1ー019 ~ ひろまる
晩餐会ですよ。いやー精霊さんの文化って人間たちの村より進んでる印象だから、期待が膨らむね!
あ、勇者の宿の村や、東の森のダンジョン村が僻地で田舎だから、ってのもあるかもしれないけどさ。
ツギの街は食べ歩きとかまだやってないからよく知らない。
でもなんか進んでるイメージあるんだよ。ほら、森の家の設備とかを考えるとね。
案内の精霊さんについていくと、広い中庭?、なの?、これ。中庭?、広すぎでしょ、まぁいいか。
中庭に、テーブルや明かりの柱、飾りつけがちょっと数えるのがイヤになるぐらい一面に広がって設置されていて、上には明かりと飾りのあるだけのテーブルと、料理が載っているテーブルとが配置されていた。
よくわかんないけど、人の動き、動線っていうんだっけ?、そういうの考えられて配置されてるんだろうなーっていう感じ。
料理は、見た感じ鳥っぽいのをオーブンで焼いたようなのと、鳥?ってのと、肉の塊っぽいのと、果物とか果物?、野菜とか野菜?、が乗せられていて、端に寄せてあるテーブルには、1人前1皿になってる煮物とかスープとかが用意されていた。
うん、素材とか見てわからんのが多いのは仕方ない。
飲み物はワゴン…、だよな?、なんか下んとこタイヤじゃなくて浮いてるように見えるんだけどさ。地面が芝生…?、でいいよね、草ですね、だからタイヤじゃないのかもだけど、やっぱり浮いてるよねあれ。
とにかくワゴンのようなものを係の精霊さんが押して配っているようだ。
あ、こっちきた。
「お飲み物はいかがですか?」
- それぞれどんな味なんですか?
「こちらの半分はお酒でございます。反対側は果実のドリンクでございます、下段のものは水と氷、そして各種お茶でございます、お好みを仰って頂ければお作りすることもできます」
- あ、では精霊さんたちが一番よく飲まれているお茶に氷を浮かべて頂けますか?
「はい、承りました」
おー、いいね、こういうのって。
受け取ったお茶は、透明なタンブラーっていうんだっけ、コップのでかいやつ、それでストローをつけてもらった。
ちょっと行儀悪いけど立ったまま少し飲んでみる。
うん、何だろう、香ばしいから焙煎したものかな、麦茶っぽい感じ。へー…、美味しいなこれ。
おっと、料理のことだけじゃなくちゃんとアリシアさんたちの着飾ってる様子も伝えないとね!
えっと、アリシアさんは…、っと、これどっちが上手なのかわかんないな。壇とかないし。
あ、あそこか。目が合ってしまった、呼ばれたようだ。
わー、何かみなさん着飾ってらっしゃる。元の世界のイブニングドレス?、みたいなひともいるし、色とりどりだわ。おしゃれなスーツみたいなひともいるし、教科書とかで見た古代ローマだっけ?、トーガ?、んーよく分からん、間違ってるかもしれないけど、とにかく布をたっぷり纏って帯でとめてて肩に飾り布をかけて留めてある、とかそんなの。
あとは映画で見たような、錬金術師みたいな?、魔法学校の先生みたいな?、いや何となくそんな雰囲気がする服装のひとが居るってだけで、合ってるかなんてわからん。
そんな中、俺この灰色の地味な格好なんだけど、いいのかな?
