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4ー024 ~ 夜のデート

 それからは鳥型の魔物を処理する毎日だった。


 変わった事というと、早朝未明からメルさんとカエデさんが訓練というかもうあれは特訓だろう、そんな感じのハードな訓練をするようになった事。落ちた鳥を処理する手伝いの兵士さんたちの人数がかなり増えた事。魔物が減るに従って、ミリィが残敵掃討にかなり貢献するようになった事かな。


 訓練にはハルトさんも参加するようになったようで、俺もどうかとメルさんから言われたが、カエデさんとリンちゃんに袖を引っ張られて『ダメですよ』と()められていた。

 え?、俺はダメなん?、って思ったけどまぁ未明からハードな訓練はちょっとなぁと気が進まなかったので助かったと思う事にした。


 あとでこっそりテンちゃんが、『其方を早朝から疲れさせる訳にはいかぬからなのじゃ』と教えてくれた。他にも、いろいろな準備や家事で起きているリンちゃんがちょくちょくその訓練、魔法に関してのほうに助言をしているらしい事も言っていた。

 って、ハードだとは魔力感知で様子を知ってたけど、そんな疲れるほどやって大丈夫なのかな。と、つい疑問を呟いてしまい、『うむ。これは推測じゃが』と前置きをしてから話してくれた。


 いまは、鳥型の魔物処理を手伝っている兵士さん他を軽く見回るぐらいしかする事がない。見回るだけなのは、彼らの稼ぎの邪魔をしないようにするのと、勇者が見回って護衛をしているように見せるという意味があるそうだ。


 俺がここに居て、空中を飛び回っている間は魔物が出てきても俺がさっと行って片付けてしまうので出番が無いんだと。実際あれから2度あったからね。

 それで俺にそっちを任せている間に少しでも強く、主に魔力関係のほうを伸ばしておこうという考えなのではないかという話だった。


 先輩勇者が魔法に関しての力を伸ばしてくれるのは俺としても最初から考えていた事でもあるし、やる気を出しているなら水を差すことも無い。『其方の計画通りじゃな、ふふふ』とテンちゃんは不敵な笑みを浮かべていたけど、俺がそういう考えだってこと、テンちゃんに話したっけ…?






 それはいいとしてミリィのほうはと言うと、俺たちには聞こえない鳥型魔物間の通信が、もちろん内容はわからないけど聞こえるので、普通の鳥の声がしていなくてもミリィには聞こえる音がすると、そこを中心に上空からテンちゃんの魔法で黙らせる事ができる。というセンサー役をこなしてくれている。


 何度もやっていくうちにテンちゃんは、その魔法に改良を続けていってくれていて、手早く、は前からそうだったけど、効率よく、より広範囲に効果を発揮するように工夫を入れているので、朝昼2回だけじゃなく、処理の終わった範囲でも、そしてひとが範囲に居ても問題なくその魔法を使う事ができるようになった。

 そのおかげで処理済の範囲に新たにやってきた鳥型の魔物をも落とせるようになっていた。






 手伝いの兵士さんたちは朝から総出(そうで)じゃないけど、騎士団の拠点から周囲へとまるでローラー作戦のように朝から動き、処理をしてくれている。

 そこには残っていた従軍商人などの一般人まで混ざる始末で、俺は一体何人が処理をしてくれているのか人数を知らない。索敵時には除外(フィルタリング)してるからね。

 そのひとたちは騎士団に売らずに加工して国境の砦へと運んでいるのも居るらしい。輜重隊のナーデルさんが笑いながら言っていた。


 その輜重隊からもかなりの人を出してもらうようになり、5体を束にしたものであれば随時買い取り受付をするようになった。荷車を複数出してそれで貯まればもっていくような仕組みになったようだ。

