4ー007 ~ 島のダンジョンへ
入り江から開口部が大きな洞窟へと歩いていく。
入り口付近は右手側が岩場で壁、左手側は海水がある磯のようだ。そんなのが30m程で、右手側の奥の壁の少し高い位置の穴に到達する。そこが本来のダンジョンへの入り口だろう。
このあたりは満ち潮になると程よく海水に浸かるようだ。岩場の岩や壁下にある砂と石のあたりに波のあとが残っている。そのあたりまで海水が来るのだろう。
ゆるくカーブした先は海に面しているようで上側の隙間には空が見えている。入り江側の入り口からそこまで100m近くあり、身長よりも高く大きな岩が波を防いでいた。つまりここは、海食崖によって形成された海蝕洞であり、大きなトンネル状であることから、海蝕洞門になっているということだ。
まだこの場所はダンジョンではなく、広いし天井までが高く、光も前後から入ってくるので明るい。
さっきも言ったが、ダンジョン入り口は島の中心方向の壁側にあり、そこですら穴の直径は目測でも15m以上ありそうだ。大亀が出てきたのも頷ける。大亀が這い出ただろう道のように10m近い幅で岩が寄せられていて、そのままこの海蝕洞から入り江のほうへと浅瀬が続いていた。
「…すごいですね、ここは自然にできたものなのでしょうか…」
メルさんが上のほうを見回して呟いた。
- そうですね、おそらくは。
「ねぇ、ダンジョン処理が終わったらここって埋めちゃうの?」
またそんな無茶を言う…。こんな所を崩したら上のというか島の形が変わるだろうね。そんなのやりたくない。
- ここはまだダンジョンじゃないみたいなので、そのままですね。
「そっか、じゃああそこの穴からがダンジョンね。早く行こうよ」
「おい、ネリ」
「わかってるー」
入り口に2体のトカゲが潜んでいるのには気付いているようだ。
伏せているので背中にコブや翼がないのがよくわかる。破壊魔法の危険が低いトカゲということだ。
ネリさんがある程度入り口の近くまでいくと、そっとトカゲ2体が頭を持ち上げて威嚇しようとしたが、ネリさんが石弾をすぱっと同時に2発撃って倒した。
魔法の精度も威力も前よりも随分と上達しているようだ。
俺が以前やっていたように、頭蓋骨を狙ってきれいに倒せている。
- 僕が居ない間にかなり上達したんですねー。
「ふふん、でしょー?」
「それぐらいもう皆できるんだから、威張るような事でもあるまい、ほら、先を警戒しろ。タケルさん、回収と地図をお願いします」
- あっはい。
「だってー、誰も褒めてくれないんだもん」
「ああわかったわかった、わかったから静かに警戒するんだ」
「ちぇ、はーい」
俺が2体のトカゲを回収している間に、リンちゃんが暗視魔法をかけてくれた。メルさんはその後ろで後方を警戒してくれているようだ。
まぁ、リンちゃんも周囲の警戒というか、魔力感知で見ているので警戒は不要だと思うけれど、パーティ的な役割のようなものだろう。
壁の雰囲気が途中から全く異なる部分から先が、完全にダンジョンなんだろう。そこに数歩ほど踏み込んでいつものように索敵魔法を使い、地図を作成。
「その、地図を作る魔法が難しいんだよねー」
「そうですね、全然できる気がしませんね」
- いきなり地図を作るんじゃなく、例えば目の前の石や木などをスケッチするつもりで練習してみては?
「うん、やってみたんだけど上手くいかなかったの」
「羊皮紙に焼き付けること自体、難しいです」
- そこはもう練習して下さいとしか…。
「そうですよね…」
「それって何かコツみたいなのないのぉ?」
って言われてもなぁ…。
- うーん、火属性魔法の制御ですし…。
「前に氷の像を作ってたよね?、あれもそれの応用?」
「ハニワ兵もですよね?」
- ええ。そうですね。まぁとにかくここは巣部屋と大きな空間が2つですね。奥のほうは広くてここからではよくわかりませんが、おそらく片方は町でもう片方は砦ですね。砦は以前見たものよりもだいぶ小さいようです。
「え、喋りながら地図作ってたの?」
- 前もそうだったと思いますけど…?
