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4ー050 ~ お世話

 一体何がクリスさんを跪かせ、彼女たちが椅子から降りて宗教的姿勢で頭を下げたのか理解できないけど、何とか説得して席に着いてもらった。

 クリスさんの腕を引っ張り上げて立たせ、その手を引いて席まで誘導した。

 そりゃね、反抗されるよりは断然いいよ?、素直に言う事を聞いてくれるし質問すれば答えてくれるんだろうから。でもこれはこれで疲れる。


 とにかく彼女たちには改めて名乗ってもらった。

 その時に俺の名前を恐る恐る尋ねられたので、タケルだと名乗っておいた。さっき『タケル様』ってウィノアさんに言われてたのを聞かれていたはずだからね。


 それでその青黒いひと、クラリエさんがクリスさんの事について話すのを聞いた。


 どうやら黒鎧は人形であって、中身はクリスさんだけどクリスさんの意識体を封じているだけで、クリスさんの身体は別の場所にあるんだそうだ。

 だいたいテンちゃんが言っていた内容で合っているようだ。


 まぁ、つまりは黒鎧はクリスさんの身体能力、いやそれ以上を出せる魔道具であり、彼の経験や能力を使うために意識体を移され封じられたものであるということだ。


 クリスさんの身体がある別の場所というのを説明しようとしていたけど、今それを聞いても地理的な位置も地名もわからないので聞いても意味がない。だからそれはあとでいいですと遮った。


 人形状態の損傷を修復するには素材と魔道具が必要だそうで、それらはアリエラさんが肩から提げている、今は膝の上に置いているようだけど、その魔法の鞄(ショルダーバッグ)に入っているんだそうだ。


 …だから腕をぶった切られても直せたのか。


 今はその魔法の鞄(ショルダーバッグ)が壊れてしまって使えなくなっているのが心配だとも言っていた。

 魔法の鞄というのは伝説級のアイテムなので、修理ができる者など居らず、伝承では壊れたら中身が全て現出するとか言われていたらしく、取り出せなくなるとは思っても居なかったんだと。

 中には大事なものが多く入れられていたし、彼女らの食料や着替えも含めて国元へと帰る際に必要な物資が取り出せないのは死活問題らしい。


 光の精霊さん(リンちゃんたち)に預ければ元の空間に繋いで元通り使えるようになると思うけどね。


 あと、人形の労働力も現状では使えないし、前衛にもなれない。戦力としても当てにならない。動きが緩慢になってしまったのでは旅の荷物以下になってしまった、と。


 良かったね、あなたの言葉がクリスさんに届かなくなっていて。

 もしクリスさんが聞いていたなら、殴りかかられても文句を言えないんじゃないかな。現状の黒鎧の動きなら、大して痛くないだろうし常人でも避けられるだろうけど。


 それでその、現在の黒鎧の状態についてだけど、『魔法が解けかけているのでございます』というわけで、魔法の鞄(ショルダーバッグ)から魔道具が取り出せない現状ではどの程度壊れているかすらわからないらしい。つまり手の施しようがないという事だ。


 今ここで言える事を整理しよう。

 (1)アリエラさんが膝に乗せている魔法の鞄(ショルダーバッグ)を直す。

 (2)黒鎧が直るかどうか調べてもらう。

 (3)クリスさんを解放できるならしてもらう。

 という事だろうか。


 1については俺が預かってリンちゃんに頼んでみようと思う。というかそれしか無い。

 2は、黒鎧を俺が運ぶだけならいいけど、テンちゃんと一緒はまずそうなので、不自由だけどここで待機してもらう事になる。

 クリスさん自身はお腹も空かないみたい。口も無いから食べる事もできないんだけどね。


 ふと、魔力供給とかどうしてるんだろうって思って尋ねると、1日1回、魔道具で供給していたらしい。なるほど、全部魔法の鞄(ショルダーバッグ)の中か…。

 それでどれぐらい持つのか訊いてみると、無補給だと4・5日が限界じゃないかという事だった。しかし現状では壊れているようなので、何とも言えないんだってさ。それもそうか。


