3ー020 ~ 爆発
ハツ様とお話をしてから、私は寝かせて頂いたお部屋に戻って休むことにしたのですが、やはり空腹ということもありまして、まんじりともせずにおりました。
目を閉じていればそのうち眠れるのではないかと、姿勢を変えたりして寝床の布の下がちくちくと少し不快なのをごまかしたりしていたのですが、ふと、部屋の隅にある木箱の上に、ほんのりと魔力が感じられる球体が置かれているのが感じ取れたのです。
その球体は半テラ(約10cm)ほどの大きさで、畳んだ布の上に置かれているようでした。
(魔力が感じられるというよりは、何だか見られているような…)
少し不安になったので、寝床を下りて近づいてみますと、本などが無造作に置かれた棚の前に木箱があり、その上に上質の布が雑に畳まれていて、その上に球体があります。
部屋はほとんど暗闇ですが、私は魔力を感知することができますので周囲のものの形ぐらいなら知覚できるのです。
(何かの魔道具なのでしょうか…?)
手にとってみようとすると、その球体からふわっと魔力を感じました。
そして木箱ごと結界に包まれたのがわかりました。
(どうやら防犯用の魔道具のようですね)
そう納得することにして、また寝床へと戻ることにしました。離れると結界も解除されたようです。
見られているように感じたのは、あの木箱や布を護るための魔道具だからでしょう。
寝床に横になると、花のような良い香りがふんわりと漂ってきて、不思議と心が穏やかに落ち着いてきます。そうしてすぐに眠ってしまったようです。
部屋の外で足音が行き来するのが聞こえて目が覚めました。
木窓の隙間から漏れる光からするととっくに夜は明けたようです。
寝床から降り、手で髪や尾を整えて部屋を出ました。
●○●○●○●
「――――、――――――」
「おお、そうじゃったの。タケル殿が何か用意してないかのぅ?」
「――――――――――」
廊下を歩く音がした。ドゥーンさんとミリィかな?、急いでベッドから降りて着替えた。ミリィの声は小さくて甲高くて、何を言ってるのかボクにはわからない。でも精霊様たちやタケルさんには通じてるのが不思議。
部屋を出ると、半開きの扉の向こうから声がした。
「これのようじゃな。まだ暖かいの」
「―――――――――、―――――――」
「まぁ待ちなさい、先にこれを洗ってしまわんとな。しかしお前さん、儂らと一緒に食べておったじゃろう?、まだ食べるんかの?」
「――――――――――、―、――――――」
入ると、ドゥーンさんが流しのところでお皿を洗っていた。
「おはようございます、あ、お帰りなさい」
「ああ、おはよう」
「――――」
ミリィが笑顔で近くまで飛んできた。
たぶん、おはようって言ったんだと思う。
「ミリィが居るってことは、お兄さんも?」
「いや、少し前にまた出かけたのぅ、ちと用事を頼んだんじゃ」
「――――――――」
「これ、今度は危険じゃと言うたじゃろうが」
「――――――」
危険?
「危険なところなんですか?」
「ああ、儂らやミリィにとっては危険なんじゃ。タケル殿なら余程の事が無い限りは大丈夫じゃろうて」
「そうでしたか、あ、お皿、拭きますよ」
棚の上の布を手にドゥーンさんが洗い終えて横の台の上に置いたお皿を手に取ろうとしたんだけど、濡れてない。
「そこの大鍋にタケル殿が用意してくれていたシチューがある。また同じような献立じゃが、その皿によそうとええ。あとはお前さんと、あの子だけじゃ」
「―――――!」
わかりました、と言おうとしたらミリィが何か言ったので言えなかった。
「本当に食べるんかの?、ちと食べすぎではないかの?」
「―――――、―――――」
「ふむ。まぁたくさんあるし、ええじゃろ。ハツよ、茶葉はどれを使えばええんじゃ?」
ミリィってあのちっさい体のどこに入るんだろうってぐらいたくさん食べるのが不思議。
「あ、お茶ならこの箱ですけど、ボクがやりますよ」
「そうかの、じゃ頼むとするかの」
そう言ってドゥーンさんはテーブルのところに行って椅子を動かした。
ミリィはテーブルの上に着地して、さっきドゥーンさんが洗ったんだろう、取っ手のついたガラスのコップを片手に、タケルさんからもらった団子の串をもう片手に持ってちょこんと座っていた。
微笑ましいなって思いながらボクはお茶の準備を始めた。
あ、このお皿、お兄さんが魔法で作ったやつだ。
これ、重いから木皿を使いたいんだけどなぁ…。
●○●○●○●
話し声がするほうへ歩き、そっと扉を開けると眠る前にタケル様に頂いたスープの良い香りがしました。テーブルの上には食器が並んでいます。
そこで驚いたのですが、テーブルの上に小さな人が座ってらっしゃるのです。
そしてお団子のようなものを食べているのです。
ドゥーン様はもうひとつのテーブルに着いていらして、いくつかの書類を見ていらっしゃいます。
「メイリルさん、おはようございます」
「あ、おはようございます」
「ん、おはよう。どうじゃね、元気は出たかの?」
「はい、なんとか…」
「昨夜少し話したんですよ、あ、メイリルさんの朝ごはんはどうしましょう?」
ハツさんがドゥーンさんに尋ねて下さいました。
「食欲があるなら、そのシチューでええんじゃないかの?」
「―――――タケル―――言って―――」
小さい方が目の前の器を指差して何か仰いましたが、少ししか聞き取れません。
「そうじゃったの、そのつみれ団子ならええんじゃないかの」
ドゥーン様には聞こえていたようですね。
「薄いパンはどうしましょう」
「それも大丈夫じゃろ、よく噛んで食べるとええ」
「あの、頂いてよろしいのでしょうか…?」
「はい、もちろんです。たくさんありますから大丈夫ですよ」
ハツさんが笑顔で仰います。
ですが手で示されたのは水の出る魔道具のほうでした。
あ、手を洗えということでしょうか…?
