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4ー032 ~ ロミさんとの話

 言葉通り受け取ると、俺なら所属に関係なくどこでも飛び回れるだろうと取れる。

 しかし、こう意味ありげに笑みを浮かべて言うなら、裏には何か策がありそうにも思える。それはアリースオムという国として、外交手段的な意味での話なのか、それとも多くの人を使える立場としての話なのか、俺としてはあまり想像したく無い手段というのもありえない話では無い。この場では違うと思いたいけど、もしかしたら脅しとも考えられ無くも無いからね。


 そういったいくつかの意味に取れるような言い方をされたので、事と次第では俺はロミさんを全く信用できなくなりそうだから、確かめてみる事にした。一応、敵対する意図は無さそうだし、俺に協力して欲しいなら嘘は言わないだろうって思ったのもある。


- それって、ロミさんがホーラードに意見を通す事ができると仰ってるようにも聞こえますけど…?


 「そうね、アリースオム皇帝として、ホーラードに貴方の派遣を依頼し、それを通すぐらいの事はできると思うわ。でも貴方の懸念はそうじゃないのでしょう?」


 何だろう?、ロミさんが楽しそうに見える。

 まるで……


- はい。外交の一環だとしても、あまり無理を通すようなやり方は困るんです。


 「あら?、貴方は別にホーラード王国の国政に関係している訳では無いのでしょう?、どうして困るのかしら?」


 表情を変えながらも、俺との話を楽しんでいる…、ように見える。

 これではまるで……


- 僕にも予定というものがありまして、そこに割り込まれるような、所属している国からの命令、というものを発生させられるのは困るんですよ。


 正直なところ、俺の予定なんてどうにでもなるような気もする。

 今のところ、ハムラーデル国境にいるハルトさんたちのところの仕事が途中だから、それを優先させたいなってぐらいだ。

 ならどうしてこういう言い方になってるかっていうと、メルさんを含めてホーラード王室にはお世話になっているわけで、迷惑を掛けたくない気持ちがあるからだ。

 外交ってただでさえ気を遣うものだと思う。そんなとこに俺の事で他所(アリースオム)から圧力を掛けられるのは気分的に良くないからね。


 だってホーラードに所属したいって言って、それが決まってすぐにその勇者を派遣しろって隣国から圧力がかかるなんて、幸先悪いじゃないか。


 「ふぅん…?、思ったよりホーラードに愛着があるのね。そんなにその姫が気に入ったのかしらぁ?」


 ロミさんが少し拗ねたように言う。でも面白がっているようにも見える。

 見透かしているだろうに、わざとそう言ってるんだろうなぁ、これ。

 まるで本当に相手に気がある女の子が、その男性との会話が楽しくて、でも好きな人がいるんでしょ?、みたいな拗ね方をしているように見える。


 男性側としては、慌てたように取り繕うのが本筋なんだろうけど、俺はそういう会話をしに来ているんじゃないからそれには乗らずに真面目に言おう。


- 今回のように、多少余裕のある日程で話を持ってきてくれるのは助かりますけど、割り込みが困るのは僕じゃなくても同じでしょう?


 「そうね、それはわかるわ。でも手紙がまともに届くかどうかわからないもの。だからうちに来てくれるのが最良ってまだ思ってはいるわ」


 俺が乗らなかったのがつまらなかったのか、少し面白くなさそうに言い、焼き菓子をつまんで少し冷めたお茶を飲んだ。

 俺は返事をするか迷ったけど、ロミさんが視線を外したのに合わせて同様にひとつ頂き、お茶を口にした。


 「ねぇ、さっきの答えをまだ聞いていないわ?」


- え?、あ、飛んでいくのにどれぐらいで着くか、でしたね。目的地がはっきりしていて途中の景色を楽しまなくてもいいのでしたらかなり速いですよ。


 本気で高空を飛ぶなら超音速という速度が出せるからね。他にそんなところを飛んでるモノが無いならだけど、


 「途中の景色…。ねぇ、鳥のように空を自在に飛んで観る景色ってどんななのかしら。とても素晴らしいものに思えるわぁ?、それを愉しまないなんてとても贅沢に思えるのだけどぉ?」


 言外に『観てみたい』って言ってるように聞こえるね。


- そうですね、余裕があれば、それもいいと思いますよ。でも急ぐ時にはそんな事も言ってられないでしょう?


