3ー026 ~ アンデッド騒ぎ
格納室に入ると、たぶん楕円形を潰したようなでっかい物体や、たぶん三角錐やらたぶん直方体やらの一部が並んでいた。
え?、『たぶん』ばっかりだって?、だって全体的に見えないんだからしょうがないじゃないか。まぁたぶん以前リンちゃんが言ってた、宙に浮いて移動する乗り物なんだろうね。
そのへん、案内してくれてる人に尋ねてみたら立ち止まって振り向き、『隠蔽の投影がしやすいので単純な形のほうがいいんですよ』と、特に表情を変えずに答えてくれた。
それから『こちらへ』と右手に折れて歩んで行く案内の人についていくと、手すりと椅子が並んでいる区画に入り、『リフトまで移動します。お座り下さい』と言われて手近な椅子に座った。
すると、そのだいたい学校の教室ぐらいの区画ごと、すぅっと滑るように移動し始めた。これ、人や荷物を運ぶためのものか。一応魔法で動いているんだってことは魔力感知でわかったけど、なんだかなぁ、完全にSFの世界だよなぁ、こんなの。
光の精霊さんたちってどんだけ未来に居るんだってね。
前の床面には光っている青い四角が並んでいて、どうやらそれに沿って移動しているようだった。だいたい300mほど進むとオレンジ色の円形が何重か光っているのが見え、その手前でゆっくりと停止した。
「お足元の青い四角に沿ってあちらまでお進みください。リフトは上げたままにしておきますので床の模様を覚えておいてください。お戻りになられる時はその模様の所にお願いします」
はい、と頷いて指示に従い歩いて青い四角が途切れて大きめの四角が点滅しているところで立ち止まると、『結界を張って下さい』と大声で言われたのでいつもの飛行魔法用の結界魔法で自分を包み込んだ。
「では、お気をつけて!」
彼が言うと足元のオレンジ色の円、それの一番外にしゅっと結界が張られてゆっくりと床がせり上がった。ああ、リフトって言ってたもんな。
そして天井が割れたかと思ったら中心から何分割かで開いていく。
あれ?、暗いぞ?、って思って見上げていたら、そこから見え始めた障壁越しの空はめちゃくちゃきれいだった。
星空がね!
思えばリンちゃんが『この星の反対側に近い』ような事を言ってたわけで、『森の家』が昼食後少しぐらいだったんだから、こっちは真夜中になるよなぁ。
しかしそうすると、魔導師の家の人たちはみんな眠ってるだろうな、1時間以内って言っちゃったし、寄るのは止めておくか…。
そんな事を考えている間にリフトは完全に甲板に出た。ふわっと飛び上がって見下ろすとまるで飛行場のような景色が広がっていた。端のほうには円柱がいくつか、飛行場を囲むように立っていて一番近い円柱の天辺だけが薄オレンジ色で点滅していた。
床の模様を覚えておけって言ってたよな、と下を見下ろすと3重丸のオレンジ色と中心から青いラインが外の円まで半径を示すように並んでいるのが見えた。なるほど、帰りはここに着陸しろってことね。
改めて周囲と空を見上げると、雲も無く素晴らしい星空が広がっていた。
一瞬、知ってる星座が無いかな、なんて思ったけど、もしあったとしても星が多すぎて判別ができないし、雲みたいに見えてるのってこれ天の川っぽいけど元の世界のと同じかどうかなんてわからないのでただ美しい夜空だと楽しむだけにした。
そうしてゆっくり高度をとっていくと、急に風が吹いて揺れたので集中して合わせ、安定するようにした。横を見ると柱の天辺の光がやや下に見える。なるほど、その高さまでは風の影響を抑えていてくれてたってことかな。
もう一度母艦、アー…なんとか、名前ちゃんと覚えてなかった。まぁその母艦を眼下に見たけどこれ相当でかいな。母艦って言うだけの事はある。
一応、索敵魔法を使ってみると、だいたい幅600mで長さ1200mもあった。すげー。
などと感心してる場合じゃないので、端に近いほうへと飛んで下を目指した。
少し降下してから上を見たけど、視覚的には星空が広がっているだけだった。そいや『隠蔽の投影』って言ってたっけね。魔力感知的にはでっかい物体が浮いてるのがわかるんだけども。
●○●○●○●
「どうやらご無事で降下されたようですな」
近況などを尋ねられたり、この母艦アールベルクでの作業について簡単に説明をされたりと、別室に案内されてからファダク様と話していると、机の横に浮かんでいる映像と情報をちらっと見てそう言った。
そこにはタケルさまが第8甲板から飛び立たれた様子が映し出されていて、話の間中私もちらちらと見てはいた。
「そうですね、タケルさまですから」
と返すと、微笑んで、
「リン様はタケル様に相当な信頼をお寄せなのですな」
と、机の上で両手指を組みながら言った。
「正直申し上げてこの目で確かめるまでは本当にこの高度から単身、降下されるのかと不安でした」
私が何か言う前に続けて言う。
「自身の周囲を結界で包む、これは我々でも普通にできる事ですが、それで安定飛行をするという恐るべき魔力操作技術、さらには25名を運んでここまで上がって来られるというのですから、いやはや勇者という存在には驚かされますな」
雰囲気からも特に返事を求められている様子ではなさそうなので、軽く頷いてから目の前に出されているお茶を少し飲む。
このファダクという精霊は、私が生まれる前から母であるアリシアに仕えていて長い。私が小さい頃に遊び相手をしてくれた事もあったらしいのですが、そんなもの覚えていないし、物心ついた頃にはこうして里の外で任務をこなしておられるのでめったに会うことがないのです。
会うと、こうしてにこにこと笑顔でお相手をして下さるのですが、短時間ならともかく、タケルさまが戻られるまでの1時間ほどとなるとどうにも居心地がよくありません。
