4ー036 ~ ドアなんとか・劇場へ
お湯に浸かる前からもうのぼせ気味だったが、いつものぬるめのお湯で半身浴状態だから大丈夫だ。この『森の家』のお風呂は広くて大きいし、座る位置によってそういう調節ができるのがいいね。俺もちょっとした風呂を造る時には参考にしよう。
それに、テンちゃんが天窓を開けてくれたし、夕焼けから暗くなっていく空も天井に投影してくれたのが良かった。
壁の操作盤でできたんだな、天窓の開閉。知らなかったよ。ついでに投影操作も。
だから前に俺が開けた時は留め金のツマミ部分を結界操作で引っ張ったんだよね。普段どうやって開閉するんだろうって思ってたよ。
テンちゃんは洗い流したあとは過剰な接触は控えてくれたようで、俺がいそいそと新しいタオルを腰に巻いて湯に入るとき、そういう操作をちょいとやってからは自分の髪をささっと洗い、タオルを頭に巻いて俺の隣で微笑んでそっと寄り添っているだけに留めている。
まぁこれぐらいなら…、なんて思ってしまってはっと気付いた。
これってドアなんとかって詐欺の手口に近いんじゃね?、心理学だっけ?、大きな要求のあとの小さな要求なら許せるってやつ。
いやまぁ、テンちゃんたちは悪くないし、悪い事じゃないんだよね。俺の忍耐力と心の安寧の問題であって、どっちかっていうと俺が羨ましがられるような贅沢な話だって事は重々理解してるんだよ。情けないと言われても仕方ない、心に整理がついていない俺が良くないんだって事もね。
でもなぁ…、だってなぁ…、テンちゃんもリンちゃんも、見かけが子供なんだよ…。子供ってか元の世界なら犯罪になるような10代にしか見えないんだよ。テンちゃんは一部だけ大人以上だけどさ、今もとなりでお湯にゆらゆらしてるよ?、いや目では見てないけどさ。夕闇の露天風呂みたいな雰囲気だから何ともアレなんだけど、それは今は置いといて。
俺が元の世界で子供たちが集まる公園の集会所で世話役みたいな事をずっとやってた、って話は何度かしていると思う。その期間、親や町内会の偉いひとたちからちくちくと、事あるごとに『問題を起こすなよ?』と釘を刺され続けてきたわけなんだよ。俺が思春期って言われる年になったぐらいからかな。女の子が多いからね。若い奥さんたちもいたし、冗談で揶揄われたりもした。そういう期間が長いんだよ。だからどうしても心理的ブレーキがね…。
そういう風に心の葛藤をしているとテンちゃんが確認するように俺を見て言った。
「そろそろ入り口の結界を解くのじゃ」
- え?、あ、うん。
ああ、浴室に結界が張られてたのか。気付かなかったよ。それだけ俺も余裕が無かったって事か…。そう言えば夕食の支度が済んだら呼びに来るって言ってたっけ。
と、脱衣所にモモさんたちが居るのを感知して…、あれ?、え?、何で裸!?、呼びに来ただけじゃないぞ!?、まさか入ってくるのか?
