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4ー008 ~ やっぱり臭かった

 「天罰魔法って前もこんなだっけ?、もうちょっとマシじゃなかった…?」


 町の廃墟と言ってもそこそこ壁や門があるんだが、その門の前で内側の惨状を見て、ネリさんが途切れながら言った。


 うん、俺もそう思う。

 言い訳すると、天罰魔法、久し振りだったんで前と同じような感覚で魔力を込めて撃ったんだが…。

 そうなんです、前と同じようにしたらいつもの飛行魔法がぶっ飛び過ぎて俺を囲んでいた結界の内側でひっくり返ってあちこち打ったあの時みたいに、えらい事になってしまっただけなんです。

 道理で爆風と音が前よりすごいなーと思ったよ。前んときより遠いのにさ。


- あー…、どこかで試し撃ちをしてからにすべきでしたね、いやはやこんなに威力があるとは…。


 「いやはや、じゃありませんよ、穴ができてますよ、建物は崩れてますし、周囲も焦げてるじゃないですか」

 「焦げてるっていうか、溶けてるよねあれ」

 「門の前に石材の欠片が散らばっていたのでおかしいと思ったんですよ…」


 門というか遠目だったが元を知っているから門と言えるって程度に酷い。

 ここは石組みの、造られた当時ならそこそこ立派アーチだったんだろうなというのがわかるぐらいの門が見えていたんだけど、今はアーチなんて欠片も残っておらず、見る影もない。


- あっはい、はい、済みません。


 「威力が足りないよりはいいけど、これだと騎士団の儲けがないよ?」


- はい、次は加減します。


 「私たちの出番も無いじゃないですか」


- はい、済みません。


 と、3人から地味ぃに責められまくり、両手のひらを胸の前にし、迫ってくる3人に向けてただただ謝るしかなかった。と言うのも、もう少し落雷点(?)付近の温度が下がるまで、熱の(こも)った土埃が収まるまで入れないからだ。木造の部分が多い廃墟だったら火災になってたんだろうと思う。

 あんだけ威力があると、天罰魔法はただの落雷じゃなくなるんだな…、離れてた所に落としてて良かったよ。近くだったらヤバかった。


 仕方が無いので門の前のゆるい坂、そこをすこし外れたところに平らな部分を作り、手洗い場とテーブルと椅子を作ってお茶をする事にした。

 まぁ、いつもの事だな。






 「あと何匹ぐらいいそう?、タケルさん」


- 外を歩いてるのは居ませんね。


 「廃墟の中にいるのは?」


- 感知できたのは数体だけで、どれも動いてません。


 「生きてるの?」


- 生きてます。


 「じゃああとはそれを処理するだけ?」

 「もうひとつ大きな空間があるんだからそれで終わりじゃないぞ」

 「あ、そっか」


 とりあえず生き残りを掃討するのにこの町部分だけの地図を作って印をつけておいた。

 それを横から見ていたリンちゃんが地図にある魔道機械を指差した。


 「タケルさま、この機械はまだ稼働中のようですね?」


- あ、うん、そうみたいね。


 「ですので、ここを埋めてしまうのは待って頂けませんか?」


- あー、もしかして精霊さんたちのほうで何とかしてくれるってこと?


 「はい、前のタケルさまのように暴走して転移、爆発なんてことにならないように、こちらで技師たちを呼んで調査してから安全に撤去しますので」


 なるほど。そういう事なら任せてしまった方がいいね。

 周囲にトカゲや竜族が居なくて良かった。いたらあの天罰魔法を落としていたところだ。実は危なかったのか…。まぁそりゃあの機械があるって俺だって感知してるんだから、すぐ近くにあんなの落とすような事はしないけど…、いや、威力を考えてなかったんだからやっぱり危なかったな。


- じゃ、それでお願いするよ。


 「はい、ありがとうございます」


- ううん、お礼はこっちが言うことだと思う。


 「タケルさま。竜族があの機械を使って拠点を移動しているのは判っていたんです。でも稼働中のものを調査分析するにはこうしてダンジョン内に足を運ばなくてはならなかったんですよ?」


- あ、うん。


 「竜族が支配する領域に兵士を送り込むことができなかったんですから」


 ああそうだった。前にそんな説明をされたんだった。

 前衛のザコ魔物ごと、竜族は破壊魔法を撃ってくるらしく、魔法の射程が同じぐらいだから被害が出てしまうし、どちらかというと分が悪かったんだそうだ。

 破壊魔法は魔力が収束されていて貫通力があるし、息をするぐらいのタイミングで連発してくるので、戦闘時に急いで張る結界程度ではもたないんだと。


 過去の戦闘から、そのような死地に兵は出せなかったってわけだ。

 ダンジョン内だと、飛行機械に乗ったまま入れないから、らしいが。


 だから『スパイダー』のような小型の乗り物に、射程が長い投射武器を搭載して、っていうのが光の精霊さんたちに絶賛され、それらを提案した俺も貢献がとかで大絶賛されている理由、って事を言われたっけ。

