表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
217/321

4ー029 ~ 足止め・ミリィの服

 「全く、何だってんだい!?」

 「この霧は通常の霧ではないようですよ、おひい様」

 「そんな事はわかってるんだよ!」

 「あぁっ、お許しを!」


 8名の小集団が、完全では無いと言っても目的はほぼ達成したと見て本国へと戻る途中、急に降り出した雨で少し速度を上げたものの、これ以上の移動は困難と判断し、急場凌ぎの小屋を建て、暖炉らしき部分に火を(おこ)して何とか一息ついた所だった。


 ここはトルイザン連合王国とハムラーデル王国の国境から直線で(およ)そ30kmの地点、ダンジョンからであれば20kmほどの場所だ。


 『おひい様』と呼ばれた女性に杖で殴られた女性。どちらも他の6名よりは年嵩(としかさ)な見かけだがその身に纏うものが異なっている。上等そうな生地がそこそこ多く使われた、森を歩くには適していない服装なのはこの小集団の女性全員に言えることだが、この2名だけは他よりも目立つ。

 片方は濃い紫を基準に赤黒い布飾りや帯の服装で、どちらにも金糸や銀糸で縁取りや刺繍がされており、頭や首には宝飾品、杖は床から彼女の肩ほどの長さで杖飾りはいくつかの鈍く光る石か宝石がはめ込まれた物という、その身分の高さを表しているような様相だ。

 もう一方は濃紺を基準とした黒い帯のローブに飾り帯を首からかけていて、やはり金銀の糸で縁取りや刺繍がある。普段は袖に隠れて見えないが、細い腕輪を連ねたものを着けているのが指輪がいくつかある手をあげたときに少し見えた。


 この小集団はこの2人の他は黒い甲冑姿の者と5名の女性たちで、その女性たちは髪形も服装も装飾品も全て同じように揃えられていた。

 そして黒い甲冑姿の者以外に共通している事がある。


 それは、程度や属性の差こそあれ、彼女たち7名はそれぞれ魔法が扱えるという事だ。


 だいたいこの様な整備もされていない古道や山林を移動しているというのに、5名のうち2名が中程度の背負い袋を持っているだけで荷車や馬なども無いというのは明らかに普通では無い。

 だが、魔法で広く台を造り土壁を立て、黒甲冑が切り倒した中程度の木を柱に防水布を屋根とした小屋が手際よくできたところを見ると、彼女らには慣れた作業だという事がわかる。そしてテーブルと椅子などの調度品を作り上げた5人がそれぞれ壁際の長椅子や床でぐったりとしているのは、この旅の疲れだけでは無いだろう。

 それを注意もせずにテーブルの席に座った『おひい様』と呼ばれた女性にとっても、彼女らの態度は仕方の無い事だと理解されているという事だ。


 「これだけ濃密な魔の気配に、この私が気付かないと思っていたんじゃないだろうね!?」

 「そんな事は絶対に。おひい様の杖にも反応が窺えますから。ところでこのような大規模な魔法展開、ハムラーデルは何をしたのでしょうか…?」


 小屋に窓は無いが、濃霧の方向、つまりは進む道の先へと視線を送って言った。

 彼女は最初は『おひい様』の座る横に立っていたが、先ほど()たれて倒れてからは床に(ひざまづ)いて話している。


 この辺りに小屋を造ったのは雨が弱くなっているのと、次第に視界が狭められ自分の足元すら見えなくなってしまうような濃霧が薄い場所という、境界線だろうか、そういう場所だからだ。


 「ふん、そんなもの、『竜に(あだ)為す魔の者』に決まっているじゃないか」

 「それって地下の例のあれでしょうか」

 「何言ってるんだい!、竜とは(すなわ)ち我が国、ベルクザン王国の事だからね。あの封印で動けない竜の言いなりになっているわけじゃないからね!」

 「そ、それはもちろんわかっております、おひい様」


 取り繕ったように言ったがそこには触れられなかった。


 「神殿の連中め、封印が解けたなどと大騒ぎしよってからに。解けたなら動けるはずではないか。『お声を賜る事ができました』と言っておるがそんなもの確かめようが無い。だいたいそれを言っておる竜の巫女など本物かどうかすらわからん。その者にしか聞こえないなど、詐欺師の(たぐい)と何が違うというのか」

