4ー049 ~ 黒鎧
――…眩しい…。
少し見回すとどうやら石柱で支えられたテントの中に居るようだ。
オレはその中心の柱に凭れて座っていた。
そこで見たい方向を自由に見れている事に気が付いた。今までのように切り取られたように闇に映る不自由な視界では無い。とは言え兜を被ったままなので狭いのは狭いが…。
手を持ち上げて兜を脱ごうとしたが、一体どうなっているのか脱げない。
それどころか面を上げる事もできない。どこかに着脱機構が…、と手で触れて探したがそれも無かった。
その手をじっと見てみた。指も動く。触れた感覚もある。だがこの篭手も外せそうに無いと気付いた。ぎゅっと握ってみた。握れる。ごつんと両拳をぶつけ合わせたが、その感覚はあるが痛みは全く感じられなかった。
はぁ…と、溜息を吐きたい気分で、立てた両膝にそれぞれの腕を乗せ、項垂れたが息が出ない。苦しくは無いが、息も吸えないのだから吐きようも無いかと無理やり納得する事にした。
オレはどうなってしまったんだ…?、考えたくは無いがこれじゃまるで動く死人じゃないか…。
――そうだ!、人形だ。オレを人形と言っていたあのいけ好かない女たちが居たはずだ!
そう思い、改めて見回したが誰も居ない。いや、外に気配がある。今までそれに気付かなかった事がどうかしているとしか思えない程の存在感だった。
オレは姿勢を変えてゆっくりと立ち上がり、腰に剣を帯びている事に気が付き、それを抜いた。
留め具も鞘も柄も、オレが馴染んでいた嵐の剣そのものであるため、自然な動作で抜く事ができたのが懐かしくも嬉しく思えた。
低い姿勢で剣を右手に提げ、左手で入り口の布を少し寄せて外を覗うと、正面にはあのいけ好かない女たちがいた。浅い水が覆う地面にずぶ濡れの見窄らしい姿で座っていた。
――あいつらだ…。何をしているんだ?
まさかあれがあいつらの行水か…?、とも考えたが、おそらく違うだろう。
ここからは見えないあいつらの正面方向、上に何かとんでもない物が居るはずだ。気付いてからずっとある存在感はその位置にあるものだとオレの感覚が警告しているからだ。
湿っていて重い垂れ布をさらに寄せ、低い姿勢のままそっと首を出してその存在感の正体を確かめ……!!
――あ、あれはあの時の…!
一瞬で思い出した!
大勢の無残な死体が周囲に見える中、さらに2人を包んで飛び去ろうとした黒い玉だ!
オレの腕を切り落とした奴だ!
ぐっと右手の剣を握り、高さを確認。地上から5m程だろう。ここからの距離は20mぐらいか、それぐらいなら余裕で届く。さっと踏み込んで飛び掛かれば。
それをその一瞬で目算し、実行に移そうとした。
……が、移せなかった。
――っく、重い!
走れないのだ。鈍々としか、それもバランスを崩してばしゃっと音を立てて倒れる始末だ。何と情けない…。
――くっ、このっ、動けっ!
起き上がる動作も遅い、遅すぎる。
「お――、に――!」
「あ――、し――、あ――こ――さ」
「な――、おん――、」
「か――つ――、ど――な――」
「あ――、そ――…」
藻掻くようにして何とか身体を起こそうとしていると、あの女どもが何か言っている音が聞こえたが、何を言っているのかほとんど聞き取れなかった。
「け――!、お――、き――!」
「き――、あ――き――、な――だぃ」
「で――で――お――け――け――、」
「わ――か――あ――ど――け――つ――」
「あ――、こ――、ど――!」
「お――!、く――く――く――と――」
「は――も――あ――」
「は――と――ご――」
「か――け――」
意味の分からない言葉というのはただの騒音のようなものだなと、頭のどこかで考えながら、右手以外の3本で這うように立ち、幼い子のように2本の足で立った。
一歩、また一歩、足首の感覚がおかしい。バランスを取るのがやっとだった。
――くそっ…、どうなってやがる…!
忌々しく思いながら足元を見た。水たまり程度の浅い水だ。足を取られるような深さでは無いし、泥濘で滑ったり埋まったりするわけでは無い。落ち葉で固められているような地面だ。水も濁っていない。
『あー、えっと、僕の言葉はわかりますか?』
――何っ!?、言葉がわかるぞ!?
