4ー012 ~ シオリとカエデ
ビルド団長との打ち合わせを終え、そのまま彼と数名の兵士たちと一緒にティルラ王国と共同開発を行っている地域への視察をし、そこで彼らと昼食を摂りました。
そこは特に大きな問題もなく順調に開発が進んでいるようで、ラカルムーと呼ばれる羊のような家畜が多く届いており、放牧地は長閑な風景が広がっていました。
簡単な昼食ではありましたが、忙しい中用意してくれた現地のご婦人方にお礼を言い、川小屋横の駐屯地に戻るビルド団長とティルラ兵が帰り支度をしているところに行きます。
- もう少し人手が欲しい、と言っていましたね。
「現状、どこもそのようなものですよ、シオリ様」
そうビルド団長は言いましたが、このバルカル合同開拓地に、ティルラ王国内に居るらしい流民を移住させ定職に就かせれば諸問題が解決するのではないかしら、と言いたかったのですが…、察してはもらえなかったようですね。
さすがにそこまで具体的に私が言うわけには行かないのがもどかしい思いです。
- そうですね…。
と返してから私は彼らとは別れて一旦ロスタニア国境防衛拠点へと走ったのです。
ちなみに、私は男性用の神官服の上に司教の位階を示す飾りがついた上着を着用しています。なぜ男性用かというと、女性用ですと裾の長い神官服ではこうして走る際に不都合だからです。それと、私のイアルタン教での位階は司祭ですが、他にも名誉司祭・名誉司教の資格があります。このバルカル合同開発地では、この教区の司教として教会関係施設を訪れて視察や指導を行う事もありますので、司教の飾りを着けているのです。
と言っても今後正式に司教が任命され派遣されて来るまでの仮のものですが。
そう言った雑多な用事を終えてから今日は川小屋へと戻りました。
まだ誰も帰ってきて居ないようですね、とりあえずお風呂を頂きますか…。と、私に割り当てられている部屋へ行き、荷物を置いて着替えを手に脱衣所へと行きました。
すると、水音がしています。脱衣所の床には背嚢が置かれていて、どなたか入浴中のようです。
どなたか、と言っても魔力感知でタケル様やリン様では無い事がわかります。タケル様では無いのなら他は女性しか居ないので、声を掛ける必要もありませんね。
私は入り口横の棚から木桶をひとつ手に取って洗面台下の扉の前にしゃがみ、以前ミドリ様に教えて頂いたように、赤紫ラベルの洗髪剤を洗面台下の扉を開けて取り出し、その木桶に入れました。
そして適当な脱衣籠に脱いだ服を入れ、数枚のタオルを手に浴室へと入りました。
すると、カエデさんが革鎧をまわりに置いてごしごし洗っているではありませんか。
「あっ、シオリさんおかえりなさい。お風呂使わせてもらってます!」
- カエデさんこそおかえりなさい。私もここを使わせて頂いている身ですよ。
こちらを見て私だとわかるとにっこりと笑顔になって元気よく挨拶をした彼女を回り込むように奥へ行き、すっかり使い方に慣れてしまったシャワーを使って身体を清め始めました。
私はどうもこのカエデという勇者との距離感を掴みかねています。あのハルトの弟子か娘のような立場だそうですし、後輩勇者であり、彼女も私を先輩勇者として丁寧な言葉遣いで接してくれては居るのですが…。
- ところでそんな風に洗っていいんですか?
「え!?、ダメなんですか!?」
- いえ、私は鎧のお手入れ方法をよく知らないのです。
「そうなんですか?、あれ?、でも勇者姫シリーズでは鎧を、」
- あれは物語ですから!
そうなのです。このひとはあの虚実が織り交ぜられた『勇者本』の、特に私の事が物語にされたシリーズ物、『勇者姫シリーズ』の愛読者なのです…。
どうにも弱みを握られたような気がして、それと、その話になるとぐいぐい来るのが苦手で…、調子が狂うといいますか、そのような感じなのです。
「でも…」
- いいですから!、それで、そんな風に洗っている兵士を見た事が無いのですが、それ、髪を洗うものではなくて?
よく見ると、カエデさんの横に置かれているのは白いラベルのボトルではありませんか。白いのは標準品だと説明を受けましたが、それはタケル様が主に使われているものではないのでしょうか?、そのような物で鎧を洗っていいのでしょうか?