 リンちゃんとメルさんの2人も、輜重隊の買取場所から遠いひとたちのところへ行き、買い取り窓口になることで運搬の負担を減らしてくれている。


 そういう風に分担ができて、ある意味パターン化された仕組みが一旦できあがると、軍というか騎士団という集団は威力を発揮するね。一般人が混ざってようが、素人が参加しようが、そんなのも仕組みに取り入れてしまうし、いつの間に連絡をしていたのか国境砦からも応援が、近く、と言っても結構距離があったように思ったんだけど村や町からも応援が来て、それも騎士や兵じゃなく、ヒマを持て余していたようなひとたちまでもが食い扶持を求めてなのか、やって来ていた。


 食い扶持ってったって、短期間だしそれほど稼げるわけじゃなかろうにね。あ、食い扶持を求めてとか言ったのは輜重隊のナーデルさんね。まぁ、話によると中にはそのまま騎士団なり商人のところなりに就職しちゃうひとも居るらしいので、あながち誇張でもないみたいだけども。






 ところでこれらは全て昼間、朝から暗くなるまでの間の話だ。

 では、夜の間はどうなんだというと、実はテンちゃんが頑張ってくれていた。


 と言っても監視面での話だ。


 夜中に起こされて、掃討し終えた範囲に魔物が侵入したから連れて行けと言われ、場所を教えてくれたら僕だけで行って来るよ?、と返したがしがみ付かれて離してくれないので一緒に行った。


 森林だからか、それとも単に気候的なせいか、薄く(もや)のかかった森の上、曇り空の下、夜の闇を飛び、視覚だけだと方向感覚がおかしくなりそうなのを、テンちゃんの指示に従って飛んだ。


 少し飛ぶだけで、ジャイアントリザード(トカゲ)が5体、地を這うように進んでいるのを感知したので、なるほどこれかと思ったら『そこで止まるのじゃ』と言われるまま停止した。


 どうするのかなってテンちゃんを見下ろすと、俺に抱きついていたのを放して前に出て(もた)れ、『支えるのじゃ』と言われたので両肩にそっと手を添えると、『そうではなく腰を支えるのじゃ』と言われた。仕方なくそうした。


 『其方が(われ)の結界を使(つこ)うてくれて嬉しいのじゃ』


 直接は見えないが不敵な笑みを浮かべたのがわかった。

 ここんとこ連日、テンちゃんの結界を張り続けてるからね、慣れてしまってもう癖になっちゃったんだよ。という気持ちで『うん』と頷いた。


 そして両手をふわっと広げたかと思ったらテンちゃんの魔力が周囲に、下方からまるでカーテンかマントを(ひるがえ)したかのように大きく波打って広がり、しかしそれは一瞬で中心、つまりこの位置から消え、それが伝わって行った。


 それはとても美しく感じられる瞬間だった。目では見えず、感知だけでの話だけどね。俺にはそう感じられたんだよ。ちょっと鳥肌が立ったくらいに。


 『終わったのじゃ』


 と、テンちゃんが言ってはっと気付くとさっき感知したトカゲが動きを止めていて、それと一緒に侵入してきたのだろう、形からすると鳥型の魔物だったものらしき物体がざっと見ただけでも50個、その周囲に散らばっているようだった。


- 鳥も居たんですか…。


 「当然なのじゃ、ん?、もしや其方は鳥を感知していなかったのか?」


 あ、テンちゃんの声が耳で聞こえる。あ、さっきまでは魔力音声のみだったのか。道理で起こされた時といい、何だか素直に聞いて動けたわけだよ。いや、別に操られたとかじゃなく。


- あっはい、実はそうなんです。どうも小鳥型のはうまく感知できなくて…。


 「ふむ…、(われ)に同調した魔力で其方のいつもの索敵はできるか?」


 また難しい事を仰る。


- んー…、できなくはないですね。


 「ではやるのじゃ」


- 今、ですか?


