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3ー029 ~ アンデッズの様子・ネリの討伐仕事

 メイリルさんが生きているという秘密をエクイテスさんに知ってもらったついでに、彼女が入れられていたカプセルの近くに置かれていた衣類と装飾品を見てもらうことにした。

 いま思えばメイリルさんを脱がせたのはアーレナさんだったんだろうね。でもそれを今更言ったところでしょうがないんだけどさ。


 という訳で、応接室の床に帆布(はんぷ)を敷いてもらい、その上に衣類の成れの果てのような布と装飾品をポーチから出して並べた。


- こちらが、メイリルさんの持ち物らしき品物なんですが、何か分かることがあればお願いします。


 並べている間、興味深く見ていたエクイテスさんだが、まずは布のほうをそっと広げて見ることにしたようだ。


 「ほう、これは教会の下働きのお仕着せですね。今もこの型のものが使われているはずです。ここが破れているのは比較的最近でしょう」


- あ、それは上に積もっていた埃を払うのに僕がばさっとやっちゃいまして…。


 「ああ、そうでしたか、ははは、そう心配なさらずともこの服には価値はありませんよ」


 下働きの服ならそうだろうね。よかった。


- はい、でもそうすると装飾品も?


 「いえ、これらはざっと見た限りでもかなりのものだとわかります。ですがこれらの品々、傷んでしまっているものもございますが、どうなさいますか?」


- どう、とは?


 「(きん)が使われている部分は洗えば元の美しさを取り戻しますので大したことは無いのですが、こちらのこの部分は腐食していますので洗っても元のようにはならないのですよ。原型がわかるものであれば作り直せますが、わからないものは宝石だけの価値になってしまいます」


- そうですね。


 「そこで、修復か作り直すか、それとも他に何か目的がおありなのかと思いまして」


 エクイテスさんは、さっきメイリルさんの話をしたとき以上に眉根を寄せ気味で困ったような表情で見ていたが、今はこちらの反応を注意深く観察しているようだった。


 普通なら、商人に装飾品を見せてどうするってったら、価値を判断してもらって引き取ってもらうとか、修復するなら職人との間に立ってもらうとかになるだろう。

 でも今回の場合、持ち主は俺じゃないんだよね。

 だからメイリルさんがどうしたいか、をまず尋ねてみなくちゃいけない。


 あ、そうか、メイリルさんが逃げてきたときに持っていたものなんだから、これは王家の財宝の一部って事になるのか。んじゃ尚更いまここで俺が、価値がどうのとか尋ねるのはまずいよなぁ。


- はい、まずは一度エクイテスさんに見ておいてもらいたかったんです。ある程度検分してもらってから、メイリルさんにどうするかを(うかが)って、その上で相談に乗ってもらえればいいかなと。


 「…なるほど。そこまでこのエクイテスを信用なさいますか…、わかりました。私も腹を(くく)りました。どうするにせよ一度そのメイリル様とお話させて頂いてもよろしいでしょうか?」






 そういうわけで、一度メイリルさんをここに連れてくることになった。

 もちろん彼女が拒否すればその限りではないが、装飾品をどうするかって話には、やはり彼女も同席してもらったほうがいいと思う。


 そしてすぐに戻りますとエクイテスさんに話すと、扉の外に待機していた高級召使いのひとが町の門のところまで一緒に来ることになった。たぶん入町税のこともついでに片付けるのだろう。


 魔導師の家(ハツの家)に走って戻り、メイリルさんに事情を話すと、『服装がこれしかないのですがよろしいのでしょうか?、失礼ではありませんか?』と不安そうに言われたが、手持ちやこの家に女性用の服、しかも商人と会うための服なんて無いので、『ならあちらで買いましょう、お金なら心配いりませんから』と言って連れ出した。


 その際、ハツが心配そうに見ていたので、『ハツにも服買おうか?、ズボン破いちゃったし』と言うと、『あっ、これはこれで涼しいから大丈夫』って半ズボンになってるズボンを指差して笑って言った。メイリルさんもそれを見てくすっと笑顔になっていたので助かった。ってか他にもズボンあるだろうに、なんでまたそれ穿いてんの?、涼しいからってそりゃそうかもだけどさ。まぁいいけど。