「食事の前には手を洗う習慣になってるんです」
「なるほど、わかりました」
水を出して手を洗うと、昨晩と同じように『どうぞ』と手を拭く布を差し出して下さいました。お礼を言うと『そちらに座って下さい、すぐ用意します』と誘導されました。
背もたれの無い椅子に座ると、テーブルの上の小さい方と目が合いました。
何となくちいさく会釈をしてしまいます。
「あ―――ミリィ、あなたは?」
「メイリルと申します、よろしくお願いします、ミリィさん?」
かろうじて聞き取れたので返事をしたのですが、お名前で合っているのでしょうか?
「あ――――、ダメ――――、―――わからない――」
「おや?、お前さんミリィの言葉が解かるのか?」
「え!?、そうなんですか?」
ミリィさんで合っていたようです。
「あ…、その…、少しだけ聞き取れました…」
「ほう。なら、――――――、―――――――――。儂が今何を言ったかわかったかの?」
ドゥーン様は急に甲高い音で何かを言われました。
「いいえ、わかりませんでした」
「ミリィ――、わかった――!」
「今のはミリィたち有翅族の言葉で話したんじゃ」
「ゆうし族、でございますか?」
「そうじゃ、『ではこれはどうじゃ?、ハツも少しならわかるやも知れんが』どうじゃ?」
「意味はわかりました。でも音が合っていないように思えます」
「ボクにもわかる?、と聞こえた気がします」
「ミリィはどうじゃった?」
「あ――、――――わかった――」
「そうじゃろうの」
もしかして…。
「あの、魔力でしょうか?」
「うむ。ミリィたち有翅族の声には魔力が乗っておるんじゃ。それを感知し意味を拾うことができれば、ミリィの言うておる言葉の意味が解かる。逆に、ミリィに話すには声に魔力を乗せる必要があるんじゃよ」
「そうだったのですね…」
「メイリルさんは少しでも解かるんですね。ボクには全然わからないから羨ましいです…」
「お前さんはさっき儂が言うた言葉の意味が少しは伝わっておるようじゃから、アーレナの言う事をよく聞いて訓練してゆけば、聞き取れるようになれるのではないかのぅ」
「はい!、頑張ります」
ハツさんは右手をきゅっと握って明るい表情で仰いました。
「それはそうと、メイリルさんにシチューをよそうてやらんでええんかの?」
「あ!、すみません、すぐに!」
その慌てた仕草が可愛らしくて、ついくすっと笑ってしまいました。
「ミリィも――――欲しい――」
「ミリィや、さすがにちと食べすぎではないかの?」
「―――、空腹―――――――」
「いやいや、お前さんかなり食べておるぞ?、そのへんでやめておいたほうがええと思うんじゃが…」
「―――、止める―――」
言われてみれば納得です。声ではなく魔力を感知して意味が少し拾えているのですね。しかし『声に魔力を乗せる』というのがわかりません。
「あの、ドゥーン様」
「ん、何じゃ?」
「私からミリィさんに言葉を伝えるためにはどのようにすれば良いのでしょうか?」
「そちらは魔力感知ではなく魔力操作ということになるんじゃが、実は相当の技量が必要での、人種でそれができる者はめったにおらん」
「そうなのですか…」
ハツさんが目の前にシチューの入った器と、切ったパンを乗せたお皿、それとスプーンを置いて下さいました。
「どうぞ」
「ありがとうございます、頂きます」
「お前さんは人種ではなかなかの魔力量じゃし、感知もかなりできておるようじゃが、声に魔力を乗せるほうはそうすぐにという訳には行かんじゃろうな」
「ミリィと普通に話ができるお兄さん、あ、タケルさんって、やっぱり凄いんですね…」
「ああ、タケル殿は別格じゃな。あれは人種の域を超えておるからのぅ」
そこで扉がきぃと開きました。アーレナ様が来られたようです。
「2人とも起きたんだね、おはよう。それで資料は見つかったのかい?」
