1ー013 ~ おおおに
東の村のダンジョンに入って7日目。
7日だよ!?、6泊だよ!?、普通なら食料だの水だの、倒した小鬼の角だの何だのとで荷物が大変なはずなんだけど、身軽なもんです。
水は水道があるし、たっぷり買ってある食料に、リンちゃんが持ってきてる食料、あとは眠るときは不寝番要らずの結界魔法に、お風呂やベッドまで作っちゃう土魔法、などなど。
至れり尽くせりでらくらくダンジョン行だよ。今までのは何だったんだってぐらい。
こんなに楽でいいのかね?、ほんと。
で、ダンジョンといえばお宝、宝箱ですが…。見たことないね。
小鬼と骨と、あとちょくちょく見かける変な虫?、なのか?、足いっぱいあるやつ。
昆虫ってのは足が6本って決まってるらしいけど、それはあくまで元の世界の分類だし、まぁわかんないから虫ってことにしとこう。
別にむちゃくちゃでかいわけでもないし、んー、海辺とかにいるアレみたいなサイズだし、襲ってくるわけでもない。リンちゃん曰く、害はないらしい。
精神的に害があるような気もするが。
とにかく、それしか見かけない。
お宝が無いなんて、サービス悪いな。このダンジョン。
サービスで思い出したけどさ、燻製箱の中のやつ、箱詰めしてないんだよね。あと、半端に残ってる分が塩漬けしたままだったんだよ。
強化魔法かけてもらってだーっとひとっ走り行くか?、入り口ぶっちしちゃダメだから、ちゃんと手続きしてさ。
遊園地のスタンプみたいなサービス…、あるわけないかw
一応入場料ってのがあるんだよ!、セコいとか言うなよ、わかるだろ、まだ旅にも出てない序盤の序盤なんだからさ。何だよ貧乏勇者ってw、いいよ、もうそれで。
でもリンちゃんは姿見えないからタダで入ってる。
いいんだよ!、人間じゃなくて精霊様なんだから!
あ、そんで何が言いたかったかってーと、どうしようかってリンちゃんに相談するともなしに話したらさ、
「燻製作業のことですね、大丈夫です。お任せください」
って笑顔で言うんで、どゆこと?、kwskって説明を促したワケよ。
したら、
「タケルさまのお肉にみんな首っ丈でして、」
= いやちょっと回想中だけどさすがにそれは待って?、『タケルさまの作った燻製肉』な?、『タケルさまのお肉』ってちょっとなんかイヤだ。そこは回想だろうが想像だろうが断固訂正を求めたいな。
やりなおし。
「タケルさまの作った燻製肉にみんな首っ丈でして、先日の作り方を伝えたらですね、『自分もタケルさまのお手伝いがしたい!』と、希望者が殺到いたしまして、そこで選抜4名ずつで派遣して貰えることになっていたんです」
- え?、みんなって光の精霊さんたちってことだよね?、あの燻製、そんなに気に入ってくれたの?、やー何だか嬉しいなー。ははは。あと『首っ丈』って古いな。
あっ、いやそうじゃなくて。いつの間に!?、伝えたって?
「それは光の精霊ですから、光通信魔法で…」
- あっはい。もう何でもアリだよね。精霊さんたちって。で?、燻製作業してくれちゃうの?、光の精霊さんたちが?、4人体制で派遣?、うちに?w
「はい。はい。はい。はい。その通りです」
- まさか、もうやっちゃってた?
「い、いいえ。さすがにタケルさまのご許可を頂かないと…」
- む?、リンちゃんさては言うの忘れてたんじゃ…?