 メイリルさんは身体強化を使いながらも軽く走り、俺はそれに合わせて走って高級召使いの人が待つ門のところまで行った。

 姿勢正しく立っている彼に、『お待たせしました』と言うと上品な仕草で軽く頭を下げられ、くるっと華麗にターンして歩き始めたので彼について歩いた。


 そのまま応接室へと通されると、エクイテスさんは立ち上がっていて、他に2人が床に敷いた帆布(はんぷ)()(つくば)るようにして、装飾品を検分している最中だった。


- お待たせしました。あ、そちらは続けて下さい。


 検分中の2人も立ち上がろうとしたので手を向けて続けるように言っておく。


 「先生、そちらが…」


- はい。メイリルさん、こちらが今回お世話になるエクイテスさんです。


 「メイリルです。よろしくお願いします」

 「エクイテス商会のエクイテスと申します」


- エクイテスさん、実はメイリルさんには手持ちの服が無いのです。そこでこちらで合う服を何着かご用立てして下さいませんか?


 「もちろんでございますとも」


 何かにはっと気付いたように急に笑顔になってテーブルのところまで数歩行き、備えてあったハンドベルを鳴らした。そして扉が開く。


 「こちらの方に服を数着。さ、メイリル様、そちらの者がご案内致します」


 言われたメイリルさんは俺へと窺うように見たので頷いた。


 「はい」


 小さく返事をして、高級召使いの人が支える扉を出て行った。


 「このような辺境の港町ですので、王都のようには参りませんが、それでもそこそこご満足頂けると思いますよ」


 扉の外の足音が少し離れてからエクイテスさんが微笑んでそう言った。

 俺、そんな心配そうな顔をしてたかなぁ?


- あ、あの、あまり豪華すぎるのは…。


 「ああ、金額の事でしたら心配には及びません。実はあれから先生の作品を早馬で王都へ持たせて競りにかけたのですが、この私でも驚くほどの値段がつきまして、先生にどうやってお返しをすればいいのかと悩んでいたくらいなのですよ、ははは」


- え?、あ、あの食器類ですか。


 「そうです、競りの場で器を落として、傷ひとつ付かない事を見せたのが大きかったんだと使いの者が言っておりました。先生の意匠も素晴らしく、一体どのようにして作られた物なのかと問い合わせが殺到しましてね、シェルエやノリタスもその対応に大忙しのようですよ?、ははは」


- あ、そうですか。何ならまた作りましょうか?


 「それはとても魅力的なご提案ですが、タケル先生はそれほどお金が必要なわけでは無いのでしょう?」


 あ、見透かされてる。


- そうですね。


 と、苦笑いしながら答えた。


 「ははは、先生には充分儲けさせて頂きましたし、在庫もまだあります。こういうのは調子に乗って一度に数を増やさない方がいいのですよ」


- そういうもんですか。


 「はい。私どもは普段の商いでも充分商売が成り立っておりますので、本業以外の物品であまり多く稼ぎますと、いろいろと困った事にもなり兼ねないのです」


 ああ、そうだよね、法が整備されているわけでもないだろうし、警察機構がしっかりしているわけでもない。このエクイテス商会に傭兵のような人たちが居たのもそういう面に対応するためのものだろうからね。


- なるほど…。


 「でももし、そうですね、半年か1年ぐらいしてから、また作って頂けるならお願いしたいかと。もちろんご無理は申しませんよ、ははは」


- その頃にまた寄らせて頂いたときにでも催促して下さい。


 笑って言われたので、笑いながらこう返しておいた。






●○●○●○●






 リン様とこうして食卓を共にするのは何十年ぶりだろうか…。

 と、美しく、そして一層愛らしくご成長なさったリン様を向かいに、ご幼少の(みぎり)の事に思いを馳せた。

 あの頃のリン様は活発であれこれと我侭(わがまま)もいう困った所も多く、今にして思えば微笑ましいことずくめではあるが、アリシア様の娘の名に恥じぬ膨大な魔力をもてあましていたので、私のような古参の精霊が(じか)にお相手をしなければ、普通の者ではとてもじゃないが相手などできなかったのだ。


 それ故、当初はなぜ私が子守役を仰せつかるのだと思ったが、すぐにその理由に納得ができた。何せ、何をするにしても無意識に魔力を乗せてしまい、普通なら大したことのない、ほんの小さな出来事のはずが、大事(おおごと)に発展してしまう恐れが多分にあったのだから。


 例をあげると、ちょっとした落書きが消せない、庭園の花壇が迷路化した、扉が固定化して上半分が開かなくなった、室内のほとんどの物が光り輝き続けた、窓から中庭への滑り台ができていた、などである。


