4ー003 ~ ピヨとミリィ
島にある結界がどう見えるかについて尋ねてみたところ、中は見えなくて表面は光のカーテンのように見えているんだそうだ。時間によって色が少し変化するんだと。
「さっき周囲をぐるっと回って思ったんだけど、見る角度でも色が違って見えたよ」
飛行中ちゃんと観察していたらしいネリさん。
「見る場所や時間で変化しているとは聞いていましたが…」
サクラさんが言うのにうんうんと頷くメルさん。
そりゃあなたたち飛んでる間ずっと目を閉じてたんだから。ほんと、何でついてきたんだよと言いたいところだがそこは我慢。おかげで両腕を封じられてて、まるで連行されてる気分だったんだけどそれも言わずにリンちゃんに目を向けると、にこっと微笑んだ。うん、癒されるけどそうじゃなくて、意見を聞きたかったんだよ。
「タケルさんはダンジョンの境界門でも向こうが見えるって言ってたよね?、何で?」
- え?、ああ、そうだけど、何でかな?、何か理由があると思うんだけどね。
「魔力感知の精度、のようなものでしょうか…?」
「属性の適正が関係しているとか?」
君たち、適当に思いついたことを口にしてるだけでしょ、それ。
リンちゃんが意見を言わないのは、理由を知っていて言えない事なのか、またはわからないって事なんだろう。
- まぁ、ここで理由を考えても仕方が無いので、中の様子が少しでもわかって良かったってことにしましょうよ。
「そうだけど、何かごまかされてる気がする…」
目を眇め、いわゆるジト目で俺を見るネリさん。
いや、そう言われてもね。
- 僕にもわからないんですよ。
「それでこの建造物には何があるんです?」
「ふむ、言われてみれば建造物に見えますね、ここに点々とあるのは柱でしょうか。遺跡…、ですか?」
メルさんとサクラさんはテーブルの上の地図を改めてよく見ようと頭を寄せている。
- 大きな魔力反応は感知できたんですけど、結界越しなのでよくわかりませんね。
「魔物なんですか?」
地図から顔をあげる2人。
- わかりません。結界を維持するための魔道具なのか機械なのか、それとも魔物なのかが判別できないんですよ。
「結界には入れそうでした?」
- それもわかりません。
前にウィノアさんが言ってたように、あれって光の精霊さんの作ったものらしいし、魔力感知的にもあの結界は光の精霊さん産の結界具で発生させたものに近かった。
俺ならたぶん、同調すれば入れそうだと思う。でも勝手に入ってもいいのかどうか、リンちゃんに確認してからにしたいんだけど、さっきからこの話でリンちゃんが黙ってるのが怪しいので、相談してからにした方がいいんじゃないかな、と考えた。
- でもとにかく今はそっちは置いといて、魔物が出てくるのは入り江の洞窟の方ですから、そっちをどうにかする方が先じゃないかな。
「あ、そうですね」
「やっぱりここってダンジョンですか?」
- 地図にも記してますけど、大亀2体が入り口のところに居ましたし、ダンジョンっぽいですね。
「中は…、わからないんでしたね、そう言えば」
- はい。まぁ明日にでもちょっと調べてきまs…
「タケルさま」
「「タケルさん」」
「それは、」
すよ、という言葉に重なるように全員から言われた。
「タケルさまが単独行動をするとまた、という事になりかねませんので、行くならあたしも行きます」
- あ、はい。
リンちゃんはいいとして…。
「どうせ調査ついでに大亀も倒してしまわれるのでしょう?、だったら待っていてもトカゲは来ないんですからついて行きます」
メルさんのその理屈はどうなんだ?