 結局のところ、俺が一旦ちょっとハルトさんたちに報告に行って、リンちゃんに鞄を預けたり相談したりし、鞄が直るまでの間はここで待っててもらう他は無さそうだ。


 と言うのを彼女たちに説明したところ、『鞄が直るのですか!?』と驚かれた。

 それもそのはずで、彼女たちにしてみれば、現在そこから取り出して使っているテントの防水布といくつかの薪と昨晩使った毛布しか無い状態で、水は何とかなるにせよ、お金や食料から何から何まで全部魔法の鞄なので、それが取り出せないなら旅を続けられる状態では無いんだそうだ。確かに死活問題だ。

 だから逃げようなんて全く考えもしていないんだと。


 ついでに、身に着けていた護符や魔道具も、魔法発動の補助具である指輪や腕輪なども全て壊れてしまっていて、何の効果もない服、裸同然だと言ってたけど、それで魔法を扱うにも詠唱時間が補助も無くいつもより長かったりで、もし獰猛な野生動物や魔物、他には野盗なんかと遭遇したりしても戦う術が無いんだってさ。


 「タケル様の御慈悲に縋る他はありません」


 言葉ではそうだったけど、どこへ連れて行かれようとも抵抗する意思はありません、って意味なんだろう。むしろ放置されると飢え死に確定だそうだ。


 俺としては黒鎧のクリスさんにここで一旦待機していてもらうつもりなので、彼女たちを連れてってしまうとクリスさんが哀れでならないわけ。

 ハルトさんには、『できれば全員捕らえて来て欲しい』って言われてるんだけどね…。


 絶対言わないけど、テンちゃんが一緒だからなぁ…、小さい元の姿――俺からするとそうなんだよ――に戻って魔力放出を抑えてくれればまとめて連れて行けるんだけど、その姿を彼女たちに見せたく無いようで、戻ってくれないんだよね…。

 何だか、狼と羊を船で対岸に渡すとかいうパズルを思い出したよ。


 まぁここで待機していてもらうためにもあのテントの中を見せてもらったんだけど、形としては柱がありストーブがあり、煙突があって防水布の屋根がある。部屋としてはこのままでも使えそうだった。

 でもストーブがひび割れていて、ちょっと指で押すとぼろっと崩れてでっかい穴が開いた。

 中央の柱だが、黒鎧が凭れていたらしい箇所に少し跡が残っていて、軽く触れてみたが表面がぼろぼろ崩れるだけで一応しっかりとしていたのは太さがあるからだろうか。


 周囲の、布を支えていた柱は、クラリエさんが手でちょっと押した箇所がぼろっと崩れ、その1本がそこから折れてクラリエさんに倒れてきたので急いで障壁で支えた。

 『あ、ありがとうございます、助かりました…』と言ったが、さっと腕をひいてテントから出た。出た直後にストーブの煙突が完全に崩れ落ちてすごい音がした。危なかった。お礼より先に逃げようね?


 そんなわけで、俺が作った土台のところをそのまま小屋にすることにした。とりあえず寝室や調理ができる場所、それとでっかい浴槽と浴室も作ったよ。トイレはまぁどこか外でやってもらえばいいかと。穴だけあけておいた。

 そういう処理をする魔道具も、壊れた魔法の鞄(ショルダーバッグ)の中だそうだ。


 残念ながらその魔道具は無いけど、それ以外、鍋などの調理道具や保存の効く食料なども出しておいた。寝具は持ってないので、テントから回収した毛布に加えて人数分の毛布とタオル類をどっさり出した。


 俺の後ろから黒鎧以外がぞろぞろ付いてきていて、そのどっさり出したタオルにめっちゃ喜んでたよ。すぐ注意されて静かになったけど。

 そうそう、最後に浴槽へお湯を出したときと、石鹸と洗髪用品を出して説明したときも何か喜んでた。桶が土魔法製なのは許して欲しい。まぁ重いけど持てない重さじゃ無いだろう。小型の手桶も作ったし、取っ手もついてるしさ。例によって『お鍋…?』って誰かが言ってたけど、桶だからね?