 私とて当時は子守だけをしていたわけでは無かったので、館内で働く部下たちに呼ばれて行けば既に大変な事態になっており、その後始末には翻弄されたものだ。部下たちは相当苦労したと思われる。

 その何年かという短い期間はそのように苦労の日々だったが、同時に忙しくも楽しく輝かしい日々だったと思う。


 「タケル様はまたあのアーレナ様やドゥーン様に無理難題を言われているのでしょうか…」


 ふと、リン様が食後のお茶のカップを手に、そのような独り言を呟かれた。


 タケル様がご一緒であれば、このアールベルク艦内を案内しながら第1大食堂で食事をする予定であったが、リン様と2人なら私の執務室から注文(オーダー)し、このように静かな食事となる。


 「タケル様のご用事について、何かお聞きしてはいないのですか?」


 タケル様が下でご用事を済まされている間、部下たちは彼が連れて来られたアンデッドたちを監視、面接する準備を始めているが…。


 「特に何も…」

 「そうだったのですか、ご心配であれば人員を割きますが?」

 「いいえ、それには及びません」

 「そうですか」


 それからは落ち着いた時間が流れた。

 食後は、『少し艦内を見て回ってもいいでしょうか?』と言われ、許可を出し各方面に通達をして私は執務に戻った。






 そして数時間後。

 予定では翌朝だったはずが、火急に相談があるとの事でアンデッド監視担当の責任者から報告の機会を作った。


 「面接した者たちからは特に問題は無いとの事でした」

 「そうか」


 と私は報告を聞いた。

 私も執務の合間に何人か面接に同席したが、素直に受け答えをする者たちだった。見かけを考えなければとても善良、いや善良すぎる者たちだと言える。


 「それで監視のほうはどうだ?」

 「はい統括、監視役にあてた者たちがすぐにもう耐えられない、交代してくれと訴える者ばかりで、人員の入れ替わりが激しくなっております」


 たった数時間でか…、なるほど火急の相談とはそういう事だったか。


 「ふむ…、どういう理由でだ?」

 「はい、説明するよりもご覧になったほうが良いかと思いまして、抜粋した映像をご用意しております」


 頷くと、彼が端末を操作して映像を浮かび上がらせた。






 「おい、聞いたか?、ここは(そら)にある光の精霊様の拠点だって」

 「「な、なんだってー!?」」

 「そ、それって天国…!?」

 「「そうか!、ここが天国かー!」」

 「道理で何だか心地いい所だなーって思ってたんだよ」

 「あ、それ思った」

 「私も!」

 「俺も俺も!」

 「うんうん」






 「俺たちさ、兄貴に『明るい所へ連れてって』って頼んじゃったけどさ、まさかこんな心地のいい所に連れて来てもらえるなんてなぁ、タケルの兄貴には感謝してもしきれねぇよ…、うっ、うっ…」

 「泣くなよリーダー…」

 「せっかくの心地いい所なんだから笑おうよ」

 「そうだな、幽霊が泣いちゃ雰囲気ぶち壊しだもんな」

 「明るく生きて行こうってみんなで決めたじゃないの!」

 「もう死んでるけどな!」

 「「あっははは」」






 「俺たち亡者(アンデッド)なのに天国に来ちゃっていいのかな…」

 「もう死んでるんだからいいんじゃね?」

 「あたし、死んだら天国に行くのが夢だったんだ…」

 「おー、夢(かな)っちゃったな!」

 「「あっははは」」






 そこで彼が映像を一旦止めた。

 通常なら小さい音声などは増幅するなどの加工をしなければ聞こえないものだが、彼らは音声ではなく魔力そのもので会話をしている。監視はそもそも魔力を軸として行っているので、彼らの声は小さかろうが独り言だろうがしっかり記録されているのだ。