 「そうね、わからない話ではないわね」


 そういいながらも少し落胆したような表情をした。

 飛んで観てみたいんだろうね。機会があれば、シオリさんみたいにならなければ連れて飛んでもいいかなって思ってしまうね。これは。


- その勇者コウさんの状況によっては急ぐって事もあるでしょうし、ロミさんが噂だけで僕に手伝いを頼みにここまで来るぐらいなんですから、現状でもあまり良くないって事ですよね?


 「ええ、そうね、そっちの話もしておいたほうがいいわね」


 と、ロミさんが説明をしてくれた。


 コウさんを遣わせたのは今から3ヶ月前ではなく、さらに2ヶ月遡った時点での話のようだった。

 そして現地から連絡隊が戻ってきて、苦戦しているという報告を受けたのが3ヶ月と少し前で、その頃ちょうどホーラード他の国々に放っている間者、というほど大げさなものではないが、情報を収集してきた者たちから報告がきて、俺についての話もそこに含まれていたらしく、当時はまだ俺は見習いなので依頼というのが少々難しいから、直接話をしにロミさんが出向こうと思い立ったんだそうだ。


 「貴方には直接こうしてお話をしに来たほうがいいって思ったの。こういう勘は大事なのよ?」


 と、見()れるような笑みで言っていた。

 普通ならこれまでの会話で、もうロミさんに心を奪われちゃって、何でも言う事を聞いちゃうようになってしまってるんだろうなぁ、と思えるぐらいだ。

 俺の場合は精霊さん(リンちゃん)たちという、えらいのが身近に居るからね。人間離れしてるのなら水の精霊(ウィノア)さんって例もある。耐性ができてるんだろうね。

 しかしこれ、演技じゃないならすごいよなぁ、いや、演技でもすごいんだけどさ。


 「それで移動中にも報告が届いてたのだけど、あのハルトさんやシオリさん、サクラたちが苦戦していたのを解決したって聞いた時は耳を疑ったわ?、精霊様のご加護があるとも聞いたけど、本当なのぉ?」


 そうかと思えばこうして好奇心旺盛な少女のように純粋な表情をして興味深く、そして楽しそうに尋ねてきたりする。


 それも移動中の苦労話をして、その合間に、だよ。飽きさせないんだ。自然にそうやっているように見えるし、ロミさん自体が楽しそうに見えるから余計にね。

 だから感心しながらも、俺はロミさんとの会話は普通に楽しいと思えた。


 ちなみにロミさんは言葉を濁していたけど、旅程で困る事の代表が、食料の事と、排泄の事だ。前者はともかく、後者は人数が増える程困る。

 それぞれ好き勝手に道端や茂みで、なんてやってたら街道はえらい事になっちゃうからね。だから時間を決めたり、ちゃんと穴を掘って埋めるなどの処理をするもんだ。まさか犬の散歩みたいに、袋に入れて持って帰る、なんてできないんだから大変なんだよ。


 そういう処理ができる魔道具ってのもあるし、元の世界での創作物などによくあった、排泄物を処理する不定形の何か(スライム)じゃないけど、それに類する浄化方法というのもある。光の精霊さんは前者で、人種(ひとしゅ)の場合は両方の方法が存在する。

 ロミさんはそれ用に魔道具を運んで来ているらしく、穴を掘って一箇所に集めてからそれを使うようだった。


 さらに余談だけど、ラスヤータ大陸では不定形の何か(スライム)のほうが一般的で、エクイテス商会のエクイテスさんは魔物って言っていたけど、あれは厳密には魔物じゃなくて、昔から伝わってる魔法的な人工生物だと大地の精霊ドゥーンさんが言っていた。 アーレナさんが『ふん、まるで他人事(ひとごと)さね』と呟いていたので、たぶん精霊さん絡みで伝えたものっぽいけど。