 提案っていうか、俺が使うためだったんだけどね。投射武器はあとで聞いただけで提案したんじゃないけどさ。


 「それがタケルさまのおかげで竜族を安全に処理でき、ダンジョンを攻略できる希望が見えてきたんですよ。今回、こうして稼働中の転移魔道機械を入手できれば、竜族の拠点情報が明らかになる可能性すら見えてくるんです」


 なるほど、調査できる技術者さんを派遣するんだもんな、そういうことか。


- へー。


 「へー、って、何を他人事(ひとごと)のように言ってるんですか、全部タケルさまの功績なんですよ!?」


- へ?、全部?


 「はい、ですからまたタケルさまの配下に転移魔道機械研究分析チームが発足するでしょうね」


 またかー。


 「(ねね、あたしたちは?)」

 「(タケルさんが居ないとここまで来れないじゃないか)」

 「(そうですね、破壊魔法を撃たれてしまうのは危険すぎますね)」

 「(あー…、そうだった、あれはちょっとシャレにならないもんね、あ…)」


 小声でひそひそ喋ってる3人。でも丸聞こえなんだよね。

 俺とリンちゃんがちらっと見ると、サクラさんとメルさんはちょっと気まずそうに、ネリさんは首を横に向けて白々(しらじら)しく遠くを見た。


- でも元々光の精霊さんの魔道機械でしょ?、あれ。


 「当時の技術は資料も含めて大半が失われてしまったんです。現在里に残っているものは壊れてしまっていて、あの機械自体を復元することができない状態なんです。ですから稼動可能なものは研究者たちにとっては喉から手がでるほど欲しいと思われますよ?」


- だから研究チームが発足するって?


 「はい」


- でも配下にって、それはやめようよ。


 だって俺関係ないじゃん。


 「研究者たちが集まる仕組みが既にありますから、そうなると思いますよ」


 と、何を当然の事を、という表情で小さく小首を(かし)げるリンちゃん。

 前例ができちゃったってのと、広報・受付などがシステム化されてしまったって事なんだろうか…、うーん。もうこれはどうしようもないな。話を変えるか。さっきネリさんたちがこそこそ言ってた報酬のこと、ちょっと訊いてみようかな。


 だって前々からこうして手伝ってもらってたんだし、光の精霊さんへの貢献って意味ならあると思うんだよ。まぁ川小屋などの設備使ってたし食事も提供してたし魔法も教えてたんだからって言われちゃうかな?、話のもって行きかた次第かな?


- ねぇ、リンちゃん。(みんな)もこうして手伝ってくれてるわけだし、光の精霊さんたちから何か報酬があってもいいんじゃないかな?


 「「「!」」」


 3人が息を呑んだのがわかった。


 「…、そうですね…。タケルさまがそう仰るのでしたら…」


 リンちゃんはその3人をちらっと見てから考えるような雰囲気でゆっくりと言った。






 門の向こうがだいぶ収まってきたので、残っているトカゲの掃討は3人がしてくれることになった。と言うか戦いたいらしい。

 1名だけはめんどくさそうな顔をしてお茶うけをもぐもぐ食べていたが、サクラさんが『少しぐらい出番がないとついてきた意味がないだろう』と言い、メルさんが同意して準備運動なのか屈伸や上体(ひね)りをし始めたので、『じゃあ行く』と立ち上がった。

 お皿に出したお菓子が無くなったからじゃないと思いたい。


 俺はというと、3人が門の残骸の向こうに走って行ったあと、例の魔道機械のほうへと移動する2体のトカゲを感知したので、またポーチから杖を取り出し、機械の周囲に3重の障壁結界を張った。

 破壊魔法に耐えられるかどうかはわからないけど、もうここにははっきりと竜族だと言えるような個体は居ないし、移動している2体はただそちらの方角へ逃げているだけだろうとは思うが、一応、何かされると面倒な事になりそうだから保護しておいたほうがいいんじゃないかという判断だ。

 3重にしておけばメルさんでも一撃では破壊できないぐらいの強度があるんだし、普通のトカゲなら大丈夫だろう。


 「その杖、そんな機能があったんですね…」


 俺がしていることを見ていたリンちゃんが(あき)れ半分、感心半分という感じで言った。


- 前に言ったっけ?、これ、射程延長に特化してるって。


 「あ、そう言えばそんな事を仰ってましたね」


- 思うけど、上層部の光の精霊さん(ひと)たちなら知ってるんじゃないかな。


 「それはどうでしょうね…、もしそうなら、竜族との戦闘に使って有利に戦えていたはずですし…」


 考えるように言うリンちゃん。

 まぁ、もしかしたら秘術とかで公開しない理由があるのかも知れないけどね。


 「あ、ところでさっきの話ですけど、報酬って何がいいと思います?」


- え?、あ、んー、たとえば…


 「たとえば?」


- このポーチは?


