4ー001 ~ プロローグ・沿岸部の状況
『魔物侵略地域』と呼ばれていた地域があった。
そこは100年ほど前に海から上陸した爬虫類型の魔物たちによって滅ぼされた国があった場所だ。当時はその地の中央を東から西へと流れるカルバス川の南側をバルドス、北側をバルデシアと呼んでいた。
その後どうやってか魔物を増やしダンジョンを作って両地域に勢力を広げていったが、国境を接する国々が何とか国境線を防衛してきた。ティルラ王国だけは何度も国境線を割られてしまったが、どうにか押し戻し、一進一退を繰り返してきた。
最近になって、勇者たちの働きにより魔物侵略地域から魔物をほぼ討滅する事ができ、およそ100年ぶりに両地域は人種が支配する地に戻ったのだった。
そして新たに、カルバス川を挟んで南バルカル・北バルカル、両地域を合わせて『バルカル合同開拓地』という名称で呼ばれる事になり、急ピッチで街道敷設やその他開拓が進められていた。
カルバス川の河口からおよそ5km。そこには周囲15kmほどの島がある。
ロスタニアに残されているこの地の記録によると『魔王島』と呼ばれていたらしいが、魔王なんて誰も見たことはないし、どういう由来でそう呼ばれていたかも記録には無いので現在はただ『島』と呼ばれている。
その島には上部が崩れた遺跡があり、周囲の木々より上に窓らしきものが2フロア分ほど突き出しているが、その周囲には今も効力を発揮する結界があるため、その遺跡を確認できる者は一部を除いて存在しない。
海岸からは距離のこともあって、見えるのは島の上部のみだが、夜間には薄ぼんやりとその結界が空へと伸びているのが見える。と言っても空高く光る柱が聳えているわけではなく、50mかそこらで薄くなって消えている。
その島を『魔王島』と呼んでいた人々は、おそらくはその光の柱が日によって赤かったり青かったりするせいで畏れた故の事だったのかも知れない。
現在、その島の周囲には手漕ぎの小型船が何艘か、常に浮かんでいる状態となっている。乗っているのはロスタニア・ティルラ王国・ハムラーデル王国のいずれかに所属する騎士団の者たちだ。
船はそれほど大きくもないので海上戦闘ができるようなものではない。いわゆる哨戒目的であり、乗っているのは斥候兵と呼ばれる兵士たちだ。
どうして島を警戒しているか、それは、その島から魔物が出てくるからだ。
島は北を上にして上空から見た場合、南北に少し長い船形に見える。周囲はほとんどが崖で、その崖が崩れたであろう岩や磯に囲まれている。
島の南西側に唯一の入り江が存在しており、島に上陸するとすればそこが唯一の上陸可能地だろうというのが斥候兵たちからの情報による3国騎士団の見解だ。
島の他の位置にも、なんとか近づいて岩や磯を伝い、崩れた崖下にかろうじて存在する浅い場所などから崖を上れば上陸することはできるだろう。
しかし現代地球世界と違ってろくな装備も道具もないのだから、崖を登るのは命が幾つあっても足りないだろう。登りきってもそこは魔物の棲むだろう島なのだから。
入り江が見える崖の隙間は幅20mも無く、そこに至るまでは岩の間を縫って進むことになる。周囲の岩が天然の防波堤、いや、離岸堤か消波堤と呼ぶべきものとなっているが、そのため岩の間を通り抜けるには操船技術が高く、波を読む目が必要だろう。
では魔物はどうやって島から出てくるのか?
