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4ー002 ~ 島の偵察へ

 ――と、いう状況だったそうだ。


 何がって俺が復活してからラスヤータ大陸のほうの用事を片付けてる間の話だよ。

 リンちゃんがピヨを中庭に持ってっちゃったんで、メルさんとサクラさんがお昼の用意をしてくれて、リンちゃんが戻ってきて皆で食べながらそういう話を聞いたんだ。


 中庭ってのは台所から裏口を出て、ウィノアさんの泉と木があるほうね。逆側が洗濯機と水場があって、扉がある。正面は洗濯物を干す台に登る階段と、河原のほうに降りる坂があってそっちにも扉がついてる。


 で、そこにピヨを置いてきたんだってさ。かわいそうに。

 それを気にして裏口のほうを見てたら、リンちゃんが『ダメですよ?、タケルさま』って言うし、他の皆はささっと目線を逸らすしで言えなかった。


 でもまぁ気になるのでよくよく聞いてみると、俺も気付いたようにピヨがでっかくなりすぎてるから、ヒヨコとして人前に出しちゃダメなんじゃないかって話になり、それからずっと中庭か部屋で軟禁状態なんだそうだ。

 以前聞いた、精霊種として不安定な状態というのからは脱して、安定した状態に成長したらしいんだけど、それがあの身体がでっかくなったのと関係があるのかどうかは、リンちゃんにもわからないんだってさ。

 だから食事を制限していいのかどうかもわからず、リンちゃんはリンちゃんで俺の捜索やら何やらで忙しかった事もあって、そうこうしているうちに育ってたらしい。


 皆の話では、シオリさんは開拓の指揮で忙しくて川小屋(ここ)には何日かに1度しか来れず、サクラさんとネリさんは最前線に交代で詰めていなくちゃいけなくなり、メルさんは毎日その最前線に通っていたわけで、ピヨの食事は用意していたらしいけど、それぐらいで基本は放置だったらしい。なんと哀れな。


 一応は、何だか育ってきてるんじゃないかとか、ニワトリにならずヒヨコのままなんだけど大丈夫なんだろうかとか、そんな疑問はあったみたいだけど、ピヨは風の半精霊っていう未知の存在なのでどうすればいいのかわからなくて、気付いたらこうなってたんだそうだ。


 それで、騎士団のほうに、ちらほらと謎の黄色い水鳥の目撃情報が伝わるようになって、新種の魔物じゃないのかとか、そういうのをシオリさんとサクラさんが耳にするようになり、このままピヨを放し飼いにするのは良くないんじゃないかってのがさっきの話に繋がってるわけだ。


 まぁ、しょうがないよね、騎士団の人たちに捕まえられるとは思えないけど、騒ぎになりそうだしさ。だからあとで構ってやろうと思う。






 ミリィはテーブルの上をちょこまか動きながら、『どれも美味しいかな!』って満面の笑顔ですっごく美味しそうに食べまわり、でもどれもひと切れずつで、なぜか控え目に食べていた。皆もそれを『可愛いね~♪』って微笑んで見ていた。

 俺からすれば控え目でも身体のサイズからすると多いんじゃないかと思ったんだけど、皆は何も言わなかった。もしかしてピヨで慣れたのかな?


 そんなこんなで俺が居なかった間のことや最前線の様子、それとこのバルカル合同開拓地が急ピッチで街道の敷設や整備、住居建設や農地開墾などが進んでいるという事を聞いた。

 そういう名称がついたんだなー。






 で、食後のお茶のあと、ミリィは眠そうにしてたので俺の部屋で寝てていいよって言うと、『はぁい』って言ってふわふわ飛んで行った。時差ぼけってやつだろうか。

 そしてシオリさんとサクラさんはお風呂に行き、その間にネリさんが飛行魔法っぽいものができるようになったって言ってたのを見せてもらったんだが…。


- 飛行…?、なの?