「え?、あ、これはボディソープで、シャンプーじゃないです」
- ぼ…?、何ですって?
「ぼ、でぃい、ソープ、ですって。身体を洗う液体石鹸ですよ」
- え?、そのような物が?
「はい、東国境に、あ、えっと」
- わかります。
カエデさんはハムラーデル王国所属で、その東側にあるトルイザン連合王国との国境付近に魔物が多くやってくるようになり、どうやらダンジョンがトルイザン側にあるのではないかという事で、国境防衛強化のためにハルトが先に赴いており、そしてカエデさんもそちらへと向かったのが2ヶ月程前の事でした。
「あっはい、そっちに戻る前にネリに聞いたんです。これのほうが弱酸性だから石鹸よりも肌にいいよ、って」
- そうなのですか…、(サクラはそのようなこと全然言ってくれなかったのに…)
「え?、何ですか?、すみません、洗いながらなのでよく聞こえませんでした」
カエデさんがシャワーの栓を締めて問いかけます。
そういえば先ほどまでずっとシャワーを出しっぱなしで洗ったり流したりしていましたね。他の場所では考えられないぐらい水を無駄遣いしていますが、ここではそれでいいそうです。とても贅沢な事だと思います。
- あ、何でもないの、続けて下さいな。
「はい」
それから私が髪を洗い始めたのもあって、しばらくはお互い無言でそれぞれの作業を続けました。
私がひと通り身体を清めてから髪をタオルでまとめ、浴室の奥の壁、中央あたりに設置してあるアクア様の像のところに跪いてお祈りを捧げ、それから浴槽に浸かると、ちょうどカエデさんも鎧を洗い終えたのか、浴槽に入ってきました。
ふたりとも、大きくひと息つきます。至福のひとときですね。
「シオリさんっておきれいですねー」
は?、急に何を…?
という驚いた目で見ると、カエデさんが続けます。
「だって、髪も長くてきれいですし、女性らしくてスタイルいいですし、胸もあるし、羨ましいですよぉ?」
- カエデさんだってスタイルいいと思いますよ…?
「ほんとですか!?、でも、何だか筋肉ついちゃってて自分では可愛くないって思っちゃいますし、サクラさんやネリも同じように筋肉ついてたんで、勇者ってみんなそうだって思ってたんですよ」
- はぁ。
前衛で近接戦闘をしているのだからそうなるのも仕方ないのでは?、と言っていいのかどうか、距離感がわからないので曖昧な相槌を打って逡巡しているとさらに続けて言うのです。
「サクラさんもネリもあたしより胸あっていいなって思うんですけど、でも腹筋とか割れてるのは同じだし、勇者だししょうがないなーって思ってたら、シオリさんすっごい女性って感じじゃないですか!」
- え?、そう?、ありがとう?
「そうですよ!、あたしなんてちょっと腕曲げたらこんなですよ?、でもシオリさんは腕も足もすらっとして、柔らかそうで…、ちょっと触ってもいいですか?」
と言いながらこっちへにじり寄る彼女。
- え!?、あの、ちょっと、待って、
「いいじゃないですかー、女同士だし、腕のとこちょっと触るだけですって」
立ち上がって逃げようとしたら腕を掴まれて引き寄せられてしまいました!
- ひっ、ちょ、ィャ…
倒れこむようになった私は、カエデさんに抱きとめられて逃げられません!
「わぁ、やわらかーい、そうよね、女性ってこういうもんですよね、わー、近くでみると肌きれいー、腰ほそーい、わー、胸ゆれてますよ?、あたしそんな風にならないのに、うわー、やわらかーい、すごーい、シオリさん着やせするタイプなんですねー」
腕だけって言ってたはずなのにあちこちまさぐられてしまい、あまりの事に私は言葉が出ず、されるがままでしたが、胸を揉まれてやっと腕を動かして手すりを掴み、何とか身体を起こして逃げる事ができました。
- はぁ、はぁ、何をするのですか…。
「あれ?、そんなにイヤでした?、ごめんなさい。これくらい普通かなって思って…」
普通…?、これが…?
- な、何が普通なものですか…。
「ネリなんてあたしと入ったら、揉まれると大きくなるっていうよ、ってあたしの胸を後ろから揉んだりしますし、仕返しに揉み返してやったりしてたんで、ここのお風呂だと普通なのかなって…」
呆れた…、ネリはそんな事してたのですか…。
信じられないものを見るような目で見ると、彼女がさらに…
「あ、氷雪の勇者姫では温泉でヘンドリック王子に揉まれてましたよね?」
- あれは物語ですからっ!!