「アリシア様からリン様を勇者という人種に付けたと聞かされたときには目の前が真っ暗になったものですが、実際お会いしてみると納得致しました」
そうでしょうそうでしょうという意味を込めて、改めて彼と目を合わせた。
すると笑顔を深くした。
「リン様がお慕いするのも解かります。惹かれますな、あの魔力には…」
そう言って組んでいた手を解き、飲み物を手にした。
私も頷いてまたお茶に手をのばした。
●○●○●○●
母艦は魔砂漠中心部よりやや外れた位置に浮かんでいたようで、もう一度索敵魔法を使い、覚えのある地形からアンデッズのところに行く目印を見つけることができた。
目印の所に着地して、俺を包んでいる結界のサイズを小さく張り直し、毎度やっていたように土魔法で入り口のところに穴を開けて入り、塞いだ。小さな明かりを浮かべ、トンネルの長い斜面を滑るように移動し、広い空間や廊下を通ってアンデッズのところへと急いだ。
結界を解除し、階段を下りて彼らの部屋というか地下倉庫のような部屋へと近づくと、何やら騒がしい。何だろうと思いつつ部屋に入ると急に静かになり、勢ぞろいというか全員集まってこっち向いてた。
「お帰りなさい、兄貴!」
「「お帰りなさい!!」」
リーダーゴーストがまず言って、全員が続く。あーびっくりした。本当に見栄えがホラーだからこんな薄明かりで照らすとドキっとする。
スケルトンは笑顔なのか判別できないが、ゴーストたちは笑顔だった。どうやら歓迎はされているようだ。片手を上げると静かになった。
- あー、だいぶ待たせちゃってごめんね。すぐ移動になるけど準備はいいかな?
と言うとリーダーが一歩前に出て、両手を軽く広げた。
「もちろん!、俺たち身ひとつですからすぐにでも構いません、なぁみんな!」
「「はい!!」」 「「おぉ!!」」
あ、そうですか。
よく見ると置いて行った大小のタオルは首からかけたり頭に巻いてたりとさまざまだ。魔力感知的に忘れ物ってのは無さそうだった。
ん?、壁に何か表が…。
俺が壁を見ているのに気付いたのか、リーダーが大仰な仕草で言った。
「ああ、あれですかい?、兄貴が置いてってくれたサイコロ勝負の表ですよ」
「第一回の優勝は私でした!、あとは全部負けちゃったけど」
「お、俺2回優勝しました!」
「俺全然優勝できなかった…」
- へー、ってこれ壁の表全部?
「消して書き直したのもあるんですぜ」
どんだけやったんだ。
- そうなんだ、これ何で書いたの?
筆記用具なんて置いて行かなかったし、石とかで壁に傷つけたのかな?
「そりゃあ指先でこうやってです」
スケルトンがひとり、壁に近づいて指先で壁に線を引いた。
「指先が削れてくんですけどね」
「「あっはははは」」
「だから交代でやってました」
あっそう。笑い事なのか。
- 指先、削れていいの?
「ほっときゃそのうち治るんじゃねぇですかね?」
治るのか?、そういうもんなのか?
わからないけど、当人たちが楽しそうだからいいか。
- そうか、んじゃそろそろ行こうか。
「「はい!!」」
いい返事だなぁ、と思って来たほうに振り返ったとき、
「あ、あの!、兄様!」
と呼ばれた。
- はいはい?
「お風呂に入りたいです…」
「あー、そうだな、だいぶ埃っぽくなっちまったしなぁ」
「床で寝たせいもあるなー」
- あれ?、部屋足りてなかった?
一応数えて作ったつもりだったんだけど。
「違いますよ、こいつ寝相悪いんですよ」
「「あっははは」」
一応言うけど、その人ゴーストね。
骨ならわかるけど、幽霊が埃っぽくなるのか?、埃っぽい幽霊って何だよ…。
- これから移動するんで、土埃でまた汚れちゃうと思うんですよ。外に出てからじゃだめですか?
「あ、それでいいです」
「「うんうん」」
- ところで、君たちって眠るの?
「別に眠らなくても平気ですが、眠ったほうが元気になる気がしますね」
とゴーストが言う。
「短時間休む事はあります。長いと死んでるって思われるんで…」
とスケルトン。
「いや俺たちもう死んでるから!」
「「あっははは」」
楽しそうだなぁ。
一応、眠ることもある、ってモモさんたちには伝えればいいかな。
- それで、一応訊くけど、食事は?
シーンとなってしまった。
あ、やっぱ悪い事きいちゃったな。
- ごめん、訊いていいことと悪い事があるよね。
「謝らねぇで下せぇよ兄貴。逆にお尋ねしたいんですが、俺たちが食べれそうな物って何かご存知ありやせんか?」
- そう言われても、他にアンデッドの人たちを知らないからね…。
「そうですよねぇ」
「齧るだけならできるんですが…」
「ここ、開いてますからね、下に落ちるだけっすね」
「俺なんて歯が2本しかねぇっすよ」
「「あっははは」」
何でも笑いに繋げるのか。いいけどさ。
- まぁそうだよね、とりあえず食事は不要って言っとくよ。じゃあ行こうか。
「「はい!!」」
今度こそ移動を始めた。
廊下や洞窟部分はあまり幅が広くないので、2列縦隊のような感じでぞろぞろと歩いて行く。
これだと出口まで20分ぐらいはかかりそうだ。母艦を出てからここまで5分もかかってないし、出てから入浴をさっと、そうだな、10分ぐらいで切り上げさせるとして…、まぁ余裕はあるな。
後ろは何やら楽しそうにがやがやと喋りながらの移動だった。
「兄貴、さっき『言っとく』って仰ってましたが、俺たちの行き先って決まったんですかい?」
途中、隣を歩いているリーダーが尋ねてきた。
- ああ、うん。一応は森の中にある俺の家っていうか、管理してもらってる人たちが住んでいる所なんだけどね、その近くに小屋を建ててもらって一時的に様子を見ようっていう事にはなったんだ。
「そうなんですか。その、大丈夫なんですかい?」
- 大丈夫って、何が?
