてしまったのです』とウィノアさんが言っていた意味が分かったよ…。(※ 4章035話)
たぶん、こんな余計な事をしていたせいで、俺から離れ、ここの水を取り込み、ロミさんの魔力による影響を受けてしまった、って事だろう。
全く、何やってんだよウィノア分体。
ホーラード王城でメルさんの部屋に小型ウィノア像を置いたのに味を占めたんだろうか?
「ふふっ、本当、タケルさんと居ると退屈しないわぁ」
言われてしまった。
- 僕のせいみたいに言わないで下さいよ…。
「うふふっ」
「それでロミ様、お茶はどちらで?」
リンちゃんが急かすような雰囲気で言った。
「あ、申し訳ありません」
ロミさんがそう言って、後ろを向いて手を伸ばし、テーブルの上の箱に立てて置かれていた陶器製のベルを持ち上げて鳴らした。可愛らしくちりりんと音がし、すぐに両開きでは無い方の扉が開き、女官さんがすっと、部屋に一歩だけ入った。
「これを元の位置に戻してもらえる?」
「かしこまりました」
ロミさんが言い、その女官さんが答えてすぐ扉を開けて出て行った。
たぶん人を呼びにいったんだろう。
金属が装飾に使われている見るからに重そうなテーブルだからね。
女官さん数人で持ち上げて動かさないと、たぶん動かないだろう。
こんなのひとりふたりで運べるもんじゃない。
- 動かすぐらいならしますよ?
「そうね…、褒められた事ではないのはもう今更ね。お願いしていいかしら?」
ロミさんは一瞬考えるいつものクセ、右手の人差し指をあごの少し右にあてて首を小さく傾げてから、にこっと微笑んで言った。
- じゃあちょっとそっちに避けて下さい。元の位置ってのはこの、跡が残っている場所でいいんですよね?
「タケルさま…」
ロミさんが頷くと同時にリンちゃんがやや咎めるように俺へ呼び掛けた。
- まぁいいじゃないの、それくらい。
「…はい」
「済みませんリン様。お客様にこんな事をさせてしまって」
「ロミ様」
「タケル様が言い出したのじゃ、下がって待てば良いのじゃ」
「お姉さま…」
リンちゃんがテンちゃんに袖を引かれて邪魔にならない位置へと下がった。
ファーさんは最初から壁際にいて、じっとしている。
ロミさんが鈴のあった漆塗りのような細長い箱の端部分、蓋の無いところに鈴を置き、その箱を両手で持って安全な位置に引いたのを見て、いつもの飛行魔法の応用のような障壁魔法の操作を行い、ソファーやテーブルを元の位置へと移動させた。
俺は前にこの部屋に案内されて、配置を見ているからね。それと絨毯の跡と合わせて考えればいい。
- どうぞ?
「まあ、ふふっ、どっちがお客様なのかわからないわね」
それもそうか。こっちが『どうぞ』と言われる立場だった。
ロミさんが笑みを浮かべながら手で示した席に俺がまず座ると、テンちゃんがすすっと来て隣に座る。ロミさんはまだ立って待っていて、俺たちの後ろに立つリンちゃんとファーさんに言った。
「リン様、ファー様も、お掛け下さいな」
言われたリンちゃんは無言で頷きテンちゃんの隣に、その隣にファーさんも座った。
ソファーが寝椅子のように長いので4人座れる。テーブルも長い。長いだけじゃなく装飾も凝っていて、側面や足には螺鈿って言うんだっけ、貝類の真珠層をはめ込んで模様を作ってるようなもの、そんなのが見える。
テーブルの上面は厚めの布が敷かれているが、テーブルクロスのように縁から垂らすものではなく、上面の面積よりやや小さいものだ。
ロミさんが両手に持ち直した箱をそっと自分の斜め前に置き、座った。
何となく気になったので尋ねてみた。
- これって海の貝殻ですよね?
「そうよ?、『瘴気の森』とは逆の方で養殖してるの。大きめのアワビみたいな貝よ」
- へー、貝の養殖って難しいって聞きましたけど。
「岩礁地域なのよ、それで元々よく穫れたみたい。茹でてから干したものを主力にしてた部族が風車を使って水路を工夫して養殖してたのよ。だからそこで栄えていたビョ族の服や飾りにはその貝殻を加工したものが多いの」
- じゃあこの螺鈿、っていうんでしたっけ、これも?
