4ー019 ~ 鳥の声と角
何度か休憩しつつ、昼前まで鳥型の魔物を処理し続けた。
それによって、鳥型の魔物と言っていたが、それはハトやカラスぐらいの大きさの、いわば鳥型にしては中型のものがそれら小鳥型のものをまとめている感じの配置になってるんだって事が、現段階で判ったんだ。
小鳥型は、スズメぐらいの小鳥が10羽程度が、中型1羽の配下になっているような印象だった。
あ、いや、魔物なのだから『羽』ではなく『体』と数えるべきだろう。
これは俺が、いわゆる『食べるために狩る』のではない魔物狩りだと自己暗示をするためでもあるんだよ。つまらない拘りかも知れないけどさ、トカゲの大量ぎゃくさ…処理の時にも思ってた事で、そう頭の中で区分しないとやってられないんだよ。
何となくではあるんだけどね、動物と魔物を区別しておきたいなって、そういう気持ちなわけ。
え?、角ニワトリや角イノシシは食べるための魔物じゃないのか、って?
そういうのもあるけど、それはまぁついでなんだよ。今まで狩ったそれらの魔物だってほとんどどこかの騎士団に持ってっただろ。
俺が、俺自身が食べるためなのか、魔物処理のついでなのか、そのくらい適当な言い訳ができるかできないか、その程度でいいんだよ。
心の傷の緩和なんてそんなもんだろ?
まぁとにかくそれで、これは状況からの推測なんだけど、小型は細かく小範囲を時折移動しながら狭い範囲を監視し、逐一変化を伝えているんじゃないか、って考えてる。
それを小型よりも出力が高い中型が、少し遠くまで伝達して連絡網を形成しているのではないか、ってね。
これは、ミリィが『大きめの鳥が特にうるさいかな、あっちからこっち、こっちからあっちと順番に鳴いてるかな』と眉間に皺を寄せるような表情をして言っていたので、そういう推測をしたんだけどね。
だからと言って、俺には確かめようが無いし、差し当たってする事は変わらない。全部倒すだけだ。
ところが問題なのは、最初に地図に記した『鳥型の魔物』は、そのまとめ役である中型と、若干魔力がそれに近いかな?、ってぐらいの小型だけをカウントしてただけだったって事なんだ。
つまり、地図にしるした10倍近い数が潜んでたという事。
こんなに居るとは思わなかったよ…、これはかなり骨が折れるぞ?、と、途中で気付いたんだけど、もう遅い。というかやるしか無い。
「思った以上に多くて大変だ、という顔なのじゃ」
テンちゃんが慰めてくれているのか同情なのか何なのか、よくわからない感じの曖昧な微笑みで斜め下から俺の顔を覗き込んで言ってたけどね、俺も『うん…』と、曖昧な笑みで返すだけにした。
だってテンちゃんに手伝ってもらうのはね…、最終手段だよね、やっぱり。
●○●○●○●
昼前に一旦リンちゃんたちの所に戻り、昼食を食べながら説明をした。
それで、リンちゃんとメルさんにも地上から掃討を手伝ってもらえないかと頼んでみたら、あっさり『いいですよ』『わかりました』と言われた。
断られてもしょうがないな、って思ってたんで意外だった。
「タケルさまのお手伝いができるなら喜んで」
「小さな的を狙う訓練だと思えば、いい機会ですから」
そう続けてそれぞれに言われたんで、『ありがとう、助かります』と言うと、2人は一瞬お互いを見てから俺をじっと見て、
「タケルさま、もっと気軽に頼ってください」
「そうですよ、お手伝いをするためについて来たのですよ?」
と、ちょっと叱られているような雰囲気になってしまった。
それで、ごまかしたわけじゃないが、具体的にどうやって処理をしていくか、俺たちと地上の2人とで別々に、重ならないようになどを、作成した地図を見ながら分担を決めていった。
リンちゃんとメルさんの2人は、魔力感知の精度の高いリンちゃんがターゲットを決め、2人で手分けして処理をしていく方法でやっていくようだ。
「私の槍の出番は無さそうですね…」
メルさんは少し残念そうに呟いたが、もし鳥たちが集団で襲いかかって来るような場面なら、まとめて処理ができそうなのでそう言うと、一応持って行く事になったようだ。