「いえこの人数ですから、大所帯ってか、そんなにまとめてご厄介になるのはご迷惑にならないのかなって、ちと思ったんでさ」
- んー、まぁ食費もかからないし、小屋建てるぐらいなら魔法ですぐだし…。
「あ、いえそっちじゃなくてですね、その、自分で言うのも何ですが、俺たち見栄えがあまり良くねぇですから…」
- そのへんは大丈夫だと思うよ。ひとを見かけで判断するような人たちじゃないから。
「何て出来たお人なんで…、うぅっ、兄貴といい、その方たちといい、俺たち運が良かったなぁ…」
「「リーダー!」」
歩きながら泣き出したリーダーに他の亡者たちがごちゃごちゃと群がった。
としか表現できない絵面だけどみんなぐすっとか言って泣いてる。もらい泣きか。まぁ声に魔力が乗ってるし、聞こえてたんだろうね。後ろの群がってないひとたちも目元を手で覆っていたり、片腕を目のところにやったりと様々だ。って、ゴーストは涙も出るみたいだし、泣き顔だからいいとしても、スケルトンは涙なんて出ないでしょ。袖で目元を拭ってるけどさ。
声だけは『うぅ…』とか『ずずー』とか言ってるけど。いやいや鼻水出ないでしょ。
「俺たちが泣いちゃあ雰囲気が最悪だ、笑って行こうぜ!」
俺が何か言う前に、後ろからそう言ったひとがいた。
「そうだった、すいません兄貴」
「明るく行かなくちゃね!」
「お前だろ、口で『ずずー』とか言ってたやつ」
「つい、雰囲気で」
「鼻水どころか涙なんて出ねぇんだから」
「俺たち息してねぇよ!?」
「「あっははは」」
何なんだ…。
いやー途中の大きな空間のところ、俺はいつもの飛行魔法があるから普通に通ってたんだけど、帰り道としてはそこって5・6mぐらい上の廊下に飛び上がるんだよね。
どうしようかな、ってちょっとだけ考えてると、『あそこですかい?』と訊かれた。
頷くと、ゴーストはすぅっとゆっくり飛びあがって行った。それはいいけど、スケルトンたちどうしようって思ってたら、壁を登り始めたので急いで止めた。
「軽いから大丈夫ですぜ?」
と言われたが、階段を上ってもらったほうが見た目にも安心できるので、ちょっと下がってもらって手すり付きの階段を作った。『おおー』とか言われた。
だって壁がもろいんだよ、ここ。崩れたみたいな箇所もちらほらあるからね。
それで階段を上がったスケルトンの先頭が、先に廊下に到着してて、こっちを覗き込むように見たゴーストとぶつかりそうになって、お互いに『ギャー!』って叫んで尻餅をついていた。
- 大丈夫ですかー!?
と叫ぶと、『大丈夫ですー!』って返事。階段に居るスケルトンは片手を振ってこっちを見ていた。
全員が廊下に到着すると、『お前ほんと怖がりだよな』ってたぶん先頭だったスケルトンに言ってるスケルトンが居た。
「だって、びっくりしたんだもん」
あ、女性か。だったらしょうがないんじゃないのかな。
「いい加減慣れたろ?、目で見てんじゃねぇんだし、居るのわかってたろうに」
「だってぇ…」
と言ったところで俺も他のひとも皆が2人を見ているのに気付いたようだ。
「あ、すんません、こいつ、初めて俺と会ったとき『ギャー!、お化けぇ!』って両手上げて逃げて壁にぶつかって肋骨折ったんですよ。てめーだってお化けじゃねぇかって呆れたんですがね」
「「あっはははは」」
「もうやめてよぉお兄ちゃんー」
- お兄ちゃん?
あ、つい声に出てしまった。
「同じ家で目覚めたんでさぁ、そんでそれからこいつは俺の事そう呼ぶんでさ」
- なるほど。じゃああとちょっとなんで、進みましょうか。
「「はい!!」」
というような事もあったが、何とか外に連れ出す事ができた。
砂嵐はまだあるし、魔塵の影響も前よりあるので、俺はドゥーンさんが張っていたのと似た結界を張ってから、彼らを穴から誘導した。
そういえば地下部分でも地上に近いと魔塵の影響がありそうなもんだけど、様子を見てた限りではほとんど影響が無いみたいなんだよね。何か理由があるんだろうけど、まぁ今はいいか。
外に出ると、『これが外かー!』、『やったー!』と喜んでいるようだった。
ひとり、『広い、明るい!』って言ってたのが居たんだけど、真夜中だよ?