「じゃああたしも連れてって」
じゃあって何だよ。
「あの、できれば私も…」
そう皆で睨まないでくれないかな・・・。
- ……はい。
って言うしかないじゃないか。
●○●○●○●
サクラさんとネリさんは今日はこの小屋(待機小屋)に泊まるらしいので、俺はリンちゃんとメルさんの3人で川小屋に戻ることにした。
いつもならメルさんは走って、ところどころ訓練がてら空中を走ってたりするようだが、そうやって帰るんだそうだ。
日は傾いているとは言ってもまだ夕方にもなってないし、いつもより早いみたいだから訓練がてら走って帰るならそれでいいよね、と思い『そうなんですか、じゃあ先に戻ってますね』と言って、飛行魔法の結界を張ろうとしたら一瞬で詰め寄られて腕をとられた。
「そんな!、一緒に帰りましょうよ!」
槍持ったままなんだよね。革のカバーは付いてるけどさ。
毎度の事だけど、ちょっとビビる。
だってこの槍、帯電してるんだぜ?、特に今回みたいにメルさんが瞬間的に身体強化をONにした時にはさ。臨戦態勢ってやつなんだろうけど、正直勘弁して欲しい。
そりゃ何も警戒してないしさ、リンちゃんは飛んで帰るってわかってるから外で立ち止まった俺の腰に後ろからちゃっかりと抱き着いてるしで避けようもなく、対抗して身体強化するだけが精一杯だった。久々だから危なかった。島の周囲を飛ぶときに一瞬で強化するのを思い出して無かったら間に合わなかったかも知れん。
- あっはい、はい。
宥めるように2度『はい』って言ったからか、強化を解いて槍を預けてくれた。ポーチに入れ、改めて飛行結界を張り、飛んで帰った。
もちろん、身体強化はばっちりONで腕にしがみつかれた。
島の偵察飛行の時といい、空中に慣れるために飛行魔法っぽい空中走法をしてたと言っていたのは何だったんだ。全然慣れてないじゃないか。
そう思ったので川小屋に到着してから聞いてみた。
- メルさん、空中移動に慣れたんじゃなかったんですか?
「そ、それはその、タケル様のはすごく高いですし、速さも桁違いなので…」
「そうですよ、速度はあまり感じないのに実際の移動速度との差が激しすぎなんですよ、全然慣れませんよ」
「そうですよ、待機小屋から川小屋までいつも2時間以上かかるんですよ?、それがどうしてこんなすぐ到着するんですか!?」
どうしてリンちゃんまで…。
そりゃ直線で200km弱なんだから、音速ぎりぎりで飛べば10分ほどで着く、って前にも説明しなかったっけ?
- いやそれはほら、早く到着したほうがいいかなって…。
「それにしたって限度がありますよ…」
「そうですよ、どうしてあんなに高いところを飛ぶんですか!?」
- えっとそれは、地上への影響を考えて…?
「……つまり影響がありそうな速度を出すのが前提なんですね」
「…?、どういう事ですか?、リン様、タケル様」
川小屋の前は、街道になっているし、少し距離を置いて騎士団が拠点にしているのでそこそこ人目がある。現に空から降りてきた俺たちをちらちらと覗っている人たちも居るわけで…。
- あの、とりあえず中に入りませんか?
「はぁ…、わかりました」
だって川小屋の前で音速だの衝撃波だのの説明をするのって面倒じゃないか。たぶんメルさんに音の壁がとか言ってもわかってくれそうにないし、飛行結界だっていろいろ工夫してるんだけどそんな説明をし始めると長くなりそうだし…。
と、すたすたと中に入るリンちゃんを追うかたちでメルさんも俺も川小屋の中に入った。
中に入ると…、
「あー!、やっと帰ってきたかなー!」
「リン様!、タケル様!、おかえりなさいませ!」
「ませー!、かなー!、あはははー!」
ピヨに乗ったミリィがリビングのほうから飛んできた。
リンちゃんは一瞬身構えてから、ミリィが乗っているのでインターセプトは諦めたようで、そのまま元の世界のニワトリサイズなでかいヒヨコが俺の目の前の空中で止まった。
と言うかミリィに手綱を引かれて空中停止したみたい。
手綱?、そんなヒモどこから…?
「ピヨちゃん!?、と、ミリィちゃん!?」
メルさんも驚いてる。
あ、何か見覚えのある革紐だと思ったら、それ部屋に置きっぱなしだった剣の鞘についてる帯紐じゃん。切ったのか?、困るなぁ、一箇所結べなくなるじゃないか。
- た、ただいま。何してんの?
