3ー006 ~ ドロシーのちミリィ
やっぱり俺ってしれーっとウソをつくのは俺には向いてないわ。
だからちょっとだけウソを混ぜて話した。
ミリィについてはは他の個体が来て箱をあけ、2体で飛んで行ったということにした。俺はそれを偶然通りかかって見かけたと。
ドロシーの病気については、俺が見たときにはただ倒れているだけだったってことにして、でっち上げのストーリーを話しておいた。
こういうのって詐欺師の手法なんだっけ?、でもしょうがないよ、全部本当の事なんて言えないしさ。説明だって面倒だし信じてもらえないと思うし。
- これは推測ですけど、その妖精とやらがドロシーさんを治療していったんじゃないですか?、ドロシーさんがその妖精を逃がそうとしていたのがわかったんじゃないでしょうか。
「なるほど、妖精の恩返しか…、ドロシー、そうだったのかい?」
エクイテスが納得気味にそう言い、ドロシーを見て尋ねた。
「ええ。言われたように藁で水を吸えるようにしておきましたけど、飲もうとせず何か言いたそうでしたがどんどん弱って行って…、ずっと悲しそうでしたし、可愛そうで…」
様子を思い出しているのだろう、沈んだ表情で言った。
「おお、何て慈悲深いんだ。自分もつらかっただろうに…」
うるうると涙ぐんでドロシーに優しく言うエクイテス。
また後ろでぐしっと音がした。パトリー、お前もか。
この人たち、何だか芝居掛かってるって言うか涙もろいというか、そういう種族なのかな?、そう言えばハツも感情の起伏が大きいような。
で、藁で水を吸えるようにってのは、もしかしてストローってこと?、ミリィにそんなことしても吸えるとは思えないんだけど。もし吸う力があったとしても、ジャミングされてちゃ表面張力を軽減できないからミリィには飲めないよなぁ、たぶん。だから飲めないって必死で訴えて、伝わらなくて弱って行ったんだろうね。
やっぱり魔法に頼ってる種族や、ウィノアさんみたいな魔法主体な存在にとっては致命的なんだろう。
- 飛んで行った小鳥ぐらいの大きさのものがその妖精だったとしますと、そんな大きさのものが藁で水を吸えるとは思えないんですが、どうして直接水を与えなかったんです?
「え?、あ、ああ、箱を開けると逃げられると思ったのですよ。何せ妖精ですから、魔法だって使えるそうですし、あ!、箱には魔法を封じる石を入れておいたのですが、ご存知ありませんか?」
ああうん、あのジャミング石を入れた皮袋が2つね。
でもしらばっくれておく。
- さぁ…、僕がドロシーさんと箱を見つけたときには気がつきませんでしたが、どんな物ですか?
「はい、ちょっとした伝手で入手したものなんですが、魔法が使える罪人に使う石材で、魔砂漠の砂を加工したものです。その欠片なので、見かけはただの石のようなものです」
- ほう…。
「それをこれくらいの皮袋に入れたものを2つ、箱に入れていたんですよ」
- なるほど、貴重なものなのですか?