「あら、よく知ってるわね。これはスォ族に私が伝えた技術よ。タケルさんは知ってるみたいだから言うけど、元の世界の技術ね」
- なるほど…。
俺は知ってると言っても技術を伝えられる程じゃないからなぁ…。
やっぱロミさんすげーわ。
そこにさっきの扉が開いて女官さんたちがぞろぞろと入ってきて、壁際に並んだ。
「あ、こっちで動かしちゃったの。ごめんなさいね」
ロミさんが言うと、さっき呼ばれた女官さんが『いいえ』と言って全員がお辞儀をしてまたぞろぞろと部屋から出て行った。
それと入れ替わるようにして、今度は両開きのほうが少し開き、『失礼します』と声がしてから大きく開いてワゴンを押して女官さんが2人、それと女官長さんが入ってきた。
彼女たちがお茶の用意をしている間、黙って待った。
スォム茶の、いやこれはコァム茶だな、いい香りが漂う。
ロミさんが茶器を上品に持ち上げて香りを楽しみ、ひと口飲んでから茶器を置いて『どうぞ』と言ったので、俺たちも目の前の茶器を手にした。
「おお、いい香りなのじゃ」
「前に頂いたものと少し違いますが、これも素晴らしいですね」
テンちゃんとリンちゃんが順にそう言った。
- コァム茶ですか。
「ふふ、タケルさんには前にお出ししたものね」
そうロミさんは言い、前に俺に説明したのと同じように、テンちゃんたちに言った。
「ほほう、高地栽培とな。前にタケル様がもろうてきたものも美味だったのじゃ、何れも甲乙つけ難いのじゃ」
「そうですね、同じ植物でもこれほどの差がでるものとは。お姉さまの言うようにどちらも素晴らしいです」
二人とも満足そうだ。べた褒めだな。
ファーさんは発言していないけど、表情からするととても満足しているようだ。
「テン様とリン様にそう言って頂けて嬉しいです」
- 頂いたスォム茶も、大好評だったんですよ。って言いましたっけ?
「ええ。ミドリさんから聞きましたわ」
「うむ。あの対戦の時にも淹れてもろうたのじゃ」
なるほど。
そういえばあのボードゲームの名前、聞いてないな。
そんな感じでお茶を楽しみ、俺とファーさんは発言せずに黙って3人の歓談を聞いた。
「タケルさま、その『瘴気の森』にはいつ出られるんです?」
地理的な話がでて、『瘴気の森』についての話になってから、リンちゃんが尋ねた。
- んー、午後からでいいかなって。それまでにこの部屋にホームコアを設置、するんだっけ?、ロミさん、ホントにいいの?
「あ、そうでした。その話をしなくてはね」
- 間取りとか、書きましょうか?
「え?、あ、お願いします」
いやほら、だって必要でしょ?、リンちゃんには必要無いかもだけどさ。そういうのあったほうがロミさんにもわかりやすいんだし。
ポーチから紙、これもまぁ植物紙なんだけどね、それを出してこの部屋の間取りやらサイズやら記入した図を焼き付けてテーブルに置いた。
「まあ…、すごいわね、こんなに詳しく…」
- 隣接する女官さんの控室とか、壁の材質とかも一応記入しておきましたけど、リンちゃん、設置できそう?
「んー…、そうですね…、まず天井が少し低くなりますよ?、床材はこの下は石材のようですが、それも一部侵食することになりますね。こちらの部屋とは壁が木材で薄いので、潰して浴室にしたほうがいいかもしれません。その場合は脱衣所と便所がこちらにこう――」
リンちゃんが筆記具をエプロンのポケットから取り出して、言いながら記入をしていく。
すげー、フリーハンドで記入してるのに、直線がまっすぐだ。
もう1枚同じのを描いておこう。
天井が少し低くなると言ったのは空調のためらしい。それで現在天井にある塗装や飾り付け、照明器具などが邪魔なんだそうだ。
壁際に控えている女官長さんは無表情だけど、その隣にワゴンと共に並んでいる女官さんたちの表情は強張っていた。
ロミさんはリンちゃんの言う事にふんふんと頷き、異論を唱える事も無く、どんどん許可していってる。もうあとは任せて良さそうだな、これは。
しかしこれ、大改造じゃないか。ホントにいいのかなぁ…。
「あ、そうじゃロミよ」
「はい?」
「其方がここには温泉があると言うておったのを思い出したのじゃ」
「あ、そうですね、どうぞご利用下さいな」
そう言ってロミさんが女官長さんに目配せをした。
「そうか!、楽しみにしておったのじゃ。では行くのじゃ、タケル様よ」
- え?、僕も?
