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4ー016 ~ 防衛戦とそのあと

- それで、迎撃態勢はどうだ?


 「はい、東側からのものが少し早いようで、既に4小隊20名がこの先で展開しております」


 彼が指差す位置は、この防衛拠点から東に300mほどのところにある、林の中で少し開けた部分だ。伐採をして切り開いた箇所もあるが、自然にできた場所もところどころあるのだ。

 ダンジョンがあるのは東側なので、中継地点として使えるよう、幾つか切り開いた場所のひとつだ。この東側のその部分は切り開いたもので、切り株の処理ができておらず戦い難い面もある。


- そうか、南は?


 「そちらにも20名を、つい今しがた」


 南側は自然にできたものを利用していて、こちらは切り株が少なく見通しも良い。潅木(かんぼく)の処理をした程度だから戦いやすい環境と言える。


 タケル殿との話は途中だったが、部屋を出てすぐに作戦台で地図を広げて急ぎ説明を聞いた。

 なるほど2方向からの挟撃というわけか。時間差とは敵も()る者だ。

 こちらの連絡は魔道具を使うとは言え、距離の制限というものもある。

 やはりすぐに俺とカエデがそれぞれで対応したほうが良さそうだ。


- わかった。カエデ、南側に向かってくれるか?


 「わかりました、すぐに」


 作戦室の片隅に置いてあった荷物から剣と剣帯を身につけていた彼女に指示を出すと、こちらの声が聞こえていたのだろう、作戦台の上の地図をちらっと見て返事をした。

 それに頷き、俺も後ろに控えていた兵から『フレイムソード』を受け取り、すぐに帯の金具に装着した。


- よし、俺も出るぞ。この拠点は任せた。


 「「はっ」」


 作戦室に残っている数名が一斉に敬礼するのに答礼し、本部をあとにした。


 勇者が前線へと出るのは、ここが国境を越えた場所だからという理由でもある。兵士だけが国境を越える事は、それそのまま隣国への侵略行為となるからだ。そう取られない為にも勇者が率いているという事実が建前として必要になるのだ。

 相手国側の監視が無くとも、実際にそうして記録を作ることが大事なのだ。


 この防衛拠点は、少しではあるが既に国境を越えた位置に築かれており、そうして突出しているからこそ、ダンジョンに近いという理由もあるが、魔物はここへと集中してくる。

 本来なら、ただ散発的にここへ向かって来る魔物の性質を考えて拠点を築いたのだ。それがどうにも単純では無くなっているとはタケル殿にも説明をした通りだが、そう、今のところは()()ここを迂回して国境を越えて来る例は無いのが幸いというところだろう。






 駆け足で先ほどの地図で見た場所へと来ると、既に戦いが始まっていた。


 「おら!、こいつめ!、おら!、おらぁ!」

 「押せ!、押せ!」

 「こっちに盾の換えを!」


 大盾の後ろを2名、または3名で支える者、その後ろから短槍で突こうとする者。それぞれの叫び声と、魔物が出す鳴き声と大楯にあたる攻撃の音が入り混じっていた。


 短槍の兵が上から攻撃をしているが、決定的というわけでは無く、牽制(けんせい)程度にしかなっていない。

 それが悪いという事ではなく、そういう戦い方しかできないのだ。


 後方で台に乗っている弓兵が、突進してくる角イノシシと角クマに傷を負わせてはいるが、盾の近くまで来ると狙えないし、直進する前者はともかく後者は矢を払ったり避けたりもする。盾を回り込ませないように、こちらも牽制し、誘導するのが主なので仕方ない。

 そもそも、魔物化した動物は元の動物よりも毛皮が堅く強靭なため、短弓の威力では不足なのだ。余程正面から上手く当てなければ刺さらず、斜めに当たった場合は弾かれてしまうからだ。

 ジャイアントリザードはそれ以上に鱗があるのでさらに刺さり難い。そんな嫌がらせのような攻撃であっても役には立つのだから、使わない手は無い。


 ともかくそうやって少しずつ魔物の体力を削り、攻撃を凌いでいくのがここでの兵士たちの役割だ。


 俺は『フレイムソード』を抜き、向かって右手側のほうから大楯を回りこんで切り込んで行くことにした。


- 右から行くぞ!