崖を飛び降りて来るなどという事ではなく、過去にもあったように、大亀に乗って出てくるのである。大亀には岩の間の波など問題ないようで、その背に何体かのトカゲの魔物を乗せてくるのだ。
大亀は、史実や国境を防衛していた頃に比べるとかなり小さいが、それでも大亀1体につき、トカゲが数体乗れる程度には大きい。
つまり、まだ完全に魔物の脅威が去っていた訳では無かったのだった。
●○●○●○●
「え~、また出てきたのぉ?、あの島一体何匹いるのぉ?」
沿岸部に立てた小屋のところで待機していた私とネリ、そして毎日往復して手伝ってくれているホーラード王国第二王女であるメル様――メルリアーヴェル姫――の所に、船で沿岸をというか島の周囲を小船で哨戒している斥候隊から連絡があったと伝令の兵士が来て報告した。
待機とは言っても、各自適当に剣を振っていたり魔力操作や魔力感知の訓練をしていたりはする。報告を受けたのも私が外で剣を振っている間のことだったので、それを部屋の中にいた2人に伝えたときにネリが嫌そうに言ったのが先のセリフだ。
- まぁそう言うな。ティルラ国境を防衛していた頃に比べればずいぶんと楽なんだから。
ネリは椅子に足を広げて逆向きに座り、背もたれに片腕を乗せてその上に顎を乗せ、もう片方の手の上に小さな土球を浮かべてその周りに水球をひとつ、ゆっくりと回転させていた。
姿勢は実にだらけたものであるが、やっている事は私からするとまだ到達できない魔力操作技術の訓練だ。だらけてはいるが。
「そうですよ、船に乗って亀の上にいるトカゲを撃つだけの簡単な仕事じゃないですか」
その向かいで行儀よく座って同様の訓練をしていたメル様。
簡単な仕事と言うが、これがなかなかに面倒なのだ。
「えー、簡単じゃないよ?、疲れるよぉ?」
「どうせ向こうからは攻撃してこれないんですから、簡単じゃないですか」
当然だが、弓を扱える兵士も一緒に、いや、もう既に出ているだろう。
しかし波で揺れる小船の上から、的のほうだって動いているし揺れているのだ、そう簡単に当てられるものでは無い。だから私たちが到着するまでの間、牽制が主目的であり、当たれば儲けものという程度の攻撃だ。
なぜ小船ばかりを利用しているのかというと、カルバス川によって運ばれた土砂がこの付近には堆積していて、浅い部分が多いからだ。それと、船足の問題もあり、取り回しがしやすく速度が出しやすい小船を多く用意しているからだ。
私やネリ、そしてメル様が乗る場合には、漕ぎ手4名とそれぞれ1人が乗るが、哨戒している斥候船には漕ぎ手4名ほか2名の6名が乗り、弓兵を乗せて出る船は小型のものと少し大きなものがあり、それぞれ漕ぎ手2名と弓兵1名、漕ぎ手6名と弓兵3名が乗る。
もっと多くが乗れる船も建造中だそうだ。
「それはそうだけどぉ…」
会話しつつも革鎧の胸当てを着けるなどの準備をしている。
ネリは相変わらず刀は置いて行くようだ。以前は注意したが、最近では持ってくるだけでここに置いて行くようになってしまった。一応ネリを指導する立場の私だが、言っても聞かないのだから持ってくるだけマシだと思うことにして諦めた。
- さぁ、準備ができたら行くぞ。
と言って先に待機小屋を出た。
海岸ではネリとメル様が土魔法で作った突堤があり、そこに小船を準備してくれている兵士が待っているのだ。
「あ、サクラさん待ってー」
メル様は予備戦力として、もし私たちがトカゲを倒せず大亀が上陸した場合に備え、私たちが出たあとに突堤のところで待機して頂いている。今回のように昼間3人が揃っている場合には2人が船で出て、1人が陸で待機するようにしているのだ。
今回は、大亀2体とその背に乗るトカゲが3体ずつ。合計8体の魔物が島から出たらしい。
私とネリで何発か石弾を撃ち、大亀の背に這うような体勢で乗っているトカゲは倒した。そしていつものように大亀にはダメージが与えられず、引き返す大亀を見送った。
「おかえりなさい。ご苦労様、おふたりともずぶ濡れですが、何かあったんですか?」
「ただいま。ちょっと亀が大きく動いたみたい」
亀が方向を変えるときに波が立ち、船の向きによっては水しぶきがかかってしまうことは時々ある。今回はそれが重なったのだろう。おかげで私も漕ぎ手たちもずぶ濡れになってしまった。
- まぁ、こういうこともあるさ。あ、ご苦労様。
船の手入れをするのだろう、砂浜へと船を移動させる漕ぎ手たちを労った。彼らは私たちに会釈をして応えると、漕ぐ者2名と突堤を走って浜に向かう者に分かれて浜へと移動をし始めた。
「もうちょっとだったんだけどなぁ…」
ネリが突堤に立ち島のほうを見て不満そうに言った。
- 何がもうちょっとなんだ?