 「それはタケルさま専用ですし、あたしのと同期してますので…」


- そうじゃなくて、彼女たち専用に用意すればさ。精霊さんみんな持ってるんだし。


 だから精霊さんたちにとってはそれほどレアなアイテムじゃないよね、という意味で言ったんだけど、リンちゃんは言い(にく)そうに返した。


 「えっと、実は、我々全てが所持を許されている訳では無いんですよ?」


- あ、そうなの?


 「はい、例えば、お気づきじゃなかったのでしょうけど、アールベルクに居た兵士たちや演劇の責任者などは所持していませんし、里の一般市民もそのほとんどが所持を許されてません」


- あ、そうだったんだ。初めて里にお邪魔したとき、だいたい腰の所に着けてたから、てっきり精霊さんみんなが持ってるんだと思ってたよ。モモさんたちも持ってるみたいだし。


 「あ、モモさんは所持していますけど、他の3人は機能制限がついているものを1つだけですね。3人で1つです」


- あ、そなの、って、個人の魔力を登録するから共有ってできないんじゃなかったっけ?


 「それは以前の話ですよ、お忘れですか?、タケルさまが複数登録の方法を編み出したんじゃないですか。それから研究が進んで、共有化ができるようになったんです。そのテストケースとして1つ与えられたんですよ。もうだいぶ前の話ですよ?」


 いや、編み出したって言われてもね…。と返したいところだけど、そうするとまた賛辞とか自覚がないとかの話になりそうだから言わないでおこう。


- そうだったんだ、でも腰にみんなポーチ着けてたような…。


 「それは普通のポーチです。容量拡張機能はついてません。行政庁舎の者のも大半がそれです。制服の一部ですから」


 なんと、そうだったのか。多少デザインは違っててもだいたい同じだし、魔力を感じるのでそうだと思ってたよ。って、あれ?、魔力?


- じゃあ魔力を感じたのは?


 「それは盗難防止機能です。ほら、あたしのこれもタケルさまのポーチも、登録されていない者が持てば重くなる機能ですよ」


- ああ、あれ。


 それで最初『森の家』で観察してたとき、モモさん以外は物の出し入れにあまり魔力が消費されていなかったのか、本人確認だけだったんだな。道理で…、知らなかったからだいぶ悩んだっけ。でもそのおかげで魔力のID判別や認識系だけの魔力操作を真似できたんだし、同調方法を考える切っ掛けになったんだから、むしろ助かったのか。


 「はい、そういう訳なので、タケルさまと同じポーチというのは…、正直なところかなり難しいです」


- そっか、あ、じゃあさっきの機能制限バージョンのならどうかな?


 「んー、どの程度の容量拡張なら、彼女たちの魔力操作技術で扱えるか、という所ですね…」


 目を閉じて腕組みをし、首を斜めにして悩んでる仕草も可愛いなぁ。

 って、このポーチってそんなに扱いが難しかったっけ?


- あれ?、そんなに難しい?、これ。


 「あ…、はい、実は難しいんです。タケルさまはお忘れなのかも知れませんが、ポーチをお渡しする前に、あたしの鞄から物の出し入れをしましたよね?」


- …そうだっけ?、そうだったような気もするけど。


 言われてみれば1度、試しに物の出し入れをやらせてもらった事があったような気も…。


 「したんですよ。一応、タケルさまの魔力を登録はしてあったんですが、それでも普通はそんなすぐに出し入れなんてできません。あの時、内心すっごく驚いたんですからね?」


 腕組みを解いて人差し指を立てて上下に肘から先を振り、注意をするように言われた。


- あっはい、あれ?、複数登録できてたってこと?


