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4ー045 ~ 暇つぶしと足止め

 リンちゃんが持ってきたそれは、1辺が1cmの8面体だった。それが革袋にじゃらっと入っていた。一個で良かったんだけどなぁ…、まぁいいか。

 それにしても8面体好きだよね、光の精霊さん。


 「頑丈なものと仰いましたがどれも強度はだいたい同じなので、とりあえずこの大きさなら少々衝撃があっても壊れないそうです。何にお使いなんですか?」


- んー、ちょっと暇つぶしにね。


 「はぁ、そうですか…」


 口調はそんなだけど、微妙な微笑みという器用な表情で革袋を手渡してくれた。でも可愛いから全然OK。


 実は、ゲームセンターなどにあった、エアホッケーってのを作ってみようかなってね。

 もちろんあんな大きさのは考えてない。テーブルの上で遊べる程度のミニサイズだ。

 だからラケットじゃなくてパドル?、何て言うんだっけ?、手で持ってパックを打つ丸いの。とりあえず忘れたのでラケットって名前で呼ぶけど、それも手で持つんじゃなく指先で動かす程度の大きさにするつもり。だからパックも小さいのを考えていたので、リンちゃんが持ってきてくれたサイズならちょうど良さそうだ。


 たまたまふたりが角に座って話していたところに俺が来て、長辺側でテンちゃんの向かいの端に座ったんで作業をするにもちょうど良かった。

 俺が何を始めるのかと、テーブルに両肘をついて手で顎を支えていたテンちゃんにちょいと合図をして上半身を引いてもらって場所をあけてもらう。


 まず長方形の、食卓の対面ぐらいの長さと50cmほどの幅で容器をつくり、そこに適度に短い柱を立てて(ふち)の部分には段差をつけておく。両側にちょいと空気を送るための通路を作っておいた。


 「おお?、大掛かりじゃな」


 できてのお楽しみだよという意味でふたりに頷いて作業を続ける。

 土魔法で穴あきパネルを作って台にして、下から空気を吹き出すように、パネルの下には隙間を作っておく。台の横から空気を送り込めばパネルの穴から噴き出してきて、パックを少し浮かせるってわけだ。

 ゴール部分も作って、プレイヤー側の手前に自販機の取り出し口のようにコトンと落ちるようにした。フタは無い。

 空気を送り込むのはもちろん風属性魔法なんだけど、このままでは4か所空いてるので蓋で閉じられるようにしておいた。丸い穴に突っ込んで捻ったら固定する簡単なものだけど、イメージがきちんとできていたのでちゃんとできた。多少空気が漏れるけどそれは構わない。


 さて、そこでどうして魔力で光る部品が必要かっていうと、パックの近くで魔力を働かせると光るようにしたかったからだ。魔法でズルをするのを防止するためだね。


 と、思ったんだけど、この8面体が結構敏感でね、土魔法で作ったパックや台に反応してぼやーっとうすーく黄色くなっていた。パックにはめ込む前は明るいので気付かなかったんだけど、はめ込んだらわかったんだ。


 だめじゃん、って思ったんだけど、これぐらいの明るさならいいかな。障壁魔法や風魔法で押すと明るさが違うし少し色も変わるようだしさ。

 そんなで適当ではあるけど、左手側の送風口のフタをとり、そこから風魔法を送り込みながらパックの大きさを調節した。大きいコインぐらいのサイズだね。直径4cmぐらいかな。


 あとは手で持ってじゃなく人差し指でも突っ込んでパックを弾くラケットだ。

 形はまぁだいたい覚えてたんで作れたんだけど、底ってこれ布か何かを貼ってあったよね?、だけど接着剤ってのが無いんだよ…。


- リンちゃん、石と布をくっつけるような接着剤みたいなのってある?