 「「はい!」」

 「お願いします!!」


 そうして少しずつではあるが敵の数を減らして行った。






●○●○●○●






- わかりました、すぐに。


 作戦台の上に広げられた地図。ハルトさんが指差す場所をちらっと見て、私は頭を戦闘モードに切り替え、急ぎ足で本部を出た。


 あー、タケルさんに送ってもらって無ければまだ移動途中だったのになー、と、こんなにすぐに出番が来るなんて思って無かったから、何だかちょっぴり損したみたいな気分になりかけたけど、ちゃんと勇者として頑張らないと、あたしがここに居る意味がないもんね。


 走りながら、いつも笑顔で挨拶してくれたり、何かと世話を焼いてくれる兵士さんたちは、あたしが勇者で、戦いに役立つ()()()女だからなんだとわかってる。

 だからみんなを守って、こうして役立てる機会にはちゃんとやらなくちゃね。


 ()だって勇者歴30年のベテランなんだから!


 …と言うと何だかもうおばさんみたい…、ううん、見かけはまだピチピチの10代だから!


 だってハルトさんが勇者は普通の人の10倍、年を取らないって言ってたもん!

 あたしがこの世界に来たのが15歳ん時だから、だからまだ18歳!……たぶん。そのはず。そういう事にしとこう。


 っと、兵士さんたちの居る場所が見えた。迎撃準備が整ってるみたい。ちゃんとしないと!、()()()()女、()()()()女…。






 「あ、カエデ様!、おい、カエデ様が到着されたぞ!!」

 「「おう!!」」


 戦線で指揮をとる隊長のところに来ると、彼が大声で皆に知らせた。もう慣れたけどハムラーデルの隊長クラスのひとって、みんな声が大きいのよね。あ、中隊長だけど、こういう所では中隊長も隊長って呼ばれてる。


 「よっしゃー!、ついてる!」

 「何でだよ!」

 「え?、お前知らねぇのか?、カエデ様は回復魔法が使えるんだぞ?」

 「え!?、まじで!」

 「おう、まじまじ」


- あ、あの!、ちょっとだけですよ!?、ちょっとだけ!?


 そんな、大怪我しても治せるなんて思われたら困る。


 「それでも後方から出て来ない従軍司祭なんかより全然助かるんですから」


 横で隊長さんが笑顔で言う。小さい子が見たら泣き出しそうな笑顔だけど。


- まだ覚えたてなんですよ。だから期待されても…


 「それでも、士気が上がるのは助かりますよ」


- そうですか…?、じゃあそれでいいです。


 「ははは、もしもの時はよろしくお願いします」


- はぁ…、頑張ります。あ!、頑張らなくていいようにしてくださいね?


 「はい、せいぜい大怪我にならないような指揮を心がけます」


- そうしてください。


 と、話をしている間に前方、木々の間にちらっと魔物の姿が見えた。

 周囲の雰囲気がすっと変わった。

 こういう切り替えの早さ、タケルさんたちとはえらい違いで、あれはあれでどうなんだって思ったけど、あたし、いや、()はこっちのほうが好みかな。なんて思う間も無く前で大楯を並べ、その後ろで短槍や弓を構えている兵士さんたちの緊張が伝わってきた。


 戦闘が始まる。






●○●○●○●






 「は、ハルト様!」


- どうした!?


 「後方、拠点側に襲撃!、30体!」


- 何っ!


 前衛を襲っていた角イノシシと角クマを倒し終え、残り5体のジャイアントリザードのうち、1体に深手を負わせたところで拠点から走ってきたのだろう兵士が大楯の後ろから大声で呼びかけた。


 こちらは抜かれていないが、南側からか?、カエデは!?、いや、30体とは聞いていない。なら別口か?


- 襲撃の方角は!?


 深追いはせず、彼のいる大楯の後方へと回り込んで下がり、問いかけた。


 「北東からです」


 別口か…、こちらと南の両方が陽動だったというわけか…。


- そうか、状況は?