「えー…」
えーじゃありませんよ全く!
だから発売禁止にしたというのに!
●○●○●○●
ところで、カエデが身につけていた防具は、革の胸当てと腰周り、それと脛周りを保護するものだ。
胸当ては、首周りから腹部までを保護する上半身タイプ。腰周りはミニスカートのような形状で横に少し長いパーツがついていて、下腹部から大腿部までを保護するようになっている。脛周りのものはブーツと接続するようになっており、加えてそれぞれが別の部位と統一したデザインコンセプトで作られているため、接続し、補い合うことで一層カッコ良く…、ではなく、防御力を発揮するようにできているのだ。
ハムラーデル産のそういった鎧は金属鎧だろうが革鎧だろうが鱗鎧だろうが、統一規格というものに基づいているので、あるグレードの鎧部位は同グレードの他の部位と接続するように作られている。
実際、よくできているし世界中で(と言っても狭いが)ハムラーデル産、あるいはハムラーデルで修行をし、認可を得た職人が作る防具というのは評判がとても良く、冒険者や町村の衛兵などにとっては一種のボーダーラインやステータスのように思われている場合もあったりする。
そんなハムラーデル産防具、当然だがハムラーデル兵たちは最低でも要所に金属が使われている防具を使用しており、ハムラーデル王国所属の勇者であるカエデは、これまた当然だが良いものを装備していた。
しかし…、これが手入れをちゃんとせず、返り血や返り汁などを放置し、尚且つ汗まみれまたは雨などに濡れたままだと、えらいことになる。
もうお分かりだろう。そう、凄まじく臭う、いや、この際はっきり言おうではないか。悪臭の発生源となるのだ。
カエデの名誉のために補足すると、不幸中の幸いというか、カエデが川小屋へ来た時点ではまだそこまでの物では無かったし、彼女だって30年も勇者をやっているのだから、防具が蒸れるなどの原因で悪臭を放つぐらいは知っている。
ところが人間、慣れというものがある。カエデはその勇者歴のせいで、そこいらのベテラン兵士以上に、悪条件への耐性を身につけているのである。という事は、悪臭耐性があるがゆえにピヨやミリィたちよりも許せる臭さのボーダーラインが高いという事だ。
簡単に言うと、カエデが『これくらいならまだ大丈夫』と思っている臭さは、一般的には耐え難いものであると言っておく。
そういうわけで、カエデが浴室でやたら時間が掛かったのは、取り外せる金属パーツを外す手間もだが、ブーツも含めて鎧の下に着ていた衣類も下洗いをしていたせいだ。
彼女は脱衣所ではなく浴室で全部を脱いだり外したりしながら洗い流し、全部脱ぎ終えると自分を軽く洗ってから衣類を絞って脱衣所に戻り、桶に入れてからまた浴室へと戻って自分をもう一度磨くように全身洗ってから、湯船に少し浸かり、そして出て鎧をごしごしやっていたところに、シオリが入ってきた、という訳だった。
●○●○●○●
一方、タケルたちはというと、先にタケルとテンが地下から1階ホールに戻って、上の階を見に行ったリンたちを待ったが、さほど待つ事もなく4人が戻ってきた。
「すっごい大きい木だったよ!」
「3階からは海の方しか見えませんでしたが4階からは陸のほうも見渡せて、いずれもすばらしい眺めでした」
笑顔で言うネリさんとメルさんに微笑んで頷いておく。
サクラさんも笑顔で頷いていたが、ふと思いついたように笑顔を消してそっと俺に近づいて小声で言った。
「ネリが木に登っていたんですが、良かったのでしょうか?」
- 登ったってあの木に?