説明の途中で、リンちゃんが小首を傾げていたように思ったんだけど、メルさんが発言してリンちゃんはそれを見て片手を口元にしてくすっと笑ったし、一瞬だったので俺の気のせいだったのかなって思って、この時は気にもしなかった。
そして俺たちはまた空中から処理作業を始めた。
小鳥を先に処理し始めると、ハトやカラスサイズの鳥が鳴き、それが伝播して広がっていく。
かと言ってその中型を先に処理してからにすると、小鳥たちは持ち場(?)を離れててんでばらばらに動き回って散っていくので処理しづらくなる。
どっちでも小鳥が騒ぐのは同じで、鳴き声が伝播していくのも同じだ。連絡されちゃうのはもう仕方が無いって事だな。
鳴き声は、俺やテンちゃんの耳には『チッ』とか『チョッ』とか『チュン』というような音に聞こえていて、それがどの種類の鳥の声なのかはわからないが、一応可聴範囲の音ではある。
ミリィに確認すると、『ギャーギャー言っててすっごくうるさいかな』だそうで、いろんな高さの音がごっちゃになっててわけがわからないらしい。
「普通に考えて、同種の鳥同士の連絡と別種の鳥への連絡がありそうなのじゃ…」
テンちゃんが考えながら呟いていたけど、そんなもん解析するのは面倒なんてもんじゃないと思う。
元の世界でも鳥の声の分析なんて、コンピューターを使って音をデータ化し、周波数やパターンを分けたりしながら膨大な情報をデータベース化、それで分析や解析をする専門家がやってるような事なんだからね、そんな記録装置も無い俺たちが数人でやるこっちゃ無いよ。
「しかし暇なのじゃ…、其方は忙しそうにしておるが…」
テンちゃんは暇そうにしていたけどね。
ミリィは、その時にいる範囲で、小型がある程度減ると、中型の位置というか方向を教えてくれるので、魔力感知でだいたいの場所はわかってはいたけど裏づけができて助かった。と、思う。
●○●○●○●
夕食後、しばらくするとにハルトさんがやってきた。
カエデさんは夕食の直前に帰って来てがつがつ食べていたけど、ハルトさんは商人たちと食事をしながら話し合いがあるとか何とか、カエデさんが言っていた。
それでハルトさんに今日の事を話した。
「確かにここは特に鳥の囀りが多い所だ。そういう場所なのだとこれまでは気にならなかったが、今日は鳥の存在にも注意して数人の兵と巡回をしてみたのだ。するとこれまで気付かなかった事が見えてきた」
「あたしもそうでした。今まで気にしてなかったんだなって」
「カエデも気付いたのか、ずっと鳴いている事に」
「何だか気にしてみると騒がし過ぎて、元の世界の『セミ』を思い出しちゃいましたよ」
「うむ。懐かしいな、ははっ。そうだ。懐かしいと思えてしまう。あれほど騒がしく、人によっては煩い、煩わしい、と思うような音が、だ」
そうなんだよね。
ハルトさんはセミたちの大合奏でも思い出したのか、懐かしそうに表情を崩して笑いながら言った。
そういえばセミが居ない外国の人が、日本のアニメや映画などの映像作品で、夏の情景に必ずセミの声が多く入っているのが謎だのノイズだのとクレームがついたとかいう話をどこかで読んだような覚えがある。
そういう音に慣れてない、知らない人たちからすると、うるさくて邪魔な音という事になっちゃうんだろう。
「うちは住宅街だったんですけど、水田がまだ残ってたんで夜はカエルの大合唱でしたよ」
「おお、それも懐かしい話だ。それもだが、一度離れてしまうと煩くて眠れないものだ。俺がそうだった」
「あー、わかります。中学ぐらいでもうその水田は宅地になって、夜が静かになっちゃってたんで、父方の田舎に夏、帰省したときカエルってこんなに煩いんだって眠れませんでした」
あー、カエルかー、あれも知らないと驚くよね。
俺もその驚いたほう。あんな大合唱だとは思わなかった。窓閉めてんのに聞こえるんだもんなぁ。あと、低音のカエルも居て、最初誰かが外で呼んでるのかと思ってめっちゃビビってさ、出張先だったんだけど、一緒に居た先輩や民宿のひとに笑われたっけ。