 「それは盗難防止機能ですよ。前に少し説明しましたけど、内部の空間は固有IDと使用者の魔力を識別要素にして個別に生成されたものなので、通常は他人が同じ空間にアクセスなんてできないんです。それをあんな簡単に、しかも嬉しそうにやっちゃうんですから、あたしがどれだけ驚いたか…」


 ため息をついて肩を落とすリンちゃん。でもすぐに顔をあげた。

 ああそっか、ポーチをもらったときに運んできた精霊さんは、盗難防止機能に登録されていたからああやって普通に運べたってことか。


 「あの当時はそれをタケルさまにお話してもいいかどうかがわからなかったので言えなかったんです。それを里に報告したので、ならば問題無く扱えるだろうと、母さま、アリシア様から特別に許可が下りたのがそのポーチなんです」


- そうだったんだ。


 なるほど、そういう裏事情があったのか。


 「でもそうしてポーチを与えられるとご自分のポーチからあたしのにアクセスしてしまうし、いくつも空間を発生させてしまうし、好き勝手してしまうんですから…」


 何か愚痴られてる雰囲気。


- そのせつは後始末やらで苦労してくれたみたいで、ありがとう。


 「いえもうそれはいいんですよ、そのおかげで技術的に進歩したんですから」


- あっはい。


 「なので、タケルさまは何故かいとも簡単にやってますけど、あのひとたちにできるかどうか…」


- 試しに荷馬車1台分ぐらいの容量のもので試してみるとか?


 「んー、今日見ていた限りではそれも難しい…、んじゃないでしょうか」


- じゃあその半分ぐらい?


 「ふふっ、やけにポーチを推しますね。他のじゃダメなんですか?」


 笑われてしまった。


- 他のってったって特に思いつかないから…。


 「でもまぁそうですね、便利だというのはわかります。一応、タケルさまの意見として伝えておきますね」


 そう言って微笑み、いつものように電話のジェスチャーをして早口で連絡をし始めた。

 

 



●○●○●○●






 サクラさんたちが倒したトカゲを回収してまわり、分岐に戻って張った壁を解除して進み、砦のあるほうの空間へと出た。

 その際、通路を出てすぐの所に4体いるとわかっていたので、見つかる前に倒した。


 「太い骨が落ちてる、武器かなぁ?」

 「骨を棍棒代わりに使う魔物も居るからな」

 「それにしては新しくないですか?」

 「じゃあお弁当かなぁ?、何か臭いし」


 いつものように地図を作成していたらトカゲの死体のところで3人が話していた。

 お弁当てw


 ここは以前にあった砦の空間と同じように、通路を出ると林になっていて、木々の間に幅が20mほどもある草の剥げた道があり、中央付近の砦の入り口まで続いている。

 俺は土魔法で作った土台の上で索敵(レーダー)魔法を使って全体を調べて地図を作成していたってわけだ。


 「回収しますよ?」

 「あ、はいお願いします」


 リンちゃんが死体を回収して話は終わったようだ。

 土台から一旦降りて打ち合わせだ。サクラさんに地図を手渡すと、皆が覗き込んだ。


 感知できた数は6体と24体と20体の計50体だった。竜族らしき個体が6でトカゲが24、そして奥の林と草原部分に角イノシシが20体だ。ついでに角イノシシの残骸がいくつかある。もしさっきネリさんが言ったお弁当の話が本当だったら、食事中か食後という事も考えられる。


 「屋根のある建造物はこの1箇所だけですか…、この黒い印は?」


 サクラさんがまず質問してきた。

 何せ空間が結構広いので地図にしても印が小さくなってしまうからね。砦部分も横幅はこの空間の横幅ほとんど一杯を使っていて800mもあるし、砦の奥行きは400mもある。ちょっとした町の規模だ。


- おそらく魔道機械でしょう。さっきと同じ感じがしましたし。


 「こっちにもあるんですか…」


 サクラさんが少し不安そうな表情で言った。皆も同様だった。


 魔道機械については、ダンジョンが転移し階層の境界門が消えたこと、俺がラスヤータ大陸まで飛ばされ、竜族が魔道機械を暴走させて爆発に巻き込まれる所だったという事を話してある。だから不安要素になるんだろう。

 さっきの町がある空間では、警告音を出されたあと、竜族がそういう手段に出なかったので助かったが、それはたぶんこっちの空間にも影響がでるからしなかったのか、または違う理由があるのかも知れない。

 もし、警告音のあと、機械のほうに集合するようであれば、俺たちは一旦撤退をして様子を見ただろう。


- そうですね、屋根が草と板なので中が感知できました。中にはトカゲは居ないようです。屋根があるのはそこだけじゃなくて、2つある塔の中は見えませんね。


 「塔…、でもトカゲの印はありますよ?、あ、竜族もいるんですかこれ」


- はい、竜族ですね。屋上に居るのだけ印がついてます。


 ここの塔は尖塔ではなく、屋上がある。どちらかというと見張り用の塔だ。2本のいずれも原型のまま残っているようだ。


 「なるほど、ところでどうして同じ場所に固まっているんでしょう?」

 「宴会でもしてたんじゃないの?、これって焚き火でしょ?」

 「あのなぁ…」


 2つの塔は中央の広場を挟んで左右にあり、屋根が木と草で作られた魔道機械の部屋は広場の向こう側に壁だけの建物がいくつかあってその向こうにある。

 その広場に見張りと角イノシシ以外の竜族とトカゲが中央に大きな焚き火を囲んで集まっている状況だ。


- いえ、ネリさんの言うのもあながち軽視できない意見かも知れませんよ?