とにかく約束通り壁を作って2つの浴槽を作り、椅子やら桶やらを作って各自洗わせることにした。もちろん脱衣スペースも用意した。
あまりのんびりとはできないって事をしっかりと注意してから入らせる。
前回のように、全員漲って騒ぎ、喜んでいたようで何よりである。
お湯の温度は俺がいつも入るときぐらいにしていたつもりだったんだが、湯気がすごかったんで一応温度を確かめたら変わりはなかった。
まぁ真夜中の砂漠なんで寒いってのはわかってるし、乾燥してるのでどんどん蒸発するんだろうね。囲ってるから風も無いし。
彼ら彼女らが入っている間に脱衣所で衣類をそれぞれまとめて洗い、ぶわーっと乾かして置いておくなどの作業をしていると、手早くって言っておいたからか、洗う時間の短いゴーストたちがぞろぞろと上がってきた。例によってうすーく光っていた。
「洗って下さったんですか!、ありがとうございます」
「「ありがとうございます!」」
浴室との境にかけてある布をくぐって脱衣所に出てきて、俺を見るなりそう言った。女湯のほうからもお礼の声が聞こえた。いあまぁ魔力音声だからなんだけど。
よく洗ったってわかったなと言うと、『衣類に兄貴の魔力が残ってるんです』と言われた。残るのか、なるほど。
置いてあった順番なんてわからないから乾かしたあと無造作に置いておいたんだけど、元が誰のとか関係なく、適当に手にして着衣していったようだ。
- ごめんね、まとめて洗っちゃったんで誰のとかわからなくて。
「ああ、俺たちどうせ色なんてわかんねぇんで」
「サイズだけ合ってればどれでも同じですよ」
「こんなに心地いい魔力を感じられて幸せです」
「幸せなお湯でしたー」
「漲るよな!」
まぁ喜んでるならいいか。
またズボンに穴あいてんぞ、ぎゃっははは、みたいな騒ぎはあったが、全員並んでもらって、軽く飛行魔法の説明をした。
飛んで行くと聞いた彼らは驚いていたが、それは恐怖とかではなく…、
「俺、空飛んでみたかったんだ!」
「俺も!」
「幽霊たちが飛んでるのが羨ましかったわ…」
と言う骨側と、
「兄貴って空飛べるんですかぁ」
「すげぇぜ!」、「さすが兄貴様!」
と言う幽霊側とにわかれていた。
そして、きっちり結界で包み、飛び立つと亡者たちが群がってきた。さすがに不気味なので俺のぎりぎり周囲に結界を張った。
もうね、ちょっとは慣れたけど、これはこれですっごいホラーだ。
何せゴーストたちって重なるんだよ。
マジで後ろなんて見たくない。いや魔力感知で感じ取れるんだけどさ。
骨が群がってるだけじゃなく、結界にへばりついてる顔、顔、顔、手、手、手、こえーよ!、マジでこれは絵面がヤバい。
「兄貴ぃ!、通り抜けられないんスけど!」
「下、下が、下が!」
「押すなよ!、折れるだろ!」
「ちょっとぉ!、変なところから手ぇ出さないでよ!」
「うおぉぉ!、飛んでる!、飛んでるぅ!」
「兄様!、みんなが怖いんです!、助けてくださいぃ!」
「押さないでぇぇ!」
こういうのも阿鼻叫喚って言うんだろうか?、それとも地獄絵図?
●○●○●○●
いつものような速度は出せないのでゆっくりめに飛んだ。なんせいつもより結界のサイズが大きいので、風を受ける面積も大きくなるわけで、飛びづらいんだよね。制御が難しいっていうかさ。それと、後ろが騒いでるし…。怖いし。
まぁ後ろは放っておいて考えた。やっぱり一応、保険をかけておこうかな、と。
というのも、あのファダクさんが光の精霊さんの里を中継することを許可してくれなかった場合、他の精霊さんに転移をお願いするか、俺が地道に飛行魔法で運ぶかのいずれかになりそうなんだよ。
まず前者はちょっとおいといて、後者だけどそうすると途中からでもリンちゃんが合流して同行する可能性がある。ってかたぶんそうなる、と思う。
これが、俺がこっそり転移魔法を使えない理由なんだ。いやゴメン、ちょっと格好つけてた。
理由は他にもある。通常の人間25名と違って、たぶん質量的にはかなり軽いと思われるアンデッズ25名だけど、そんな人数を転移魔法で運ぶなんてもちろんやったことなんてないので、いつもの飛行魔法と違って自信がない。
リンちゃんには黒リンモードで、モモさんにはいたずら少年が近所のきれいなお姉さんに『めっ!、だよ』みたいに言われたような雰囲気でそれぞれから禁止されてるのも、俺の転移魔法は範囲設定が甘いって話なので、そんな人数を運んで、まぁアンデッドなんだから多少身体が欠けても死にはしないだろうけど、後始末やら危険度を考えるとぶっつけ本番ではやりたくないってのもある。
それにね、里を中継する許可が出ないなら、おそらく監視を付けられると思うんだよね。『森の家』でモモさんにアンデッドの話を切り出したときのあの雰囲気は、通常のアンデッドという存在が複数湧いたという状況がかなり危険度が高いという認識でいるんだと感じさせられたからね。
だから監視は付く。俺ならそうする。絶対に。