「うふっ、タケル様、ヌル様、失礼しますね?」
俺が内心慌て始めるのをよそに、すっと扉が開いてモモさんがまず入室した。当然のように洗髪用品を入れた桶を持っているだけで全裸だった。素晴らしい裸体だと思った。凡そ欠点が見当たらないぐらいの…。声のほうを反射的に見ようとする自分を何とか抑えたが、魔力的にはどうしてもばっちり見えてしまった。ヤバい。
「待たせたのじゃ。其方らが脱衣所で待っておったのは知っておったのじゃ」
「それほどお待ちしていませんでしたわ」
「そうか」
これはまずい。何がってこれは目で見ちゃだめだ、ロミさんの裸には耐えたがモモさんはダメだ、そ、そうだとりあえずさっきの怖かったモモさんを思い出そう。
「し、失礼します…」
頑張って思い出そうとしているのに恥じらいを隠さず小声で、頬を染め、モモさんと同じように桶を持ち、でもその桶と股間を手で隠して入ってきたのがベニさん。え?、ベニさん何で!?、あ、俺さっきモモさんたち、って言った?、あー感知してたわ、してたよ…。
堂々とされてるならまだ耐えられる。割り切ろうと思えば何とか。直接目で見なければ。
でもここでそういう恥じらう仕草をされると逆にそっちに注目してしまうじゃないか…。
「うむ。かけ湯をして入るのじゃ」
「はい」
「…はい…」
ベニさんって今まで強気な感じの印象だったので、消え入りそうな小声の返事がその恥じらいの仕草と相まってギャップがやばすぎる。
性能がいいから扉の音はほとんどしていないので、モモさんとベニさんの小さな足音がひたひたと聞こえた。
ベニさんは細身で均整の取れたスタイルで、とても美しいって事がわかってしまった。わかりたくなかった…。モモさんは、いや、そっちは考えないようにしないと今はまずい。マジでまずいんだって。
「ふふふ、とても良いのじゃ…」
何がだよテンちゃん。
そ、そうだ逃げよう。
- そ、そろそろ出ようかな、
「もう少し居るのじゃ」
テンちゃんに肩を抑えられ腕を掴まれ、逆側の肩にはモモさんの手が…
「そうですよ、せっかくですから少しお付き合い下さいな」
と、退路を塞がれてしまった。
モモさんはいつもはふわっとした髪型だけど、今はその豪奢な淡いピンクのブロンドのような髪を軽く留め具でまとめてアップにしてある。いつもと違う髪型と首筋が見えているのが凄くいい。モモさんの向こうには同じように留め具で髪をアップにしているベニさんがまた何ともそそられる仕草で、それぞれが湯船の縁を跨いで…、いや待て、見ちゃだめだ。目じゃなくても!
「ふたりとも、とても良いのじゃ、素晴らしいのじゃ」
だから何がだよテンちゃん…。
「はふぅ…、ありがとうございます」
「ぁあ、ありがとうございますぅ…」
何でそんな艶っぽい声で言うんだよ!、ベニさん!、普段と違いすぎるだろ!
テンちゃんとモモさんに両肩をそれぞれ、俺が出られないようにか手を添えられたまま、因数分解について思いを巡らせている俺。
「タケル様とご一緒できて嬉しいですわ?」
「ふふ、タケル様は今忙しいのじゃ」
「まぁ、うふふ、それでヌル様、どうでした?」
「うむ。タケル様は潔白だったのじゃ」
「それは良かったです。ああぁ、リン様からお聞きしてはいましたが、これは何とも幸せですね…」
「うむ。そうなのじゃ、タケル様は罪な男なのじゃ」
「ええ、実感致しましたわ…」
一体何の話だろう?、と思う間も無くモモさんがもう片方の手で、俺の肘をとってぎゅっと抱きしめ、肩の横に頬を寄せた。ちょ、積極的すぎませんかモモさん!?、もぞもぞ動かないで!、うわぁ左腕が幸せすぎる!、まずい、かっこはどこだ!、淫s…じゃなくて因数をぶんかいしててんかいしなくちゃ…!
「モモよ、あまりやりすぎるとタケル様が逃げるのじゃ」
「んあぁ、もう少し、もう少しだけ…」
「むぅ、モモでもこうなってしまうのか…」
…えっくすのにじょうまいなすえーのにじょうが…、え?、どゆことよテンちゃん?
「ばぼっ」
わ、ベニさんが沈んだ!
「あっ、ベニが!」
「え!?、まぁ!、しっかりして!」
モモさんがはっと正気に戻ってベニさんを助けて抱き起こした。何だかベニさんは『うぅ…』とか『はぁん…』とか言いつつぴく、ぴくと身を震わせている。留め具がかろうじて解けた髪を支えているだけで濡れた髪が艶めかしくぐったりとしている姿を強調している。
え?、体調悪かったとか?
「ベニには耐えられなかったのじゃ…」
「そのようです、連れて行きますね」
「うむ」
ベニさんを軽々とお姫様抱っこしたモモさんがざざーっと水を散らして湯船の縁を跨ぎ、脱衣所へと出て行く後ろ姿のモモさんのお尻や抱っこされたベニさんのお尻が揺れ動く様が非常に蠱惑的でじゃなくて!、見ちゃダメだって!、目は閉じてるけど!
「脱衣所からモモたちが居なくなるまで少し待つのじゃ」
- あ、はい、そうですね…。
しかし何だったんだ…?