 「そうなのじゃ、早くやるのじゃ」


- はい。


 俺はテンちゃんの腰に手を添えたまま、テンちゃんに同調した魔力でいつもの索敵(レーダー)魔法を使い、反射波を捉えた。


 「なるほど…、興味深いのじゃ」


 テンちゃんはふむふむと頷き、そう呟いたが、すぐに続けて言った。


 「其方は地図を作る上でこれらの情報を一部、いや、ほとんどカットしておるのじゃな」


 ああ、除外(フィルタリング)しないと多すぎて大変だからね。


- そうですね。


 「鳥の中型で一定以上の魔力を持っているもの以外はそのカットされた情報にあるようなのじゃ。小型はそこに含まれておるのじゃ」


 そう言って後頭部をぽんと俺に凭れかけ、腰に添えた俺の手の上からそっと手を被せた。テンちゃんのほうが手が小さいけどね。


- うん。


 まぁたぶんカットしてるんだろうとは思ってたけどね。だってこのへんの木々ってちょくちょく魔力があるのが生えてるんだよ。あと、地形的に魔力溜りのようなのも発生して消えたりもするし、そんなのまでいちいち感知してたら地図にするとき情報が多すぎてつらいんだよ。特に上空から広範囲で索敵した時なんかはね。ある程度は端折(はしょ)らないとやってられん。


 「何じゃ、解かっておったのか。ああ、それでミリィに聞かせて位置を知らせておったのじゃな。なら、次からは(われ)と同調して索敵するといいのじゃ」


 あ、それだとミリィを呼んだ意味が無くなってしまう。


- テンちゃん、折角ミリィがやる気になってここんとこ頑張ってくれてるんだからさ。


 「…其方は優し過ぎるのじゃ…」


 つまり現状維持でいいってことだよね。


- じゃ、回収して戻ろうか。


 声に出さずにこくりと頷いたテンちゃん。

 俺もそれには何も言わずに微笑んで下に降り、トカゲと鳥を回収してからまた飛行結界を張って飛び上がった。


 直後に、『折角だから雲の上まで行って欲しいのじゃ』と言われたので、まぁ俺も一部薄い箇所が月明かりでぼやっと光っているだけの曇り空の下があまりいい気分じゃなかったので従った。


 分厚い雲の上に出ると、それは素晴らしい景色だった。


 元の世界よりも小さな月、それも大きさが違うものが4つ、そしてそのうちのひとつの周囲と軌道経路らしき左右には小さな星がたくさん散りばめられていた。天の川らしき星の雲も、明るい星々も、それぞれが主役であろうと主張していた。


 「おおお、綺麗なのじゃ、『ひかりのたま』で見るのもいいが実際に見るとまた格別なのじゃ。特にあの、ああそうじゃ、ティアラと言ったか、あれがいいのじゃ」


 うっとりした雰囲気でそう言って俺の右腕を左手で抱え、右手でそのティアラのほうへと軽く手を指し示して見上げながらそっと寄り添った。


 ティアラ?、あ、そういえば大地の精霊ミドさんがそんな事を言ってたね。これの事かー、確かにこれは見事だ。一見の価値がある、というような事を言ってた気がするけど納得だ。