「あのね、この子が裏でヒマそうにしてたから遊んでたかな!」
「タケル様のご友人だと仰いまして、首にヒモをかけられ逆らえず…」
ちらっとリンちゃんを見ると、小さくため息をついて呆れたかのように台所に行ってしまった。
どうでもいいけど2人…、いやひとりと1羽か、温度差ひどくね?
とりあえず両手でそれぞれを掴んで…、ミリィはともかくピヨはでかくなったせいで掴みにくいな。そんでリビングのほうに移動。
「あぅ、乗り心地いいのにどうして降ろすかな!」
と、つかんでる手をぺちぺち叩くミリィ。
「そ、そんなご無体な、」
と言いつつ無抵抗なピヨ。
そのままソファーに座り、ピヨはひざの上に、ミリィはテーブルの上に置いた。
なぜか向かいに座るメルさん。
- ミリィ、ピヨはまだ小さいんだからいじめちゃダメでしょ。
「いじめて無いかな、寂しそうに泣いてたから話を聞いてあげて、あそ、相手をしてたかな!」
今、遊び相手って言いかけたな?
- ピヨ、ほんと?
と、ひざの上に置いたピヨに訊く。うん、もふもふ度が上がってるな、大きいから撫でやすい。まるでぬいぐるみだ。
「はい、最初はミリィ様が私めの話を真摯に聞いて下さってたのですが…」
「最初はって何かな!」
- ミリィ。で、聞いてたのですが?
「はい、そして撫でて下さって、私めの首にこれをかけられてしまい、それからは脅されるまま飛べだの走れだのと…」
つまり最初から乗る気満々で近づいたってわけか。
「脅してないかな…、逃げるのを追いかけて遊んで、大人しく乗せないと追いかける遊びが続くかなって言っただけかな…」
ミリィが小さく、口を尖らせてテーブルの上を歩きながら言ってる。
それを脅すって言うんじゃないのかな?
「あの…、ふたりは何と…?」
メルさんも気になるんだろうね。
- あー、えっと、ミリィが言うには、ピヨが寂しそうにしてたから遊び相手になってたんだってさ。
「ほう、ミリィちゃんは優しい子なんですね」
- でもピヨからすると、最初は話を聞いてくれてたのに、首にヒモかけられて、逃げたら追い掛け回されて大人しく乗せないとずっと追いかけるぞと言われ、仕方なく乗せたら走れだの飛べだの言われて困ってたみたい。
「え…」
「誤解かな!、はい、はい、って楽しそうにしてたかな!」
「それは酷いですね…、何だか抗議してる様子ですが」
「タケル様のご友人だと仰られては無下にするわけにもいかず…」
「がーん」
がーん、じゃねぇよw
- 僕の友人だからピヨも断れなかったんだってさ。
「ミリィちゃん…」
と、仕方ない子を見るような目でミリィを見るメルさん。
まぁメルさんの生い立ちではそういうのって遭遇したことは無かったんだろうし、これはしょうがないね。
「何だかあたしが悪い子みたいに思われてるかな!?、でも楽しそうにしてたのはホントかな!」
- んー、ピヨはミリィを乗せて楽しかった?、それとも辛かった?
「いままでひとを乗せたことがありませんので困惑してはいましたが、ミリィ様が楽しそうにしておられたので仕方なく…、ですが正直に申しますと、私めの背で燥ぐミリィ様のお気持ちが伝わり、多少は私めも楽しい気分になったのは本当でございます」
「ほら、ほらー!」
- そうかそうか。
と、ピヨを撫でてやる。正直に話したし、えらいぞという気持ちで。
- 首のヒモはどうしてかけたの?、ミリィ。
「え?、だって掴むところが無いと不安定かな?、村でも鳥や動物を飼ってたかな、乗るときは首にヒモを掛けてたかな」
あの村に動物なんて居たっけ?、気付かなかったよ。
とにかくそうやって乗るもんだってことか。
- その動物とは話ができた?
「…?、変なこと聞くかな、動物や鳥と話なんて通じないかな」
小首を傾げるミリィ。そりゃそうだろうね。
- でもピヨには話が通じるよね?
