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4ー040 ~ 誤解と真相

 シオリさんとロミさんは特に言い争うような事も無く……、と言いたいところだが、ちょくちょくシオリさんがロミさんの事に文句を言い、ロミさんはそれをさらっと流すパターンにはなった。

 でもそれだけで、言い争いにはならなかった。


 ただ、ロミさんがハムラーデル国境に付いてくるって話をした時だけはパターンが崩れていた。というかロミさんが真相を話してシオリさんの誤解を解こうとしたという所かな。


 「国をほったらかしてまでタケルさんに付いて行くなんて…」

 「元々は行き帰りで移動に半年かかる予定だったのだから、心配には及ばないわ。それよりシオリさん、貴女も来ればいいじゃないの」

 「わ、私はいいのよ」

 「貴女まだハルトさんと話してないんでしょ?、何十年も昔の事なのだし、当時者なんて私たち勇者以外もう居ないんだから笑い話にするくらいでちょうどいいと思うわよ?」


 魔物侵略地域の時でも、シオリさんはハルトさんに会いたくなさそうだったもんなぁ…。そのせいか、妙なライバル意識みたいなのを持ってたように思う。


 「う…、でも…」

 「貴女はハルトさんが元凶だって思ってるらしいけど、そもそも勇者を各国に、って言いだしたのはカナさんよ?」

 「…そう、なの?」

 「うん。カナさんはヨダさんを独り占めするために他の勇者が邪魔だったの。そこで勇者を各国に散らそうと考えたの。ヨダさんには効率的だとか説明をして納得させ、ハルトさんを説得させたのよ。結果的に、ハルトさんはそれに従っただけ」

 「私に説明したのがハルトだったのは…」

 「それもカナさんね。ヨダさんには自分から説明するって言って、ハルトさんには自分たちのほうが後に戻る事になるからと頼んだからよ。ハルトさんはそういう事になったと事務的に説明するだけで、貴女に余計な事を言わないから適任だったでしょう?」

 「それはハムラーデルの王女が、」

 「そこを上手く利用した、とも言えるわ」


 なるほどなー、身体が大きくて体格のいいハルトさんからあの口調で決まったと聞かされたら反論し辛いもんなぁ。


 「そんな…、」

 「おかしいとは思わなかったの?、どうして私たちへの説明が、連れてきた後になったのかって。行く前に言うべきでしょう?、でも後にした」


 事後報告ならなおさらだ。


 「それは、私たちが東の森のダンジョンでの修行に専念できるように、」

 「と、ハルトさんから聞いたんでしょ?、それ、信じてるの?」

 「う…」

 「カナさんが、明るくて面倒見がいいようにしていたのはヨダさんに合わせてただけなのよ。実際、貴女や私を指導していたのはヨダさんが近くに居る時だけだったでしょう?、あとはひとりで練習していて、って言われなかった?」

 「…そのほうが貴女には合っているでしょうって言われたわ」


 何とまぁ、物は言いようだなぁ。


 「私もそう言われたわ。ま、私の場合は『勇者隊』のひとたちがあれこれ世話を焼いてくれていたから、それでも良かったのだけど」

 「……」

 「それも後で過剰な接触や干渉を禁止されたそうね。ふふっ、誰が言いだしたのやら」


 そう言えば今の勇者隊の隊長、グリンさんがそんな事を言ってたっけ。

 あのひとは気にせず友達みたいな気軽さで相手をしてくれてたけど、宿の管理人さんや他の兵士さんは事務的だった。

 それもカナさんが発端なんだろうか…。


 「大方(おおかた)、勇者が依存し頼ってしまっては他の国に派遣するとき困るとか何とか、そんな理由でしょうけど、依存したならその兵士ごと、派遣すればいいのだから」

 「じゃあどうして…」

 「そんなの、私にあてつけたに決まっているわ」


 え?、それはまた何とも飛躍した見方というか、自信過剰というかだなぁ、言わないけど。


 「あなたね…」

 「シオリさんは知らないでしょうけど、私、カナさんからかなり疎まれてたのよ」

 「え?」

 「そんな素振りは無かった、って?」

 「ええ、そうよ。だってカナさんはいつも親切で、」

 「ヨダさんの前では、そうね」

 「え…」

 「貴女はヨダさんの居る時のカナさんしか知らないでしょう?、私たちがヨダさんの指導を受けたり話したりする時は必ずカナさんが居るのだし、貴女はそれ以外はずっとひとりで居たのだもの」