 これで2・3日は余裕で過ごせるだろうと、アリエラさんから魔法の鞄(ショルダーバッグ)を預かり、『じゃあここで待ってて下さい』と言おうと入り口のほうへ下がったら、おずおずと『あの…、タケル様』とクラリエさんから声をかけられた。


- 何か足りませんでした?


 「いいえ、滅相もございません。これほど良くして頂いて感謝しております」


- はぁ、それは良かったです。


 「あの、御神様はあちらに居られるのでしょうか?」


 と、もう家の外になってて直接は見えない、テンちゃんが飛行結界で浮いている方向を手で示して言った。


- あっはい、そうですよ?


 「ひと目、お姿を拝見できませんか?」


 んー、どうしようか…。


- 護符とか壊れてしまってるんですよね…?


 「はい…、(つたな)いものでお恥ずかしいのですが…」


 ふと見るとおひい様と言われていたヒースなんとかさんたち6名が並んで立ったままこちらの様子を窺っている。不安そうな表情なのは、どっちで不安なのかわからないけど。


- うーん、見るのはいいんですけど、あの結界を解いてしまうと、皆さんあまりの神々しさで気を失ってしまうでしょうね。


 「……」


 まぁ、やりようはあると思う。

 黒鎧のクリスさんだけはちょっと離れててもらわないと危ないかも知れないけど。


- それを僕ひとりで運ぶんですか?


 「……」


- みなさんもイヤでしょ?、僕も困るんで、見たいという気持ちは理解できますけど、我慢して下さい。


 「……タケル様、御神様にすら様付けでお呼ばれになる貴方様になら、何をされても全てをお見せしても何ら恥とも思いません。若い娘がご所望でしたらあれらを説得致しますし、(むし)ろ進んでお情けに縋る事でしょう」


 その5名が胸元で両手を組んでうんうんと頷いているのが感知でわかった。

 一体どこからそういう話に…?

 そんな意味で言ったんじゃないんだけどなぁ…。


- あ、いやちょっと待って、


 「はい」


- そういうの求めてませんから。


 「失礼致しました。私どもが犯した罪への御裁きがどのような形であるにせよ、私どもは粛々と受け入れる所存でございます、と申し上げたかったのです」


- はぁ、お裁きですか?


 あれ?、何かまた話が妙な方向に…。


 「はい。まるで捕らえた者たちを吟味するかのようにお調べになったではありませんか」


 お裁きや吟味なんて言うから脳裏で時代劇によくある白洲でのお裁き風景が…。


- いえ、そういうつもりでは…、どういう経緯で現状どうなのか、というのを知る以上の意味はありませんよ?、あ、逆にちょっとお尋ねしますが、


 「はい」


- いま、犯した罪と仰いましたね、それはどういう罪でしょうか?


 「それはもちろん、御神様のお怒りに触れてしまった事です」


- はい、そこを詳しく。


 「……求めておられない生贄を捧げてしまった事です」


- そうですね。でもそれは国家間の事情によるものですし、僕やヌル様には無関係です。


 「ではどうして…」


- どうして怒ったか、ですか?、あれは怒りじゃないんですよ、哀しみなんです。クラリエさん、さっき言いましたよね、求めてない生贄、って。


 「はい」


- ヌル様は、今まで一度たりとも生贄なんて求めた事は無いんだそうですよ。なのに人々は勝手に勘違いをし、宗教対立や戦争を起こし、多くの命を散らし、それを神々の宣託だと言い、正当化します。平和的な繁栄を好み、信者を見守る神々からすれば嘆かわしく哀しい、そう思われているとは考えませんか?