「お姉さま!?」
「ん?、ここは混浴だと聞いておるのじゃ、こういうのは現地の法に従うものなのじゃ、ほれ、ファーも行くのじゃ」
「は、はい!」
「お姉さま!」
「何じゃ、其方は忙しかろう?、一緒に来るならその話し合いを急ぐが良いのじゃ」
と、俺のを引っ張って立たせてぐいぐいと押して動かすテンちゃん。
ファーさんはまぁ、あれだな、テンちゃんには逆らえないよなぁ…。
ロミさんも自分がやってしまっていた手前、テンちゃんに否とは言えない様子。
リンちゃんは眉根を寄せていたが、口元をぎゅっと引き締めて立ち上がりかけていたのを座り直し、ロミさんとの改造会議の続きをし始めた。少し早口になったので急いでるんだろう。
女官長さん直々に案内され、前に俺が使ったほうの脱衣所に通された。まぁ途中で複数の女官さんたちが合流したけども。
「作法は知っておるのじゃ、手伝いは不要なのじゃ」
と、テンちゃんが言ったので、脱衣所に2名残して他は帰ってったけどね。
残るのはしょうがない。
俺が棚に向かって脱いでいると、一瞬ですっぽんぽんになったテンちゃんが2歩ほどの距離でファーさんを急かしていた。
「其方も早く脱ぐのじゃ」
「この服は少し面倒でしてその…」
ああそっか、ファーさんを直接触れないんだっけ。そういう設定だったね。
「タケル様よ、ファーの背中のボタンを外してやるのじゃ」
- え?
「あ、届きますので大丈夫でございますよ旦那様」
やりにくそうではあるけど、確かに届いてる。肩関節が柔らかいんだろうけど、すごいな、俺は洗うのには一応頑張れば届くけど、ファーさんみたいに背中のボタンとかつけ外しできないぞ?
やっぱ踊り子さんって柔軟なんだろうか…。
「そこは届かぬと言ってタケル様にお願いするものだと思うのじゃ…」
「え!?、あっそうですね届きません旦那様お願いします」
そうわざとらしく言って背中を向けるファーさん。
素直に従いすぎだろw
ってか背中のボタンもう全部外れてるじゃないか。どうしろと。
まさか脱がせと?
いやいやいやそれは無いだろ。
って、ファーさんブラ着けてないのか…。そりゃテンちゃんと比べちゃダメだけど、そこそこ胸あったと思うんだけど。
いやほら、踊り子服の時にわかるでしょ?、露出度高いんだし視界に入るもんはしょうがないだろ?、そんな女性の胸をじっと見たりしないって。
- いやもうそれ外す場所が、だからって留め直さなくていいですから!
急いでファーさんの手首を掴んで止めた。
何やってんだよ…。
「そうじゃ、石鹸やしゃんぷうを頼むのじゃ、白いので良いのじゃ。持っておるのじゃろ?」
- あっはい、あります。
テンちゃんが浴室への扉の前でこっち向いて例の、背伸びの運動みたいなのをやってて、でっかい胸をたゆんたゆんとさせているのを目で見ないようにしながら返事をし、ポーチから出した。
何か木桶にまとめて入ってたよ。リンちゃんかな?、出しやすくていいけど。
「ふふふ、前の時もしっかり目の前で見ておったのじゃ、しっかり見ても良いのじゃぞ?」
前の時って、あれか、ここにロミさんと来て戻って、『森の家』に戻ったらモモさんから詰め寄られた日の。
あの時はテンちゃんが俺に馬乗りになって、見上げてたんだっけ…、そりゃ目の前で揺れてれば…、って思い出しちゃったじゃないか。余計な事を…。
「ヌル様はそんなアピールをしていたのでございますですかファーもたっぷりアピールしますので全裸で踊るのは恥ずかしいですが頑張りますですよ」
するっとメイド服のワンピースを脱いでくるっとこっちを向き、コンマ5秒の躊躇をやや恥ずかしそうに頬を染めて上目遣いで見せたと思ったら、手早く下着の紐を解くファーさんにびっくりだよ…。
恥ずかしいならそんなアピールしなくていいのに!
- 踊らなくていいから、ちゃんと隠していいから!
