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4ー065 ~ 移動のあれこれ

 ハムラーデルからアリザンへの旧街道、その途中からだいぶ外れた森の中に作った小屋で待機してもらっているベルクザンのひとたちの所に、修理の終わった魔法の鞄を持って行こうとしたんだけど、そこで待ったがかかってしまった。


 具体的には――


 「タケルさま、その鞄を持って行くのを午後からにしませんか?」


 と、まずリンちゃんに言われたのだ。

 理由を問うと、ただ持って行くだけなら全員で行く意味が無いとの事。


 なぜ全員かと言うと、現在この『森の家』には、俺とリンちゃんを除いて、テンちゃん、ロミさん、ファーさん、ピヨ、ミリィが居るわけで、現在はモモさんが用事で不在だから、俺とリンちゃんだけが遠くに出かけてしまうと、手の空いているベニさんだけでお世話をしなくちゃいけなくなる。ファーさんには教えながら、となるので良くないんだと。

 なら全員で移動という事になるが、どうせまたここに戻ってくる事になるんだし…、と、ここまで聞いてから何か言いにくい別の理由があるんじゃないのか?、と勘づいた。


 それで、リンちゃんの手をひいて俺の部屋へと行き、こっそり問いただしてみたところ、どうやらピヨが問題ならしい。


 と言ってもピヨに何か問題があるというのではなく、テンちゃんとニアミスして接触してしまうとまずいんだそうだ。

 ピヨはかなり安定した存在になってきてはいるが、不完全な部分もまだ残っていて、もしテンちゃんに接触して影響が出てしまうと存在に関わる可能性があるんだとさ。


 そりゃ大変じゃん、って言うと、確率的には小さいけどゼロでは無いから自分たちも気を付けているらしい。


 それでテンちゃんはピヨを抱いた俺には近寄らないし、隣ではなく対面側に座らせたのか。なるほど。


 そして、まとめて一緒に移動したり、俺の飛行結界に包まれているのは良くないので、できればピヨとミリィはこの『森の家』に置いたままにしておきたい。

 俺とリンちゃんだけが出掛けてしまうと、テンちゃんはもちろん気を付けてくれるだろうけど、ベニさんだけでは不安だと。


 ファーさんにはそのあたりの事情をまだ説明しにくいし、彼女には覚えてもらう事が多いから、今はそちらに集中して欲しいんだそうだ。

 そこらへんは精霊さん同士の事情みたいなもんもありそうな雰囲気がした。


 と、そこまで話を聞いたところ、リンちゃんに連絡がきて、例の黒鎧人形と白銀の鎧について調べたが、箱のほうも調べておきたいらしい。


 なら、回収してくるしか無い、と思ったら、場所がわかっているなら回収してくれるんだそうな。


 それで、あの時テンちゃんと中で何があったかを詳しくリンちゃんに話し、作成した地図をリンちゃんに手渡した。

 それをリンちゃんが一旦里へ持って行って説明をする必要があるらしく、結局移動は午後になった。


 いや、いろいろ思う所はあったんだよ?


 じゃあ俺だけで行ってくるよ、とか、じゃあテンちゃんも一緒に3人で、とかね。


 俺だけ、のほうは言いかけたんだけど、リンちゃんが『タケルさまのちょっと行ってくるは安心できませんから』と、人差し指を立てて念を押すように言われたので言い返せなかったんだ。


 それと、リンちゃんとしては、ファーさんを残すのは避けたいらしく、俺とリンちゃんとテンちゃんだけが出掛けるのならそこにファーさんも加えて4名にしたいみたい。

 モモさんが居るならいいけど、居ないので、たぶん、ファーさんを止める事のできる者が誰か残っていたほうが良い、という判断なのだろう。


 信用無いなぁ、ファーさん…。

 まだ日が浅いってのもあるんだろうけども…。


 午後にはミドリさんも手が空くし、ファーさんの服ができあがるのでアオさんも戻ってくるから、俺とリンちゃんが出掛けて、テンちゃんとファーさんが残っても残らなくても大丈夫だろうという事だった。