 「おひい様、神殿への批判は、あうっ!」

 「うるさいね!、こんな所に神殿の耳なんてあるわけがないだろう!」






 その様子を何となく見ていた5名の女性たち。髪型と服装は同じだが背格好は異なる。身体を休めてだらけた姿勢にもそれぞれの個性が出ていた。

 仕切りなどの無い広めの部屋ひとつに居るのだし、他に見るものも無いので聞くとも無しに聞こえてしまったのだ。


 「また()たれてますね…」

 「痛そうです…」

 「私、筆頭魔道師じゃなくて良かったです…」

 「あれはクラリエ様の仰り方が良くなかったのでは?」

 「でも、()たれないのはそれはそれで寂しいって仰ってましたよ?」

 「「「えっ?」」」

 「あ、わかりますそれ」

 「「「えっ!?」」」

 「だって、()つ場所だって急所を避けておられますし、ちゃんと加減されておいでですよ?」

 「そうなの?、でも痛そうよ?、クラリエ様いつも倒れてらっしゃいますし…」

 「あれって演技でしょ?」

 「そうですよね」

 「やっぱり…」

 「そうだったのね」

 「うん、だから私たちが心配するような事じゃないと思うの」

 「ではあれは一体…」

 「お約束、という事ですよ。態々(わざわざ)そういう言葉を選んでらっしゃるようですから」


 何だか業の深いものを、知りたくない世界の話を知ってしまったかのような、そんな表情をする5人は、そろそろ姿勢を正して座るぐらいまでは回復してきたようだった。






 トルイザン連合王国を構成する3つの王国。その中央部分であるベルクザン王国。ここにその神殿がある。神殿というからには神か何かを信奉する宗教が存在するのだが、ここは竜神を(まつ)っているのだ。


 精霊信仰が人種(ひとしゅ)にとって大多数なこの世界で、異端とも言えるこの宗教そして神殿が堂々と首都に、それも結構広い敷地で存在し続けているのには理由がある。

 まず、建国以前から存在した宗教であり神殿もそこにあったとされている事がひとつ。宗教の多様性によって国政から遠ざけた施策を採った王が過去に居た事も理由のひとつだろうか。多様性を認め、むやみな宗教対立を禁じ、複数の宗教に所属し参拝することを奨励したというのもあるだろう。一部の、武を重んじる国民性に合致していたのかも知れない。

 ともあれ、この国では外から入ってきた精霊信仰より古いというだけでも、この神殿には権威があるのだ。


 ところで『封印で動けない竜』とは何か。

 それは神殿の地下深く、厳重に封印されていた場所に鎮座している氷漬けの竜の事だ。

 神殿の者らが御神体と呼ぶこの竜は、生きているのか死んでいるのかまだ判っていない。氷漬けなのだから当然だし、この氷はどうやら封印装置による魔法的なものであって、周囲で火を焚いても空間を暖めても一向に溶ける様子が無いらしい。まさか御神体に向けて魔法をぶっ放したりハンマーを振り上げたりするような罰当たりな事は、神殿の聖域とも言えるこのような場所に入れる者らにはできようはずも無いから試してすらいない。


 竜の巫女と呼ばれる少女が本物であれば、意思があるのだろうから生きているという事になるが、先の会話にあったように、他にそのような『声』が聞ける者が居ないので、これもまたはっきりとはしていない。


 封印が解けたと言っているのは、この氷漬け竜がある空間へとつながる扉の封印の事なのだ。竜自体の封印の事では無い。

 つまり、竜が発見されたのもつい最近の話だという事だ。






 ベルクザン王国では紋章に竜が使われているというのも、神殿がこの竜を神聖視し御神体と呼ぶ理由となっている。

 もともとは竜を退治する、竜をも凌駕するほどの戦士の伝説からきたものであって、その当時考案された紋章は、鋳造や彫金などの技術面から簡略化せざるを得なかったため、幾つか案が出された候補から選ばれたのが肩口から袈裟(けさ)斬りにされた竜だったのだ。