 「だってみんなロミ、ロミって、貴女の事ばっかりで…」

 「それはずっと仏頂面をしている年頃の娘よりも、にこにこ笑顔で居る子供のほうを可愛がるものでしょう?」


 あー…、そりゃそうだろうね。当時の情景が目に見えるようだ。


 「……仏頂面って…」

 「他の表現を知らないの。気に障ったのなら謝るわ。とにかくカナさんは、ヨダさんに近づく女という女を全て遠ざけたかったの。特に私のような、ヨダさんを誘惑しそうな女はね、子供に見えても警戒し続けていたわ。だから勇者隊のひとたちや村人の前では私を褒めたし、まだ幼いから気にかけてあげてと言い続けたの。それが、私の周りに常にひとが群がっていた理由ね」


 そういう事情だったのか。ロミさんが男性からモテるってハルトさんが思ってたのはそれでか…。

 あれ、じゃあクリスさんはどうなんだろう?、ヨダさんに女性が近づかないように、それもカナさんが何かしてたってこと?


 「ならクリスの所に女性が集まっていたのも…」

 「そうね、半分くらいカナさんが原因でしょうね」


 半分か。元々の素質ってのもあるんだろうってことね。それってロミさんにも言える事なんじゃないの?、と、尋ねてみたいけどここは黙って見ておくに限る。

 リンちゃんとテンちゃんも俺の隣で黙ってお茶飲んでるし、モモさんも近くに居るけど聞いていないふりで手に書類を持って視線をそこに固定しているし、他の精霊さんたちはみんなこっそり移動していったし。あ、メルさんは夜の走り込みらしいよ。お風呂から出て給水器の水をごくごく飲んでから、はっと気づいたように『汗をかいてきます』って急いで出て行ったよ。聞き返すヒマも無かった。一体何があれば走り込みのあと入浴してまた走る事になるんだろう?、皆も疑問に思わないのか何も言わないしさ、マラソン大会とか陸上競技大会でもあるんだろうか?

 俺だけが理由を知らないような雰囲気なんだよね…、疑問を口にしようとしたら話をそらされたしさ…。


 「まさか、貴女が駆け落ちしたのまでカナさんのせいなんて言うんじゃないでしょうね?」

 「駆け落ち、と言われるのは仕方ないけど、ヘンドリックはロスタニアから出たがっていたのよ」

 「だから貴女が(そそのか)したんでしょ?」

 「シオリさん、貴女にも彼は一緒にロスタニアを出る事を話したって言っていたわ。でも貴女は断った」

 「…ええ、だって、ロスタニアに連れて戻るのが目的のはずでしょう?、なのに…」

 「『一旦は、ロスタニアへと来て欲しい。でもその後、私は国を出るつもりだ。できれば君のような美しいひとと一緒に暮らしたい、良ければ私に付いてきてくれないだろうか』」

 「…どうして貴女が知ってるのよ!?」

 「私にも同じ事を言ったからよ」


 シオリさんの勇者本、『勇者姫シリーズ』のどれかにあるとかじゃないんだな。

 しかしふたりとも、何十年も前の事なのによく覚えているもんだ。


 「そんな…」

 「そして貴女はその申し出を断り、私は条件を付けて受けた。その違いよ」

 「か、カナさんはそこに関わっていないじゃないの」

 「とんでもない。そもそもヘンドリックが最初に相談したのがカナさんなのよ?、弟のほうが優秀だから国内の貴族を納得させるためにも寒い所が苦手な自分は国をでるべきだと思うが何かいい方法は無いだろうかって、ロスタニアとティルラの国境でカナさんたちと会って話をしたのが最初よ?、当時はまだ魔物侵略地域は活発じゃ無かったから、視察という理由で日程を調整して会ってそんな話ができたみたいだけど、カナさんにとっては都合が良かったの」