 「ありますけど、何と何をどれぐらいの時間で接着するんですか?、それと、接着後の強度や靭性、弾性、接着時の粘度と浸透性など細かく指定があれば仰って下さい」


 え…、ややこしいな…。


- えっと…、石と布をくっつけられて、布にはあまり染み込まないで、貼り付けたらすぐに使えて…、んー…、やっぱりいいや。


 「そうですか?、とりあえずその条件で何種類か送ってもらいましょうか?」


- あったらいいなって思っただけだから、無くてもいいや、ありがとう。


 「はぁ、そうですか」


 どうせ人差し指で動かす程度のものだし、石と石だから滑るんじゃないかな。もしリンちゃんが大きいものを作るなら、そのとき布を張るだのなんだのを伝えればいいや。


 というわけでもう一度風を送ってテストだ。


 カツン…という音で、中心に8面体が埋め込まれた小さなパックが、俺が右手の人差し指で操作するラケットに弾かれ、テンちゃんの目の前のゴールへとまっすぐに滑るように進んでいき、カコンと音がしてゴールに入った。


 「おお?、滑るような動きなのじゃ」

 「この穴からの風で浮いているんですね…」


- テンちゃん、パックをまた台に乗せて。


 「ぱっくとはこの丸いもののことか?」


- そう、それです。これを指で僕と同じようにそのパックを押すんです。


 「ふむ、これじゃな」


 ラケットはゴールにおちない高さにしてある。手前側を低くしたのはあまり大きいと重いからだ。でもこれ、人差し指だけだと動かしにくいな。中指も使って2本で動かすようにするか。


- あ、テンちゃんこっちを使って。それはこっちに。


 「指2本にしたのじゃな、わかったのじゃ」


 穴1つのと2つのを交換し、テンちゃんがこっちのゴールへ狙いを定めてカツンと打った。パックが滑ってくる。


 コンと、それを斜めに打ち返した。


 「あっ、どうして邪魔をするのじゃ…」


- これはそういう遊びなんですよ。


 と言っている間に、辺に跳ね返ったパックがテンちゃん側のゴールぎりぎりのところにコツンと当たった。


 「あっ」


 テンちゃんが慌ててラケットを動かす。


 カコン


 「ああっ」


 だがそのせいでオウンゴールになった。


 「入ってしまったのじゃ…」


- そうですね。こちらの得点です。


 「何じゃと…?」


- そっちのゴールに入ったら僕の点数になります。テンちゃんはこっちのゴールに入れないと点数になりません。


 「ふむ…、そういう遊びなのか、わかったのじゃ」


 そうしてコンコンと軽く打ち合い、何度かお互いのゴールにパックが入った。

 自分で言うのも自画自賛だけど、ラケットの直径が小さいので絶妙なやりづらさがあってオウンゴールが良く出る。

 ラケットとパックの重量バランスもこれでいいっぽい。操作が指先なのでパックが跳ねて場外になったりもしないし、まぁこれはこれでいいんじゃないかな。暇つぶしには。


 「タケルさま、どうして魔力で光る素材を使われたんです?」


- ああ、それはね、こうして


 「あっ」


- 障壁魔法を使ったり、直接風属性魔法でパックを操作したりすると今みたいに光るでしょ?


 「ず、ズルイのじゃ!」


- そう、光ったらズルをしたってのがわかりやすいからね。


 「むぅ、パックが曲がって入ったのじゃ…」


- 光ってたでしょ?


 「光っておったのじゃ」

 「そうですね」


- そういうときは反則負けです。


 「なるほど」


- 魔法があるからね、ここから風を送ってるのも魔法でやってるけど、魔道具にすればいいかもね。


 「台の大きさはこれでいいんですか?」


- あー、元の世界にあったのはもっと大きかったよ。パックもこのラケットももう少し大きくて軽い素材でできていたし、台の穴や送る風の量もパックに合わせて違ってるんじゃないかな。


 「ふむふむ」


- その分、打つ力も大きくなるから、パックが跳ねたりして危ない事も考えなくちゃね。


 「なるほど…」


- 台はいまは長方形だけど、いろんな形にするとか、跳ね返ってゴールできるかどうかとかでコースを作ったり、途中に障害物を設置してたりってゲームもあったよ。


 コンピューターゲームだけどね。

 そういえば光の精霊さんって端末もってたりするけど、ゲームって無いのかな。


 「ゲーム、ですか…」


- うん、リンちゃんやモモさんがもってる端末の中で遊ぶためのゲーム。


 「そういうのはありませんね。ゲームというと子供がボールなどを使って遊ぶようなものでしたらありますが…」

 「個人の魔力差が出てしまうのじゃ」

 「はい、ですから個人で鍛錬する場合には使われています」


- 球技というかスポーツ的に、対戦したりはしないってこと?


