0ー002 ~ 序章の2
戻って方角を尋ねようかと思ったが、宿を出て大通りのところまでいくと門への表示表示があった。親切だ。
街並みを見ながら少し歩くと、門と壁が見えてきた。
あんな壁が必要なのか、何と戦って、ああ、魔王を倒せとか言われたっけ。んじゃ魔物とか居るのかと今更ながら思いつつ、門に近づくと人や馬車が並んでるのでなんとなくその後ろに並ぶ。
自分の順番が来たようだ。兵士のひとと話す。
「ああ、勇者さまですね。では今後はこの札を持っていて下さい。
これを見せれば順番を待たずに通れるようになりますので。
ではお気をつけて。」
えらく親切じゃないか。一応ちゃんと礼を言って門をくぐった。
門を出ると200メートルぐらいだろうか、開けた草原があってその先に森がある。
ここから見える範囲では、街道は石畳?、レンガかこれ?、が敷設してあり、森へはその途中から分岐した、草の剥げた地面だけの道で行く感じだ。
東の森のダンジョン、って言ってたっけなー、とか誰に話すとも無く呟いてテクテク歩いて森に入った。
しばらく歩いていると茶色いウサギがでてきた。ちょっとビビった。
なんだウサギかー、ってほっとしたら飛び掛ってきた!
うぉ!何だコイツ角あるぞ!、なんとか避ける。
とっさに背負い袋を振り回して、また飛び掛ってきた角ウサギを払いのけた。
あれ、ウサギがいねぇ、どこいった!?
背負い袋に爪が引っかかってじたばたともがいてた。
うわ!って思って背負い袋を手放すと地面におちてさらに引っかかりもがく角ウサギ。
これどうすんだ…?、そうだった、剣もってたんだった、と思い出して剣を抜く。
襲ってきたんだから殺していいんだよな?、な?、と言い訳しながら角ウサギに剣をぶっ刺した。手に何とも言えない感触が…。
そんでこれどうすんだ?、食えるのか?、いやそれ以前に捌くのか?、誰が?、俺か…。
そんなことやったことあるわけもないが、異世界モノの話だと大抵、血抜きとかするんだよな、首落として逆さに吊るして…、マジか。
とりあえず背負い袋から取り外すか、うわー穴あいちゃってるし。血がついちゃったよ、あーあ。でもこれしかないしなぁ。
そんでぐでーっとなってる角うさぎを見る。
ああ、剣ぶっ刺すときもうちょっと考えるんだったなぁ、首か、しょうがない!。
狙ってひと思いにザクっと突き刺して首を落とす。なむなむ。
後ろ足を持って逆さにする。当然だが血が滴る。最初にぶっ刺したところからも出る。ついでになんか中身がはみ出てる。グロい。
んでこれどうやって持って帰る?
このまま背負い袋(穴あき)に入れると、中がどろどろになるよなぁ。
しょうがない、一旦帰ろう!、そうしよう。
どっちから来たっけ?
なんとか方向を思い出して門まで戻れた。
結構奥に入ったつもりだったのに、大したことなかった。
あれだよな、途中で木の実みたいなのを見かけて道を外れたからだよな、ははは。
門のところでは、やっぱり街に入る人たちが並んでいたが、言われたように札を見せれば並ばなくていいって言われたし、と列を無視して前んとこの兵士さんに近づく。
並んでる人たちが変な目で見ていたが、たぶん首のないグロいものを持ったままだったからに違いない。気にしないで兵士さんに話しかける。
札を見せようとズボンのポケットから取り出そうとして気付いた。
ポケットが裂けてる!、札がねぇ!
兵士さんに謝り倒して角ウサギを預け、森に札を取りに戻ることに。なんてこった。
苦笑しながら預かってくれた兵士さん、ありがとう!
さて…
みなさんは森で落し物をしたことがあるでしょうか?
ええ。はい。見つかりませんね。
親切なくまさんでも居ない限り。
あれはあれで、後ろから追いかけてくるクマというのはそら恐ろしいものがありますが。
とか言ってる場合じゃない。
目印なんて、ああ、血のあとが残ってれば…!
えーっとあの時は道から逸れて木の実みたいなのを…、こっちかな、そうそう、そんで手が届かない上のほうのは諦めて2つだけ採れたんだよな、そうそうこれこれ。
で、どっち行ったんだっけかな、ああそうだった、ひとつはちょっと割れてて、中に虫がたかってたんで捨てたんだった、これこれ。ははは、んじゃこっちだ。
で、なんとか見つけました。血のあと。
そして今、首を切った角のあるキツネみたいなやつの後ろ足を持って立ってます。
え?、血のあとんとこに居たんだよ。そんでまた飛び掛ってきたんだよ!
今度は剣ぬいて対処したからな、ばっちりだぜ、ははは。
ごめんウソです。焦って振り回した剣にベチンと当たって吹っ飛んだ角キツネにとどめを刺しただけです。ばっちりじゃないけどバッチリ。
角ウサギよりでかいから感触も…、いや、忘れよう。
ぼーっと立ってるのもあれなので、近くを探したらありました。札。よかった。
さっきは忘れてたけど、落とした首ももっていくことにした。グロいけどな。
門のところに戻ると、もう夕方近いのか、影になって薄暗い。東門だもんな。
今度はちゃんと札を見せたら、詰所に案内された。
詰所でなぜかほっとした表情の兵士さんから、あっ、このひとが最初に門にいた兵士さんだったっけ、お礼を言ってから、預けていた荷物を受け取る。
そういや買取とかどうするんだろう、冒険者ギルドとかあるのかな?、とか思ってたらテーブルを挟んで向かい側に座っている兵士さんが、手にまとめてもってた角ウサギの首と角キツネの首と胴体を指差し、こちらへ、と言われたので渡した。
「次からは角を切って持ってきてください。胴体は『勇者の宿』に持っていけば買い取ってもらえますが、討伐証明は角だけなので、荷物になるなら角だけ持ち帰ればいいでしょう。」
- そうですか。ご助言ありがとうございます。
え?、剣も渡せと?
「血などで汚れたまま剣を鞘にいれますと、剣が早く傷みます。できれば拭ってから納めるようにしてください。剣の手入れのしかたはわかりますか?」
- いいえ、わかりません。
「ではこの札を『勇者の宿』の1階にいる兵士の誰かに渡してください。」
- わかりました。
「こちらがあたらしい鞘と、背負い袋です。」
ー おお、頂けるんですか、ありがとうございます。ついでに盾とかありませんか。
「盾ですか、でしたら武器屋が『勇者の宿』の隣にありますのでそちらでどうぞ。」
- あ、気付きませんでした、早速行ってみます、ありがとうございました。
「ではこちらをお返ししますね。防水布はそのままお使いください。」
ああ、角ウサギとかの胴体ね。
包んでくれるとはなんて親切なんだ。
確かにそのまま背負い袋に入れたらまた汚れたりするよな。
ぺこぺこお辞儀をして詰所を出た。
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(作者注釈)
タケルは東門だと思っていますが、実は西門です。