私の乗った小船とネリが乗った小船とは2体の大亀それぞれに左右へと分かれて対処するので、もちろんちらちらと見はするが、もうちょっとだったと言われてもそこまでよくは見ていない。
ちなみに前後に並んでやってくる大亀2体のうち、私のほうが先に出たのもあり、後ろ側の大亀のほうを私が、手前側のほうをネリが担当した。
「あの亀、倒せないかなぁ…」
こっちを見もせずに言うネリ。
「無理ですよ、私たちの魔法攻撃ではあの甲羅は貫けませんよ」
上陸してくれれば大亀は倒しやすくなるのだが、海上では大亀の首はほとんどが波の下だし、戦闘が始まると完全に水面下に入ってしまう。そうすると狙っても石弾の威力がかなり減衰してしまうのでダメージにならないのだ。
そして背中のトカゲを1体でも倒すと、大亀は方向を変えて島に戻ろうとし始める。
海上で見逃し上陸を許すと、もし背中に羽のある竜族が乗っていた場合、破壊魔法を使われると危険だ。そう、理由はわからないが、竜族は海上では破壊魔法を使わないのだ。今まで背中に小さいが羽のあるトカゲが居たことがあるが、破壊魔法を使われた事がない。ゆえに、できるだけ海上で倒すようにしている。
実は、上陸を許してしまい、破壊魔法を使われてしまったことが1度だけある。
その時にその正面に居た兵士たち数人がその被害に遭い、構えていた盾ごと粉砕されてしまったのだ。
それによって初めて私たちは、竜族が使う破壊魔法の威力と、その恐ろしさを目にしたのだった。
リン様があれほどタケルさんに危険だと警告していた理由。それがようやく実感できた、できてしまったのだ。
いや、全く理解できていなかった訳ではない。リン様がタケルさんを大事に思う気持ちは理解できるし、タケルさんはいろいろな意味でも重要人物だ。それを差し引いてもリン様があれだけ言うんだから危険なんだろうなー、程度に考えていた。単純に考えても魔物と戦うのだから危険には変わりないではないか、と。
ところが実際に目にした破壊魔法は衝撃的すぎた。正面で盾を構えていた者はその盾や装備の欠片ひとつ、肉片ひとつ残らなかった。かすった者はその部分が消滅した。地面には有効距離までの溝ができた。
私やネリは正面におらずその有効射程よりも離れていたので助かったが、その惨状を見てしまった私は、竜族が口を開けたままこちらの方を向いたときに一瞬肝を冷やした。
幸い、と言っていいかどうか疑問だが、ネリがタケルさんから受け取った鉄弾を使って倒したので破壊魔法はそれ1発だけで済んだ。しかし国境防衛任務以来、ひさしぶりに兵士に被害が出てしまい、苦い結果となった。
それからは、上陸を許さない方向で対処方法を考えるようになったのだ。
背中の羽が小さく区別がつきづらい事もあるので、油断せずに海上で倒す方針だ。
実際、その1発の破壊魔法を撃った竜族は背中の羽がとても小さかったのだから。
それが理由なのかどうかは判らないが、地面に掘られた溝は竜族の居た位置から100mだった。ネリは魔力が弱いから射程が短いんじゃないかと言っていたが…。
- そうですね。ネリ、もうその話は何度もしただろう?、海上では近づけないんだ。なら今まで通り上のトカゲを倒すだけだ。
近づき過ぎるとトカゲが飛び乗ってくるんだそうだ。哨戒船に飛び乗られかけたことがあり、その時はぎりぎり回避ができたので水しぶきを大量に浴びただけで済んだそうだが、それからは近づかないように周知された。
これは推測だが、さらに近づくと大亀によって船が転覆させられるのではないかと思う。
「でも惜しかったんだよ?、甲羅の下の首んところ、ちょっとダメージ与えられたし」
「そうなんですか!?」
- ああ、それでそっちの大亀が暴れたのか。
「うん、そう」
- そのせいだったのか。おかげでずぶ濡れだぞ?
