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3ー035 ~ 川小屋へ

 リンちゃんと少し話をし、少し仮眠をとってから川小屋へと戻ろうという事になった。

 どうして仮眠かというと、時差があるせいで昼夜がほぼ逆転しているからだ。


 天蓋付きの豪華ででっかいベッドを使って下さいと言われて、『仮眠するだけだからソファーでいいよ』、って断ったんだけど『タケルさま、この部屋の担当者が困るのでベッドを使ってください』って真顔で言われ、仕方なく従ったわけで。

 でもこんな豪華なベッドを使うことって、あ、光の精霊さんの里に泊まった時に一度あったな。忘れてたよ。


 ミリィは気づいたらソファーのクッションの上で丸まって眠っていたのでクッションごとベッドルームに持って行って、椅子の上に置いてハンドタオルをかけておいた。

 ベッドの周りで何かをしているリンちゃんを見ると、天蓋のカーテンを縛っている紐を(ほど)いていた。


- リンちゃんは仮眠とらないの?


 「あたしはまだ少し用事がありますので」


 なんか風呂場を出てからずっと笑顔がないんだよね。

 そんなにお風呂でミリィが一緒だったのがショックだったのかな?、まさかね。


- そっか、何だかごめんね。


 「どうして謝られるのです?」


- あ、うん、そうじゃないね。いろいろフォローしてくれてありがとう。


 こう言うべきだったね。


 「急にどうされたんですか?、あたしはタケルさまにお仕えしているんですよ?、それに今回の事、この禁忌の地での事もアンデッズの事もですが、あたしたち光の精霊にとっては一言で言い表せないほど良い事なんです。タケルさまはあまりご自覚されてないみたいですけど…」


 そう言いながらベッドのカーテンをセットし終え、こちらに歩み寄って少し困ったような表情で見上げた。


- 結果的にはそうなのかも知れないけど、僕としては成り行き上そうなったってだけで、最初から精霊さんたちのために、って思ってしたことじゃないからね…。


 「はい、ファダク様とのお話でもそういう雰囲気でしたので、あまり言わないようにしていたんですよ…」


 と言って目線をそらした。

 ん?、なんか珍しいな。


- どゆこと?


 「とにかく今は、仮眠をとって下さい。後ほど起こしに来ますので」


 と、手を引いてベッドに座らされ、手早く俺が履いていたサンダル――風呂場から出たら用意されてた物――を取られ、ずずっと足を押されて寝かされてしまった。

 これがメイド技ってやつか…。


 「ではおやすみなさい」


- あっはい…。


 と返事する間もなくカーテンを閉じられた。

 一応、魔力感知で外はわかるけど、リンちゃんはささっと部屋を出て行っちゃったし、明かりも消されてしまった。

 まぁ、仮眠するんだからそれでいいんだけどね。


 「…タケぅさ…、――――…」


 ミリィが何か寝言を言ってる。






●○●○●○●






 「タケルさま、起きて下さい、タケルさま」


- あ、おはよう、んーっ、はぁ


 このベッド、寝心地が良すぎるな。と、伸びをしながら上を見ると天蓋の内側に明かりが(とも)っていた。部屋は薄暗いままになってる。

 ベッドサイドでリンちゃんが立ったまま待っているようだったのでいそいそとベッドから降りた。


 「こちらへ」


 いつもなら着替えを手渡されるかするのに、手を引かれて部屋の外まで誘導された。


- ミリィはいいの?


 「もう少し寝かせておきましょう」


 と、椅子の上においたクッション、その上にふわふわ浮いてるハンドタオルをちらっと見て言い、そっと扉を閉めた。

 リンちゃんが向いたほうを見ると、洗面所への扉が開いていて世話係さんが扉をそっと手で支えながら軽くお辞儀をした。


- あ、おはようございます。


 世話係さんはくすっと小さく笑い、手で洗面所の中を示した。どうぞ、ってことだな。それに従ってリンちゃんと一緒に入る。

 まぁ、普通に顔を洗えってことだろうね、これは。

 そして顔を洗い、タオルを受け取って拭うと着替えを渡され、着替えた。


 「ファダク様のところに行きますよ」


 扉をあけて洗面所を出ると、待っていたリンちゃんにそう言われ、頷いて一緒に移動した。






 あれ?、ファダクさんの部屋ってこっちじゃなかったっけ?