 他の月よりも蒼く輝く中心の月、それがティアラって名前だろう。その周囲も蒼い光を受けているせいか、離れるに従って金色(こんじき)に寄って行くのがまたいい。


 ほんっと、写真に残したい。むしろ動画で残したいと思い…、


- すごいね、これは綺麗だ…。


 そう、俺もつい呟いてしまうぐらいに感動の光景だった。


 「ふふ、夜のでーとなのじゃ…」


 と、テンちゃんが言ったとたん、首飾りがぽこぽこと俺の胸元を叩いた。


 あ、そういえばウィノアさんと夜間飛行する約束だった。すっかり忘れてた。


 でもテンちゃんが一緒の今、声に出してウィノアさんに謝るわけにも行かず、左手で軽くその叩いてる部分をそっと押さえるだけにして、心の中でごめんと謝った。


 「くっくっく、ではタケル様よ、ゆるりと飛んで戻るのじゃ」


 あー、これはバレてるな。

 なので、しゅばっと加速してさっさと天幕小屋へと戻った。


 「あっ、どうして急ぐのじゃ?、こ、こんな加速は怖いのじゃ、感覚のズレが、ああっ…」


 テンちゃんが景色を見ずに俺の腕に顔をくっつけたら、首飾りももぞもぞするのを止めてくれた。


 感覚のズレ、というのはたぶんリンちゃんも言ってる、加速感と感知した周囲、つまり実際の速度とのズレの事だろう。そんな事を言われてもね。毎度言ってたけど慣性をある程度相殺(そうさい)しないと俺が立ってられないじゃないか。


 「酷いのじゃ、ろまんちっくな展開だったのじゃ、ぶち壊しなのじゃ」


 天幕小屋の前に着地したらテンちゃんが涙目でぽこぽこ叩いてそんな事を言っていた。

 ロマンチックてw

 メインは魔物退治じゃなかったのか?


- まぁまぁ、みんな眠ってるんですから、静かにね。


 「うぅ…」


 というような事もあったが、2度目は普通にさっと行って倒して回収、そしてさっと戻った。

 何故か?、その日は朝から雨が降ったり止んだりという天気で、夜の間もじめじめしていたからね。さっさと帰って魔法的エアコンが効いている天幕小屋へと帰りたかったんだよ。俺も、テンちゃんも。






●○●○●○●






 そしてここに来てから7日目に、一番手前のダンジョンを処理した。そこには竜族は居なかったが、やや広い空間に角イノシシが、そして奥には巣部屋が2つあり、片方は動物型の繁殖用だろうか、大小の角クマがごちゃっと居て、一番奥の巣部屋で終わりだった。

 そこが、高い木が2本見えるところにあった洞窟だ。


 そうそう、結局この地のダンジョンは2つだった。

 つまりもうひとつでここの仕事が終わるって事だ。


 先が見えてきたのでだいぶ気分も良くなり、それはハルトさんたちも騎士団の兵士たちも同様で、というかむしろ彼らの方が喜んでいた。もちろん、ここからが本番というような気もしたけど、それはそれ、終わりの見えない防衛戦を続けるよりも、終わりが見えたほうがいいに決まってるんだから、浮かれる気持ちもわからなくは無いね。


 ここまでで処理した鳥型の魔物の数、なんと6万弱。


 それだけの魔物を生み出した本拠地がもしその残ったひとつのダンジョンなら、これは相当な規模のダンジョンだと予想される。


 それで騎士団側は、包囲網を作るべきだと考えたようで、本国から増員をしてもらい、こちらは今のうちにダンジョンの近くまで道を作り、得た資材を運んで新たに前線基地を構築しようという計画を立てたそうだ。


 そこは現在の位置から直線で10kmちょいのところで、俺が提供した地図が役立っているらしく、経路を決め、地を(なら)す準備をしているようだった。


 で、俺はというと、まぁ、ダンジョン周囲の警戒や索敵、新たに鳥の魔物が来ないかをミリィとテンちゃんを連れて飛び回っていたわけだ。






 地図には北東22kmにぽつんと標高600mほどの山があり、そのふもとまでゆるやかな斜面が続いているのがここから北東部分の特徴なのだが、崖のような部分に突然、金属製の武器防具で武装した集団が現れた。


 警戒中だった俺は、一旦戻ってミリィをリンちゃんに預け、独りで飛んで行こうとしたがテンちゃんがしがみついたままなので仕方なく、そのまま飛んで行った。


 あちらから見えないように雲の上を行き、そのまま真上からその集団が隊列を組んで進んでいるのを索敵魔法で調べ、どうやら人種(ひとしゅ)のようなので何もせずにハルトさんたちに報らせるために戻った。


 「そうか。それはトルイザン連合軍、それもこちらに近い側、アリザン軍だな」


 ちょうど本部に居たハルトさんと騎士団の主だったひとたちに地図と、彼らが掲げていた旗印の意匠を紙に焼き付けたものを見せて報告すると、ハルトさんが頷いて言った。


 「トルイザン連合は王国3つの連合王国でな、こちら、つまり西から順に、アリザン、ベルクザン、ゴーンザンという国がある。あまりハムラーデル(うち)とは国交状態が良好とはいえないので情報が少ないが、タケル殿が見たその旗印はアリザン王国のものだ。それくらいは判る」


- そうですか。間にダンジョンがあるわけなんですけど、どうするんでしょうね?