「そうだな。ここも同じなのだ。この地方では森林では鳥の声がするのが当然だという考えが一般的だ。それゆえ、程度に多少の差はあるが、昼間だろうが夜だろうがずっと鳥の声がしている事、巡回中でもそれが聞こえている事に我々は何の疑問も抱かなかったのだ」
「そうなんですよねー、ハムラーデルって森林地帯では鳥が多いんですもん、普通だって思ってましたよー」
そう。ここでは鳥たちは基本的にずっと鳴いている。
普通の鳥と違うのは、人が近くで戦闘していても鳴いているという事ぐらいだ。
でも鳥の声が普段からあると思っている人たちからすると、盲点であったと言える。
それがおかしいという事に気付きにくいんだ。
「ああ、俺もだ。だが考えてみるとやはりおかしいと思う。どうして今まで気がつかなかったのだと、以前の自分たちを叱り付けたい気分だった」
「今日、巡回してたとき、試しに大きな音を立ててみたんですよ。そしたら一瞬静まり返るんですけど、また騒がしくなったんですよね。一緒だったひとも言ってましたけど、さすがにこれはおかしいんじゃないかって。普通どっか行きますよね、あはは」
まぁね、よく言われる『逃げるやつは普通の鳥だ。逃げないやつは魔物の鳥だ』みたいなさ、そんな事を言いたくなるぐらいだよね。気がついてみればさ。
あ、逃げる魔物の鳥もいたわ。じゃ、全部魔物の鳥ってことでいいか。いいのか?、でももう判別できないんだよなぁ…。ここじゃあ鳥を見れば魔物と思え、ぐらいだしさ。
もしかしたらここには普通の鳥って残ってないんじゃないか?
「そうだな、昨日の襲撃の時も、思えばずっと鳥の声がしていたのはやはりおかしいのだ。気付いてみると鳥が魔物ならと納得の行く事ばかりだ」
「ですよねー、言われてみればそうだったのかーって思いますよね」
「いや、お前はタケル殿から鳥の魔物について聞いていたんだろう?」
だよね?、カエデさんは気付いても不思議じゃないはず。
「え?、だってタケルさんから聞いてたのはとんびやカラスみたいなおっきな鳥の話だったし、角も、あ!、小鳥にも角あったんですか?」
今気付いて話をそらすみたいな言い方だなぁ。
でもまぁ重要な話だからいいんだけど。
「ああ、そうだった。おそらくタケル殿が処理した後の所を見回った兵たちだろう、鳥の死骸があちこち落ちていたと言って持ち帰ってきたが、角は無かったように思う。それで先ほどの会議でもいくつか声が上がっていてな、本当に魔物なのか、と気にしている者がいたのだ」
そういう事ね。
俺もそう思ってちょっと探してみたんだ。これが見つかり難くてね。
処理の仕方にも問題があったんだけどね。まぁそれはあとで。
- 倒すとすぐに角が取れちゃうんですよ。えっと、これです。鳥型の角は普通の魔物のものより小さいんですが、これはさらに小さいです。僕も見つけるのにちょっとかかりました。
ポーチから取り出した布に包んだ3つの小鳥型の死体と、その近くを探して見つけた角を見せた。
「え?、ちっちゃい…」
「本当に角なのか?、小さ過ぎではないか?」
そう。小さいんだよ。何と3mmから5mmの大きさの円錐形。
だから見つけるのに苦労した。
ちなみに、発見したのはミリィだった。俺とテンちゃんが探したあとの場所で、だよ。ミリィが居なかったら見つけるのにもっと時間がかかってたと思う。
いや、だって見つかんないよ?、平らできれいな地面じゃないんだよ、落ち葉とかもあるしさ…。
それと、倒し方の話ね。
小鳥型は今まで使っていた石弾を撃つ魔法だと、威力がありすぎて粉砕してしまうし、角なんてどうなったかわからなくなってしまうので、かなり手加減をした石弾魔法を使って倒したのが持ち帰ったサンプルのうちの1体だ。