 とか途中で思いながらも、すたすたと歩くリンちゃんについて行った。

 何せ同じような廊下だし、案内板なんて無いし、俺もはっきり覚えているわけじゃないからね。地図作ったり索敵魔法を使ったりしてないし。

 リンちゃんは途中2度ほどどこかに連絡を取っていたようだった。


 案内された部屋には大きな鏡があり、その前に2つのしっかりとした椅子が並んでいる部屋で、その椅子のところにミドリさんが笑顔で立っていた。鏡と逆側の壁沿いにはテーブルと椅子がある。こちらの椅子は座面と背もたれが曲面になっていて、たぶん座ったらフィットするんだろうと思う。


- あれ?、ミドリさん?


 「はい、こんにちわ、タケル様」

 「モモさんがこちらに来るついでに、タケルさまの髪を調(ととの)えてもらうのに来てもらったんですよ」


- なるほど。


 「ささ、あまり時間が無いんです。座って下さい」


 え?、そなの?、と返す間もなく、リンちゃんに軽く押されて座ると布をかけられ、櫛を入れられて髪を調(ととの)え始めるミドリさん。

 戻ったら手を入れさせて下さいって言われてたっけなーなんて思いつつ鏡に映るミドリさんが真剣な表情をしていたので、話しかけ難くて黙ってじっとしていた。


 微妙におかしかったらしい髪型はちゃんと調(ととの)い、頬や首周りの産毛も()ってもらった。剃ると言ってもカミソリじゃなくて、刃が付いてないカミソリみたいなのをつーっと当てて動かすだけだったけど。

 微弱で複雑な魔力が働いていることしか感知できなかったので、仕組みはさっぱりわからなかった。

 あ、そうそう、この世界に来てから髭が生えないんだよね、産毛程度しか。もともとあまり濃いほうじゃなかったし、どうせ髭を生やす気なんてなかったから毎日剃らなくて済んで助かってる。


 最後に髪に整髪料って言うんだっけ?、なんだか料金みたいな気がするから整髪剤?、まぁとにかくそれっぽいものをミドリさんが手に少し取って髪に付けてセットしてくれた。そんなかっちりとした髪型じゃなく、軽く横分けになってるだけの無造作スタイル?、みたいな感じになった。なんか雑誌で見たことがあるような、無いような、そんな感じ。


 「はい。いかがですか?」


- 何かいい感じになりました、ありがとうございます。


 椅子から立ち上がって鏡に映る自分を見て言った。


 「よくお似合いですよ、ふふ」


 鏡のミドリさんはたぶん掃除機だろう、それを手に、床に落ちた髪を掃除しながら笑顔で言い、リンちゃんも微笑んで頷いていた。静かな掃除機だなぁ。さすが魔道具。


 入ってきたほうではない奥のほうで魔力反応が近づいてくるのがわかって、そっちを見ると扉が開いた。扉や部屋の壁は遮蔽効果があったのか、扉が開いた瞬間7名いるとわかった。

 4人の兵士っぽい人が扉の内外に分かれて立ち、アリシアさんが入り、続いてファダクさんとモモさんが入ってきた。アリシアさんひさびさだな。


 「タケル様、改めてこの地へのご尽力に全ての精霊族を代表して御礼申し上げます」


 目が合った瞬間、一瞬微笑んでからそう言って美しい所作でお辞儀をした。

 少し後ろのファダクさんやモモさん、そして鏡に映ってるけど俺の斜め後ろにいるミドリさんやリンちゃんも同じように頭を下げていた。

 すっげー居心地悪いんですけど。


- あ、あの、ですね、


 「はい」


 すっと姿勢を正して俺をじっと見るアリシアさん。ほんのり微笑ではあるんだけどね、何て言うか威厳っていうかとても偉い人のオーラっていうか、いや実際偉い人なんだけども。それが凄まじいな、やっぱり。

 前に会ったとき、謁見の間じゃないけどそんな雰囲気だった場所でさ、ポーチを授かったときだけど、あの時は今ほど魔力感知が鋭く無かったせいか、これほどじゃなかったと思うし、中庭で食事してたときは場の雰囲気がこうじゃなかったからね。

 言いづらいけど、頑張ろう。


- お気持ちを無下にするつもりはありませんし、とても有難いのですが、成り行きでやっちゃったことがたまたま上手く行っただけで、僕としては無様に死ぬ寸前でしたし、失敗しちゃったなーっていうような感じなんですよ。