 と、隣にいたメルさんを見る。


 「ですから、っぽいもの、って言ったじゃありませんか」


- あっはい、そうですね。


 空中を移動するという点では、飛行魔法っぽいものと言ってもいいと思う。

 たとえそれが、空中に小さな障壁魔法を設置して走るという方法であっても。


 考えてみりゃよくある2段ジャンプと同じだよね。多段だけどさ。

 だから、うまく使えばいろいろ応用が()く方法だろうと思う。


 と、考えてるとネリさんも戻ってきた。


 「ねね、どうだった?」


- え?、んー、まぁいいんじゃないですか?、面白いし。


 「えへへー」

 「戦闘の幅も広がりますし、川も渡れるんですよ」

 「そうそう」


 なるほど。メルさんらしい。


- それで、僕がやってるような飛行魔法のほうは?


 「そっちはちょっとしか…」

 「他に何もできないんですよ、まだ…」

 「だって難しいよあれ、だからその前段階なんだよ、さっきのが」


- 前段階?


 「空中移動に慣れるという意味ですよ」

 「そうそう」


- なるほど。


 「タケルさんもできるようになったら便利だよ?」


- え?


 そりゃまぁ確かに便利かもだけど。俺は普通に…、とは言えないかも知れんが飛べるからなぁ…。わざわざ空中を走る意味が無いんだが…。


 「え?、ってそりゃタケルさんは飛べるけど…」


- うん。


 あ、2人とも不安そうな表情になってしまった。


 「空中で剣が扱えますよ」

 「そうそう、って、タケルさんって剣もって戦わないよね…」

 「あ、言われてみればそうですね」


 仕方ない、一応フォローしておくか。


- いやまぁ、いろいろできたほうが選択の幅が広がりますし…、んじゃちょっと真似してみますね。


 「「おおー」」


 何がおおーなのかわからないけど、笑顔になった。なぜに?


- えーっと、こんな感じかな…。


 と、丸く円を描くように2人の周囲を走って上昇、途中で対角にジャンプして棒状の障壁を作って掴み、くるっとターンしてまた逆に走って戻ってきた。


 「え?」

 「えー、何それー」


- 何って、ネリさんがやってた事の真似じゃないですか。


 「あんなくるっと回ってないよー?」

 「なるほど、足場になるのなら、手で持つ事も…」

 「えー?」


- 同じでしょ?


 「うー、何か負けたような気がする…」


- あ、そうそう、障壁魔法といえば、こういうの覚えたんですよ。


 と、有翅族(ゆうしぞく)のディアナさんに教わった柔らかい結界魔法で椅子というかソファーを作って座る。ちゃんと黒っぽい色を投影しておいた。


 「…椅子?」

 「…これ、障壁ですか?」


- そうそう、座ってみて。


 2人はそれぞれ、手で感触を確かめてからにしたようだ。


 「わ、やわらかいよ?」

 「ほう…、こんな障壁魔法もあるんですね…」


- 強度的には大したこと無いんですけどね、面白いでしょ?


 「面白いけど、これ何に使うの?」

 「こんな事に高度な魔力操作を…」


 む、いまいち評判悪いな。


- んー、座布団とか?


 「…えー?」

 「またシオリ様に無駄遣いとか言われますよ…?」


 硬さが調節できて、土魔法で作った石のベッドの上に敷いて寝た、なんて言えなくなってしまった。


- …ダメかな?


 「ダメじゃないけど…、微妙?」

 「魔力操作の鍛錬にはいい…、のでしょうか…?」


 ダメっぽい。

 おかしいなー、楽しいと思うんだけどなー、わかってもらえなかった。






 それからは、2人がさっき俺がやったみたいに、空中に障壁の棒を作って掴む練習をするのを見て、リンちゃんがお風呂どうぞーって呼びにきたので俺が入ることになった。

 メルさんとネリさんはもう少し練習したいんだそうだ。


 ちなみに、なぜこんな昼過ぎの時間にお風呂なのかというと、シオリさんは何日かおきにしか川小屋に来ないので、来たらすぐ入浴をするようにしてるかららしい。

 ここ以外だと、身体を拭くぐらいしかできないんだとか。

 今日も俺とリンちゃんが到着する直前に走ってやってきたらしくて、普段の多忙さもあって疲れてるように見えたのはそのせいだったみたい。


 何でも、ロスタニアからイアルタン教の司祭や神官たちが派遣されてきているらしく、開拓村に教会を建てる計画も、この地がいくつかの教区になるだのの手配もシオリさんが責任者としてその肩に積み上がっているんだと。