 「魔法がありますからね…、それで的を狙うような競技はありますよ?」


- ボールを高い位置の籠に入れたり、これみたいに相手が守るゴールを狙うというのは?


 「ありません」

 「先も言ったが魔力量の差が勝敗に影響してしまうのじゃ。単純に魔力が強く多いほうが勝つのじゃ」

 「はい。ですからそういったのはありません、でも魔力を使うと反則負けになるというのは面白い発想だと思います」

 「うむ、ある意味新鮮なのじゃ」


- じゃあこれは?


 「暇つぶしには良いのじゃ、タケル様よ、もう少し相手をするのじゃ」


- はい。


 そうしてしばらくコンコンと、テンちゃんと打ち合いを続けた。


- こうして長く打ち合いを続けるのを楽しむというのもありですね。


 「そうじゃな」

 「あ、そういうのでしたら受け入れられやすいと思います」


 ふむ。平和的な光の精霊さんらしい。

 別に元の世界の球技を悪く言うつもりは無いけど、相手の邪魔をしたり、ボールの取り合いをしたり、相手が取りにくいところを狙ったりしてミスを誘うような事は、光の精霊さんたちの性質からして合わないのかも知れない。






 「何か面白そうなことをしてるわね」

 「また魔力の無駄遣いを…」

 「何ですか?、これ」


 しばらくテンちゃんと打ち合い(ラリー)の応酬をしていると、音が気になったのか、ソファーのほうでババ抜きならぬ白抜きをしていた3人がこっちに来た。


- 暇だったんで、こういうゲームを作ってみたんですよ。


 「げーむ?、そういう名前なのね」


- あ、いえ、これはエアホッケー、だったかな、そんな名前の遊具です。


 「ふぅん、打ち合いをして遊ぶものなのね?」

 「タケル様の左側で風魔法を使われているのは何ですか?」


- ここから風を送り込むと、よっと、このパックが少し浮いて台の上を滑るんですよ。


 「面白そうね、ちょっとやらせてくれるかしら?」


- はい、どうぞ。


 と、席を譲った。テンちゃんにも目線で合図をして、シオリさんが交代して座った。

 台が小さいし、ラケットも指で操作する程度だから、立って構える必要は無い。


 そしてルールなどの説明をして、本来の、というか相手のゴールを自分の得点とするほうだけど、それを言うとあっさりと理解し、相手が取りにくいように辺を使って跳ね返して狙うロミさん。そして受け損ねてゴールを許すシオリさん。


 「ふふっ、面白いわね、これ」

 「っく、覚えてなさいよ…」

 「シオリ様、私が(かたき)を取りましょうか?」

 「まだ始まったばかりなのよ、簡単に引き下がれますか」

 「そうですか、頑張ってください」

 「言われなくても…っ!」 コン!

 「ほいっ」 コン!


 そうして始まったのを、興味深く目で追うメルさん。


- メルさん、風魔法のほう、やってみますか?


 「え?、いいんですか?」


- はい、そっちの蓋をこうして開けて下さい。


 「あっ、どうしてそこで止まるのよ!」

 「あぶなかったわ」


 ロミさん側のゴールへと斜めに向かっていたパックがすっと停止したからね。

 送風が止まればそりゃパックは着地しちゃうから、多少は滑るけどすぐ止まる。

 いいコースだったのに、タイミング悪かったかな。


- あ、すみません、送風役が交代しますんで。メルさん、こっち側は蓋をしましたのでどうぞ。


 「はい、…これぐらいでいいのでしょうか」


- そうですね、もう少し強めでもいいと思います。


 「わかりました。これを維持するんですか…?」


- はい、そうですよ?


 「メル様、私がロミに勝つまで続けて下さいね?」

 「え、それはなかなかに」

 「何です?」

 「いえ、いい訓練になりそうです」

 「…」

 「ふふっ」

 「笑ったわね…、さぁ、来なさい!」

 「ほいっ」 コン


 だよね、やっぱりこういう感じになるもんだよね?