「あ…、ほんとだ」
今頃気付いたのか…。
- ミリィ、ピヨは半精霊っていう特殊な種族なんだ。厳密には精霊種じゃないけど、ほぼ風の精霊さん。
「え!?、精霊様だったかな!?、あわわわ…」
- だからただの動物や鳥と同じようにしちゃダメ。わかった?
「ご、ごめんなさいかな!、この通りかな!」
テーブルの上で土下座した。
- ピヨ、楽しかったなら、イヤじゃないならまたミリィと遊んであげて。
「はい、タケル様がそう仰られるのであれば」
- そうじゃなくてね、僕から言ったからじゃなくて、ピヨがイヤじゃなければね。
「はい、その、またお話ができれば嬉しいです」
- だ、そうだよミリィ。
「こ、こちらこそよろしく、です」
普通に考えたらミリィもピヨも根は素直…、だよな?、そのはず。
だから仲良くできないってことは無いはずなんだよ。たぶん。
今回はミリィがピヨを喋れるだけの鳥だと思ってしまったせい、なのか?
よくわからんが、まぁ、会話ができるんだから何とかなるだろう。
ピヨをテーブルの上に置くと、ピヨは俺の部屋の方に飛んで行き、それを追ってミリィも飛んで行った。
はー、疲れた。
「何だかよくわからない展開になってましたが、ミリィちゃんが謝って、一件落着ですか」
- あ、はい、そんな感じです。
「そうですか、ミリィちゃんやピヨちゃんと話ができるタケル様が羨ましいです。私も早く会話ができるようになりたいです」
- 少し意味がわかるようになったんですよね?
「はい、さっきの会話も少しだけなら…、でも声に魔力を乗せるというのがまだよくわかりません、タケルさまは…」
とメルさんが言いかけたところで、ミリィがすいーっと飛んできて給水器に行き、コップに水を入れ、コップを抱えてふよふよと飛んで行った。レモン水が欲しかったんだろうか?、ピヨってあれ飲んで大丈夫なのか?、まぁ鳥じゃないし、大丈夫なんだろう。
それを俺もメルさんも目で追ってから、互いにくすっと笑う。
- どうも僕は無意識にやってるらしくて、うまく説明ができないんですが、魔力操作をしてるつもりで喋れば魔力が乗るんじゃないでしょうか。
「タケル様はそのような事を考えて話されてるのですか?、あ、無意識に、でしたね、すみません」
- いえ、別にそう考えながら喋っているわけじゃないんですが、意識的に魔力を乗せるならそうかなって。
「なるほど、詠唱をする時のように集中して…、という事でしょうか…、どうですか?、乗ってますか?」
- 乗ってませんね。
「そうですね、ふふっ、自分でもわかりました。これは難しいですね」
- 前にも言ったかも知れませんが、こういう事はあまり難しく考えなくても何かのきっかけで突然できるようになったりするようなものだと思うんですよ。
「あ、わかります。剣の鍛錬と同じでしょうか、基礎的な鍛錬は欠かしてはなりませんが、技などはそういった基礎ができていれば、自然と身について行くものだという事ですね」
うんうんと頷きながら言うメルさん。
そうなのか?、俺には剣の事に例えられてもよくわからんので、あいまいに微笑むしか無い。
「あ、そうですね、夕食までまだ少し時間がありますし、外で剣を振りましょう」
と、急にすくっと立ち上がり、部屋の隅に傘立てのように突っ込んである鞘つきの剣を2本抜いて入り口の方へ行くメルさん。
「何をしているのですかタケル様、久し振りに一緒に振りましょう」
え?、俺も?、まぁいいか。確かにメルさんに剣を教わるのも久々だし。
●○●○●○●
最初は普通に剣を一緒に振っていたが、しばらくやってなかった俺は、基本的なこと以外はすっかり抜け落ちてしまっていたようで、途中からびしばし注意された。
「タケル様…、全然ダメじゃないですか。さては鍛錬を怠けていたんですね?」
じとーっと見られてしまった。
- はい、まぁ、あっちでちょっと忙しかったんで…。
明らかに言い訳だね。
「はぁ…、仕方ありませんね」
と言って一旦川小屋に戻り、細い木の棒を持って出てきた。