 身体強化して走れるようになって良かったのか悪かったのか…、と、サクラさんに愚痴ってたってネリさんが言ってた。


 それであの『裁きの杖(ジャッジメントケーン)』を持って移動しまくってるらしい。

 街道ではひっきりなしに隊商や騎士団が移動してるみたいだから、この地域って、おそらく現在一番治安がいいんじゃないかって話だし、そりゃ護衛なんて要らないよね。






●○●○●○●






 何だか風呂ばっか入ってる気がするけど、それはそれ。俺、別に風呂嫌いじゃないからね。

 で、風呂から出ると、シオリさんがリビング側のところで俺を待っていた。

 サクラさんは俺が風呂に入っている間に、最前線のほうに急いで戻って行ったらしい。

 シオリさんがじっとこっちを見ていた。見ると小さく手招きをされたので向かい側に座ると、申し訳無さそうに地図を見せられて、こことここに橋を架けて欲しいのですがと頼まれた。


 今日は別に予定も無いし、勇者病にかかる前と今とでだいぶ魔法行使の効率も変わったので、試しにやってみてもいいかと承諾し、シオリさんにはこの場で建設指令書のようなものを書いてもらってから、ちょいと行ってくる事にした。


 帰りにサクラさんの居る最前線のところもちょっと様子を見てこようと思う。






 で、現地までひとっ飛び。

 空から見たところ、確かに街道はひっきりなしと言っていいぐらいに馬車が移動していた。と言うか街道と言っても舗装なんてしてないから土ぼこりも凄いし車輪の(わだち)でガタガタだ。

 渡船のあるところは、順番待ちの列ができていたし、なるほど確かに橋があればいいよなぁと。


 途中、若干斜めになっている石柱があったんだけど、何だろう?、あんなのあったっけ?、まぁいいけどさ。


 とにかく、指定された位置に、前と同じように橋脚を立てていき、川床の土砂も利用して橋を架けた。リンちゃんから借りている杖も使ってやってみたが、確かに以前よりも魔法効率が各段に上がっていて、突貫工事どころじゃないぐらいの手際でさくさく橋ができた。川床を(さら)ったときに川の水がすごく濁ったのはまぁ仕方が無い。


 橋脚を立てていってる時、メルさんとネリさんが街道じゃないところを縫って走っていくのを感知した。

 なるほど、そりゃ街道をあの速度で移動したら迷惑だよね。


 それから橋脚が終わり、通路部分を作ってるとリンちゃんがきて、出来立てほやほやの通路部分を走ってきた。


 「あ、その杖、使って下さってるんですね」


- うん、いろいろ助かってるよ。


 「それはいいのですが…」


 と、呆れたように作りかけの橋を見て、ため息をついた。


- 何?


 「いえ、いいです。お茶はいかがですか?」


- んー、もう一箇所あるし、それが終わってからサクラさんたちのところに寄るつもりだから、その時でいいよ。


 「わかりました」


 と言って、そのまま俺のする事を見ることにしたようだ。






 さくさく、と言ってもそれなりに時間は掛かったけど、前よりも疲れないし早くはできたので、リンちゃんを連れてもう一箇所の指定位置に移動、そっちも同じように架橋しておいた。

 まぁ例によって飛び立つとリンちゃんは俺にしがみついたわけだが。


 移動中に空中からいつもの索敵(レーダー)魔法を使い感知したところ、川幅が狭い支流のところには木製だけど橋が作られていた。そういえばシオリさんから受け取った地図にも記入されてたっけ。

 カルバス川の本流は川幅が広いので、普通に架橋するには大変なんだろうね。


 しかし渡船を商売にしてる人たちは、橋ができちゃっていいんだろうか?