 やっぱり光の精霊さんが特殊なんだよ。テンちゃんは本当は闇の精霊さんだけど、平和的という点ではリンちゃんたちと変わらない気がするし。


 そうして俺が下がると、テンちゃんたちも俺の左右にそれぞれ袖を摘まんで立った。

 何か言いたそうなので小声で尋ねた。


- ん?、どうしたの?


 「いいえ…」

 「取られてしもうたのじゃ」


 ああ、そういう事。

 リンちゃんは雰囲気的にはまた別の事を思ってそうだけどね。


- じゃあ、今度は僕らがソファーのほうに行きますか。


 「うむ」

 「はい」


 と、ソファーに座ると、何故かふたりとも俺の両サイドに座ってぴたっとくっついて腕をそれぞれ抱きしめた。

 動きにくい。これじゃお茶も飲めないじゃないか。


 でもまぁ、少しぐらいならいいか、と、だらっと(もた)れて天井を見上げながら今後の事を考えた。


 ダンジョンの問題が片付いてしまったんだよなぁ…。

 あとはハルトさんたちにその事を伝えて、この中庭小屋を撤去してから、ロミさんとアリースオムに行って…。


 『タケル様』


- ん?、はいはい?


 『あちら側での予定が決まりまして、こちらの時間で2日後の夜にダンジョンの接続を断つようです』


- あ、そうですか、意外と早いですね。


 『地表に残っております水はできるだけ送り込んでおりますが、それとは別に』


 ん?


- はい?


 『現在、濃霧で遮っております20から25km圏内ですが、そこを強引に突破しようとしている者らがおります』


- え?、それってどこのひとです?、ハムラーデルでは無さそうですけど。


 『その者らがどこに所属しているのかどうかはわかりません。申し訳ありません』


- あ、いえ、すみません。


 そうだよね、ウィノアさんにそんなの尋ねてもしょうがない。でも何か特徴があればこちらで判断ができそうだからそこを訊いてみようか。旗印とか、鎧などの特徴とかがあればさ。もしかしたらこないだのアリザン軍だっけかの生き残りが居たのかも知れないし、だったら助けた2人に伝えるといいだろうし、ハルトさんたちにも伝えなくちゃいけないからね。


- それで、どんなひとたちです?、特徴とかありますか?


 『1名のみ魔力を帯びた鎧で、他は魔力を帯びた服です』


 それだけじゃ何とも…。


- 魔力を帯びた鎧と服…?


 『…失礼致します、濃霧で分かりにくいかと存じますが、』


 おお、首飾りからにょろっと生えたと思ったら目の前に水のスクリーンが。


 『このような者たちです』


 すっと彼らの頭上を通り抜けるように映像が動き、そして消えた。

 確かに濃霧がひどくて腰から下はぼやけて見えなかったが、頭と胸から上ぐらいは見えた。


- え、今のって…。


 「ん、山から覗いておった者に似ておるのじゃ」


- え、そうなの?


 テンちゃんがスクリーンを指ですっとなぞると映像が巻き戻り、黒っぽい色、濃紺かな?、その服装のひとのところで止めた。映像に波紋が広がって消え、消えたあとは鏡のように安定した画面になる。そういう操作ができるのかこれ。すごいな。


 「この、黒っぽい色の服の者だと思うのじゃ」


 鎧以外のひとたちは、紫っぽい派手な服装がひとり、テンちゃんが指差した黒っぽいのがひとり、あとはくすんだ緑色というかオリーブ色というかそんな感じのローブ姿で、紫の人以外はフードをすっぽり被っていて顔がわからない。鎧は頭も鎧だから当然顔なんてわからないけども。


 俺もテンちゃんの真似をして指で映像をなぞり、あ、やっぱり水のスクリーンだった、指先が濡れたよ、黒鎧のところで止めた。さっきと同じように波紋がちょんと広がって消えた。スゲー。


- この鎧のひとは僕が撃退した鎧に似てますね。片腕を切断したと思ったんですが、これを見ると治ってますね。


 「ふむ、これでは魔力が判別できないのじゃ、それがわかれば特定ができように」

 『申し訳ございません、映像だけをお伝えするのが現状では精一杯なのでございます』

 「まぁ仕方がないのじゃ」

 『恐縮でございます』


- ウィノアさん、彼らというかこのひとたちの足止めってできますか?