 「戦端はまだでしたが、北側は民間人も多い区画ですので…」


- ああ、そうだったな。では急ぐ。


 「はっ」


 俺は残りをここの兵たちに任せて拠点の北側へ向けて大急ぎで走った。


 拠点の北側は、ハムラーデル国境に近い側という事もあって、従軍している商人などが多く天幕を張っている区画だ。輜重(しちょう)隊もそこに天幕を作り、物資の受け取りや分配をしている。

 だからこそ、そこを突かれるのはかなりまずい。


 斥候や巡回をしていたはずだが、それの隙間を通り抜けたというのか…?、30体も?

 今日、タケル殿の言っていた、鳥の魔物が予想以上の働きをしているという話、いよいよその効力が明らかとなったというわけか…。


 走りながら少しそんな事を思った。






●○●○●○●






 これは後で聞いたんだけど、斥候隊の監視網の隙間を縫ってやってきた別働隊、それが28体で防衛拠点北側から襲って来たそうだ。


 まるで最初にやってきた2小隊14体の魔物が陽動で、そちらが本隊だとでもいうような、ジャイアントリザードのみの構成で本陣を襲ったらしい。ジャイアントリザードは4足歩行をすると低いからね。

 そのせいで奇襲に遭った防衛拠点は大混乱だったんだそうだ。


 俺たちは兵士さんたちの天幕が多い南西側で、後方というか端っこだったし、そんな騒ぎが聞こえないぐらいリンちゃんがちょいと建ててホームコアを埋め込んだ家が良かった、って話なんだが…、距離があるとは言え、外の騒ぎが聞こえないってそれはそれで前線では問題じゃないの?


 そんな気持ちでリンちゃんをちょっと見ると、『窓を開ければ聞こえましたよ?』と言い訳をされた。

 前にもちょっと思ったけどさ、やっぱ俺が考えてる事、だいたい伝わってるでしょ…。

 伝わる事と伝わらない事の境界線(ボーダーライン)が知りたいなぁ…。


 それはともかく、本陣のあるこの駐屯地というか前線拠点の物資集積所と従軍商人などの居る区画を奇襲されたせいで、怪我人の数がかなり多くなってしまったんだそうだ。


 なんとか防衛するのが精一杯で、撃退するのにかなり時間がかかり、陽動2小隊を半壊状態に追い込んで撤退させ、ハルトさんが応援に戻ってきた頃には拠点奇襲を指揮していたであろう後方の2体はもう撤退した状態だったんだそうだ。


 死者は4名、治療が間に合わなくて運悪く重傷から死亡状態になってしまった人たちだそうだ。


 一応あとで死体を診せてもらったけど、内臓の損傷や出血多量が死因だった。肋骨が折れて肺を傷つけ、それでじわじわと呼吸障害になって亡くなった人が一番苦しかったんじゃないかな。なむなむ。


 でもこれ、もうハルトさん…はちょっとわからないけど、カエデさんなら回復魔法でなんとかできたんじゃないかな?


 そう彼女に尋ねると、『従軍司祭の仕事を奪うわけには…』と言われた。


 戦闘中やその場所でならともかく、防衛拠点には従軍司祭が居る。だからその天幕まで運ぶ時間が惜しくても、運べる程度の怪我ならそちらに任せなくてはならないんだそうだ。

 だいたい、回復魔法が扱えるひとが、教会所属以外では稀少も稀少なのだからしょうがない。


 カエデさんも最近ようやく使えるようになった、って言ってたし。

 もっと早くから使えるもんだと思ってたけど、違ったみたい。


 どうも教会に依頼し、それで派遣従軍している神官は別系統のようで、機嫌を損ねると今後他の前線にも派遣されなくなる可能性があるとか何とか。


 カエデさんがこっそり耳打ちしてきたところによると、以前のカエデさんの怪我も、俺が治したのではなく、従軍司祭の治療によるもの、という記録になっているんだそうだ。


 それら司祭の回復魔法の技量、それと人体構造の知識にはそれぞれかなり差があるらしくて、過去に何度かハルトさんがそれらを何とか一定のレベル以上にできないかと、ハムラーデル王国の王都アンデルスにあるイアルタン教支部に赴いて説得したみたいだけど、上手く行かなかったとハルトさんが横からこれもこっそりと補足してくれた。