はっと黒い玉を見上げた。
その動作でバランスを崩し、斜めに倒れ込む身体を両手でなんとか支え、水しぶきを飛ばしながら四つん這いの両膝と両手をついた格好になった。
そんな情けないオレに黒玉はさらに言葉をかけてきた。
『無理に立たなくていいです。楽な恰好でいいので、言葉がわかるなら頷いてもらえます?』
何と気の抜ける話し方をする奴だろう…。
オレは見上げて頷くしか無かった。
●○●○●○●
下の人たちの様子が落ち着いてきたので、そろそろ話の続きをしなくちゃ、って思ってたら彼女たちが出てきたテントの中で何かが動いたのを感知した。
何かってそりゃ残ってるのは黒鎧だけだったんだし、動いたのもそれなんだけどね。
感知しているその黒鎧の動きが何だか寝ぼけているような、それでいて頭をぺたぺた確かめるように触っていたりと、面白い動きと言ってしまうと当人に失礼かも知れないけど、そんな感じだったのでもう少し様子を見る事にした。
寄り添って俺の手首を掴み、むにゅっと二の腕に胸を軽く当てているテンちゃんは、青黒い服のひとが他の面々に回復魔法をかけているとき、途中で1度だけ視線を斜め下へちらっと送っただけだった。その後は俺が見ているテントのほうを一緒に見下ろしている。
それにしてもあの黒鎧、中身が無いぞ?
あ、いや、空っぽという意味じゃ無くて、中に人が入って無いって事。だからリビングアーマーの類でも無ければ「兄さん」とか言ったりもしない。房飾りも無いもんね。どっちかって言うとリビングドールだ。いや、魔道具かな?
感じ取れる魔力の動きがどうも人間や動物のそれとは違うし、アンデッズに近いけどそれも違う。魔道具のような、目的がはっきりした素直な動きで身体を動かしていたからそう思ったってわけ。機械的なんだよ、魔力の動きがさ。無駄がない。無さすぎるんだ。
前に見た時は周囲が地獄だったんで焦ってたって言うか観察する余裕があまり無かったっていうか、まぁ自分では冷静なつもりでいても冷静じゃなかったって事だろうね、見落としてた。いや、あの時は魔力的に黒い煙のような靄に薄く包まれていて、見るからに危険だったし中身がどうとか考えなかったからね。どう言っても言い訳になりそう。
とにかく動きがコミカルなのは別にして、今の黒鎧には湧いて纏わりついていた黒い靄も無いし脅威を感じない。
それでさっきから隣で『んー?、あれは確か…』とか何とかぼそぼそ呟いているテンちゃんが何か知ってそうなので尋ねてみた。
- あれって、中にひとが入って無いよね?
「ん?、うむ。タケル様ならすぐにわかっても不思議ではないか…。しかし正確では無いのじゃ。ひとは入っては居らぬが入っておるのじゃ」
俺を見てにこっと微笑みながら言う。ついでにむにゅむにゅ押し付けないで欲しい。二の腕に神経を集中してしまいそうな幸せな感触のせいで気が散ってしょうがない。いつもと高さが違うのと、テンちゃんの姿が大人なせいでもあるけどね。顔の位置も近いし。ドキっとするじゃないか。とにかくそっちは考えないようにして続きを聞こう。
- えっと、どゆこと?
「んー、別の場所で封じられておる者の意識だけがあの人形に封じ込められておるのじゃ。ちとわかりにくいが、昔そういうのがあったのじゃ。生身では危険な場所で作業を行うための魔道具だったような覚えがあるのじゃ…」
なるほど、言ってみりゃアバターや遠隔操作ロボットだな。
- へー、使いようによっては便利そうだね。
「しかしあれは、怪我をするとそれに倍する痛みを伴う危険性が指摘されての、帰還制御の調整や改良が終わるまで使用禁止となっておったはずなのじゃ。その後の研究がどうなったかは知らないのじゃ――」
欠陥品じゃないか。
それを除けば魔道具を身に着け、自身の魔力で染めることで対応する黒人形を動かせる…と。まんまだな。
話していくうちにいろいろと思い出したのか、珍しく饒舌なテンちゃん。楽しそうだから下手な事は言わずにうんうんと聞いておこう。
「――使用者の動きを記憶し補助したり、一連の動作型を集積記憶から引き出して追加できると得意げに説明しておったのじゃ――」
誰が、と尋ねたいけど、たぶん当時の開発者が売り込みの説明でもしたんだろうね。
そういう場があったって事は、相当なモノだったんだろうなぁ、コストとか情熱とかそんなのが。
テンちゃんの言い回しはちょっとわかりにくいけど、俺的に変換すると、アクションパターンタイプパッケージをサーバーからダウンロードしてアドオン可能、というような意味だろうか…。え?、余計にわかりにくくなった?、実は俺もそう思うよ。
「――しかし当人が封じられるというものでは無かったはずなのじゃ…、お、出て来るようなのじゃ」
え?、封じられてる?、そこは気になるところだけど俺もテンちゃんから視線をテントの所へ戻した。
テントの入り口からのっそりと低い姿勢で出てきた黒鎧。それまで少し入り口のところで外の様子を覗っていたのも感知していたから、別段驚きは無かったが、彼女たち7名からすれば驚きだったようだ。
「おひい様、人形が!」
「ああ、仕方ないね。あれも壊れたんだろうさ」
「何とかしないと、御神様に――」
「鞄が使えないんだろう?、どうしようもないね」
「あああ、そうでした…」
彼女らは黒鎧を『人形』と呼んでいたようだ。それと、壊れたって言ってる。鞄も使えないと言ったのは、やっぱり後ろのひとりが持っている大きめの肩掛け鞄は魔法の鞄だったようだ。それも壊れたんだろうか…?