「はい」
何やってんだネリさん…。
まぁ別に構わないんじゃないかな、と思ってテンちゃんを見た。
「登るくらいなら構わないのじゃ」
と、テンちゃんは薄く微笑んで言った。
暗に、無理に枝を折ったり壊したりしなければな、と言っているような気がした。
まぁ、そこまではしないでしょ。いくら何でも。
というわけで、
- じゃあ、いい頃合ですし川小屋へ戻りましょうか。
皆が揃ったし帰ろうと思う。
「これはすごいのじゃ!、其方は素晴らしい魔法使いなのじゃな!」
いつもの飛行魔法で、俺にしがみつくリンちゃん、メルさん、サクラさんを最初は妙な目で見ていたテンちゃんだったが、飛び立つと結界の床に四つんばいになって下や周囲を見てはすごく嬉しそうに言った。
「ちょっとまだ怖いけど、すっごい景色、ですよね」
何故かテンちゃんの隣で同じように四つんばいになっているネリさん。
「そうじゃな!、おお、結界をいとも容易く抜けたのじゃ!」
「光のカーテンをくぐるみたい、ですね。どうやってるのか全然わかんないけど」
「んー、おそらく魔力の同調操作をしておるのじゃ」
「同調?」
「うむ、かなり高度な魔力操作なのじゃ、我々精霊でもそう簡単にはできぬのじゃ」
「へー…」
2人して四つんばいのまま身体を捻ってこっちを見た。何だかむずがゆいからそういうのはちょっと…。なので見ないふりをして正面遠くを見たまま急いで川小屋方面へと向きを変え、加速した。
「ぅわあああ!」
「ひぃぃぃ!」
と悲鳴をあげる四つんばいの2人に合わせるかのように、俺にくっついてる3人が無言の悲鳴をあげる。
リンちゃんは俺の腰に回している手をきゅっと締め、両腕にしがみついている2人も力を入れた。メルさんは身体強化ONで。だよね。わかってたよ。
川小屋へ到着し、そっと着陸する。
四つんばいの2人が起き上がらないので床だけまだ解除せずに声を掛けた。
- 着きましたよ。テンちゃん?、ネリさん?
俺にがっちりしがみついてる3人はそっと離れ、そそくさと川小屋へと入っていくが、その2人がまだ起き上がらない。
- テンちゃん?、ネリさん?
「お、おお、着いたのか…」
と、テンちゃんはゆっくりと立ち上がったが…。
「ちょっと待って…」
- どうしたんです?
「力入れてたから、なんか固まっちゃって」
生まれたての四足動物みたいになっていた。
ネリさんが立ち上がるまで待ってから3人で川小屋に入ると、カエデさんが食卓のテーブルに着いていた。
リンちゃんとサクラさんは台所にいる。夕食の支度をしてくれているようだ。
どうやらシオリさんも戻っているようで、部屋に反応があった。メルさんも一旦部屋に行ったようだ。
- カエデさん、おひさしぶりです。
「こんにちわ、お邪魔してます」
俺を見るとにっこりと笑顔になってさっと立ち上がり、ぺこりとお辞儀をした。
- シオリさんも戻ってるみたいですね、こちらの方を紹介したいので、呼んできてもらえます?
「はい、わかりました!」
元気よく言って早足でシオリさんを呼びに行ってくれた。
それを追ったわけじゃないんだろうけど、ネリさんがまだぎこちない動きで自分の部屋へと向かった。
テンちゃんがそれを目で追いながらも、俺の袖をちょんと摘んだ。
- こっちで待ってようか。
と、テンちゃんを見て言うと、こくりと頷いた。
ほんと、最初のアレは一体何だったんだと思う。
テンちゃんの手をとり、ソファーのほうに行こうとして、ふと思いついたので台所のサクラさんに尋ねてみることにした。
- あ、そうだ、サクラさん
「はい?」
- シオリさんにテンちゃんを紹介したいんですけど。
「はい。あ、あー、そうですね、光のほうが良いかと」
- ですか。
「はい」
そう話している間に、ネリさんとメルさんが部屋から出てきて、話が聞こえたのか一瞬こちらを見て得心したように小さく頷きながら早足で脱衣所へと入って行った。
俺もサクラさんにひとつ頷いて、テンちゃんを誘導してソファーに座ると、カエデさんだけが戻ってきた。
- あれ?、シオリさんは?
「それが、お呼びしたんですが、出てきてくれないんですよー」
え?
- 返事はあったんですか?
「いいえ?、寝ちゃったんですかねー?」
何なんだ。しょうがないなぁ。
と、立ち上がり、サクラさんに頼むことにした。
- サクラさーん
「はーい」
手招きをして呼ぶと、リンちゃんに一言いってからこっちへやってきた。
- すみませんがシオリさんを呼んできてもらえませんか?