 勇者2人からすると、ストライキをされたら困るけれど、せめてカエデさんが知ってるぐらいの人体の基礎知識ぐらいの事は()って居て欲しい、だけどそれを言うと機嫌を損ねられてしまう、との事。


 実際、前回そのカエデさんの怪我のときの話を、当時カエデさんの居たハムラーデル国境第一防衛拠点、現在のバルカル合同開拓地、ハムラーデル国境第一開拓村予定地だそうだが、そこでカエデさんの怪我を中途半端に治した従軍司祭にちらっと話をしたんだそうだ。

 何を、って、骨がズレてくっついてたとか、足首の炎症に気付いてなかったとか、そんな話ね。


 ハルトさんは『やめておけ』と言っていたそうだけど、カエデさんはつい言ってしまったんだってさ。


 「だって、あたしの足が治ったのはさも自分の手柄みたいに言うんですよ?、何か腹立っちゃって」

 「それはわかるがなぁ、しかし相手がアレだぞ?」

 「だからこそですよぉ」


 ハルトさんがアレと言う性格がどんなのか詳しくはわからないけど、でもまぁ、だいたい想像はつく。


 「でも全然話が通じなかったの」

 「アレだからなぁ、だからやめておけと言っただろう」

 「うん、腹立つより呆れてもうバカらしくなったもん」

 「だろうな」


 そりゃあもう全く信じてくれなかったんだそうだ。じゃあカエデさんが今普通に歩けているのは何なんだと。バカにするなと。炎症には気付いていたが、すぐに治まるものであって、それが証拠に今何ともないじゃないかと。私が治したのだから当然だと。

 治療にあたった自分の言う事を聞かずに動くから炎症が起きたんじゃないのかと。大人しくしていろと言ったではないかと。ハルト様だってそう貴女に言い聞かせていたではないか、と。


 そう引き合いに出されてしまっては、実際何度もカエデさんにそう言い聞かせていたので、それ以上は何も言えず、俺が渡したカエデさんのひざ下のレントゲン写真、じゃないけど、それに準じるぐらいの骨などが透けて見えているように描き焼き付けた絵も、出せる雰囲気では無くなってしまい、(むし)ろ出したところで話がこじれる原因になるだろうとその従軍司祭の様子からも容易に予想ができてしまった、という事だそうだ。


 炎症に気付いていたけど、動いたから炎症が起きたんだって、細かく突っ込めば矛盾がありそうな感じはするけど、そういう手合いを相手にそこまで無駄骨を折ってもしょうがない気もするね。


 何ともひどい話だが、これは片方だけから聞いた話ってこともある、かも知れない、と俺はぼやかしてノータッチの構えで行く。だってそんなの相手にしたく無いじゃん?






 基礎知識って言ってもカエデさんの場合は昭和時代の末期に小中学校にあった骨格標本や筋肉内臓標本程度のもので、それも彼女からすると『気持ち悪いからあまりおぼえてない』って程度のようだ。それでもこの世界では充分すごいらしく、ハルトさんが感心していた。


 「教本(きょうぼん)には、回復魔法をより効率的に扱うには人体構造への深い理解が大切だと記されていた。俺からするとカエデの知識でも充分だと思うが」

 「ハルトさんだって骨とか筋肉とかちゃんと理解してるじゃないですか」

 「それは身体強化の際に必要だからであってだな、というか長年強化をしていると自然と理解するもんだ」

 「ああはいはい、いつもの脳筋的なアレですね。まずやってみろ、それで経験すれば何倍も早く覚えられるっていうアレ」

 「そう言うな。だいたい間違ってはおらんだろう」

 「そういう面もあるってことは認めますよ。でも回復魔法なんて実際に怪我するわけには行かないじゃないですか」

 「それはまぁ、そうだな…」

 「だから、タケルさんみたいにちゃんと知識がある人から教えてもらわないと」

 「ああ」

 「ほら、知識から先ってのもあるじゃないですか」

 「お前、そういうもって行き方は(ずる)いんじゃないか?」

 「ずるいって何ですかー」

 「いつも(ずる)(ずる)いと言うではないか」

 「そんなに言ってましたっけ?」

 「言ってたぞ?、ネリは(ずる)い、タケルさんは(ずる)いと」

 「ネリの事は言った覚えありますけど、タケルさんには言ったっけ…?」


 俺?、何かカエデさんにそんな風に言われるような事したっけ?