 『いくつか方法がございますがどのように致しましょう?』


- えっと、たとえば?


 『この者らは魔力を発する道具を要所に設置し、それを頼りに歩んでいる様子ですので、その道具を何処かへ移動または破壊してしまえば動きを止められます』


- ふむ、他には?


 『まずそれが有力ですが、その他となりますと直接風や霧を操作して妨害する方法になります』


- ああ、彼らに妨害している事を悟られないようにって事ですか。


 『はい。タケル様が一度撃退されたという事ですから、完全に敵と認定して下さるのでしたらもっと単純に処理致しますが?』


 処理てw


- あ、いやそれはちょっと待って。


 確かにあの黒鎧があの時の――だと思うんだけどね――黒鎧なら、処理してもらっても…、あ、もしこれが勇者クリスさんだったら復活するのか。んー、他のひとたちは復活なんてしないだろうし、一体どこの、ってクリスさんだったらベルクザン王国のひとたちって事か?、いや、それも推測でしか無い。

 一体どういう意図があって、アリザン兵を虐殺したのかっていうのも気になるし、勇者がそれをするとはちょっと考えにくい。ハルトさんの言うクリスさんの性格なら、ね。


 何にせよハルトさんにも相談したいし、黒鎧も確かめてみたい。

 それに今、このひとたちに逃げられてしまうのはまずい気がする。何となくだけどね。

 だから逃がさないように時間稼ぎをしたいな。


- やっぱり普通に足止めをしてもらえませんか?


 『仰せのままに。普通に足止めと仰るのでしたら良い方法がございます』


- それと悟らせずに、ですか?


 『はい、この者らはこれまで雨によって動きを止めておりました。ですので、同じように集中的に雨を降らせようと思います』


- なるほど、あ、でもウィノアさん大変じゃないですか?


 『ご心配なく。他の地域の濃霧をここに集めながらこの者らの周囲にのみ降らせればよいのですから、今度は降らせた雨をどこかに寄せる必要もありませんから』


- そうですか、じゃ、お願いします。


 『ふふっ、お願いされました。ですがお早めに。あまり降らせますとあの辺りに湖ができますので』


 え?


- あ、それってどれぐらいでできちゃうもんなんです?


 『さぁ?、2日ぐらいなら大丈夫ではないでしょうか?』


 えー?


- ま、まぁそこそこ急ぎます。


 と言うとスクリーンが消え、首飾りにしゅるんと細い腕(?)が戻って行った。

 相変わらず首筋がこそばい。冷たくは無いんだけどね。


 「タケル様よ」


- はい。


 「其方、あの者らをどうするつもりなのじゃ?」


 どうするって言われてもね…。


- とりあえず言葉が通じる相手だと思うので、一度話してみないと。


 「そうか。その時は其方を護るため、(われ)を連れて行くのじゃ」


- え?、


 「あたしも行きますよ、タケルさま」

 「いや、リンは留守番をするのじゃ」

 「どうしてですか!」

 「あの者らは闇属性の魔法を使っておった。其方とは相性が良く無いのじゃ」

 「それなら()のほうが良いはずでは?」

 「相殺するにはそうなのじゃ。しかし単純に相殺してしまうと影響が大きいのじゃ」

 「あ…」

 「タケル様は話をしに行くと言ったのじゃ、戦いが前提では無いのじゃ」

 「わかりました、でももしもの場合に備えて、私の首飾りをタケルさまにお渡しします。それならいいでしょう?、お姉さま」

 「ふむ、構わないのじゃ」


- えっと、光属性で闇属性を相殺するとまずいってこと?


 「まずくは無いのじゃ。相手がどのような魔法を使ってくるのかがわかれば問題は無いのじゃ。しかしわからない現状、我らの力で押さえつけるような場合、相手の出力によっては吹き飛ばす事になり兼ねないのじゃ」


- テンちゃんならうまく対処できるってことね。


 「そういう事なのじゃ。リンとは経験が違うのじゃ」

 「年の功ですね」

 「年と言うで無いのじゃ」

 「お姉さま」

 「うむ」


 食卓側でエアホッケーをしていた3人が休憩なのか、こちらに、給水器側にぞろぞろ来る所だった。

 リンちゃんが言ってテンちゃんが遮音結界を解除したのがわかった。


 メルさんと、たぶんロミさんはその結界解除に気付いたようだったが、何も言わなかった。


 「お水を頂きにきました」


 先頭のシオリさんが言った。


- どうぞ、どうでした?、楽しめました?