 と、つい頬を人差し指で小さくかきながら、目を逸らしてしまった。


 「はい」


 うわー、目を合わせづらいなー


- だからその、結果的にお役に立てたってのはわかるんですが、どうにも失敗しちゃったことをそう何度もお礼を言われちゃうと、居た堪れないっていいますか、その…


 「はい。タケル様」


- は、はい。


 「この地は私たち光の精霊()が1500年前まで住んでいた場所でした。竜族との戦いで失われ、都市防衛システムを逆手に取られるという大失態によって、精霊族の住めない土地となり果てたのです。それ(ゆえ)、ここは『禁忌の地』となりました」


- はい。


 すると竜族は光の精霊さんが作った魔道具やシステムを利用しているだけってことなのかな…。ダンジョンにある魔道機械なんかはそんな感じだったけど、都市防衛システムを逆手に取って、でもこの地に竜族って居ないよな、竜族にとっても魔砂漠(まさばく)魔塵(まじん)ってのは障害になるものって事だろうか。


 「以来ずっと、魔砂漠(まさばく)が広がるのを抑えて参りましたが、それでもゆっくりと、着実に大きくなっておりました」


 このへんはドゥーンさんやアーレナさんからも聞いてたことなので、頷いた。


 「タケル様は先ほど、失敗したと(おっしゃ)いましたが、結果的にはこの地を正常化する契機となったのです。それは光の精霊()のみならず精霊種全体にとって、非常に大きな事なのです。ご理解頂けますでしょうか?」


- あっはい、それはリン…さんやファダクさん、そしてドゥーンさんたちからも言われた事ですので、理解はしています。


 理解はできるんだけどなぁ、やっぱり大げさに感謝されたり大恩だの言われるのはちょっとなぁ…、そりゃ憎まれるよりはいいよ?、多少は苦労した分、ありがとうって感謝されるのも嬉しいもんだ。でも大げさなんだよ、そんな大それたことをしたつもりなんて無いんだよ。限度ってもんがある。

 と、言えたらいいんだけど、言えないよなぁ、やっぱり。


 「それは何よりです。本来でしたらこの後こちらで式典を行い、里のほうで感謝祭を数日間開催するほどの事なのですが、」


 式典?、感謝祭?、うわー勘弁して。


 「タケル様はそのような事をお喜びにならないという事で、この場で簡単に済ませることにしたのですよ?」


 はー、助かった、と思えばいいんだろうか…。


- あ、ありがとうございます。


 と、内心冷や汗をかきながら言うと、

 「まあ、タケル様?、感謝したいのはこちらの方ですよ?」

 と、くすっと笑われてしまった。


 その後はテーブルの所に俺とアリシアさんだけが座り、アンデッズの話や有翅族(ゆうしぞく)の話、それと海の魚のことなどをかいつまんで話をした。


 最初は2人だけで座って対面で話すのに緊張したけど、アリシアさんが聞き上手っていうか、尋ねるのが上手っていうか、時々ファダクさんたちも相槌を入れてくれたりしたおかげで話しやすかった。

 アリシアさんは楽しそうに笑いながら話を聞いてくれていた。立っている他の人たちも笑っていた。特にアンデッズの話で。


 「そのお話は今度の演目になるそうですね。先にあらすじを聞いてしまいましたけど、聞かなかったほうが良かったかしら?」

 「そのあたりはアドリブや脚色も入りますので、楽しめると思いますよ」

 「それは楽しみだわ、タケル様もいかがですか?、初日にご招待しますよ?」


- え?、いや僕はいいですよ。だって登場人物に僕がいるんですよ?、照れくさいじゃないですか。


 それに内容をほとんど知っている訳だし。当人だからね。


 「そうですか?、タケル様がご覧になると彼らも喜ぶと思うのですが…」


- まぁそのへんは、お祝いの手紙でも書きますよ。


 「まあ、タケル様ったら、うふふふ」


 というような事もあり、だいたい話し終えたあたりで川小屋の現地時間でお昼近くになったため、お開きとなった。

 と言うかおそらく話した内容の時間配分をうまく誘導されたんだろうなって思う。


 部屋を出る前にアリシアさんから、ドゥーンさんから貰った石版を渡された。『もういいんですか?』と尋ねると、『タケル様が持っておくほうがいいでしょう』との事だった。

 でもこれ、俺には扱えないんだよなぁ、リンちゃんみたいに操作ができないっていうかさ、今それを尋ねると時間が掛かりそうだし、またリンちゃんに聞けばいいかな。


 そして、転移場に行くと、昨日のようにミリィと案内の兵士さんが居た。

 昨日と違うところはワゴンがあって、その上に小さなケーキっぽいものが小さな箱に並んでいたことか。

 どうやら案内の兵士さんがひとつずつ取り出してはお皿に乗せてあげていたようだ。


 「あ、やっと来たかな」


 口のまわりにクリームがべったりついていた。


- 袖で拭いちゃダメ。


 と、急いで()めた。


 「はーい」

 「こちらをお使い下さい」


 案内の兵士さんがワゴンの横にかけてあるタオルを差し出した。


 「ありがとー」


- で、川小屋に行くけどミリィもついてくるんだよね?