「貴重と言えば、まぁ、それなりには…」
ひとつ砕いちゃったけど、皮袋に戻して木の根元の穴にぽいっと放り込んだっけ。
浅い穴だし、皮袋のようなものがあったような気がするとでも言って、倒れていたところまで案内すればいいかな。どうせ帰るときに案内しながら寄れる場所だし。
いや、寧ろその穴があるから場所を覚えているってことにして、穴の中の皮袋は彼らに見つけてもらうか。
「妖精も貴重ですが、ドロシーの病気を治してもらった可能性があるのなら、ドロシーの健康のほうが大事です。タケル様には何とお礼を言って良いか…、おお、そうでしたこのような場所にお住まいならご不便もありましょう、これでも商会を営んでおりまして、何でもご入用のものがありましたら何なりとお申し付けください」
へー、エクイテスって言うから騎士階級なのかと思ってたけど、商人だったのか。
それじゃあこの際だからいろいろと足りない物品を補充させてもらおうかな。剣の鞘とか、剣帯とか、あとはお金とか食料品とか調理器具とか。当然、こっちだってガラス食器などを提供する用意があるからね。大漁の魚や鳥もだけど、生ものはどうなのかな、扱ってるのかな。まぁ紹介してもらえればいいか。
彼の態度が丁寧になったのは、たぶんドロシーさんに回復魔法をかけてすぐ意識が戻り、喋れるようになったからだろうね。狙ったわけじゃないけど、でもまぁ丁重に接してくれるのならそのほうが助かる。
「あ、あの…、すみません、お便所に行きたいのですが…」
と、恥ずかしそうにドロシーが言った。
自力で歩いてはちょっと無理だろうな、裏口のほうに一応作ってはあるんだけど、ハツが寝てる部屋の横を通るし、表から出て家沿いに行ってもらうか…、俺が連れていくよりもエクイテスさんも一緒に行ったほうがいいんだろうな、やっぱり。
明かりを先に用意してから、場所を伝えるか。
- あ、外は暗いので、明かりを用意します。少しここで待っててください。
「はい」
外に出て、トイレまでの道が分かるように光球をセットし、トイレの水を確認して扉をあけて中にも光球を灯してから戻った。
- お待たせしました。外に出て、家沿いに裏手のほうに行けばありますので、エクイテスさん、連れて行ってあげてください。
「お手数をおかけしました。ほら、ドロシー」
「はい」
そうやって背負って連れて行くのを見送った。パトリーもついて行った。
しばらくすると戻ってきたが、ドロシーの顔色がよくない。
何かあったのかな?、身体のほうはもう大丈夫なはずなんだけど…。
尋ねると、最初はなんでもないと言ったが、『ここを離れてから体調が悪くなって僕のせいだと言われると困るので尋ねただけなので、ドロシーさんがいいならいいんですよ』と少し冷たい言い方をしたら、意を決したのか他の人に離れるように言って、俺にだけ耳打ちした。もちろんエクイテスさんたちには睨まれたが。
「あの…、小さくて丸い黒っぽい石がいくつも出たんです…」
あー、あれかー、腸内で小さく固めたやつ。
- それなら問題ないですよ。心配要りません。
「そうなんですか?、あれって何なんです?」
そりゃまぁ気になるよなぁ。
- 気になります?
頷いた。
どうしようかな、これを言うと妖精さんたちが治したんじゃないってバレそうなんだが…。んー、まぁいいか、魔法瓶結界張って言えば。
- あなたのノドには微細な原因物質が付着して、それが炎症からできものに変化してああなったんです。熱がでていたのはその炎症のせいですね。そして、その原因物質と同じものがあなたのお腹の中にあることが分かったので、吸収されないように小さく固めておいたんですよ。
「ゲンインブッシツでエンショ…?、固めた?、ごめんなさい、よくわからないのですが…」
あー、わかんないかー、気にすんなと言えば良かったのかな。
- とにかく、気にしなくても大丈夫という事です。
「あれは出ていいものということですか、どこかが悪いから出たものじゃないんですね…」
- そうです。体力が落ちていて弱ってはいますが、今のあなたは健康です。心配いりません。
自信たっぷりの表情で言ってしまえと、半ばヤケになって言った。もう説明しなくてよさそうなので結界はこっそり解除しておこう。
「そうなんですね、ありがとうございます」
ドロシーは安心した表情で微笑みを浮かべて頭を下げた。
