1ー017 ~ 手土産
雑貨屋でいろいろ見てたら、酢があった。
ワインビネガーと穀物酢の中間みたいな感じ。元の世界で売ってるやつよりも薄いかな。でも使える。
高いけど植物油もあった。油が多く採れる豆があるんだってさ。癖がなくて料理に使うらしい。
そうなるとあとは卵があればアレができるな。マヨネーズ。
あれだよね、ほら、異世界ものの定番、ですよね。
先輩勇者が伝えてないってのも不思議だけれど、もしかしたら他の地域にはあるのかもしれない。
けどまぁ、手作りだし俺ブレンドになるんだし、作って持っていこう。
食料品市場みたいなとこで、卵を探す。鶏とかいねーのかな。
卵あった。けどこれ何の卵?、でかいな。食べれるものなん?
- すみませーん、この卵って、食用ですよね?
「あ、いらっしゃい。そうだよ?、クラダチョウの卵だよ」
- クラダチョウ?
「知らないかい?、有名なんだけどね、二本足で首が長くて、飛べないんだけど走るのが早くて大きな鳥だよ」
あ、それダチョウですね。知ってる。
- あー。あれですか、知ってます。
「そうかい、競鳥ってのがあるんだから見たことぐらいはあるだろうね、で、どうすんだい?、買ってってくれるのかい?」
- あっはい、んじゃ10個ください。
「はい、毎度あり!、って、10個ってったらうちにあるの全部だよ?、お兄さん、そんなに持てるのかい?」
- 大丈夫です。お幾らですか?
「1つ25ゴールドだから全部で250ゴールドだね。はい、えーっと…、ちょうどだね。しかし本当に大丈夫かい?」
お店のお姉さんはお金をざらっと台のところにあるコインストック――と言うらしい。上部のところにざーっとコインを入れると分類して下のストッカーに嵌って行く装置のこと。10枚ずつスコスコと溜まって行くので見てすぐ全部でいくらってわかるようになってる。――に入れて、250枚あるのを確認してから、心配そうに言う。
ちなみに俺は100枚ずつ小分けに端切れ布で包んで縛ってあるので、それを2つと半分渡しただけだ。
リンちゃんの背中のリュックのフタをあけて、ぐいっと口を広げ、順番に受け取って卵を入れていく。
「おやまぁ、それって魔法の袋かい?、話には聞いてたけど初めて見たよ、すごいもんだねぇ」
- お姉さん声が大きいですよ。
と、人差し指を口にあてて言うと、はっとした表情で済まなそうに、
「あ、悪かったね、確かにあまり大声で言うもんじゃなかったね。お詫びにこの実をひとつあげるよ」
- ありがとうございます、これは?
「旅するときにはいいんだよ、疲れがとれるって評判なんだ。でもすごく酸っぱいよ?」
- ああ、そうなんですか、それは助かります。ひとつお幾らなんですか?
「お詫びなんだからお金なんて要らないよ?」
- いえ、そうじゃなく、もう2つほど欲しいので買いたいんですよ。
「あら、そうかい?、んじゃあと2つもおまけしとくよ」
- そんな、悪いですよ。
「いいんだよ、これ正直言うと、酸っぱすぎてあまり売れないんだよ。あはは」
- そうですか、んじゃお言葉に甘えます。
「お兄さん、欲しいって言うぐらいなんだ、もしかしてこの実のいい使い方を知ってるのかい?、良かったら広めてくれると助かるんだけど」
- うーん、薄めて蜂蜜か砂糖をいれて飲み物にするとか、ですか?
「お兄さんどこの金持ちの家に育ったんだい?、蜂蜜も砂糖も簡単に手に入るようなもんじゃないよ?」
- そうですよねー、でも良く冷えた井戸水に、少しだけ垂らすとか、実のかけらを入れるとかでも、暑い日なんかにはいいんですよ?
「それじゃああまりたくさん売れたりはしないかもしれないねぇ、でもありがとう、これから暑い季節になるし、やってみるよ」
- 売れるといいですね。では。
お姉さんに会釈をしてその場を離れた。
●○●○●○●
それから少しうろちょろして、燻製の材料にする木の実が幾つか並べられていたのを見つけたので買うことにする。
リンちゃんに鞄から財布を出してもらったとき、背中から外したその隙を狙われた。
で、数歩も行かないうちに、そのひったくり犯、すっころんでやんの。ははは、ドジだねー、って今すごい音がしなかったか?
「あたしから離れると、この鞄、すごくすごーく重くなるデス」
- なるほどね、それであの音か。んでこいつ何で鞄から手を離さないんだろうね?
「不届き者を逃がさないように、手が離れなくなるデス」
と、薄く笑ってらっしゃるリンちゃん、ちょっと怖いかも。黒リンってやつだなこれは。俺も気をつけよう。
- ははは、そうですか。で、こいつどうしようね?
「盗人は初犯なら年齢の3倍叩かれるデス。常習犯なら片腕切り落とすか魔法の刺青入れて鉱山労働か選ばせるデス、フフフフ」
あら、俺が前に言った脅し文句、覚えてらっしゃったんですね。
ところでリンちゃんさま、先ほどから『デス』のところの発音がおかしくないですかね?