ここは領主の館、だと思ってたけどここって行政府みたいなもんだったのね。そんであのざっと見て1500人ぐらいいた人たちは、ここの職員さんたちだったわけで、つまりは光の精霊の里の、政府や軍――あるとのこと。魔物や警備のためなんだってさ――に所属するひとたちなんだってさ、道理で街の人たちは生成りの服装じゃなかったわけだよ。
到着したときに見た生成りで揃いの服装は、制服みたいなもんなんだってさ。
ついでに言うと俺が着せられたこの服は、賓客用なんだそうな。
言われてから魔力をさぐってみたら、みなさんの制服やこの俺の服も、きっちり目立たないように魔法陣が編みこまれていて、パッシブソナーにちゃんと固有の反応があったわ。
ここに来てから緊張してたり驚いたり恥ずかしかったりで焦ってて、そんな反応に注意することなかったわ。うっかりさんだよね。
パッシブで魔力感知できるようになったときに、リンちゃんに、『いついかなる時でも、物を見たり聞いたりするのが自然なように、魔力感知も感覚の一部ということを忘れないでください』って言われてたの忘れてたよ。
なるほどなー、ここは善意のものばかりだから助かってるけれど、もし悪意あるものがいる所だったら、ヤバいよな。そういうことなんだよ。しっかり心のメモに書いておこう。
あ、ついでに言っておくと、パッシブで魔力を感知できるというのは、言わば、第七の感覚――第六感があるとしてね――みたいなもんなんだよね。だから後ろが見える。
いくら音を出さずに、そして見えない場所や見えにくい服装などで忍び寄っていても、生物は全て多かれ少なかれ魔力をもっているので、それを感知するというのは自然に周囲の様子がわかるということに繋がるんだ。
もちろん、魔力を漏らさないようにする技能や魔法も存在するらしいので、油断はできないのだけど、少なくともそういったのを除いて、周囲が見える、そして何か効果のある装備や魔法がかかっている物がわかるというのは、身の安全に関しては重要なことだと思う。
とくに魔物が存在するこの世界では、ね。
ところでその、魔力を漏らさない技能や魔法、については、その部分だけがぽっかりと空白になるというのがわかったりする。
無生物や地面って、そうであるというのが、んー、何て言えばいいかな、そのものが光っていなくても周囲の光の反射などがあって照らされているから物が見えるよね?、そういう感じでそこにあるっていうのがわかる。
ところがその魔力を漏らさない技能や魔法では、技能のほうは試してないけど、魔法のほうはそこだけ、周囲の光すらも反射せずに吸収してしまうような暗黒の範囲ができてしまうので、違和感がすごい。逆に目立つっていうかね。
これ、リンちゃんに――長い詠唱だった――使ってもらったときに気付いて、言ったら驚かれた。
「タケルさますごいです。普通はわからないんです。でもタケルさまには『無いことが存在する』ということがわかるのですね!」
と、褒められちゃったよ。調子に乗ってそのへん練習しまくったので、今回みたいに忘れたりうっかりしてない限りはちゃんとわかる。
でもなんだかさ、無いことが有ることがわかる、なんて哲学的というか宗教概念みたいで面白いよね?
なんだっけほら、仏教?、禅?、禅問答だっけ?、片手で拍手とかそんなの。だっけ?、よくわかんないけどそんなやつ。指パッチンじゃん?、って思ったけど、そういうことじゃないんだっけね。
まぁいいや。
横道にそれまくった。
とにかく晩餐会だよ。
楽師さんたちが、元の世界にあったような楽器や、見たこと無い楽器を奏でているなか、アリシアさんの挨拶が一言だけあって、みんな立食パーティみたいな雰囲気。
俺のところにも入れ替わり立ちかわり挨拶に来てくれている。
さっき言った、ここが行政府っぽいところだっていうのも、それらの人たちの肩書きや名前――覚えきれません、ごめんなさい――を聞いてやっとわかったってところ。元の世界の大臣職や官僚のまとめ役のようなひとたちが、ぞろぞろ挨拶してくれるんだよ。最初のうちはたぶんぎくしゃくしてたろうなー、だって元の世界だと考えられないことだもんね、しょうがないよ。
考えるのをやめてからはちゃんと挨拶を返せたと思う。たぶん。
自分がそんな対象の人物だとは全く理解できてないし、勇者だって12人いて、何人かは回復中で寝てるけれど、俺が最後らしいから他の11人は全員先輩なわけだし、言ってみりゃ俺って勇者の最下位だよ?、下っ端だよ?、勇者ってのがこの世界ですごい地位?、権威?、肩書き?、があるんだとしてもさ、街で話した今までの人たちのうち、腰が低かったのって、精霊様たちぐらいなもんだよ?