黒鎧のほうは出てきてすぐに段差を降りるときに転倒し、藻掻くようにして身体を起こしたようだ。動作が凄く緩慢だ。ゆっくりとしか動けないのかな?
「剣を持ってますよ!、おひい様、危険です!」
「危険?、あんな動きしかできないんだ、何が斬れるってんだぃ」
聞いていた特徴がそのままの、嵐の剣を右手に持っていた。俺が見た時はあまり観察する余裕が無かったから、似てるって程度のあやふやな記憶だけどね。
そのまま転んでも手放さないのは剣士らしいね。俺だったら起きる時に剣を探すか、転んだ拍子にどっかその剣で怪我してそうだ。
「でででも御神様に剣を向けるなんて、」
「忘れたのかい?、あれには魔道具が無ければ言葉が通じないんだよ?」
「あああ、壊れたんでした、どうしましょう!」
「落ち着け!、クラリエ=ノル=クレイオール。全く、筆頭魔導士の名が泣くね」
「はい…、申し訳ありません」
ふむ、黒鎧に命令を聞かせる道具も壊れたって事か…。
壊れまくりじゃないか。
「はぁ…、本当にぎりぎりなんだ、大声を出させるんじゃ無いよ…」
「重ねて申し訳ありません…」
何がぎりぎりなんだろう、って思って、隣のテンちゃんの魔力圧のせいだと気が付いた。
やっぱり今のテンちゃんの魔力放出量だと、こちらにある飛行結界があっても厳しいんだろう。それにこの飛行結界はテンちゃんの魔力を模倣して作ったものだから、テンちゃんの魔力を遮らないのだろう。多少減衰はするだろうけども。
あ、やたら壊れたとか言ってるのって、さっきのテンちゃんの魔力嵐のせいじゃないのか?
と、テンちゃんを見た。
「な、何じゃ?」
- さっきのテンちゃんの魔力でいろいろ壊れたみたいですよ?
「た、たまたまではないか?、ほ、ほれ、其方の魔法の袋は壊れて無いのじゃ」
そうだけど…、とちょっと身に着けてるものを確認してみたら、リンちゃんから貰ったペンダントの反応が消えていた。ついでに服に施されてる防御魔法も消えていた。
- 服の防御魔法が消えてますね。あと、リンちゃんから貰ったペンダントが…。
と、取り出した。
「え…?、ちょ、ちょと見せるのじゃ」
- はい。
手渡すと、手に乗せて1秒じっと見て、小さく『あぁ…』と呟いて目を逸らし、また1秒見てから俺を見た。眉尻が下がっていて情けない表情になっていた。
「…壊れておるのじゃ…」
- やっぱり…。
「み、水でも入ったのかも知れんのじゃ、」
- テンちゃんの魔力が原因でしょ?
「そ…、そうとも言うのじゃ…」
がくっと項垂れた。
んじゃウィノアさんの首飾りが細く弱々しくなってしまったのもそのせいか。
それと、下の彼女らが持っていた魔道具類が全滅したっぽいのも…。
故意にそうしたわけじゃないのはわかってるよ、と言う意味で、緩んだ右手でしょげたテンちゃんを抱き寄せて頭を撫でた。
- まぁ、壊れちゃったのはしょうがないよ。一緒にリンちゃんに謝ってあげるから。ほら、あの黒い鎧が立ちましたよ。
よろよろと立ち上がり、バランスを取りながら少しずつ歩む黒鎧。やっと数歩動いたところで身を屈め、膝に手を付けた。足元を確認しているようだ。
そろそろいいかな、とりあえず声をかけてみるか。
彼女らの言葉は魔道具が無いと伝わらないみたいだから、俺の言葉が通じないなら剣を取り上げて拘束するしか無くなってしまうけど。
- あー、えっと、僕の言葉はわかりますか?
はっとこっちを見上げてきたが、首や上体の動きに足が追い付かなかったのか、コントでずっこけるように足を滑らせた。俺はそんなつもりで言ったんじゃないんだけど、何かツボった?、違うと思うけど。
黒鎧は斜め後ろに倒れそうになってから持ち直したが、その勢いのまま前に崩れた。
右手に剣を持ったままなので見ていて危なっかしいね。
とりあえず四つん這いで安定した様子なのでもう一度。
- 無理に立たなくていいです。楽な恰好でいいので、言葉がわかるなら頷いてもらえます?