 「彼らの意図は解かりませんが、こちらが送った親書に記したダンジョン攻略への援軍じゃないでしょうか?」


 まぁ普通に考えたらそうだよね。


 「だといいがな」

 「そうですね、500と言うのは(いささ)か中途半端ですし、タイミングが妙です」

 「ああ、そうだな。鳥を一掃した直後というのはどうにも怪しいな。まるでどこからか見ていたかのようだ」

 「斥候でも来ていたのでしょうか?」

 「そんなのが居たなら近くに駐屯している兵士が居るはずだな。こちらにも連絡があるはずだ。むしろもっと早くから合流していてもおかしくはない」

 「そうですね。ここはあちらの領土なんですから」

 「なるほど…」


 隣でテンちゃんがにこにこしている。

 まぁそんなのが居たら俺たちが気付いていないわけがない。のだけど…、そういう意味の笑みだよね?


 「とにかく、今ここであーだこーだ言っていても始まらん。タケル殿、この後継続して彼らの様子、特に進路などがわかった段階でまた報らせてもらえないだろうか?」


- はい、わかりました。


 というわけで、時間がちょうど良かったのもあり、一旦天幕小屋へと戻って昼食にした。






 戻ると、リンちゃんとミリィだけが居た。

 メルさんとカエデさんは輜重隊のほうに居るらしい。そういや朝からお弁当がどうのってカエデさんが言ってたっけ。


 それで食事中にテンちゃんが、


 「4日前だったか、あの連中が出てきた山の上に誰か居たのじゃ」


 と言った。

 そういうのはさ、早く言ってよね…。


- 誰か居たってひとりで?


 「いや、8名くらいの集団なのじゃ。すぐに引き返したので問題無かろうと思ったのじゃ」


- そっか…。


 普通に考えてそれが様子を見に来た連中って事だろう。

 でもそんな遠くから見えるのかな、山の上からだし、こっちは平地だから見えるのかも知れないけど…、望遠鏡でもあるんだろうか。


 「魔道具らしきものの発動があったように感じたが、ほんの数秒だったのじゃ」


 ああ、そういうのがあるなら、様子を見た、で正しいんだろうね。

 でもさ、再度思うんだけど、早く言ってよね、そういうのはさ…、という目で見た。


 「何じゃ、其方はその時索敵に結界操作に移動にと、多忙だったのじゃ」


- あっはい。


 気を遣ってくれたってことね。


 「私も、その、さっき思い出したのじゃ」


 忘れてたのか。

 俺もそういうのあるから、しょうがないか。






●○●○●○●






 そして食後、どうせさっと行って進路を見て、すぐ本部に報告するだけだからと言って、俺ひとりでちょいと行ってくる事にした。

 行って見て本部行ってというのだからミリィも、そしてテンちゃんも納得した。リンちゃんは何だか不安そうな表情で俺を見ていたが、何も言わなかった。


 あれから1時間ほどだからそこそこ進んでいるはずで、それで進路がわかれば、騎士団のほうでまた何か考察することもあるだろうと気楽な感じで、地図を見ながら連中の真上辺りの雲の上から索敵魔法を使ってみると、様子がおかしい。


 いや、様子がおかしいどころじゃ無い。数が半減どころかもう1割も残ってない。隊列なんてもう跡形もない、いや、跡形しかない。


 これはやばい、今も下で暴れてる何か強い魔力反応の1体が兵士たちを蹂躙(じゅうりん)したんだ!