 「ほらほらぁ」

 「いやでもしかし…」

 「やっぱりあの骨はお弁当だったんだよ、見張り役以外が集まって食べてるところだったんだって、宴会だよきっと」


- じゃ、今のうちに天罰落としますか。


 と言ってさっきの土台の上に登る俺。


 「うわー、宴会やってるところに天罰なんてひどいなー、あはは」


 でもこっちからすればチャンスなんだから。


 「タケルさま、魔道機械には」


- うん、ちゃんと加減するし保護するから。


 「はい」


 俺だって前みたいに必死で逃げるのなんてイヤだからね。






●○●○●○●






 「これでこの地域は安全になったんだよね?」


 砦の処理を終え、空間から通路に戻るとネリさんが伸びをしてその手を後頭部で組んで言った。


 「そうだな、竜族関係はもう心配要らないな」


 俺が答える前にサクラさんが返事をしたようだ。


 と、その時ダンジョン入り口から何かが侵入してきたのを感知した。

 皆の前に出て静止するように片手で指示し、もう片手は静かにするように口元で人差し指を立てた。


 「あ、タケルさま、調査隊が到着したそうですよ」


- え?、あ、『小型スパイダー』?


 リンちゃんが言うのと同時に索敵(ソナー)魔法が返ってきて、侵入してきたのが3台の『小型スパイダー』だというのがわかった。


 「「え?」」

 「もしかして、精霊様ですか?」

 「はい」

 「はわー」


 はわー、てw


- もう来たの?、早いね。


 「早くしなければ、新たに転移してくるかも知れないじゃないですか」


- ああ、そういうこと。


 「あの魔道機械はそれ自体で転移もしますが、転移ネットワークを形成することがわかっているんです。つまりあれがある位置に、新たに転移してくる可能性があるという事なんです。そして支配地域の転移空間を管理しているらしいです」


- そうなんだ。


 「と言うことはエサ場だけ残しておいたダンジョンが消えたのも、それが原因ということですか」

 「そうですね、そう考えていいと思います」

 「じゃあハムラーデルで行方不明になったひとたちはどこ行っちゃったってわかるんですか?」

 「詳しい事は調査してみないとわかりません」


 まぁそりゃそうだよね。

 とにかく調査の結果待ちってことだ。

 しかしあれからもう何ヶ月も()ってるんだよなぁ、俺は無事…とは言い(がた)いところもあるけど、何とか帰って来れた。でも行方不明になった兵士さんたちはいくら水や食料が調達できる場所とは言え、生きてるかどうかがわからない。

 もし竜族やトカゲがたくさんいる場所に接続されてしまったら絶望的だ。そうでないなら場所が判明して救出しに行けるようになるまで生き残っていることを祈るしかない。


 「そう…、ですね」


 と言っている間に、分岐のところから1台がこちらへと向かってきた。2台は町のほうの魔道機械へと向かうようだ。






 少し待つと、すぐ横で『小型スパイダー』が停車し、乗っていた4名が降りて俺たちの前に並んだ。俺が知ってる『小型スパイダー』と違ってすこし全長が長く、荷物が後ろに積めるようになっているようだった。


 「立ったままで失礼致します。タケル様とリン様ご一行でいらっしゃいますね」

 「急な連絡にも関わらず迅速な対応に感謝します。私たちに構わず任務を遂行して下さい」

 「はっ、この洞窟の外に拠点を築きました。隊長がご挨拶がしたいと申しておりました」


 リンちゃんが頷くと、4名はささっと乗り込んで砦の魔道機械へとがしゃがしゃと音を立てて移動して行った。


 「ほぇー、リン様って偉いんですねー」

 「ネリ」

 「そうですよ、アクア様とリン様のお話でわからなかったんですか?」


- ここでじっとしててもしょうがないので、出ましょうか。


 リンちゃんがそのへんちゃんと話してないなら、こんな場所であらためてアリシアさんの娘だって言う事でもないからね。でもわかってないのはネリさんだけなような…。






 ダンジョンを出て、海蝕(かいしょく)洞窟を経て入り江のところに出ると、2階建ての大きな四角い建物ができていた。


 建物の上には隠蔽されていて見えないが、感知では母艦に格納されていたのと似ている飛行機械が乗っかっているのがわかる。ちょっと乗ってみたいね、そのうち頼んでみようかな。

