4ー018 ~ 目撃者の証言
カエデさんにどう言おうか、それとカエデさんが何を言ったのかがわからなくて、俺が妙な表情をしているのを不思議そうな顔で俺の手から見上げているミリィにも、どう言えばいいのか戸惑っていると、リンちゃんがささっと食卓に朝食を並べた。
結局言えずに席に着き、朝食になった。
「わぁ、朝から美味しそうですね!、パンも柔らかそう!、あの石みたいなパンとスープだけは懲りごりですよぉ」
- そう言えば昨日ハルトさんが朝議がどうのって言ってましたけど、
「わ!、遅刻かも!」
カエデさんはいいんですか?、と続ける前にそう言うと慌ててシチューを『あちち!』と言いながらサラダと交互に食べ、そこそこ量がある炒め物の乗った皿を、まるで飲むかのようにかき込み、『ごちそうさまでした!』と立ち上がってパンを咥え、走り去った。
皆がぽかんと呆れながらそれを見送る。
「すごい速さだったかな…」
ミリィですら自分が食べる手を止めて見ていたようだ。
「身体強化していたような…?」
と、メルさんが片手にパンを持ったまま呟き、
「それでも全部食べて行ったのじゃ」
まだ使っていないスプーンを手にしたまま、テンちゃんが言い、
「炒め物は取り皿に取って食べてもらうつもりだったんですけど…」
リンちゃんがその炒め物が入っていた大きめのお皿を見ながら言うと、皆が入り口の方から視線をそのお皿へと移し、誰ともなく『くすっ』と笑い始めてから、皆でくすくすと笑った。
「あたしも食べたかったかな…」
と、ミリィが汁が少し残ったお皿にちぎったパンをちょいとつけて食べている。
「炒め物、持ってきますね」
それを見てリンちゃんがそう言い、席を立った。
朝からそれほどの量は用意してないにしても、ミリィも入れて6人分だもんなぁ、余ってもいいからね、そのために各自に分けられていないわけで。まさかそれを全部、それもすごい速さで食べ切るとは…。
改めて余裕のある食事を始めたので、今日の予定のことを話した。
具体的にはミリィを伴って試しに鳥型の魔物を探して回ってみようかと、そのためにまず、ミリィを隠蔽する方法を試すと言うと、
「ねぇ、昨日も言ってたけどあたしに何するのかな?」
わかってなかったのか…。
- ミリィが見つからないように保護しようって話だよ。
「外ってそんなに危険なのかな?」
- 危険、というよりあまりミリィの存在をここの人たちに知られない方がいいというのと、鳥型の魔物でもミリィからすると大きいでしょ?、そういう危険はあるんじゃないかな。
やっぱり語尾『かな』はうつっちゃうな。
このやりとりを聞きながら食べる手は止めない精霊姉妹2人。テンちゃんは見守るような視線で、リンちゃんはやや諦めの混じった視線で、それぞれがちらっと俺を見ただけで、何も言わなかった。
言いたい事があるなら言ってくれてもいいのにね。
「でもタケルさんが一緒なら大丈夫かな」
と、ミリィが言うのとほぼ同時にメルさんが問いかけた。
「タケルさん、ミリィちゃんを単独で斥候に出す事があるのでしょうか?」
- いや、無いよ?