 それがいつしか、戦士も剣も紋章から(はぶ)かれ、切り口は斜め帯飾りをつけた竜という意匠になってしまったという、全く逆方向になったのだからひどい歴史もあったものだ。


 そしてそんな風に神殿勢力が盛り上がってくると、大きな顔をしていろいろな事に口出しをしてくるようになるのも世の常というものだ。

 この竜神信仰宗教もその例に漏れず、御神体への参拝という名目でその証拠を見せるため、国の有力者たちを入信させ、多額の寄付をせしめて信者位階(クラス)のようなものの段階を上げさせてからその氷漬けの竜を彼ら彼女らに見せた。


 完全に透明ではない氷漬けになっているので多少は実物より大きく見えるという視覚効果もあるが、実際その竜は大きい。どういう状況でそうなったのかはわからないが、入り口近くにある封印装置を睨みつけ、戦闘態勢のようにも見えるその威容は、後ろ足で立ち上がっており口は少し開いていて恐ろしい大きさの牙が並んでいるのが氷を通して見えている。

 空間に入った者が、大きな封印装置によって遮られていた視界にその氷漬け竜が入った途端、驚きと畏怖を感じるのは仕方の無いことだろう。演出にしてもできすぎと言える。さぞかしここに来るまで懐疑心を捨てきれず、多額の寄付を数回要求してきた神殿への不満をもっていた事などふっ飛ばす程の衝撃を与えた事だろう。


 そのような訳で、有力者を取り込む事で急激に潤沢な資金を手に入れ、それら有力者に対して宗教的には位階が上という立場となった神殿勢力は、古書の記述を抜粋してそれを理由にしたりしながら、軍事や国事に口を出すようになったという次第だ。






 「先にアリザバへ向かわせた4人はこの霧を抜けたんだろうね?」


 漸く茶を淹れる分の湯が沸き、冷えた身体を芯から暖める茶を啜りながら『おひい様』が隣に立つクラリエへと問いかけた。


 「おそらくは。雨と霧の発生が同時だと仮定すれば充分に間に合っていると思われます」


 他の者たちへの分も器に注ぎ、盆に載せて取りに来させる指示をしてからクラリエが答えた。


 アリザン軍が行軍の折に放っていた斥候を4名、捕らえて魔法的に暗示をかけ、そのままアリザン本国首都、アリザバへと向かわせたのは黒甲冑の戦闘開始直後だ。

 それから2日は経過している現在、この霧がどこまで続いているかはわからないが、彼ら斥候職が急いで移動した距離以上の範囲があるとは彼女らの常識的には考えにくい事だった。


 「ふぅん…、本国への連絡は?」

 「同時に。山小屋の周囲を警戒していた斥候兵を走らせました」

 「ああ、そうだね。やつらが遺品を漁っている間はこちらに兵を()く余裕はないだろうね。だけどそれじゃあ道案内はどうするんだい?」


 来る途中はそれら斥候兵による古道の探索と案内が必要だったのだ。


 「要所に(しるべ)を設置しておりますし、地図もございますので大丈夫ですよ、おひい様、あうっ!」

 「そういう事はもっと早く言いな!」


 おひい様と呼ばれる女性はぶつぶつと、したり顔で言う所が気に入らないとか無用な心配をさせるんじゃないよとか言いながらテーブルに向き直ってお茶を飲んだ。

 わざわざ隣に立てかけていた杖を手にしてクラリエを突いたのは、一瞬の早業(はやわざ)だった。


 「まあいいわ、この雨では彼奴(あやつ)らも動けまい。雨が上がっても、これほどの雨の後では移動もままならぬよ。我らも動きづらいが、こちらは霧が晴れたあとなら然程(さほど)でもなかろう。充分に時間が稼げる。天候が我らに味方してくれたようじゃ」

 「はい、そうですね」


 茶器や茶葉など、荷物から取り出した様子も無い事からもわかるように、どうやらこの一行は魔法の袋を持参しているようだ。おそらく食料の心配もしていない事から、そこにはまだ余裕のある蓄えが入っているのだろう。


 しかしこの小屋、広めとは言っても1部屋しかない。キッチンもトイレも浴室も無い究極のワンルームだが、これから数日間、一体どうするのだろうか…?