そういう監視がある状況で、俺には転移免許は要らないって言われたけど無免許で、精霊でもないヤツが25名のアンデッドを転移させるなんてことをしたら、まぁ敵に回るなんてことはないだろうけど、確実に叱られると思う。
誰に?、ってそりゃあトップのアリシアさん他、いろんな光の精霊さんたちに、だよ。
という訳で、許可が下りないと主に俺が面倒な事になりそうなので、さっきおいといた”前者”の手段を取れそうなひとに当たりをつけておこうっていう、そういう保険をかけに今から行くってわけ。
水の精霊ウィノアさんは、この大陸というかこの地域では力を発揮できないみたいだから、今回は頼めない。
となると、残るは大地の精霊ドゥーンさんとアーレナさんのお2人にお願いしてみる方法しかない。もしかしたら何かの理由で、途中まで転移で運んでもらってから、そこからウィノアさんにお願いするって方法も考えられるけど、そこらへんはまず話をしてからだね。
真夜中に行くのはちょっと躊躇う気持ちが無いわけじゃないけど、上で1時間以内なんて言っちゃったし、万が一上で拘束されたりしたらね、予め味方につけられるなら心強いかなってね、勝手な理屈なのはわかってるんだけども。
甘いかも知れないけどねー、まぁ、ダメだったらまた考えるさ。
アンデッズたちに結界越しに群がられながらも、魔導師の家に張られた結界に同調して家の前に着陸した。
- はい、到着したんだから離れて離れて。
と言うと、ガチャガチャと音を立てて離れようとしたスケルトンたち。
「ちょっと、どこ触ってんのよ!」
「すまん、手が引っかかって抜けねぇんだ」
「おい、俺の肋骨もってくなよ」
「罅んとこ折れちゃったよ…」
絡まってたのか……。
ゴーストたちはすーっと音も無く通り抜けるように離れてってたけどね。
絡まってたのや重なってたのが適度に散って落ち着いたのを見て、魔導師の家の扉に行こうとしたら、急に扉がバタンと開いてドゥーンさんがまず飛び出してきた。後ろにはアーレナさんも続いて出てきた。
そして数歩、ふたりが並ぶ。
「彷徨える亡者どもめ!、タケル殿を誑かしよったな!?」
「疾く去れ!」
俺が何か言う前に、すごい剣幕で2人が順に怒鳴り、ドゥーンさんが軽く前に構えた両手の間から光の奔流が辺りを照らした。すっげぇまぶしい。
「「おおおおー!」」
呻きながらアンデッズたちが崩れ落ちた。
あっこれ浄化魔法!?、この人たち消えちゃう!!
あれ?、でもよく皆を見てみると、なんだか呻いてるんじゃなくて感動?、みたいな?
崩れ落ちたのは跪いただけで、スケルトンもゴーストも胸元で手を組んで、あ、ゴーストたち涙流してる。涙出るのは何度みても不思議だな。
「何だと!?、浄化が効かんぞ!?」
「何だって!?、そんなバカな!」
光の奔流が止んだ。
ん?、アンデッズがなんかさっきより光ってるぞ?
「わぁ、罅がはいってたところがきれいになりました!」
「俺も、折れてたところが繋がってる!」
「歯が生えた!!」
「なんだか、骨がしっかりした気がする…」
「「ほんとだ!!」」
と口々(?)にカタカタ言ってるのがスケルトンたちで、
「何か透明度が下がったかも?」
「お前、髪の色赤かったんだな」
「え?、マジで?、誰か鏡もってない?」
と、何だかはっきりくっきりコントラストが上がったのがゴーストたち。
何か喜んでるみたいだからアンデッズは放っておいて、とりあえずドゥーンさんたちのほうを何とかしよう。
- あのですね、このひとたちは普通のアンデッドじゃないみたいなんですよ。
「誑かされてはおらんのか?」
- はい。特に何もされてませんし。明るいところに連れてって欲しいとお願いをされたぐらいですね。
「何だって?」
- 僕の魔力感知でも彼らは光属性にしか見えないんですよ。さっきの浄化って光と大地の混合属性ですよね?
「そ、そうじゃがお前さん、よくわかったのぅ」
そりゃ目の前であんなにはっきり直接的な魔力操作をされたらね。真似をして覚えるのに慣れた俺なら、やってみろって言われたらできる。それぐらい覚えやすい魔力操作だったし。たぶんダミーとか冗長部分とか入れてなかったんじゃないかな。
「それがどうして効かなかったんだい?、あのアンデッド共はアンタの言うように本当に光属性ってことなのかい?」
- 今お2人がご覧になってるのがその証拠でしょう?
「うーん、俄かには信じられんが、確かに光属性じゃな」
「アタシゃこの目がおかしくなっちまったのかと思ったさね」
- だから回復と強化になってるんじゃないでしょうか。
「うーん…」
「それで、こんなのをアタシらの前に連れてきてどうしようってんだい?」
- えーっとそれで少しお願いがありまして。かくかくしかじかで…、
と、事情を説明した。
「なるほどね、そりゃあ光のんとこにアンデッドを連れていくなんざ、無理もいいとこさね」
「まぁ普通なら見つかったら即浄化されて消されるがのぅ」
- もうお分かりのように、普通じゃないので…。
「そうさねぇ…」
「そうさのぅ…」
と、数秒黙ったかと思うと、
「まぁええじゃろ、光のに断られたらでええんじゃな?」
- はい。お願いできますか?