「わかりました」
廊下へ行くサクラさんを目で追ってから、ちゃっかり向かいのソファーに座っているカエデさんに尋ねた。俺はまだ座らずに立ってる。テンちゃんは借りてきた猫みたいに大人しく座ってるけどね。
そいや何で借りてきた猫みたいに、って言うんだろうね?、猫って貸し借りするもんなのかな、そのへんがよくわからん。
- カエデさん、部屋には入らなかったんですか?
「え?、だって失礼じゃないですか」
なるほど、そういう考え方もあるか。確かに。
- あ、そうですね。
「そうですよ、あ、来ましたよ」
と、カエデさんが見るのにつられて廊下のほうを見るとサクラさんに引っ張られてくるシオリさんがこっちを見た。
「連れてきましたけど…」
「タケル様、ご紹介頂く精霊様というのは…、ひっ!」
サクラさんの後ろから前に出ながら俺に話しかけ、おそらく視界にカエデさんが入った途端、またサクラさんの後ろに隠れた。
カエデさん、一体何したの?
●○●○●○●
とりあえずテンちゃんの紹介をして…、したのはいいんだけどね…、何とも俺が聞いて良かったんだろうかというような内容の話を、サクラさんを間に、いや、盾にしたシオリさんとカエデさんが言うんだもんなぁ…。揉み心地とか感触とか俺の前で言うなよ…。
だいたいの内容はこうだった。
カエデさんがお風呂でシオリさんの身体をまさぐり、胸を揉んだらしい。シオリさんはそんな事をされたのは生まれて初めてだと言い、カエデさんは勇者本からそれはおかしいと言い、あれは物語だから、じゃあヘンドリック王子とは何も無かったんですか、そんなこと言えるわけないでしょう、じゃああったんですね、それとこれとは話が、その事についてはちゃんと謝ったじゃないですか、なら脱衣所で襲ってきたのは何なの、1度も2度も一緒じゃないですか、反省していないではないですか、反省したら揉んでもいいんですか、ダメです、じゃあ反省しなくても同じじゃないですか、一体何ですか貴女は、あたしのを揉んでもいいので揉みっこしましょうよ、何を考えてるんですか、いいじゃないですか減るもんじゃなし、むしろ増えるらしいですよ?、こ、この変態!、えー?、氷雪の勇者姫ではヘンドリック王子のアレをアレして、それは物語だと言ったでしょ!、でも事実なんですよね?、い、言えません!、ほらやっぱり、それに狼王と勇者姫では全裸で、あああああそれ以上言ったらその口縫い付けますよ!、ほーらやっぱりー、なななにがやっぱりですか!、、、以下略っと。
しかしアレだな。勇者姫シリーズってエロ小説もアリなのか?
と思った瞬間、シオリさんから睨まれたので急いで首を反対に向けてテンちゃんを見たらニヨニヨしてんの。
さっきまで紹介したのにあまり反応がなくてしょんぼりしてたのに。
ふと視線を感じて食卓の方を見ると、メルさんとネリさんはもう席に着いていて、リンちゃんがこっちにどう声を掛けたものか考えてるような、訝しげな表情で立ったままこちらを窺っていた。
何とかサクラさんとアイコンタクトをしつつ、2人を宥め、全員無事に食卓につき、食事をすることができた。
食事中は何だかカエデさん以外が喋らずに、ピリピリした雰囲気を周囲に放つシオリさんの様子を窺いながら食べていたが、デザートが出てくると雰囲気が和らいだ。
今回は蜂蜜レモン風味のさっぱりしたゼリーだった。これだったらお風呂あがりに食べたかった。
「はー、ひさびさのタケルさん家のご飯って感じですねー、こんなにきれいなデザートが…、食べるのが勿体無いですね。食べますけど…、んん~~美味しい♪」
食事中も雰囲気に影響されず、美味しい美味しいっておかわりまでしてたカエデさん。
彼女が言うには、何でも2ヶ月ぶりに川小屋に戻ってきたらしい。通ってきた部分だけでも結構開発が進んでいて、活気があって嬉しくなったとか。
しかし何だかテレビドラマで、ペンションや旅館で寛ぐOLのように見えるんだけど、喜んでるみたいだからまぁいいか。
そんなカエデさんを俺も含めて皆で微笑ましく見ていると、ネリさんが彼女に問いかけた。
「そう言えばカエデは何で帰ってきたのよ、痛て」
「そういう言い方をするからいつも言い合いになるんだろうが」
今日の席順ではネリさんの隣だったサクラさんが注意した。
「だってー」
「だってじゃない。普通に訊けばいい事じゃないか」
2人をちらっと見て、話を進める方向に持っていってくれたのがメルさんだった。
「国境のほうはもういいんですか?」
「あ、その事でご助力を頂ければと思って戻ってきたんでした」
ごくんと飲み込み、スプーンを持つ手を止めて答えたカエデさん。
- ご助力ってそんなに大変なんですか?