「え?」
- あ、いやミリィに言ったんじゃなくて、メルさんに返事したんだ。
と、慌ててミリィとメルさん双方にそれぞれの発言を説明した。ややこしいな。
リンちゃんとテンちゃんには2人の話の意味が理解できているので、声は出して無いけど面白そうに薄笑いになっていた。何だよ、他人事だと思って…。
「よかったぁ、一緒じゃないのかと思ってびっくりしたかなー」
「そうですよね?、タケルさんが一緒についてるならそれほど気にされる事は無いのでは?」
- あー、うん、確かにそうなんだけどね。ミリィに言ったんじゃないよ、これ。
「うん」
「見つけた鳥型の魔物はどうするのじゃ?」
- そりゃあすぐに倒しますよ。倒せる位置に居るのなら。
「ミリィが見つけるにはその魔物が鳴かねばならんと思うのじゃ」
「でもタケルさまは昨日既に多くの鳥型を見つけて、地図に印をつけられてましたよ?」
- あ、それは疑わしいものであって、鳥型の魔物だと確定したわけじゃないんだ。
「そうでしたか」
「ふむ、ならばどうやって鳴かせるのじゃ?」
- それは、まぁそのうち鳴くかなって…。
「飛んで探すのか?」
- はい、今日はそのつもりですけど。
「そうか。其方は飛行に索敵に攻撃にと忙しいわけじゃ。そこにミリィを護るのを加える余裕がありそうか?」
- そこが少し不安ですね。1体ずつ処理している間はいいんですよ。でも鳥型が一斉に攻撃をしてきた場合、飛行結界で耐えられるならいいんですが、かなり空中での動きが激しくなりそうで、そういう時にミリィを構ってあげられるかどうか…。
「危なくなったらタケルさんのポケットに逃げればいいかな?」
「ふむ、其方は鳥型の魔物と戦った事があるのじゃな?」
- あっはい、前の時に少し。
「その時はどうだったのじゃ?」
- んー、特に攻撃はされなかったと思います。
「何じゃ、一方的なのじゃな」
- 結界に突っ込んで来るかと思ったんですけど、あ、今思えばコウモリみたいに超音波で結界があるって判ったから突っ込んで来れなかったのかも知れません。
「ほう、其方はそれをどうやって知ったのじゃ?」
- こう、薄く結界を張るとですね、風や音に反応して揺らぐんですよ。それで油膜みたいに光が屈折して波紋が出るので、それで判断したんです。
「超音波だと?」
- 聞こえない音でしたし、それでもしかしたら竜族やジャイアントリザードと同じかなって。
「そこから連絡に使っているとどうして判ったのじゃ。たまたまかも知れんとは思わなかったのか?」
やけに質問が続くなぁ、おそらくテンちゃんはそれでミリィやメルさんへの説明にもなると思ってそうしていると考えておこう。テンちゃん楽しそうだし。
- もしかしたら、ぐらいにしか思って無かったんですけどね、でも連絡をされているとしか思えない事があったんですよ。鳥に見つかってから、飛んで行った方向にあるダンジョンから、まるで待ち構えているかのように、先にぞろぞろと出てきて隊列を組まれていたので。
「なるほどなのじゃ。つまり其方はミリィにその連絡先を辿ってもらい、どこに伝えているかを明らかにしたいという事じゃな」
- はい。上手く行けばですけど。
「ところでタケル様よ、其方が飛行中に張る結界は外の音が聞こえ難くはないのか?」
- あ…、そうですね、音を聞いてもらう時は一部開放します。
うっかりしてたよ。
「まぁ其方の事じゃ、すぐに気付いたと思うのじゃ」
と、テンちゃんは微笑んで言ったので、俺も曖昧に笑顔で頷いておく。
「今日のところは様子見なのじゃろ?、それで上手く行きそうなら私がついて行く事も考えに入れるのじゃ」
「お姉さま?」
- テンちゃんが?