「と言うても儂らが送れる場所は限られとるでな」
「途中までしか送れないね」
「じゃな」
- はい、それで充分なんです。でもできれば水場に近いところでお願いします。
「水場?、ああ、そういう事かね」
「なるほどの、なら構わんよ」
「アンタにゃ借りがたっぷりあるからね、そう言えばよく無事だったね。あの子らも心配しとったよ」
「そうじゃよ、生きておるとは聞いておったがの、そのうちここに来るじゃろうと宥めておったんじゃが、まさかこんな集団を連れて来るとは思わんかったのぅ、ほっほ」
「さぁさ、ここはアタシらに任せて、中で顔を見せておやり」
- あっはい、ではお言葉に甘えます。
ちらっと後ろを見ると、一応は興奮も冷めたのか、ほけーっとこっちを見てるのが半数、変なポーズとってるのがちらほら、でも全員まだ膝をついたままだった。
- あ、一応紹介だけ。このお2人は大地の精霊ドゥーンさんとアーレナさんです。もしかしたらお世話になると思うので、失礼の無いようにお願いしますね。
「「はい」」
「精霊様だって?」
「精霊様?」
「大地の精霊さまー!」
「おかげで歯が生えましたー!」
「きれいになりましたー!」
「拝んどけ拝んどけ」
「骨折が治りましたー!」
「ありがたやー!」
まぁこの2人なら言葉も通じるし、大丈夫だろう。
- じゃ、ちょっと行ってきます。
アンデッズに拝まれてる2人が複雑な表情で頷いたのを見て、少し開いた状態の扉へと駆け寄った。
●○●○●○●
扉を開けて中に入ると、目の前にハツとメイリルさんが居た。ふたりとも引きつった表情だったが、俺が入ったら安心したのか何だかよくわからないが飛び付くように抱きついてきた。次いで天井付近から急降下して俺の顔面に直行してきたのを手でキャッチ。
え?、なんでメイリルさんも?
「あっ、酷いかな!、でも久しぶりの感触かな!」
- ごめんね、すぐに戻ってこれなくて。元気にしてた?
「はい…、すごい爆発に巻き込まれたって聞いて、すっごく心配しました」
「ミリィは元気だったかな!」
「…ぐすっ、お兄さん、無事でよかった…」
「そうそう、精霊様が追放されてたのを保護してきたかな!」
え?、見事にばらばらだな。ハツは何で泣いてんの?
ミリィは今なんて?
- えーっと、順番に聞こうか。メイリルさんはだいぶ元気になったみたいですね、良かった。少しは慣れました?
問いかけると俺にそっと抱きついていた状態から半歩下がって、俺を見上げてからさっと目線を下げて小声で答えた。
「はい、おかげで恙無く。あの、助けて下さってありがとうございます」
そうすると頭の上にある可愛らしく揺れる獣耳が目の前に…。
もふっていいのかな?、ダメかな?、頭を撫でるぐらいならいいかな?
誘惑に負けて撫でた。
「あっ」
- あ、ダメだった?、ごめん。(耳が)可愛くてつい…。
「か、か…」
「そろそろ離して欲しいかなー」
- あ、ごめんごめん
ミリィを左手で握ったままだった。
「もー、ずっと捕んだままなんて酷いかな!」
- そりゃ悪かった。でもあんな勢いで顔に向かって来るからだよ?、で、誰を保護したって?
「あ、そうそう、あの島に居た黒いのたち5人かな」
黒いの…?、あー、ディアナさんたちか。
- へー、結局連れてきちゃったのか、どこにいるの?
「裏の小屋で寝てるかなー」
「私たちは精霊様に起こされたので…」
なるほど、真夜中だったね。
- そっか、ごめんねこんな夜中に。
「ううん、無事に帰ってきてくれたからいいの」
涙目のハツが抱きついたまま顔を上げて言った。
- それがね、外の人たちを送り届ける途中でちょっと寄っただけだから、またすぐに出なくちゃダメなんだ。
「えー?」
「じゃあミリィも行くー!、あうっ」
ポケットに飛び込もうとしたミリィをむんずとキャッチ。
- 今回もダメ。ここで待っててね。
「ほんとかな?、次は絶対ついていくかな!」
俺が握っている手をぺちぺち叩いていたのを止め、そんな事を言うミリィ。
正直いってミリィに付いて来られるのは騒動のタネにしかならないような気がするんだけども…。アンデッズよりはマシか?
「では外で精霊様たちを拝んでいらっしゃるのが…?」
へー、扉で見えないのに、メイリルさんは魔力感知できる人だったっけ。
- あ、うん、そう。あ、ちょっと置いていったものを回収させてね。
「うん」
ハツの肩をそっと押して離れてもらい、ウィノアさんの首飾りを置いてったのを回収しに行く。
部屋に入り、隅の木箱のところに近づくと、俺の首元からにゅる~んと細い手が出て、服の上に置いていた首飾り球体を掴んだかと思ったら吸収したのかしゅっと消えて、またにゅる~んと手が首元に戻ってきた。
何だ、これなら俺が手にとってくっつけなくてもいいんじゃん。
『しくしく』
そう言えばさっきの球体、やっぱりもらった時よりサイズ小さくなってたな。ビリヤードの球ぐらいになってたぞ。
『しくしく』
服もそのままポーチに回収した。よし、用事は済んだし、そろそろ上に戻らないとね。
『ずっと放置されて寂しかったですよぉ、うあぁん』
あーもーうるさいなー。絶対言われると思ってたけどさ。
ほんの数日じゃないか。ウィノアさんにとっては数日なんて一瞬でしょ。
とは言いたくても言えないけども。
- はいはいただいま。お待たせしました。
『でもタケル様も大変だったご様子ですし、もういいです』
なんなんだよ…。
部屋を出ると、皆は外に出ているようで誰も居なかった。
外に出ると、ゴーストとドゥーンさんとメイリルさんが何やら妙な雰囲気で話していた。
- どうしたんです?
「ああ、タケル殿。このゴーストがの、メイリルを見たことがあるっちゅぅての」
「見たって言っても肖像画ですが、この方と、ご家族らしい絵とが壁に掛かってたんです」
- 肖像画ですか、あの不気味な空間でですか?
「不気味な空間…?」
「はい、私が生まれたといいますか、気がついたといいますか、その家の大きな部屋の壁でした」
- どんな家です?