あ、防具屋さんや服屋さんは普通に未来の上客相手みたいな態度だったけど。そういうのは話が別として、ね。
領主代行はやる気のない事務的な言葉だったけど態度は普通に偉そうだったし、グレンさんだって普通に年下相手みたいな口調と態度だったしさー。
ツギの街――あれ領都だったらしいよw、勇者の宿の村にあるのは仮の館、別荘なんだってさ、堀とかあって防衛拠点みたいだったけど、そのまんま砦みたいなもんらしい――の武器屋のおっちゃんだって、あんな態度だったし。
兵士さん他大抵のひとたちは市民?、平民?、の相手をするような普通の態度だったんだもん、勇者がそんなに地位のあるものだって、わかんなくても仕方ないよ。
でも精霊さんたちにとっては違うんだそうな。
彼等彼女等からすると、勇者ってのは神、この世界を創りたもうた上位存在、から遣わされた、言わば神の御遣いなんだってさ。
神様なんて会ったこともなければ話したことなんてないし、元の世界だと日本人ってのもあって、宗教なんて生活哲学みたいなもんで、そもそも人が作ったもんじゃん?、っていうような感覚があるし、日常生活であれやこれやの宗教イベントがごっちゃに存在してても違和感がない環境だったんだもん。
そんなこと言われてもピンと来ないよね。
だから話をきいても『はぁそうですか』的に返事する程度で、実感なんて俺自身のことなんだから、中身は元のままだしさー、自覚なんてないんだもん、それでいて業績や実績もない。
俺がやったことといえば光の精霊アリシアさんとリンちゃんに出会って水の精霊ウィノアさんに出会って、俺ブレンドの燻製を光の精霊さんに広めるきっかけを作ったことぐらいなんだよ。
自覚なんてできるわけないじゃん?
でも精霊さんたちにとってはそうじゃない。
勇者が神の御遣いである以上、余程のマイナス要素がその勇者当人に無い限りは、精霊が協力しないことはありえないらしく、そうすると、今後の業績は約束されたようなものなんだそうな。
さらに言うと、この世界に来て1年と経たずに光と水の精霊に、密接な関係を結んだというのは過去にない、前代未聞のダッシュスタートらしい。
先輩勇者たちに対しては、精霊さん的には、『義務だから協力はするけど、好きこのんで関わりたいわけではない』というスタンスらしい。一体何したの?、先輩勇者さんたち。
でも俺の場合は、光の精霊さんたちにとっては、『義務なんて関係ない、タケルさまは好感がもてるので何が何でもお手伝いがしたい、できれば側に仕えたいが長の娘であるリン様が既に就いておられるのでそこは遠慮するしかない』という、なんか好感度ぶっちぎりなんだけど、どういうことなの?、って感じだよ。
これ、燻製パワーだけじゃ説明つかないんだけど…。
●○●○●○●
挨拶の波が段落したようなので、腹も減ってたし気になって仕方がなかった料理を楽しもうかなーって、それでめぼしいものをちょっとずつ取り皿にとって、モモさんたちのいるテーブルが近かったのでお邪魔することにした。
他のテーブルで食べている精霊さんたちは、普通と言うか、笑顔で会話してたり美味しそうに食べたりしている雰囲気なんだよね。
でもなんだかモモさんたち4人は、なんとなーく物足りないようなそんな表情。
- 料理、普通に美味しいですよね。あれ?、どうしたんです?
「今朝の、マヨネーズの衝撃が強すぎて少し物足りないんです」
「タケル様、マヨを使う許可をください!」
「そうです、タケル様からアリシア様に頼んでみてはもらえないでしょうか?」
「美味しいのは美味しいんですけど…、ねぇ?」
順に、モモさんベニさんアオさんミドリさんね。
いやちょっと待って、晩餐会に呼ばれてマイ調味料じゃないと物足りないからってそれを使っていいか許可とってこいって?、それって失礼にあたらないの?
- え、いやそれ、失礼になったりしません?、大丈夫なの?