「そうだっけ?、何か久し振りだから。やっぱりタケルさんが居るとすごい楽だわー」
ごまかしているように言われてもなぁ。
「見せてもらってもいいですか?」
- あっはい、どうぞ。
地図をサクラさんに渡す。
- 今まではどうしてたんです?
「タケルさんが居ないときにダンジョン入ったこと無いもん」
「そうですね」
- ダンジョンじゃなくても索敵しますよね?、地図とかは?
「地上だと、もう地図あるし、索敵はするけどそれで地図と比べるだけで作ったりしないよー?」
「地図に記入はしますが、それはペンで書いていました」
「シオリ姉さんはその場の文官に記入させてましたよ。この濃い影はトカゲですよね?、巣部屋にしてはトカゲが少なくないですか?」
そう。薄い影は岩などの地形で、まぁ縮尺的にも形がわかる程度だからトカゲだってことは濃さと形の両方でわかりやすいんだろう。
- 出てきては倒されてたから減ったんじゃないですか?
「増えたりしてないってこと?」
「援軍って来ないのでしょうか?」
俺だってトカゲ博士でも竜族研究家でもないんだから、そうあれこれ訊かれても困るんだけどなぁ。
- 逆に尋ねますけど、僕が居ない間、ここのトカゲや竜族を何体ぐらい倒しました?
「えー?」
「そ、それは…」
「騎士団に記録があるはずですが、そうですね、週平均12体として、ざっと150体ほどになるかと」
12かける12週か。
「そんなに倒したっけ?」
「週2・3度来ていましたし、1回で4~10体倒していたのですから、少なめに見積もってもそれぐらいだと思いますよ」
「へー、結構倒したんだねー、あたしたち」
「そうだな」
「そうですね」
- この巣部屋2つと、町の廃墟と小さめの砦に居たとして、数的にはどうですか?
巣部屋はだいたい隣接して作られている小部屋の数の倍と少しぐらいだ。
町の廃墟には住み着いているトカゲの数はばらばらだったのであまりあてにはならないが、20~30体ぐらいだろう、食料として飼われているトカゲ以外の魔物を含めるとその倍になる。砦のほうは住み着いているのがいるとしても50体は超えないだろう。
この地図に描かれた小部屋の数は5つずつなので、2つの巣部屋を合わせても20体ほどだろう。
つまり、ざっと目算しただけでも150体減るともうあとはスカスカになってても不思議じゃないんだ。
「んー、よくわかんないけど、最後のほうのダンジョンって1000匹ぐらい居たんでしょ?、じゃああれって援軍があったってこと?」
- そうなりますね。
「ではここは…?」
- 援軍があってもおかしくないと思いますよ。
「でも少ない」
- はい。だから援軍が来てないんですよ。このダンジョンの奥のほうまではまだ見えてないのではっきりとは言い切れませんが、ここの規模ですと200かそこらぐらいでしょうね。だから150減るとこういう風に巣部屋にも数体しか残らない、ってことじゃないでしょうか。
「なるほど」
「なら、少ないうちに処理しちゃえば楽ね」
「そういう事だな」
- じゃ、行きましょうか。
「「はい」」
「はーい」
というわけで、最初の巣部屋の手前、中が見えるぐらいの所まで来たわけだが…。
「何あれ…」
「……」
触手が上のほうにごちゃっと生えてるぶよぶよっぽい妙なのが巣部屋の中央に鎮座していた。
トカゲはこの巣部屋には居ない。
あれはイソギンチャクだろうか?
でもでっかい。横幅1mぐらいで高さは2mぐらいある。
じっとしてるトカゲかと思ったらあんなのだったとは…。
それが部屋の入り口付近まで来ると触手をふわーっと広げたのでイソギンチャクのように見えたわけだ。音か地面の振動がきっかけになったのかな…?