「そうなのじゃ。私なら飛行中に目を閉じる事も無い、補佐をするのに打って付けなのじゃ」
「「……」」
ちらっとリンちゃんとメルさんそれぞれを見て言ったので、2人は何も言い返せなかったようだった。
朝食が済み、そのまま外ではなく室内で隠蔽のテストをした。
まずはテンちゃんから。
昨日言っていたように、俺には黒い靄も中のミリィも見えるし認識もできたが、リンちゃんとメルさんには俺の斜め前で空中に浮いているミリィが見えなくなったようだ。リンちゃんには靄の存在はわかるが、そこにあると聞いて知っているからだとテンちゃんは説明し、リンちゃんも同意していた。
メルさんにはそこに在るという事そのものがわからなくなってしまったと言っていた。
すげーな、闇属性魔法の認識阻害。
一応、リンちゃんが言うには、影響や程度が段違いに軽いが、それと同じような光属性の魔法があり、それが『森の家』の結界や光の精霊さんの里の結界にも使われているらしい。そう言えば普通の人は近寄る事もそこに在るという事もわからないって言ってたっけね。
でも確かに、小さいから意識から外れていても気にならないんだろう。
あまり大きいと、鋭い人ならその部分が認識できない事に気付くかも知れない。表現がややこしいけど、そんな感じ。
それと、試してもらったけど、ミリィが中から外へと放出する魔法は吸収阻害されて使えなかった。何度かやっていけば靄が小さくなって、自然に消えるまでの時間が早くなるとテンちゃんが説明していた。
「結界魔法と同じなのじゃ。与えた魔力の分は耐えるが、それ以上は消滅するのじゃ」
という感じらしい。
次に、リンちゃんが言っていた隠蔽の魔道具も試した。
これは、大きさが例によって新しい石鹸ぐらいのサイズなので、小さな布袋に入れてミリィに背負ってもらう形になって、ミリィはあまりいい顔をしなかった。翅があったら背負えなかったね。
発動すると、まぁ、いわゆる光学迷彩ってやつだった。
素早く移動すると、ちょっとだけ輪郭がちらっと判る程度で、魔力感知がメルさんぐらいあれば、目ではわかりにくいが、そこに居るというのは感知できるものだった。メルさんも実際そう言っていたし。
テンちゃんにかけてもらった方と異なるのはそこだけじゃなく、ミリィが障壁魔法や、攻撃系の魔法が使えるという事だ。もちろん、魔道具へ魔力をチャージするのがミリィであり、ミリィが自分の周囲に結界を張る形になるという前提での話だ。
「でも、タケルさまと行動を共にされるのでしたら、認識阻害のほうがいいと思います」
「おや、昨日あれだけ言っておったのは何だったのじゃ?」
「いろいろ考えて、タケルさまにとって良い方法を選んだに過ぎません」
「そうかそうか」
リンちゃんの言う『いろいろ』とは、たぶんミリィ自身の魔力負担のことや、音を聞くなら結界を解除した方がいいのではないかというさっきの話で、そうすると光学迷彩を投影する結界が消えてしまう、という理由に思い至ったからじゃないかと思う。
ふたりとも、もうちょっと素直というか、テンちゃんもそんな意地悪な言い方しなくてもいいのにって思うけどね。
そういうわけで、テンちゃんの隠蔽方法で行く事になったのだが…。
「ねぇ、薄暗くなるほうって、あたしずっと飛んでないとダメなのかな?」
と、ミリィが俺に問いかけて、俺がテンちゃんを見ると彼女の笑顔が消えた。
「……飛んでない時はどうするのじゃ?」
少し間があいたが、テンちゃんがミリィに問い返すと、
「タケルさんの手の上かな?」
「ふむ、タケル様よ」
- はい。
「其方の手、魔力を出さぬようにできるか?」
- できますけど、飛行中や攻撃時にそれをするのは難しいですよ。練習してませんし。
「うーむ…」
つまり俺の手から自然に出てる魔力で、靄が早く消えるって事かな。たぶん。
同調すれば消えないようにはできると思うけど、それに集中するのも練習しないと長時間は厳しいな。
「もうお姉さまも同行すればいいじゃないですか」
というリンちゃんの言葉で、テンちゃんが同行して、彼女の手の上で隠蔽するって事になった。
案外いろいろあるもんだなぁ…。
ところで、ほとんど発言せずに黙っていたメルさんだけど、飛行で行く限りついて行けないと自覚しての事だったようだ。
まぁ俺としても?、強化ONでしがみつかれてしまうのは結構慣れたとは言え、もし空中戦闘って事になった場合、強化MAXでしがみつかれたら俺が持たないし危険だからね。ついて来るなんて言われなくて良かったと思うよ。
「空中では無い時に頑張りますので」
と言ってはいたが、やっぱりちょっと残念そうな雰囲気が少しあった。