「あっはい、まだハルトさんも頑張ってるので何とか。でもだんだん増えてるみたいなんで、今のうちに事情と場所がわかってて馬より早いあたしが呼びに来たんです」
へー、馬より早い。さすが勇者だね。他人の事は言えないかもだけど。
「へー、カエデも成長してるんじゃん」
「うるさい」
「それで、具体的に助力というのはどういうのを想定してるんだ?」
「あっはい、えっと、ハルトさんが言うには、タケルさんに来てもらいたいって言ってたんですけど、その時はタケルさんは行方不明ですよって言ったら、ならサクラさんとネリの2人にって」
ああそっか、カエデさんは俺がラスヤータ大陸に飛ばされたあとに、ハルトさんの所に行ったんだっけ。
「ハルトさんにはかなりお世話になったので、叶えたいのは山々なんだが、私とネリの2人というのはティルラが承諾しないと思う」
サクラさんは言いづらそうに目線を少し下げて言った。
「はい、でも来る途中で伝令兵に会って、タケルさんが戻ってるって知ったんでそのままハルトさんに伝言を頼んだんですよ。タケルさんを呼べるかも知れませんって」
「ああ、私の手紙を読んだんだな」
「はい、そうなんです。それでタケルさん、どうですか?、ちょっと頼まれてもらえません?」
- んー、まぁもうこっちには特に用事はないんだけど、
「だったらちょっと来てちゃちゃっと片付けてくれるとすっごく助かります」
簡単に言うなぁ…。
- でも僕は『勇者の宿』に20日後ぐらいには戻らなくちゃいけないんだよ。
「えー、そうすると急いでも片道6日ぐらいかかっちゃうから、向こうで7日ぐらいしか…、あ、でもタケルさんなら走らなくてもいいんですよね?」
- あ、うん、まぁそうだけど。
「だったら全然大丈夫ですよ、ね、ハルトさんにもタケルさん呼べるかもって連絡しちゃいましたし、お願いします!」
テーブルにゼリーの容器とスプーンを置いて椅子を引き、ひざに両手をあてて頭を下げた。
どうしようかなぁ、と、見回すと皆が俺を見ていた。
そうか、俺ってまだ国に所属していないから、俺が決めていいのか。じゃなくて俺が決めなくちゃいけないのか。
そうだなぁ、ハルトさんという大先輩の頼みだし、手伝いに行くか。
- わかりました。
「ありがとうございます!」
- でも僕には具体的な場所がわからないので、カエデさんも一緒に飛んで行くことになるんですけど、いいんですか?
「あ…」
満面の笑顔がさっと消えた。
「あの…」
- はい。
「走るぐらいの速さで、ってのはダメですか…?」
- それだと6日かかっちゃうんですよね?、走るのとどう違うんです?
「ですよねー」
「(カエデが楽したいだけなんじゃん) いて」
- 早く到着したほうが早く手助けになるんですよね?