って、気になるけど今はそれを思い出しちゃダメだ。映像まで思い出してしまう。まずいんだよ立体的に脳内再生されちゃうから。
しょっちゅう地図やらハニワ兵やら氷像やら作ってたせいか、どうもそういう映像的な再生力が鍛えられてるようで、脳内再現性が半端無いんだよ、俺は。
「ふふ、おかげで長く一緒なのじゃ」
嬉しそうに呟くテンちゃんが、こてりと俺の肩に頭を預けた。
寄り添うだけに留めてくれているのが助かった…。
●○●○●○●
脱衣所からモモさんたちが居なくなってすぐに俺たちも浴室を出た。
テンちゃんは俺をちらっと見て『ふふ…』と意味ありげな笑いを漏らしただけで、前のように接近したり拭いてくれとアピールしたりはせずに、自分で手早く拭いてバスローブを着てドライヤーを使って髪を乾かしていた。相変わらず素早い。
俺はというと、テンちゃんがそうしてくれて助かったと思う反面、妙なアピールや接近が無かった事に少し拍子抜けした気も少しあった。でもほんとに助かった。耐えるにも限界ってものがあるからね。
正直なところ、ベニさんには悪いけど、倒れてくれて俺は助かったんだよ。言わないけどさ。
まぁそんなで拭いて着替えると、テンちゃんは脱衣所の隅にあるマッサージチェアで肩と背中を解していて、『んあ』とか『おぉ』とか言ってバスローブからこぼれそうな胸をはだけそうなぎりぎりの感じで揺らしていた。
- 先に戻ってるよ?
「んあ?、うんむっ、これが、ん終わっ、たら、行く、のじゃ」
気持ち良さそうだなぁ…。つい視線がその揺れてこぼれそうな部分に行きそうになる。あ、いや、一瞬見てしまったけど。
「あ、タケル様、ベニはどうしたんですか?、モモさんに聞いても湯あたりだとしか…」
脱衣所を出ると食卓には夕食が並んでいて、食器類を並べていたミドリさんが心配そうに問いかけてきた。
そうだよね、入ってすぐだったもんね、湯あたりにしては不自然だと俺も思うんだけども…。
- 僕もそうとしか聞いてないんですよ。体調でも悪かったんですかね?
「あたしもお風呂に入りたかったかな!、でもダメだって言われたかな!、どうしてかな!」
ミリィがそう言いながら俺のほうに空中突進してきたので左手でキャッチしようと手を出すと、いつものように親指に抱きつくかと思ったらそこを支えにくるっと回って人差し指と親指の間のところに座った。器用だな。
「あなたはテン様と一緒には入れないって説明したでしょう?」
ああ、それで…。なるほど。
「うぅ、あわあわにして流してもらいたかったかな…」
親指をぎゅっとかき抱いて言う。気持ちはわからんでもない。気持ち良さそうにしてたもんなぁ、俺は無心を保つ事を心がけて機械的なご奉仕をしてる気分だったけども。
「あわあわ?、って?」
- ああそれは僕から説明します。
と、ミドリさんに説明した。
説明の途中でミリィが俺の手から飛んで俺とミドリさんの間に浮かび、ジェスチャーを交えての指示語だらけな、まるで説明になってないけど間に入れていたのを、ミドリさんは微笑みながら聞いていた。
「それならごはんのあとで私がしてあげられると思うわ」
「あたしはタケルさんにしてもらいたかったかな…」
しゅるるんと擬音でもつきそうな着地をテーブルの上にし、後ろ手にしてしょんぼりした雰囲気を出しながら食器の隙間を歩くミリィ。
「私でも手は柔らかいですよ?、シャワーの加減も、ああそうだわ、霧状シャワーっていうのもあって、あれは美容にもよくて気持ちがいいんだけど、ミリィちゃんにはまだ早いかなー?」
「え!?、そんなのがあるのかな?」
俺は黙っとこう。
「うーん、ミリィちゃんはタケルさんにしてもらうのがいいんだっけ、してあげたかったのに残念ねー」
「あ!、ミドリさんのそれ、ちょっと興味あるかな!」
「ちょっと、だけなのぉ?」
「あ、いっぱいかな!、楽しみかな!」
「うふっ、ご飯の後よ?」
「うん!、わかったかな!」
上機嫌でミドリさんの周囲をくるくる踊りながら飛び回るミリィ。
見事なフィッシングだった。興味を引いてから一歩下がり、自分から追わせて釣り上げる手腕。素晴らしい。根が素直なミリィだからかも知れないけど、元の世界でも小さい子を相手にそういう誘導をしているお母さんという構図はよくある話だろう。
- あ、そういえばメルさんは?
