4ー066 ~ 移動のあれこれ2
台所の方で俺が貸した器具やら食料品やらを回収していると、外へと呼びに行っていたひとと外に居たひとたちが戻り、しばらくすると寝室の方から騒がしい声が聞こえた。
回収し終えた俺が台所から出て寝室の方を窺うと、全員寝室に居るようだった。
食卓などに使う大きなテーブルの上には、筆記用具と、外で干してあったと思われる大きい布類が畳んで積まれていた。
「馬鹿をお言いで無いよ、タケル様からお借りした物は全てお返しする。当たり前の事だろう?」
「でもおひい様、汚してしまって落ちないんです、は、恥ずかしいじゃないですか」
寝室に入ってすぐのあたりで、おひい様、ヒースなんとか殿下だね、もうおヒーさんでいいか、クラリエさんが並び、その前に肩掛け鞄を下げて手に畳んだタオルを握っているアリエラさん、その隣やや後ろにもうひとりが居て4名が話しているようだ。
ここで俺は寝室に向かっていた足を止め、リビングの台所側へと足を戻した。
恥ずかしいという言葉が聞こえたからね、ここで近づいてはいけないという勘が働いたからだ。
「だいたいどうしてそんな事に使ってしまったんだい!?、あたしゃタケル様に何と申し開きをすればいいんだい!?」
「急に始まってしまったんです!、その、ちょうど手に持っていたので…」
ほらね…?
いやーちょっとこれは中に入りづらいなんてもんじゃ無い。
戻って正解だった。
そういえば元の世界で、修学旅行などに時期が重なってしまって、期間中ずっと辛そうにしてた女子がいたっけ…。
そういうのに気付かない男子が冷たい目で見ていたり、中には冷やかすようなのが女子たちから白い目で見られてたりしてたけどね。
俺は小学校高学年の時期から、例の、家の前の公園にある集会所でお世話係みたいな、まぁ当時はまだ見習いみたいなもんだったけど、そういう役をさせられていた時に、そこに来ていたママさんたちや町内会の婆さんたちからいろいろと教わっていたからね。半分以上からかわれていたようなもんだったけど。
だってさ、『そういう弱っている子に優しくするとモテるよ?』なんて言われてたわけよ。そりゃさ、わかってしまえば冷やかしたりはしないし、辛そうにしてれば気遣うぐらいはするよ。モテたいとかそんなんじゃ無く。
「ああ、抑える魔道具が壊れてしまいましたからね…」
そんな魔道具があるのか…。
確かに行軍中なんかには必須だろうね、比率は少ないけど女性兵士だって居るんだし。
「他にも始まってしまったのが居るんじゃないのかい?」
「居ますが、普段使いの手拭いや布類がありますので…」
「すみません、急だったので…つい…」
「使ってしまったものは仕方ないさ、それがその手拭いかい?」
「はい…、何度も洗ったのですが…」
「おひい様、石鹸や食料などの消耗品もありますから…」
「それと同列に考えろってのかい!?、恥ずかしい染みが付いてしまい落ちないのでお返しできませんとでも言うのかい!?、あたしゃ言いたく無いね!」
これは聞こえなかったフリをすべきだな。俺は何も聞いていない。知らない。
無かった事にする。そう決めた。
「タケル様って優しそうだし、許してくれそうじゃない?」
「それが許されるなら私も…」
「ちょっとチェキは何してるの!?」
いやマジで何してんのあの子。
俺はここからでも魔力感知で何してるってわかるんだよ…。
「今からでも恥ずかしいのを付けようかなって」
「だからってそんなとこに…」
「あ、それいい考えかも」
いやいやそこまでしなくてもタオルが欲しいならリンちゃんを説得するぐらいはしてあげるから…。
「そっちのあんたたちは何をやってんだい!!」
ほら叱られた。
寝室の隅っこに固まった3名が、ローブの裾をまくり上げて下着の中、股間にタオルを突っ込もうとしてたらそりゃ見つかるだろうよ。
じっと待ってても仕方がないので、テーブルの上に積まれていた毛布や石鹸などを回収した。彼女たちが元々持っていた、鞄から出してあった毛布や布類は畳んであったがそのまま置いてある。それはあとでアリエラさんが収納するんだろう。
まぁ品質がひと目で違うってわかるからね。俺でも。
俺はタオルの数は確認していなかったんだけど、クラリエさんがおヒーさんの指示でなのか自発的になのか、きちんと数を管理していたようだ。
それで、ぞろぞろと寝室から出てきて並び、頭を下げた。
「汚損してしまったタオルが4枚ございまして、全てをお返しできない事を謝罪致します」
との事。
さっきの経緯を知ってしまっている俺としては、苦笑いで承諾してあげたい所ではあるんだけども…。だってチェキナさんだっけかはまだタオルを股間に挟んだまんまなんだよ…、他のひとは畳んで後ろ手に持ってるってのに。
歩きにくく無いのかな…?