 しかしホント、こうして聞いてると父親と娘みたいな会話だよね。この2人。


 まぁそれはともかく、俺のような初歩の知識ですら、ハムラーデル王国のどの医者よりも医学知識があるって事になるんじゃないだろうか…。あ、いや別に医学部を目指したとかそんなんじゃないよ?、俺、文系だけどほら、集会所のちびっ子たちの面倒を見る役だったんで、救急だの救命だののセミナーに行かされたし、元々ちょっと興味もあったんでいろいろ調べて覚えたりもしてたんだ。ちびっ子たちって、意外と無茶するから、特に男子ね、一体どうやったらそんな場所でそんな大怪我するんだ?、っていうのとか、一体何を考えてそんな場所から飛び降りて足を何十針も縫うような裂傷を負うんだ?、っていうようなことをやらかしてくれるからね。


 ちなみに前者は骨折だの擦過傷だのといろいろだが、後者は団地というか集合住宅にある集会所(公園のではないので選挙や大人の会議に使われるもの)の屋根から自転車置き場のトタン屋根の上に飛び降りたケースだ。


 そんな(もろ)い屋根の上に、一体何を考えて飛び降りたんだろうね。子供の体重でも突き破るって判断ができなかったんだろうか?

 金具やら突き破った屋根の尖った部分で思いっきり裂傷を作って、救出するのに大騒ぎになったらしい。救急車と消防車やパトカーまでが来たそうだ。追加で輸血用の血液を運んできた車があったとか何とか。屋根に刺さった子供が自力で脱出できなかったかららしいが、そんなの全部後で聞いた話だ。


 けどさ、それって集合住宅側の問題であって、住宅街にあるでっかい公園の管理や、ちびっ子の面倒を見ていた俺には何の責任も無いよな?、何で当時の俺も連れて行かれて、その親御さんに頭下げさせられたのか、今でもさっぱりとは言わないけど完全にはわからん。


 俺なんてそれまで現地、その集合住宅の敷地に何があるかなんて、全然知らなかったんだよ?、だいたい大怪我するような男子たちは、うちの集会所にそれまで来た事ないヤツばっかなんだよ。うちんとこはおばさん系のセミナーが多かったのもあってか、女子や女児が多かったからね。男子は活発なやつほど近寄らなかったんだよ。


 まぁそれで大怪我して、治ったあとはうちに来るようになったんだけどさ、どれも。

 それまでは1回顔を見たかな?、程度のやつの親に、なんで俺が頭下げなくちゃならないんだろうって、当時は全く納得も行かなかったし釈然としなかった。夜思い出したら眠れなくなったりもした。


 でも今なら少しはわかる。まぁ正しく理解したわけじゃないけど、とりあえず誰かが頭下げて済むならそれでいいという大人の都合なんだ。

 当時はそういうのの打って付けに俺という若い存在があったからね。

 付き添いと称して知らないおっちゃんも一緒に頭を下げ、『まぁ若いけど将来有望なんで』とか、『今後こういう事の無いように我々も監視に努めますんで』とか適当な言葉を並べて頭を下げれば、それでだいたい収まる話だったからだ。


 金銭が絡まないからね。

 たまに治療費がとか言う親御さんには、互助会だの町内会だのからちょっとしたお金をこっそり渡したりしていたらしい。町内会役員だった親父が酒のんで酔っ払ったときにちょっと言ってたのを覚えてる。


 ひでー話だけど、そういうのであの地域社会は成り立ってたんだってことを、当時の俺は()(すべ)も無く『平等って何なんだろうな…』って将来を悲観したもんだ。


 っと、つい愚痴ってしまった。


 とにかく、教会所属の従軍司祭さんにもいろんなのが居るってこった。






 ところで、上空からスキャン、じゃないけどまぁそんなようなもんだけど、それをしてみたところ、結局ダンジョンの数ははっきりしない、ってことがわかったんだ。


 単純な話、森の木々で地形的なものが隠されているので、大亀の出ないダンジョンなら出入り口もそう大きくはない、というのが理由のひとつだ。

 他の理由は、このあたりはダンジョン内にある樹木ほどではないが、所々に魔力が樹木にしては多めの木があって、鳥と同レベルなそれらの樹木も感知したのを全部記してしまったから密集している場所や疑わしい場所が増えてしまったのが2つめの理由。