こっそりリンちゃんが、『今朝早くから外で剣や槍を振ってましたよ』と教えてくれたけど、だから朝からひと風呂浴びてたんだな。
ダンジョンを処理する時には充分働いてもらうからと言うと、少しやる気になったのか笑顔で頷いてくれたけど、俺の予定では、外に居る鳥型の魔物をほとんど処理するまでダンジョンの処理は後回しなんだよね。まだダンジョンの数すら1つで確定では無いんだし。
だからまだしばらくは出番が無さそうなんだって、ちょっと言えなかった。
●○●○●○●
そうして、リンちゃんとメルさんに見送られ、俺とテンちゃんとその手に乗るミリィの3人で飛び立ち、まずはこの防衛拠点周囲の索敵から始めた。
テンちゃんの手はレースの手袋をしているが、ミリィは別にそれには頓着しなかった。ごわごわしてないのかな?、と一瞬思ったが、そういえばあの手袋って手触り悪く無かったなと思い直した。
あ、でも階段のところで小さい今の姿になってた時、手を両手で包まれたけど、あの時は手袋して無かったな…、皆の前に戻った時には手袋していたような…。地下に降りるときに手を繋いだけど、あの時は手袋をしていなかった…。あれ?、いつ着けたり外したりしてたんだろう?、まぁ、別にいいんだけどさ。
話を戻して、飛んでいて一度静止状態になり、足場以外の飛行結界を解除して、試しにミリィに音を聞いてもらったんだけど…。
「いっぱい聞こえてて何が何なのかわからないかな、うるさいかな…」
と、ミリィは眉尻を下げて両手で耳を覆う始末。
確かに鳥の声は結構しているけど、それに紛れてるって事だろうか…?
「ふーむ、普通に考えて、これだけ人種が周囲を哨戒しているのに鳥がこれだけ騒ぐというのはおかしいのじゃ。そう思わんか?」
言われてみれば確かに。
広範囲用の索敵魔法ではなく、短距離用の索敵魔法を使ってみると、哨戒中の兵士さんの近くでも鳥が居る。というか魔力感知で見るとそれら全部鳥型の魔物だ。普通の鳥より魔力があるからわかるけど、普通の鳥ならひとが近寄れば静かになるか、飛んで逃げるもんだ。
あ、前にも言ったけど、魔力波の周波数でそう呼んでいるだけなので、音波じゃない。性質は似ている所もあるんだけどね。まぁ詳しい理論はわからない。そういうのは光の精霊さんの技術者さんたちに任せてる。
- そうですね。もうこれ片っ端から処理していきましょうか…。
「多いのじゃ、それに木や枝が邪魔なのじゃ…」
テンちゃんも感知したのか、うんざりといった表情をして言った。
わかる。もうこのあたりの木々、全部焼き払うとか伐採して更地にしてしまったほうがいいんじゃないか?、とすら思えてしまう量だ。
昨日より明らかに増えている。
どうしたものか、と考えているのが顔に出ていたらしい。
「困っておるようなのじゃ。其方がどうしても、と言うのであれば力を貸さんでも無いのじゃ。どうしても、と言うのであれば、なのじゃ」
テンちゃんは片手にミリィを黒い靄に包んで乗せたまま、もう片方の手でそれまで軽く抱えていた俺の腕にむにゅぅっと胸を押し付けて…、じゃなくて少し斜め下から俺の顔を微笑みながら覗き込むような格好になったのでそうなったんだろう。いいんだよ、そうだと思っておくんだよ。
とにかくそういう姿勢で言った。
でもなぁ、力のある精霊さんがそんな事を言う時って、過去の経験から、ってウィノアさんの例しかないけどさ、だいたい大規模でむっちゃくちゃな事やるんだよな…。まだウィノアさんの時は、他人が居ないような場所だったから良かったんだけど、ここってすぐそこに防衛拠点はあるし、哨戒中の兵士さんだってちらほら居るような場所だから、そんな事をされたら困る。
2度も『どうしてもと言うのであれば』と言ったのは、たぶん闇属性の魔法を行使するというのはリンちゃんも言ってたけど、おそらくアリシアさんからも使うなって言われてるからだと思う。
と言うか、水属性ですらあんだけえらい事になってたのに、闇属性で大規模ってったらもう想像の範囲を超えたすんごい事になりそうな予感しかしない。
けどそれを尋ねようもんならきっと、『では見ているがいいのじゃ』なんて言ってひょいっとドえらい事を始めちゃいそうだから怖くて訊けない。
だって2度も言うぐらいなんだぜ?、俺を言い訳にするぐらいなんだから、そりゃもうすんごい事をやりそうだろ?、それこそ鳥型の魔物ごと、この辺りの森が消滅してしまいそうじゃないか。
- お気持ちはありがたいんですが、僕のほうでまぁ何とかやってみます。
「そうか」
ほ…、普通の返事で良かった。
「…ふふっ」
ちょ…、そういう意味ありげな笑いを漏らすの、やめてくれませんかね?