 一応尋ねた。


 「うん、でもまだ残ってるから食べ終わるまで待って欲しいかな」


- 持って行くから向こうで食べて。


 と言いながら残っている箱に蓋をしてポーチに入れていった。


 「うー、わかったかな…」


 キミが覚えてれば、だけどね。


 そしてミリィは俺のポケットにもぐりこみ、転移場でリンちゃんがいつものように俺に抱きついて詠唱、里の転移場を経由して川小屋へと転移した。






●○●○●○●






 川小屋だ。久しぶりだな。

 転移だから近づく感動も何も無い。

 ここは前と同じ、続き()になっているリンちゃんと俺の部屋の、リンちゃん側のスペースだ。


 俺の部屋側には左から順に、シオリさん、サクラさん、ネリさん、メルさんが並び…、ん?、机の上に黄色い縫いぐるみ?、え?、あれピヨか!?、え?、いやちょっと遠近感が…。


 ……でかくないか?


 「おかえりなさい」


 と言う声がそれぞれから発せられた。


- ただいま、心配をおかけしました。


 「ご無事で何よりでした」


 と、シオリさん。

 ちょっとやつれてる感じがある。大丈夫かな?


 「酷かったそうですね、勇者病」


- ええ、大変でした。あ、薬の件、ありがとうございました。リンちゃんとウィノアさんから聞きました。


 サクラさんとネリさんに聞いたんだっけね。


 「その後、どうですか?、やはり魔法の扱いが良くなりました?」


- あっはい、そうですね。前よりは。


 「そうですか…」

 「…前よりって、どれほどに…」

 「姉さん」


- 慣れるまで少し大変でしたよ?


 「あ、飛行魔法っぽいのができるようになったよ!」


- ほう、頑張ったんですね。


 「私も少し。サクラ様やシオリ様も練習中ですよね」

 「ええ、まぁ」

 「でもまだ数歩しかできないのよ」


- へー、またあとで見せてください。


 「「はい」」


 笑顔で返事をしたのがネリさんとメルさんの2人。

 サクラさんとシオリさんは複雑な表情で頷いただけだった。


 それにしても何故立ったまま誰も動こうとしないのか、と思ったら、そこがリンちゃんの部屋との境界線で、俺の前にリンちゃんが立ちふさがっているから、いや、逆だ。俺に背を向けて皆の前にリンちゃんが立ちふさがっている格好になっているので心理的に入りづらいんだ。


 (くちばし)を半開きにして涙を流して静かに泣いていたピヨが、机の上から飛び上がって放物線を描くように飛び込んできた。

 リンちゃんがまるでバスケットボールの試合で相手チームのパスをインターセプトするようにキャッチして着地をした。


- あー、ピヨだよね?、それ。


 一応見回して確認すると、『はい』とか『うん』とか言う。


- 育ったよね?


 もう一度見回して確認すると、『はい』とか『うん』とか言う。今度は苦笑いを伴って。


- これ、もう(にわとり)とかアヒルぐらいの大きさだよね?、でかくない?


 「そう言われてみれば、そうですね…」

 「毎日見てたから気づかなかったよ」


 何だかしらじらしい雰囲気が。

 あれか?、半精霊だから見て見ぬフリをしていたってことか?


 「そろそろ出して欲しいかなー」


- あ、はいはい。ちょっと待ってね。


 ポケットのフラップ(ふた)を持ち上げて中に入れようとしたミリィを手で押さえて隠した。


- リンちゃんには向こうで紹介したんだけど、


 と、ピヨを抱え込んで押さえつけているリンちゃんをちらっと見て、…って、それピヨ苦しがってない?、顔を完全にがっちりホールドしてるんだけど。あ、リンちゃんそのままピヨを持ってっちゃったよ。

 少し引き気味なのを表情に出さないようにして、続ける。


- 有翅族(ゆうしぞく)って言うんだけどね、ちょっと縁があって助けたらついてきちゃったミリィって子です。仲良くしてあげてください。


 と言ってフラップ(ふた)を持ち上げてやると、ミリィがひょこっと上半身を出した。


 「「ほう…」」

 「わぁ♪、可愛い!」

 「妖精ではないのですか?」


- ほら、挨拶。


 「え?、あ!、ミリィです!、よろしくお願いします!」


- ミリィです、よろしくお願いします、って言ってます。


 「あ、私少し意味がわかりました」


 ほう?、メルさんさすが。


 「あたしもちょっとだけ!」


 おお?、ネリさんも?