「あ、うん、ごめんなさい。でもあれ1体でも倒せたら次から亀1体で楽になるよ?」
- それはそうだが、ん?、やってくる大亀は2体しかいないという事は無いんじゃないか?
「え?、いつも同じ亀だよ?」
「え?」
- え?、なぜそういい切れる?
「だって、あたしが付けた甲羅の傷でわかるんだもん、あれ2体とも同じだよいつも」
「そうなんですか?、いつの傷とか判別できませんよ?」
「タケルさんからもらった鉄弾でつけた傷だからわかるよ」
「え?、あれ使ってるんですか?、もったいなくないですか?」
「トカゲは遠いときだけ使ってるよ。今日亀の首狙ったのもそれだよ?」
なるほど。だから威力が減衰していてもあの硬い大亀にダメージが与えられたのか。
「なるほど…、そういう使い方が…」
メル様が感心したように穂先に革製のカバーが付いたままの『サンダースピア《愛用の槍》』を抱えて言った。
少し前に、メル様が海上でその『サンダースピア』の力を試してみたことがある。
一応は加減して試したらしいが、そこそこ離れていたにも関わらず哨戒船の漕ぎ手4名と、メル様の船に同乗していた漕ぎ手2名が感電して気を失った。幸い、全員とも命に別状はなかったが、そのせいで哨戒船は一旦引き返すことになり、交代のサイクルが乱れてしまったのだ。
メル様は一人で頑張って漕いで戻ってきて、申し訳なさそうにしていたが、気絶した漕ぎ手たちを待機している兵士たちに任せ、私も一緒に騎士団の詰め所まで行って頭を下げた。
手加減してそれなら本気で攻撃した場合、誰も近くに居ることができないということがわかった。全く、とんでもない武器だと思う。
- 続きは後にしよう。とにかく着替えて体を洗いたい。
「あ、んじゃお風呂用意してくる!」
と言うが早いかネリが身体強化までして駆け出した。
- あ、しまった、あいつ報告に行きたくないから…。
「ふふっ、サクラ様もお風呂に行って下さっていいですよ。報告なら私がしておきます」
- そうですか?、助かります。あ、ネリが大亀にダメージを与えたというのもお願いします。
「はい、大丈夫です。さっきの話でだいたいわかりましたから」
- そうですね、ではお願いします。
「はい」
返事を聞いた私も急いで待機小屋へと走った。
●○●○●○●
お風呂に入ってついでに服や装備も洗って軽く絞って桶にいれた。装備は棚の上ね。服はあとで広げて魔法で乾かすつもり。ちゃんとサクラさんの服と装備も洗ったよ?、ついでだし。一応、剣の師匠だし、先輩だし。
タケルさんやリン様ほどじゃないけど、あたしだってもう乾燥させるぐらいはできるもんね。まだちょっと時間がかかるけど。タケルさんみたいにすばやく乾かないのは何でだろ?、何かコツでもあるのかな?
タケルさんと言えば、勇者病だって聞いてからもう何日だっけ?
そんな事を考えながらゆっくり湯船に浸かる。
- んあー、タケルさんまだ戻って来ないのかなー?
「え?、何か言ったか?」
サクラさんはちょうど髪を洗ってて、手桶で汲んだお湯を頭から流したところだったみたい。髪が長いから大変だよね。潮風で傷みやすいのか、毎日きっちりお手入れしてるし。そういうとこ几帳面だよね、サクラさんって。だからいつも髪がきれい。光にあたるときらきらしてる。羨ましい。
- タケルさんたちまだ戻って来ないのかなって。
「ああ、あれから5日だし、いくら何でももう勇者病は治っているだろう。そのうちひょっこり戻るんじゃないか?」
- 早く来ないかなぁ…。
「タケルさんはここまで働きすぎだったんだから、帰還した時ぐらい多少ゆっくり休んでもバチは当たらんだろう。勇者病を経たなら調子が狂うかも知れんしな」
- え?、あたしはそんなに変わらなかったけど、サクラさんの時は調子狂ったの?