大きく、ゆっくりと頷く黒鎧。
俺は無理やり拘束したりせずに済んだ事に安心した。
- まず、貴方はもしかして勇者クリスさんですか?
頷く黒鎧。
やっぱりそうだったのか…。
- ご自分がどうしてそのような状態になったのか、わかりますか?
首を横に振っている。わからないらしい。
青黒いひとが宗教的正座姿勢とでも言おうか、正座で両手を胸元で交差したまま顔をあげ、『発言をお許し頂けますか…?』と言ったので、とりあえず待つように言った。今はとにかくクリスさんの現状を本人の理解が及ぶところまで聞いておこうと思ったからだ。
- クリスさんの現状を正しくお互いに理解することが必要だと思いますので、これから幾つかの質問をしますがよろしいですか?
頷く黒鎧改めクリスさん。
そこから質問を重ねていろいろな事がわかった。
まず、言葉について。
クリスさんには魔力を乗せた音声でないと伝わらない。
青黒いひとにも話してもらったが、彼女の言葉は意味不明な音として伝わるらしい。
音声以外の音はただの音としてしか聞こえない、でも俺やテンちゃんの言葉ならわかるんだと。
詳しい事は全然わからないけど、とりあえず今はどうでもいい。こちらからの言葉が伝わるってだけで十分だからだ。
あとでリンちゃんとテンちゃんが居る時に改めて聞いたんだけどね、ちょっとしかわからなかったよ。
黒鎧には耳が無い。触覚で音という振動情報を本体に伝えているだけなんだってさ。クリスさんに質問した時に確認したけど、何か言っているな、ぐらいしかわからないんだそうだ。
言語として伝えるには、魔力情報に乗せなくちゃならない、というのが俺の理解できた部分だ。実例を経験したあとだったからね。それ以上の詳しい部分は何を言われているのかさっぱりわからなかった。時々精霊語が入るせいでもある。解説のリンちゃんもテンちゃんも翻訳に困っていたから『だいたいわかったからいいよ』と、止めてもらった。
それと、クリスさん自身は喋ってるつもりでも音がでていない。
発声器官というか装置がついてないんだから当然なんだけどね。
なのでクリスさんの意思伝達方法は身振り手振りしかないという事だ。つまりはジェスチャークイズになるわけだ。
ハニワ兵のジェスチャーをあれだけ解読した経験が役に立つかと思ったが、中身がジェスチャー下手過ぎる。動作が鈍いのもあって、何が言いたいのかさっぱりわからない。
意味が全く理解できないので、奇妙な踊りをゆっくりと踊る黒鎧を前にした俺たちが、答えようがないので黙って見ていて、黒鎧の首がこちらを向いて動作を止める度に、俺たち全員が首を横に振り、俺が『すみません、わかりません』と言う時間が続いた。
時々黒鎧が片足で地面を踏みつけて水を跳ね飛ばし、怒りを表現したが、誰かが『あ、地団駄?』とか、『怒り?』、『怒ってる?』と呟いているのが聞こえた。
しかしその言葉はクリスさんには全く伝わらないんだ。
ものっそいシュールな時間が過ぎていく。シュールも度を越せば笑えなくなるいい例がまさにここにある。
漫画やアニメならカラスやカケスなどの鳥が点々を後ろに従えて横切る事だろう。それぐらい白けた雰囲気だった。滑稽どころか最早哀れでしかない。演芸場なら座布団の嵐だろう。
いや、俺は何を言ってるんだ、しっかりしろ、俺。我に返れ。
少し首を振って打開策を考えなくては。
俺もテンちゃんも飛行結界の中で立ったままだし、女性たちは温い水に浸って宗教的正座をしたままなんだ。もうちょっと楽な姿勢で話がしたくなった。
- クリスさん、そのへんで一度やめてもらっていいですか?、あちらの方々の話を聞きたいんですよ。そのために僕だけ下に降りて場所を作りますが、動かないで下さいね。
頷いて肩を落とすクリスさんは気の毒だけど、堪えて欲しい。
「其方だけなのか?、私は…?」
- テンちゃんが近づいたらあの人たちが倒れちゃうんですよ。その姿を解除すれば一緒に降りられますけど、あのひとたち、テンちゃんの信者ですよね?
「う…、これ以上妙な伝承をされるのは…」
ですよね…?
- この中は見えないみたいですし、何なら姿を解除して座っててもらってもいいんですよ?