●○●○●○●
「あ、あのっ!」
「あ?、えーっと斥候隊だな?、そんな勢い込んで走ってきてどうした?、敵か?、襲撃なのか?」
全速力で本部前まで走ってきた様子の斥候隊の兵が、両膝に手をあてて腰を屈めて息を整えている。入り口に立っていた兵士がそれに対して問いかけた。
すると声が聞こえたのか中から数人の兵士とハルトとカエデが出てきた。
「ん?、第3斥候中隊じゃないか、」
最初に気付いたのが金属部分の無い革鎧の者だ。
彼は自分が管理している部隊の斥候兵だと気付いた様子だ。
どうやら声が聞こえたからではなく朝議が終わったから出てきたようだ。
「この周囲で何があった!?」
「は、はい!、魔物では、無いと、思われます!」
「ん?、では何なんだそんなに急いで」
他の面々もこの2人のやり取りを注視している。
「ひ、人が」
「人が?」
「浮いてたんです!」
「は?」
ここでハルトとカエデには誰の事なのかがわかったようだ。
「あー、それはあれだ、勇者タケル殿だ」
ハルトが痒くもない後頭部を掻きながら2人に近づいて言う。
カエデはその場から動かずに頷いていた。
「は?、勇者、様、なのですか?」
「ああ、そうだ。昨日到着された。文字通り飛んできて、な」
周囲の大半がそれを目撃か伝え聞いた者たちなのだろう、苦笑いをして頷いた。
「飛んで…?、人がですか?」
「昨日その目で見た者もいるだろう、その勇者タケル殿は、空を飛べるのだ。カエデも一緒に飛んで連れてきてもらったのだ、なぁカエデ」
信じられないような目をした第3斥候中隊の2人を置いて、ハルトはカエデに話を振った。
「はい。あ、あたしは飛べませんよ?」
「俺だって無理だぞ?、同じ勇者でもタケル殿は別格なのだ」
「うんうん」
何故か周囲も同じように頷いている。
「その、見間違いでは無かったんですね…」
報告に来た兵が恐る恐る尋ねる。
「現在のところ、飛べる勇者は彼だけだ。だから飛んでいる人が居たらそれは勇者タケル殿だ」
「それが、真っ黒な子供と青年が腕を組んで浮いていたように見えまして、他の者にも確認したのですが同じように見える、と…」
「そうなのか?」
「はい」
部下の報告が信じがたいのだろう、思わず聞き返した上司らしき兵。無理も無いだろう。彼は悪くない。
「なら、その黒いお方を連れて飛んでいたのだろう」
ハルトが言うが、その彼が『お方』などと表現する事に周囲の兵たちは驚いたように目を見開いてハルトを見た。
「はぁ…」
それに対して気付かずに、連れて飛ぶというのがよくわからなかった報告の兵。
「朝議でも言ったが、他にもメイドのような服を着たお方と、変わった槍をもつ兵が居る。どの方々も重要な方々なので皆も失礼の無いように」
いつの間にか何事かと遠巻きに集まってきている、近くに居た兵たちにも言い含めるように、やや大きな声でしっかりとした口調をして言うハルト。
「「はっ!」」
ばばっと胸を叩く拳の音がして全員が敬礼をした。
「とにかく、だ。飛んでいる人を見ても驚かぬようにな。各自、持ち場で周知せよ」
「「了解!!」」
それにひとつ頷くと、ハルトとカエデはそれぞれ別の部隊長だろうか、その者と一緒に別々の方向へと歩いて行った。
●○●○●○●
さっきテンちゃんが少しだけ魔力を漏らしたせいで、その手の上に居たミリィは言ってみりゃ直撃を食らったようなもんだったらしく、ぐでーっと気を失っていた。
今日はいいとこ無しだな、ミリィは。
と、ちょっと思ったけど、これだけ多ければそりゃうるさいだろうしどことか鳥型の魔物が伝えて行く方角とかわからなくなるのは仕方ないだろう。
もうちょっと数が減ってからかな、ミリィに頑張ってもらうのはさ。
という訳で、ある程度高度を下げて1羽ずつ、いや、1体ずつ処理をしていってるんだけど、それに気を取られていたので斥候兵が3人ほど集まって俺を見上げていたのに気付くのが遅れてしまった。
俺と目が合うと、ばっと散って走って行ってしまったんだけど、大丈夫かな…?
