1ー015 ~ 宿と防具屋と武器屋
森の拠点で一泊してから、翌日は朝から勇者の宿の村に行き、定期便の馬車に便乗して、3時間ぐらいで着いた。ツギの街。
物語によくあるように、盗賊がでたわけでも、魔物がでたわけでもなく、ただただガタゴトと、細かい振動でのんびり3時間、途中休憩すらなかった。だいたい距離にして30kmぐらいかなぁ、たぶん。わかんないけど。
そりゃね、考えてみりゃ定期便なんてもんが1日何往復かするわけで、しかも兵士さんのほうが多いような村と街を結ぶ定期便。
そんなとこに盗賊なんて出ないでしょ。もっと稼げる場所でやれってなもんで。
魔物だってしょっちゅう狩られてたら学習…、はしないかもしれんが、減るし、出てこなくもなるでしょうよ。
馬車に居たのは顔見知りの兵士さんや商人さんたちだったけど、ちょっと話した程度だった。
だって馬車がガタゴトうるさいんだもん。
あ、でもリンちゃんはあぐらかいてる俺の膝の上に座って、例のピンクなリュックを抱えて船漕いでたよ。
よく眠れるなぁ…
ひまつぶしにリンちゃんの鞄からブラシを取り出して、リンちゃんの髪をとかして三つ編みにしてサイドアップにして後ろでまとめてみたり、森の拠点に泊まったときにミドリさんがつけてたバレッタを参考にして、髪留めつくっておいたやつをつけてみたり、また崩してサイドアップテールっていうんだっけ?、ツインテールの亜種みたいなやつ。それにしてみたりしてリンちゃんの髪いじってた。
だって三つ編みのやり方は知ってたけど、女の子の髪を三つ編みにするって不慣れだから目が揃わなくてなんかいまいちなんだよね。不慣れだとダメだね、そういうのは。
到着して、馬車を降りてから気付いた。
よく考えたらリンちゃんは皆には見えないようにして乗ってたんだから、俺ってあぐらかいて両手を胸元でわきわき動かしてる変なやつだよね?
道理であまり話しかけられずに、遠慮がちにされてたわけだよ…、馬車がうるさいからじゃなかったのか…。
街の入り口では、入市税みたいなのを支払っただけで、兵士さんと商人さんたちと一緒だったせいもあって、あっさり通り抜けた。
あ、グリンさんは居ないよ。まだ休暇じゃないんだってさ。
ツギの街は勇者の宿の村や東の森のダンジョン村と違って、カラフルな服装をしたひともちらほら居た。
これだったらリンちゃんも目立たなくていいな、でもちゃんと茶色のローブ着てもらうけど。
え?、だって俺とバランス悪いじゃん、俺の服装、地味コーディネイトなんだしさ。
言わないけど、そんなのが少女メイド連れてたら変だろ?、妙なのに絡まれたりしそうだし。
とにかく宿をとって、そこからはリンちゃんも姿が見えるようにしてもいいな。軍資金あるし、2人分の宿代ぐらい余裕余裕。
あ、いい剣とかいい盾とか、あるかなー?、雑貨屋じゃなくちゃんと武器屋とか防具屋とかが地図みるとあるみたいだから、期待してもいいかな?
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地図に書いてあった、おすすめの宿『キチン宿』。名前オチか?、偶然か?