「ああ、メル様なら先ほどスープとパンを召し上がってから外へ出掛けられましたよ?」
- え?、そうなんですか?、何でまた急に…、何か聞いてません?
「理由ですか?、うふっ、知ってますけどタケル様には教えてあげません」
- えー?、何か急にホーラードの事情とかそういうのだったら、
「あ、そこは大丈夫です。極めて個人的な理由なので、心配は無用ですよ」
- そうなんですか、それならそれで、別に無理に聞きたい訳じゃありませんし…。
「モモさんたちもそろそろ戻ってくるようですし、あ、テン様も出て来られましたね」
「コースが終わったのじゃ、あれは良い椅子なのじゃ、まっさーじちぇあと言ったか」
脱衣所から出てきたテンちゃん。首に片手を当てて軽く揉みつつ首を動かしていて上機嫌だ。
コースというのはたぶん、マッサージチェアに設定されているメニューだろう。
- テンちゃん、できたら着替えてね?
「ん?、おお、そうじゃな。むひひ」
むひひって何だよ…。と思いつつ俺の部屋から見てふたつ隣の扉から入って行ったテンちゃんを見送った。隣はモモさんでその隣がリンちゃんらしい。以前は無かったはずなんだけど、また部屋が増えたんだろう。
そこにモモさんとベニさんが戻ってきた。
「お待たせしました」
「お騒がせして済みません」
- あ、おかえりなさい。もういいんですか?
「はい、大丈夫です…」
え?、なんでベニさん、モモさんの陰に隠れるの?、頬を急激に染めたし、そんなに恥ずかしがるような事なんだろうか?、あ、全裸を見られたからか?、まぁ、わからんでもないし、それなら見ないふりをしたほうが良さそうだ。
- そうですか、心配だったんですけど、それならいいんです。
「はい…、ありがとうございます…」
何なんだ、俺の知ってるベニさんとはまるで別人だ。
「さぁ、席に着きましょう」
と、モモさんが皆を促し、テンちゃんもいつもの黒ゴスみたいな服装で部屋から出てきて全員が席に着いての夕食となった。
全員と言っても、リンちゃんとアオさん、それとメルさんが居ないんだけどね。この家に居る全員ってことで。
食事中に、アオさんも居ない理由がわかった。
アオさんはお裁縫の腕がいいそうで、実はリンちゃんの服はアオさんの作品だそうだ。
エプロンのポケットにある刺繍や、ピンクのリュックについてる俺をデフォルメした人形はアオさんに教わってリンちゃんが作ったものらしい。アオさんの師匠がアリシアさんの側近にいるんだそうで、リンちゃんの修行中はそのひとから教えを受けたとかそんな話も聞いた。
そのピンクのリュックもアオさんの作品で、魔法の袋としての機能ではなく外見がそうらしい。
俺がずっと愛用しているこの光の精霊さん作の衣装、濃灰色のこれね、これは最初にもらったものだけがアオさんの師匠がデザインして作ったもので、着替えの分はどれもアオさんが作ったんだってさ。魔法の処置はそれぞれ別のひとが施してるそうだけど。
だから俺が気に入っていつも着ている事について、アオさんは喜んでるらしい。
そんで、リンちゃんの鞄とエプロンのポケットについての点検と整備なので、アオさんが従者として付き添ってるんだってさ。
●○●○●○●
翌日。
言ってたように今日はアンデッズ劇団の演劇を観に行く予定だ。
朝にリンちゃんに起こされて、庭で既に剣を振っていたメルさんの指導を受け、汗を流して朝食を軽く摂り、皆が着替えなどを慌しくという程でもないけどしている中、俺だけがのんびりお茶をしてたりして、着飾った面々が揃うのを待った。
モモさんたちはドレスではなく、スカートではあるけど落ち着いた雰囲気で露出などの無いフォーマル衣装で、テンちゃんはいつもの黒ゴスっぽい露出皆無の服にレースの頭飾りと顔を隠すヴェールがついていた。
リンちゃんはそれとは対照的に肘から手首までがレースで、首から胸元が開いていて裾がふわっと広がる真珠色に輝くドレスだった。すごい、可愛い、綺麗だ。首には俺が前にせがまれて作ったビーズの首飾りが光っていた。いつものリュックは背負っていないけど、腰には小さなポーチがあった。同じ布で作られているようで、ドレスとお揃いだった。豪華な感じがする。もちろん褒めた。と言うか畏れ多い感じがした。お姫様だって知ってたけどマジだった、って感じで。
ミリィは言われていたように本当にきらきらした衣装だった。ひらひらできらきらだ。もう先っちょに★がついた棒でも持っていても違和感が無いぐらいの服装だった。本人も大満足で俺の周りを飛び回り、『どうかな?、きらきらかな?』ってうるさいぐらいだった。