 「そう言えば魔物侵略地の時も、疑わしい場所を調べに行ったな…」


 その話をしたら、ハルトさんが思い出したように呟いていた。

 そうなんだよ。あの時は今回とは違って、穴があるみたいだから行ってみるか、って理由だったんだけどね。でも順番に全部調べに行かなくちゃいけないっていう点では同じか。


- はい、大型が居ないなら、穴も小さいですし、木々に隠れていれば上空からではわかりませんから。


 「ああ、そう言っていたな。しかし調査に赴くにせよ斥候隊を派遣するにせよ、鳥の魔物の監視網があるのでは敵に筒抜けではないか?」


- そうですね、地図をつくるついでにそれらも少し処理しておいたんですよ。その地図に一応記しておいたんですが、その小さな点々がそうです。


 「何!?、これがか?、これが全部その鳥の魔物だというのか…?」


 ああうん、多いからね、そりゃそういう反応になるよね。

 ハムラーデル側ですら数十羽、トルイザン連合側だと100羽以上いたし。


- そうですけど、相手は移動するので、その点々の場所に今も居るとは限りませんよ?


 「鳥ですもんね…」

 「ああ確かに…、なるほど、数を数えろという事か。それとこれだけの斥候兵が散らばっているのだと思えば、敵の動きやこちらの監視の網をあれだけの数が抜けて来られたのも頷けるな…」


 まぁね。それで拠点に被害が出ちゃったんだからね、深刻な表情をするのもわかる。


- まぁ僕のほうでもちょくちょく上から見て、見つけ次第処理していきますよ。


 「それは助かる。よろしく頼む」


 と、ハルトさんが頭を下げた。


 「ねぇ、それって何かお手伝いできる事ってありません?」


- んー、例えば?


 「ジャイアントリザード相手にはまだ無理ですけど、鳥ぐらいなら石弾で倒せるかなって」


 ああ、それってネリさんも通った道だよね。


- 気付いてたかどうかわかりませんけど、飛行中って、結界で包んでるんですよ。


 「あ、うん、足の下に透明な床があったのは覚えてますよ?」


- だから、その中からカエデさんが外に石弾を撃つってできないんじゃないかな。


 「あ、そっか…、あれ?、じゃあタケルさんはどうやってるんですか?」


 表情がころころ変わる。見てて面白いけどそれは言わない。


- それは僕の結界ですし、結界の外で魔法構築して撃てばいいんですから。


 「へー、それって難しいんですよね…?」


- 結界を上手く張れるようになったら、その間合いに魔法構築ができるってことですよね?、じゃないと障壁や結界が作れないわけですから。


 「あ、うん、そうですね」


- ネリさんや、今はうちの天幕――というレベルではない平屋4LDKの家だけど――で休んでるメルさんにもできるはずですよ。


 「え、ネリにも!?、うー…頑張ろう」


 やる気になったようで何よりだ。


 「タケル殿、そういうのに何か(コツ)のようなものは無いのだろうか?」


- コツですか?、ハルトさんは走る時に目を覆ったりしてます?


 「武力だと思っていた頃の話だな、ああ、確かに本気で走るときには顔を覆うようにはしていたな」


- それ、障壁魔法ができてますよ。それと、攻撃を防御するときにも身体強化だけじゃなく、表面に防御の障壁を張ってませんか?


 「そうか!、ん?、そうだな、確かに武力を纏って防御を強化する次の段階では武力で障壁を張るというのもあった…、そうか、それは障壁魔法だったか…、すると教本(きょうぼん)のあの項目は…」


 どうやら頭の整理を始めたようなのでそっとしておく。

 何故かハルトさんの隣でカエデさんもムツカシイ顔をして考えているようなので、しばらく黙って見ていよう。

 いや、カエデさんはホントにちゃんと考えてるんだろうか?