 俺が建物の上を見ながら歩いていたのを見てか、俺の後ろを歩いていたネリさんに気付かれたようだ。


 「上に何か…?、んー?、見えないけど何かあるような…」

 「何を言ってるんだ」

 「建物の上に何かありますね、見えませんけど」

 「ほらぁ、メルさんにもわかるんだから」

 「うーん…、そう言われてみればあるような気もするが…」


- リンちゃん、外で待ってたほうがいい?


 「何言ってるんですか、タケルさまも一緒ですよ?」


- え、僕も?


 「行かないと隊長が悲しみます、調査隊長に任命されてすごく喜んでいたらしいんですから」


- あ、そうなの。えっとみんなはどうします?


 「ついて行っていいんでしょうか…?」

 「どちらでも構いませんけど…、そうですね、ついてきて下さい」


 リンちゃんは一瞬考えるそぶりを見せてから、ついて来るように言った。

 もしかして、今日話した報酬がどうのって話に関わるからなのかも知れない。

 何でそう思ったかというと、ダンジョン処理の手伝いをしてくれているメンバーだと報告がここからも上がるだろうからだ。母艦に居たときにわかった。光の精霊さんたちってそういう報告や連絡がめちゃくちゃ迅速なんだよ。


 そしてリンちゃんに背中を押される俺と、それに追随する3人でぞろぞろと建物に入った。


 中はどうということもなく、がらんとした部屋に扉があって、机がいくつかある、まるでできたばかりの中小企業のような雰囲気だった。いやそんな会社見たこと無いけど何となく。


 そして俺たちが入るのを待っていたんだろう、入った瞬間お辞儀をしてから『ようこそおいでくださいました、タケル様、リン様、ご一行様』と言ってから隣の部屋へと案内された。

 そこは会議室のようなところで、大きなテーブルと椅子が用意されていた。

 座って待つように言われ、何となく並んで座った。


 案内してきた女性と入れ替わるように若い男性が車輪のない例のカートを押して入室し、氷を浮かべた黄緑色の飲み物が入ったガラス製っぽいコップを流れるような動作で配ってから退室した。


 少し飲んでみると、里に行ったときに飲んだ、精霊さんがよく飲んでるお茶だった。


 「あ、美味しい」


 と最初に言ったのはネリさんだ。


 「美味しいですね、このお茶」


 と、サクラさん。やっぱりお茶だよね、これ。あの時にはお茶だとは明言されてなかったような気がしたけど。


 「よく冷えているのに味と香りが良いですね、落ち着きます」


 しみじみと味わって飲んでそう言ったメルさん。

 さすがは王女様だ。いや何となくそんな感じがしただけ。


 そして案内の女性があけたまま控えていた入り口から、30歳ぐらいに見える男性が入ってきて、『あ、そのままで』と言ってテーブルの向かい側に立った。


 「タケル様、リン様、そしてみなさま。調査隊の隊長を拝命致しました、カークと申します。大変光栄なお役目を頂けて、とても嬉しく存じます。さて、お三方(さんかた)を紹介して頂けますか?」


 と、挨拶が始まり、リンちゃんがこの地方でダンジョン処理と竜族退治の手伝いをしてくれていたひとたちですと前置きをして、俺の隣に座っていたサクラさんから順番に紹介をした。

 カークさんはそれぞれにやや大仰に相槌を打ち、3人の紹介が終わると、この調査任務が対竜族戦略において重要であること、そしてこの島が光の精霊にとって大切な場所であることを簡単に言ってから、あらためて感謝を述べた。


 サクラさんたちが居るからか、俺を過剰に持ち上げるようなこともなかったので内心ほっと胸を撫で下ろした。それに、リンちゃんや俺よりも、サクラさんたちの話を聞くように誘導してくれて、この地のダンジョン処理やこれまで苦労していたこと、俺やリンちゃんが居ない間、ここから出てきた竜族やトカゲを倒していたことなどを3人が話すのをうまく促してくれたので、皆の緊張もすぐにほぐれたのも良かった。

 こういうの、聞き上手って言うんだなと思った。


 時間にして1時間は()ってないが、話が段落したところでリンちゃんが『ではそろそろ』と促してお開きとなった。

 帰りは建物から出ると見送ってくれたんだが、俺にしがみつくリンちゃんたちといつもの飛行魔法で飛び立ったときには驚いたようで、外に出ていた数名が全員すごい表情をしていたように思う。