●○●○●○●






 雨の中、特に外に出てすることも無いので、俺たちは砦の中庭に造った柱の上の部屋で暇を持て余していた。

 というのも、カエデさんが『ハルトさんたちが落ち着くまで待って下さい』って言うもんだから仕方なく待機状態なわけだ。そう頼んだ当人もここに居るのはいいんだろうか?、と思わなくも無いんだけどね。


 俺はすぐにでも『勇者の宿』に戻りたい、戻った方がいいんじゃないかって思ってるんだけどね。大雨だし。リンちゃんがこの小屋にホームコアを設置したし家具も出してくれたので中は快適ではあるんだけど、それでも外が大雨なのは気が滅入るからね。


 そんでもってソファーに座ってカエデさんから借りた本を暇つぶしに読んでるわけ。

 勇者姫シリーズの狼王と勇者姫ってものだった。文字の密度も多くてページ数も多めだ。カエデさんが『これなら読み応えありますよ』と笑顔で渡してくれただけあって、前半はなかなか熱い戦いが繰り広げられていた。何度か戦い、狼王に認められて手を取り合い、ロスタニアに攻めてきた原因となっている大型の魔物を退治して狼王の領域を取り戻す、というところまで読んでるとこ。


 テンちゃんはそんな俺に寄り添って座って密着してるよ。一緒に読んでるらしい。時々『次のページをめくるのじゃ』と、熱中しているようで俺より早く読んでは催促してくるし。


 「メルさんがやってるみたいに2つの(たま)をぐるぐるするの、あたしもしてみたいんだけど、どうやるんですか?」

 「これですか?、これをするには最初にひとつ土球を作って浮かせる事から…」


 メルさんが向かいでいつもの、土球を浮かせてその周囲に水球をぐるぐる回す訓練をやっているのを見て、カエデさんが教えを乞うていた。


 リンちゃんのほうは、家事が一旦落ち着いたのか、部屋の隅に小さなテーブルをエプロンのポケットから出して置いたので、殺風景な部屋だし花瓶でも置くんだろうか?、って思ったら、ミリィを呼んだ。


 「ミリィ、こちらへ」

 「はいリン様」


 俺の前でクッキーをがじがじと食べ、給水器から自分で汲んできた水を飲んでいたミリィが、呼ばれてすぐ飛び上がり、ぱっぱと手で服や口元を払ってからふよふよと部屋の隅へと飛んで行った。ああもう、テーブルの上にクッキーの粉を散らすなよ…。


 そして部屋の隅の小さなテーブルに着地してリンちゃんを見上げた。


 「お前の服を荷物に紛れて回収してしまったと聞きました。急いでいたとは言え確認せず悪い事をしたと思っています」

 「もったいないお言葉です、服はタケルさんに作って頂けましたし、大丈夫です」

 「そのようですね、こちらが貴女の服です。今着ている服は着替えて私に見せるのです」


 見せなさい、だと命令になるからかな。たぶん。


 「え…?、あの、返して頂けるのは嬉しいです。でも、この服は生地もいいですし着心地も良くて暖かいので気に入っています、脱ぎたくないのです、お許しを」


 ミリィが平伏してリンちゃんに訴えている。


 「ではそのままで構いません、立ちなさい。少し触れますよ、よく見たいのです」

 「は、はい、わかりました、どうぞ」


 立ち上がったミリィに両手を広げさせ、布をめくったりして『ふむふむ』とか言ってるリンちゃん。なんだか人形(フィギュア)の服を検分してるマニアの人のようだ。


 そんなまじまじ見られるとミリィもだろうけど、服を作った俺の方も何だか恥ずかしくなってくるな…。






 俺がそういう服を作れるのは、元の世界にいた頃、必要があってやっていくうちにできるようになった事なんだ。


 家の前の公園にある集会所でちびっ子たちの面倒を見ていたときに、女児たちが遊ぶ人形や、手を突っ込んで遊ぶ劇用の人形を修繕したり、新たに作る必要があって、小学校んときに使ってた裁縫道具箱を持ってきて何とかやってたんだけど、その時はあまり良い出来でも腕でもなかった。まぁ今だってそれほど自慢できるような腕じゃ無いと思ってるよ?