 それでロミさんの話には、俺が所属を決める時期に入ったってことも出た。


 「宿の人に話を聞いたら、もう所属を決める話になってるじゃないの。驚いたわ。もう少し先だったはずよね?」


 これをきらきらと瞳を輝かせて言うんだもんなぁ、ああそう言えばリンちゃんがよくこういう表情をしてたなぁ、なんて思い出したぐらいだ。最近ではテンちゃんのも見た。


- そうですね。僕も驚きました。


 「あら、うふふ、そうだったのね。それならそのほうがこちらとしても都合が良いのよ」


 ロミさんが言うには、見習いのまま自主的にアリースオムを見聞しに行くというのでもいいけど、それだと戦闘が絡みそうなというか確実に絡む事案への参加も、俺が自主的にしたという体裁が必要になってくるんだそうだ。

 魔物侵略地域の場合は、ロスタニア、ティルラ王国、ハムラーデル王国の3国が関わっているし、危険な状態でもあったから俺の参加もある意味では黙認されたようなものらしい。


 ところがロミさんの頼みだと、アリースオムただ1国だけであること、各国への危険度が違うという事で、見習いのまま参加させる事は、建前上面倒な手続きが必要になるんだと。

 そりゃ当然、3国がそういう風にしたように、ロミさんとコウさんが教導したと書類上や関係者への通達などの手回しをするつもりだったそうだけど。


 話を戻すがそのコウさんが苦戦しているというのは、瘴気の森と呼ばれている場所から溢れ出て来る、瘴気を纏った魔物と、瘴気を纏っていない魔物なんだそうだ。

 これまでもちょくちょく魔物は出てきていたが、数は多くなく、地元の人々だけで何とか対処ができていたんだそうだ。それが今年になってからどうも出てくる回数が増えてきたので、陳情が上がってきた事もあり、アリースオム皇帝(ロミさん)としてはその対処に別方面から戻ってきたばかりのコウさんと戦士団を派遣したらしい。


 戻ってきたというのは復活してきた、って事らしいけど、そっちはいいのかな?、詳しく聞いてないけどさ。


 「だって、いつも地元で何とかしてきた事なのよ?、そんなに苦戦するなんて思わないじゃない?」


 不満そうに言っていたので、そっちを早く片付けて、元の仕事に戻らせる予定だったっぽい。


- じゃあ現在コウさんがそれを片付けてしまっているなら、僕は必要無いって事になりますよね?


 なので俺も、ちょっと意地悪な言い方をしてみた。


 「そうね。そうであればいいわね。でもコウはね、毎回、『何とかします』って報告をしてくるのよ。でも解決した事が無いの。現状維持が精一杯なのよ、だから助けて欲しいの」


 一応、本当に困っているようではあるんだけどなぁ…。

 ウソっぽいとまでは言わないよ?、でも情報の時間差もあるし、今日は俺も使者さんとの話があるぐらいで自由だし…。


- ところでホーラードからの使者って、いつぐらいに到着しそうです?


 さっき、まだ着いてないって言ってたぐらいだし、何か知ってそうだから尋ねてみた。


 「あら?、どうして私に聞くのかしら?」


- 何かご存知じゃないかと思ったので。そうですね、僕としては夕方、日没ぐらいに到着してくれると助かるんですよね。


 そう言いながら薄笑いでロミさんを見る。


 「ふぅん?、そうなの?、ならちょうどいいんじゃない?、私もそれぐらいに到着しそうだって聞いているもの」


 ロミさんが言った途端、カウンターの奥の部屋で控えているひとがひとり、裏口から出て行ったのを感知した。やっぱり何かやってんじゃん。でも今回は助かるから言わないでおく。


- そうですか。じゃあちょっと見に行きましょうか。


 と、残っていたお茶を飲み干して席を立ち、ロミさんに手を差し出す。


 「え?、使者が…、ではないわね、どこへ行くの?」


 一瞬ボロが出かけたけど、見なかった事にしておこう。


- そんなの、アリースオムに決まってるじゃないですか。さっき飛んでみたいって言ってませんでした?