「その、もう大丈夫なんでしょうか?」
- はい。体力が落ちて弱っているだけで、健康です。あとは少しずつ散歩するなりして体力をつけてください。
「そうですか!、先生!、ありがとうございます!、ドロシー!、良かったなぁ!」
うぉ、暑苦しいなこのひと。そしてまた涙を流してるし。
しかし『先生』て…。
「エクイテス…」
こっちももらい泣きしてるよ。青くなったり笑顔になったり泣いたり、忙しいな。
そこで小さいが『きゅぅぅ…』とドロシーさんのお腹が鳴った。もちろん俺は聞こえないふりをしたが、鳴ったタイミングが悪かったのか、エクイテスさんにも聞こえたようだ。
「おお、お腹がすいたのか?、少々遅いが館に戻ったら何か作らせよう」
「あ、その、…はい」
ふむ。大量に作ってしまったつみれ汁を食べてもらうか。外で待ってる人たちもなんだか増えてるし。ついでにガラス食器を見せて、換金できるところを紹介してもらおうかな。
余談だけどなんで小魚のつみれが大量にあるかというと、回収したときにきれいな形じゃなかったのが多かったからだ。欠けてるのとか肉片だったのとかちぎれたやつね。そういうのをまとめて光の精霊さん直伝の風魔法ミキサーで粉砕して練ったものを団子にしたってわけ。
もしかしたら小魚じゃない肉片も混ざってるかも知れないけど、問題なく美味しくできてるし、俺もハツもミリィも食べて何ともないから大丈夫。
あ、だから煮汁にアクがやたら出るのかな?、関係ないかな?、まぁいいか。美味しけりゃさ。
- ああ、良かったらここで食べて行きますか?、消化によいものならだせますし、エクイテスさんも同じものを食べたほうが安心できるでしょう?
「それはありがたいのですが、よろしいのですか?」
- ええ、構いません。お酒はありませんけどね。
「そうですか、お願いします」
- では、外に用意しますので、ご一緒に。
「は?、外、ですか?」
返事をせずに立ち上がって扉をあけて外にでた。
ひーふーみー、中の3人を足して24人か、まぁ余裕で足りるだろう。
手振りで少し場所を開けてもらい、いつものように土魔法でさくっとテーブルと椅子を作った。ざわっと驚かれたが、まぁもう慣れたもんだ。テーブルの上には光の球体を浮かべてみた。
- では料理をお持ちしますので、座ってお待ちください。
と言って、中に戻って扉を閉め、つみれ海草スープのでっかい鍋をポーチから取り出し、また扉を開けて持って出た。身体強化しないと持てない重さなんだよね、これ。石の鍋だし。小分けした鍋もまだあるんだけどね。24人分だとこっちじゃないと。
まるででき立てのように湯気をあげるでっかい鍋を、皮手袋(2枚重ね)で両側を持って運んでくる俺に、またざわっと驚く声がしたが、気にせず土ブロックを作ってその上に置いた。
- どなたか給仕をお願いしてもいいですか?
と言うと、エクイテスさんが近くに座っていた男性に指示した。俺のところに4人ほど並んだ。
最初の人に土魔法で深皿を作ってそこにレードルで注いで渡す。
あ、これ抜き身松明ダッシュの人じゃん。まぁいいか。
それを繰り返して最後にスプーン、フォークを人数分作って箱に入れ、渡す。
ドロシーさんの分だけは具無しでスープだけにした。
行き渡ったようなので、「どうぞ、食べてください」と言うと、エクイテスが手を組んで祈りの聖句のようなものをいい、全員それに合わせてとなえてから、おそるおそる食べ始めた。
「う、うめぇ!」
「何だこれ海草じゃねぇか」
「でもうめぇぞ!?」
「海草ってこんなにうめぇのか…」
「この団子がうめぇ」
「ハツの実の香りがする…」
「どこに入ってんだ?」
「これだけうめぇんだ、どうでもいいさ。ああ、酒が欲しくなるぜ」
「ちげぇねぇ、あっははは」
- お酒はありませんが、たくさんありますから、遠慮せずにどうぞ。
と言うと、もう食べ終わったのか器を持って早足で数人やってきた。
面倒なのでレードルを渡した。「重っ」とか言ってたけど、そりゃ石だからなぁ。折れにくいようにちょっと圧縮してあるし。
俺のほうはガラスのコップに水を入れ、さくっとお誕生日席にあたる場所に椅子を作って座った。左側にはドロシーさんとエクイテスさんが並んで座っている。
- ドロシーさん、どうです?、お口に合いましたか?
