1ー016 ~ 武器選びと魔法屋
武器屋の熊みたいな店主に怒鳴られてカウンターの横手の扉から店の裏にでた。
何種類かの武器が壁際の武器架?、っていうんだっけ?、に立てかけてある。
「まずはこいつだ。ちょっと振ってみな」
- はい。
渡されたのは持っていたものより少し長い剣、たぶんロングソードってやつだろう、片手で持つ長剣だ。
兵士のグリンさんに教わった基本の型をなぞる。うぉ、振りやすいな、これ。
重さといい振ったときのイメージ通りの筋をなぞってくれる。
「ほう、振りやすいか、ではこっちの剣はどうだ?」
ん?、なんだこれ、受け取ったときはさっきのより軽く感じたのに、構えたらなんか先のほうが重いのか?、うわっ、こりゃ片手じゃだめだな、両手で持ってみようか。
うん、両手だとちゃんと振れるな。これ両手用か?
「ほう、気付いたな?、そりゃ両手で持つタイプの剣だ」
なるほど、片刃の直刀みたいなもんか。いや、当然そんなのもったことねぇよ?、こっち来て初めてだよ剣だのなんだの持ったのって。木刀や竹刀なら振ったりしたこともあるけど、型をなぞって振ったりはしなかったし。
「お前さん、盾を使うなら最初の剣がいいな。両手持ちの剣を今後使おうと考えているならその今もってるやつが入門用の両手剣だ」
- なるほど。
「槍や斧を持ちたいならそこの棚にある。他にも分銅つき棍棒やハンマーもあるぞ、興味があるならまずは振ってみるんだな」
- はい。
「ワシは店に戻る。聞きたいことがあるなら呼べばいい」
- はい、ありがとうございます。
なんだ、ずっと見られてたらやり辛いなって思ってたんだけど、勇者ってことで信用されたのかな、勇者の鑑札《名札》――最初にもらったもの。村や街に入るときに見せたりする――を見せたわけじゃないのに。わかるのかな。まぁ持ち逃げなんてしないけど。
だってこの武器は練習用で、刃がついてないんだよね、形だけで。
だから持ち逃げしたところで、研ぎに出すんだからすぐバレる。いや、やんないよ?、リスク高すぎでしょ。
まぁいいや、歴史の本や創作物でしか見たことなかった武器を、いろいろ持って振れるいい機会だし。
やり辛い、ってのは言い繕っただけなんだけど、正直なところ、素人なんだからかっこ悪いかもしれないし、的外れな振り方するかもしれないじゃん?、だからじっと見られてるのはヤだったんだよ。
俺、ワクワクしてきたぞ?
あ、そうだ、ちょっと身体強化したり武器に魔力を纏わせたりしてみようかな。
「……ルさま、タケルさま!、タケルさまっ!」
おお、調子にのってぐるぐる振り回したりしてたわ、なんかアニメとか映画でこういうシーンあったよね?、とか思い出してさ。
で、何?、リンちゃん。
- ん?
「武器屋さんが…」 と、手で示す。
あちゃあ、見られてた!、おっちゃん口をあんぐりあけて呆然としてるよ。やっば、どうしようかな。笑ってごまかすか?
- いやぁ、あはは、ちょっと調子にのって振り回しちゃいました。すみません。型とかよくわかんない素人なもんで…、危ないですよね、もうしませんから、あはは…
「おっ…、おっ…」
ん?、興奮してるっぽい?、逃げたほうがいい?
「おっ、お前さんそいつぁワシでもぎりぎり振れるかどうかの斧槍じゃぞ!?、そ、そいつを片手で振り回すとかどんな怪力じゃ、さっきのはワ、ワシを騙したのか!?」
- い、いえいえ!、さっきのは素です素!、今は身体強化をしているんです!、普通にムリですってこんなごつい武器を振り回すなんて!