 という訳で、午前中はピヨやミリィの相手をしたり、マッサージチェアを試してウィノアさんに首飾りから文句を言われたりして過ごした。






●○●○●○●






 「あの…、皆様魔法をお使いですけど、光闇(こうあん)教の方々は――」

 「そんなわけ無いでしょ」

 「余計な事を考えない」

 「真面目にやらないならもう教えないよ?」

 「す、すみません、ちゃんとやります!」


 タケル様というお方に、この光闇(こうあん)教の方々が住まう隠れ家に連れて来られた翌日、てきぱきと分担を決めて家事などを効率よく済まされるのを見ていた私は、ただお世話になりっぱなしなのも居心地が良くないと思い、『何か私にお手伝いできる事はありませんか?』と、申し出たのです。


 すると、皆様がちらっとヒースクレイシオーラ王姉殿下を(うかが)い、殿下が小さく頷くのを見てから、セリオーラさんが『んー』と前置きをされてこう仰ったのです。


 「あんた、魔法はどれぐらい使える?」


 まるで、魔法が使える事が前提であるかのような問いかけが意外でした。


 と言うのも、私の知る限り、魔法は魔道具によって行使するものというのが一般的です。

 ここの方々は、あの夜に少しお話を聞かせて頂いたところ、クラリエ王宮筆頭魔導士様の配下の方々でした。つまりそれは、皆様全員が魔導士であり、魔法が堪能な方々だという事です。


 余談ですが魔導()とはベルクザン王国での一般的な呼び名で、魔導()とは王宮や騎士団に所属していない在野の魔法使いの事で、研究をしたり弟子をとったりする者の事だそうです。


 「よく知らずに混同しているひとも居ますが、ベルクザンでは明確に区別していますよ」


 と、クラリエ様があとでこっそり教えて下さいました。


 話を戻します。

 先ほど一般的と申しましたように、魔法を扱える人のほうが圧倒的に少ないのですから、私が魔法を少しでも使える事がどうしてわかったのか不思議でした。


 「使えると言う程の事はできません、でもどうして私が使えるとお分かりに…?」

 「だってオーリエさん、あんたは竜の巫女なんだろう?、ああ、元だけど、その巫女が魔法を使えないとは思えないじゃないか」


 セリオーラさんはそう言い、サラドナさんとチェキナさんまでが頷いていました。


 「それは誤解です――」


 と、私が孤児だった事を話しました。

 父親は私が物心つく前に、王都近郊での魔物討伐に参加して死んだ事。母は遺族補償を使い贅沢をしていたけど、ある日から帰って来なくなった事。しばらくして父の姉という人が来て、財産を管理するようになった事。最低限の食事しか食べさせてもらえず、いつもお腹が空いて辛かった事。家の中には居場所が無くなり、男の子の恰好をして外で隠れるようにして過ごしていた事を話しました。


 「あんた…、苦労したんだね…」


 両親が持っていた書物、これは父が生前に父の父から譲り受けた初級魔法の本と、母がこっそり勤め先で書き写した裏帳簿でしたが、それで文字や計算を覚えはしましたが、魔法についてはさっぱり理解ができませんでした。


 父の本と一緒に本と同じぐらいの長さの小さな杖があり、それが明かりの魔道具だったので、薄暗い隠れ場所でその魔道具を使い、本を何度も読み返して時間をつぶしていたのです。

 ある時、その魔道具が使えなくなり、近所で安く魔道具を直してくれると言われている小さな店に行くと、『交換用の魔石を持ってこないと直せない』と言われ、泣き出したのを覚えています。

 まだ幼かった私がいきなり泣き出したのでそのお爺さんも困ったのでしょう、片足を引きずるようにして歩み寄り、私を奥に連れて行き、宥めたり頭を撫でたりいろいろしてくれました。