「わかったのじゃ、ここで待つのじゃ。姿はこのままでいいのじゃ…」
- とにかく彼女たちに納得してもらわないとね、クリスさんも何とかしてあげたいですし。
こくりと頷くテンちゃんの肩にそっと撫でるように触れ、ポーチにあったでっかいクッションと低めのテーブルを出し、そこに飲み物とお菓子を並べてから、飛行結界の外に障壁の板をつくり、にゅるっと結界を抜けてその板に乗ってゆっくりと地上付近へ降下した。
じっとしていてと言ったのを律義に守ってくれているクリスさんと、宗教的正座姿勢で頭を下げている彼女たち7名の位置を見つつ、小声で首飾りのウィノアさんに呼び掛けたが反応が無い。
地面を覆う水に近づくと、そこにはウィノアさんの魔力があったので安堵し、障壁の上に片膝をついて小声で呼び掛けることにした。
- ウィノアさん、ちょっとお願いがあるんですが。
俺がしてもいいんだけど、ウィノアさんがやってたのの模倣になるし、ぶっつけ本番で水を操作したりずぶ濡れの彼女たちを乾かすのはちょっとね。本職にやってもらったほうが安全だろう。
俺自身を乾燥したり、温風でぶわっと乾かすのはできるんだけど、あれだと下着とかが湿ったままだったりしてあまり良くないみたいなんだよ。俺はノーパンだから気にしないんだけどね。あとミリィたち有翅族もノーパンだけどまぁそれは関係ないか。
すると、足元の障壁を避けたのか離れた位置で、水面がほわっと光って厳かな輝きや泡みたいなエフェクトを撒き散らしてウィノアさんが生えてきた。
『…タケル様のお呼び掛けにお応えし参上致しました、ウィノア=アクア#$%&でございます』
と言って優雅にお辞儀をした。
え、出て来なくても良かったんだけど…、それになんでそんな態度なのさ。
エフェクトまだ残ってるし、泡も当社比で増量してるみたいな雰囲気。何のサービスよ?
- あ、えっと、まずこの首飾りなんですが、あれ?、外れないな…。
襟のボタンをひとつ外して手を突っ込み、そこにへばりついている細い水の輪状態の首飾りに触れて外そうとしたがするっと指が首飾りを通り抜けた。
『大変申し訳ございません。あのお方の大いなるお力の前では欠片しか残らなかった模様。失礼をお許し下さい』
そう言ってすすっと俺が立っている障壁の上に来て両手を差し出し、片手で襟を引っ張ってもう片手で鎖骨のあたりに触れている俺のそれぞれの手をそっと外してから、その襟元へ両手をぬるっと差し込んだ。そしてすぐに両手を抜いて、何故か俺の腕を片手で抱えて寄り添った。
流れるような動作だった。まさに水の精霊らしいと言えばそうなのかも知れない。いや、上手いこと言ったつもりでは無く。
こそばいのを我慢した波が去ると、首飾りがいつもの量と重さになったのがわかった。
- あ、直して下さったんですね、ありがとうございます。
『いいえ、お気遣いに感謝を。この場の水をどうにかすれば宜しいのですね?』
なら温風も温水も不要になりそうだから解除しておこうか。
- あっはい、このままでは落ち着きませんし、お願いします。
『ではそちらに流れを寄せましょう』
さっと俺の腕を抱えていない側の腕を優雅に振り、みるみるうちに地面を覆っていた冠水が川になった。土や木もずずっと動いたように見えた。ズゴゴゴとか音がしたと思う。
- え?
いやちょっと大げさじゃないかな、ちょっと水を引いてもらえば良かったんだけど。
そんでもって俺がやっただけでは地面は湿ったままだっただろうけど、落ち葉とかも乾いてる。やっぱスゲーな。さすがは水を司る精霊。
『もともとこの下には水の流れがございまして、あちらからこちらを通っているのです。それを少し利用して、地表に流れを作っただけでございます』
- あ、そうなんですか。
『あれらも乾かしておきました』
と彼女たちの方を見たのに釣られるように俺も見た。
- あ、それもお願いしようと思ってたんですよ、ありがとうございます。
一見、乾いているかどうかはここから判断できない。
何せ彼女たちは宗教的正座状態で腰を曲げ、頭を下げていたからね。丸まってるようにしか見えない。『うっ…、うっ…』って苦しそうなんだけど大丈夫なのかな…?