 そういうの全部きっちり報告されるんだろうな…。






 待機小屋へと戻り、騎士団に竜族やトカゲ、それと角イノシシの死体を全部寄付してから、川小屋へと戻ってちょっと遅めの食事にしましょうと伝えた。


 「あれ?、リン様のお姉さんのとこに行くんじゃなかったっけ?」


 ネリさんが言う。


- そう思ってたんだけど、ちょっと遅くなったし、食後でもいいかなって。それにキレイにしてから会いに行ったほうがいいし。


 「そうですね、せっかくですから着替えたいですね」


 とメルさんがいい、


 「珍しくネリがお腹空いたと言わないな。私は結構空腹だぞ?」

 「んー、そう言われるとお腹空いてるかも」


 お菓子食べすぎなんだよ。あれ結構量あったぞ。

 と思ったけど、それは言わずに『じゃ、行きますよ』と一応声をかけてから飛んで戻った。あのまま包んですっと飛んでもいいんだけど、絶対文句を言われるだろうからね。


 川小屋に戻ると、ミリィとピヨがふわふわと飛んできた。

 リンちゃんは足を止めずに脱衣所に入った。


 「あれ?、帰ってきたかな、おかえりーかな」


 ミリィが俺の前で止まらなかったので両手でキャッチしてから開くと、左手の親指を抱きしめて座った。


 「おかえりなさいませ、皆様」


 ピヨはすーっとテーブルの上に着地して俺を見上げている。


- ああうん、ただいま。


 「ただいまー」

 「「ただいま」」


 と、俺の後ろをサクラさんたちが通りながら言う。

 たぶん着替えを自室に取りに行くんだろう。


- もう食事は終わったみたいね。


 「うん、タケルさんはこれからかな?」


- うん。その前にお風呂に入るけどね。


 「あ、それでちょっと臭いのかな」


 臭いって言うなよ…。臭いだろうけど。


- ダンジョンに行ってたからね、そんなに臭い?


 と、ピヨを見る。


 「妙な匂いはしますが、臭いというほどでも…」


 気を遣ってくれているようだ。ピヨがいい子だなぁ。


 「海の匂いと何か生臭いのが混ざってて臭いよ?」


 わかってるって。言うなよ…。


- だからお風呂に入るんだってば。


 「わかったかな、じゃああっち行ってようかな、ピヨちゃん」

 「わかりました」


 と言って2人(?)そろって飛んで行った。

 今回はピヨに乗らないのか。


 「ではお先に」

 「お先にー」


 と着替えを持ってきたサクラさんたちが脱衣所へを入った。

 今回は俺とそれ以外の2交代だ。


 リンちゃんたちに先に入ってもらい、俺があとで入っている間に昼食の用意をしてもらう事になった。

 まぁ昼食は新たに何かを作るんじゃなく、温め直したりする程度で簡単に済ませるって言ってた。

 もともとそのつもりだったからね。

 川小屋に戻らず待機小屋のほうで食べようって話になってたんだ。


 でもやっぱり、ミリィも言ってたけど臭いみたいだ。

 隊長さんのところは海の匂いがする場所だし、ダンジョンから出てきたところだったし、中に入った調査隊のひとたちだって戻ってきたらたぶん臭くなってるんだろうからいいとしても、リンちゃんのお姉さんに会いに行くのにあのままはまずいだろう。


 時間的に余裕が無いなら別だろうけど、そうじゃないのに最初が臭いってひどいマイナスだもんね。






次話4-009は2020年05月22日(金)の予定です。


20200516:少し訂正。 ようで、 ⇒ のを見てか、

20200717:助詞訂正。 温度や ⇒ 温度が



●今回の登場人物・固有名詞


 お風呂:

   なぜか本作品によく登場する。

   あくまで日常のワンシーン。

   今回は入浴はあったが描写無し。


 タケル:

   本編の主人公。12人の勇者のひとり。

   天罰魔法で解決。

   リンがシオリへの挨拶で、(2章053話)

   アリシアの娘だと皆の前で言っていたのを忘れている。


 リンちゃん:

   光の精霊。

   アリシアの娘。タケルに仕えている。

   今回セリフ多め。


 アリシアさん:

   光の精霊の長。

   全精霊中最古というような存在。実は凄い精霊(ひと)

   だいたい出番なし。


 リンちゃんの姉:

   まだ名前は登場していない。

   あとは前回の本文参照。

   次回こそ?