「はい、とても美味しいです。あ、あの、少しだけ食べてみてもいいでしょうか?」
ん、みんなが美味しいって言ってるつみれ団子のことかな。食欲がでてるなら、まぁ食べてもいいんじゃないかな。
- では入れてきましょう。
と言って手を出すと、空になった深皿を両手で持って差し出した。
弱ってるわりには力があるのかな、そういえばあの頑丈な箱って結構重いのに、運んできてたもんな。
「ああ、私が入れてこよう」
その皿をエクイテスが片手でさっと取り、自分の分も入れて来るのだろう、皿を両手に持ってでかい鍋のところに行った。土ブロックは大きめに作ってあるので、皿を置くスペースぐらいはあるからね。
ふと、気になったので尋ねてみた。
- ドロシーさんは食べ物に好き嫌いはありますか?
「え?、好き嫌い…、ですか?、そうですね、貝が少し苦手でしょうか…」
- ほう、貝が…。
「ええ。お恥ずかしい話なんですが、小さい頃貧乏だったもので、お金がないときは少ない貝と海草だけの食卓で…、それを思い出してしまうので…」
「貝や海草は貧乏人の食べ物、という訳ではありませんが、そういう傾向がありまして、先ほどもうちの連中がこの料理を貶すような言い方をしていたようで、大変失礼を致しまして申し訳ありません!」
話が聞こえていたのか、おかわりを入れてきたエクイテスが話に入った。
- ああ、構いませんよ、そう言ってた人もおかわりをしているじゃありませんか。美味しいと言って食べてもらえるなら作った甲斐があります。
「これは先生が作られたのですか…、その、良ければ作り方を教えてもらえませんでしょうか?」
「エクイテス、そんな、」
「あ、これは失礼を…、つい、商人の血が騒いだもので、あ、先ほど少し申し上げましたが、私はいくつかの町で商店を持つ商会を営んでおりまして、あちこちでいろいろな物を食べたことがありますが、このような料理は初めてだったもので…」
- そうでしたか。ではこの方々は…?
「はい、うちの従業員たちです」
そこそこ大きなお店っぽいな。んじゃ都合がいい。
- なるほど、構いませんよ、作り方ぐらい。でも手間がかかると思いますよ、これは。
「ほう、ちなみに材料は…」
- 小魚と小麦粉と海草、ハツの実ですね。あとは塩の代わりに海水を少しと、豆を発酵させたものの汁から作られた調味料を少し使っています。
「豆を発酵させた調味料…」
- ええ。これですが、これは使わなくてもいいかも知れません。
テーブルに醤油(っぽい似た調味料)の小瓶をポーチから出して置いた。
「少し味見をしても…?」
- 塩辛いのでほんの少しにしてくださいね。あ、これを使ってください。
味見用の小皿をささっと土魔法で作って渡した。
「ありがとうございます。…ほう、確かに塩辛い、独特の香りがしますな。魚で作った調味料より癖が少ないですな…」
ん、魚醤があるのかな、だったらそっちを使うとこの地の人には慣れた味になるかも知れないな。
- それは濃い塩水に魚を浸けて発酵させたものですか?
「おお、ご存知でしたか、私どもはガブラと呼んでおりますが、仰る作り方をしたものです」
- ではこれの代わりにそれを使用してもいいと思います。
「なるほど、ということはそれ以外は小魚と小麦粉と海草とハツの実だけなのですか?」
- はい、この団子は『つみれ』と私は呼んでいますが、それらの材料を細かく粉砕またはすりつぶして小麦粉を少し混ぜてつなぎの役割を持たせ、団子にしたものですよ。
風魔法ミキサーでやったなんて言えないし、真似ができないだろうからね。
「ほほう、それは確かに手間がかかりそうですな…」
すり鉢とかすりこぎ、って無いのかな。もしかしたら魚なんかは干して乾燥させてから叩いてつぶすとか、臼で挽くとかかなぁ…、ミルなんてのがあればいいんだろうけど。
ちょっとサービスしとくか。あとでガラス食器売りたいし。
- こういう道具なんですが、これと太くて短い木の棒でこう、つぶして細かくしていくんです。あ、この棒は石ですから、使うと下の器が傷みます。これと同じサイズの木の棒を使ってください。
「な、なるほど…、おお、この器がヤスリのようになっているんですか…」
お、ヤスリが通じるのか。
- 目的によってこの器の大きさが違うんですが、『つみれ』ならこのサイズでいいでしょう。あ、その器は差し上げますよ、参考にしてください。
「なんと!、よろしいのですか?、ありがとうございます」
- ところで、このガラスですが、売るとしたらいくらぐらいになります?