 ただハルトさんを真似て、一緒にやってるだけなような気も…。


 まぁいいか。これはこれで。






次話4-017は2020年07月17日(金)の予定です。


20200723:表現を追加訂正。

 (訂正前)拠点奇襲した2体はもう撤退途中という状態

 (訂正後)拠点奇襲を指揮していたであろう後方の2体はもう撤退した状態



●今回の登場人物・固有名詞


 お風呂:

   なぜか本作品によく登場する。

   あくまで日常のワンシーン。

   今回も入浴なし。次はあるはず。


 タケル:

   本編の主人公。12人の勇者のひとり。

   話の通じないひとにははノータッチの方針。


 リンちゃん:

   光の精霊。

   リーノムルクシア=ルミノ#&%$。

   アリシアの娘。タケルに仕えている。

   家を作った(建てた?)のでその中身の作業で大忙し。


 アリシアさん:

   光の精霊の長。

   全精霊中最古というような存在。実は凄い精霊(ひと)

   だいたい出番なし。


 テンちゃん:

   闇の精霊。

   テーネブリシア=ヌールム#&%$。

   後ろの部分は精霊語のため聞き取れない。

   リンちゃんの姉。年の差がものっそい。

   タケルとテンは現状ノーパンコンビ。

   リンより背丈が少し小さいのに胸が元のサイズだから

   すごくおっきく見える。とにかくでかい。

   リンに言われてタケルに付いて行けず、

   リビングでぼーっと待機中。


 ウィノアさん:

   水の精霊。

   ウィノア=アクア#$%&。後ろの部分は精霊語。

   一にして全、全にして一、という特殊な存在。

   今回出番なし。


 メルさん:

   ホーラード王国第二王女。いわゆる姫騎士。

   騎乗している場面が2章の最初にしかないが、騎士。

   剣の腕は達人級。

   『サンダースピア』という物騒な槍の使い手。

   身体強化に関しては現状で人間種トップの実力。

   リンから部屋に例の回復茶を差し入れられた。

   そろそろ魔力も戻ってきていて、

   元気もでてきたので動き回りたいが、

   リビングに居座ってるテンと2人きりなのは居心地が悪いのと、

   リンにもまだ大人しくしてなさいと言われたので我慢している。


 ハルトさん:

   12人の勇者のひとり。現在最古参。

   ハムラーデル王国所属。

   およそ100年前にこの世界に転移してきた。

   現在はハムラーデル王国と東に国境を接するトルイザン連合王国、

   その国境防衛拠点に居る。

   『フレイムソード』という物騒な剣の所持者。

   戦闘と、その後の反省会が終わってから、

   タケルとの会議に臨んだ。


 カエデさん:

   12人の勇者のひとり。

   この世界に転移してきて勇者生活に馴染めず心が壊れそうだったが、

   ハルトに救われて以来、彼の元で何とか戦えるようになった。

   勇者歴30年だが、気持ちが若い。

   ハルトと同様。

   でもカエデが応援に防衛拠点北部に来たときには戦闘は終わっていた。


 ネリさん:

   12人の勇者のひとり。

   登場はしていないが、

   カエデとのアレでちょくちょく名前が登場すると思う。


 ハムラーデルのトルイザン連合との国境防衛地に作った小屋:

   長い。そのうち短い名前がつけられると思う。

   平屋の4LDKという贅沢な天幕(笑)。裏庭もあるよ。

   これを天幕と呼んでいいのだろうか。

   リンがメイド業を頑張ってます。


 トルイザン連合王国:

   ハムラーデル王国の東に位置する連合王国。

   3つの王国があり、数年ごとに持ち回りで首相を決めていた。

   クリスという勇者が所属しているらしい(2章後半)。

   不穏な動きとは…?

   まだ話がそこまで進んでいないような気がするのに、

   そんな事を固有名詞紹介のところに書いていいのか作者よ。

   でもこの程度はネタバレではないと思うよ。



 ※ 作者補足

   この登場人物・固有名詞紹介の部分全ては、

   あとがきの欄に記入しています。

   本文の文字数にはカウントされていません。

   あと、作者のコメント的な紹介があったり、

   手抜きをしたり、詳細に書かれているけど本文には

   無関係だったりすることもあります。

   ご注意ください。



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2019年05月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
なるほど。わかりません。
2020年01月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
同じやん。なるほど。やっぱりわかりません。
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