 都合よく事情が噛み合ったのか。


 「そんなのって…、最初はロスタニアに所属する話になってたのに、だって…」

 「水と空気が澄んでいて万年雪の山々が見える美しいところで、街の景観も統一されていて美しく、乞食や浮浪者など居ない国、でしたっけ?」

 「ええそうよ、今もそう、間違ってはいなかったわ」

 「それは1年の半分が雪と氷の厳しい冬なのだから当然ね」


 そりゃそうか。


 「そうだけど、ちゃんと保護しているし、そのための法だってあるのよ?」

 「法は貴女がロスタニアに行ってからの話でしょう?」

 「その前から不文律だったのよ」

 「誰だって、自分の家の前で死なれてたら気分良く無いもの。他所へ追いやって死なれても気分悪いじゃない?、でも今はその話じゃないのよ。貴女をロスタニアに、って話はヨダさんの意見なの。カナさんにとってはロスタニアじゃなくてもどこでもいいのよ。だからヘンドリックを唆したのはカナさん。うまく二人ともどこかへ遠ざけてくれればいいと思っていたんでしょうね。少し目論見とは違うけれど、結果的には二人ともヨダさんから遠ざける事に成功したわね」

 「そこまで分かっていながら貴女はどうしてヘンドリック(リック)の誘いに乗ったのよ…」


 そうだ。最初はシオリさんを誘っていたんだし、その時点ではシオリさんはロスタニアに行ってもいいと思っていたんじゃないのかな。ヘンドリックさんはロスタニアを出るつもりだったみたいだけどさ。ロミさんはそれらを知っていて、ヘンドリックさんと逃げたって事になる。


 「貴女がロスタニアへ行く気になっていたのは知っていたわ。ヨダさんからも説得されたからでしょう?」

 「ええ」

 「北側にはあまり魔物も来ないし、守りやすいから戦いが苦手でもある程度の指揮ができればいい、とでも言われたのかしら?」

 「どうして、まさか貴女にも同じことを…」

 「それくらいの事、ヨダさんなら言いそうだもの。申し出を断られたヘンドリックは落ち込んでいたわ。自分には価値が無いのか、ロスタニアの王子では無くなる自分には魅力が無いのか、ってね」

 「そんな、だって勇者を国に連れ帰るのが目的なんだから」

 「ええ。でもカナさんは、それを利用して彼に国を出る事を勧めたのよ?」

 「だからって、あんな風に言われたら…」

 「私はね、カナさんに簡単に(そそのか)された彼を哀れだと思ったの。それだけじゃなくヨダさんにもね。同様にヨダさんを盲目的に信じているハルトさんにも、落胆していたの」

 「……」

 「それに何より、私を疎み、何でも思い通りに事を運ぼうとするカナさんから離れたかったのよ」


 気持ちはわかる。自分を疎んでいる有力者をどうにかできないのなら、離れたほうがいい。妙な()められ方をして苦労を背負わされる事になりがちだからね。ここまで聞いた限りでは、カナさんは直接何かをしてくるようなタイプじゃなさそうだし、疎まれているなら知らない間に外堀を埋められて選択肢が無い状態でつらい目にあうって予想がつく。俺がロミさんの立場だったら同じようにヘンドリックさんを利用して離れる事を思いつくだろう。


 「だから私は彼に、ならその価値を示しなさいって言ったの。ロスタニアに戻らずにこのまま出奔すればいいと。見届けてあげる、って言ったのよ」


 そこからロミさんは価値を示すのがどうのっていう考えになったって事なのかな…?