ちゃんと褒めて左手を出すとその上にいつものように親指を抱えて座り、『えっへへー』とその親指にすりすりしてきた。こそばいんだけど。
メルさんは薄紫色のミニスカートの位置まであるドレス?、それに濃い紫色のタイツ?、茶色のサッシュに腰には青い宝石飾りのついた短剣の柄が見えている。それに薄茶色の半袖の羽織?、フードがついているようで、今はフードを後ろに下していた。靴は膝下まである栗色のブーツだった。随所にテンちゃんが施したんだろう魔法がちらちら見え隠れしているのがわかった。
「従者らしい良い出で立ちなのじゃ」
と、テンちゃんがうんうんと頷いていて、それに合わせてリンちゃんも満足そうににっこりと微笑み、モモさんたちも同様に微笑んで頷いていた。
なるほど、そういうコンセプトか。確かによく似合っていた。
- よくお似合いですよ。
「きょ、恐縮です」
「さぁ、そろそろ行きませんと」
モモさんが言い、ぞろぞろと庭に出て並んでからテンちゃんが不満そうにリンちゃんに袋詰めにされ、モモさんが詠唱をしてシュバふわっと光の精霊さんの里へと転移した。
予め連絡が届いていたようで、転移台の前には馬車が用意されていた。
迎えに来た精霊さんに挨拶をし、馬車に乗り込んで劇場へと向かった。
言われるまま馬車を降り、ワインレッドのふかふかした絨毯を踏みつつリンちゃんとテンちゃんを両側にエスコートするような形で、劇場スタッフたちがお辞儀をしている正面玄関から中へと入った。内心めちゃくちゃ緊張した。いや、今もしている。
野外劇場みたいなのを想像していたのに、何だかえらいとこに来てしまったような気がする。
案内されるまま歩き、広い劇場空間が正面から見える一番いいところに、他と少し離されたソファーが並んでいた。いや、ソファーって言うしかないんだよ。劇場の席じゃないよそれ、っていうようなさ。
そしてそこにアリシアさんとその側近たちが居た。
「ようこそタケル様、娘たちを連れてお越し下さってありがとうございます」
アリシアさんが言い、周囲の人たちがお辞儀をした。
- お久しぶりです。お招き下さってありがとうございます。
「まあタケル様、お礼を申し上げたいのはこちらのほうですよ?、今日の日を楽しみにしておりましたの。さぁさ、お座りになって下さいな」
アリシアさんに手で示された席に座った。メルさんはアリシアさんの従者の方がそっと誘導して俺たちの後ろの席に着いた。ぼぉっと光る石板を渡されて『こちらにセリフなどが表示されますのでご参照下さい』と言われていたので、魔力感知でアンデッズの言葉がわからないメルさんもこれで内容がわかるんだと安心した。
ミリィはどうするんだろう、俺の手の上にずっと乗って?、って思っていると両側からテーブルを運んできたひとたちが出てきて、俺たちの前に置き、そこに例によって浮上ワゴンを押してきたひとたちが飲み物らしいストローが付いた容器を配り、何とミリィ用の小さな席とテーブル、それとストローは無いがコップと、『森の家』に置いていたミリィ用の中ジョッキを置いて下がって行った。
そんなものまで用意が…、至れり尽くせりだなぁ…。
そしてそれぞれが飲み物をひとくち飲み、あ、これ美味しいな、何ていうドリンクだろうって思ったら、室内の照明が徐々に落ち、幕が開いた。
ブザーも開始の挨拶もアナウンスも何も無く、薄暗いステージには朽ちた転移機械の残骸と、ぼぉっと光るその八面体のコアがあった。
ほう、そこから始まるのか…。
そのへんはリーダーゴーストから聞いただけだったから、多少の演出はあるにせよ演じて見せてもらえるなら楽しみだ。
そして、ぼぉっと光る八面体のすぐ横に、これまた薄く光るゴーストが床から滲み出すように現れ、ゆっくりと半身を起こした。
『ああ、よく寝た…』
何だそりゃw
次話4-037は2020年12月04日(金)の予定です。
20240416:変更。 みたいなのを想定していたのに ⇒ 想像
●今回の登場人物・固有名詞
お風呂:
なぜか本作品によく登場する。
あくまで日常のワンシーン。
日常さん仕事して…!w
タケルはもげていいと思う。
タケル:
本編の主人公。12人の勇者のひとり。
何て贅沢な。こんなはずでは無かったのに…。
でもある意味情けない。
リンちゃん:
光の精霊。
リーノムルクシア=ルミノ#&%$。
アリシアの娘。タケルに仕えている。
今回ひさびさに登場したのにセリフが無い!