そこからは対面状態で、俺が剣を振ってメルさんにかかっていくのを、やれ出足が遅いだの身体の芯がずれてるだの剣の角度が握りが甘いだのと、こっちは懸命にやってるのに全く当たる気がしない。いや、万が一でも当たっちゃまずいんだけどね、これ実剣だし。
でもマジで、紙一重で避けるとかじゃなく、片手で剣の横を押すんだよ、構えてる剣じゃなくて、振ってる途中の剣のを。
前んときは気付かなかったけど、身体強化してんのね、だからまぁそこはわからんでもない。こっちは鍛錬だから身体強化しちゃダメで、だったら理解できなくはないんだけどさ、だからってそんなの俺にはちょっと自信がないね。
魔法ありなら手に結界障壁でもつければ何とかなるだろうけど。
で、もう片手に持ってる細い棒で、ピシパシと注意が来るわけだ。ビシバシじゃなく文字通りピシパシね。結構痛い。
そしてもう小1時間ぐらいになる。いい加減疲れた。
ので、腹いせではないが、ちょっと提案してみた。
「タケル様と?、…模擬戦、ですか…?」
戸惑ったように言うメルさん。うん、言いたいことはわかるつもり。
まず、魔法ありだとメルさんが俺に勝てる要素は僅かだろう。
魔法無しなら余裕の勝利、いや余裕どころじゃ無いな、指先ひとつでダウンさ、俺が。これは身体強化ありでも無しでもたぶん変わらない。
だから魔法の有無という条件で結果が見えすぎている模擬戦に、他の意味があるのかどうかを、いま眉を顰め…、てるんだろうか?、この表情…。まぁとにかくそうメルさんは考えてると思う。
- 条件は魔法ありで、でも僕は遠距離攻撃はしません。それでどうでしょう?
「…なら、すぐ終わりそうですね」
と言って微笑んだ。でも目が笑ってない。ちょっと怖い。
それは遠距離攻撃が無ければ勝てそうだってことなんだろうね、ふふふ。
ポーチから銅貨を1枚だして、『これが下に落ちたら開始です』って15m離れて向かい合った。
何で15mかって?、最初は5mだったんだけど、メルさんが『そこだと剣が届きますけどいいんですか?』って言うんだもん。怖ぇよ。何で届くんだよ。
結果的には俺の勝ちだ。俺がメルさんの頭を撫でて終わり。
「ず、ずるいですよタケル様、遠距離攻撃はしないって言ったじゃないですか!」
メルさん的には不満らしい。
風魔法で剣を掴んで固定しちゃうのは攻撃じゃないと思うんだけどなぁ。
ついでにメルさんの服も腰んところを一部固定したせいで、剣が抜けず動かせないと悟ったメルさんが移動しようとして、ズボンが後ろの合わせ目から一部がビリって裂けた。
その隙に近寄ってメルさんの頭を撫でたってわけ。
- でも結界で囲んでしまうのはダメでしょ?
「それはもっとダメですよ!、そんなの模擬戦以前の問題ですよ!」
- でもそういうのが僕の戦い方なんですよ。
「うぅ、そう言われてしまえば言い返しづらいです…」
そう。ずるかろうが何だろうが、近距離で剣持った相手とやりあうなんて俺には不向きなんだよ。だからそうなる前、戦う以前の問題のうちに何とかしよう、してしまおうと考える。
魔物相手なら遠距離で片付けようと思うし、対人なら近づく前に、剣を抜かれていても固定してしまえばいいってね。
メルさんは両手指で何やらぶつぶつ言いながらこうしてとかああしてみたいに対策を考えている様子だけど、何だか可愛いな、その仕草が。
でもズボンの後ろんとこ、結構破けてるから早く着替えた方がいいと思うよ?、遠目にだけどギャラリーがちらほら集まってこっち見てるし。
今回は、メルさんのような達人クラスが相手でも、一瞬で風魔法を発動して位置をぎゅっと押さえられるかどうかが勝負だったわけだし、念のために腰んとこもつまむように支えておいたんであっさり勝てたわけで…、まぁそのせいだけどね、ズボンが破けたのは。
- メルさんメルさん、ズボンが破れてるんで…。
と、小声で教えてあげた。
「え?、あっ!」
急いで破れてるところを手で押さえて川小屋に走りこんだ。
俺としては延々と続けられそうだったシゴキを中断させられたのは良かったんだけど、こりゃああとでまた文句を言われそうだな。
だって後ろんとこ、お尻が半分近く見えててヒモパンが見えてたし…。
やっぱりつまんだ位置が悪かったか?