怖いのでそろそろ戻ってきてほしいんですが。
近くのお店のひとが見回りの衛兵さんを呼んだようで、すぐに来た。
それで説明をし、犯人を引き渡した。目撃者も多いしな、調書をとることもなく、話を聞いただけだったが、衛兵さんが納得すればそれで終わりらしい。
その間、ずっと黒リンモードでしたよ。衛兵さん2人とも顔が引きつってたよ…。
●○●○●○●
木の実を買って、宿に戻り、石板を置いて、森の家へ。
ふと思ったんだけどさ、帰りにはどこからでも帰ってこれるとか言ってたよね、んじゃ石板って、ああ、置いた場所にまた戻ってくるためか。
んん?、前に軽く説明されたけど、転移の基点がどうのって言ってたような。あれは…、術者ってことかな?、だからリンちゃん転移のときいつも俺にしっかり抱きついてた…、でいいのかな、たぶん。
まぁいいか。
というわけでマヨを作りましょうか!、光の精霊隊のみなさん!
さぁ、やっちゃってくださいっ!
作り方を説明したら、攪拌なんて魔法でビュイーンてあっと言う間でした。
さすが魔法民族。
訊いてみたけど、この世界にないんだってさ、マヨネーズ。
でも何で無かったんだろうね。
先輩勇者にマヨラーが居なかったのかな?、あ、俺はエセマヨラー?、いやプチマヨラー?、かな。マヨだけ飲むとか食べるとかちょっとムリ。だってほら、醤油だけ飲むやついないよね?、ソースだってドレッシングだって。そういうもんじゃないの?、調味料って。
いや、もちろん人それぞれだから好きにすればいいけどさ。
で、卵がでっかいので、卵1つ分で直径25cmぐらいの壷――もちろん土魔法製――にたっぷり半分ちょいできた。
味見はちょっと怖いので、明日出かける前にちょっと味見してみて、調整すればいいかなって思ってる。
なので最終調整は明日やるけど、先にとりあえず卵10個分、つまり壷10個分、つくったわけだが、1つは持ち歩くとして、2つぐらいこの家においといて、7個を手土産にしようか、そうしよう。
家の外で、今日買った剣とバックラーを装備して、型を練習する。
と言っても、両手剣の型なんてよくわかんないから、なんちゃって剣士の我流でしかないんだけどね、片手剣のときに基本を教わったんで、それに似せた感じで振るだけ。
最初はゆっくりと、しっかり型というか剣の通り道を覚えて、だんだん早く素早く振る。この時にひっかかりというか、振り辛いなとか思ったら、また型を訂正してやりなおし。それでだんだんスムーズに素早く剣を振ることを体に慣れさせ染みこませていく、ってのが兵士さんたちに教わった方法なんだ。
基本的にどんな武器でもそうやって慣らしていくんだってさ。
毎日やること。
剣は自分を守るものだし、頭で考えるよりも早く反射的に体が動くぐらいにしておかないと、咄嗟に動けない。
本当に危険が迫ったときにこそ、そういう毎日の地味な訓練が生きてくる。
ってグレンさんとかが言ってた。
だから今まで言ってなかったけど、ちゃんと教わってから毎日やってるんだぜ?
それをリンちゃんは近くでいつも見てる。
いや、見守ってくれている、って感じかな。
夕飯のとき、焼きたてのパンがでてきてびっくりした。
台所にパン焼き窯ができてた。
んじゃそのうちピザができるな。楽しみにしとこう。
あ、でもトマトソースがないわ。トマトみたいなのどっかに無いかなー?
また市場でもうろついて見つけたらいいな。
チーズはあるんだけどなー、何の乳かわかんないけどさ。
あっさりしてる味のチーズは豆のものらしい。豆乳があるんだもんな、豆腐もあるし。
相変わらず何の豆か知らないけどね。
眠るまでの間は、リンちゃんも含めて精霊さんたちといろいろ話をした。
俺がこっちに来てからのこととか、元の世界の話とか、すごい食いつきだった。
どっちかってーと、こっちの世界のことや魔法のことを聞きたかったんだけどなー。
ちょっとしか話にでてこなかった。
翌朝、朝食を食べたら里へおでかけだ。
作ったマヨを味見してみた。塩がもうちょっとあったほうがいいかな?、って思ったので全部に少しだけ塩を足して攪拌してもらった。
え?、まだ俺にはちょっと加減ができないんだよ。要練習だな。
そんでこの家に置いとく分からマヨを解禁した。
もちろん朝食のサラダとハムとパンに。あ、ハムはでっかい燻製肉のスライスな。
そしたら精霊さんたちったら、マヨにすっかりハマってしまった。
燻製肉にスゲー合うみたいで、試食とか言って、あれこれ付けて食べては幸せそうな笑顔してんの。
作った俺としても嬉しいんだけどさ、朝からそんなに食べて大丈夫なん?
20180814:空行を1つ追加。