「い、いいえ?」
- さっきの休憩のお茶請け、ひさびさに燻製肉だったよね?、俺も他人のこと言えないけどさ、これで思い出したんだから。リンちゃんも、だよね?、ふふふ
「……さすがです。お見通しでしたか」
- おっ、リンちゃんそれヤラレ役の悪役みたいだね、いいね、ちょっとこうやってみて?、(ノドのとこをトントンって叩きながら)『我々は、光精霊だ。抵抗は。無意味だ』
「タケルさま、あたしたちを何だと思ってらっしゃるんですか…?」
- あっごめん、違うんだよ、元ネタが、って分かるわけないよね、ほんとゴメン。
それで精霊さんたちの作業がまだなのなら、あの半端な数を塩漬けしてたやつ、あれあのまま燻したら味が濃すぎて美味しくないと思うんだ。スープに使って煮物にするのならいいけど、他のと同じように食べたりするなら、塩抜きしないとダメなのよ。
やり方は、軽く水洗いして干すだけでいいんだけどね、言葉だと伝え辛いな、んー、まぁいいや、失敗してもいいからお好みの感じでやってみて、って伝えてくれるかな?
「はい、わかりました」
そしたらリンちゃん、右手の親指と小指だけ伸ばしてあとは曲げる、つまり受話器のジェスチャーして話し出すんだもん、びっくりってか、可愛い。
通話?、が終わってから訊いたらさ、別にジェスチャーする必要ないけど、何となく可愛いからやってるんだってさ。あざといなー光の精霊。
そんで燻製肉の心配が要らなくなったので、安心して進んだり戻ったりしてたさ。
毎日歩いてマッピングして、魔法の授業と練習しながら小鬼倒して、適度に休んで食事して、夜になったら風呂入ってベッドで眠る。
さすがに飽きてくる面もあるけど、何かリンちゃんが楽しそうだし、楽しそうにしてるリンちゃん可愛いな、って愛でてればいいので時間の感覚忘れそうだ。
時間の感覚っていうと、時計とかもってないし、ダンジョンだから日の高さとかわかんないんだけど、なぜかリンちゃんが、
「タケルさま、そろそろお昼です」
とか、
「そろそろ明日に備えて休みましょう」
とか言ってくれるのでそれに従ってる。
何でわかるのかさっぱりわからん。
さすが精霊様だね。
●○●○●○●
分岐やら行き止まりやら、きっちり踏破して、この先に大きめの空洞があるというところまでやって来た。
今日で14日だよ。もう絶対外の兵士さんとか、俺が中で遭難したとか死んだとか思ってるかも。
あ、そっか俺勇者だから死んだら『勇者の宿』に復活すんのか。んじゃ生きてるってわかるのか。なんだかなぁ…。
とにかく、アクティブソナー先生によると、全部で14匹の小鬼と、でかい小鬼が1匹いるようだ。
でかい小鬼って何だよw
まぁ小鬼のでかいやつだ。大鬼か?、中鬼は居ないのかな。
とかどうでもいいことを考える余裕があるんだから、魔法ってすごいね。
以前だったら尻尾巻いて逃げてたよ。ここまで来れればの話だけどさ。無理だね、荷物とか持って来れないし、食料とかさ。
どうせ小鬼ベースなんだし、素材とか肉とか利用できるものがないんだから、練習しまくった石弾で弾幕みたいにどばーって撃てば終わるよね。これ。
きっちり風魔法で補助してライフル回転って言うんだっけ?、つけてさ。
あ、ちゃんと斬撃飛ばす練習もやってるよ?、まだ風魔法の斬撃だけで、3mぐらいしか飛ばないし、威力も大したことないけどさ。なかなかかっこいいと自負してる。
魔力を纏わせると刃こぼれしにくくなるし、普通に強化したような感じになるから、剣のお手入れも楽になるし、血糊もこびりつかなくなるんだよね。いいことづくめ。
リンちゃんが言うには、有名な剣士とか剣聖とか二つ名をもってるようなひとは、自然にやってたりするらしい。って前言ったっけ?
なんか剣や刀もって戦う格闘ゲームのひとみたいだな。スゲーなこの世界。
ん?、ってことは、エフェクト自前でつけられるってことか!?
これは妄想が捗るな!、ついでに音もつけちゃったりしてさ、シャキーンズバババとかうひー、是非やってみたいが、たぶん全力で引かれて変な目で見られるんだろうな、やっぱやめとこう。
あ、リンちゃんがなんか変な目で見てる、百面相してたかもしれない。真面目にやろう。
というわけで、いっちょ気合いれて石の弾丸ばらまくか!
20180512 ルビ位置修正。(青空文庫形式)