 いや違うか。このひとはそんな単純には染まらないと思う。元からそうだったんだろう。


 「そんなのって、私にあれだけ言ってきて、私だって彼になんとかロスタニアで、って…」

 「それは弟への劣等感に(さいな)まれ続けてきた彼には酷な話だと思わない?」

 「でも…、第一王子なのよ?」

 「それよ。その肩書こそが彼にとっては重荷だったのよ。貴女にはそれが解らなかった。貴女の言葉は彼には届かず、彼は貴女に振られたんだと思い込んでいたわ」

 「…貴女が、私にも原因がある事だと言ったのはそういう事なのね…」

 「彼も悪いのよ。ヨダさんに言われた目的、建前なのだけどそれを言うしかなく、でも自分は国を出るつもりだなんて、そんなややこしい事情、言われたほうも困るものね」


 確かに。そもそもどうしてヘンドリックさんが来たんだよ。そりゃカナさんに(そそのか)されたからだろうけど、じゃあ弟王子と2人で来れば良かったんじゃないか?、まぁ国の事情とかいろいろあるのかも知れないけどさ、どっちかってーと、弟王子だけ来ればいい話だ。ヘンドリックさんは勇者を誘わず勝手に出奔でも失踪でも家出でも何でもすればよかった。

 カナさんが話をややこしくした原因、と言うのもわかるね。


 「だからって何もその夜に居なくなる事は無いでしょう?、私だってまだ(リック)を説得するつもりだったのよ?、振ったなんて思ってなかったのよ?」

 「そんなに好きだったのなら、彼に付いて行くって言えば良かったのよ」

 「す、好きとかじゃなくてっ」

 「ふぅん…?、貴女って、好きでもない相手と抱擁して接吻するのかしら?」

 「ほ!?、せっせせ、な、何て事を言うのよ!?」

 「彼は一途で真面目だったわ。私には一度も触れたりして来なかった。『私の価値をシオリに示したい』、その一心でアリースォムという国を作り上げたわ。そして死ぬまでにはロスタニアに自分の国を認めさせたい、その上で堂々と貴女を迎えに行きたいとずっと言っていたわ」


 何というひとだ…、一途にも程がある。

 シオリさんのせいで、ロリ(ロミさん)と駆け落ちしたみたいに言われてるんじゃなかったっけ…、哀れな。


 「そ…、そんな…、リック…」


 シオリさんは鼻と口を手で覆い、目からぽろぽろと涙を(こぼ)した。

 当事者だからなぁ、もっと早く教えてあげれば良かったのに。


 「ロスタニアに私の名前で手紙を何度も送ったのだけれど、貴女には届かなかったみたいね。どうしてかしら…?」

 「ほ…、本当に…?」

 「ここでウソを言ってどうするのよ」


 あー、それじゃあ教えようとはしていたのか。でもどこかで誰かに()められていた、と。まぁ、シオリさんにロスタニアを出て行かれては困る人たちが検閲する立場に居たってことなんだろうなぁ…。


 「し…、しばらくひとりにして…」


 (かす)れるような小声でそう言って、シオリさんは静かに泣きながら2階の部屋へと去って行った。






●○●○●○●






 シオリさんが去ったあとは、もう何とも言えない雰囲気が漂ったが、そうさせたというか原因というかのロミさんは薄く微笑んだまま、優雅にお茶請けのクッキーをぼりぼり音をさせながら食べて『これも美味しいわね…、何のジャムかしら…?』と呟いた。