 「……そう…、なのですね…」


- 今回、多くのアリザン兵の命を奪った事について、僕たちは貴女たちに罪を問いませんし裁いたりもしません。許すとか許さないとかではありませんよ?、そういう役割はそういう役を担ったひとたちがする事であって、僕のする事では無いからです。


 精霊さんたちからすると哀しい事だけど、だからって手を下しはしないだろう。人種(ひとしゅ)を保護はするけど、干渉はしないのが基本的スタンスだからね。


- 今回の事件は、発端としては国家間の問題です。国家間の争い事は、国家間で何とかして下さい。国内の勢力争いについても同様ですね、国内で何とかして下さい。


 今ここの人たちには言っていないけど、俺は勇者でもあるので、助けを求められれば助けたいとも思う。でもどちらに正義があるかなんてわからないし、両方に正義があるかも知れないんだ。というか片方の立場では正義でも他方からすれば悪だったりするもんだ。


 そんなとこに踏み込んで、どっちかに肩入れするなんてできないよ。


 そりゃ目の前で起こる危機を救うぐらいはするさ。だって傍観して悲惨になったら後味悪いじゃんか。

 でも全部は救えない。こないだのアリザン兵がいい例だ。間に合わない事だってある。今でも夢に見るけど、しょうがないじゃないか。


 亡くなったアリザン兵たちは気の毒だとは思うけど、とりあえず現状のクリスさんについては元に戻してあげたい。その程度のものだ。






 テンちゃんをひと目見たいという話が有耶無耶(うやむや)になっちゃったなーって思ってたら、ふと、テーブルの席に着いたまま大人しくしていた黒鎧、クリスさんが片手を軽く挙げて合図をしているのに気が付いた。


- あ、クリスさん、何でしょう?


 やっと気が付いたか、というような雰囲気で頷いたあと、ゆっくりと立ち上がってから自分を指差し、別の手で俺を指差し、その両手の人差し指を立てたまま揃えて右から左に…?


- あ、クリスさんも連れて行けって事ですか?


 頷くクリスさん。

 やっとまともに伝わるジェスチャーが…。


 って、あなたその喋れない姿で会ってどうするんですか…。


 とにかく現状、クリスさんが宿ってるその黒鎧は壊れかけみたいな状態にある事、強い魔力の影響によってさらに壊れてしまう恐れがある事、そうするとクリスさんの意思が宿っているということ自体に影響があるかも知れず、とても危険なんだという事を伝えた。


 それを聞いた黒鎧クリスさんはがっくりとした様子で肩を落とし、しぶしぶ諦めてくれた。






●○●○●○●






 「はぁ…、行ってしまわれましたね…」


 タケル様と仰る御方があっさりと建てて下さった家、その入り口に垂らされている布を片手で寄せ、少し見送っていたクラリエ様がその手を戻し、私たち銘々が疲れた様子で席に着いている方へ近付きながらため息を吐き、おひい様に話しかけました。


 「ああ、お前が御神様をひと目見たいなんて言った時にゃ、どうなるかと思ったよ…」


 そうです。あの時は私も内心びくびくとしていました。

 あのような魔力圧、それが障壁無しで解き放たれたら、身を護る手段の無くなってしまった私たちには耐えられそうに無いからです。


 「そうですよ、クラリエ様は大丈夫かも知れませんけど、あたしたちの事も考えて下さいよ…」


 セリオーラがテーブルに伏せていた頭をがばっと上げて言いました。

 私の隣でうんうんと頷いているのはイイロラ、サラドナもセリオーラの向こうで頷いています。


 私たちはいつも、特に決めている訳では無いのですが、私ことアリエラ、イイロラ、セリオーラ、サラドナ、チェキナの順で並び、座ります。これは魔導士としての序列とは無関係で、何となく仲のいい順と言いますか、自然とそういう並びになっていたのです。