「気持ち悪いですね」
「イソギンチャクでしょうか…?、生えてるんですか?」
サクラさん…、そんなの俺に訊かれても。
- 僕だって初めて見たんですから。
「そうですね、すみません」
- いいえ。一応魔力感知では地面の上に居ますね、地中から生えているわけじゃなさそうです。それと天井から…
「あれって、動いたりするんでしょうか…?」
「ちょっと石投げて反応みてみる?」
と言うが早いか、ネリさんが足元の石ころを投げた。
当たるとぐにょっと石を跳ね返し、上部がぐぬぃ~っと伸び曲がってこちらを向いた。
「うっわー、気持ち悪ぅ…」
全く同感だ。
頭部にごちゃーっと生えている触手がこっちの方に向いてうにうに蠢いている。中心部には口だろうか、周囲にぎざぎざした突起が付いていてむにぃ~っと開いた。
よく見ると触手はそれぞれうっすらと魔力を帯びている。
「サクラ様、そのイソ何とかとは…?」
「海の生き物なのですが、あれほどの大きさではなく、せいぜい指ぐらいの物でした。と言ってもこの世界に来てからは見たことはありません。そもそも海に来ることが無かったので…」
「なるほど…」
「タケルさんはあっちに海があったって言ってたけど、あんなの居た?」
まぎらわしいけど、この場合のあっちとは俺が飛ばされたラスヤータ大陸の事だろうね。
- 居ませんでしたね。
「さっきタケルさんは初めてだと言っていたろう?」
「そうだっけ?」
「聞いてなかったのか…、全く、」
- とにかく、普通に倒せるのかどうかを試してみましょう。
「え?、近寄りたくないんだけど」
「帯剣していないお前に行けとは言わんよ」
と、立ち上がって前に出ようとするサクラさん。
- あ、待ってください、ここから撃ちますんで。
「ああ、そういう普通だったんですか…」
せっかく気合を入れて踏み出そうとしたところを引き止めたので、サクラさんは少し恥ずかしそうにまたしゃがんだ。
- はい。
「ネリが近寄るなんて言うもんだからてっきりそういう意味かと…」
「またあたしのせいにするー」
- あの触手がちょっと厄介そうなんですよ。
「え?、あ、魔力ある。あの触手」
「なにっ?」
「確かに、よく気付きましたね、ネリ様」
もちろん生物や魔物がもってる魔力が本体にもあることを感知しているんだけど、そういう意味ではなく、触手に魔力が集まっている状態だっていう意味だ。
- どの程度伸びてくるかもわかりませんし、わざわざ近寄って試さなくてもいいかなと。
「もしイソギンチャクの性質があるなら、麻痺毒なんかありそうですね」
- ああ、そうですね。だからまぁ、どこが急所かわからないけど、何発か撃ってみますね。
「はい」
というわけで立ち上がって5発ほど狙う位置を変えて撃ってみた。
跳ね返される事も無く、普通に石弾はめり込み、向こう側で破裂するように抜けたようだ。
「うわー、気持ち悪ぅ」
「軟いですね」
「でもまだ動いてますよ」
手応えはあるんだけど、生きてるようだ。
苦しんでるのか何なのかすらわからん。
「どれぐらいの威力で撃ったの?」
- トカゲの頭を狙うときと同じです。
「あたしも撃ってみていい?」
- どうぞ?
ネリさんがスパスパ撃ち始めた。
「どれぐらいで倒せるのでしょう?」
「さぁ…?」
- さぁ…?
ゲームみたいに、上にHPのバーが表示されていたならわかりやすいんだろうけど、生憎とそんなものは無いので、動かなくなったら、と判断するしかない。
「ねぇ、まだ生きてるんだけど、どうしよう?」
上部を支えられなくなったようで、かなり削れた触手と口のある部分がくたーっと地面に倒れているが、触手はまだ動いている。
- 触手の動きがとまるまで続けてもらっていいですか?