アリシアさん:
光の精霊の長。
全精霊中最古というような存在。実は凄い精霊。
かなりひさびさの登場。
普段あれこれと堅苦しい挨拶などをしているので、
タケルがそういうのを苦手としているのもあり、
あっさりと終わらせたようです。
テンちゃん:
闇の精霊。
テーネブリシア=ヌールム#&%$。
後ろの部分は精霊語のため聞き取れない。
リンちゃんの姉。年の差がものっそい。
前日の事があって、多少の事では機嫌を損ねない。
リンちゃんだけ褒められたとか、そういうのであっても。
ちなみにモモさんはヌル様と呼び、他の子たちはテン様と呼びます。
ウィノアさん:
水の精霊。
ウィノア=アクア#$%&。後ろの部分は精霊語。
一にして全、全にして一、という特殊な存在。
まだまだお仕事中。
今回出番無し。
ミリィ:
食欲種族とタケルが思っている有翅族の娘。
身長20cmほど。
きらきらの綺麗な衣装でゴキゲンです。
でも後半は精霊さんだらけの所なので大人しいです。
メルさん:
ホーラード王国第2王女。
いわゆる姫騎士だけど騎士らしいことを最近していない。
光の精霊の里に来たというのは聞いているので、
緊張しすぎて言葉が出ません。
頭を下げる事と、頷くぐらいしかできません。
ハルトさん:
12人の勇者のひとり。現在最古参。
勇者番号9番。オオミヤ=ハルト。
ハムラーデル王国所属。
およそ100年前にこの世界に転移してきた。
『フレイムソード』という物騒な剣の所持者。
今回は登場せず。
ロミさん;
12人の勇者のひとり。
勇者番号2番。マサダ=ヒロミ。
現在はアリースオム皇国皇帝を名乗っている。
今回は名前のみ。
コウさん:
12人の勇者のひとり。
勇者番号8番。ヨシカワ=コウイチ。
アリースオム皇国所属。
今回は登場せず。
アリースオム皇国:
カルスト地形、石灰岩、そして温泉。
白と灰の地なんて言われてますね。
資源的にはどうなんですかね?
でも結構進んでる国らしい。
トルイザン連合王国:
ハムラーデル王国の東に位置する連合王国。
3つの王国があり、数年ごとに持ち回りで首相を決めていた。
クリスという勇者が所属している。
3つの王国は西から順に、アリザン・ベルクザン・ゴーンザンと言う。
こっちの話は大雨で停滞か。まだ続くけど、重大なことが。
森の家を管理している精霊さんたち:
モモを筆頭に、ミドリ、アオ、ベニの4名は幹部らしい。
何とモモさんが…、ベニさんにも変化が…。
アオさんの特技が出ましたね。
※ 作者補足
この登場人物・固有名詞紹介の部分全ては、
あとがきの欄に記入しています。
本文の文字数にはカウントされていません。
あと、作者のコメント的な紹介があったり、
手抜きをしたり、詳細に書かれているけど本文には
無関係だったりすることもあります。
ご注意ください。