 で、ちびっ子の親たちの中にはお裁縫が得意なひともいるので、そういうひとに教わったり、人形関係のセミナーなんかを開いてもらったりと、何かとちょくちょくそういう機会に恵まれたってわけ。


 特に、人形劇用のは手を突っ込んで遊ぶもんだから破れたり解けたり取れたり汚れたりと、まぁ修繕の機会は多かったもんだ。もちろん元の世界なのでミシンだってあるし、俺だけで全部をカバーしていたわけじゃ無い。それに、人形だけじゃなく、ちびっ子たちが着てる服だって破れたりボタンが取れたりアップリケが取れたりなどいろいろだったからね。

 そんな風に日々何らかの理由で裁縫の機会ってもんがあったってわけ。






 ミリィの元の服はリンちゃんがまたエプロンのポケットに入れたので、こちらのポーチから出してみた。いやほら、ミリィに作った服のさ、端の処理がいまいち納得行ってないんだよね。だから元のはどうなのかなって気になってさ。


 「早く次のページを…、ん?、其方、それはミリィの服ではないか。やはりそのような趣味が…?」


 ひざに置いて広げた本をよそに、ミリィの服を裏返したり覗き込んだりして構造や縫い目などをよく見ていたら、テンちゃんがそんな事を言った。だからそのような趣味ってどういう意味だよ…。


- いやちょっと待って、人聞きの悪いことを言わないでくれないかな。


 「そのように服の裾をめくるなら、ほれ、ここにあるのじゃ、存分にめくって愉しむが良いのじゃ」


- 違うってば、そんな、スカートをめくるのが趣味みたいに言わないで。布の端の処理をどうしてるのかなって気になっただけだから。


 テンちゃんのスカートをめくったら中身があるじゃないか。しかも、前に肩車したときの事を思い出したけど、下に何も着けて無かったよね?、ノーパンだよね?、いくらなんでも、って、ノーパン関係なくそういう事しちゃダメだろ。


 「ふむ、なら(われ)の服の端の処理も興味があろう?、構わぬゆえめくるが良いぞ?、何なら襟元でもどこでも、心行くまで好きなようにめくるのじゃ」


 何ていかがわしい。言い方ひとつでこうも違うのか。


- もうちょっと言い方に気をつけようね?


 「しかし興味があるのであろ?」


- 服にね?


 「許すと言っておるのじゃぞ?」


- それで、着たままそれをやれと?


 「部屋でふたりきりなら脱がせて存分に検分すれば良いのじゃ。(われ)も、(われ)の服も、欲望のまま好きに見て良いのじゃ」


 欲望てw

 方向性が変わってるじゃないか。

 向かいのメルさんとカエデさんは頬を染めて手を止めてしまっていて、メルさんの土球は落ちて太ももで跳ね、ソファーの上を転がっていたし、水球はその太ももを少し濡らしていた。

 リンちゃんは『またですかお姉さま』とでも言いそうに肩を落としてため息をついていたし、ミリィはによによと笑みを浮かべてこっちに飛ぼうとしていたのをリンちゃんに捕まっていた。


- あのね…、ほら、そんな事を言うからみんなこっち見ちゃってるじゃないか。服の話だからね?、勘違いしないで下さいね?