 「えっ?、今から?、それはその、」


- それにどれぐらいで到着するのか知りたがってましたよね?、僕も知らない土地だと困るのでロミさんが案内して下さい。


 言い(よど)んだのに割り込んで、ほら、と、差し出した手を揺らす。

 ロミさんは戸惑うようにその手と俺とに視線を動かした。


 「あのその、今からだとお昼は…、それに使者と会う話だって…」


- 大丈夫ですよ、ちゃんとここに戻って来れます。途中でお昼もサービスしますよ、きっと満足して頂けると思います、さぁ、行きましょう。


 俺の手を取ろうか躊躇して上げかけているロミさんの手をこちらから取って引き上げ、半歩近寄ってロミさんが座っている椅子をもう片方の手で少し下げると、壁際で静かに不動状態だった女性たちと兵士たちが動いた。


 「け、結構強引なのね、そう仕向けてたのは私でしょうけど…」


 兵士たちの動きを抑えるように片手で指示を出しながら俺の誘導に従って立ち、後半は呟くように言った。でも聞こえてますよ。

 女性たちのほうはロミさんの椅子を完全に()けたり、奥に行って移動中の上着だろうか、防寒着かな、フード付きの分厚いコート、あ、これ羽毛入りの上等なやつだ、すごいな、それを持ってきたのが見えた。


- アリースオムって寒い気候なんですか?


 俺はそれを見て問いかける。


 「いいえ?、ここと変わらないわ、山越えじゃなくても途中は高地だから寒いのよ。貴方の分はどうしましょう?、護衛たちの分に予備があったかしら?」


 俺の視線に誘導されるようにそちらを見て、予備を取りに行かせるように指示をしたんだろう、もうひとり奥へと足早に入って行った。


- ならこのままで問題ありません。じゃ、行きましょう。


 すたすたと、エスコートなんて体裁は考えずにロミさんの手を引いて店の外に出ながら、ポーチに手を突っ込んで転移石版の予備をひとつ取り出してからまた収納しておく。こうしないと現地でリンちゃんとの距離が開きすぎて取り出せなくなる可能性があるからね。一旦俺側の分類にしておく必要があるんだよ。


 「あ、あの、準備って必要だと思うの、え?、それって魔法の袋!?」


- 手を繋いだままがいいですか?、離したほうがいいですか?、それとも抱っこしましょうか?


 外に出て、周囲をちらっと見たけど、通りというかこの店を警護していた、俺が来たときに誰何(すいか)してきた兵士さんが、何事かとその場所からこちらの様子を窺っているぐらいだ。ならこのまま飛行結界で包んで飛べるな。


 「だ、抱っこ?、一体何を…?」


 伝わって無いようだけど、いちいち説明していると兵士か誰かが近寄って来そうなのでさっと包んでそのまま浮かび上がった。

 今回も慣れたテンちゃんの結界だ。テンちゃんの魔力を模倣したものではなく俺の魔力で作ったものだけど、このほうが魔力感知のレベルが一定に達していないひとたちからはその場で消えたように見えるらしいので、都合がいいからね。


- 何をって、飛んで行くんですよ。もう飛んでますけど、手はこのままで?


 と、下を指差す。


 「え?、え!?、浮いてるの!?、浮いてるわ!?」


 下を見て、小さくなっていく店や『勇者の宿』のある村に驚き、手は繋いだままその俺の腕にもう片方の手も添えて寄り添った。

 これは今までに無いパターンだな。しがみ付かれるのを覚悟していただけに。


- 北北西でいいんですよね?、山脈を回りこんだ道のりで800km、直線だと500kmぐらいですか?


 「え?、そ、そうね、それぐらいかしら」


- じゃあこのまま上昇しつつ移動して、それぐらいの距離で一旦降りましょう。ちょうどお昼ぐらいになるはずですから。


 「……(こくこく)」


 口が半開きのまま、小さく頷いたのを了解したと受け取って、加速をした。

 寄り添っているだけの手が腕をきゅっと掴み、握っている手にも力が入ったが、某王女のように肘関節がどうにかなってしまいそうなのや、某名誉司教勇者のようにどうしがみつけば俺の腕が()められて動かせなくなるんだってのに比べると全く可愛いもんだった。


 え?、物足りなくなんてないよ?、考えすぎだよ?