でもまぁ、飛べるってことを隠しているわけじゃなし、昨日到着した時だって、本部近くのちょっと広くなってる場所へゆっくりと着地したんだからね。
ああ、上空からそう見えた場所は、降りてみるとちょっと離れていたけど、まぁ誤差ってやつだ。
しばらくそうやって枝の隙間に居るような鳥型の魔物を処理し続け、いい加減休憩がしたいと思うぐらいになって、ミリィが目を覚ました。
「うぅ…ん…」
「お、気がついたのじゃ」
- あ、ミリィ、大丈夫?
「急にふらっとして、起きたら今だったかな…」
「済まんかったのじゃ、ミリィ」
「え?、どうしてテン様が謝るのかな」
- テンちゃんの魔力がちょっと強くなって、それにあてられたんだよ。
だから病気とかじゃないよ、と説明をした。
「そうだったかな、テン様、失礼致しました」
「いや、悪いのは私なのじゃ」
「とんでもないです、もったいないです」
「其方は私が怖くないのか?」
「精霊さまは偉大かな、すごいかな。だから敬う事はあっても怖れるのは違うかな」
「そうか…」
「でもタケルさんの近くの精霊さまには普通に接しないと悲しませちゃうかな」
「ほう、其方は良い子なのじゃ」
「大地の精霊さまにも言われたかな」
「ほう、大地の」
テンちゃんはミリィとの会話が楽しそうだ。
丁度いいから休憩にしよう。
そう思って着陸してテーブルと椅子をさくっとつくり、ちょっと会話に補足を入れた。
- ドゥーンさんとアーレナさんですよ。
「おお、あの2人と会ったのか。懐かしいのじゃ。元気だったか?」
やっぱり知っている精霊さんのようだ。
リンちゃんが古の精霊が、って言ってたもんね。
大地の精霊さんたちも古くから存在している精霊たちみたいだし。
「はい!、優しくて面白くていい方々だったかな!」
面白い?、まぁそういう面もあったっけね。
手洗いをしてからいつもリンちゃんがやっていたように、テーブルクロスを敷き、カップとお菓子を並べてお茶を淹れると、テンちゃんたちは会話を続けながら席に着いた。
ミリィはテンちゃんの誘導で手から降りてテーブルの上ね。
「そうかそうか」
「アーレナさまに弟子ができたかな!」
「ほう?、弟子か!」
ああ、ハツの事か。
「他にもタケルさんが拾ってきたひとがいて、それで一緒に魔法の訓練したりしたかな」
「ほーう?」
あー、それは『あとで詳しく話すのじゃ』という目だな。
でも拾ってきたってのはどうなんだ?、一応、人助けなんだけど。言っておくか。
- 人助けですよ。
「あ、そうそう、あたしもタケルさんに命を救ってもらったかな!」
「ほほう、」
それでミリィは自分が助けられた時の話を、テンちゃんが誘導するまま、嬉しそうに話した。
メイリルさんを連れて来た時の話までしなくてもいいのに…、そんでもってまた、『素っ裸の女の子が寝てるのを胸揉んでキスしてた』なんて言うから慌てて蘇生措置と人工呼吸ですって訂正した。
テンちゃんは『そのような方法が』と最初は信じてくれなかったけど、根気良く説明したら『そのように必死にならずとも其方の事は信じておるのじゃ』と言われた。
じゃあ途中から薄笑いだったのは信じて無かったからじゃなくて、必死に説明する俺を面白がってたって事かよ…。
勘弁してくれ。
あ、ミリィのせいだよな?、これ。2度目だよ、3度目はないぞこいつめ…。
次話4-019は2020年07月31日(金)の予定です。
20201110:衍字削除。 テンちゃんはたちは ⇒ テンちゃんたちは
●今回の登場人物・固有名詞
お風呂:
なぜか本作品によく登場する。
あくまで日常のワンシーン。
今回入浴あった?