「いや、まだ探しとるとこじゃ」
「ふん、大方喋るのに忙しくてろくに進んでないんだろうさ」
「おはようございます」
「おはようございます」
「はい、おはよう。構わないからゆっくりお食べ。ほれ、手伝うから貸しな」
「お、おお、すまんの」
ドゥーン様が胸元からいくつもの書類の束を出し、アーレナ様に手渡します。
そのような量が入っていたとは思えないのですが…。
つい、ハツさんと顔を見合わせて、それから黙々と食事をし始めました。
あ、このお団子、とても美味しいですね。
何だか久しぶりにまともな食事をしたような気がします。
ミリィさんが物欲しそうな目でこちらを見ていらしたのに気付きましたが、目が合うとすっと視線を外されて、くるっとドゥーン様のほうに飛んで行かれました。
小さくて可愛らしいガラスのコップと、白っぽい小さな串がテーブルに残されていました。
●○●○●○●
地図を見ながらアーレナさんに教わった地点まで行く途中の縦穴を降りたところで、底のさらに下に魔力の流れがあることに気付いた。
地図を確認してみると、横の扉から下に降りられるようなので見に行くことにした。
扉を開けようと近づくとなんだか熱いのでいつもの飛行魔法のように自分を結界で包んでから開け、すぅっと下りてみた。
意外と狭い通路沿いに、幅が1mぐらいの太いパイプと、30cmほどの2本のパイプが走っている。
魔力は2本のパイプのうち1本から感じられた。どっちもかなり熱いようだ。
エネルギー伝達路ってこれのことかな…?
相変わらず魔法は使いづらいが、なんとか魔力が送られているほうの金属カバーを薄く切り取って剥がしてよくよく観察してみると、これ、ジャミング饅頭の皮と同じじゃないか?
それで内側はジャミング饅頭が繋がって魔力が一定方向に流れていくようになっているようだ。
つまりジャミング饅頭ってのは中心に向かって魔力が流れるから集められて貯まり、飽和したところで放出が始まるんだけど表皮に反射効果があって、それも飽和すると壊れるから爆発するみたいになるんじゃないかな。素人考えだから何となくそう思うってだけなんだけどさ。
幅1mのほうもカバーを少し切り取ってみたら、中は空洞になっていて、ベルトコンベアのような構造になっていた。少し待ってみると箱がいくつも送られてきた。
カバー部分を大きく切り取り、箱をひとつ無理やりひっぺがして横に出したが、熱気がすごい。
何らかの機械式に蓋が開閉するような仕組みになっていたが、留めている部分を切断して開けてみると、中身は黒い延べ棒状のものが並んで詰まっていた。
何だろう?、もしかしてこれが魔塵の原料か?
手で触れる温度じゃなさそうなので、試しに結界操作で1本取り出してみたが、周囲の環境的に魔法が使いづらいままで、延べ棒にジャミングされているような感じは無かった。
加工前、ということだろうか?
床に1本置いて火属性魔法で温度を下げてみたが普通に効く。俺の結界の内側に入れて手で触れてみたが問題なさそうだ。これならポーチに入れられるかな?
一応、ポーチからタオルを出して包んでから入れて、完全に入れずにまた出して、と2度ほどやってみたが、ポーチに影響は無さそうなので、そのまま入れた。
もしこれが原料だったら、このコンベアは破壊しておいたほうが良さそうだな。
エネルギー伝達路は、こんな目の前で破壊するのはちょっと怖いので、今は破壊しないでおこう。
コンベアのほうは、上の空間に箱を押し出すようにパイプを加工してしまうか。
元の通路に戻ると、さっきの場所からガンガンゴゴンとすごい音がした。たぶん箱が連なって来たんだろう。タイミングがちょうど良くて助かった。
実は危なかったのかもね。
アーレナさんの指示には無かった事だけに、思いつきでこういうのしちゃまずかったかな?