 まぁ、俺が考えるこっちゃ無いんだけども。もう作っちゃったし。






 そしてまたリンちゃんを連れて飛び、地図に記されている最前線の小屋のところに行った。

 小屋の前で3人がそれぞれ剣(刀)を振っていたので、地図を見直すこともなくすぐわかった。3人とも感知しやすいからね。わかりやすい目印になったよ。


 「あ、タケルさん」

 「あれ?、タケルさんもこっち来たの?」


- うん、ちょっと見ておこうかなって思ってね。


 「では久し振りに、ご一緒にいかがです?」


 メルさんは相変わらずだなぁ。


- あ、剣を持ってきてないので…。


 ポーチにはあるけどね。


 「そう言えばずっと川小屋に置いてありましたね…」


 俺の部屋に置きっぱなしだったっけ。


 「今日はたぶん来ないと思いますよ」


- え?、あ、ああ、トカゲですか。どれぐらいの頻度なんです?


 「決まっているわけではないんですが、2・3日に1度か2度で、ここのところは午前中が多いですね」

 「来ないときは何日も来ないよ?」


- へー…。


 「せっかくタケルさんが来てくれたんだから、出てきてくれてもいいんだけどね」

 「それはネリが楽をしたいだけなんじゃないのか?」

 「そんなこと無いってー」


- ちょっと休憩してから、見に行こうかと思ってるんですけども。


 「あれ?、シオリ姉さんがタケルさんに頼み事があると言っていたのですが、聞いてません?」


- カルバス川の本流に橋を架けて欲しいって話でしたよ。


 「それはいいんですか?」


- もう終わりましたから。


 「そうですか。え!?」

 「タケルさま、お茶の用意ができました」


 リンちゃんが小屋の入り口のところから呼んだので、驚くサクラさんたちを置いて開けっ放しの扉を横目に中に入った。中は天井から光の魔道具が吊るされていて、暗くは無かった。

 入ってすぐのところにあるテーブルにお茶とお菓子が並べてあったが、椅子が2脚しかない。


- ここって、サクラさんたちの小屋だけどいいのかな?


 「構いませんけど、5人だと少し手狭ですね」


 と、後ろについてきていたサクラさんが代表して答えた。


 「あ、干してあった洗濯物は!?」

 「それなら畳んでそちらに」

 「わ、リン様ありがとう」


 そっか、考えてみりゃここってサクラさんやネリさんの部屋みたいなもんだよな。そう思うと何だか居心地が良くないんだが…。

 だってベッド2つあるし、部屋はひとつだし、隣はもろに風呂場だし…。


 「椅子、作りましたよ、タケル様もどうぞお席に」


- あ、どうも。


 メルさんが足りない分の椅子を作ったようだ。

 リンちゃんがエプロンのポケットからティーカップを出して並べ、お茶を注いでいた。とりあえず俺も席に着く。


 「こんな事ならもう少し大きく作るんでしたね」


 サクラさんが席について言った。


 「この小屋作ったのあたしなのに…」

 「小屋ではなくテーブルの事だ」

 「テーブルもあたしが作ったんだよ?」

 「そう言えばそうだったな」

 「ここに5人も来るって思って無かったんだもん」


 と言いながらクッキーに手を出すネリさん。


- 外でも良かったんじゃない?、リンちゃん。


 「今日は風がありましたので…」


- そっか、じゃあしょうがないね。


 などと話をしながらお茶を飲んだ。


 勇者病の話も出た。薬の分量を知ったのはこの時だ。

 それで川小屋に戻ってからリンちゃんに見つからないタイミングで、こっそりとウィノアさんを呼び出して問い詰め、厳重に注意したってわけ。






- んじゃちょっと島のほうを見てきますね。


 「「はい」」


 と、お茶を飲み終えてから出ようとすると、皆がぞろぞろとついてくる。具体的にはリンちゃんが俺の上着の裾をちょいとつまんでた。


- んと、リンちゃんも?


 見るとこくりと頷く。その後ろで皆も微笑んで頷いていた。


- え?、もしかして全員?


 「「はい」」


 俺ひとりで行ってくるつもりだったんだが…。


- えーっと、別にいいんですけど、ちょっと見てくるだけですよ?