『ふふっ、タケル様のお役に立てましたか?』
- はい、それはもう、いつも助かってます。
そう言うと、むぎゅっと俺の腕を抱く腕に少し力をいれ、にこーっと微笑んだ。うん、腕がいい気持ちで幸せだ。柔らかいし温度もちょうどいいし、手も包まれて…、って肘から先が埋まってんじゃん。にぎにぎしてみたけど手自体は濡れてない。
『あらん♪、くすぐったいですわ、お戯れですか、あはん♪』
しっとりやわらかい感触に包まれてる。不思議感覚。ふにふにのふわふわだ。
変な声をださなければこのまましばらく感触を楽しみたかった。
そんなウィノアさんは大変ゴキゲンなのか周囲の泡みたいなぽわぽわも大増量になった。
正直なところ、用事というと水を引いてもらう事と彼女らの衣類を乾かしてもらう事の2点がメインで、首飾りの修復はオマケみたいなもんだ。話のとっかかりというかそんなつもりだった。
なので、顕現してもらわなくても良かったんだよね…。
とはそのまま言えないので、『ご苦労様でした』と言うタイミングを逃してしまったし、ちょっと何を言えばいいのかわからなくなって、見つめ合う形になった。
『これ、そこでいい雰囲気になるので無いのじゃ。用が済んだのじゃからさっさと散るが良いのじゃ』
そこにテンちゃんから声がかかった。助かった。
『…はぁ…、(いいところでしたのに…)』
『何か言ったか?』
『いいえ、ではタケル様、御前を失礼致します』
散れというのは酷いんじゃないかとちょっと思ったけど、ことウィノアさんに関してなら、『散る』で合ってるんだろう。そんな風にしゅわっと泡みたいになって散って行った。
新しい去り方だなぁ…。
毎度言うけど、首飾りにも周囲の水分にもウィノアさんが居るままなんだから、去っているわけじゃないんだけども。
気を取り直し、土魔法で平らな台を敷いてテーブルと椅子を乗せた。
- すみません、皆さん席に着いてもらっていいですか?
顔を上げた紫のひとたちは全員涙と鼻水で顔が酷いことになっていた。
え?、なんで?
さっき苦しそうだったのって声を押し殺してい泣いてたって事?、なんで?
理由を尋ねられる雰囲気でも無いし、まぁいいかと急いですぐ横に、上に水をためて流すタイプの水道をつけた洗面台の長いやつをつくり、タオルを用意して顔を洗ってもらった。
紫のひとと青黒いひとは、顔を拭う時にはっと気付いたような表情をしたが、何も言わなかった。
あ、乾いてると紺色なのか、まぁ青黒いでも間違いじゃないのでこのままだけど。
騒いだのは後列にいた5名だった。
「わぁ、これすっごい」
「高級品かな?」
「こんなの初めて…」
「やわらかーい」
「欲しい…」
「(これ、お前たち…)」
小声で注意され、はっと我に返った5名。2名が気まずそうな態度を取り、2名がじーっとタオルを見つめ、ひとりだけがじっと俺を見ていた。最後のは欲しいって呟いてた子だな。
使っててもらうのはいいよ?、あとで回収するけどね。だってそれ光の精霊さん産のタオルだし。
そんでもって手で示して『どうぞ』と席についてもらった。
とりあえずお茶とお茶菓子ぐらいはと、並べて置いた。
そして俺は、所在無さげに立ったままのクリスさんに近寄った。剣を一旦預かりたいと言うためだ。
一応テンちゃんとの話では、このクリスさんが宿る黒鎧は魔道具らしい。そうすると、今のテンちゃんと一緒に移動ができない。工夫すれば行けそうだけど、もしこれ以上壊れたら宿ってるクリスさんにも影響しそうだし、リスクは冒せない。
なので、剣だけでもハルトさんに確認してもらえればと思ったんだ。
- ハルトさんに確認してもらうので、その剣、一旦預かってもいいでしょうか?、必ずクリスさんにお返ししますので。
そう言うと、少し考えるそぶりをしてから、頷き、剣帯を外そうとし始めたので手伝い、受け取った。
それでポーチに入れようとしたら、留め具が外れて剣が逃げた。具体的にはすぽーんとバネ仕掛けのように鞘から飛び抜けて落ちた。
え…?、なにこれ…。
「あの…、貴方様の御腰のものは魔法の袋でございますか?」
見かねたのか、青黒いひとが声をかけてくれた。
- はい、そうです。
「その剣は魔法の袋には入れられません。入れようとするとたった今ご覧になったように逃げるのです」
- はぁ、そうなんですか…。
剣が?、逃げる?
床に落ちた剣。白い剣身に黒い柄、その柄をとって拾おうとしたがすいっと横に逃げられた。
- あ、もう袋に入れようとは思ってません。だから手に取らせてくれませんか?
我ながら剣に話しかけるとかバカみたいだけど、言い聞かせたほうがいいような気がしたのでそうしたら、柄を握ることができた。
- この剣、もしかして言葉がわかるんですか?
と、青黒いひとに尋ねた。
「いいえ?、そのような記録はありませんが…」
戸惑いながらも答えてくれた。
- そうですか…。
でも現に今…、あ、これも魔力が乗った声なら伝わるんじゃ…?