 向かいのふたりを見ながら言うと、小さくこくこくと頷きながら目を()らされた。

 本当はわかってるけど、テンちゃんのセリフから想像した情景が頭から離れないんだろうか。メルさんはそうしてるとヤバいぐらい可愛いね。普段とのギャップで。恥らうお姫様だよ。


 「ふふっ、めくりたくなったらいつでも言うのじゃ」


- はいはい、じゃあこっちをめくりましたから、続きを読んで下さい。


 ページをめくり、テンちゃんに(うなが)した。


 「そういう意味ではないのじゃ…」


 テンちゃんはそう呟いたが、続きを読むことにしたようだった。良かった。

 向かいのふたりも続きをし始めたし、リンちゃんのほうも捕まえたのをいい事にそのまま手で支えたミリィをひっくり返したり裏返したりしていた。『あぅ』とか、『ひゃっ』とかミリィが言ってるけど、全然気にしていないようだった。もうちょっと優しく扱ってあげて欲しい。


 俺のほうは、やっとちゃんとミリィの元の服を調べる事ができた。

 端の処理、って思ってたけど、これ、端を縫ったりしてないんだな。布を作る段階で端なんだ。縫うほうの参考にはならなかった。

 でも構成のほうで縫い目はあった。身長20cmほどの有翅族(ゆうしぞく)が作るだけあって縫い目が細かかった。ちょっとこれを真似るのは大変すぎる。意外としっかりとした作りになっていたのには感心したけども。


 そしてひざの上に広げた本のほうに目をやると、そこには濡れ場表現が展開されていた。

 え?、さっきまでそんなんじゃ無かったよね?、と、隣で鼻息が荒くなってる理由がわかってしまった。

 と言っても直接的なエロ表現じゃなくて、婉曲的になんだけどさ、いあいあ、もしかしてさっきまでのページでも俺は適当に読み流してたけど、そういう前振りだったって事?、急にテンちゃんが、ああ、ミリィの服のスカート部分をめくってた俺という切っ掛けがあったにせよ、あんな風に誘ってくるなんて、と、…ん?、考えてみりゃテンちゃんはいつもの事だったか。

 でも、この本という要因があったからあんな話になったんじゃないか?


 いやまて、今の状況って、エロ小説をふたりで読むという何とも恥ずかしい事をやってるんじゃ…?


 カエデさんさぁ、本を貸すなら内容を選んで欲しかったよ…。






次話4-030は2020年10月16日(金)の予定です。


20201009:誤字訂正。 反らされた → 逸らされた



●今回の登場人物・固有名詞


 お風呂:

   なぜか本作品によく登場する。

   あくまで日常のワンシーン。

   今回も無いけど…。


 タケル:

   本編の主人公。12人の勇者のひとり。

   案外器用ですよね、このひと。


 リンちゃん:

   光の精霊。

   リーノムルクシア=ルミノ#&%$。

   アリシアの娘。タケルに仕えている。

   タケルがデザインしたミリィの服を詳しく観察している。

   まさか…?


 アリシアさん:

   光の精霊の長。

   全精霊中最古というような存在。実は凄い精霊(ひと)

   だいたい出番なし。名前だけ登場。


 テンちゃん:

   闇の精霊。

   テーネブリシア=ヌールム#&%$。

   後ろの部分は精霊語のため聞き取れない。

   リンちゃんの姉。年の差がものっそい。

   密着。タケルがうらやましいね。


 ウィノアさん:

   水の精霊。

   ウィノア=アクア#$%&。後ろの部分は精霊語。

   一にして全、全にして一、という特殊な存在。

   絶賛お仕事中。


 ミリィ:

   食欲種族とタケルが思っている有翅族(ゆうしぞく)の娘。

   身長20cmほど。

   また(はね)が無い有翅族(ゆうしぞく)に。

   珍しく語尾に『かな』が無い回。


 メルさん:

   ホーラード王国第二王女。いわゆる姫騎士。

   メルリアーヴェル=アエリオルニ=エル=ホーラード。愛称がメル。

   剣の腕は達人級。

   『サンダースピア』という物騒な槍の使い手。

   実は『サンダースピア』が使い難い雨天は苦手。

   恥らう王女w


 ハルトさん:

   12人の勇者のひとり。現在最古参。

   勇者番号9番。オオミヤ=ハルト。

   ハムラーデル王国所属。

   およそ100年前にこの世界に転移してきた。

   『フレイムソード』という物騒な剣の所持者。

   このひとも絶賛お仕事中。


 カエデさん:

   12人の勇者のひとり。

   勇者番号10番。シノハラ=カエデ。

   この世界に転移してきて勇者生活に馴染めず心が壊れそうだったが、

   ハルトに救われて以来、彼の元で何とか戦えるようになった。

   勇者歴30年だが、気持ちが若い。

   でも言動はタケルからするとちょっと古臭い。

   実はわざとそういう本を渡した。

   もちろん勇者姫シリーズなので登場してるのは勇者シオリ。


 ネリさん:

   12人の勇者のひとり。

   勇者番号12番。ネリマ=ベッカー=ヘレン。

   ティルラ王国所属。

   今回登場せず。


 シオリさん:

   12人の勇者のひとり。

   勇者番号7番。クリバヤシ=シオリ。

   元の世界での苗字は当人が知らないのでこの世界に来てから付けたもの。

   現存する勇者たちの中で、2番目に古参。

   『裁きの杖(ジャッジメントケーン)』という物騒な杖の使い手。

   現在はロスタニア所属。

   勇者姫シリーズと言えばこのひと。カエデは大ファン。


 中庭に造られた小屋:

   ハムラーデルのトルイザン連合との国境砦に2つある中庭に、

   タケルが造った小屋。

   壁際の隅に3本、柱を立ててそれを支柱にして上に建設した。

   ゆえに中庭自体の面積は圧迫していない。

   最初は部屋だけだったが、風呂とトイレが増設された。

   現在はリンによってホームコアが設置され、室内はとても快適に。


 トルイザン連合王国:

   ハムラーデル王国の東に位置する連合王国。

   3つの王国があり、数年ごとに持ち回りで首相を決めていた。

   クリスという勇者が所属している。

   3つの王国は西から順に、アリザン・ベルクザン・ゴーンザンと言う。


 アリザバ:

   トルイザン連合王国のひとつ、アリザン王国の首都。

   余談ではあるがベルクザンの首都はベルクザバ、

   ゴーンザンの首都はゴーンザバという。

   ちょくちょく名前が出るね。


 保護された2人:

   アリザン軍の指揮官と補佐官。

   また出番なし。そのうちまた出るんじゃないかな。


 おひい様と呼ばれる女性:

   ベルクザン王国のえらいひと、でしょうね。

   おひい様なんだから姫様なんでしょう。なら王族ですかね?


 クラリエ:

   ベルクザン王国、筆頭魔道師、らしい。

   マゾいですね。


 容姿の揃った5人の女性:

   クラリエの部下たちでしょうか。

   筆頭魔道師の部下なんだから魔道師たちですね。


 黒い甲冑のひと:

   セリフ無いですね。

   最強の人形って言われてましたけど。

   中身はまぁ、お察しの勇者クリス。


 クリスさん:

   12人の勇者のひとり。

   勇者番号5番。クリス=スミノフ。

   黒甲冑の中身。勇者もこうなると哀れです。

   登場してるけどセリフも意思も無いですね。

   中身は暗闇空間っぽいですし、時間の感覚も無さそうです。


 ロミさん;

   12人の勇者のひとり。

   勇者番号2番。マサダ=ヒロミ。

   現在はアリースオム皇国皇帝を名乗っている。

   今回も出番無し。

   なのに何故、ここに記載されているのか。



 ※ 作者補足

   この登場人物・固有名詞紹介の部分全ては、

   あとがきの欄に記入しています。

   本文の文字数にはカウントされていません。

   あと、作者のコメント的な紹介があったり、

   手抜きをしたり、詳細に書かれているけど本文には

   無関係だったりすることもあります。

   ご注意ください。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

小説家になろう 勝手にランキングぅ!
小説家になろうアンテナ&ランキング
ツギクルバナー
2019年05月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
なるほど。わかりません。
2020年01月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
同じやん。なるほど。やっぱりわかりません。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