すぐ近くだと以前覚えた雷撃でバチっと一発電撃殺虫じゃなくて殺鳥なんだけど、手馴れた石弾で先に近くのを処理した後に角の事を思い出したんだよ。もうその時にはその辺りでは残ってるのって距離があったり枝葉が邪魔なのが多くて、それごと貫いてしまえる石弾や鉄弾のほうが都合が良かったんだ。
そりゃあね、スズメぐらいの大きさの鳥を撃つのに、指ぐらいの太さの弾丸を音速でぶっぱなしたら粉砕しちゃうよね。
残り2体のサンプルは、別の集団のところに移動したときに、たまたま近くに居たから雷撃で倒せたものなんだ。
思い出したって言ったように、実は角の事なんて忘れてた。
中型を倒したときに、角が近くに落ちていたのを見つけて、あ、これ小型のも角があるはずだよな、って気がついたわけ。うっかりしてたよ。
それもミリィが角を見つけてくれたからなんだけどね。そっちの角はもうちょっと大きい。
「それにこれは、傷が無いがどうやって倒したのだ?」
「あ、ほんとだ、すごいですね、どうやったんです?」
- たまたま近くに居たんで、小さな雷撃で、
「「雷撃!?(だと!?)」」
- ええ、まぁそういう魔法もあるんですよ。それはともかく、その後頭部のところをちょっと見てくださいよ。
「ふむ、よく見ればちいさな禿げがあるな…」
「そこに(角が)付いてたってこと?」
と、ハルトさんが鳥の死体を持ち上げ、短い毛を指で分けて確認しているところにカエデさんが角を指先で摘んで合わせてみている。
「なるほど、ぴったり…、なのか?」
「合うと言えば合うんですけど、よくわかんないですね」
まぁね。俺もちょっと疑問が残ってる。
- 角の大きさは、小型のはどれも同じみたいです。頭についてるとは限らないんですけど。
「頭ではない場合もあるのか…」
「こんなの、毛に埋もれちゃうじゃないですか」
そうなんだよ…、だから角の有無を見て判断ってのができないんだ。
- そうですね、困った事に、普通の鳥なのか魔物なのかの区別ができません。
普通の鳥は超音波なんて出さないと思うけどね。たぶん。
だから1体だけなら、ミリィに判断してもらえばいいんだけど、周囲にも多くいるし、彼女とっては反響しまくっててうるさいから個別の判断はできないみたいなんだ。
なので、普通の鳥なのかどうかが処理前に判別できない。
「ううむ…」
「んじゃもう鳥は全部魔物ってことですね」
「いや、しかし…」
「だって判別できないんだったら全部倒すしかないじゃないですかー」
「そう…、だな…」
やっぱり無闇に普通の動物を殺傷するのはハルトさんも気が進まないんだろうね。
「あ、ここの森から鳥が居なくなるって心配してるんでしょう」
「ん、ああ、少し、な」
「大丈夫ですって、居なくなったら他所で余ってるのが来ますって」
そうなのか?、希望的意見だなぁ。
「ん…、まぁ、そうなるだろうが…」
そういうもんなのか…。
まぁいいよそこらへんは。今考えてもしょうがないし。
なので中型のほうもポーチから取り出して死体と角を見せておこう。
- 中型のほうはこれです。少し角が大きいことがわかりますね。
と、話を強引にこちらに引っ張ると、2人ともテーブルの上を見た。
あ、言ってなかったけど、ここはリビングのソファーのほうのテーブルね。
食卓に使ってるほうじゃないよ?、一応ね。それにちゃんと布に包んでるし、血や汁が垂れても大丈夫なように下にも布を敷いたからね。リンちゃんが。
「なるほど、確かに少し大きいな」
「それでも普通の角より小さいですよ?」
「そうだな」
- まぁ、それらは持って行って他の方々にも見せてみて下さい。
「おお、そうか、助かる」
「どっちも食べれる鳥ですからね」
へー…
「そういう意味ではないぞ」
「え?、美味しいですよ?」
「それは知っているが、そうじゃなくてだな、」
「食べて美味しい鳥だって教えてくれたの、ハルトさんじゃないですか」
「ああ、そうだったな、ではなくてだな」
「角の話ですよね、わかってますって」
「本当にわかってるのか?」
「大丈夫ですってば」
父と娘のコントを見ているような気分になってきたよ…。