- 構わないので一旦全て回収させてもらえますか?
俺のじゃないのでここはそう言うしか無いんだよ。ごめんね。と内心で謝っておく。
「さ、然様でございますか…、ほら、出しな」
「はい…」
約1名だけ、腰を曲げてローブの裾をまくり、手を突っ込んでもぞもぞとタオルを取り出すのを見ないように首を横にして目を逸らした。
テーブルの端に積まれた4枚のタオル。
- これで全部ですね?
一応問いかけた。
毛布などはもうテーブルの上には彼女たちのものしか残っていないけど。
「はい、これで全てでございます」
何故か全員の頬が赤い。
理由はまぁお察しだね。気が付かないフリぐらいはするさ。俺だって藪を突きたく無い。
その4枚のタオルを無造作に掴んでポーチに入れた。
小声で誰かが『私のふわふわタオルがー』って言ってたけど、聞こえないフリをした。君のじゃ無いだろと言いたかったけど。
- さて、忘れ物はありませんか?、あ、こちらのものはそちらで収納するんですね?、どうぞ?
テーブルから半歩下がると、『はい』と返事をしてアリエラさんが鞄にそれらを収納していった。
収納時に、鞄にもう片方の手を添えて少しだけ魔力を流しているようだった。
へー、そうやって使うのか。
俺のはリンちゃんの鞄などと同じで、手を添えなくても魔力をほんの少し与える感じでいいという仕様だ。こっちの方が新しいからね。
「あっ…」
「どうした?」
「あ、いいえ、前より魔力が少なくて済むので驚いただけです」
「そうなのかい?、タケル様、感謝申し上げます」
全員の目が少し大きく開かれ、おヒーさんの声で揃って頭を下げた。
- あ、僕も知りませんでした。なので僕に感謝する必要はありませんよ。もう一度確認しますけど、忘れ物はありませんよね?、ここには戻って来れないので。
「お前たち、もう一度見てきな」
「「はい!」」
5名がいい返事をして、すぐにあちこちへ確認をしに行った。
残ったのはおヒーさんとクラリエさん、それとオーリエさんの3名だ。
「タケル様、よろしいでしょうか?」
- はい、何でしょう?