 そしてそれはこの艦で勤めることのできる(精霊)であれば問題なく音声として認識されるものだ。


 「と、少し集まれば終始このような様子でして…」

 「集まれば?、ではひとりの時はどうなんだ?」

 「はい、ではご覧下さい」


 また操作をし、映像が浮かび上がった。






 「はー、ここは清潔だし明るいし心地いいし、いい所だなぁ…」

 ―― 30分後 ――

 「はっ!、俺骨だから座ってじっとしてたら死んでるって思われちまう!」

 「死んでるんだけどなー、あっははは」






 「こんなきれいなお部屋…」

 「わぁ、ふっかふかー、ちょ、ちょっとだけ寝転んでもいいかな?、いいのかな?」

 「うふふ、あ!、においとか大丈夫かな?、臭くないよね?、くんくん」

 「あ、幽霊だからにおいわからないんだった、あははー」






 「何か2時間後に呼びに来るって言ってたけど、先にお風呂に入ったほうがいいかな?」

 「どうしようかな、汗臭かったらやだし、入っちゃおうかな」

 「わー、すごいきれいなお風呂ー!」

 「あ、骨だから汗かかないんだった、あはははー」

 「これ、お湯が入ってないけどどうすればいいのかな」

 「お兄様は簡単にこうやってお湯だしてたっけ」

 「えいえい!、お湯、でろー!」

 「でないよね、あはははー」






 「今何時だろう?」

 「外って出られないかな」

 「だってせっかく明るい外に出たんだもん、日光浴とかしてみたいな」

 「あ、日焼けって大丈夫かな」

 「骨って日焼けするのかな、黒くなったら引き締って見えたりして?、あはは」






 なるほど、そういう事か。

 これをずっとやられては、私でも笑いを堪えるのに苦労する。


 「わかった、もういい」

 「はい」

 「つまり彼らは集まっても集まらなくてもこういう存在なんだな?」

 「はい、そのようで」


 彼も笑いを堪えて妙な表情になっていた。


 「交代と言ったが、他の部署から人員を手配しなければならんな」

 「いえ、それは不要です。むしろ監視所に皆が詰めかけており、部屋に入りきれない状態です」


 手配が不要?、なのに交代要員がいなくて人員不足とはどういう事だ?


 「人員不足という話ではなかったのか?」

 「アンデッド担当全体としては不足してはいないのです」

 「わからんな、耐え切れないというのは?」

 「監視役は職務上、笑い転げるわけには参りませんので、笑いたくても耐えなければなりません」

 「まぁ、そうだな」

 「ですが後ろに群がる見学者たちは笑い転げている始末で…」

 「監視役以外入室を禁止…、はできようはずもないか…」

 「はい、そう言った意味で、監視役のローテーションが非常に短いサイクルとなっておりまして、それゆえ、監視役の人員不足、と…」


 何だそれは…。


 「わかった。では監視役に笑い転げても良いと伝えよ」

 「よろしいのですか?」

 「仕方ないだろう?」

 「…そうですね」


 私は溜め息とともに執務室を出る彼を見送った。






●○●○●○●






 「ネリ、暇してるなら少し頼まれてくれないか?」


 見たらわかると思うけど、魔法の訓練をしているとサクラさんからそんな事を言われたのがリン様が帰ってすぐの事だった。


- えー?、何ですかぁ?


 「そんなイヤそうに言うな。何でもシオリさんが国境に居ないって噂が広まったらしくてな、それが原因だとは思いたく無いようだったが、結果的にロスタニアとティルラの国境線、場所的にはティルラ国境第2防衛拠点から北に向かってだが、そこに盗賊団が出没するようになったんだそうだ」


- うげー、まさかそれの討伐に行けって?、そんなの騎士団の仕事じゃんー


 「討伐ができるならそうしてくれても構わんが、今回は調査だ。だから身軽な勇者にやってもらえないかっていう話が来たんだ」


- 調査かー、めんどくさ、ぁいたっ!


 (はた)かれた。


 「本当なら私が行く所だったんだが、川小屋近辺での漁を許可制にしようという話があってな、それでロスタニア、ティルラ、ハムラーデルの3国で範囲を決める話し合いがもたれることになったんだ」


- あー、漁業権とかそういうやつ?


 「ほう、よく知ってるな。それの取り決めを今回このバルカル合同開拓地全体でやってしまおうというのがその主旨だ。そっちが良ければそれでもいいぞ?」


 にやりと笑って言うサクラさん。そんなのあたしがどっちを選ぶかなんてわかってるくせに。


- はい!、盗賊団の調査に行ってきます!