探しに行くにせよ、あそこは家が多かったからね。もうちょっとヒントが欲しい。
「あそこで一番大きな家でした。あ、中央の広場でです。沼から広場の中心を挟んで反対側でした。あの、これだけでお役に立てますでしょうか…?」
- そっか、ありがとう。あとでその絵を回収しに行くよ。
「兄貴様…」
このひとか。兄貴様って妙な呼び方してたのは。
不安そうな表情。幽霊だと表情がよくわかっていいね。今はコントラスト高いし、よくみえる。
- 大丈夫、案内しろなんて言わないから。
「はい」
よかった、と言いそうなぐらい安堵している。
よほどあの不気味な空間がイヤだったんだろうなぁ。まぁ俺だってあまり行きたいと思えるような場所じゃなかったけども。
- メイリルさん、今は一旦このひとたちを送り届けなくちゃいけないんで、戻ったらその絵を回収して、見てみましょう。
「はい、お手数をおかけします」
「もう行くんかの?」
- はい、上は上でお待たせしているので。
「そうか。この者らをよく見れば大丈夫と思うが、これを持って行くとええ」
ドゥーンさんはオーバーオールのポケットから白い石版を取り出し、俺に差し出した。手のひらサイズで両面ともつるんとしていて無地だ。
- これは?
「アリシアかそれに準ずる者に渡すとええ。渡せばわかるでの。ほっほ」
ふむ。何かの証明書みたいなアイテムだって思っておこう。
- そうですか、ありがとうございます。では行ってきます。
「うむ」
「気をつけて行くんだよ!」
「行ってらっしゃい」
またミリィがもぐりこんだりしないか警戒していたが、大人しくしているようだった。
アンデッズのほうを見て、また整列してもらい、結界で包んでゆっくり浮かび上がった。
下のみんなは手を振っている。
アンデッズたちも手を振っている。
俺は上を見上げてドゥーンさんの結界に同調し、すぅーっと抜けていく。目では見えないんだけどね、そのほうが同調操作しやすいんだよ。
完全に抜けてから、加速を始めた。
「うおぉぉ!」
「ぎゃー!、潰れるぅ!」
「折れる!折れる!」
「押さないでぇ!」
「やめてぇ!」
「助けてー!」
またか。またなのか。
ちゃんと加速による慣性は相殺できているはずなのに。ああ、できてるから前方の俺に突撃ができるのか。どうしてこう、みんな飛行中に落ち着いてくれないんだろう?
ああ、そう言えばネリさんはもう怖がってないんだっけ。でも面白がって飛びついて来るんだから同じか。
それはともかく、後ろはホラー状態なので気にしないことにして、ぐんぐん上昇し母艦へと近づいて行った。
●○●○●○●
「失礼します、ファダク様」
「む、どうした?」
「タケル様らしき飛行物体が接近中との事です」
「ああ、それならこちらでも見えている」
と、ファダク様が机の横に浮かんでいる映像を指差す。
「それがその、タケル様の結界でありますが、その内側に見える方々が、些か妙でして…」
困ったように言う報告者に、眉を顰めるファダク様。
「妙だと?、どれ…」
と、その映像を直接操作するように指先を動かして、ゆっくりと近づいてくるタケルさまの映像を拡大表示した。
タケルさまの後ろ、おそらく結界障壁でしょうね、そこにへばりついている顔・顔・顔、手・手・手、ごちゃっとなっている骨・骨・骨…。
確かにアンデッドだとは聞いていましたが、亡者たちに迫られるタケルさまという映像は息を呑むほどに衝撃的でした。あれだけごちゃっと重なっていると25名と聞いて居なければ何人いるのかわからないところでした。
「こ、これは…、ま、まさかタケル様がお連れしているのは、アンデッドではないか!?、どういう事ですかリン様!」
机に身を乗り出すようにして問い詰めるファダク様は、いつも私に向けている笑顔ではなく、焦りと困惑の表情でした。
「よくご覧下さい。タケルさまの後ろに迫っているアンデッドたちは光を放っているのが見えませんか?、そちらの計測値も光属性であることを示しているではありませんか」
その映像ではタケルさまはもうこの艦の甲板上空へと到着されたようで、ゆっくりと着陸動作に入られているようです。
タケルさまが光属性だと仰っていましたが、この母艦に属性センサーがあって良かったと思いました。
「うーむ、信じられんが確かにそのようだ…、妙だと言ったのはこの事か?」
「はい、タケル様でしたし、まさか攻撃をするわけにも行かず、どうしたものかと…」
「ではタケルさまをお迎えに上がります」
そう言って立ち上がろうとすると、
「お待ちくださいリン様!」
と止められた。
「控えの部屋にご案内するのでしょう?、格納室から」
「はい、そのつもりですが、しかし…」
と、困ったようにちらっと報告者のほうを見た。
「あ、あの…、艦内の兵に召集がかけられておりまして…」
「という状況でして…、」
「何ですって!?」
兵を招集という言葉に思わず割り込んでしまいました。
「リン様、落ち着いて下さい!」
「タケルさまに攻撃をするつもりデスか!?」
「滅相もございません!、一応、安全のために浄化をと…」
「光属性の者に浄化魔法が効くと思うのデスか!」
「そうですが、それはそれ、アンデッドをこの艦に乗せるなどと…」
「タケルさまが信用できないと!?」
「とんでもない!、ですが一応安全のためにですね、」
「話になりません、そこの者、タケルさまのところまで案内しなさい!」
「は、は!」