タケル:
本編の主人公。12人の勇者のひとり。
リンちゃん:
光の精霊。
リーノムルクシア=ルミノ#&%$。
アリシアの娘。タケルに仕えている。
一緒に行きたかった。
アリシアさん:
光の精霊の長。
全精霊中最古というような存在。実は凄い精霊。
だいたい出番なし。
今回も名前だけは登場。
テンちゃん:
闇の精霊。
テーネブリシア=ヌールム#&%$。
後ろの部分は精霊語のため聞き取れない。
リンちゃんの姉。年の差がものっそい。
タケルとテンは現状ノーパンコンビ。
リンより背丈が少し小さいのに胸が元のサイズだから
すごくおっきく見える。とにかくでかい。
ほーう?(によによ)
ウィノアさん:
水の精霊。
ウィノア=アクア#$%&。後ろの部分は精霊語。
一にして全、全にして一、という特殊な存在。
今回も出番なし。名前は出るんですけどね。
ミリィ:
食欲種族とタケルが思っている有翅族の娘。
身長20cmほど。
また翅が無い有翅族に。
ちょっとおしゃべりな娘。
メルさん:
ホーラード王国第二王女。いわゆる姫騎士。
騎乗している場面が2章の最初にしかないが、騎士。
剣の腕は達人級。
『サンダースピア』という物騒な槍の使い手。
身体強化に関しては現状で人間種トップの実力。
出番まで鍛錬して過ごすようだ。
ハルトさん:
12人の勇者のひとり。現在最古参。
ハムラーデル王国所属。
およそ100年前にこの世界に転移してきた。
現在はハムラーデル王国と東に国境を接するトルイザン連合王国、
その国境防衛拠点に居る。
『フレイムソード』という物騒な剣の所持者。
伝え方が下手なのかな?
カエデさん:
12人の勇者のひとり。
この世界に転移してきて勇者生活に馴染めず心が壊れそうだったが、
ハルトに救われて以来、彼の元で何とか戦えるようになった。
勇者歴30年だが、気持ちが若い。
でも言動はタケルからするとちょっと古臭い。
うっかりカエデ。
ネリさん:
12人の勇者のひとり。
ティルラ王国所属。
カエデとのアレでちょくちょく名前が登場すると思う。
でも今回登場せず。
ハムラーデルのトルイザン連合との国境防衛地に作った小屋:
長い。そのうち短い名前がつけられると思う。
平屋の5LDKという贅沢な天幕(笑)。裏庭もあるよ。
シンプルだけどすごい洗濯機がある。
あと、お風呂が広い。
トルイザン連合王国:
ハムラーデル王国の東に位置する連合王国。
3つの王国があり、数年ごとに持ち回りで首相を決めていた。
クリスという勇者が所属しているらしい(2章後半)。
ハツ:
3章でタケルが助けた人その1。
めっちゃ可愛い子。
少年だと思ってたら両性らしい。
でもそのうち女性になるみたい。
3章に登場。
ドゥーンさん:
大地の精霊。ドゥーン=エーラ#$%&。
割といい加減な性格。
時々『ほっほ』と笑う。
3章に登場。
アーレナさん:
大地の精霊。アーレナ=エーラ#$%&。
助けた娘のことを忘れるし、カプセルを間違えるし…。
メイリルさんをすっぽんぽんにしたのはこの人。
3章に登場。
メイリルさん:
3章でタケルが助けた人その4。
100年前は王女だったらしい。
詳しくは3章で。
※ 作者補足
この登場人物・固有名詞紹介の部分全ては、
あとがきの欄に記入しています。
本文の文字数にはカウントされていません。
あと、作者のコメント的な紹介があったり、
手抜きをしたり、詳細に書かれているけど本文には
無関係だったりすることもあります。
ご注意ください。