●○●○●○●
ハルトさんが帰ったあと、食卓のほうに座って黙ってお茶を飲んでいたメルさんとテンちゃんが、ソファーのほうに来た。
そっちはそっちで談笑しててくれて良かったんだけどね、こっちに気を遣ってくれていたのか黙っていてくれたみたいでちょっと申し訳なかったな。
「そんな事はないのじゃ、興味深く聞いておっただけなのじゃ」
気遣いにありがとうと言うと、テンちゃんはそう言って俺の腕を持って支えにしながらソファーに深く座り直し……、ああ、靴を脱いで正座を横に崩したような座り方にしたわけね。そりゃそうだよね、座面の奥行きが身長と合わないはずなんだよ。だからテンちゃんやリンちゃん、それとメルさんもぎりぎりそうかな?、深く座るとひざが伸びてしまう。
そしてテンちゃんがそうやって動くと、たゆんたゆんと服で抑えられていても大きく揺れ動くんだよね。
もちろん目では見てないよ?、目ではね。だって隣だし。
でも俺を挟んで反対側に陣取ってるリンちゃんは『はぁ…』と小さくため息をついていた。
それにね、向かい側に座ってるカエデさんとメルさんの2人は、テンちゃんのその部分を凝視してたよ?、羨望の眼差しだろうね、目がちょっと大きくひらいて、口がちょっと開いてた。
そういうのをわかってか、座り直し終えたら胸を張るんだもんなぁ、そりゃ凭れればそうなるのかも知れないけどさ、わざとやってるよね?、それ。
「(ふふっ…)」
あ、今小さく含み笑いをしたよね?
雰囲気が悪くなるからそういうのやめようよ…。
「タケルさま、こちら側は小型244体、中型26体です。小型は一部回収ができませんでしたが、中型は全て回収してあります。どうしましょうか?」
- え?、え?
「鳥には詳しくありませんので、食べられる鳥かどうかの、」
- あ、いやそこじゃなくて、数のほう。
「回収できたのは全部で248体ですが、それがどうかなさいましたか?」
え?、ちょっとそれすごいな。
こっちはその半分ちょいだったよ。成果に差があって凹むなぁ。
俺のほうもがんばったけど、小型はさっきハルトさんに渡しちゃった3体だけで、他は回収を諦めたんだよ。
だって空中、樹木よりだいぶ高いところから狙い撃ちしてるんだから、いちいち地上に降りて回収するのが大変だったんだよ。言い訳になるけど、小型はほとんど粉砕しちゃってたし、食べる部分なんて無いだろうってのと、飛び散っちゃうんでさらに回収が大変だからね、諦めたんだよ。
あ、思い出したら萎えてきた。悲惨なありさまだったよ、俺がやった事だけどさ。
- いや、それはすごいなって。
「あーっ、それでそっち側が途中から静かになってってたかなー」
お茶請けにとテーブルの上の大きなお皿に盛られている多様なクッキーを頬張って食べていたのに、いきなり会話に参加した。口の周りや胸元がクッキーの粉だらけだ。
って、キミさ、そういうの気付いたならその時に言ってよ…。
「ふふっ、メルさんも頑張ってくれたんですよ」
「そんな、リン様がほとんど倒されたのです、私なんて回収のお手伝いぐらいで、倒せたのはその…、回収できなくなってしまったものだけで…、申し訳ありません」
- あ、メルさん大丈夫ですよ、僕のほうは回収なんて全然で、さっきハルトさんに渡した分ぐらいなんですよ、だから気にしなくていいですって。
「え?、そうなのですか?」
「でもタケルさまのほうはお姉さまがついてるんですから、回収については空からという位置を考えれば仕方ありませんが、数なら、」
「断られたのじゃ」
「お姉さまのほうが、え?、タケルさま?、どういう事ですか?」
あれ?、何か俺が悪いみたいな雰囲気?
- えっと、リンちゃん?
「お姉さまはタケルさまを手伝うためについて行かれたのですよ?、なのにお姉さまに何もさせなかったのですか?、どうしてです?」
あれー?、リンちゃんはテンちゃんに手伝ってもらうのが当然みたいな言い方だよね?、これ。
- あ、えっと、手伝ってもらって良かった、のかな?