「修理をして下さった方に、感謝をお伝えして頂きたく存じます」
- あっはい、わかりました。
「ありがとうございます。それと、この家は…」
- こんな場所に家なんてあっても仕方ありませんから、皆さんが出たあとすぐ分解処理をします。
「それで忘れ物の確認をと仰られたのですね…」
まぁ、土属性魔法の砂化処理をするだけなので、もし布類など他のものが残っていたら塵みたいな砂の中にそれが出てくる事になるんだろう。
でも結構細かい塵みたいな砂になるし、さっき見たけど風呂場の浴槽には水が半分ほど残ったままだったので、場所によっては泥まみれになるんじゃないかなと。なので忘れ物は無いほうがいい。それだけだ。
確認が終わり、小屋からぞろぞろと外に出て小屋の分解処理を行い、彼女たちには悪いけど少し待つように言い、俺だけが一旦、黒い球体へと戻る事にした。それで球状の結界を操作して地面に降りてから解除するってわけ。
●○●○●○●
そんなつもりで球体に戻ったんだが…、中は妙な事になっていた。
「いつまでめそめそしているのデス!、お前も一端の精霊なら現実を認めるのデス!」
と、仁王立ちのデスモードなリンちゃんがこちらに背を向けて斜め下を指差していた。
指をさされたファーさんの方は、結界の床に体育座り(三角座り)で膝を抱え、その膝に額をくっつけて顔を伏せていたが、泣き顔を上げて答えた。
「はいですぅ…、ぐすっ、でもあんなに外と中が…、ぐすっ、強引で…、ぐすっ、あれ以上なんて、ファーは…、ファーは、恐ろしくなって…、うぅぅ」
「……」
リンちゃんはどうしたもんかと冷たい視線で見下ろしながら、指差していた手を戻して腕組みをした。この感じだと普通なら、次は溜息か舌打ちかってとこだろうけど、後ろに俺が入ってきたので、身体の力を抜いて肩を落としつつこちらに振り返った。
「タケルさま、どうしましょうね…?」
と言われてもなぁ…。
- えっと、どゆこと?、ベニさんは平気だったみたいなんだけど…?
と、リンちゃんから視線を、タオルを片手に困り顔でファーさんの肩に手を当ててこっちを見ているベニさんへと動かして言った。
ベニさんは『私に聞かないで下さい』と言わんばかりにタオルを持った手と顔を横に振った。
「ファーは風の者ですので…」
- うん?
「あたしたちよりも、物体の運動やそれに働きかける魔力を細かく感知してしまうんです」
なるほど?
- …うん?
「ぶっちゃけますと、タケルさまの飛行魔法は、風の者からするとありえないんだそうです」
- えー?
説明を聞いて理解できるかどうかは自信ないけど、でも途中をすっ飛ばし過ぎじゃないですかね、リンちゃんよ。
- そう言われてもね…。
『森の家』からここまでは、もちろんリンちゃんの転移魔法でハムラーデル国境砦の中庭に造った小屋に転移してもらい、そこからこの場所へと軽く飛んできたわけなんだが、その時の様子はまぁ多少予想してたけど、ここまで酷くは無かったんだ。
ベニさんは飛行中、全然平気で、むしろロミさんのように楽しそうにしていた。
でもそのベニさんが楽しそうだったのは、飛び立って上空へすーっと高度を取る間の短い時間だけだった。
あまり燥がないようにと、予めリンちゃんだろうね、注意されていたのか控えめだったけど、俺の右腕を抱えながら、ぐんぐん小さくなっていく砦を見下ろし、周囲を見、雲を抜けるときは感嘆の溜息をつき、『…夢みたい…』と小さく呟いてから、熱っぽい視線で俺を横から見上げていたからね。
もう何だか照れ臭いの何の。
俺はベニさんを目で見ないようにしてたよ…。
ちなみにリンちゃんは、後ろから俺の腰にがっちりしがみついていたよ。いつも通り。
そして問題のファーさん。
雲の上への上昇中は眉根を少し寄せる複雑な表情で黙っていたんだけど、加速を開始したらいきなり悲鳴を上げ、こっちもびっくりして何だと思ったら頭を抱えて座り込み、しばらく唸っていた。
どうしたもんかと思ったが、唸ってるだけで大人しいならいいかと放置していたんだよ。
そしたら小屋に到着する直前に減速したらしたで、『こんなのありえませんですよ何ですかこれ何ですかこれありえませんですよ』とうるさいの何の。
ストッパーのリンちゃんが、飛行状態をある程度の速度に落ち着くか静止状態になるまで俺にしがみついたまんまなのでどうしようもない。ベニさんはどうしていいかわからず困った様子で固まってるし…。
しゃがんだ状態で俺の左膝のあたりを両手でがしっと持って言うので、とりあえず落ち着いてという意味でその頭を左手で撫でてやったら大人しくなった。
ならもう大丈夫だろう、静止状態になればリンちゃんも動けるし、と、毎度のように小屋から少し離れた地上5m程の位置に静止したわけ。
そしてそのリンちゃんが肩から提げていた、ここの小屋で待機してもらっているベルクザンのひとたちに渡す魔法の袋を受け取り、俺だけが下に降りたってわけ。
まさか戻ったらこうなっているとは思わないじゃないか。
「ファーの言う事もわからなくは無いんですよ…」
と、リンちゃんは目を眇めて言う。
ファーさんの方は、ベニさんから受け取ったタオルで顔をごしごし擦って、リンちゃんのその言葉に救いの望みを持ったのか、赤くなった目鼻のまま見上げている。
「でもタケルさまのする事が常識外れなのは今更ですし、ファーにはいい薬になったのではないかと…」
それに俺は何と言えばいいんだろう?