 「うん、よろしく頼む」


 と言われたのが一昨日。

 海岸のところに勇者が誰も居なくなってるけどいいのかな?、とか思いながら1日目は襲われたんだろう商人や馬の死体と馬車や荷物の残骸が2箇所あったのを見つけただけだった。


 足跡や戦闘の痕跡からすると結構な人数が居そうな感じ。


 以前のあたしだったらここで調査終わりーって危険だから帰っちゃったところだけど、今のあたしは前とは違うのだ。盗賊団ぐらい何十人いたところで、何とでもなる。

 魔法はタケルさんに教わったし、メルさんにも殺さないで無力化する方法とか教わったし、あ!、そっかメルさんが海岸に毎日通うから勇者が居なくても大丈夫ってことか。


 と鼻歌なんて歌いながら、足跡などの痕跡を辿って行くと前方に数人。

 そしてじわっと半包囲してるやつらがいた。それも入れて全部で9人。

 ふふふ、それぐらいの距離ならもう誰かいるって魔力感知でわかっちゃうもんねー。






 「フッフッフッフッフ、近頃稼ぎが悪くなった原因め、今度こそ追い詰めたぞ!」


 稼ぎが悪くなった原因?、あたし昨日この辺に来たばっかなんだけど?


- え?、誰?


 「何っ!?、俺を知らねぇのか!?」


- うん、知らない


 「仕方ねぇな!、じゃあ教えてやろう!、あ、おい!、動くなよ!、あーあ、ふたりも倒しやがって全く、マナー悪ぃなお前!」


- え?、何で?


 だってあいつが余計な事を喋ってるうちに何だかあたしを囲んでいる敵の雰囲気が緩んだので、強そうな手下から攻撃して気絶させたらマナー悪いって言われたんだけど納得いかないよ…。


 「だいたい相手が名乗りを上げてる時に聞かないのは失礼じゃないか?、え?」


 盗賊団がマナーについて言うのはおかしいと思う。だからまた次に強そうなやつを倒した。


 「あ!、また!、ちょ、お前なぁ、だから動くなって言ってんだろ!、俺が喋ってる間は手下共だって待ってんだからさ、な?、頼むよ、聞いてくれよ、手下だってそんな殺され方したら浮かばれねぇだろ?、な?」


- え?、殺してないよ?、まだ生きてるよ?


 「へ?、そうなのか?、良かった…、いや良くない!、そんなんじゃ誤魔化されねぇからな!、とにかく大人しく聞くのがマナー、わかったか!?」


 ワケわかんない。

 でも元の世界でマンガやアニメではそういうシーンがあったけどさ、あれはそういう物語だからだし、自分が囲まれる立場だったら隙あらば倒せってサクラさんからも教わったんだもん。

 でもここで『わかんない』って無視したら激怒されて容赦がなくなるんだろうなってことぐらいはわかる。せっかくこっちにも考える余裕を作ってくれるんだから素直に言う事を聞いた方がいいかも。


- うん、わかった。聞く。


 「そうか、それほど聞きたいなら教えてやろう!」


 別に聞きたくないんだけど…。


 「俺はこの地方を牛耳る盗賊団『ドワルダー組』の四天王!、サイ=ショーン様だ!」

 「「おおー!」」


  パチパチと拍手をする手下たち。何これ…。


 「「サイショーン様かっこいい!!」」


  パチパチと言うか革の篭手を装備してる人もいるのでボスボス言う拍手。

 そんなのと声援を送り、(はや)し立てる手下たち。

 マジで何これ…。


 「フッフッフ、言葉も無いか、無理も無い。俺様は有名だからな!」


 知らないって言ったのに…。


 「一応言っておくが、四天王になると名前の頭に『サイ』が付く決まりだ」


 誰も聞いてないよそんな事…。

 とりあえず全部倒して縛り、街道のところまで引っ張ってって、待機させておいた騎士団のひとに渡した。


 でもたった9人なんてことは無いはずだからもうちょっと調査してこなくっちゃね。






 そしてさっきの場所から少し行くとまた居た。今度も9人。


 「そうか、それほど聞きたいなら教えてやろう!」


 別に聞きたくないんだけど…。


 「俺はこの地方を牛耳る盗賊団『ドワルダー組』の四天王!、サイ=ハーン様だ!」

 「「おおー!」」 パチパチ

 「「サイハーン様かっこいい!!」」 パチパチ


 拍手をして声援を送り、(はや)し立てる手下たち。

 何これ、またぁ?


 「フッフッフ、言葉も無いか、無理も無い。俺様は有名だからな!」


 知らないって言ったのに…。


 「一応言っておくが、四天王になると名前の頭に『サイ』が付く決まりだ」


 これさっきも聞いたような…。






 そして同じようにして街道のところまで連れて行き、今度はアジトはどこだって蹴っ飛ばして尋問したらあっさりと教えてくれた。

 一番後ろの人が遅いから蹴っ飛ばしただけなんだけどね。身体強化したまんまだったからちょっとすっ飛んだけど。

 あ、繋がってて腕がグキって言った人とかもちゃんと回復魔法で治したよ?