 ウィノアさん:

   水の精霊。

   一にして全、全にして一、という特殊な存在。

   今回ぎりぎり出番なし。


 サクラさん:

   12人の勇者のひとり。

   ティルラ王国所属。

   シオリに勇者としての指導・教育を受けたため、

   シオリの事を『姉さん』と呼び、頭があがらない。

   戦闘民その2


 ネリさん:

   12人の勇者のひとり。

   メルの次にタケルたちから魔力の扱いについて指導を

   受けたため、勇者の中では比較的魔力の扱いが上手い。

   ティルラ王国所属。

   魔法に関してタケルを除いて一番上達している。

   ほぇー


 メルさん:

   ホーラード王国第二王女。いわゆる姫騎士。

   騎乗している場面が2章の最初にしかないが、騎士。

   剣の腕は達人級。

   『サンダースピア』という物騒な槍の使い手。

   ネリと仲がいい。

   魔法に関してはネリと同程度使えるようになっている。

   身体強化に関しては現状で人間種トップの実力。

   はわー


 シオリさん:

   12人の勇者のひとり。

   『裁きの杖(ジャッジメントケーン)』という物騒な杖の使い手。

   現存する勇者たちの中で、2番目に古参。

   サクラに勇者としての指導をした姉的存在。

   ロスタニア所属。

   今回は出番なし。しばらく出番なさそうだが…。


 ミリィ:

   食欲種族とタケルが思っている有翅族(ゆうしぞく)の娘。

   身長20cmほど。

   ピヨはミリィが気軽に接することのできる精霊様という感じ。

   ウィノアさんが怖い。

   ピヨと仲良くお留守番。

   ちゃんと食事も用意されている。

   大人しくしているのだろうか?

   今回ちょっとだけ登場。


 ピヨ:

   風の半精霊というレア存在。見かけはでかいヒヨコ。

   川小屋に住む癒しのヒヨコ。メルたちに癒しを与える。

   さらにでかくなったようだ。

   そのせいで外に出してもらえなくなったらしい。

   ミリィという話し相手ができたおかげで、

   留守番が寂しくなくなった。

   性格は真面目。というかリンが怖いのでそうなった。

   今回ちょっとだけ登場。


 モモさん:

   光の精霊。

   『森の家』を管理し、タケル配下の食品部門200と数十名を

   束ねる幹部。『森の家』には他3名の幹部が居る。

   名前のみの登場。


 森の家:

   『勇者の宿』のある村と、『東の森のダンジョン』近くの村の

   間にある森の中にあるタケルたちの拠点。

   タケルが作った燻製用兼道具置き場の物置小屋をリンが建て直し、

   次にモモたち4人が住むようになって拡張された。

   タケルの知らない間に、隣に燻製小屋という名前の食品加工工場と、

   そこで働く光の精霊たち200名以上が住まう寮までができ、

   さらに3章で登場したアンデッズ25名と演劇関係者たちが

   住む場所と演劇練習用の屋内ステージまでが建てられる事になった。

   これらを全て含めて、『森の家』と呼ぶ。

   結界に包まれているため、許可のない者は近づけないらしい。


 待機小屋:

   バルカル南海岸のすぐ近くにネリが土魔法で作った小屋。

   前回、南側の外に日よけ屋根とテーブル・椅子ができた。

   出発前にサクラが近くの騎士団に留守をお願いしている。

   浴室も浴槽も狭いもんね。


 川小屋:

   2章でリンちゃんが建てたタケルたちの拠点。

   ロスタニアから流れてくるカルバス川本流と、

   ハムラーデル側から流れてくる支流が合流するところにある。

   ミリィとピヨがお留守番をしている。

   ホームコア技術で護られているため、許可がある人物以外は

   入り口の布を避けて中に入ることができない。

   ここの浴室は広い。


 バルカル合同開拓地:

   解説はこれまでの本文参照。


 カルバス川:

   同じく本文参照。


 島:

   バルカル合同開拓地の西にある、アーモンド形の島。

   島の北部に光の結界柱が見え、その色が変化することから

   昔は畏れられ『魔王島』と呼ばれていた。だが魔王など居ない。

   南西部に小さな入り江があり、洞窟がある。

   その他は本文参照。

   今回はこの洞窟、ダンジョンの攻略が終わった。

   光の精霊の調査隊が入った。


 カールさん:

   島のダンジョン、その中にあった魔道機械に関する調査隊の隊長。

   やる気まんまん。

   聞き上手なひとらしい。


 小型スパイダー:

   ファミリーカーサイズの多脚型の乗り物。

   詳しくは2章078話を参照。



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2019年05月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
なるほど。わかりません。
2020年01月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
同じやん。なるほど。やっぱりわかりません。
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