ファーさんは希望の梯子が外されたので口を半開きにして情けない顔になっていた。声を当てるなら『そんなぁ…』ってとこか。
いままでの話からすると、ベニさんが楽しそうなのはそういう細かい魔力感知をせずに、単純に飛行状態を楽しめるから、という事だろう。たぶん。
なら、テンちゃんはどうなんだろう?
- ベニさんやテンちゃんが平気なのはどうして?
話を少し逸らす意味でも尋ねてみる事にした。
するとリンちゃんは俺の袖を引いて耳打ちをする仕草をしたので、それに合わせて高さを合わせて耳を寄せた。
「ベニはその…、タケルさまの魔力空間に居る事で何があっても幸せな状態ですから…」
えー?、と思って一旦頭を引いてリンちゃんを見た。
何か久々にリンちゃんの顔を正面から間近で見た気がする。可愛い。ちょっと言いにくそうにしていたのもあって、表情が複雑なのも可愛い。
- リンちゃんは?
「えっ?」
- リンちゃんもそうならないのかなって。
するとまた袖を引かれたので同じようにした。
「あたしは耐性もありますし慣れてるのもあって…、あ、幸せを感じていないわけじゃないんですよ?、タケルさまの気持ちも伝わってきますし…、あっ、何となくですよ?、何となく…」
途中で首を動かしてじっと見た。
頬が少し赤くなって慌てたように言ってる。可愛い。
最近は何だか皮肉屋になってたりデスモードになってたり、お姫様モードって言うか実際お姫様で地位も高いんだけど近寄り難い時もあったりしたからね、ほんとに久々だ。
いつもこうならなぁ…。
と、久々の癒しに浸っている場合じゃ無かった。
- じゃあさ、ファーさんはどうなのかな…?
「そ、それは…」
ちらっとファーさんの方に視線を送ってから、俺の袖を再度引いた。
「同じはずです。先ほどタケルさまがファーの頭を撫でてましたよね?」
ファーさんより見かけが幼いリンちゃんが言うのは違和感があるが、そこは置いといて頷く。
- うん。
「あの時はあれで落ち着いていたんです。でもしばらくして『あとは帰るだけですね』と言い、それから余計な事を言ったので…」
- ん?
「調子に乗るなと釘をさす意味を込めて、つい…」
- つい?