 

 で、聞いたアジトの場所へ行くと7人居た。






 「そうか、それほど聞きたいなら教えてやろう!」


 別に聞きたくないんだけど…。


 「俺はこの地方を牛耳る盗賊団『ドワルダー組』の四天王!、サイ=タイ=ホーン様だ!」

 「「おおー!」」 パチパチ

 「「サイタイホーン様かっこいい!!」」 パチパチ


 拍手をして声援を送り、(はや)し立てる手下たち。

 えーっと、3度目だっけ?


 「フッフッフ、言葉も無いか、無理も無い。俺様は有名だからな!」


 知らないって言ったのに…。


 「一応言っておくが、四天王になると名前の頭に『サイ』が付く決まりだ、そして俺の一族にはタイが付く」

 「「俺たちはお頭付きっス!!」」


 …なんなのよ…。


 「フッフッフ、どうだ?、いいだろう?、お前は腕が立つようだから俺たちの仲間にしてやってもいいぞ?」


 ムカついたんで無言で全部倒した。サイなんとかって人はすっごい怒鳴ってたんでうるさいから黙らせた。

 そんでもってここがアジトじゃないのかってきい(尋問し)たらアジトはここだけじゃないんだってさ。まぁさっき四天王って言ってたもんね。人数からしてもこんなちょっとした洞穴じゃ入りきれないぐらいはあたしでもわかる。だから別のアジトの場所もきいた。すぐ教えてくれるのだけは評価していいと思う。うん。


 同じようにしてちょっと距離ができた街道に待たせていた騎士団の人のところに連れて行き、まだアジトがあるみたいだから応援を呼んでおいてって頼んだら、もう呼んだんだってさ。

 話が早くていいね。


 アジトの中も(あらた)めなくちゃいけないんだって、後ろから10人ぐらいついて来たけど、調査はやっぱりあたしひとりで行かなくちゃいけないみたい。

 まぁ、ついて来られても邪魔になりそうだからいいけど、なんだかなー。






 そして次のアジトのところではまたこうなった。


 「そうか、それほど聞きたいなら教えてやろう!」


 はいはい、別に聞きたくないんだけどね。


 「俺はこの地方を牛耳る盗賊団『ドワルダー組』の四天王!、サイ=バーン様だ!」

 「「おおー!」」 パチパチ

 「「サイバーン様かっこいい!!」」 パチパチ


 拍手をして声援を送り、(はや)し立てる手下たち。

 おんなじじゃん!


 「フッフッフ、言葉も無いか、無理も無い。俺様は有名だからな!」


 知らないって言ったのに…。


 「一応言っておくが、四天王になると名前の頭に『サイ』が付く決まりだ」


 はいはい、4回目かな?、これ。

 あ、これで4人目だから四天王最後って事よね?、だったらこんな茶番もこれで終わるってこと。

 最後だからサービスしてロープ2倍にして縛ってあげるからね!






●○●○●○●






 「そうか、それほど聞きたいなら教えてやろう!」


 もー、最後だって言ったじゃん。何でまた同じことに…。


 「俺はこの地方を牛耳る盗賊団『ドワルダー組』の四天王!、サイ=シーン様だ!」

 「「おおー!」」 パチパチ

 「「サイシーン様かっこいい!!」」 パチパチ


 拍手をして声援を送り、(はや)し立てる手下たち。

 縛るロープもう無いよ、さっき2倍サービスなんてするんじゃなかったわ。

 ここにあったらいいなー…。


 「フッフッフ、言葉も無いか、無理も無い。俺様は有名だからな!」


 えっと、そろそろ倒していいのかな?


 「一応言っておくが、四天王になると名前の頭に『サイ』が付く決まりだ」


 そうそう、四天王って言ったよね?、5人目なんだけど。


 「フッフッフ、驚いているようだな!、そう!、四天王は5人いる!!」

 「「おおーぉ」」


 えー…、まぁいいけどさ、ありがちなネタだし。そういう事もあるだろうとは思ってたよ。


 「実は俺も四天王に任命されて四天王会議に出席したときよ、既に4人居て(おどれ)ぇたってのはナイショだぜ?」

 「「うんうん」」


 どうでもいいよ!、そんな事。

 5人全部倒した。

 何か装備もしょぼかった気がする。もしかして下っ端レベル?、まぁどうでもいいよね。

 連れて行くのが面倒になったので、木に縛り付けてひとつ前のアジトを調査してる騎士団の人んところに伝えた。

 次のアジトの場所なんて知らないみたいだし、これが最後だって思っていいのかな?