 何となしにその優雅に動く手を目で追ってしまってたら、ふと俺に視線を留め、『ふふっ』と微笑みを深くして言った。


 「ヘンドリックは潔癖とも言えるほど高潔で真面目だったの。さっきも言ったけど、私に触れる事は一切無かったわ」


 俺の目を見て言ってるんだから俺に言ってるんだろうけど…。


- あー、立派な(かた)だったんですね。


 と言うしか無いではないか。


 「立派…?、んー、そうね、そういう言い方もできるわね」


 ロミさんは右手の人差し指を顎のちょい右にあて、1秒ほど斜め上に視線をあげてから言った。


 「シオリさんの手前、ああ言ったけれど、空回りが多かった印象が強くて…、あ、これシオリさんには内緒にしてね☆」


 と、可愛くウィンクされた。

 おおお、人生2度目だよ。語尾から()が飛んできて、盛り上が……りはしなかった。両側で袖を、っと、テンちゃんカップを持ってるほうの袖を引かないで。中身が少なかったから(こぼ)れなかったけど、たっぷり入ってたら(こぼ)してたよ…。


 「そうやって誘惑しておるつもりなのじゃ。惑わされるで無いのじゃ」

 「そうですよ、タケルさま。会ってすぐ温泉で誘惑してくるようなのに惑わされてはダメです」

 「うむうむ、恥じらいというものが欠けておるのじゃ」


 いやそれキミタチが言うの?、特にテンちゃん…。


 「あら、一応言っておきますけど、私、生娘(きむすめ)ですよ?」


 え、ちょ、ロミさん!?

 と驚く間も無かった。


 「それは意外なのじゃ。もちろん私もそうなのじゃ」

 「あたしもです、タケルさま」


 いあいあ、どんなアピールだよ。


 「私もですよ」


 え?、モモさん?、何で急に話に入って、って、なんで脱衣所の扉を手で支えて…?


 「あ、あの、私もですよ?、タケル様」


 そりゃメルさんあなた未成年未婚の王族なんだからそうでしょうよ。って、バスローブ姿で出てきてそんな事を言わないで欲しい。『そうですか』なんて簡単に返事しちゃダメでしょこれ。何て言えばいいんだよ、『すごいですね』というのも何か違うし、『素晴らしいです』ってのは言うとヤバそうだ。かと言って黙ってると俺は?、って尋ねられそうな気もするし、やっぱここは発端のロミさんに注意しよう。そうしよう。


- あ、あのね、そういうのは僕の居ないところでお願いします。特にロミさん、話が変なほうに行っちゃうので。


 「変かしら?」


 にこっと微笑んでカップを少し前にずらし、身を乗り出して両肘をついた。


- 変ですよ、そんな話を急に、


 「コウは私が生娘かどうか気にしていたわ。だから殿方はそういうのを気にするのだと思っていたのだけど?」


 コウさん…。それ、ロミさんに直接尋ねたりしたんじゃないだろうな…?


- コウさんとは違いますから。


 「そうね。あまり言うものだから何かの褒美に教えたら、拳を握りしめて喜んでいたわ。貴方とはかなり違う反応ね」


 コウさん…、褒美ってw

 どんだけしつこく尋ねたんだ。


 「タケルさまはそんな事しません」

 「そのへんの浮ついた者と同じにするで無いのじゃ」


 そう言えば浮ついた者と疑われたんだっけ…。ロミさんとウィノアさん(分体)のせいで。


- あの、そろそろ別の話を、


 「でもしっかり見てましたよね?、胸とか、こことか」


 ひぃぃ、やめてくれ。ここって言いながらテーブルを通して座っている下を指差すなんて。あ、めっちゃ笑顔だ。これからかってるんだろ…。


 「うむ。(われ)の胸もいつもしっかりと見ておるのじゃ」

 「むー、私のも見て下さいよタケルさま」


- え、あのね、


 ちゃんと見てますよ、リンちゃんのささやかだけど形のいい部分だって。魔力感知で。お風呂のときだけど。普段は見ないようにしてるんだよ。

 って、リンちゃん腕とらないで、あ、テンちゃんカップがおおおじゃなくてカップを置かせて。

 その様子をロミさんが見て言う。


 「ふぅん…?、貴方そういう趣味だったのね、道理で私に(なび)かないわけだわぁ」


- 誤解です!、ロミさんちゃんと説明したじゃないですか。


 「そうね。私を抱きたいかどうか聞いたわね」

 「抱きたいかどうかじゃと!?」

 「それでタケルさまは何と?」


 まずいぞこの展開…。


- あれはあの時で、


 「単純に抱きたいって言われたわ」


 やっぱり!