「当然ですよ、あたしたちはタケルさまのお手伝いをするために一緒に居るんですよ?」
うんうんと頷くカエデさん以外の3名。
カエデさんは興味津々という感じで、あ、これホームドラマでも見てるような気でいるんじゃないか?、そういうの大好物っぽいし。ちぇ、傍観者じゃん。
とりあえず謝っておこう。
- ありがとう、ごめんね、テンちゃん。
「うむ。解かってくれたのならそれでいいのじゃ」
「お姉さまが手伝えば、あたしたちの倍、いえ、それ以上の成果が出たはずなんですよ」
えーっ?、そんなにかい?、と脳内で某婿養子の人の声が過ぎった。
- そんなに?
「はい。ですから今日、別経路を処理して回ると聞いて、少し疑問だったんです。お姉さまが落とした鳥を回収してまわるのがあたしたちの仕事かと考えていたので」
そういうのはさ、もっと早く言ってよ…。
- そうだったんだ…、あ、でも闇属性魔法じゃないよね?
「はぁ…、タケルさま、いくらお姉さまでもそれぐらいの分別はありますよ」
「む、いくらお姉さまでもとは何なのじゃ」
「だって、寝ぼけていろいろ忘れてたり、余計な闇属性魔法を使ってその場をややこしくしたりしてましたよね?」
「あ、あれはまぁその、あれなのじゃ」
「あれじゃわかりませんよ」
「ほれ、永いこと眠っておったのじゃ、言葉が出てこんのじゃ」
「それを、寝ぼけてるというんですよ、お姉さま」
「う…、タケル様ぁ」
「とにかく、そんなお姉さまでも、このような人種の多い場所の近くで明らかにわかりやすいような大規模闇属性魔法を使うような事はしませんよ。それぐらいは信頼してもいいと思います」
こうしてちょっとした事でリンちゃんはテンちゃんをやり込めるのがパターンになりつつあるな。
- そうだったんだ、じゃあ明日はお願いしてもいいかな?、テンちゃん。
「お、おお、もちろんなのじゃ、其方が信じてくれるなら、空を覆いつくす事だって、湖の水を干上がらせる事だってできるのじゃ」
え、そういうのはちょっと…。
- そんなのは望んでないからね?
「ふふっ、物のたとえなのじゃ」
- 一応きくけどさ、結果的には良かったけど、やる事が大規模で凄まじいってのじゃないよね?
「タケルさま?」
「タケル様よ、其方、何があったのじゃ?」
- んー、ウィノアさんに手伝ってもらった事があってね…
ここでいちいち言わないけど、具体的には洗い流す話が水攻めになって川の水を大量に送り込んだとか、トカゲの死体を転移するのに天候操作で局所的超豪雨を数秒降らせるとかね…。そういうむちゃくちゃな事ね。(※)
名前を出したからか、具体的な事を思い出したからか、胸元の首飾りがもぞもぞ動いた。久々だからちょっとびっくりした。手で軽く押さえておいたら治まったけど。
「む、アレと一緒にするでないのじゃ」
テンちゃんが視線をその胸元の手、じゃないな、たぶんウィノア分体である首飾りを透視するような目つきで見ながら言った。
「そうですよ、タケルさま」
- あ、うん、ごめん。
「あの、前から気になってたんですけど、タケルさんの言う『ウィノアさん』?、ってアクア様の事ですか?」
何と言うか、カエデさんって雰囲気をぶち壊すの得意だよね、今回はそれで助かったんだけども。
- はい、そうですよ?
「やっぱりタケルさんって精霊様たちに好かれてるみたいですし、本物の勇者って感じですよねー、すごいなー」
また両手を祈るように胸のところで組んで、斜め上の天井を見上げるカエデさん。
彼女が言った、『本物の勇者』って言葉が琴線に触れたのか、にっこりと微笑んで両側から俺の腕をそっと抱える光と闇の精霊姉妹。
それと、何故かきらきらとした目で頬を少し染めているメルさん…。
えーっと、俺は何とコメントすればいいのだろう?