 「すみませんでした。私も少し迂闊だったと、言ってから気付いたんです」


 クラリエ様は頭を下げながら、おひい様の向かいに座りました。


 「そうかい。しかしタケル様と仰ったか…、何とも世界は広いもんだね、あのような御方が存在するなんてね…」

 「そうですね、水の精霊様を召喚されてましたね…」


 と、おひい様とクラリエ様が話されている(かたわ)ら、こそこそとセリオーラとサラドナも話をし始めたようです。


 「水の精霊様、凄く綺麗だったね」

 「うんうん、きらきらしてて、何かいい香りが漂ってきてたね」

 「夢みたいだった…」


 一番端のチェキナがテーブルに身を乗り出して言ったので私にも見えたのですが、少し見えたその頬が少し赤くなっていました。普段あまり表情変化に乏しい印象がありましたが、そんな彼女でも興奮する程、印象深い出来事だったのでしょう。

 かく言う私も、あのような幻想的な場面を見た時には、畏怖を覚えるとともに感動に打ち震えました。もっとしっかりと目に焼き付けておきたいのに、涙が溢れてぼやけてしまうのがじれったく思う程に…。


 「あのタケル様も凄かったね。御神様の所から飛んで降りて来られて、ずっと浮いてたし」

 「この家もあっさり建てちゃって、全然疲れた様子なんて無かったね」

 「タオルって言ってた、手拭いがふわふわで柔らかくて幸せだった」

 「ああそうそうあれね、お風呂が楽しみね」

 「お腹も空いたよね」


 そんな彼女たちに気付いたのでしょう、おひい様とクラリエ様は話していたのをやめ、こちらに声をかけられました。


 「お前たち、それだけ喋れるなら食事の支度をしな。それと、折角タケル様がご用意なさったんだ。私は後でいいから順番に風呂に入りな」

 「「「はい」」」


 目線で頷き合い、私たち5人が席を立ちました。


 「じゃあアリエラとイイロラは先にお風呂行ってて、私たちは食事の用意をするよ」

 「わかりました」


 セリオーラが私が何か言う前にさっと差配しました。

 私が返事をし、イイロラが頷いて浴室へと行きます。


 「あ、黒ちゃんはどうしよう」

 「黒ちゃんって言うとまた叱られるよ?」

 「どうしよう、って?」

 「汚れてるから拭いてあげようかなって…」

 「じゃあそうしてあげたら?、チェキナは私と台所に来て」

 「わかった」


 どうやらそういう話になったようです。

 クラリエ様のほうはおひい様の隣に行ったようです。


 「おひい様、少しお休みになられては…?」

 「ああ、そうしたいと思ってたところさ。ところでクラリエ」

 「はい」

 「もう(お前を縛っていた)魔道具()は無いんだから私の世話を焼かなくてもいいんだよ」

 「何を仰いますか、私はそんなものでおひい様に従っていたわけじゃありませんよ?」

 「クレイオール家から何か言われたのかい?」


 クレイオール家は、表向きでは血縁のあるおひい様に支援していますが、現当主であるクラリエ様の御父君がどうも竜神教に傾倒し始めているご様子で、何かと娘であるクラリエ様を呼び出していたのです。


 「違いますよ、それは確かにおひい様は父の従姉ですし、父からもいろいろ言われて育ちましたけど、魔導師の道を志した私にとって、そんな事はどうでもいいんです」

 「じゃあ」

 「おひい様に付いて来た事で、あのような奇跡を目の当たりにできたんですよ?、それに御神様の御力、伝承の通りだったじゃないですか」


 そうです。あの光景は忘れもしません。

 何て神々しく美しい情景だった事でしょう。本当に伝承の通りで、私もおひい様に付いてきて良かったと心から思っています。そしておそらくは他の4人も。


 「あ、ああ」

 「そりゃ一部間違っていた事もありましたけど、それは今後改めて行けばいい事です。なら、私は今まで通り、おひい様にお仕えするだけですよ」

 「お前、今まで私がお前を縛っていた事は」

 「そんな細かい事はどうだっていいじゃないですか、さぁ、詰まらない事でくよくよしないで、少し横になりましょう。魔道具の補助も消えたんですからお疲れでしょう?、食事ができたら起こしますから、さぁ、さぁ」

 「あ、ああ」


 扉も無く布が垂らされただけなので、脱衣所でもよく聞こえましたが、おひい様とクラリエ様のご関係も心配するような事にならずに、ほっと安心しました。


 「よかった…」


 脱ぎかけのまま止まって聞いていたのでしょう、イイロラが小さく言って目元を拭いました。

 私も同じ気持ちです。


 「でも…、魔道具で縛られていたなんて、知らなかったわ…」


 私がそう小さく呟くと、イイロラが私の肘に手を添えて言いました。


 「大したこと無いって、いつでも破れるって言ってたの」

 「えっ?」


 王族が他者の行動を縛る魔道具を?