 「ピヨちゃんと同じですね?」


- そうですね、言語は違うけどピヨと同じように僕やリンちゃんとは会話ができます。だからたぶん、この子はピヨと会話ができるんじゃないかな…?


 と、リンちゃんが出て行ったほうをちらっと見て言った。ついでに尋ねてみる。


- 何でもってっちゃったのかな…?


 「あ、それはですね」


 と、メルさんが説明してくれた。


 俺が『勇者の宿』に帰還して『森の家』に移動し、薬を飲んだ後、リンちゃんがここに来て食料品の補充をした時の事。

 この数ヶ月で尋常じゃないほどに成長したピヨが、俺が無事だということ、臥せっていたけど快方に向かったと、そのうちここに戻るだろうと言われた時、感極まったのか泣き叫んだらしい。

 それが音声に魔力を乗せすぎたというか、まぁ音も過剰だったんだと。

 当然魔力が乗っててそれで意思疎通しているわけだから、耳を塞いでも聞こえる(感じ取れる)わけだ。


 あまりのうるささにリンちゃんが怒って、絶対に喋るな、動くな、という事になった。


 しかしその時、メルさんとネリさんには少しピヨが叫んでいる意味が感じ取れたんだそうで、それが切っ掛けとなって、普段のピヨが言う声の意味がだんだんとわかるようになってきたんだそうだ。今までは少しだけ意味が分かる事があったって程度だったんだと。

 メルさんとネリさんはまだ自分の声に魔力を乗せることができないので、ピヨからの一方通行ではあるが、進展はあったという事に喜んでいるようだ。


 それで、さっきこっちに向かって飛んできたので、リンちゃんがインターセプトして持ってっちゃったわけだ。






 そういう事情ならしょうがない。

 なのでとりあえずミリィのことを説明した。

 (はね)はだいぶ前に事故があって、今は取れちゃってるけど近々生えてくるって事とか、(はね)で飛んでるわけじゃないって事とかね。


 「メイリルって子も、ちょっとだけミリィの言葉がわかってたかな、それと同じかな」


 と、ミリィはふんふん頷いて話を聞いていた。


 あと、身体のサイズとは無関係によく食べるってことも言っておいた。

 ミリィは、『え?、普通かな!』って不満そうだったけど、実際よく食べるじゃないか。


 「じゃあピヨちゃんみたいに大きくなるんですか?」

 「え…、それはちょっと見たくないかも…」


- そうはならないと思うけど…。


 「何の話かな?、何て言ってたのかな?」


- え?、あ、そろそろお昼だっけ?、今日は何の予定?


 と、台所のほうへと歩いて行く。


 「何かごまかしたかな!、何て言ってたかな!」


 ミリィが頭の周りを飛びながら追及するのに聞こえないふりをした。

 サクラさんとシオリさんもリビングのほうに出てきたが、ネリさんとメルさんは部屋のほうでこそこそ話していた。


 「こっちの言葉が通じなくて良かったね」

 「聞こえますよ、ネリ様」


 聞こえてるよ?






次話4-001は2020年03月27日(金)の予定です。




●今回の登場人物・固有名詞


 タケル:

   本編の主人公。12人の勇者のひとり。


 ハツ:

   この3章でタケルが助けた子。可愛い。

   まだ両性だしまさに天使。

   魔導師の家と呼ばれていたハツの家で、アーレナさんたちに

   魔法の手ほどきを受けて生活をすることになった。

   住人が増えてにぎやかになって喜んでいたりする。


 ミリィ:

   食欲種族とタケルが思っている有翅族(ゆうしぞく)の娘。

   身長20cmほど。

   ついに川小屋までついてきた。


 メイリルさん:

   ラスヤータ大陸北部を占める獣人族(けもぞく)の国、

   ミロケヤ王国の昔の王女。

   ハツの家で、アーレナさんたちに魔力の扱いについて、

   ハツと一緒に学ぶことになった。

   いわゆる居候3号。


 ラスヤータ大陸:

   この3章の主な舞台。


 ウィノアさん:

   水の精霊。ウィノア=アクア#$%&。

   『#&%$』の部分はタケルには聞き取れないし発音もできない。

   一にして全、全にして一、という特殊な存在。

   今回は大人しくしていたため、出番なし。


 リンちゃん:

   光の精霊。

   アリシアの娘。タケルに仕えている。

   いまさらですが、『タケルさま』とひらがななのは、

   少し甘えたような雰囲気で言うから。


 アリシアさん:

   光の精霊の長。

   全精霊中最古というような存在。実は凄い精霊(ひと)

   やっと出番が。


 ファダクさん:

   光の精霊。

   アリシアの配下。航空母艦アールベルクでの統括責任者。

   登場はした。


 世話係のひと:

   VIP用の部屋でその客人のお世話をする担当者。

   にこやかにお世話します。


 母艦アールベルク:

   光の精霊さんが扱う何隻かある航空母艦のひとつ。

   魔砂漠(まさばく)魔塵(まじん)処理作業のため、

   魔砂漠(まさばく)中央あたりの上空8kmに停泊している。

   母艦というだけあってでっかい。

   まさかプールまであるとは。さらに演劇場まで。

   結局タケルは名前を覚えなかったんじゃないかな。


 ドゥーンさん:

   大地の精霊。

   世界に5人しか居ない大地の精霊のひとり。

   ラスヤータ大陸を担当する。

   ハツの家をしばらくの拠点とすることになった。


 アーレナさん:

   大地の精霊。

   ラスヤータ大陸から北西に広範囲にある島嶼(とうしょ)を担当する。

   魔砂漠正常化作業を地下から手伝っている。

   ハツの家でハツたちに魔力の扱いを教授することになった。


 ディアナさんたち:

   3章008・9話に登場した、有翅族(ゆうしぞく)の長老の娘。

   と、その仲間たち4人。

   ハツの家の居候になっている。


 アンデッズ:

   明るいアンデッドを目指す変な集団。

   一ヶ月ちょいで公演決定のようですね。

   余談ですが、undeadの複数形。

   作者的には『アン』は小さめで『デ』に軽いアクセント。

   そんな感じで脳内再生されている単語です。


 ミロケヤ王国:

   ラスヤータ大陸の北半分以上を占める獣人族(けもぞく)の国。

   王都はゾーヤで、ラスヤータ大陸中央部にある。


 森の家:

   タケルが勇者村と東の森のダンジョン村の間にある森に

   作った小さな小屋がリンちゃんによって大きくなった家。

   そこに燻製小屋という名の食品工場やそこで働く精霊さんたちの

   寮ができて大変大きくなっていた。

   さらにそこにアンデッズ用の住居と演劇訓練用ステージを建設中。


 モモさん:

   光の精霊。

   『森の家』を管理する4人のひとり。

   家の隣に立てられた燻製小屋という名の工場と、

   そこで働く精霊さんたちが住む寮を含めて、

   食品部門全体の統括をしているひと。

   転移免許持ち。


 ミドリさん:

   光の精霊。

   モモの補佐や、食品部全員の美容面を担う。

   美容師の資格をもっている。

   転移免許がないのでモモさんに連れてきてもらった。


 川小屋:

   2章でリンちゃんが建てたタケルたちの拠点。

   もうメルさんちのようなもの。

   ピヨもちゃんと夜には帰って来る。


 ピヨ:

   風の半精霊というレア存在。見かけはでかいヒヨコ。

   癒しのヒヨコ。メルさんたちに癒しを与える。

   でっかくなりすぎでは?


 サクラさん:

   12人の勇者のひとり。

   ネリに剣の扱いを教えた師匠的存在。

   であると共に姉のような立場でもある。


 ネリさん:

   12人の勇者のひとり。

   タケルより8年早くこの世界に来た。


 メルさん:

   ホーラード王国第二王女。

   『サンダースピア』という物騒な槍の使い手。

   ネリと仲がいい。


 シオリさん:

   12人の勇者のひとり。

   『裁きの杖(ジャッジメントケーン)』という物騒な杖の使い手。

   現存する勇者たちの中で、2番目に古参。

   サクラが転移してきてしばらくしてから勇者について

   いろいろと教えた過去がある。

   それで、サクラが『姉さん』と呼ぶ。



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2019年05月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
なるほど。わかりません。
2020年01月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
同じやん。なるほど。やっぱりわかりません。
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