 「はい、ありがとうございます。あのような遊具で遊ぶのは初めてでした」


 にっこりと笑顔でそう言うシオリさん。ひさびさに見たな、シオリさんのそういう屈託のない笑顔って。


 「楽しかったわ、あんな風に魔法を遊びに使えるのなら、私も魔法を頑張ろうかしら」

 「是非そうして下さい。私だけずっとあの風魔法を続けるのは大変ですから」


- あ、メルさんだけ?、シオリさんは?


 「それがその…」

 「シオリさんは気が散ると止まっちゃうのよ」

 「ロミ!」

 「事実なんだから認めれば?」

 「そ、それはそうなんだけど、何もタケル様に言わなくても…」


- まぁまぁ、で、メルさんがずっとやってたんですか。ご苦労様でした。


 「いえ、でもあの操作を安定させながら遊ぶのはいい訓練になりました」

 「でも自分のゴールにパックが入ると風が止まってたわ」

 「それは…っ!」

 「私も風魔法を安定させることができなかったの、3人ともまだまだね」

 「何よ、ロミが一番ダメだったのに、偉そうに言わないで」

 「あらごめんなさい」


- とにかく、楽しんでもらえたなら良かったです。


 「そうね、帰ったらこんな風に遊ぶ事なんてできないものね、ありがとう、タケルさん」

 「そう言われればそうね、カードもあのえあほっけーでしたっけ?、それも楽しかったわ。戻ったら相手なんて居ないもの、ありがとう」

 「そうですね、私の場合は妹か弟なら…、いいえ、やっぱり無理があります。他の者ですと気を遣われますから、純粋に遊ぶことはやはりできませんね…」

 「そうね」

 「あの遊具はともかく、カードなら将来的に何とか作らせられるかも知れないわ」

 「そうなの?、でも羊皮紙で作るのは…」


 ロミさんは羊皮紙とは言ってないけど、ここでそれを言うつもりじゃ無さそうだ。俺も余計な事は言わないように黙っておこう。


 「もしできたらロスタニアに送るわ。今度こそちゃんと届くでしょうね?」

 「も、もちろんよ!」

 「あの、ロミ様…」

 「メル様にも送るわ、心配しないで。でもまだ先の話よ?」

 「はい、お願いします」

 「先の話っていつぐらいよ」

 「細かい話はまだ言えないわ。でも楽しみにしてて」

 「私も余裕ができたら一度くらいアリースオムを訪問してみたくなったわ」


 ほう、意外だな、シオリさんがそんな事を言うなんて。

 ずいぶんロミさんとの距離が近くなったようだ。


 「まぁ♪、歓迎するわ」


 うれしそうにコップを持っていないほうの手を胸元にあてていい笑顔でいうロミさん。

 その反応が意外だったのか、シオリさんは驚いたように上半身を反らした。


 「そ、そう?、バルカル合同開拓地が軌道に乗ってからになるけど、考えてみるわ」


 給水器の前で3人、それぞれコップを手に立ち話になってしまった。

 俺が入る隙なんてないな。国の事情とかも絡む話になってるし。


 ま、仲良くやってくれるならいいや。






次話4-046は2021年02月05日(金)の予定です。


20210205:何となく訂正。 映像だけお伝えするだけで ⇒ 映像だけをお伝えするのが

20210205:ついでに訂正。 返さずに ⇒ 逃がさないように



●今回の登場人物・固有名詞


 お風呂:

   なぜか本作品によく登場する。

   あくまで日常のワンシーン。

   今回は入浴無し。


 タケル:

   本編の主人公。12人の勇者のひとり。

   よかったね、することができたよ。


 リンちゃん:

   光の精霊。

   リーノムルクシア=ルミノ#&%$。

   アリシアの娘。タケルに仕えている。


 テンちゃん:

   闇の精霊。

   テーネブリシア=ヌールム#&%$。

   後ろの部分は精霊語のため聞き取れない。

   リンちゃんの姉。年の差がものっそい。


 ウィノアさん:

   水の精霊。

   ウィノア=アクア#$%&。後ろの部分は精霊語。

   一にして全、全にして一、という特殊な存在。

   まだまだお仕事中。

   でも雨のターン終了で少し余裕が出たのかも。

   今回も首飾りの分体から声だけの登場。

   手は出てきたけど。


 アリシアさん:

   光の精霊の長。

   全精霊中最古というような存在。実は凄い精霊(ひと)

   だいたい登場しませんが一応。


 メルさん:

   ホーラード王国第2王女。

   いわゆる姫騎士だけど騎士らしいことを最近していない。

   王女らしさは態度や行動にでているようですが。

   いろいろ気苦労してますね。

   基本、居ない時は外を走り回っています。

   ダイエット作戦実行中。タケルには内緒。

   魔力操作をしながらパックを打ち返すというのに苦労したようで、

   対戦成績は良く無かったようです。


 ハルトさん:

   12人の勇者のひとり。現在最古参。

   勇者番号9番。オオミヤ=ハルト。

   ハムラーデル王国所属。

   およそ100年前にこの世界に転移してきた。

   『フレイムソード』という物騒な剣の所持者。

   今回は名前のみの登場。


 カエデさん:

   12人の勇者のひとり。

   勇者番号10番。シノハラ=カエデ。

   この世界に転移してきて勇者生活に馴染めず心が壊れそうだったが、

   ハルトに救われて以来、彼の元で何とか戦えるようになった。

   勇者歴30年だが、気持ちが若い。

   でも言動はタケルからするとちょっと古臭い。

   しばらくぶりの出番でしたね。

   今回は登場しなかった。


 シオリさん:

   12人の勇者のひとり。

   勇者番号7番。クリバヤシ=シオリ。

   現存する勇者たちの中で、2番目に古参。

   『裁きの杖(ジャッジメントケーン)』という物騒な杖の使い手。

   現在はロスタニア所属。

   勇者姫シリーズと言えばこのひと。カエデは大ファン。

   エアホッケーの対戦ではロミと引き分けたようです。


 ロミさん:

   12人の勇者のひとり。

   勇者番号2番。マサダ=ヒロミ。

   現存する勇者たちの中で、3番目に古参。

   現在はアリースオム皇国皇帝を名乗っている。

   案外根は素直なのかも。

   最初のうちは勝ってたらしい。


 クリスさん:

   12人の勇者のひとり。

   勇者番号5番。クリス=スミノフ。

   現存する勇者たちの中で、4番目に古参。

   だけどロミがなかなか起きなかったため、起きたのはクリスのほうが早い。

   舞台がハムラーデル国境に移ると登場するかも知れないので一応。

   今回は名前のみの登場。あ、ぼやけた映像も?


 コウさん:

   12人の勇者のひとり。

   勇者番号8番。ヨシカワ=コウイチ。

   現存する勇者たちの中で、5番目に古参。

   コウがこの世界に来た時には既に勇者たちは各国に散っていた。

   アリースオム皇国所属。

   今回も出番無し。


 アリースオム皇国:

   カルスト地形、石灰岩、そして温泉。

   白と灰の地なんて言われてますね。

   資源的にはどうなんですかね?

   でも結構進んでる国らしい。


 トルイザン連合王国:

   ハムラーデル王国の東に位置する連合王国。

   3つの王国があり、数年ごとに持ち回りで首相を決めていた。

   クリスという勇者が所属している。

   3つの王国は西から順に、アリザン・ベルクザン・ゴーンザンと言う。

   やっと話が進みそうです。



 ※ 作者補足

   この登場人物・固有名詞紹介の部分全ては、

   あとがきの欄に記入しています。

   本文の文字数にはカウントされていません。

   あと、作者のコメント的な紹介があったり、

   手抜きをしたり、詳細に書かれているけど本文には

   無関係だったりすることもあります。

   ご注意ください。



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2019年05月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
なるほど。わかりません。
2020年01月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
同じやん。なるほど。やっぱりわかりません。
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