 お姫様抱っこしないのかって?、しないよ?、このひとにそれはまずそうだからね。


 いや何となく。






 「これって通り過ぎてるという事かしら?、それとこの地図、貴方一体何者なの?」


 ここはどうやらアリースオム皇国の首都マッサルクの端から北北西に50kmのところのようだ。上空で地図を描いて3枚目で(みやこ)がわかり、こう言われてしまったので、とりあえず昼食にと一度降下した次第。


 俺は首都って言っちゃったけど、ロミさんは首都とは言わずに(みやこ)って言っていた。『意味はわかるから言い直さなくてもいいのよ?』と、ロミさんは言うけど、そこは合わせるもんだと思うので、以降は(みやこ)と表現するようにしよう。


 この辺りはでっかい岩がごろごろしていて木がちょこちょこ生えている、少し小高い場所で、谷間(たにあい)には川があるようだ。木々の様子からすると、肌寒いけど温暖な気候のようだ。針葉樹がちらほらあるけど落葉樹が多いし、着地した岩の周囲は落ち葉だらけだ。


- ちょっと飛びすぎたみたいですね。でもおかげで場所がわかりやすくて良かったじゃないですか。


 何者とか言われても返答に困る。自分じゃ特別な存在なんて思ってないわけだし、勇者は厳密には人種(ひとしゅ)じゃないらしいけど、それはロミさんだって同じわけだしさ。

 そんな事を考えつつも、着地の時に上側を平らにした岩の上に、いつものようにテーブルと椅子をさくっと土魔法で作り、ポーチからテーブルクロスを出してかけ、昼食を並べた。


 「はぁ…、でもすごい体験だったわぁ、雲の上ってあんななのね、雲から山が出ているのもすごかったわぁ、」


 アリースオムを他の国と隔てている山脈は、2千から5千m級の険しい山々が連なっているもので、なるほど寒い時期にはそりゃ山越えの道が通れなくなるんだと納得が行く自然の要害だった。


 ロミさんはそれを雲の上から観たときは息を呑み、眼下を過ぎるときはじっとそれを見下ろして何も言わなかったが、通り過ぎてからは俺が作った地図を見せろと可愛くねだったり、そうしてアリースオムの領域に入ってから何かと喋り続け、そして通り過ぎたとわかると言ったのが先のセリフだ。

 でも責めたのはその1度だけで、あとは着地してからも景色の賛美が続いていた。


 そりゃ確かにきれいだったよ?、でも俺は何度も飛んで観てきているわけで、それに元の世界でも航空機や衛星からの映像や画像って見てるからね、ロミさんほどの感動も無ければ新鮮味も無いんだよ。


 あ、もしかしたら飛行中に悲鳴を上げなかった女性ってロミさんが初じゃないか?

 そう考えるとすごいかも知れない。


- とりあえず昼食にしませんか?