うん。普通だね。東の森のダンジョン村の宿よりはこぎれいで、部屋がちょっと広い。値段も同じ。お手頃価格なんだってさ。1泊10ゴールドって。むしろ最低ランクらしい。
100ゴールドの支給からすると、スゲー高く感じたけどね。まぁもう今更だな。
あ、そうそう森の拠点には転移陣の石板が寝室に埋め込んであるんだってさ。床にあったよ。全然気付かなかったわ。でもやっぱり魔力があるから、今はしっかりわかる。人の気配?、ってのも同じようにわかる。アクティブソナーあんだけやって練習したからな。慣れたってことなんだろう。こういう感覚は、言わばパッシブソナーだな。
んで転移の石板だけど、スゲー複雑な文様がびっしり描かれていた。当たり前といえば当たり前だな。でも理屈はさっぱりわからん。
リンちゃんがこないだダンジョンの入り口んとこに描けばそこに戻ってこれます、みたいなこと言ってたけど、こんなの描くの大変だよね、ってか描けるんですかリン様!、スゲー…、いやこんなの覚えられないよ?、描くの時間かかりそうだしさ。
ということで寝室のやつみたいに、描いてある石板を予め用意しておいて、それを何枚か持ち運んで使おうってことにしたんだよ。
そりゃあリンちゃんがもってる魔法の袋がないとムリだけどさ。そんなの。
石板の大きさは450mm の正方形で厚みが15mmぐらいかな?、ずっしりとして重い。こんなの何枚も持ち歩けるかっての。
何でもリンちゃんが例えば洞窟の壁に描いたとする。平らに削って、そこに描く予定だったらしいけど、そうすると1辺1.5m ぐらいのサイズになるそうな。んで描いてから表面を土魔法で隠してもとの壁とおなじような感じにしておくつもりだったんだってさ。
その間、結界魔法で人や魔物が来ないようにする。って聞いたんで、やっぱりそれ入り口近くでやることじゃないよね?、っていうことで、石板を持ち歩こうという話になった。
石板だと積層構造?っていうらしいのが描けるのでサイズが小さくできるんだと。
450mmのサイズ って結構大きいって思ったんだけどこれ以上小さくはできないんだってさ。『これでもかなり小さくなってるんですよ?』、ってモモさんに言われたよ。
100年前は 1辺20mぐらいの舞台に描くような魔法陣だったらしいし。
いや、百年て…。
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宿屋から程近いところに商店街みたいになってる場所があって、服屋が一番近かったんでまず入ってみた。
やっぱり古着かー、って思ったら、店主が座ってるカウンターの近くは新品が並んでて、仕立てもやってるらしい。
せっかくだから新品もあったほうがいいかなー、ってちょっと揺らいだけど、どうせ汚れるし偉い人に謁見したりする予定なんてないし、そういうのはそうなったときに考えればいいさ、ってことで普通に古着を何着か買っておいた。
リンちゃんは服いらない?、って聞いたら、要らないって言ったけど、ローブの替えがあるといいよね、って色違いの適当なサイズのやつを何着か買っておいた。あとでまた茶色のと同じように加工すればいいしな。
さて防具屋です。ここからが本番とも言える。
でも金属鎧なんてガラじゃないしなー、革の胸当てしかないけど、なんかこれで充分じゃね?、って思った。
だって高いんだもん。
店主のひとがやってきて、
「お兄さん、防具は命を守るものだから、ケチらずどーんと買うものですよ?」
ってすごい笑顔で言ってきたよ。セールストークってやつだね。
そうなんだけどねー、どうせ魔力纏わせて強化するしさー?、言わないけども。
だから見かけが駆け出し冒険者、って程度で充分なんだよね。って思って愛想笑いでごまかしてたら、
「それに、あまり貧弱な装備だと、余計なトラブルに遭うこともありますから、ある程度はちゃんとした装備も大事なんですよ?」
なんて言うんだよね。
くっそー何か言い返せないな、だが断る。だってまだ駆け出しなんだって自覚してんだよ、こっちはさ。身の丈に合わない装備してたって慣れるまで時間かかるしさ、そんなのたぶん熟練の兵士さんや冒険者から見りゃすぐわかるんじゃね?