 「タケルさまの『ちょっと見てくる』は安心できないので」


 ちょっとリンちゃん?、あ、後ろ3人も頷いてる。

 確かに、過去の実績から言って信用されないのもわかるんだけどね。


- あーはい、わかりました。


 しょうがないので全員を包んでいつもの飛行魔法でゆっくり飛び上がった。…ら、やっぱり皆がひしっとしがみついてきた。ネリさんだけしがみついて来なかったけど、メルさんはやっぱり強化ON状態だった。うん、わかってた。


 すぅっと移動を始めて島の上空へ向かう。

 以前は悲鳴が上がってたけど、それが出なかったのは進歩だと思うことにしよう。






 島を上空から見ると南西のところに崖の隙間があり、入り江のようになっていた。その内側は砂浜って程ではないけれど砂利まじりの浜になっていて、その近くの崖に洞窟の入り口のような暗く大きな穴が開いていた。

 索敵魔法を使ってみたところ、穴の入り口付近に小さめの大亀が2体いた。

 これが今日の話にあった船代わりの大亀だろう。


 魔物っぽい魔力反応が、島の上にちらほらあったので、島の上空30m程のまま近づかないようにし、そのまま周囲をくるっと回って小屋へと戻った。


 ネリさんは途中、ちゃんと下を見ながら『へー、こんな形だったんだ』とか、『あの穴から出てくるのかな…』って呟いていて、ちゃんと偵察になっていたが、サクラさんはずっと目を閉じていた。

 メルさんはちょっと目を開けては、『…ひぅっ』とか息を呑んで俺の右腕を両手で握り締めるので、負けないように右腕を強化するのが大変だった。

 何か前より力が上がってるんじゃないか?






 小屋に戻って、紙に島の俯瞰(ふかん)図を焼き付けた。

 何せ飛行中には両腕が動かせなかったからね。


 島の北側、端のほうには柱状の結界に囲まれた塔のような遺跡とその前庭がある。前庭には石の柱が何本かあり、いくつかは折れたり倒れていたりしているが、特にそれらには特殊な用途があるわけでは無いように見えた。

 塔自体には内部に強力な魔力反応があったが、それが装置なのか生物なのかは、結界の外からでは判別ができなかった。移動していなかったからね。


 その遺跡と、入り江の所にある洞窟以外の場所は森と言っていいだろう、岩などもあるが森に埋もれている。その合間に魔物だろう反応が20ほどあった。

 こうして地図に起こすと22体居るようだ。こちらは結界の外なのでわかりやすい。

 でも森の中なのではっきりとした形まではわからない。反応からすると小型か中型だろうと思うが。


 「あ、これ植物紙?」


 と、まずネリさんが気付いた。


 「え?、あ、あったんですか…」


 サクラさんもそれを聞いて紙の端に触れ、しみじみといった風に小さく言った。


 「羊皮紙ではないのですね…」

 「結構質がいいですね、元の世界の紙ほどではありませんが」


 メルさんは植物紙を知らないのかな。

 サクラさんが言うように、この紙は金属のペン先だとおそらく引っかかって書き難いと思う。

 エクイテスさんは、確か何かの爪のような素材がペン先に使われているものを使っていたし、机の上にあったものには木製のペン先のもあったように思う。どちらも先が丸くなっていてこういう紙質でもひっかからずに書けるものだと思う。そのぶん、字も太いし大きくなるんだけどね。


- 僕が飛ばされたラスヤータ大陸の、ミロケヤ王国ってところでは普通に使われている紙のようです。羊皮紙も使うようですが、植物紙を扱ってるお店があったので入手したんですよ。