「その…、目的地はまだ遠くて、さっきの何倍もの速度で行くから覚悟するように、と…」
- あー…
言っちゃったのか…。
「すみません、でもどうせ知る事になるんですし、あれが『ありえないけどあの程度なら』とか、『あれぐらいならファーたちはもっと優美に飛べる』などと得意げに言うもので…」
なるほど『余計な事』か…。それで『いい薬』か…。
でもまだ経験してなくてもそんなに効果があるもんなんだろうか。
そのへんはリンちゃんがどう伝えどう言ったかにも依るんだろうなぁ…。
でもそういうのって、自分の得意分野で負けたく無いようなひとが、自分を守る意味で言う場合もあると思うんだよね…、よくある話じゃないかなって。
そんなのにいちいち目くじら立ててもしょうがないんじゃないかな。
「そうしたらああなってしまいまして…」
- なかなか泣き止まなかった、と。
「はい…」
うーん…、こう言っては何だけど、いいトシした精霊さんがそんなでどうするんだと言いたい。言いたいけど、これ言っちゃダメだろうなぁやっぱり。
とりあえずファーさんを放置したまま降りてこの結界を解除し、あの人たちも一緒に連れて行くのはまずいだろう…。一応ファーさんは風の精霊さんで、それも結構上位みたいだし…。
下でどうしてか跪いてじっと待ってるんだよ、あまり待たせるのは気の毒だ。俺も居心地が良くない。
しょうがないので3歩ほどの距離だけど、リンちゃんから離れてファーさんの前に片膝をついて目線を合わせた。
- ファーさん、僕の飛行魔法が未熟なのは我流だからなんですよ。それでバランスや辻褄を合わせるために微調整をしたり、速度を出すために工夫した結果、こうなってるので…。
ファーさんは、俺が何を言うのか不安そうに聞いている。
- これでも安全には気を遣っています。風の精霊さんたちと飛行方法が違うのを、今ここで修正することができないので、今日のところは我慢してもらえませんか?
「…あの…」
- はい。
「先ほどの何倍もの速度とリン様が仰ってましたです」
- うん。
人数が増えるから精々4倍かそこらがいいところだろうけどね。
先日、急いで行った時は物理的限界近いところまで頑張ったけど、今回はそこまでの速度は出せないと思う。時間的にも余裕があるからね。頑張らなくてもいい。
物理的限界ってのは、結界強度と熱処理の問題なんだ。消費する魔力の問題もある。
俺だって細かい計算をしてるわけじゃないので、これ以上はヤバそうだなってとこの手前で止めてる。
「タケル様がずっと撫でて下さるなら我慢できますです」
「ちょ、調子に乗るなデス!、返却するデスよ!」
「ひぅっ、申し訳ありません返却は勘弁して下さいです!」
俺が、『いやそれはどうなの』と突っ込む隙が無かった。
俺の後ろに付いてきていたリンちゃんがにゅっと人差し指をファーさんの眼前に突き出して言い、一瞬で体育座り(三角座り)だったのが土下座になったファーさん。
ファーさんの肩に手を置いて慰めていたんだろうベニさんの手が浮いた状態になり、俺と目が合って互いに苦笑いだ。
- まぁその…、どうしても我慢できないなら、僕の手を握っていてもいいので、とりあえず顔を上げてもらえますか?、ファーさん。
とにかく話を進めないと終わりそうに無い。
『はいです…』と顔を上げたファーさんの顔にそっと手を添えて回復魔法を掛けた。
「ふぁぁ…」
「はぁ…、タケルさまは甘いんですよ…」
変な声を出したファーさんに、それを見て肩を落とすリンちゃん。
何故か不機嫌そうに小さく首を縦に振ってリンちゃんに同意したベニさん…。
- 下のひとたちを連れて行く事になったからね。あまり待たせても何だから。
「…結局そうなったんですか…」
- そういう事。あ、リンちゃん、『スパイダー』に使ってるみたいな、シートベルトのある椅子ってある?
「はい?、そういうのは予め言って下さらないと…」
- じゃあリビングにあるみたいなソファーは?
「それならありますけど、あの者らを全員座らせるんですか?」
- うん、だからいくつかあれば出して欲しいんだけどね。
無かったら椅子を作って柔らかい結界でクッションをとか考えてたから、あって良かった。
「仕方ありませんね、ですが地面に置くのはちょっと…、タケルさまの結界を敷いた上であれば構いません。タケルさまも座られるんですか?」
- いや、僕は前に立つかたちになるかな。そのほうが慣れてるし、操作しやすいからね。
「あの者らだけを座らせるんですか…?」
何やら不満そうだ。
- あのね、彼女たちは飛行魔法に不慣れでしょ?、動き回って欲しく無いんだよ。最初から座らせておいて、動かないように言っておかなければ、途中で座ったり跪いたり倒れたりされると、あの人数だからね、バランスが狂いやすいでしょ?