 「え?、あ、さっきからいい匂いがすると思ってたのよ」


 と、やっと地図や空に思いを馳せていたのをやめて席に着いた。


 「あら、これって流行の、勇者のおすそ分けの品々ね?、勇者って誰の事かしらって思ってたわぁ」


 そう、これはモモさんが出がけにくれた『勇者のおすそ分け』メニューの品々だ。


- では冷めないうちにどうぞ。いただきます。


 「まぁ懐かしいわ、こっちではずっと精霊様への感謝だもの。いただきます。うふっ」


 と言って食べ始めた。


 「食べやすい大きさに切ってくれているのね、あら、こちらのものは『おすそ分け』に無かったわね」


 そう、村のほうには売り出していないものもある。


 「…まぁ、美味しいわ、これ全部貴方が作ったのかしら?」


- いいえ、これらは僕のお手伝いをして下さっている方々が作ってくれたものです。


 そう言うと、大きな目をさらに大きく開いた。


 「ホーラードはそこまで貴方に支援していたの…?」


 ああ、王女(メルさん)をつけたからってそっちに思っちゃったか。

 つけたわけじゃないと思うけどね、結果的に付いて来てるだけで。何故か。


- いえ、ホーラードは無関係ですよ。


 「あら、そうなの?、なら貴方と一緒にいるって言うメイド服の女の子の事かしら?」


 まぁ特にそこは隠して無いからね、情報が伝わってる事自体には驚きは無い。


- そうですね、その関係者たちです。


 「そうだったの…、それってどこの国なのか、聞いてもいぃい?」


 あまり広めたい情報じゃ無いけど、ロミさんも勇者だし、他の勇者(ひと)たちにも言ったと思うから別にいいか。


- 国とかじゃなく、彼女たちは精霊さんですよ。


 言ってみりゃ光の精霊さんの国という事になるんだろうけど、あれって国なんだろうか?、ちょっとわからないからこういう言い方になった。


 「まぁ、冗談がお上手ね」


 ロミさんはそう言って口元に手を当てて笑った。

 そりゃそうだろうね。


 「でも、魔法の袋の事といい、謎があるほうが私も好みだわ、ふふっ」


 詳しく言っていないだけで、謎も何も正直に答えただけなんだが…。


 「それにしても、こんなにすぐに飛んで来れるなんて本当に凄いのねぇ、まるで魔法みたいだわぁ」


 まるで、じゃなく魔法なんですよ…。まぁ当人がそれで納得できてるならそれでいいけどさ。詳しく説明しろと言われると困るしさ。


- まだ帰りもありますし、これから(みやこ)の、ロミさんの家というかお城ですか?、そこに行くんですから。


 「そうだったわねぇ、あ、これって残した分は包んで下さらない?、うちの料理人たちに食べさせたいの。いいかしら?」


 そんなに気に入ってくれたのなら、燻製はリンちゃんやモモさんたちの許可が要るかも知れないけど、それ以外の事なら料理方法とかを書いたものをつけてもいいぐらいだ。


- そのまま収納して、そのまま並べるだけで良ければ。


 「嬉しいわ、ありがとう」


 素直な可愛い笑みで言われた。

 明るいところだとこのひとは本当に可愛らしい。






 それから食後に少し休憩をして、その間に彼女のお城、当人はあまり大きいお城じゃないからホーラードやティルラと比べないでね、って気恥ずかしそうに言っていたけど、そこに着いたらどうするかの予定を話し合い、後片付けをしてロミさんのお城へと向かう事になった。


 その話でちょっと気になってた事を尋ねた。細かい事だけど、ロミさんは『アリースォム』と発音してる。

 他の地域のひとたちは『スォム』がちゃんと言えないのか、『スオム』と言っていたように思う。


 現地の古い言葉で、『アリー』とは統一とか全とかそういう意味なんだそうだ。

 日本語的に言うと『統合スォム』のような意味になるみたい。というか中心となっている場所が『スォム』の地で、『スォ族』が統べているから『アリースォム』という意味もあるとか。ややこしいけどそういうもんだよね。


 『アリースォム』という国の5つの地域は、そこを中心地として治める民族の名前が地名になっている。だから『ビョム』、『タラム』、『ドゥム』、『コァム』というように民族名+『ム』なんだってさ。


 もちろんその周辺には村落もあるし、それぞれに名前があるんだけどそこは詳しくきいてない。ロミさんもそこまで地図なり資料を見ずに(そら)んじているわけではないらしい。覚えていても良さそうだけど、そういう村落は、長となっている者の名前が使われるのが普通で、代替わりをすると名称が変わったりするらしい。長の名前を次の代が引き継ぐと変わらない事もあるが、それは長が没した場合だ。普通に代替わりをすると大抵は変わるんだそうだ。だから覚えるのをやめたんだってさ。


 それと、実は『勇者の宿』の向かいの店は、アリースオムが出資しているらしい。

 毛織物などを直接(おろ)している商会の支店なんだって、あの店。


 あの店の従業員は店長と荷運びと売り子の3人だけらしいけど、アリースオム出身の家系らしい。


 そんなどうでもいい話までしてしまったよ。ははは。






次話4-033は2020年11月06日(金)の予定です。




●今回の登場人物・固有名詞


 お風呂:

   なぜか本作品によく登場する。

   あくまで日常のワンシーン。

   今回も無し。またもやお風呂無し!

   まさかロミと入るわけにはいかないので仕方ないとは言え、

   これは良くないですね!