すっと回れ右をした。
何なんだよもう…。
「ではいざ温泉なのじゃ!」
がらっと引き戸を開けて浴室に入るテンちゃん、それに続くファーさん。
テンちゃんは堂々と、ファーさんはほんの少し恥じらいを表しながら。
目で見なくても感知しちゃうなぁ…、この精霊さんたち魔力量多いんだもん…。
これは目で直接見ないようにタオルを多めに持って入るか…。
そうだタオルで目隠ししよう。
感知があるから…、だめだ、感知に集中してしまうと余計に周囲が丸見えでまずい。
やっぱり極力目で見ないようにするしかないか…。
次話4-069は2021年07月16日(金)の予定です。
(作者補足)
※ 4章035話
ややこしいので、作者ページの方に補足しておきました。
20210709:衍字訂正ついでにわかりやすく修正。
(訂正前)細長い箱にの端部分、そこに
(訂正後)細長い箱の端部分、蓋の無いところに
20210716:違う意味に聞こえてしまうので訂正。
(訂正前)テンちゃんに比べたらダメだけど
(訂正後)テンちゃんと比べちゃダメだけど
20220526:ファーの仕草に恥じらいを追加。作者の想定にはあったんですよ。でもより伝わればいいかなって…。
20230604:衍字削除。 俺のを ⇒ 俺を
●今回の登場人物・固有名詞
お風呂:
なぜか本作品によく登場する。
あくまで日常のワンシーン。
ひさびさの混浴ですね。
タケル:
本編の主人公。12人の勇者のひとり。
がんばれw
リンちゃん:
光の精霊。
リーノムルクシア=ルミノ#&%$。
アリシアの娘。タケルに仕えている。
急いでます。
でも一番ややこしい配管系の話だから…。
テンちゃん:
闇の精霊。
テーネブリシア=ヌールム#&%$。
後ろの部分は精霊語のため聞き取れない。
リンの姉。年の差がものっそい。
たゆんたゆん。
ウィノアさん:
水の精霊。
ウィノア=アクア#$%&。後ろの部分は精霊語。
一にして全、全にして一、という特殊な存在。
今回名前と回想セリフのみ。
アリシアさん:
光の精霊の長。
全精霊中最古というような存在。実は凄い精霊。
だいたい名前くらいしか登場しませんが一応。
森の家の精霊さんたち:
モモを筆頭に、ミドリ、アオ、ベニの4名は幹部らしい。
ミルクは隣に建てられた燻製小屋という名前の食品工場の作業管理責任者。
ブランはそこで働く精霊さんたちのための寮の管理責任者。
キュイヴは演劇関係施設と演劇関係の管理責任者。
モモさんも大変ですね。
ピヨ:
風の半精霊という特殊な存在。見かけはでっかいヒヨコ。
初登場は2章071話。
それ以降ちょくちょく登場。
タケルに「中にちっさいひとが入っていても驚かないぞ」
と言わしめた謎の生物となっている。
まるまってただけ?
ミリィ:
食欲種族とタケルが思っている有翅族の娘。
身長20cmほど。
翅が無いが有翅族。
ピヨの事をピヨちゃんさまと呼ぶ。とっても仲良し。
息をひそめてピヨの陰に隠れてただけ?
ハルトさん:
12人の勇者のひとり。現在最古参。
勇者番号9番。オオミヤ=ハルト。
ハムラーデル王国所属。
およそ100年前にこの世界に転移してきた。
『フレイムソード』という物騒な剣の所持者。
今回も出番なし。
カエデさん:
12人の勇者のひとり。
勇者番号10番。シノハラ=カエデ。
勇者歴30年だが、気持ちが若い。
でも言動はタケルからするとちょっと古臭い。
お使いで走ってます。
ハルトもですが、そのうち出て来るのでここに残しています。
今回出番無し。
ロミさん:
12人の勇者のひとり。
勇者番号2番。マサダ=ヒロミ。
現存する勇者たちの中で、3番目に古参。
現在はアリースオム皇国皇帝を名乗っている。
帰って来ましたね、アリースオムに。
アリースオム皇国:
カルスト地形、石灰岩、そして温泉。
白と灰の地なんて言われてますね。
資源的にはどうなんですかね?
でも結構進んでる国らしい。
勇者ロミが治めている国。
やっと行く話に。
クロマルさん:
闇の眷属。テンのしもべ。
試作品零号らしい。
カンカンうるさい。
テンのポケットに、カッティングが複雑で綺麗な石に宿っている。
今回も出番無し。存在は話に出ましたけどね。
出ると消滅の危機になると学習したので、大人しく眠ってます。
ファーさん:
ゼファーリィ=ヴェントス#$%&。
風の精霊。
相変わらずの早口。
有能でポンコツという稀有な素材。
風の精霊の役目を果たすという仕事においては、
有能であり偉い立場のはずなんです。これでも。
名前からして西風さんですからね。
そりゃあ実力者なんですよ。これでも。
情けない所ばっかり目につきますけどね。
踊り子は見られてなんぼ、とまでは思っていませんが、
タケルへのアピールをしてリンから返却を言い渡されないように
頑張ろうなんて思ってます。
※ 作者補足
この登場人物・固有名詞紹介の部分全ては、
あとがきの欄に記入しています。
本文の文字数にはカウントされていません。
あと、作者のコメント的な紹介があったり、
手抜きをしたり、詳細に書かれているけど本文には
無関係だったりすることもあります。
ご注意ください。