「んー、間合いが少し伸びたな。それで踏み込みや足捌きの加減が変わり、調整に多少は手間取った覚えがあるぞ?」
サクラさんはトリートメントかな、それを手にして髪に馴染ませるようにしてから、手桶でお湯をくんで髪に流し、桶で受けてからそのお湯を髪に流しと、桶を交互に使って何度もやってる。髪が長いと大変だなー、あたしはあんなに伸ばさないようにしようっと。
- へー、あ、んじゃ今ってもっと間合いが伸びたりしてるってこと?
「ああ、魔力の訓練のおかげで身体強化が強くなったから以前より間合いも伸びたな。しかし勇者病の前後と違って急に変わったわけではないからな、少しずつ変化してきたのだから毎日の鍛錬で調整が可能だ」
- 間合いってそんなに変わったかなぁ…?
「変わってるぞ?、ネリ、お前のもちゃんと間合いが伸びている」
- そうなんだ…。
「…まさか、気が付かなかったのか?」
髪をタオルでまとめたサクラさんの目が少し細くなった。
- え?、ちゃんと気づいてたよ?、気づいてましたよ!?、ほら、ちゃんと刀も持ってきてますし!、訓練するときちゃんと振ってますし!
「…まぁ、いいか。ほら、もう少し横に詰めてくれ」
- はーい。
「んー…、タケルさんに早く来て欲しいという気持ちはわかるがな…」
- でしょ?、タケルさんだったらあんな亀さくっと倒して、島にだって乗り込んでさっさと魔物全部倒しちゃいそうだもん。
「それもそうだが…、ん?、ネリ、お前まさか自分が楽できそうだとかそういう事じゃないだろうな?」
腕をつかまれた。
- え!?、違うって、違いますって、ちょ、痛たたた、サクラさん身体強化しないで!
「だったらお前も強化して対抗すればいいじゃないか」
- してますって、痛いって、サクラさぁん;
緩めてくれた。助かった。
あぁん、腕んとこ赤くなってるじゃんー。回復魔法使っとこ。あー痛かった。
- もー、サクラさんのほうが身体強化は一日の長があるんだからー。
「そうか?、ネリのほうが走るのが速いだろう?」
- それは風属性魔法を併用してるのと、走るときの強化配分が違うからですよぉ。
「強化配分?、そんな事してたのか…」
- サクラさんだって強化して刀使う時やってるじゃないですかー。
「そうなのか?、自分では普通にやってるつもりだったんだが…」
- まさかあれって無意識なんですか?、えー…。
「あれと言われてもな、そうだ、風呂から出たらちょっと剣を振ってみるから見てくれないか?」
- えー、せっかくなんだから今日はもうゆっくりしましょうよぉ。
「いや、こういう事は気づいた時にちゃんとやらんとダメなんだ。よし、じゃあネリ、先に上がって準備しておいてくれ」
- えー…、服や装備だって乾かさないとなのにぃ。
「いいじゃないか、たまには弟子らしく師匠の手伝いぐらいしてくれたって」
- うー、わかりましたよ、やりますよ…。
「じゃあ私は髪を流し終えたら出るから、頼むぞ」
サクラさんは立ち上がるときにあたしの腕を持って引っ張りあげた。
- はぁい。
もー、しょうがないなー、でもいつも勇者としての仕事のフォローしてくれてるし、サクラさんってあたしに剣のこと教えるときも、自分の技の訓練するときも生き生きしててかっこいいから見てても飽きないし、いいかー。
そしてお風呂から出てあれこれ準備をして、小屋の外に出るとメルさんが帯剣して笑顔で待っていた。
「聞こえてましたよ、ふふっ、サクラ様の本気の鍛錬が見れるんですね、楽しみです」
うっわー、すっごい笑顔だ。
忘れてたよ、メルさんもそういうの大好物だったんだった…。
次話4-002は2020年04月03日(金)の予定です。