「いいけど、もうかなり撃ってるよ?、こんなにぼろぼろになっても生きてるの?」
と言いながらもスパスパ撃ち続けてるネリさん。たしかにもうぼろぼろだ。欠片が飛び散ってて、グロい。
「ちぎれた触手がまだ動いてますね、何なんですかあれ…」
「タケルさん、この奥にあんなのが何体も居たら大変では…?」
確かにそうだ。手間がかかりすぎる。
急所がどこなのかさっぱりわからないままだし、厄介だ。
- そうですね…、ちぎれた触手がまだ魔力もってますし、いっそのこと凍らせます?
「氷が溶けたらまた動いたりしません?」
- じゃあ燃やしますか。
「それはそれで匂いが…」
だろうね。
- ネリさん、もういいですよ。
「はーい、もー何なのあれ、倒した気がしないよ…」
ちぎれた触手のところに行って近くで見てみたが、まだ少し動いている。
だんだんと動きがゆっくりになってはいるようだ。
- たぶん、そのうち動かなくなるんじゃないでしょうか。
「これ、どうすんの?、回収すんのぉ?」
すっごいイヤそうな表情だ。皆も同じような表情をしてる。
リンちゃんだけは…、と思ったけどよく見たら口をきつく閉じていた。やっぱりイヤそうな表情だった。
- 毒があるかもしれませんし、回収はしないで放置ですね。
と俺が言ったら全員がうんうんと頷いている。
まぁ食べれそうにないし、もし食べれるんだとしても回収したくない。
というかもうぼろぼろ状態だし。そこまで破壊してやっと安全そうに見えなくも無い状態になるってんだから仕方が無いね。
- とりあえず触手には触れないように移動しましょうか。っと、その前に。
奥側の天井から垂れ下がっている海草っぽい物の根の部分、つまり天井にある塊は石弾で撃って落としておいた。
湿った地面に落ちると帯電でもしていたのか、べちゃっという音に紛れてパチパチっと小さい音がし、薄暗い中で微かな火花が散った。そしてまるでストローの紙袋のように縮んだ。
「え?、これも魔物だったの?」
- 魔物かどうかはわかりませんが、ちょっと魔力を持ってるんですよ、だから何かまずそうだなって。
「あ、さっきタケルさんが言いかけてたのはこれの事だったんですか」
- はい。
「ではあちらの隅に垂れているのもこれでしょうか?」
メルさんが指差したところにも同じのが垂れ下がっていた。
- そうですね、でもあっちは通り道じゃないのでいいかなと。
帰りにここを埋めてしまうなら、一緒に埋まるだけだからね。
「ここって気持ち悪いのばっか居るのかな…」
「いやな事を言うなよ…」
「そう言われてみると、何だかずっと生臭いのはそのせいかと思えてしまいますね」
海の匂いというか、磯の匂いだと思ってたけど、海に来た事が無かったメルさんからすると生臭いって感じるのか。
「生臭いかなぁ?」
「生臭くないですか?」
「海辺はだいたいこういう匂いがするものだと…」
「あ、いえ、待機小屋のところより生臭いなと感じたのですが、違うのですね…」
「そう言われてみるとそうかも知れないけど、あたしにはわかんないかな」
「そうですか…」
- ダンジョンは入り口の土地とは違う場所だって事はもう知ってると思いますが、空気や水が出入りしないわけじゃないので、海の空気が入ってきて、中の空気と混ざってこういう匂いになってるのかも知れませんね。