 それからその店の奥で、本を読ませてもらったり魔法を教わったりするようになったのです。


 ですが、そのお爺さんも簡単な魔道具を作ったり、魔石を交換したりすることはできますが、魔法は明かりを灯す事と、かまどの薪に火をつける事しかできなかったので、私もそれしかできません。






 セリオーラさんの質問に、薄暗い地下の部屋で本を読むための明かりを灯すぐらいしか使えませんと言うと、『ちょっとそれ、やってみて』と言われ、いつもやっていたように、左手で小さな芋を囲うような形を作って明かりを作りました。


 もちろんそれは(テーブル)の上に開いた本を読む程度のもので、このように明るい場所ではほとんど意味を為さない、ささやかなものでしたが、いつの間にか隣にきて覗き込むようにして明かりを見ていたセリオーラさんと、逆側から同じようにしていたサラドナさんは目を丸くしていました。


 「あんたこれ、どこで覚えた?」


 セリオーラさんがさらに問いかけます。


 「小さいころに、膝に矢を受けたって言って杖をついていた近所のお爺さんから」

 「この明かり、どれぐらいもつ?」

 「3・4時間ほど使ってました」

 「他に使えるのは?」

 「たき火に火をつけるぐらいです」


 そう答えると、セリオーラさんたちは一旦私から少し離れて3人でこそこそと話をしてから、改めてこちらに寄ってきて仰いました。


 「せっかくだから、あんたにも魔法を覚えてもらうよ」


 こうして、私はセリオーラさんたちから魔法を教わるようになったのです。






 セリオーラさんたちは、その日から時間交代で私に誰かがついていて、魔法を指導してくれました。

 驚いたのはその日1日で、初級魔法を覚える事ができたという事です。


 こうして正しく教われば、小さいころに意味が分からないまま何度も読み返した文章の意味が、実践という触媒で理解へと昇華した事が実感できました。

 どうしてあの本には詠唱の文言が書かれていなかったのでしょう…?


 今もあの本が手元にあれば、記憶に頼らず読み返して確認ができたのにと思いました。

 それと、やはりこの方たちはとても優秀なのでしょう。教え方が分かりやすく、理解しやすかったのも幸いでした。


 長年、左手から離れなかったぼんやりとした明かりを、浮かせる事に成功した時は感動で涙がこぼれました。


 「これほど飲み込みがいいと教え甲斐がある」


 満足そうにチェキナ先生が仰いました。

 最初は師匠と言ったのですが、弟子にしたわけじゃないし、ここに居る間の事だから、先生と言うように、と仰られたので王姉殿下以外は全て先生をつけて呼ばせてもらっています。






 次の日の午後、外で魔法を教わっていると黒い球体がすぅっと近くに降りて来て、タケル様がそこからするっと現れて滑るように斜めに降りて来られました。


 たまたまセリオーラ先生とチェキナ先生の2名に教わっていたのですが、そのお二人はすぐにタケル様の着地点付近に駆け寄られ、跪かれたのです。それも宗教的に最上級とされる姿勢で(こうべ)を垂れていました。


 何故かそうしなくてはならないと私も焦って駆け寄り、同じ姿勢をしますと、タケル様が困ったように仰いました。


 「いやその、そういうの困るんで、普通にしてて欲しいんですけど、とりあえずこんにちわ。他の皆さんは中ですか?」

 「はい、おひい様とクラリエ様は中で書き物をしておいででした。他はそれぞれ家事をしているかと存じます」


 セリオーラ先生は頭を下げたまま答えました。


 「そうですか、邪魔をしちゃってすみません、続きをして下さい。立って、構いませんから立って、…(もうほんとこれ、テンちゃんから命令してもらったほうがいいんじゃないかな…)」


 そう言いながら歩いて家の中へと歩いていくタケル様の、足音が変わったのを聞いてでしょうか、両先生がゆっくりと立ち上がったので私も立ち上がりました。






 タケル様というお名前はここに到着してすぐに知ってしまったのですが、彼が仰るには最初は特に隠すつもりでは無かったらしいのです。


 あの時、私は詳しい事情は知らず、ただ竜神教教祖様から見捨てられた事で、自分がただ利用されただけで、簡単に切り捨てられてしまうのだと目が覚めたのです。


 逃げるにしても、身寄りも無く、家は乗っ取られてしまった私には竜神教の教会にしか住む場所はありません。今更戻っても、居場所なんてありませんし、両親の財産や遺族見舞金などはもう使われてしまって残ってはいないでしょう。