両腕が動かせないので、目の前のコップを取る事もできないんだが…、間が持たないよ…。
次話4-020は2020年08月07日(金)の予定です。
(作者補足)
>>そういうむちゃくちゃな事ね。(※)
2章でウィノアがタケルを手伝おうとしてやっちゃった事。
結果的には良かったんだけど、手段がひどい。
詳しくは2章をどうぞ。
20200816:何だかタケルがサンプルの事を言っている部分が妙だったので修正。
20210818:リンとメルに頼んだ場面の最後に1文を追加。
●今回の登場人物・固有名詞
お風呂:
なぜか本作品によく登場する。
あくまで日常のワンシーン。
今回入浴なし。
してたはずなのだけど…。
タケル:
本編の主人公。12人の勇者のひとり。
えっと…
リンちゃん:
光の精霊。
リーノムルクシア=ルミノ#&%$。
アリシアの娘。タケルに仕えている。
何だかんだ言っても姉を信頼しているみたい。
出会ってそんなに時間経過してないのにね。
アリシアさん:
光の精霊の長。
全精霊中最古というような存在。実は凄い精霊。
だいたい出番なし。
テンちゃん:
闇の精霊。
テーネブリシア=ヌールム#&%$。
後ろの部分は精霊語のため聞き取れない。
リンちゃんの姉。年の差がものっそい。
タケルとテンは現状ノーパンコンビ。
リンより背丈が少し小さいのに胸が元のサイズだから
すごくおっきく見える。とにかくでかい。
泰然としているようで、そうじゃないようで…、
そんな複雑な事になっているのは、
タケルに外に連れ出してもらえたから。
ウィノアさん:
水の精霊。
ウィノア=アクア#$%&。後ろの部分は精霊語。
一にして全、全にして一、という特殊な存在。
今回は名前と動作だけ。
ミリィ:
食欲種族とタケルが思っている有翅族の娘。
身長20cmほど。
また翅が無い有翅族に。
今回おとなしいね。
メルさん:
ホーラード王国第二王女。いわゆる姫騎士。
騎乗している場面が2章の最初にしかないが、騎士。
剣の腕は達人級。
『サンダースピア』という物騒な槍の使い手。
身体強化に関しては現状で人間種トップの実力。
出番ができたけど、戦闘よりもほとんど回収に走り回っていたようだ。
ハルトさん:
12人の勇者のひとり。現在最古参。
ハムラーデル王国所属。
およそ100年前にこの世界に転移してきた。
現在はハムラーデル王国と東に国境を接するトルイザン連合王国、
その国境防衛拠点に居る。
『フレイムソード』という物騒な剣の所持者。
着実に事態が解決へと向かっているという実感があり、
それで商人たちを安心させるための打ち合わせだったようだ。
襲撃があったからね。
カエデさん:
12人の勇者のひとり。
この世界に転移してきて勇者生活に馴染めず心が壊れそうだったが、
ハルトに救われて以来、彼の元で何とか戦えるようになった。
勇者歴30年だが、気持ちが若い。
でも言動はタケルからするとちょっと古臭い。
夢見るカエデ。あと、コメディタッチですよね、このひと。
ネリさん:
12人の勇者のひとり。
ティルラ王国所属。
カエデとのアレでちょくちょく名前が登場すると思う。
でも今回も登場せず。
ハムラーデルのトルイザン連合との国境防衛地に作った小屋:
長い。そのうち短い名前がつけられると思う。
平屋の5LDKという贅沢な天幕(笑)。裏庭もあるよ。
シンプルだけどすごい洗濯機がある。
あと、お風呂が広い。
まだ名前がつけられていない。
登場人物たちにとっては不便じゃないんだろうか?
作者的には不便なんですが。
トルイザン連合王国:
ハムラーデル王国の東に位置する連合王国。
3つの王国があり、数年ごとに持ち回りで首相を決めていた。
クリスという勇者が所属しているらしい(2章後半)。
まだ出てこないね。
※ 作者補足
この登場人物・固有名詞紹介の部分全ては、
あとがきの欄に記入しています。
本文の文字数にはカウントされていません。
あと、作者のコメント的な紹介があったり、
手抜きをしたり、詳細に書かれているけど本文には
無関係だったりすることもあります。
ご注意ください。