 でも足跡が(がけ)の壁沿いに続いてるみたいだからそっちをちょっと見てから帰ろうかな。






 「そうか、それほど聞きたいなら教えてやろう!」


 また居た。今度は4人。

 だんだん部下も減ってるような。


 「俺はこの地方を牛耳る盗賊団『ドワルダー組』の四天王!、サイ=コウサイ様だ!」

 「「おおー!」」 パチパチ

 「「サイコウサイ様かっこいい!!」」 パチパチ


 拍手をして声援を送り、(はや)し立てる手下たち。

 もう四天王が何人居てもいいよ。


 「フッフッフ、言葉も無いか、無理も無い。俺様は有名だからな!」


 ……黙ってじっと見る。


 「一応言っておくが、四天王になると名前の頭に『サイ』が付く決まりだ」


 このセリフが合図ってことでいいよね?






 「そうか、それほど聞きたいなら教えてやろう!」


 また居たわ。今度も4人。


 「俺はこの地方を牛耳る盗賊団『ドワルダー組』の四天王!、サイ=エーン様だ!」

 「「おおー!」」 パチパチ

 「「サイエーン様かっこいい!!」」 パチパチ


 拍手をして声援を送り、(はや)し立てる手下たち。

 あ、篭手の人が居ないから普通の拍手だわ。


 「フッフッフ、言葉も無いか、無理も無い。俺様は有名だからな!」

 「一応言っておくが、四天王になると名前の頭に『サイ』が付く決まりだ」


 もう考えない事にする。中ボスは全員四天王!

 中ボスってほど強くもないけどね。






 そしてまた居た。7人だった。


 「そうか、それほど聞きたいなら教えてやろう!」


 もう待たない。倒そう。


 「俺はこの地方を牛耳る盗賊団『ドワルダー組』の四天王!、サイ=ゴーン様だ!、あっ、おい!、おま!、ちょ!、うわーぁ」


- ふ、安心して。峰打ちよ。


 みんな気絶しちゃってて聞いてるひと居ないけどね!






●○●○●○●






 川小屋に戻ったらもう外は真っ暗になっちゃってたわ。

 外の手洗い場で手を洗って、中に入るとサクラさんとシオリさんとメルさん、それとピヨちゃんが食事してたわ。


- はー疲れた。ただいま。おなかすいたー。


 「おかえり。大活躍だったって聞いたぞ?」


 サクラさんはにこにこと(ねぎら)ってくれた。


- 大変でしたよ、場所と範囲が。


 「盗賊団を壊滅したんですってね、ご苦労さまです」


 メルさんがあたしの分をチンして持ってきてくれた。


- わ、ありがとうメルさん。


 「調査だけでいいって言っておいたのに。まぁ助かったわ、ありがとう」


 珍しくシオリさんからお礼を言われちゃったわ。


- どういたしまして、何だか成り行きでそうなっちゃったのよ。


 「ネリの事だからどうせ見つかったら倒せばいいぐらいの気持ちでずんずん行ったんだろう?」


- そ、そんなことないですよ?


 「騎士団に報告が来てましたよ、調査と言いつつまっすぐ向かって行ったって」


- そ…うだったかなぁ…?、あ、お魚の燻製久しぶり、美味しー♪


 「それリン様が置いてって下さったんですよ」


- へー。さすがリン様。


 「ごまかしたな」

 「結果的には助かりましたし、食料以外の金品も回収できましたから」

 「そうですね、遺族の方々にも申し訳が立ちます」

 「ええ。迅速に処理できて良かったですよ」

 「このバルカル合同開拓地がこれからって時に街道の安全が保障されないのは困りものですからね」

 「騎士団の巡回も徹底させるように伝えましたし、今回の漁業割り当てでも騎士団の監視を付ける手筈(てはず)になりましたから、巡回の騎士たちが増えて行商や移住をする人々も安心することでしょう」

 「そうですね」


- あたしの働きで、ですよね?