うーん、話の持って行き様かなぁ…。
リンちゃんに目で確認したら、頷いたんで、たぶんいけるってことかな、やってみるか。
話をしてみると、異様な食いつきを見せるアリシア様。
「まぁ!、タケル様が作られた調味料ですか!?、大変興味がございます!」
「今朝私達が味見をしたところ、それはとても素晴らしく、アリシア様もきっとお気に召されるのではないかと思いまして…」
ついでに乗っかってくるモモさん。ついてきてたのね。
そして声が聞こえていた周囲の精霊さんたちが幾重にも周囲をかこむ。
え、音楽やんじゃったよ?、なにこれ…。
あ、アリシアさんの声、初めて直接聞いたよ。いままでのは念話みたいな感じで頭に直接響くみたいな声だった。水の精霊ウィノアさんもそうだったけどさ。
それでリンちゃんがとりだしたマヨ壷。フタを外して、横手から大きめのスプーンを渡されて、ひと掬い取り皿にとり、アリシアさんに手渡す。
「これを、どう使うのですか?」
「サラダから肉料理まで、何にでも付けて召し上がれます。タケルさまの燻製との相性が特に素晴らしかったです」
あ、俺もう喋らなくてよさそう。
そして取り皿に近くの料理を盛りつけたものが横から差し出され、とても優雅な仕草でフォークとナイフを操り、マヨを付けて食べるアリシアさん、そしてその一挙一動を見つめる周囲の精霊さんたち。
なんかどんどんみんな集まってるんだけど…。
『美味しいです!、初めての味です!、このまったりとしてしつこくない調味料が、油分のあるものにも無い料理にも、この爽やかな酸味と包み込むやさしい塩味と甘味の調和!!、これはすごいです、タケル様が考えられたのですか?』
- いえ、これは元の世界の、
「そうなんです、タケルさまはすごいんです!!、細かな気配りで吟味した素材の力を如何なく発揮させちゃうんです!」
いやちょっとリンちゃん煽らないでくれるかな?
- そんな大げさなものではなくですね、
『素晴らしい、さすがは勇者タケル様です!、このような手土産までご用意されていたとは!』 「これもタケルさまがお作りになられたのですか?」
- いいえ、作ったのはモモさんたちです。
「私たちはタケル様のご指導された通りにお作りしただけです」
「そうでしたか!、みなさんも是非試してみてくださいな」
と、アリシアさんが言うと、いつの間にか俺の後ろにテーブルが出ていて、その上にマヨ壷が早速置かれていて、そこに周囲の精霊さんたちが行儀良く列を作っていた。
手際いいな!、そしてほんっと精霊さんたちマナーいいな!、こういうのって何っていうんだっけ?、民度が高いっていうんだっけ?
あっ、これ壷7つで足りるのかな…?、うぉっ、またテーブル増えてる!
結果的には大好評だった。
皆さんこぞって何の料理にでもつけてみて食べていたけどさ、個人的にはそんなあれこれ全部につけちゃったら、全部マヨの味交じりじゃん?
いやまぁ?、それぞれの好みだからいいけどね?
そしてやっぱり壷7つじゃ全然足りなかった。
なので作り方を大雑把に説明して、詳細は実際に作ったモモさんたちに丸投げしたけどさ、料理人っぽい精霊さんたちがそれを聞きながら作ってすぐ味見してたんだよね。
大丈夫かなぁ、って思ってちょっと尋ねてみたら、そういった雑菌の心配は要らない卵らしい。
何の卵だろう?、俺も味見させてもらったけど、クラダチョウの卵とはまた風味が違っていて、癖のないいいマヨだった。
一応、元の世界の調味料であって、断じて俺が考案したわけじゃないってこと、念を押しておいたよ。だってさー、やっぱり偉いのは最初に作ったひとだもん。
あとは、そこに香草を混ぜるとか、香辛料を混ぜるとか、そういう派生品の話もしておいたよ。今後が楽しみだね!
(作者注釈)
タケルは勇者の宿にいた兵士、グリンの事を間違えて覚えています。そしてそのうち忘れます。
20220317:訂正 召させる ⇒ 召される