 今なら知っていますが、見舞金は5年で支給されなくなりますので、もうとっくに支給されなくなっているはずです。

 それを知った時には、私が教祖様に拾われて家を勝手に出て行ったにもかかわらず、あの家の者たちが何も言って来なかった事に納得が行きました。それまで月に1度、支給日になると私を連れて騎士団の詰所へ行かなくてはならなかったのに、ちょうど支給が終わった時期だったのでしょうね。


 そんな私に、逃げる場所を提供して下さったのがタケル様でした。


 それがまさか、空を飛んで運ばれるだなんて、驚きを通り越して夢のようでした。

 今でもあの時の事は夢に見ます。


 見えない壁に頭をぶつけて起きる事もありますが…。


 んっんん(ゴホン)、タケル様と言えば、こちらの先生たちにとっても、偉大な御方なのだそうです。


 「先程のタケル様は空を飛べるほどの魔導師様なのでしたね…」


 今さっきも滑るように飛んで降りて来られましたし、私も運んで頂けたのです。

 空を飛ぶなど伝説以上の事です。確かに偉大だというのも頷けますし、先生たちがあのように崇拝する姿勢でお迎えしたのもわかります、という意味で言ったのですが…。


 「それだけじゃないよ、あのお方は水の精霊様を召喚され、その精霊様に命じてここらの地形を変えたんだ」

 「うんうん、宙に浮いたまま、美しい水の精霊様を喚ばれてね、光の粒が周囲に舞う精霊様があのお方の首筋に手をこうやって伸ばして抱き着いたんだよ、すごく幻想的で、感動しちゃったよ」

 「あの時の精霊様も一緒に浮いてたよね、それで精霊様が片手をすっと優雅に動かすと、地形が変わって、その御力がふわっと走り抜けたかと思ったらびしょぬれだった私たちがすっかり乾いてたのよね」

 「私たちみんな感動で声を押し殺して泣いてたね」


 離れた所で洗濯物を干していたサラドナ先生も駆け寄って来られ、話に参加していました。


 それから話を聞いていると、『使徒』と仰ってもいましたが、何と、光闇(こうあん)教での最上位、闇の精霊様から『タケル様』と呼ばれる程の存在だそうです。

 それだけならまだ、宗教的なものなので、そうなのですねと他人事のように済ませるべきものですが、この家を一瞬で建てられた、ともお聞きしました。


 空を自由に飛び、家を一瞬で造り、水の精霊様を使役し…、まるで人の形をした神様か何かのようです…。


 ところで精霊様って、実在したのですね…。






●○●○●○●






 到着してすぐ、外に出ていた人たちから跪かれてしまった。

 いい加減、やめて欲しいんだけどなぁ…。


 とりあえずヒースなんとか殿下の居場所を尋ねたら、素直に答えてくれたので足早に去ることにした。だって頭下げたまんまなんだもん、居心地悪いじゃんかよ…。


 もうほんとこれ、テンちゃんから命令してもらったほうがいいんじゃないかな…。


 そして入り口でひと声かけると、どうぞ入って下さいと言われ、中に入るとまた跪かれていた。


- いやあのね、そろそろ普通にしてもらえませんか?、そういうの慣れて無くて、困るんですよ…。


 「しかし…」


- 顔を上げて下さい、立って、席に着いて下さい。これ、毎回言わなくちゃダメですか?