「ああ、トカゲ臭いのと海の匂いが混ざったってことね」
わざわざ遠まわしに言ったのに、ずばっと言うなよ…。
「そうはっきりと言われると息がしづらくなるじゃないか」
「済みません、私が言ったせいで…」
「いえ、メル様のせいでは…」
「はいはい、どうせあたしが悪いんですよーだ」
- 生臭いのはそこのばらばらになったもののせいでもあると思いますよ。
と、巨大イソギンチャクっぽい何かの死骸を見る。
「ああ…」
「そうでした…」
「ほらぁ、あたしがぐちゃぐちゃにしたせいだって言ってる」
- 続けて撃ってって頼んだのは僕ですよ。
「じゃあタケルさんのせいじゃん、あいたっ」
「仕方が無いんだから誰のせいでもない。もとからそういう臭いだったんだ」
- とにかく次に進みましょう。
「そうですね」
というわけで次の巣部屋へと移動した。
●○●○●○●
通路の途中で、何度か垂れ下がってる物体の根元を打ち抜いて落とした。
通路と言っても、横幅は15mほどあるし、天井まで一番高い位置で7mぐらい、低いところでも5mはあるので、垂れ下がっているとは言っても通行の妨げにはならないが、もし伸びてきたらと思うと、処理しておいたほうがいいんじゃないかと考えたからだ。
巣部屋にはトカゲ4体が小部屋のほうに居て、ネリさんとサクラさんが向かってきたそれらをスパスパと倒し、小部屋にあった卵数個も叩き壊して処理が終わった。
そして通路を進み、分岐の小さめの通路を土魔法で塞ぎ、大きい通路のほうに進んだ。
「こっちは町の廃墟のほうですね」
地図を見ながら前を歩むサクラさんが言う。
それに返事をして、ぞろぞろと歩き、100mちょい歩いたところでその町の廃墟の空間に出た。
こちらの方に向かってくるトカゲ十数体と、竜族っぽい個体2体が見えたが、俺が撃つまでもなく、ネリさんがポケットからさっと鉄弾を取り出して竜族っぽい2体を倒し、サクラさんが近い順にトカゲを撃って倒し、ネリさんも石弾を撃って、それでも残ったものをサクラさんが走り込んで刀(っぽい剣)でずばばっと倒した。
本当に出番が無かった。
メルさんなんて俺とリンちゃんの後ろに立ったまま、『サンダースピア』に魔力を込めもしてなかった。
頼もしくなったものだ。
「タケルさん、地図をお願いします」
「回収もお願い」
- あっはい。
振り向いて言う2人に返事をして、リンちゃんに頷いてからいそいそと回収をした。
それから例のごとく地図を作成した。
この空間は奥行き1km弱、横幅はそれより少し狭い程度の円形に近い形をした広い空間で、天井の一番高い場所で25mもあるドーム状の空間だった。
中央ちょい奥あたりの広場のような場所の真ん中に、例の転移装置らしき魔道機械があるのがわかった。
手前側は家屋の廃墟と樹木がまばらにある平地で、道以外のところには草が茂っている。左右それぞれ柵に囲まれた部分があり、そこには家畜らしき動物がいるのが感知でわかった。でもおそらくは魔物化されているのだろう。
「左右は食料にする魔物でしょうか?」
- そうですね、たぶん。
「後ろに回りこまれても厄介ですし、先に倒します?」
「町のところには何体か居そうですね、これも順番に倒すんですよね?」
そう一度に訊かれると困る。
- えっと、それぞれ20体ほど居ますけど、じゃあ、こっちのを僕ひとりで行って回収すればいいんですね?