だからこのままでいい。
- 今日は将来強くなったときにどれぐらいのお金が必要なのかな、って知っておくために来たので…、すみません、見てるだけなんです。
「なるほど、そうですねー、お兄さんなら次はこちらの…、これなんかが良いでしょう。胸元から腰下あたりまでをカバーするようになっています。肩部分は別になっておりますが、合わせるとこういう感じになります。これに、こちらのブーツや腿当てなどをそろえて装備するのが、前衛から中衛の冒険者では定番のスタイルです」
- な、なるほど。
お金がないって暗に伝えたのに、態度を変えずにしっかりセールスしてくる。できるなこの店主。プロだわ。
木組みの台に、鎧を被せてディスプレイしてあるものに、他の部位を合わせてみると、なるほど統一感があってカッコイイ。うまいなー売り方が。
え?、元の世界でもそういうもん?、いやあまり知らないんだよ、そういうお店いかなかったし。普段着なんてスーパーとかの安売りだったよ。ビジネススーツも吊るしの出来合いだったし。え?、ユニ○ロ?、あそこ何か高くね?
「そして上級者になりますと…、こちらの金属を当てたものになります」
- ふむふむ。
おお、カッコイイ。ピカピカだ。すごく強そうに見える。
フルプレートの甲冑じゃないけど、基本が皮革で要所に金属で防御力を高めてある、ってやつか。いいなこれ。いやいや、買わないよ?
「他にも、鱗素材や金属板を重ねたものや、鎖素材などのものをお選びになる方も居られます。上級者になると、戦闘時の立ち位置や役割などによって、様々な防具を適切にお選びのようですよ」
- なるほど、大変勉強になりました、ご丁寧な説明ありがとうございます。
「いえいえ、将来のお客様ですから、これぐらいは」
とにかくこのまま長居してもアレだし、ここらで出よう。
あ、ブーツ1足だけ買っておこう。
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そして武器屋。こっちは替えの剣があるので別にいいっちゃいいんだけど、なんかワクワクするだろ?、だから見る。
というかね、剣のバランスみたいなのあるじゃん?、そろそろそういうのも検討してみたいかなってのもある。
今のはグリンさんたちに聞いたんだけど、兵士さんが使ってる標準タイプのショートソードって言うものらしく、比較的短めで素材も最低ランク、数打ちの消耗品、ってものなんだってさ。新人兵士向け、なんだそうな。
だから無くなったり修理できないぐらいに壊れたりすると、ぽんぽん新しいのをくれる。ありがたみはないけれど、助かってるのでそんなバチ当たりなことは言わずに、ありがたく頂いて大事に使わせてもらってたんだよ。
で、武器屋です。
なんか想像してたのと違うなー、一応展示はある。
でもズラーっと並べてあったり、雑に樽とかに突っ込んであったりするのは無いね。
「ん、お兄さん、何を使いたいんだい?」
声をかけてきたのはカウンターの向こうに座ってた茶色いヒゲもじゃで短髪のおっちゃんだった。腕ふっと!
- あ、普段この剣なんですけど、他の武器も考えてみたいかなって思って…。
「そうかい、ちょっとその剣見せてみな」
- あっはい。どうぞ。
腰の剣を鞘ごと外してカウンターに置く。
「なんだ全然使ってないじゃないか。一応手入れは行き届いてるな。感心感心。でも武器は使ってこそなんだ、こんなご時世、魔物だって居る。使わんと強くならんぞ?」
もう普段魔法で戦ってるみたいなもんだし、剣にも魔力纏わせるから剣が傷まないんだよね、なんて言えないから笑ってごまかそう。
- 前の剣は修理できなくなっちゃったんで、それは新しくもらったばかりなんですよ。
「もらった?、兵士…じゃなさそうだな、お前さん、勇者様か!?」
- ええ、まぁ、一応、そういうことになってます。
「そうか!、よく来たな。東の森のダンジョンを卒業したんだな、おめでとう、んじゃちょっとこっち来いや」
- ありがとうございま…す?、え?
立ち上がった店主のおっちゃんの背がすごい高い!、びっくりだ。2mぐらいあんじゃないか?、ってか椅子が低すぎw
「店の裏じゃないと剣振ったりできねぇだろ、ぐずぐずすんな、早く来い!」
- あっはい!
迫力あるわー、こえー…