 答えが返ってこないんですけど…。


 無言のままゆっくりと立ち上がって席に着く彼女たちを何とも言えない気分で待った。でも座ったのはヒースなんとか殿下だけだった。

 もういいやこれで進めよう。


- 今日来たのは、この(ショルダーバッグ)の修理が終わったからなんですよ。


 「そうでございましたか、ありがとうございます。アリエラ」

 「はい、おひい様。タケル様、こちらにお願いします」


 テーブルを回り込んでこちらにしずしずとやってきたアリエラさんに鞄を手渡した。


- それと、中身のリストを用意したので、確認してもらえますか?


 「それはありがたい事でございます」


 テーブルの上にすっと紙束、という程には多くないけど、A4サイズより少し大きめの羊皮紙3枚を、ヒースなんとか殿下のほうに向けて置いた。


- 中の棚の位置が少し変わっているらしいんですが、中身は元のままだそうで、一応そちらでも確認して欲しいとの事です。


 「わかりました。あの…、つかぬ事をお尋ねしますが」


 俺の言い方が伝聞だからか、おそるおそる言われたので頷く。


- はい。


 「タケル様がお直しして下さったのでは無いのでしょうか…?」


- はい。直したのは僕じゃありません。ちょっとした伝手がありまして、直せる方々のところに預けたんですよ。


 「その、直せる方々、とは…」


- それは聞かないで下さい。


 だって光の精霊さんの技術者たちですなんて、言えないでしょ。

 増してやこのひとたち、光の精霊さんも崇める宗教のひとたちだよ?、言ったらまた大騒ぎしそうだしさ。

 そこにリンちゃんという、光の精霊さんのお姫様が関わってるんだぜ?、言えるわけがない。


 「わかりました、タケル様がそう仰るのですから、さぞ、…いえ、考えない事に致します」


- そうして下さい。それと、外に居た方たちは、何をされてたんです?


 2人で両側から元竜の巫女に何かさせていたような雰囲気だったんだよね、まさかイジメじゃないよね?

 名前が出てこない、オラ?、オリ?、オル?、オラリ?、って一瞬考えてた。


 「ああ、それでしたらオーリエに魔法を教えているのです」


 へ?、魔法を?

 あ、名前忘れてたけど、元竜の巫女はオーリエさんだった。最初の1文字しか合ってない。でも惜しい気がする。


 「あの子、少し魔法が使えるみたいでして、どうせ暇を持て余しているのならと、家事の合間に教えるようにさせているのですよ」


 と、クラリエさんだっけかが補足した。

 なるほど、いじめていたわけじゃないならいいや。


- そうだったんですね、仲良くやれているならそれで。話を戻しますが、そこに入ってる物資でなんとかやれそうですか?


 「やれそう、と仰るのは私どもに自力で旅をして帰れという意味なのでしょうか?」


 さっと表情を曇らせた。

 あれ?、言い方がまずかったか。


- そうじゃなく、ここでの生活ができそうですかという意味だったんです、すみません言葉が足りなくて。


 「い、いえ、こちらこそ不躾で申し訳ありません」


- えっと、もしかして、やっぱり自力で戻ることは無理そうですか…。


 「…はい、一応は護符や補助具の予備はいくつかこちらにございますが、やはり黒鎧という戦力が無いのは非常に大きいのです。こちらに来た際には、その黒鎧の他、斥候隊も随伴しておりましたし、私どもも魔法で支援ができ、万全の状態でございました。それがその、申し上げにくいのですが、予備の補助具は数が足りませんし、斥候隊も返してしまいました。黒鎧も無い現状では、肉食の野生動物の群れに襲われると全滅してしまいますし、野盗の集団への対処も難しいと思われます」


 野盗の集団、いるのか。

 それと、肉食の野生動物の群れ?


- 肉食の野生動物の群れ、なんて出るんですか。


 「はい、来るときには撃退しましたが、大半は逃げてしまいました」


- えっと、野犬の群れとか?