「はい、お願いします、ではこっちは私たちで。リン様、回収をお願いしてもいいでしょうか?」
「はい、わかりました」
僕ひとりで、って言ったからか、リンちゃんも自分の役目がわかっていたんだろう、反対することなくサクラさんたちに駆け足でついていった。
俺はというと、まぁそりゃこれだけ高さがある空間なんだから、飛んで行くってわけだ。
角イノシシ20体と、それを担当していたんだろうトカゲ2体を倒して回収していたら、トカゲの警告音『カッカッカ』って音が聞こえた。結構響くんだな、やっぱり。
途中で切れた感じだったので、倒せはしたんだろうと思う。
ほとんど回収していたので残りの数体を回収し、サクラさんたちの方へと向かった。
家の入り口のところに着地し、ちょうど出てきたネリさんに尋ねた。
- 警告音、出されちゃいましたか。
「うん、中に1匹いたの」
悔しそうだ。
- 出されたのはしょうがないですよ。
とネリさんの肩をぽんと軽く叩いて中に入り、倒れているトカゲを回収して外に出た。
サクラさんたち3人は、町のほうに続く道あたりに立ち、町のほうを警戒しているようだ。
「あ、タケルさん、あちらは?」
- 回収済みです。こっちを手伝いますね。
「はい、助かります」
すこし頭を下げる感じで言うサクラさんに片手をあげて返しながらリンちゃんがまだ回収していない角イノシシのほうに走った。
「あっちのほうが少なかったのかな?」
「いや、ほぼ同数だったはずだぞ」
「こちらは3人なのに…、何だか悔しいですね」
「タケルさんは空中から撃つから早いんじゃない?」
「そもそもタケルさんのほうが撃つのが早かったじゃないか」
「あ、そっか…」
「こちらは撃つのが間に合わずに近接戦闘になってしまいましたし、その分遅いのは仕方ありませんが…」
「警告音も出されてしまいましたね」
「あれはしょうがないよ、だってあの家から2匹出てきたあと、残ってるって思わないじゃん」
回収を終えてリンちゃんと戻ってくるとそんな話が聞こえた。
近づきながら索敵魔法を使ってみたが、町のほうからトカゲが出てくるような動きは無かった。ただ、巡回っぽいのが町の門近くに集まりつつあるようではあった。まだ余裕はありそうだ。
- こちら側のほうがトカゲが1体多いんですよ。だからお願いしたんですよ。
「えー?、知ってたのぉ?、言ってよー」
- サクラさんに渡した地図には記してあるはずなんですが…。
「え…?」
と、改めてよく地図を見るサクラさん。
「あ…、確かに家屋内に3つありました…」
「えー、サクラさぁん」
「すまん。気付かなかった」
- いえ、僕が先に説明しておけば良かったんです。済みません。
「まさか家屋の内部まで感知できているとは思いませんでした」
と、メルさん。何でこっちに迫ってくるの?
いつもの事だけど笑顔で槍、こっち向けないで…。
- あれぐらいの薄さというか木造なら通るんですよ。っと。
「あ、済みません」
穂先を避けると気付いたのか槍を立てて持つようにしてくれた。
帯電してるんだから気をつけて欲しい。
- 町のトカゲが門に集まりつつあるようなので、そちらへ向かいましょうか。
「はい、あ、竜族が何体いるかは、わかります?」
- えーっと、4体ですね。1体だけ魔力が多めです。あとはそれほどでも。
「そうですか。ネリ、メル様、鉄弾で行けそうですか?」
「たぶん」
「町のほうが少し位置が高いみたいですが、射線が通ってれば大丈夫です」
- 何なら飛んで行って竜族だけでも先に倒しましょうか?、それか天罰魔法でも構いませんが。
そういえば天罰魔法、使うの久し振りだな。
「タケルさん、それ2発撃てますか?」
- 2発ですか?