戻ったら謝っておこう。
次話4-004は2020年04月17日(金)の予定です。
●今回の登場人物・固有名詞
お風呂:
なぜか本作品によく登場する。
あくまで日常のワンシーン。
今回はお風呂なし。
タケル:
本編の主人公。12人の勇者のひとり。
ずるいw
リンちゃん:
光の精霊。
アリシアの娘。タケルに仕えている。
タケルさまのなさる事ですから。と。
アリシアさん:
光の精霊の長。
全精霊中最古というような存在。実は凄い精霊。
今回も登場せず。
ウィノアさん:
水の精霊。
一にして全、全にして一、という特殊な存在。
まだ大人しくしている。
サクラさん:
12人の勇者のひとり。
ティルラ王国所属。
真面目な性格で、そのせいか苦労人。
タケルが戻ってほっとしているところもある。
ネリさん:
12人の勇者のひとり。
メルの次にタケルたちから魔力の扱いについて指導を
受けたため、勇者の中では比較的魔力の扱いが上手い。
ティルラ王国所属。
タケルが戻って楽ができそう。
また新たにいろいろと楽しくなりそうとか思っている。
メルさん:
ホーラード王国第二王女。いわゆる姫騎士。
騎乗している場面が2章の最初にしかないが、騎士。
剣の腕は達人級。
『サンダースピア』という物騒な槍の使い手。
ネリと仲がいい。
やっぱり魔法ありだとタケルには敵わないと再認識。
でも負けず嫌いだから悔しいのは悔しい。
シオリさん:
12人の勇者のひとり。
『裁きの杖』という物騒な杖の使い手。
現存する勇者たちの中で、2番目に古参。
サクラに勇者としての指導をした姉的存在。
ロスタニア所属。
今回登場せず。
ミリィ:
食欲種族とタケルが思っている有翅族の娘。
身長20cmほど。
ピヨが精霊様だと聞いて平謝り。
水を汲みに来たのはご機嫌とり。
待機小屋:
バルカル合同開拓地の沿岸部に、ネリが土魔法を使って建て、
あとからメルとネリが増設改築した勇者たち用の小屋。
騎士団がその近くに設営した。
最前線の小屋のこと。
ネリが作った棚に着替えなどが置かれている。
川小屋:
2章でリンちゃんが建てたタケルたちの拠点。
メルもピヨもちゃんと夜には帰って来る。
ロスタニアから流れてくるカルバス川本流と、
ハムラーデル側から流れてくる支流が合流するところにある。
3章の期間中にこの近くの騎士団拠点もかなり形になり、
街道も整いつつあるのでこの小屋の前は人目につく。
よくメルたちが剣を振っているのも有名。
ピヨ:
風の半精霊というレア存在。見かけはでかいヒヨコ。
川小屋に住む癒しのヒヨコ。メルたちに癒しを与える。
さらにでかくなったようだ。
そのせいで外に出してもらえなくなったらしい。
バルカル合同開拓地:
解説は本文参照。
カルバス川:
同じく本文参照。
島:
バルカル合同開拓地の西にある、アーモンド形の島。
島の北部に光の結界柱が見え、その色が変化することから
昔は畏れられ『魔王島』と呼ばれていた。だが魔王など居ない。
ウィノアによるとその結界の内側には光の精霊がアリシアのために
建造した塔の一部が残っているらしい。
南西部に小さな入り江があり、洞窟がある。