 「勇者とはそういうもんだってずっと言ってただろう?」

 「そういう事は言わないのが美徳というものだと思いますよ?、ネリ様」


 2人から言われた。

 シオリさんは溜め息だけだった。


 頑張ったのに、何だか扱いひどくない?






次話3-030は2020年02月14日(金)の予定です。


20200208:ちょっと訂正。 ピヨ ⇒ ピヨちゃん

20240403:ファダクの発言のひとつを自然な感じに訂正。



●今回の登場人物・固有名詞


 タケル:

   本編の主人公。12人の勇者のひとり。


 ハツ:

   この3章でタケルが助けた子。可愛い。

   表情がころころ変わって可愛い。

   まだ両性だしまさに天使。

   服に興味がでてきたのは女性化して行ってるせい?


 ミリィ:

   食欲種族とタケルが思っている有翅族(ゆうしぞく)の娘。

   身長20cmほど。

   今回セリフが無いかな!


 メイリルさん:

   昔の王女らしい。

   やっとまともな格好になれる?


 ラスヤータ大陸:

   この3章の主な舞台。


 ウィノアさん:

   水の精霊。ウィノア=アクア#$%&。

   『#&%$』の部分はタケルには聞き取れないし発音もできない。

   一にして全、全にして一、という特殊な存在。

   出番がなかった。


 リンちゃん:

   光の精霊。

   アリシアの娘。タケルに仕えている。

   暇をもてあましている様子。


 アリシアさん:

   光の精霊の長。

   全精霊中最古というような存在。実は凄いひと。

   再登場はいつなんだろう。そろそろ?


 ファダクさん:

   光の精霊。

   アリシアの配下。航空母艦アールベルクでの統括責任者。

   リンちゃんと久々に食事や話ができてご機嫌なところに、

   アンデッズ担当者の話でぶち壊し。


 母艦アールベルク:

   光の精霊さんが扱う何隻かある航空母艦のひとつ。

   艦長はエナールさん。

   乗組員はかなり居るらしい。


 ドゥーンさん:

   大地の精霊。

   世界に5人しか居ない大地の精霊のひとり。

   ラスヤータ大陸を担当する。

   今回は名前だけの登場。


 アーレナさん:

   大地の精霊。

   ラスヤータ大陸から北西に広範囲にある島嶼(とうしょ)を担当する。

   魔砂漠正常化作業を地下から手伝っている。

   忙しくて今回登場せず。


 ディアナさんたち:

   3章008・9話に登場した、有翅族(ゆうしぞく)の長老の娘。

   と、その仲間たち4人。

   一応メイリルさんが連れ出されたときにその場には居た。


 アンデッズ:

   明るいアンデッドを目指す変な集団。

   タケル曰く『聖なるアンデッド』。

   母艦で個別面接の期間、監視されている。

   でも楽しくやってるようだ。


 ミロケヤ王国:

   ラスヤータ大陸の北半分以上を占める獣人族(けもぞく)の国。

   国土が魔砂漠(まさばく)に侵食されているが、

   海流のおかげか海産物が豊富で、

   工業や産業も結構発展している豊かな国。

   王都はゾーヤで、ラスヤータ大陸中央部にある。


 ネリさん:

   12人の勇者のひとり。勇者番号12番。

   ティルラ王国所属。サクラさんに剣術を教わった。

   今回は後半の主人公格。

   でもドタバタコメディ。そういう役どころ。


 サクラさん:

   12人の勇者のひとり。勇者番号12番。

   ティルラ王国所属。

   当人はあまり歓迎していないが『剣の勇者』と言われている。

   いろいろ苦労させられてるひと。


 シオリさん:

   12人の勇者のひとり。勇者番号12番。

   ロスタニア所属。

   『杖の勇者』、『ロスタニアの至宝』なんて言われてる人。


 メルさん:

   ホーラード王国第2王女。

   いわゆる姫騎士だけど騎士らしいことを最近していない。

   川小屋の管理人のような立場になっている。


 ピヨ:

   風の半精霊というレア存在。見かけはでかいヒヨコ。

   癒しのヒヨコ。もふもふ要員。

   今回ひさびさに名前が出ただけ。


 エクイテスさん:

   港町セルミドアにあるエクイテス商会の経営者。

   愛妾ドロシーの病気を治してもらって以来、タケルの事を先生と呼ぶ。

   タケルが土魔法で作った食器をたっぷり引き取ってもらった。



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2019年05月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
なるほど。わかりません。
2020年01月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
同じやん。なるほど。やっぱりわかりません。
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