 急いで高度を下げ、その強い魔力反応を持つ1体の人型(ひとがた)を、え!?、魔物じゃ無い!、全身が真っ黒の人型(ひとがた)の何かだ!


 それがもう残り4人のうちの2人を殺害した。早すぎる!


 殺害ってのはもう上半身と下半身が分かれてしまってたので、助けられないからだ。

 何とか残り2人とその黒いヤツとの間に障壁を張り、動きを阻害できた。


 と思ったら障壁を蹴って()び上がり、俺に斬りかかってきた!


 高度を下げたと言っても10mはあるのに、何と飛行結界にガンという衝撃があって、弾かれた。

 長刀(グレイブ)のような長い柄と長い刃の武器で、その全身と同様に真っ黒だった。黒いもやもやが身体から湯気のように出ているのがわかる。ものすごい魔力だ。あれは闇属性だろう、テンちゃんのおかげでいろいろ知っていたからこそ解かった。


 反動でくるりと後方宙返りをしながら落下していくその黒いヤツ。


 俺はそれを感知しながら少し下がり、生き残っている2名に近づいて結界を解除、すぐに彼らをも包んで結界を発動して飛び上がろうとした。


 そこに着地してすぐダッシュで武器を構えて突っ込んでくる黒いヤツ。


 わ、ヤバ!、って思ったけど、さっき張った間にある障壁にズガンと当たって()ね返っている隙ができたので安心、はまだできないけど、飛び上がる事ができた。


- お助けします。遅れて済みませんでした。


 「(かたじけな)い!、九死に一生を得ました!」

 「貴方様は!?」


- それはあとで。とにかくあれを何とかしなければ。


 「何とか!?」

 「なるのか!?」


 わかりません、と答えたい。この人たちを連れたままだと身軽に動けないけど、結界魔法が有効なのが幸いだ。

 あ、これテンちゃんの結界だからか。って事は俺のいつもの飛行結界や障壁魔法だとあっさりぶち破られてぶった斬られてた可能性が…。

 ちょっと身震いがしてきた。


 「だ、大丈夫なのか!?」

 「うちの精鋭たちがまるでぼろくずのようにやられたんだぞ!?」


 あーもう、黙っててくれないかな。

 と言いたいが俺もそれどころじゃない。

 もろに障壁にぶち当たってひっくり返っていた黒いヤツが首を振って起き上がり、落ちていた武器を拾ってまた障壁へと突っ込んでいくのが見えた。あれはまた踏み台にしようとでもしているか、()び越えようとしているんじゃないか?


 踏み台にされちゃたまらんのでその障壁を解除すると、ただ()び越えるのではなく、武器を突き立ててその反動で、棒高()びというのとはまた違う()び方でこちらへ攻撃をしようと試みているのだろう。


 「うわぁ!」

 「く、来る!」


 とりあえずいつもの石弾を10発生成してぶち込んでみた。

 がががが!、と音がしたが、()んで来る勢いを()いだだけだった。まるで効いていない。


 ならばと、まだ着地していないヤツに向けて、ポーチからさっと取り出した金属製の弾を並べてぶち込んだ。


 黒い破片がばばばっと散ったが、あまり効いているようには見えない。

 これでもだめなら、と、魔砂漠の地下で作った余りの、金属を溶かして球形にした砲丸サイズのものを取り出し、着地点目掛けて発射!