 「急がないと、順番だから」


 さっさと残りを脱いで棚の籠に置くイイロラ。


 いつもの事ですけど、イイロラは私にだけは言葉が足りないと思います。






次話4-051は2021年03月12日(金)の予定です。


20210313:衍字削除。 話しをし始めた ⇒ 話をし始めた

  名詞的使用時には送り仮名不要でした。

20210827:語句訂正。 魔導師 ⇒ 魔導士

  ベルクザン王国では明確な区別基準があるため。



●今回の登場人物・固有名詞


 お風呂:

   なぜか本作品によく登場する。

   あくまで日常のワンシーン。

   ここから入浴シーンってところなのに…!


 タケル:

   本編の主人公。12人の勇者のひとり。

   チェキナから、タオル様と呼ばれる未来が…?


 リンちゃん:

   光の精霊。

   リーノムルクシア=ルミノ#&%$。

   アリシアの娘。タケルに仕えている。

   今回名前のみで出番無し。


 テンちゃん:

   闇の精霊。

   テーネブリシア=ヌールム#&%$。

   後ろの部分は精霊語のため聞き取れない。

   リンちゃんの姉。年の差がものっそい。

   すぐ近くにいるのに出番が無いw


 ウィノアさん:

   水の精霊。

   ウィノア=アクア#$%&。後ろの部分は精霊語。

   一にして全、全にして一、という特殊な存在。

   今回は名前だけの登場。


 アリシアさん:

   光の精霊の長。

   全精霊中最古というような存在。実は凄い精霊(ひと)

   だいたい名前くらいしか登場しませんが一応。


 ハルトさん:

   12人の勇者のひとり。現在最古参。

   勇者番号9番。オオミヤ=ハルト。

   ハムラーデル王国所属。

   およそ100年前にこの世界に転移してきた。

   『フレイムソード』という物騒な剣の所持者。

   今回名前のみの登場。


 カエデさん:

   12人の勇者のひとり。

   勇者番号10番。シノハラ=カエデ。

   この世界に転移してきて勇者生活に馴染めず心が壊れそうだったが、

   ハルトに救われて以来、彼の元で何とか戦えるようになった。

   勇者歴30年だが、気持ちが若い。

   でも言動はタケルからするとちょっと古臭い。

   お使いで走ってます。

   ゆえに今回もまた出番無し。


 ロミさん:

   12人の勇者のひとり。

   勇者番号2番。マサダ=ヒロミ。

   現存する勇者たちの中で、3番目に古参。

   現在はアリースオム皇国皇帝を名乗っている。

   今回も出番無し。


 クリスさん:

   12人の勇者のひとり。

   勇者番号5番。クリス=スミノフ。

   現存する勇者たちの中で、4番目に古参。

   だけどロミがなかなか起きなかったため、起きたのはクリスのほうが早い。

   黒鎧には彼の意識が宿っているだけで、身体が入っている訳では無いらしい。

   喋れないってつらいですよね。

   待つしかないと諦めた様子。


 コウさん:

   12人の勇者のひとり。

   勇者番号8番。ヨシカワ=コウイチ。

   現存する勇者たちの中で、5番目に古参。

   コウがこの世界に来た時には既に勇者たちは各国に散っていた。

   アリースオム皇国所属。

   今回も出番無し。


 アリースオム皇国:

   カルスト地形、石灰岩、そして温泉。

   白と灰の地なんて言われてますね。

   資源的にはどうなんですかね?