もうちょっと試してみるか。
剣帯を脇に挟み、柄を両手で、検分するように剣身を立てて持った。
傷ひとつ無い。真っ白で鏡のように磨かれている。
ホーラードに居た頃、『勇者隊』から支給された剣は、よく手入れされた剣だったけど、これとは比較にならない。美しさという点ではもっとだ。まるで新品の、それも機械で正確に作られた、まるでCGで描いたかのような輝きと計算された美しさが備わっている。
- おお…、すごいな、綺麗だ…。
急に剣が軽くなったように感じられた。さっきまであった手に感じる重さが1枚の羽とまでは言わないが軽くなった。
あ、声にでていたのか。それで剣が軽くなった…?
- 僕がこうして手で支えていますので、肯定なら縦に、否定なら横に少しだけ動かす事ができますか?
剣が縦に揺れた。肯定らしい。
- まず、剣さんとお呼びしますが、
ここで横に揺れた。ダメなのか。
じゃあどう呼べば…?
もういちど青黒い服のひとに確認しよう。
- この剣って嵐の剣でしたよね?
「はい、勇者様方はそうお呼びしておりましたが、私どもは『嵐の剣』と呼んでおりました。
- えっと、じゃあテンペストさん、
横に揺れた。お気に召さないらしい。
- 嵐さん?
横に揺れた。これもダメなのか。
もしかして、剣に宿っているのは精霊の欠片とかそういうやつ?
- 剣に居られるあなたは風の精霊でしょうか?
肯定。
- じゃあシルフィさん
一瞬間があったが横に揺れた。
- んー、ウィンディさん
肯定。
- ではウィンディさん、あなたは剣に封じられているという事ですか?
数秒の間、そして否定。
- 封じられているのでは無いと。
肯定。
- 出られないとか?
否定。
出られないわけじゃないのか。
- もしかして居心地がいいとか?
肯定。
そうか、まぁ本人が好きで宿ってるって言うならそれでいいか。
ん?、小さく剣先をぐるぐる?
見ているとさらに8の字を描くように…、踊ってる?
- あ、剣に宿っていると楽しい?
大きく肯定。
なるほど。
む、柄から魔力を吸われている。ちょっと抑えようか。
剣がイヤイヤをするように横に揺れた。
- 魔力が欲しいんですか?
肯定。
- 申し訳ないけど、今は我慢して下さい。僕も忙しいので。
と、鞘に入れようとしたら横にずれて逃げられ、入れられない。
- いう事を聞いてくれませんかね…?、できれば強制はしたくないので。
そう言いながらちょっとだけ脅すつもりで柄から逆に魔力を吸い上げた。
剣が小刻みに震え出したので一旦吸い上げを止めた。
- 素直に従ってくれるなら僕も丁寧に扱いますよ。
肯定肯定肯定…、まるで小さく頷き続けているような動きだ。
ちょっと脅しが利きすぎたんだろうか…?
- 鞘に入って大人しくしていてくれますか?
肯定1回で動きが止まった。
いいって事だろう。鞘に納めて剣帯を腰に付けた。
- さて、じゃあクリスさん、…何してるんですか、
片膝をついて頭を下げていた。
- えっと、そちらの席についてください。
と、手でテーブルのほうを示して…、あれ?
さっきまで席に着いていた7名が揃って椅子の横に降りて宗教的正座姿勢で頭を下げていた。
…なんで?
次話4-050は2021年03月05日(金)の予定です。
(作者補足)
説明は不要だとは思いますが、
冒頭部のクリス視点パートにある発言部分は、
主人公タケル視点に対応した無省略の発言があります。
20210312:衍字修正。 両手をと差し出し ⇒ 両手を差し出し
●今回の登場人物・固有名詞
お風呂:
なぜか本作品によく登場する。
あくまで日常のワンシーン。
ここんとこ入浴描写が無い…。つまらんぞ。
タケル:
本編の主人公。12人の勇者のひとり。
世俗が違えば習慣も違うのを実感?