「なるほど、そういう事でしたら…」
納得してくれたようなので、すっと球状結界を地面ぎりぎりまで降ろして底を平らにし、囲いを解いてソファーを並べて置けるように広げた。
「タケルさま…、動かすならそう言って下さいとあれほど…」
- あ、ごめんごめん、ゆっくりだからいいかなって…。
「はぁ…、ソファーはどう並べましょう?」
- こう、3列みたいに3つ並べて置いてくれる?
手振りでだいたいの位置を示した。
「わかりました」
伝わったようだ。良かった。
そこにベニさんが遠慮がちに尋ねてきた。
「あの…、結界操作ってこんな風にできるものなんですか…?」
「ああ、ベニは知らなかったんですね。これがタケルさまの普通です。慣れて下さい」
「はい、え…?」
何と答えようか一瞬考えたら、ソファーを並べ始めたリンちゃんが答えた。
でもその言い方はどうなのさ…。
「一度張った結界を補強または強化するならばともかく、形状を変えたり一部穴を開けたり好き放題できるのは今の所タケルさまだけです」
「そうなのですか…」
「はい、結界関連の研究チームがずっと頑張っていますが、その点に関しては成果が出ていないのが現状です」
「『森の家』の結界器具は進歩しているって…」
「ええ。そういった結界関連の成果は、いわば副産物です」
「あれが副産物なのですか?、すごい進歩だとモモさんたちも言っていましたけど…」
「副産物です。結界関連は他にも――」
とりあえず妙に居心地が良くないし、こっちはほっといて、あっちでずっと宗教的姿勢を崩さず頭を下げているひとたちを連れてこよう。
次話4-067は2021年07月02日(金)の予定です。
●今回の登場人物・固有名詞
お風呂:
なぜか本作品によく登場する。
あくまで日常のワンシーン。
また入浴無しですよ…。風呂場を分解しただけですよ全く。
タケル:
本編の主人公。12人の勇者のひとり。
そういう危機察知能力はすごいですね。
リンちゃん:
光の精霊。
リーノムルクシア=ルミノ#&%$。
アリシアの娘。タケルに仕えている。
ファーの気持ちもわからなくは無いが、
気分的には次何かあったら返却してやろうぐらいは思っている。
テンちゃん:
闇の精霊。
テーネブリシア=ヌールム#&%$。
後ろの部分は精霊語のため聞き取れない。
リンの姉。年の差がものっそい。
今回出番無し。名前のみ。
ウィノアさん:
水の精霊。
ウィノア=アクア#$%&。後ろの部分は精霊語。
一にして全、全にして一、という特殊な存在。
今回出番無し。
アリシアさん:
光の精霊の長。
全精霊中最古というような存在。実は凄い精霊。
だいたい名前くらいしか登場しませんが一応。
森の家の精霊さんたち:
モモを筆頭に、ミドリ、アオ、ベニの4名は幹部らしい。
ミルクは隣に建てられた燻製小屋という名前の食品工場の作業管理責任者。
ブランはそこで働く精霊さんたちのための寮の管理責任者。
キュイヴは演劇関係施設と演劇関係の管理責任者。
今回、モモは名前のみの登場。ミドリとアオは出番無し。
ベニさん:
タケルの家とされる『森の家』を管理する4名の幹部のひとり。
ファーのお世話のような役割で連れてこられたはずが、
あまり役立ってませんね。
ピヨ:
風の半精霊という特殊な存在。見かけはでっかいヒヨコ。
初登場は2章071話。
それ以降ちょくちょく登場。
タケルに「中にちっさいひとが入っていても驚かないぞ」
と言わしめた謎の生物となっている。
今回出番無し。
ミリィ:
食欲種族とタケルが思っている有翅族の娘。
身長20cmほど。
翅が無いが有翅族。
ピヨの事をピヨちゃんさまと呼ぶ。とっても仲良し。
今回出番無し。
ハルトさん:
12人の勇者のひとり。現在最古参。
勇者番号9番。オオミヤ=ハルト。
ハムラーデル王国所属。
およそ100年前にこの世界に転移してきた。
『フレイムソード』という物騒な剣の所持者。
今回出番なし。
カエデさん:
12人の勇者のひとり。
勇者番号10番。シノハラ=カエデ。
この世界に転移してきて勇者生活に馴染めず心が壊れそうだったが、
ハルトに救われて以来、彼の元で何とか戦えるようになった。
勇者歴30年だが、気持ちが若い。
でも言動はタケルからするとちょっと古臭い。
お使いで走ってます。
ハルトもですが、そのうち出て来るのでここに残しています。
今回出番なし。
ロミさん:
12人の勇者のひとり。
勇者番号2番。マサダ=ヒロミ。
現存する勇者たちの中で、3番目に古参。
現在はアリースオム皇国皇帝を名乗っている。
今回出番無し。
クリスさん:
12人の勇者のひとり。
勇者番号5番。クリス=スミノフ。
現存する勇者たちの中で、4番目に古参。
現在快復ターン中。
黒鎧じゃなくなっている。
今回も出番無し。
一応、黒鎧に関しての話が出るため、
ここに残しています。
アリースオム皇国:
カルスト地形、石灰岩、そして温泉。
白と灰の地なんて言われてますね。
資源的にはどうなんですかね?
でも結構進んでる国らしい。
勇者ロミが治めている国。
クロマルさん:
闇の眷属。テンのしもべ。
試作品零号らしい。
カンカンうるさい。
テンのポケットに、カッティングが複雑で綺麗な石に宿っている。
今回も出番無し。
出ると消滅の危機になると学習したので、大人しく眠ってます。
ファーさん:
ゼファーリィ=ヴェントス#$%&。
風の精霊。
相変わらずの早口。
有能でポンコツという稀有な素材。
精霊らしさを見せ、有能さを見せたと思ったらやっぱりw
風の神殿では偉い立場なんですよ?、これでも。
名前からして西風さんですからね。
そりゃあ実力者なんですよ。これでも。
風の精霊のプライド(笑)
案外もろい性格なんですかね?、結構いいトシのはずなんですが。
カズさん:
12人の勇者のひとり。
勇者番号6番。サワダ=ヨシカズ。
ロスタニア所属らしい。今の所。
体育会系(笑)。
性格は真面目。
今回も出番なし。ツギの街から移動中かな?
光闇教:
こうあん教と読む。
トルイザン連合王国にのみ伝わる宗教。
大昔は別の名前だったらしい。
光の精霊の里には記録が残っているらしい。
そこに伝わる経文はテンにとっての悶絶事項だそうな。
おひい様と呼ばれる女性:
ベルクザン王姉。
ヒースクレイシオーラ=クレイア=ノルーヌ=ベルクトス。
タケルはいつまで経っても名前を覚えませんね。
おヒーさんってw
クラリエ:
ベルクザン王国、王宮筆頭魔道師。
クラリエ=ノル=クレイオール。
控え目に補佐をしています。
ベルクザン王国魔導士会所属の魔導士たち:
クラリエの部下。当然、王宮魔導士です。
アリエラ=ノル=バルフカガー
イイロラ=ノル=ジールケケナーリ
セリオーラ=ノル=パハーケサース
サラドナ=ノル=パーガル
チェキナ=ノル=ネヒンナ
『ノル』というのは、魔導士に登録され、元の家の継承権を
放棄したという意味で付くものです。
継承権を放棄していない魔導士も存在します。
誰のセリフかは記述していませんが、
イイロラ以外はセリフがありました。
※ 作者補足
この登場人物・固有名詞紹介の部分全ては、
あとがきの欄に記入しています。
本文の文字数にはカウントされていません。
あと、作者のコメント的な紹介があったり、
手抜きをしたり、詳細に書かれているけど本文には
無関係だったりすることもあります。
ご注意ください。