 ものっそい(ものすごい)音がし、地面が炸裂したが避けられてしまった。でも武器にかすったのか、武器がすっ飛んで行った。”く”の字になってるように見える。頑丈だなぁ。


 彼は横にごろごろと転がってすぐに立ち上がり、腰の剣を抜いた。こっちは白いのか。


 なんて感想をしている間に白い剣に魔力が込められて、何かが飛んできた。


 ささっと避けたが少し追尾機能があるのか、曲げてきたので障壁を斜めに張って弾いた。さらに追尾してくるかなと思ったが、そのまま飛んでいった。

 おそらくあれは風魔法を主体とした空気の薄い塊だ。

 と言うか、サクラさんやネリさんが言っていた『風刃(ふうじん)』、それの威力ありすぎるバージョンだ。


 連発するにはチャージに時間がかかるのか、もう一度それをしようと構えている間に、前々からちょっと考えていたレーザー光線を光属性魔法でぶっ放すというのの細いのを作ってみた。まぁ光じゃなく光属性の魔力を収束してぶっ放すってものだからレーザー光線とは言えないんだけども。

 とにかくそれを結構魔力を収束して撃ったので、細いけど速いし黒いヤツは避ける事ができなかった。


 一応は命中したんだけど、白い剣に当たっちゃって、何故かそこに反射してしまい、ヤツの右腕が切れただけだった。

 それが地面に当たった瞬間、周囲に魔力を含んだ煙が立ち込めてしまったせいで、位置がわからなくなった。


 俺もちょっと高度を上げて、心の中で『やったか?』なんてフラグ立てちゃったんで、仕留め損なっただろうなーとは思っていたが、気付いたら結構遠くを凄まじい速度で移動するそいつが、切られた右手を左手で掴んで走っていた。


 飛べば軽く追いつく速さではあったけれど、深追いはやめておくか、なんてちょっと格好つけて考えたのは、俺の足元、飛行結界の床で気絶してる2人をまず保護しなくちゃって思ったのもある。


 途中から静かになったなーって思ってたんだけど、気絶してたのか。衝撃が凄かったからね、あの砲弾ぶっ放した時。それで伏せてるだけだと思ってたよ。


 とりあえず、さっき”く”の字になってすっ飛んでった長刀(グレイブ)っぽい武器を、魔力反応を頼りに回収し、ハルトさんたちの居る本部へと向かった。






次話4-025は2020年09月11日(金)の予定です。


(作者注釈)

 保護した2人の兵士は、何も衝撃で気絶したわけではありません。

 戦闘時にタケルが駆使する膨大な魔力の変動に当てられて気絶したのです。


20200904:訂正。 作り出し ⇒ 取り出し

20200910:誤字訂正。 障壁へを ⇒ 障壁へと  飛 ⇒ 跳

  (ジャンプの意味で使用している箇所は『跳』の字に直しました)



●今回の登場人物・固有名詞


 お風呂:

   なぜか本作品によく登場する。

   あくまで日常のワンシーン。

   今回は入浴なし。


 タケル:

   本編の主人公。12人の勇者のひとり。

   新技?


 リンちゃん:

   光の精霊。

   リーノムルクシア=ルミノ#&%$。

   アリシアの娘。タケルに仕えている。

   不安的中ですね。

   だいたいタケルが単独行動するとろくな事がないという事でしょう。


 アリシアさん:

   光の精霊の長。

   全精霊中最古というような存在。実は凄い精霊(ひと)

   だいたい出番なし。


 テンちゃん:

   闇の精霊。

   テーネブリシア=ヌールム#&%$。

   後ろの部分は精霊語のため聞き取れない。

   リンちゃんの姉。年の差がものっそい。

   タケルとテンは現状ノーパンコンビ。

   リンより背丈が少し小さいのに胸が元のサイズだから

   すごくおっきく見える。とにかくでかい。

   物騒なデートですよね。


 ウィノアさん:

   水の精霊。

   ウィノア=アクア#$%&。後ろの部分は精霊語。

   一にして全、全にして一、という特殊な存在。

   ぷんすか。って言うねこれは。ぽこぽこ。


 ミドさん:

   大地の精霊。

   タケルたちが現在居る大陸というか島など、北半球中緯度帯を担当する。

   語尾に『うんうん』と言う癖がある。

   2章071話、072話に登場。


 ティアラ:

   この世界でこの惑星にある衛星(月)のひとつ。

   2章072話にちらっと話が出た。


 ミリィ:

   食欲種族とタケルが思っている有翅族(ゆうしぞく)の娘。

   身長20cmほど。

   また(はね)が無い有翅族(ゆうしぞく)に。

   一緒だったらまた気絶してたんじゃないかな。


 メルさん:

   ホーラード王国第二王女。いわゆる姫騎士。

   騎乗している場面が2章の最初にしかないが、騎士。

   剣の腕は達人級。

   『サンダースピア』という物騒な槍の使い手。

   身体強化に関しては現状で人間種トップの実力。

   カエデとも仲良くなりましたね。

   一緒に行動してるようですし。


 ハルトさん:

   12人の勇者のひとり。現在最古参。

   ハムラーデル王国所属。

   およそ100年前にこの世界に転移してきた。

   『フレイムソード』という物騒な剣の所持者。

   指揮官的な立場ですからねー。


 カエデさん:

   12人の勇者のひとり。

   この世界に転移してきて勇者生活に馴染めず心が壊れそうだったが、

   ハルトに救われて以来、彼の元で何とか戦えるようになった。

   勇者歴30年だが、気持ちが若い。

   でも言動はタケルからするとちょっと古臭い。

   お弁当が豪華なのでごきげんです。

   『タケルさんちのお弁当♪』と喜んでいたそうで。


 ネリさん:

   12人の勇者のひとり。

   ティルラ王国所属。

   カエデとのアレでちょくちょく名前が登場すると思う。

   今回はちらっと名前が出た。


 サクラさん:

   12人の勇者のひとり。

   ティルラ王国所属。

   ネリの教育係のようなもの。

   同じくちらっと名前だけが登場。


 シオリさん:

   12人の勇者のひとり。

   『裁きの杖(ジャッジメントケーン)』という物騒な杖の使い手。

   現存する勇者たちの中で、2番目に古参。

   サクラに勇者としての指導をした姉的存在。

   ロスタニア所属。

   今回登場せず。


 天幕小屋:

   ハムラーデルのトルイザン連合との国境防衛地に作った小屋のこと。

   平屋の5LDKという贅沢な天幕(笑)。裏庭もあるよ。

   シンプルだけどすごい洗濯機がある。

   あと、お風呂が広い。

   どうやら天幕小屋という名前で定着しそう。

   リンが戻っていたのは、タケルたちが戻ってくるから。

   昼食のためですね。


 トルイザン連合王国:

   ハムラーデル王国の東に位置する連合王国。

   3つの王国があり、数年ごとに持ち回りで首相を決めていた。

   クリスという勇者が所属しているらしい(2章後半)。

   やっと登場。

   そして無残にも殺されてしまった兵士たち500弱。哀れ。


 魔砂漠:

   3章に登場。

   ラスヤータ大陸北部の大半を占める砂漠、

   その砂漠の西寄りに魔塵(まじん)を含む砂嵐がずっと存在していた。

   そこを中心とした地域をこう呼ぶ。

   詳しくは3章を。


 保護された2人:

   アリザン軍の指揮官と副官。たぶん。

   違うかも?、まぁそんな感じのひとたち。


 謎の黒いヤツ:

   全身黒い甲冑に包まれ、腰に黒い鞘で黒い柄の白い剣、

   そして黒い長刀(グレイブ)のような武器を持って登場した。

   黒い(もや)を湯気のように(まと)っていた。

   アリザン王国の軍、500人を壊滅させた。



 ※ 作者補足

   この登場人物・固有名詞紹介の部分全ては、

   あとがきの欄に記入しています。

   本文の文字数にはカウントされていません。

   あと、作者のコメント的な紹介があったり、

   手抜きをしたり、詳細に書かれているけど本文には

   無関係だったりすることもあります。

   ご注意ください。



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2019年05月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
なるほど。わかりません。
2020年01月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
同じやん。なるほど。やっぱりわかりません。
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