いや違うか。
リンちゃん:
光の精霊。
リーノムルクシア=ルミノ#&%$。
アリシアの娘。タケルに仕えている。
今回出番無し。
テンちゃん:
闇の精霊。
テーネブリシア=ヌールム#&%$。
後ろの部分は精霊語のため聞き取れない。
リンちゃんの姉。年の差がものっそい。
タケルはサービスがいいですね。
至れり尽くせりじゃないですか。羨ましい。
ウィノアさん:
水の精霊。
ウィノア=アクア#$%&。後ろの部分は精霊語。
一にして全、全にして一、という特殊な存在。
久々の顕現。
相変わらずですね、このひと。
アリシアさん:
光の精霊の長。
全精霊中最古というような存在。実は凄い精霊。
だいたい名前くらいしか登場しませんが一応。
ハルトさん:
12人の勇者のひとり。現在最古参。
勇者番号9番。オオミヤ=ハルト。
ハムラーデル王国所属。
およそ100年前にこの世界に転移してきた。
『フレイムソード』という物騒な剣の所持者。
今回出番無し。
カエデさん:
12人の勇者のひとり。
勇者番号10番。シノハラ=カエデ。
この世界に転移してきて勇者生活に馴染めず心が壊れそうだったが、
ハルトに救われて以来、彼の元で何とか戦えるようになった。
勇者歴30年だが、気持ちが若い。
でも言動はタケルからするとちょっと古臭い。
お使いで走ってます。
ゆえに今回も出番無し。
ロミさん:
12人の勇者のひとり。
勇者番号2番。マサダ=ヒロミ。
現存する勇者たちの中で、3番目に古参。
現在はアリースオム皇国皇帝を名乗っている。
今回も出番無し。
クリスさん:
12人の勇者のひとり。
勇者番号5番。クリス=スミノフ。
現存する勇者たちの中で、4番目に古参。
だけどロミがなかなか起きなかったため、起きたのはクリスのほうが早い。
黒鎧には彼の意識が宿っているだけで、身体が入っている訳では無いらしい。
喋れないってつらいですよね。
コウさん:
12人の勇者のひとり。
勇者番号8番。ヨシカワ=コウイチ。
現存する勇者たちの中で、5番目に古参。
コウがこの世界に来た時には既に勇者たちは各国に散っていた。
アリースオム皇国所属。
今回も出番無し。
アリースオム皇国:
カルスト地形、石灰岩、そして温泉。
白と灰の地なんて言われてますね。
資源的にはどうなんですかね?
でも結構進んでる国らしい。
トルイザン連合王国:
ハムラーデル王国の東に位置する連合王国。
3つの王国があり、数年ごとに持ち回りで首相を決めていた。
クリスという勇者が所属している。
3つの王国は西から順に、アリザン・ベルクザン・ゴーンザンと言う。
アリザン王国:
アリザンはイアルタン教ではない精霊信仰で統一されている国です。
他教を許さない宗教ですが、例外的に、
同じ教えが多くあり、経典が同じイアルタン教の存在を許しています。
ゆえに、イアルタン教の勇者であり古参のハルトに対しては、
尊敬と信頼があります。
ベルクザン王国:
宗教はいくつもあって、複数所属してもよいという国。
そのせいで、アリザン王国から目の敵にされています。
政治的にはそうではなく、ベルクザンからトルイザン連合王国としての
統一王を多く輩出していたり、国力自体もベルクザンの方が上であるため、
宗教問題が無ければベルクザンのほうが強いです。
軍事的にも文化的にも。
おひい様と呼ばれる女性:
ベルクザン王姉。ヒースクレイシオーラ=クレイア=ノルーヌ=ベルクトス。
クレイアというのはクレイオール家出身の前々王妃が生んだ子だから。
その前王妃は彼女を生んでしばらくして亡くなってしまった。
現王はその6年後に嫁いできたイハネス家出身の前王妃から生まれた。
腹違いだけど、8歳差でもあるし仲は良い。
クラリエ:
ベルクザン王国、筆頭魔道師。
クラリエ=ノル=クレイオール。
タケルに名前を憶えてもらえるまでは、青黒いひとと表現されていた。
一応、おひい様とは縁戚関係にある。
クラリエからすると、おひい様は大叔母の娘にあたる。
容姿の揃った5人の女性:
魔導士会所属の魔導士たちでした。
クラリエの部下と言っても問題無さそうです。
本編ででてくるかどうか未定ですが、ここで一応の解説をしますと、
アリエラ=ノル=バルフカガー
バルフカガー家はベルクザン王国の寒い地方に領地があります。
つまりアリエラは貴族出身です。
イイロラ=ノル=ジールケケナーリ
ジールケケナーリ家は湖の畔に領都があります。
イイロラも貴族出身。
セリオーラ=ノル=パハーケサース
パハーケサース家は、山林が豊富な地方にあります。
セリオーラは貴族の従家出身です。
サラドナ=ノル=パーガル
バーガル家はサラドナが魔導士になった時に作った家です。
ベルクザン王国では、魔導士として登録されると士族階級となります。
バーガルという名前は、
家が木こりで森の恵みを採取していたからだそうです。
チェキナ=ノル=ネヒンナ
ネヒンナ家もサラドナと同様、魔導士になった時に作った家です。
チェキナはうっかり登録時に新家名称を記入しませんでした。
故に役所のひとが勝手につけた家名です。
『ノル』というのは、魔導士に登録され、元の家の継承権を
放棄したという意味で付くものです。
継承権を放棄していない魔導士も存在します。
アンデッズ:
3章で登場した、前向きな性格のアンデッドたち。
この4章では『聖なるアンデッズ劇団』として公演を行った。
※ 作者補足
この登場人物・固有名詞紹介の部分全ては、
あとがきの欄に記入しています。
本文の文字数にはカウントされていません。
あと、作者のコメント的な紹介があったり、
手抜きをしたり、詳細に書かれているけど本文には
無関係だったりすることもあります。
ご注意ください。