 「何と!?」

 「タケルさまっ!?」


- 単純じゃないから何もしなかったんですよ!


 「ああ、そういう事か。わかったのじゃ」

 「お姉さま、どういう事ですか?」

 「あとで説明するのじゃ」

 「…わかりました。絶対ですよ?」

 「でも、ちょっと嬉しかったわ」


- ロミさん…。


 もう勘弁してくれませんかね、という気持ちで言う俺。


 「だって、国とか立場を考えない、私個人ならいいっていう意味なのだもの」


 あー…、言うと思ったよ…。

 あの時もっと違う言い方にすれば良かったんだろうか…。もっと直接的に『ウィノアさんがついてるからダメです』、という風にウィノアさんのせいにしてしまうとかさ。

 でもここであれこれ違うだの何だの言うと、あの時の言葉を否定しかねないし、実際魅力的なのは事実だったし……、でもここで言うこと無いよなぁ…。

 あ、テンちゃんが俺の手からカップをとってテーブルに置いて、腕をぎゅーっと…。


 「ふふっ、それにしても…、大きいわねぇ、何を食べてそんなに育ったのかしら…」


 と、テンちゃんの胸を見て言う。


 「ん?、気になるのか?、この胸が」


 テンちゃんはそう言って胸を張り、俺の腕から右手を離して右胸をぐいっと持ち上げた。

 俺は腕が緩んだ隙にその右手で急いでテンちゃんの口を塞いだ。後ろ手みたいな変な態勢だけど何とか間に合った。


 「ふふっ、こればっんーんーー!」

 「あっははは、そんな面白い恰好で、あははは」


 ロミさんがそれを見て、口元に手を当てて大笑いした。

 テンちゃんに黙っててと言って、俺の態勢を戻すまで、ロミさんは笑い、後ろでモモさんとメルさんもくすくす笑っていたが、リンちゃんだけはにっこり笑顔で俺の左腕に軽く手を添えるだけにしていてくれていた。






次話4-041は2021年01月01日(金)の予定です。




●今回の登場人物・固有名詞


 お風呂:

   なぜか本作品によく登場する。

   あくまで日常のワンシーン。

   入浴はあるけど描写なし。関連の言及はあるね。


 タケル:

   本編の主人公。12人の勇者のひとり。

   まぁそんな話をされたら困るよね…。


 リンちゃん:

   光の精霊。

   リーノムルクシア=ルミノ#&%$。

   アリシアの娘。タケルに仕えている。

   これくらいなら、という加減を見ている。


 アリシアさん:

   光の精霊の長。

   全精霊中最古というような存在。実は凄い精霊(ひと)

   だいたい登場しませんが一応。


 テンちゃん:

   闇の精霊。

   テーネブリシア=ヌールム#&%$。

   後ろの部分は精霊語のため聞き取れない。

   リンちゃんの姉。年の差がものっそい。

   しらじらしい。知ってて便乗してる。


 ウィノアさん:

   水の精霊。

   ウィノア=アクア#$%&。後ろの部分は精霊語。

   一にして全、全にして一、という特殊な存在。

   まだまだお仕事中。

   名前のみの登場。


 メルさん:

   ホーラード王国第2王女。

   いわゆる姫騎士だけど騎士らしいことを最近していない。

   王女らしさは態度や行動にでているようですが。

   いろいろ気苦労してますね。

   基本、居ない時は外を走り回っています。

   ダイエット作戦実行中。タケルには内緒。

   前話でタケルを困らせてみたのと同じようなものだろうと思い、

   傍観して一緒に笑っている。


 ハルトさん:

   12人の勇者のひとり。現在最古参。

   勇者番号9番。オオミヤ=ハルト。

   ハムラーデル王国所属。

   およそ100年前にこの世界に転移してきた。

   『フレイムソード』という物騒な剣の所持者。

   今回は名前のみ。


 シオリさん:

   12人の勇者のひとり。

   勇者番号7番。クリバヤシ=シオリ。

   現存する勇者たちの中で、2番目に古参。

   『裁きの杖(ジャッジメントケーン)』という物騒な杖の使い手。

   現在はロスタニア所属。

   勇者姫シリーズと言えばこのひと。カエデは大ファン。

   80年以上も前の話にやっと折り合いがつきそうですね。


 ロミさん:

   12人の勇者のひとり。

   勇者番号2番。マサダ=ヒロミ。

   現存する勇者たちの中で、3番目に古参。

   現在はアリースオム皇国皇帝を名乗っている。

   どこまでならいいか、試している風ではあるね。


 クリスさん:

   12人の勇者のひとり。

   勇者番号5番。クリス=スミノフ。

   現存する勇者たちの中で、4番目に古参。

   だけどロミがなかなか起きなかったため、起きたのはクリスのほうが早い。

   舞台がハムラーデル国境に移ると登場するかも知れないので一応。


 コウさん:

   12人の勇者のひとり。

   勇者番号8番。ヨシカワ=コウイチ。

   現存する勇者たちの中で、5番目に古参。

   コウがこの世界に来た時には既に勇者たちは各国に散っていた。

   アリースオム皇国所属。

   今回は名前のみ。

   自分は遊びまくってるくせにね。


 ヘンドリック:

   80年以上前にシオリとロミに関わったひと。故人。

   シオリが登場する勇者姫シリーズにも登場してたりと、

   ちょくちょく名前がでるみたいです。

   愛称はリックのようで。

   真面目で一途なひとだったらしい。


 ヨダさん:

   昔の勇者のひとり。未帰還のまま消息不明。

   勇者番号12番。ヨダ=ソウイチロウ。

   自分のことをヨーダと呼ばせていた。

   明るくよく笑う性格。当時は勇者のまとめ役だった。

   現在の12番はネリ。


 カナさん:

   昔の勇者のひとり。未帰還のまま消息不明。

   勇者番号10番。ヨダ=キンジョウ=カナエ。

   この世界でヨーダと結婚した。

   活発な性格でヨーダと気が合ったらしい。

   現在の10番はカエデ。

   ロミからすると結構嫉妬深くて悪賢い感じですね。


 ネリさん:

   12人の勇者のひとり。

   勇者番号12番。ネリマ=ベッカー=ヘレン。

   今回は登場してないけど一応。


 カエデさん:

   12人の勇者のひとり。

   勇者番号10番。シノハラ=カエデ。

   今回は登場してないけど一応。


 アリースオム皇国:

   カルスト地形、石灰岩、そして温泉。

   白と灰の地なんて言われてますね。

   資源的にはどうなんですかね?

   でも結構進んでる国らしい。


 トルイザン連合王国:

   ハムラーデル王国の東に位置する連合王国。

   3つの王国があり、数年ごとに持ち回りで首相を決めていた。

   クリスという勇者が所属している。

   3つの王国は西から順に、アリザン・ベルクザン・ゴーンザンと言う。

   こっちの話は大雨で停滞中。


 森の家を管理している精霊さんたち:

   モモを筆頭に、ミドリ、アオ、ベニの4名は幹部らしい。

   モモさんが1Fに居るのは仕方が無い。

   他は居心地悪くて逃げたようなもの。



 ※ 作者補足

   この登場人物・固有名詞紹介の部分全ては、

   あとがきの欄に記入しています。

   本文の文字数にはカウントされていません。

   あと、作者のコメント的な紹介があったり、

   手抜きをしたり、詳細に書かれているけど本文には

   無関係だったりすることもあります。

   ご注意ください。




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2019年05月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
なるほど。わかりません。
2020年01月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
同じやん。なるほど。やっぱりわかりません。
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