「…はい」
- じゃあ我慢して下さい。
「…わかりました、頑張ります」
「プw」
「ネリ」
「あ、ネリも来る?」
「え?、いいの?」
「ダメだぞ、勇者の国外派遣は本国の許可が必要だからな」
「ちぇー」
なるほどね、そういうシステムなんだ。
「あ、一応ハルトさんから書状をもらってきてるんですよ」
「カエデ、そうじゃないんだ。単純に管轄の騎士団長だけじゃなく、本国までその書状を送り、許可を得てからまた戻ってくるとなるとその分の日数がかかるんだ」
「あ、そうですね、済みません」
「いや。もし許可が下りて私かネリのいずれかが行けるとしても、タケルさんとは入れ違いになるという意味だ」
「あ、それでもいいのでお願いします」
「ああ。だがタケルさんが先に行くのだろう?、なら私たちが到着した頃にはもう片付いているんじゃないか?」
そうありたいけど、そう言われるとプレッシャーがかかるなぁ…。
「サクラ、肝心な事を忘れていますよ」
「え?」
「現地はどの程度の規模で国境防衛を敷いているのです?、ダンジョンがあるならその数はどうなのです?、それによってはこの元魔物侵略地域のように日数が掛かってしまうでしょう?」
ああ、そうだった。情報が足りてないよね、確かに。
「あ、そうでした。カエデ、そのあたりの話は何か聞いているか?」
「えっと、ハルトさんが探知魔法、でしたっけ、それを使ってみたところ、ダンジョンは1つらしいです。でもその奥までは探知できないからわからないって、言ってました」
「そうか、魔物の襲来規模と頻度はどうだ?」
「ジャイアントリザードと角イノシシと、角クマが来ます。大亀は来ません、頻度はハムラーデル国境防衛の時と同じぐらいだそうです」
「竜族は?」
「今のところは誰も見てません」
「そうか。タケルさん、どうでしょう?」
どうでしょう、って。
- 不確定要素が多いので今は何とも。とりあえず現地で地図を作り、ダンジョンの総数を把握するところからでしょうね。
「勇者の宿に戻る用事に間に合いますか?」
心配そうに言うカエデさんに、笑顔で言う。
- 大丈夫でしょう。もし間に合わなくても一度戻ってまた行けばいいんですし。
「はい、よろしくお願いします!」
そう言ってもう一度ぺこりと頭を下げた。
「さて、お話がまとまったところで、いつ出立されるのです?」
- え?、そうですね、明日の午前中にでも。
「そうですか、では明日のために今日は早めに眠るとしますか」
え?
- メルさん?
「はい?」
- まさか、メルさんも同行するつもりでは…?
「当然でしょう。私はタケル様の付き人なのですから」
「「付き人!?」」
「えー、メルさんいつの間にー?」
その設定まだ生きてたの!?
次話4-013は2020年06月19日(金)の予定です。
20200612:ある箇所に短い1文だけ追加。改行抜けが1箇所あったのも訂正。
何か変な文だったので訂正。
(訂正前)国外派遣の許可は本国の許可が必要だからな
(訂正後)勇者の国外派遣は本国の許可が必要だからな
20200618:カエデのセリフを一部訂正。
20200625:シオリのセリフ部分の表示を一部訂正。
●今回の登場人物・固有名詞
お風呂:
なぜか本作品によく登場する。
あくまで日常のワンシーン。
ひさびさの女性入浴描写でしたね。
タケル:
本編の主人公。12人の勇者のひとり。
自由だねー
リンちゃん:
光の精霊。
アリシアの娘。タケルに仕えている。
セリフが少ない回。
アリシアさん:
光の精霊の長。
全精霊中最古というような存在。実は凄い精霊。
だいたい出番なし。今回は名前も出なかった。
テンちゃん:
闇の精霊。
テーネブリシア=ヌールム#&%$。
後ろの部分は精霊語のため聞き取れない。
リンちゃんの姉。年の差がものっそい。
タケルとテンは現状ノーパンコンビ。
リンより背丈が少し小さいのに胸が元のサイズだから
すごくおっきく見える。大きいんだけども。
居るけど大人しい。
ウィノアさん:
水の精霊。
一にして全、全にして一、という特殊な存在。
今回出番なし
サクラさん:
12人の勇者のひとり。
ティルラ王国所属。
シオリに勇者としての指導・教育を受けたため、
シオリの事を『姉さん』と呼び、頭があがらない。
苦労人。
ネリさん:
12人の勇者のひとり。
メルの次にタケルたちから魔力の扱いについて指導を
受けたため、勇者の中では比較的魔力の扱いが上手い。
ティルラ王国所属。
魔法に関してタケルを除いて一番上達している。
かなり気分転換になったようだ。
いて。
メルさん:
ホーラード王国第二王女。いわゆる姫騎士。
騎乗している場面が2章の最初にしかないが、騎士。