 「私どもは狼と呼んでおりますが…」


 あー、狼かー、いるのかー。


- あー済みません、見たことが無かったので。


 「他にも、肉食の鳥類が群れを作っている場所もございます」


 鳥類も危険なのがいるのか…。


- 街道にそんなのが出るなら、こっち側が旧街道になっちゃったのもわかりますね。


 「あ、いえ、そうではございません」

 「あの、私どもは街道から外れた道を通ってここまで来たのです」


 え?、あー、そっか、旧街道を通るとアリザン経由になっちゃうから…。


- もしかして、ベルクザンからの街道は…


 「はい、アリザン国内を通っておりますので…」


 なるほど、そういう事情だったのか。

 という事は、荷物が戻った現在でも、このひとたちは自力で戻れない。

 やっぱり俺が運んで…、ああ、あの離宮なら?


- もし、今日戻れるとして、王都ベルクザバの王宮にってのはまずいんですよね?


 「もし戻れるとして、でございますか…、そうですね、お送りして頂けるのでしたら、私の管轄である離宮が良いでしょう。そこでしたら手紙のやり取りをするにも、馬車などを用意するにも都合が良い…、身を潜めているのならここ以上の場所はありませんが…」

 ヒース何とか殿下は、考え事をする時の癖なのか、ゆっくりと腕を組み、斜め下を見るような角度で首を傾げて目を閉じて話していた。


 やっぱりあの離宮が候補になるか…。


 どうせあの離宮の脇にある倉庫に用事があるしなぁ…。連れてってもいいんだけども。

 と言うのも、リンちゃんが里で説明してきたところ、明日にでも回収(チーム)を招集して実際に現地へ行き、倉庫ごと回収してくる予定なんだそうだ。

 いやいやそれはいくらなんでも大げさだろうって思って、帰ってきたリンちゃんから話を聞いてすぐにその予定をキャンセルしてもらったんだよ。


 倉庫まるごとって、そりゃないわーw


 なので俺が行くと言い張ったってわけ。リンちゃんはちょっと困ったような表情になってたけどね。






 実は、テンちゃんとロミさんがついて来たがったんだけど置いて来た。


 ピヨとミリィは庭で遊んでたみたいだったし、連れて来てもしょうがないから放置。

 出かける時に少し話したけど、自由に外に出られるのがふたり(?)とも嬉しいみたいで、今は庭で遊んでるけど、建物が見える範囲なら許可されているようで、広くて嬉しいと楽しそうに言っていた。


 ファーさんも置いてリンちゃんと2人だけで来るつもりだったんだけど、何故かファーさんとベニさんがついて来た。


 メイド服ができあがったファーさんが、何でか気を良くしたのか調子に乗って、『タケル様の飛行魔法には風の精霊として興味がありますですよ』と、この間高空から降りてくるだけで頭がくらくらするって言ってたのに、もう忘れたのかそんな事を言ったんだ。

 そこにテンちゃんが、『風の者などタケル様の足元にも及ばぬのじゃ、身の程を知らぬとはこの事なのじゃ、片腹痛いのじゃ』と笑ったので、風の精霊の誇り(プライド)を刺激しちゃったんだろう、絶対付いて行くと息巻いていたわけ。


 で、予想するにたぶん目を回すんじゃないかと。

 そんなのをテンちゃんに見られたらまた面倒だろうし、ミドリさんとアオさんも居るんだからテンちゃんとロミさんが残っていても大丈夫。


 と言うか、ふたりともテンちゃんとロミさんが対戦した棋譜を見たらしくてさ、興味津々なんだよ、それでテンちゃんやロミさんと対戦してみたいようで、そっちの話で4人が盛り上がっちゃってね、なら留守番でもいいみたいになったんだ。


 棋譜って何だよ、と思ったらホームコアに接続されてるんだってさ、あのボードゲーム。そんでもって記録が残るんだとさ。まぁ好きにしてくれって気分になるね。


 ベニさんが来る事になったのは、その、ファーさんが目を回した場合のお世話担当ってわけだ。実はベニさんも俺がひょいひょい飛んでるのを見ていて、一度は体験してみたいってずっと思ってたみたい。だからちょうどいいかなってね。


 ん?、ファーさん?、この小屋の斜め上で待機してる結界の中で『頭がくらくらしますですよ…』って座り込んでるよ。






- 一応お尋ねしますけど、あの離宮なら危険は無いんですよね?