 タケル:

   本編の主人公。12人の勇者のひとり。

   何だかんだでロミとの時間を楽しんでますよね、こいつ。


 リンちゃん:

   光の精霊。

   リーノムルクシア=ルミノ#&%$。

   アリシアの娘。タケルに仕えている。

   今回は名前のみの登場。


 アリシアさん:

   光の精霊の長。

   全精霊中最古というような存在。実は凄い精霊(ひと)

   だいたい出番なし。無し。


 テンちゃん:

   闇の精霊。

   テーネブリシア=ヌールム#&%$。

   後ろの部分は精霊語のため聞き取れない。

   リンちゃんの姉。年の差がものっそい。

   今回は名前のみ。


 ウィノアさん:

   水の精霊。

   ウィノア=アクア#$%&。後ろの部分は精霊語。

   一にして全、全にして一、という特殊な存在。

   まだまだお仕事中。分体も忙しいのでタケルの首飾りも大人しい。

   忙しいけど話は聞いてたりする。けど名前しか登場せず。


 ミリィ:

   食欲種族とタケルが思っている有翅族(ゆうしぞく)の娘。

   身長20cmほど。

   また(はね)が無い有翅族(ゆうしぞく)に。

   名前も出て来なかったかな!


 メルさん:

   ホーラード王国第二王女。いわゆる姫騎士。

   メルリアーヴェル=アエリオルニ=エル=ホーラード。愛称がメル。

   剣の腕は達人級。

   『サンダースピア』という物騒な槍の使い手。

   実は『サンダースピア』が使い難い雨天は苦手。

   名前のみの登場。


 ハルトさん:

   12人の勇者のひとり。現在最古参。

   勇者番号9番。オオミヤ=ハルト。

   ハムラーデル王国所属。

   およそ100年前にこの世界に転移してきた。

   『フレイムソード』という物騒な剣の所持者。

   今回名前のみの登場。


 カエデさん:

   12人の勇者のひとり。

   勇者番号10番。シノハラ=カエデ。

   この世界に転移してきて勇者生活に馴染めず心が壊れそうだったが、

   ハルトに救われて以来、彼の元で何とか戦えるようになった。

   勇者歴30年だが、気持ちが若い。

   でも言動はタケルからするとちょっと古臭い。

   出番無し。


 サクラさん:

   12人の勇者のひとり。

   勇者番号1番。トオヤマ=サクラ。

   ティルラ王国所属。

   名前だけの登場。


 シオリさん:

   12人の勇者のひとり。

   勇者番号7番。クリバヤシ=シオリ。

   『裁きの杖(ジャッジメントケーン)』という物騒な杖の使い手。

   ロスタニア所属。

   名前だけの登場。


 クリスさん:

   12人の勇者のひとり。

   勇者番号5番。クリス=スミノフ。

   黒甲冑の中身。勇者もこうなると哀れです。

   今回登場せず。


 ロミさん;

   12人の勇者のひとり。

   勇者番号2番。マサダ=ヒロミ。

   現在はアリースオム皇国皇帝を名乗っている。

   登場したと思ったら2話分…。


 コウさん:

   12人の勇者のひとり。

   勇者番号8番。ヨシカワ=コウイチ。

   アリースオム皇国所属。

   名前のみの登場。


 トルイザン連合王国:

   ハムラーデル王国の東に位置する連合王国。

   3つの王国があり、数年ごとに持ち回りで首相を決めていた。

   クリスという勇者が所属している。

   3つの王国は西から順に、アリザン・ベルクザン・ゴーンザンと言う。

   こっちの話は大雨で停滞か。


 保護された2人:

   アリザン軍の指揮官と補佐官。

   また出番なし。そのうちまた出るんじゃないかな。

   いつでるんだろう…?、全く。


 森の家でタケルを出迎えた精霊さんたち:

   モモを筆頭に、ミドリ、アオ、ベニの4名は幹部らしい。

   ミルクは隣に建てられた燻製小屋という名前の食品工場の作業管理責任者。

   ブランはそこで働く精霊さんたちのための寮の管理責任者。

   今回初登場のキュイヴさんは演劇関係施設と演劇関係の管理責任者。

   演劇関係は3章を参照。

   今回出番無し。モモだけ名前のみ登場。



 ※ 作者補足

   この登場人物・固有名詞紹介の部分全ては、

   あとがきの欄に記入しています。

   本文の文字数にはカウントされていません。

   あと、作者のコメント的な紹介があったり、

   手抜きをしたり、詳細に書かれているけど本文には

   無関係だったりすることもあります。

   ご注意ください。




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2019年05月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
なるほど。わかりません。
2020年01月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
同じやん。なるほど。やっぱりわかりません。
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