   でも結構進んでる国らしい。


 トルイザン連合王国:

   ハムラーデル王国の東に位置する連合王国。

   3つの王国があり、数年ごとに持ち回りで首相を決めていた。

   クリスという勇者が所属している。

   3つの王国は西から順に、アリザン・ベルクザン・ゴーンザンと言う。


 アリザン王国:

   アリザンはイアルタン教ではない精霊信仰で統一されている国です。

   他教を許さない宗教ですが、例外的に、

   同じ教えが多くあり、経典が同じイアルタン教の存在を許しています。

   ゆえに、イアルタン教の勇者であり古参のハルトに対しては、

   尊敬と信頼があります。


 ベルクザン王国:

   宗教はいくつもあって、複数所属してもよいという国。

   そのせいで、アリザン王国から目の敵にされています。

   政治的にはそうではなく、ベルクザンからトルイザン連合王国としての

   統一王を多く輩出していたり、国力自体もベルクザンの方が上であるため、

   宗教問題が無ければベルクザンのほうが強いです。

   軍事的にも文化的にも。


 おひい様と呼ばれる女性:

   ベルクザン王姉。ヒースクレイシオーラ=クレイア=ノルーヌ=ベルクトス。

   クレイアというのはクレイオール家出身の前々王妃が生んだ子だから。

   その前王妃は彼女を生んでしばらくして亡くなってしまった。

   現王はその6年後に嫁いできたイハネス家出身の前王妃から生まれた。

   腹違いだけど、8歳差でもあるし仲は良い。

   現在のクレイオール家当主とは従姉弟の関係。


 クラリエ:

   ベルクザン王国、筆頭魔道師。

   クラリエ=ノル=クレイオール。

   タケルに名前を憶えてもらえるまでは、青黒いひとと表現されていた。

   一応、おひい様とは縁戚関係にある。

   クラリエからすると、おひい様は大叔母の娘にあたる。

   クレイオール家には一応、育ててもらった恩はあるが、

   貴族というのは家を重視するし、

   家を出て魔導師の道を進んだ三女ともなるとあまり支援をしなかった。

   自分が苦労した時期に家から見放されていたという思いがクラリエにはある。

   継承権を放棄しているし、クラリエは自分で稼げているので、

   クレイオール家とは関係が薄くなっている。


 容姿の揃った5人の女性:

   魔導士会所属の魔導士たちでした。

   クラリエの部下と言っても問題無さそうです。

   本編ででてくるかどうか未定ですが、ここで一応の解説をしますと、

   アリエラ=ノル=バルフカガー

     バルフカガー家はベルクザン王国の寒い地方に領地があります。

     つまりアリエラは貴族出身です。

   イイロラ=ノル=ジールケケナーリ

     ジールケケナーリ家は湖の(ほとり)に領都があります。

     イイロラも貴族出身。

   セリオーラ=ノル=パハーケサース

     パハーケサース家は、山林が豊富な地方にあります。

     セリオーラは貴族の従家出身です。

   サラドナ=ノル=パーガル

     バーガル家はサラドナが魔導士になった時に作った家です。

     ベルクザン王国では、魔導士として登録されると士族階級となります。

     バーガルという名前は、

     家が木こりで森の恵みを採取していたからだそうです。

   チェキナ=ノル=ネヒンナ

     ネヒンナ家もサラドナと同様、魔導士になった時に作った家です。

     チェキナはうっかり登録時に新家名称を記入しませんでした。

     故に役所のひとが勝手につけた家名です。

   『ノル』というのは、魔導士に登録され、元の家の継承権を

   放棄したという意味で付くものです。

   継承権を放棄していない魔導士も存在します。



 ※ 作者補足

   この登場人物・固有名詞紹介の部分全ては、

   あとがきの欄に記入しています。

   本文の文字数にはカウントされていません。

   あと、作者のコメント的な紹介があったり、

   手抜きをしたり、詳細に書かれているけど本文には

   無関係だったりすることもあります。

   ご注意ください。



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2019年05月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
なるほど。わかりません。
2020年01月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
同じやん。なるほど。やっぱりわかりません。
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