まぁやっちゃった事は仕方が無い。
幾つか隔壁扉を越えると、メンテナンス用だろうか、警備用だろうか、工作機械っぽいのが頻繁に出てくるようになった。
前と同じようにポーチから取り出した鉄弾で撃ち抜いて破壊し、せっせと回収しておく。
まぁザコだね。こいつら移動遅いし。近づかれなければ問題ない。
魔塵発生装置の制御装置らしき場所に到着した。
操作盤の所で、停止方法を教えて貰ったメモを手に停止手順をやっていると、メンテナンスをする工作用機械がわらわらとでてきた。
ここまで来ると魔法の使いづらさが今までの比じゃないな。
回収を後回しにして、手順通りになんとかやってみたんだが、ずっと聞こえているウゥゥゥという低い音とブゥゥゥンっていう振動が伝わってくる音の両方が消えていない。
何せ操作盤に書かれている文字だろう模様は全く読めないし、表示が変化している部分も早くてさっぱりわからないので、どうなったのか判断できないんだよね。
停止したなら音が止むはず、って聞いてたんだけどね。止まないしさ。
こりゃあもうアレだな、物理弾頭を装置っぽい方向にぶっ放して、音が止めばOK、ってやつだな。
少し距離をとって、前回作った砲を取り出し、弾頭はさっきまでたくさん回収した工作機械を溶かして冷やして作ろうか。
と、そんな事をしている間にも廊下をやってくる機械を倒す、倒したものも近くのは素材につかった。
後方から来た機械は先に鉄弾で撃ち抜いておき、前方は廊下をゆっくり進んでくる機械数体。
それに向けて発射!!
直径およそ50cmの金属の塊が前方の機械を蹴散らし、隔壁らしい箇所に大穴を開けてものっそい音がした。
その直後、ブゥゥゥンっていう振動が消えた!
お?、効果あったんじゃね?
でもまだ低い音のほうは消えてないな。
よし、もう一発いっとこうか!、というわけでさくっと弾頭作って発射!!
魔力制御がいい加減で、多めにやったせいでさっきの穴の上側んとこにズガゴン!、とあたってしまい、少し斜め下にコースがずれてしまった。それなりに効果はあったと思いたいが。
今度は広がった穴を利用してほんの少し斜め上に向けて撃ってみようか。
じゃあもう一発!、発射ー!!
この時、調子に乗ったというか、俺はいつもの飛行魔法で少し浮いた状態だったので、予兆に気付かなかったんだと、後になって思い出した。
魔塵発生装置の重要部分を完全に破壊し、奥の壁も突破、ついでにエネルギーが蓄積されている部分のパイプや蓄積制御部を破壊したようで凄まじい爆発になった。
正面の穴から廊下をその爆炎がやってくるのが見えた。
急いで障壁魔法を何重にも張ったが、途中の廊下に散らばっていた残骸も一緒に飛んできた。
これはヤバい!
俺はいつもの飛行魔法で浮遊状態なので、高速で後方へと押し出された!
後方にあった残骸に飛行結界が当たり、ひっくり返ってあちこち結界内部でぶつけたがそんな事に構っている余裕がない!
まずい!、このままだと残骸ごと後ろの壁に激突して潰されるかも!
そ、そうだ転移魔法で逃げよう!
えーっと、そうだこうやるんだった!
結界が!
あ…
次話3-021は2019年12月13日(金)の予定です。
20191206:あとがきを一部修正。
20240402:文言訂正。 食べな ⇒ お食べ
●今回の登場人物・固有名詞
タケル:
本編の主人公。12人の勇者のひとり。
ハツ:
なんと現状では両性だった可愛い子。
ミリィが何を言ってるか解かりたいらしい。
もふもふ要員追加候補その1。
ミリィ:
食欲種族、有翅族の娘。
食べすぎ?
ウィノアさん:
水の精霊。ウィノア=アクア#$%&。
分体アクセサリ球体がハツのお師匠さんの部屋で放置されている。
防犯魔道具のフリをしたようだ。
リンちゃん:
光の精霊。アリシアの娘。
次こそ出番か!?
ピヨ:
風の半精霊というレア存在。見かけはでかいヒヨコ。
癒しのヒヨコ。もふもふ要員。
作者的にも再登場が待たれる存在。まだ?
ドゥーンさん:
大地の精霊。ドゥーン=エーラ#$%&。
伊達に長生きしていない。
アーレナさん:
大地の精霊。アーレナ=エーラ#$%&。
もちつもたれつ。
メイリルさん:
昔の王女らしい。
今後どうするんだろう、このひと。
もふもふ要員追加候補その2。
ディアナさんたち:
3章008・9話に登場した、有翅族の長老の娘。
と、その仲間たち4人。
今回もお休み。
アンデッズ:
魔砂漠地下の不気味な町空間に居た、お化けが怖いと言う
スケルトンたちと、ゴーストたち。
リーダーを含めて骨16人幽霊9人の計25名。
明るく生きていく気らしい。アンデッドなのに。
タケルが戻るのを暇つぶしをしながら待っている。