「は?……、お前さん身体強化が使えるのか!?、その若さでか!?、…かーっ、話にゃ聞いてたが、勇者ってなぁ規格外なんだな…」
おっちゃん右手で目のところを覆ってうえを向いて嘆いてるようなポーズだよ。芝居がかってんなー。
あっ、でも身体強化魔法のこと言っちゃったよ、つい。
- あのぅ…、一応内緒にしておいてもらえると…
「ふん、ワシは客のことを他にべらべら喋りゃせん。安心せぃ」
- あ、ありがとうございます。
「礼には及ばん。で、お前さんそれだけ扱えるのなら、武器なんざどれでも選び放題じゃろう?、気に入ったのはあったのか?」
- こういうのは憧れるところもあったんですが、強化しないと使えないのはちょっと……、普段困りますんで。
「ふん、それもそうか。なら剣か鈍器じゃろうな」
それで意見をきいたり交わしたりしながらいろいろ試した結果、左腕に取り付けて攻撃を逸らしたり打ち払ったりすることのできるサイズのバックラーと、入門用の両手剣で、売り物のなかにいい感じのバランスのものがあったのでそれぞれ買うことにした。
結局バックラー(笑)だよw
●○●○●○●
実はひそかに楽しみにしていた店がここにある。
その名も…(ジャーン)
魔 法 店 !!
な?、わかるだろ?、元の世界には無かったんだしさ。
ご覧ください!、このいかにも魔法店っていう、店構え!
ごめん、わかんないよな。骨董品とか扱ってるような、古い店構えをちょっと黒っぽくオシャレにしたような感じ。
扉を開けて中に入るのには勇気と躊躇が鬩ぎ合う必要がある、そんなの。
「タケルさま?、入らないのです?」
- 入るよ?、ちょっと気合いれてたとこ。
とか言うやりとりがあったけど、そんなことは些細なことだ。
じゃ、入ろう!
●○●○●○●
お分かり頂けるだろうか、この何と言うか、この期待外れ感。
映画の予告編を見て、おおっ、これは面白そうだと、弥が上にも期待させられてしまうようなものを、ワクテカ状態で実際見るといいシーンは全て予告で先に見てしまっており新鮮味が無くなっていて、それ以外にいいシーンなんて無く、その間はとても退屈で、つないでいるストーリーも疑問符が浮かぶような駄作だった、そんな感じ。
リンちゃんによると、『このお店ひどいです。半分以上がニセモノです。お薬なんてほとんどが効き目のないただの色水です。ただ傷薬だけは最低限の効き目はあるようです』、という次第。
ああもう、なんか…!、なんか…!、がっかりだよ!、それしか言えないよ!
何なんだチクショー、俺のワクワクを返せよ!、魔法の本とか、魔道具とか、有用な魔法の杖とか魔法の杖とか魔法の杖とか魔法の杖とか魔法の杖とか魔法の杖とか魔法の杖とかさ!、あると思うじゃんよぉ!
「タケルさま、そんなに魔法店に期待なさっていたのなら、里のお店に行きませんか?」
- えっ?!、いいの?、光の精霊の里なんてそりゃ行けるならめちゃくちゃ嬉しいんだけど。眩しくないかな?、サングラス買ってったほうがいい?
「普通は精霊以外に許可が出ることはないのですが、タケルさまなら問題ないそうです。歓迎しますよ、ってお母様が…」
- おおー?、もしかして燻製パワー?!、スゲーな燻製、こっちきて頑張って作ってよかったよ!、報われた気がするなー、ぐっじょぶ当時の俺!、で、いついく?、今日?、はあれか、明日とかどう?
「ふふっ、すっかり乗り気ですね、タケルさま。いつでもどうぞってことですので、では明日でも一旦森の家に寄ってから行きましょうか」
- わはー、楽しみだな~、何か手土産もってったほうがいい?、あ、燻製あるか、あ、でも今あるやつ俺が作ったんじゃねーわ。どどどうしよう、やっぱサングラス要るかな?、雑貨屋さんにあるかな?、眩しくないかな?
「タケルさま、タケルさま、落ち着いてください、あの時まぶしかったのはお母様の悪ふざけです、手土産とか要りませんからっ」
- あっはい。落ち着きます。そう、手土産いらないの。でもまぁ、そうだな、雑貨屋さん行って見てみて、材料あるなら森の家でなんか作るかな。
「そんなに気を遣わなくても…」
- あったら、だよ。とにかく雑貨屋さんいこう。
「はい」