剣の腕は達人級。
『サンダースピア』という物騒な槍の使い手。
ネリと仲がいい。
魔法に関してはネリと同程度使えるようになっている。
身体強化に関しては現状で人間種トップの実力。
ついて行く気満々。
シオリさん:
12人の勇者のひとり。
『裁きの杖』という物騒な杖の使い手。
現存する勇者たちの中で、2番目に古参。
サクラに勇者としての指導をした姉的存在。
ロスタニア所属。
川小屋へ入る許可が出ている男性はタケルだけでは無い事を
知らないようだ。もし、入浴してたのがハルトだったら
どうしたんでしょうね?w
カエデさん:
12人の勇者のひとり。
この世界に転移してきて勇者生活に馴染めず心が壊れそうだったが、
ハルトに救われて以来、彼の元で何とか戦えるようになった。
なんだかんだで勇者歴30年、ネリはまだ9年なので、
ネリよりだいぶ先輩のはずなのに、
何故か同レベル的な言い争いをよくする。
どうやらタケルを呼びに来たようだ。
荷物が多いのは愛読書を何冊か背嚢に入れているため。
ミリィ:
食欲種族とタケルが思っている有翅族の娘。
身長20cmほど。
ピヨはミリィが気軽に接することのできる精霊様という感じ。
羽が生えたようだが…。
出番までいけなかった。ゆえに今回出番無し。
ピヨ:
風の半精霊というレア存在。見かけはでかいヒヨコ。
川小屋に住む癒しのヒヨコ。メルたちに癒しを与える。
裏でミリィと待機。
今回出番無し。残念。
川小屋:
2章でリンちゃんが建てたタケルたちの拠点。
ロスタニアから流れてくるカルバス川本流と、
ハムラーデル側から流れてくる支流が合流するところにある。
ミリィとピヨがお留守番をしている。
ホームコア技術で護られているため、許可がある人物以外は
入り口の布を避けて中に入ることができない。
ここの浴室は広い。下手な銭湯ぐらいあるんじゃないかな。
壁には富士山みたいな山の絵もあるみたいだし。
島:
バルカル合同開拓地の西にある、アーモンド形の島。
島の北部に光の結界柱が見え、その色が変化することから
昔は畏れられ『魔王島』と呼ばれていた。だが魔王など居ない。
南西部に小さな入り江があり、洞窟がある。
その他は本文参照。
やっとタケルたちは外に出た。
ビルド団長:
ティルラ王国騎士団のひとつ、金狼団の団長。
ティルラでは騎士団ごとに団長が居る。
勤勉でよく働くが、それでこの名になったわけではない。
イアルタン教:
実は略称。正式名称はもっと長い。
精霊信仰であり、ロスタニアやティルラなどの地では
大多数の信者がいる宗教。
一般信者については戒律などの規則がゆるく、厳しくない。
しかし神官になるには魔法の素養などの厳しい条件があるらしい。
ミドリさん:
光の精霊。
『森の家』に居る4名の食品部門幹部のひとり。
食品部門の仕事のほか、美容関係を担当している。
2章062話でシオリに洗髪指導をした。
赤紫色ラベルの洗髪剤:
2章041話でリンが説明した、髪質に応じた洗髪・調整剤のひとつ。
バルカル合同開拓地:
解説は本文参照。4章001話がおすすめ。
旧名は『魔物侵略地域』
さらに遡ると、
南北それぞれがバルドス・バルデシア地域と呼ばれていた。
カルバス川:
同じく本文参照。4章001話がおすすめ。
ホーラード:
国の名前。ホーラード王国。
『勇者の宿』が国の南西の端にある。
魔物侵略地域には隣接していない。
ティルラ:
国の名前。ティルラ王国。
魔物侵略地域の東に隣接している。
ハムラーデル:
国の名前。ハムラーデル王国。
魔物侵略地域の南に隣接しており、山岳地帯に国境がある。
2つの山地の間にあった街道を防衛線としていた。
ロスタニア:
国の名前。
魔物侵略地域の北に隣接している。
そちらは万年雪山脈と呼ばれる高い山々が自然の要害となっており、
北東方向にロスタニア首都方面へ向かう街道があるため、
その扇状地のような地形部分を国境防衛線としていた。
1年の半分が寒いらしい。
ヘンドリック王子:
氷雪の勇者姫、という勇者シオリの事が書かれた勇者本に登場する、
シオリの相手役、らしい。
勇者姫シリーズ:
勇者シオリの物語シリーズ本。
発禁処分になっているものもいくつかあるらしい。
氷雪の勇者姫もそのひとつ。
なのにカエデは全部持ってるらしい。
ラカルムー:
羊っぽい動物。体毛を利用するのも羊と同じ。
もちろん食べれるのも羊と同じ。
でも羊よりちょっと大きく、毛の伸びも早い。
魔力のある世界だからね、そういう事もある。
ラカルムーはティルラ王国での呼び名。
ロスタニアではシオリが羊と呼んでいたため、
元はカルバーラと呼んでいたが羊で定着してしまっていた。