20200402:サクラ視点の記述で1箇所訂正。 メルさん ⇒ メル様
20200409:数行まとめて訂正。
(訂正前)その時に私たちは破壊魔法の威力というものを~(数行分)
(訂正後) それによって初めて私たちは、竜族が使う破壊魔法の威力と~(数行分)
●今回の登場人物・固有名詞
お風呂:
なぜか本作品によく登場する。
今回のお風呂は待機小屋のお風呂なので、あまり広くない。
シャワーもついてないし、水道もない。
サービスシーンなのだろうか…?、
いや違うはず。あくまで日常のワンシーン。たぶん。
タケル:
本編の主人公。12人の勇者のひとり。
今回は名前のみの登場。
リンちゃん:
光の精霊。
アリシアの娘。タケルに仕えている。
同じく名前のみの登場。
アリシアさん:
光の精霊の長。
全精霊中最古というような存在。実は凄い精霊。
今回登場せず。
サクラさん:
12人の勇者のひとり。
当人は不本意だが『剣の勇者』と呼ばれることがある。
ネリに剣の扱いを教えた師匠的存在。
であると共に姉のような立場でもある。
ティルラ王国所属。
今回の第2節部の主人公。
ネリさん:
12人の勇者のひとり。
メルの次にタケルたちから魔力の扱いについて指導を
受けたため、勇者の中では比較的魔力の扱いが上手い。
本人は魔法使いになると言ったり、魔法剣士になると言ったり、
言動が定まらないところがあるが、向上心はある。
ティルラ王国所属。
今回の第3節部の主人公。えー…。
メルさん:
ホーラード王国第二王女。いわゆる姫騎士。
騎乗している場面が2章の最初にしかないが、騎士。
剣の腕は達人級。
『サンダースピア』という物騒な槍の使い手。
ネリと仲がいい。
シオリさん:
12人の勇者のひとり。
『裁きの杖』という物騒な杖の使い手。
現存する勇者たちの中で、2番目に古参。
サクラに勇者としての指導をした姉的存在。
杖を持ち魔法を使うところから『杖の勇者』と呼ばれる。
ロスタニア所属。
今回出番なし。
勇者病:
3章023・024話を参照のこと。
待機小屋:
バルカル合同開拓地の沿岸部に、ネリが土魔法を使って建て、
あとからメルとネリが増設改築した勇者たち用の小屋。
騎士団がその近くに設営した。
川小屋:
2章でリンちゃんが建てたタケルたちの拠点。
メルもピヨもちゃんと夜には帰って来る。
ロスタニアから流れてくるカルバス川本流と、
ハムラーデル側から流れてくる支流が合流するところにある。
ピヨ:
風の半精霊というレア存在。見かけはでかいヒヨコ。
川小屋に住む癒しのヒヨコ。メルたちに癒しを与える。
今回は登場せず。
バルカル合同開拓地:
解説は本文参照。
カルバス川:
同じく本文参照。
竜族:
精霊や人種と対立している存在。
見かけはでっかいトカゲ。背中に翼がある。
翼は小さいものも居る。羽と言われることもある。
破壊魔法:
竜族が口から吐くビーム状の魔法。
言ってみりゃドラゴンブレスのようなもの。
とても危険。
ホーラード:
国の名前。ホーラード王国。
『勇者の宿』が国の南西の端にある。
魔物侵略地域には隣接していない。
ティルラ:
国の名前。ティルラ王国。
魔物侵略地域の東に隣接している。
ハムラーデル:
国の名前。ハムラーデル王国。
魔物侵略地域の南に隣接しており、山岳地帯に国境がある。
2つの山地の間にあった街道を防衛線としていた。
ロスタニア:
国の名前。
魔物侵略地域の北に隣接している。
そちらは万年雪山脈と呼ばれる高い山々が自然の要害となっており、
北東方向にロスタニア首都方面へ向かう街道があるため、
その扇状地のような地形部分を国境防衛線としていた。