 「へー…」

 「そうだったんですか」

 「ミロケヤ、ですか、聞いたことのない国の名ですね」


- そりゃまぁ、遠いですし、国交があるわけじゃないんですから。


 「そうですね…、しかし海の向こうの国ですか、行ってみたいものです…」


 と、メルさんが遠くを見るような仕草で言った。

 連れてってもいいけど、それには光の精霊さんの転移場を2つほど経由しないと行けない。俺の一存じゃ決められないね。ちょっと遠すぎる。


 「ねぇ、ミリィちゃんみたいなちっちゃい種族の国なの?」

 「それだとこの紙の大きさはおかしいだろう」

 「あ、そっか」


- ミリィたち有翅族(ゆうしぞく)じゃなく、人種(ひとしゅ)の国ですよ。


 「へー、お店があるってことは町に行ったの?、どんな町だった?」


- 古い港町でしたね。不思議と言葉も同じで助かりました。


 「そうなんだ…」

 「タケルさんだから通じたのではなく、ですか?」


- はい。メルさんたちここの人種(ひとしゅ)と言葉が同じです。


 「へー…」

 「そういう事もあるんですね…」

 「この紙を見ると、私たちよりも高度な文化があるのでしょうか…?」


- そこらへんはあまり気にしませんでしたが、あちらにはあちらの、こちらにはこちらの、それぞれ一長一短があるという事じゃないでしょうか。


 「そ、そうですね、気にしても仕方がありませんね」

 「あ、ミリィちゃんたちもその町にいたの?」


- いえ、有翅族(ゆうしぞく)は隠れ住んでます。あそこの人種(ひとしゅ)有翅族(ゆうしぞく)のことを妖精だと思ってますし、捕まえて見世物にしたりしようとする人もいますからね。


 「そうなんだ…」

 「そうですね、言葉も通じないなら、もしこちらに有翅族(ゆうしぞく)が居たとしても同じように考える人が居ないわけでは無いでしょうね」


- まぁ普通の状態なら、有翅族(ゆうしぞく)は魔法が扱えるので、そう簡単には捕まらないと思いますけど。


 「あ、そっか、ミリィちゃん飛んでたね、あれ魔法なんだ」


 と、そこからは向こうでの話になった。

 リンちゃんが気を利かせてお茶を出してくれたのでテーブルの上の地図を片付け、皆の興味のまま質問されて答えるような感じで話が弾んだ。


 魔法が扱い難くなってしまう石や砂の話もした。

 俺が帰還するハメになった魔砂漠(まさばく)地下の話はだいぶ端折(はしょ)ったが、聖なるアンデッズの話は少しだけだが、しておいた。なかなか信じてもらえなかったが、リンちゃんが補足してくれたので信じてもらえたようだ。なぜだ。


 区切りが付いたところで、ネリさんが思い出したように言った。


 「ねね、さっきの地図さ、あの光の柱の内側が書かれてたよね?」


- え?、あ、うん。これ?


 と、折りたたんでポケットに入れていた地図を出して広げて見せた。


 「うん、そう、これこれ。何で内側のことがわかるの?」


- え?、何でって?


 「だってさっき飛んでたとき、あたしには光の内側って何も見えなかったよ?」


 何ですと?






次話4-003は2020年04月10日(金)の予定です。


20200403:改行抜けひとつ修正。

     ついでにその箇所が「ので、ので」だったので分割。

     さらに誤字訂正。 裾と ⇒ 裾を 依然 ⇒ 以前

20200409:助詞抜けを訂正、じゃなくて表現を変更。ついでにひとつ前の句点を削除。

     それと俯瞰にルビを追加。

     さらにこのあとがきに『若干斜めになっている石柱』の項を追加。

 (訂正前)崖ところに洞窟の入り口のような

 (訂正後)その近くの崖に洞窟の入り口のような




●今回の登場人物・固有名詞


 お風呂:

   なぜか本作品によく登場する。

   あくまで日常のワンシーン。

   だから今回は詳しい描写も無し。


 タケル:

   本編の主人公。12人の勇者のひとり。

   本章ではこの2話目から登場。


 リンちゃん:

   光の精霊。

   アリシアの娘。タケルに仕えている。

   できるメイドを目指している。たぶん。


 アリシアさん:

   光の精霊の長。

   全精霊中最古というような存在。実は凄い精霊(ひと)

   今回も登場せず。


 ウィノアさん:

   水の精霊。

   一にして全、全にして一、という特殊な存在。

   今回は名前のみの登場。


 サクラさん:

   12人の勇者のひとり。

   ティルラ王国所属。

   真面目な性格で、そのせいか苦労人。


 ネリさん:

   12人の勇者のひとり。

   メルの次にタケルたちから魔力の扱いについて指導を

   受けたため、勇者の中では比較的魔力の扱いが上手い。

   ティルラ王国所属。

   飛行魔法っぽいのをあっさりとタケルに真似されて

   ちょっとショックだった。


 メルさん:

   ホーラード王国第二王女。いわゆる姫騎士。

   騎乗している場面が2章の最初にしかないが、騎士。

   剣の腕は達人級。

   『サンダースピア』という物騒な槍の使い手。

   ネリと仲がいい。

   ほらやっぱりあっさりと真似されましたね、

   と、心の中で思っていた。


 シオリさん:

   12人の勇者のひとり。

   『裁きの杖(ジャッジメントケーン)』という物騒な杖の使い手。

   現存する勇者たちの中で、2番目に古参。

   サクラに勇者としての指導をした姉的存在。

   ロスタニア所属。

   物騒な杖を持って走りまわっているんですね。


 ミリィ:

   食欲種族とタケルが思っている有翅族(ゆうしぞく)の娘。

   身長20cmほど。

   最初は緊張して起きていたが、食事をして時差ぼけを思い出した。


 勇者病:

   3章023・024話を参照のこと。


 待機小屋:

   バルカル合同開拓地の沿岸部に、ネリが土魔法を使って建て、

   あとからメルとネリが増設改築した勇者たち用の小屋。

   騎士団がその近くに設営した。

   最前線の小屋のこと。

   干してあった洗濯物には当然だが下着(ヒモパン状)もあった。


 川小屋:

   2章でリンちゃんが建てたタケルたちの拠点。

   メルもピヨもちゃんと夜には帰って来る。

   ロスタニアから流れてくるカルバス川本流と、

   ハムラーデル側から流れてくる支流が合流するところにある。


 若干斜めになっている石柱:

   カルバス川渡船の近く、南岸側にある。

   2章107話でネリが橋を造ろうとして最初に立てた橋脚のつもりの石柱。

   いくつか理由は考えられるが、その最初で失敗してこうなった。

   梯子を取り付けて天辺に明かりを設置して、灯台化する計画があるが、

   さらに傾いたり倒れたりするのではないかと危ぶむ意見もあり、

   まだ実行されていない。


 ピヨ:

   風の半精霊というレア存在。見かけはでかいヒヨコ。

   川小屋に住む癒しのヒヨコ。メルたちに癒しを与える。

   さらにでかくなったようだ。

   そのせいで外に出してもらえなくなったらしい。


 聖なるアンデッズ:

   明るいアンデッドを目指す変な集団。

   詳しくは3章で。


 バルカル合同開拓地:

   解説は本文参照。


 カルバス川:

   同じく本文参照。


 ホーラード:

   国の名前。ホーラード王国。

   『勇者の宿』が国の南西の端にある。

   魔物侵略地域には隣接していない。

   今回名前がでてきてないような…。


 ティルラ:

   国の名前。ティルラ王国。

   魔物侵略地域の東に隣接している。

   今回名前がでてきてないような…。


 ハムラーデル:

   国の名前。ハムラーデル王国。

   魔物侵略地域の南に隣接しており、山岳地帯に国境がある。

   2つの山地の間にあった街道を防衛線としていた。

   今回名前がでてきてないような…。


 ロスタニア:

   国の名前。

   魔物侵略地域の北に隣接している。

   そちらは万年雪山脈と呼ばれる高い山々が自然の要害となっており、

   北東方向にロスタニア首都方面へ向かう街道があるため、

   その扇状地のような地形部分を国境防衛線としていた。

   勇者シオリがこの国で名誉司教・司祭の資格をもっているため、

   バルカル合同開拓地へ多くの神官を派遣することとなった。


 イアルタン教:

   実は略称。正式名称はもっと長い。

   精霊信仰であり、ロスタニアやティルラなどの地では

   大多数の信者がいる宗教。

   一般信者については戒律などの規則がゆるく、厳しくない。

   しかし神官になるには魔法の素養などの厳しい条件があるらしい。


 ラスヤータ大陸:

   3章の舞台となった、惑星の反対側にあるぐらい遠い大陸。


 ミロケヤ王国:

   ラスヤータ大陸の北半分以上を占める獣人族(けもぞく)の国。

   王都はゾーヤで、ラスヤータ大陸中央部にある。

   タケルは人種(ひとしゅ)と大きな括りで話すことで、

   獣人族(けもぞく)の存在をまだ内緒にするつもりのようだ。




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2019年05月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
なるほど。わかりません。
2020年01月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
同じやん。なるほど。やっぱりわかりません。
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