急に命令された報告者はばっと音がするほどの勢いで敬礼をしてから、ファダク様のほうを窺いました。
「り、リン様!」
「こうしている間にもタケルさまに攻撃をしかける兵が居るかも知れません、急ぎなさい!」
「は、はい!」
「ああ良い、私が案内しよう」
「は!」
諦めたように言うファダク様。それに安心したかのように言う報告者。そして入り口のところで脇に避けて敬礼をし、私たちが通るのを待つようです。
今気付きましたが、肩章を見るとこの報告者は結構高い階級の者でした。
その横を通り、ファダク様と一緒に早足で向かうと後ろから彼もついて来ていました。
次話3-027は2020年01月24日(金)の予定です。
20200122:誤字訂正。 下を目差した ⇒ 下を目指した
20200122:なんとなく修正。
(修正前)説明をされたりとファダク様と別室で話をしていると、
(修正後)説明をされたりと、別室に案内されてからファダク様と話していると、
(修正前)入浴をさっとさせるとして10分ぐらいで切り上げさせるとして
(修正後)入浴をさっと、そうだな、10分ぐらいで切り上げさせるとして
20200130:動作の描写を修正。
(修正前)そう言って立ち上がると、 ~ 思わず立ち上がって
(修正後)そう言って立ち上がろうとすると、 ~ 兵を招集という言葉に思わず割り込んで
20200201:語感が良くない気がしたので修正。
(修正前) 今気付き ~ もそれなりの階級についているようでした。(改行)
その横を ~ 彼も後ろからついて来るようでした。
(修正後) 今気付き ~ は結構高い階級の者でした。(改行)
その横を ~ 後ろから彼もついて来ていました。
20230217:いくつか訂正。
管制室を出て移動してから ⇒ 第8甲板から
魔塵影響 ⇒ 魔塵の影響
「すげぇぜ!、さすが兄貴様!」 ⇒ 「すげぇぜ!」、「さすが兄貴様!」
喜んでいるようだったが、 ⇒ 喜んでいるようだった。ひとり、
20230528:濁点抜け訂正。 すっと ⇒ ずっと
●今回の登場人物・固有名詞
タケル:
本編の主人公。12人の勇者のひとり。
主人公って大変ね。
ハツ:
この3章でタケルが助けた子。可愛い。
ひさびさの登場。
ミリィ:
有翅族の娘。
出番少ないかな!
メイリルさん:
昔の王女らしい。
幽霊に話しかけられてびっくりして怖がっていた。
ドゥーンさんが間に入ってくれなかったらパニックになる所だった。
ネリさん:
12人の勇者のひとり。勇者番号12番。
勇者番号とこの世界に来た順は異なる。
今回は名前だけの登場。
ウィノアさん:
水の精霊。ウィノア=アクア#$%&。
『#&%$』の部分はタケルには聞き取れないし発音もできない。
一にして全、全にして一、という特殊な存在。
首飾りが合体してもひとつ。
リンちゃん:
光の精霊。
アリシアの娘。タケルに仕えている。
がんばった。
アリシアさん:
光の精霊の長。
全精霊中最古というような存在。実は凄いひと。
そろそろ再登場の気配?
ファダクさん:
光の精霊。
アリシアの配下。航空母艦アールベルクでの統括責任者。
アンデッド憎むべし、アンデッド浄化すべし!
でもリンちゃんが心配。
母艦アールベルク:
光の精霊さんが扱う何隻かある航空母艦のひとつ。
艦長はエナールさん。
ちなみに連絡係をしたのは副艦長のデイツさん。
母艦だけあって結構でかい。
モモさん:
光の精霊。
『森の家』を管理する4人のひとり。
食品部門全体の統括をしている。
他の3人は、それぞれベニさん、アオさん、ミドリさんと言う。
心の中ではタケルの身を案じている。
ベニさん:
光の精霊。
モモの補佐をしている。4人のうち最年少。
タケルが連れて来るアンデッズに興味と不安が半々。
アオさん:
光の精霊。
モモの補佐、主に機械や魔道具関係を担う。
配達中。
ミドリさん:
光の精霊。
モモの補佐や、食品部全員の美容面を担う。
美容師の資格をもっている。
同じく配達中。
寮の子たち:
光の精霊。
『森の家』に隣接している燻製小屋という名の工場で働く、
同じく隣接している寮に暮らす200名以上いる若い精霊たち。
モモが統括している食品部門に所属している。全員女性。
前回、名前が簡単に聞こえたのは、
精霊たちの名は精霊語であるため、タケルにわかりやすいようにと
単純化した名前を名乗るようにしているから。
モモたちも同様。
ドゥーンさん:
大地の精霊。
世界に5人しか居ない大地の精霊のひとり。
ラスヤータ大陸を担当する。
ほっほ、とか言ってるけど浄化が効かなくて内心かなり動揺していた。
アーレナさん:
大地の精霊。
ラスヤータ大陸から北西に広範囲にある島嶼を担当する。
光るアンデッズにおがまれて妙な気分。
ディアナさんたち:
3章008・9話に登場した、有翅族の長老の娘。
と、その仲間たち4人。
何故か独身はダメだと村に戻るのを拒否されたかわいそうな人たち。
裏の小屋で眠っていたので表の騒ぎに気付いていない?
森の家:
1章でタケルがつくったボロ小屋をリンちゃんが家サイズに改造し、
さらにいつの間にか大きくなっていた、
『勇者の宿』のある村の外にある森の中ほどにある拠点。
モモが管理者をしている。
ラスヤータ大陸:
この3章の主な舞台。
アンデッズ:
明るいアンデッドを目指す変な集団。
光属性をもち、普通の浄化魔法が全く効かない。
むしろ回復するようだ。
ピカー! ⇒ 『ありがたやー!』