 「黒鎧が私どもの手にあると、まだ王宮では考えているはずですので、そうそう危険な事にはならないと存じます」


 なるほど。そういう事か。

 でもまぁ、それならそれで、ちょっと考えもある。


- じゃ、今から移動しましょうか。


 「は?、今から…?、でございますか?」


- はい。移動しましょう。僕もあの離宮の倉庫に用があるので。


 「わかりました、タケル様がご同行下さるのでしたら何よりも安全に移動できると存じます。クラリエ、すぐに準備をしな。アリエラは外の洗濯物を、イイロラは荷造りだよ」

 「「はい!」」


- あ、調理具など、支給したものは僕が回収しますね。


 という訳で、急いで移動準備が始まった。






次話4-066は2021年06月25日(金)の予定です。


20210620:誤字訂正。 交感 ⇒ 交換

20210711:わかりにくいので訂正。

 (訂正前)それを知った時には、道理で私が教祖様に拾われて家を勝手に出て行ったのにあの家の者たちが何も言わなかったのです。

 (訂正後)それを知った時には、私が教祖様に拾われて家を勝手に出て行ったにもかかわらず、あの家の者たちが何も言って来なかった事に納得が行きました。



●今回の登場人物・固有名詞


 お風呂:

   なぜか本作品によく登場する。

   あくまで日常のワンシーン。

   また入浴無しですよ…。


 タケル:

   本編の主人公。12人の勇者のひとり。

   振り回されたり振り回したり。


 リンちゃん:

   光の精霊。

   リーノムルクシア=ルミノ#&%$。

   アリシアの娘。タケルに仕えている。

   倉庫まるごとになるだろうとは予想していたので、

   タケルがそうするだろうというのも予想済み。

   でもまたあの距離を飛ぶのかと、ちょっと複雑。


 テンちゃん:

   闇の精霊。

   テーネブリシア=ヌールム#&%$。

   後ろの部分は精霊語のため聞き取れない。

   リンの姉。年の差がものっそい。

   棋譜を褒められたのは正直嬉しい。

   実はその手のゲームは得意中の得意。プロ級。

   そりゃね、長生きですからね、このひと。

   暇も持て余してましたし。


 ウィノアさん:

   水の精霊。

   ウィノア=アクア#$%&。後ろの部分は精霊語。

   一にして全、全にして一、という特殊な存在。

   今回は水の精霊様という代名詞だけが登場。


 アリシアさん:

   光の精霊の長。

   全精霊中最古というような存在。実は凄い精霊(ひと)

   だいたい名前くらいしか登場しませんが一応。


 森の家の精霊さんたち:

   モモを筆頭に、ミドリ、アオ、ベニの4名は幹部らしい。

   ミルクは隣に建てられた燻製小屋という名前の食品工場の作業管理責任者。

   ブランはそこで働く精霊さんたちのための寮の管理責任者。

   キュイヴは演劇関係施設と演劇関係の管理責任者。

   モモは名前のみ。それ以外が登場。


 ピヨ:

   風の半精霊という特殊な存在。見かけはでっかいヒヨコ。

   初登場は2章071話。

   それ以降ちょくちょく登場。

   タケルに「中にちっさいひとが入っていても驚かないぞ」

   と言わしめた謎の生物となっている。


 ミリィ:

   食欲種族とタケルが思っている有翅族(ゆうしぞく)の娘。

   身長20cmほど。

   (はね)が無いが有翅族(ゆうしぞく)

   今回も大人しい。セリフ無し。

   テンが闇の精霊である事を知っている。

   ゆえに、ピヨを護る使命を受けていて、

   今回も庭でピヨと遊んでいる。


 ハルトさん:

   12人の勇者のひとり。現在最古参。

   勇者番号9番。オオミヤ=ハルト。

   ハムラーデル王国所属。

   およそ100年前にこの世界に転移してきた。

   『フレイムソード』という物騒な剣の所持者。

   今回出番なし。


 カエデさん:

   12人の勇者のひとり。

   勇者番号10番。シノハラ=カエデ。

   この世界に転移してきて勇者生活に馴染めず心が壊れそうだったが、

   ハルトに救われて以来、彼の元で何とか戦えるようになった。

   勇者歴30年だが、気持ちが若い。

   でも言動はタケルからするとちょっと古臭い。

   お使いで走ってます。

   ハルトもですが、そのうち出て来るのでここに残しています。

   今回出番なし。


 ロミさん:

   12人の勇者のひとり。

   勇者番号2番。マサダ=ヒロミ。

   現存する勇者たちの中で、3番目に古参。

   現在はアリースオム皇国皇帝を名乗っている。

   今回はセリフ無し。


 クリスさん:

   12人の勇者のひとり。

   勇者番号5番。クリス=スミノフ。

   現存する勇者たちの中で、4番目に古参。

   現在快復ターン中。

   今回登場せず。

   黒鎧じゃなくなっている。


 アリースオム皇国:

   カルスト地形、石灰岩、そして温泉。

   白と灰の地なんて言われてますね。

   資源的にはどうなんですかね?

   でも結構進んでる国らしい。

   勇者ロミが治めている国。


 クロマル(ゼロ)さん:

   闇の眷属。テンのしもべ。

   試作品零号らしい。

   カンカンうるさい。

   テンのポケットに、カッティングが複雑で綺麗な石に宿っている。

   今回も出番無し。

   出ると消滅の危機になると学習したので、大人しく眠ってます。


 ファーさん:

   ゼファーリィ=ヴェントス#$%&。

   風の精霊。

   相変わらずの早口。

   有能でポンコツという稀有な素材。

   精霊らしさを見せ、有能さを見せたと思ったらやっぱりw

   風の神殿では偉い立場なんですよ?、これでも。

   名前からして西風さんですからね。

   そりゃあ実力者なんですよ。これでも。

   風の精霊のプライド(笑)


 カズさん:

   12人の勇者のひとり。

   勇者番号6番。サワダ=ヨシカズ。

   ロスタニア所属らしい。今の所。

   体育会系(笑)。

   性格は真面目。

   今回は出番なし。


 光闇教:

   こうあん教と読む。

   トルイザン連合王国にのみ伝わる宗教。

   大昔は別の名前だったらしい。

   光の精霊の里には記録が残っているらしい。

   そこに伝わる経文はテンにとっての悶絶事項だそうな。


 おひい様と呼ばれる女性:

   ベルクザン王姉。

   ヒースクレイシオーラ=クレイア=ノルーヌ=ベルクトス。

   タケルはいつまで経っても名前を覚えませんね。

   ヒースなんとか王姉殿下ってw


 クラリエ:

   ベルクザン王国、王宮筆頭魔道師。

   クラリエ=ノル=クレイオール。

   控え目に補佐をしています。


 ベルクザン王国魔導士会所属の魔導士たち:

   クラリエの部下。当然、王宮魔導士です。

   アリエラ=ノル=バルフカガー

   イイロラ=ノル=ジールケケナーリ

   セリオーラ=ノル=パハーケサース

   サラドナ=ノル=パーガル

   チェキナ=ノル=ネヒンナ

   『ノル』というのは、魔導士に登録され、元の家の継承権を

   放棄したという意味で付くものです。

   継承権を放棄していない魔導士も存在します。

   今回はセリオーラ、サラドナ、チェキナの3名が

   よく出ていました。



 ※ 作者補足

   この登場人物・固有名詞紹介の部分全ては、

   あとがきの欄に記入しています。

   本文の文字数にはカウントされていません。

   あと、作者のコメント的な紹介があったり、

   手抜きをしたり、詳細に書かれているけど本文には

   無関係だったりすることもあります。

   ご注意ください。



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2019年05月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
なるほど。わかりません。
2020年01月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
同じやん。なるほど。やっぱりわかりません。
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