「はい、もう片方の砦のほうに使って頂ければと」
- ああ、大丈夫ですよ。
「ではお願いしても?」
- はい。じゃ、撃ちますね。
「え?、この距離でですか?」
- はい。この距離でです。
あっけに取られているサクラさん、どう言えばいいんだろうみたいな表情のメルさんとネリさんの前にすたすたと出て、ポーチからリンちゃんに借りている杖を取り出してひょいと持ち上げ、索敵魔法を使ってから位置を確認し、ずばーんと天罰魔法を落とした。
町のあたりで何箇所かが光ってから2秒ほどで轟音が届いた。
「はやっ…」
「姉さんはもっと時間がかかっていたような…」
「こうなると何だかありがたみが無いですね」
メルさん…、ありがたみって何だよ…。
次話4-008は2020年05月15日(金)の予定です。
20200514:何だかおかしいので訂正。
(訂正前)そこまで破壊してやっと安全そうに見えないんだから仕方が無いね。
(訂正後)そこまで破壊してやっと安全そうに見えなくも無い状態になるってんだから仕方が無いね。
●今回の登場人物・固有名詞
お風呂:
なぜか本作品によく登場する。
あくまで日常のワンシーン。
ダンジョン回だからとは前例があるので言えないが、
今回も入浴シーン無し。
タケル:
本編の主人公。12人の勇者のひとり。
魔力の扱いが前より良くなっているので、
天罰魔法などの手際がいい。
リンちゃん:
光の精霊。
アリシアの娘。タケルに仕えている。
今回おとなしい。
アリシアさん:
光の精霊の長。
全精霊中最古というような存在。実は凄い精霊。
今回は出番なし。
リンちゃんの姉:
まだ名前は登場していない。
あとは前回の本文参照。
今回は登場せず。
ウィノアさん:
水の精霊。
一にして全、全にして一、という特殊な存在。
今回出番なし。
サクラさん:
12人の勇者のひとり。
ティルラ王国所属。
シオリに勇者としての指導・教育を受けたため、
シオリの事を『姉さん』と呼び、頭があがらない。
何気に魔力の扱いも上達している。
石弾の威力も上がっているし、身体強化も強く、
そして早くなっている。
ネリさん:
12人の勇者のひとり。
メルの次にタケルたちから魔力の扱いについて指導を
受けたため、勇者の中では比較的魔力の扱いが上手い。
ティルラ王国所属。
魔法に関してタケルを除いて一番上達している。
メルさん:
ホーラード王国第二王女。いわゆる姫騎士。
騎乗している場面が2章の最初にしかないが、騎士。
剣の腕は達人級。
『サンダースピア』という物騒な槍の使い手。
ネリと仲がいい。
魔法に関してはネリと同程度使えるようになっている。
身体強化に関しては現状で人間種トップの実力。
シオリさん:
12人の勇者のひとり。
『裁きの杖』という物騒な杖の使い手。
現存する勇者たちの中で、2番目に古参。
サクラに勇者としての指導をした姉的存在。
ロスタニア所属。
今回は出番なし。
ミリィ:
食欲種族とタケルが思っている有翅族の娘。
身長20cmほど。
ピヨはミリィが気軽に接することのできる精霊様という感じ。
ウィノアさんが怖い。
ピヨと仲良くお留守番。
ちゃんと食事も用意されている。
大人しくしているのだろうか?
今回登場せず。
ピヨ:
風の半精霊というレア存在。見かけはでかいヒヨコ。
川小屋に住む癒しのヒヨコ。メルたちに癒しを与える。
さらにでかくなったようだ。
そのせいで外に出してもらえなくなったらしい。
ミリィという話し相手ができたおかげで、
留守番が寂しくなくなった。
性格は真面目。というかリンが怖いのでそうなった。
今回登場せず。
待機小屋:
バルカル南海岸のすぐ近くにネリが土魔法で作った小屋。
前回、南側の外に日よけ屋根とテーブル・椅子ができた。
出発前にサクラが近くの騎士団に留守をお願いしている。
川小屋:
2章でリンちゃんが建てたタケルたちの拠点。
ロスタニアから流れてくるカルバス川本流と、
ハムラーデル側から流れてくる支流が合流するところにある。
ミリィとピヨがお留守番をしている。
ホームコア技術で護られているため、許可がある人物以外は
入り口の布を避けて中に入ることができない。
バルカル合同開拓地:
解説はこれまでの本文参照。
カルバス川:
同じく本文参照。
島:
バルカル合同開拓地の西にある、アーモンド形の島。
島の北部に光の結界柱が見え、その色が変化することから
昔は畏れられ『魔王島』と呼ばれていた。だが魔王など居ない。
南西部に小さな入り江があり、洞窟がある。
その他は本文参照。
今回はこの洞窟、ダンジョンを攻略している。