「あ、そのコップ、気になっていたんですよ、少し見せて頂いても?」
- はい、どうぞ。
中身を少し飲んでから、地面に水を捨てて渡した。
「おお、これほどのものでしたら相当いい値段で売れますよ!」
エクイテスはテーブルの上に浮かべた光球に透かしてガラスのコップを角度を変えて見ている。
ちなみにこのコップ、底を分厚く、口のところを薄くして、持ちやすいように底のほうには凹みをつけてある。言ってみれば元の世界のウィスキーグラスみたいな形だ。そしてガラスの精製がまだ完全にできないせいで、若干、でも少しは進歩したのでほんの少しだけ、部分的に色がついている。まぁガラスって言っても石英ガラスに近いものだからね。
- お皿もあるんですが、いかがです?
「ほう、ぜひ拝見させてください」
- では持ってきます。
そう言って立ち上がり、魔導師の家に入った。確かお師匠さんの部屋に木箱があったよな、そこに移し替えるか。
いいサイズの箱があったが、ハツが部屋の片付けをしたときにいろいろ入れたようだ。
悪いとは思ったが、土魔法で棚と箱を作ってせっせと中身を移した。
そしてガラス皿などの器をせっせと仕切り代わりに布やら古いシーツ(お師匠さんのベッドに使われてる布類)を切って入れていく。
「おお…、これは素晴らしい…!」
「すごくきれいだわ…」
木箱を抱えて外で待つエクイテスたちのところに行き、そっと置いてひとつずつ取り出して渡して見せた。
皿とコップ、全部同じ形で50個ずつある。ぼろ布にしか見えない布で半数を包んであり、一番上がそれなので、最初はあまりいい顔ではなかったが、テーブルに置いて布を解いたら目の色が変わった。
実はまだ少し残ってるんだけど、箱に入りきらないのと同数でそろえたほうがいいかなと思って50個ずつにした。
- それで、いくらぐらいで売れそうですか?
「うーむ…、そうですね…、できればこれ1つずつを持ち帰って他の商人たちとも話してみたいのですが、いかがでしょうか?」
- いいですよ、どうぞ。
「ありがとうございます。それと、こちらの深皿やスプーンもいいでしょうか?」
え?、それって即興で作っただけのものだから、あまり出来が良くないんだけど。
- 構いませんが…、いいんですか?、あまりいい出来とは言えないものなんですが。
「とんでもありません!、これほど均質で大きさも揃っている石の食器など、他ではなかなか目にすることなどできない素晴らしい品ですよ!、こちらのガラス食器は使いづらい、あ、高価だからという意味ですが、石のほうは普段使いにいいですし熱いものでも割れたりしないでしょうから、これも扱わせて頂ければ幸いでございます!」
おお、意外な評価が。
- ガラスのほうは作るのに手間が掛かりますので、これでほとんど全部ですが、そんな石の食器で良ければある程度なら数はありますよ。
「ある程度と仰いますと…?」
- ガラスのほうは皿とコップそれぞれ50ですね。この木箱にある分ですが。石のほうでしたら、そうですね、いくつ欲しいです?
「できれば同じぐらいで…」
- では今使われた分をお持ち下さい。それとあと26セットですか?、それだけでいいんですか?、何ならあと100でも200でもありますが。
何か売れそうなのでこの際だからたくさん売ろう。ガラス作るより楽だし。海岸の砂色そのままだけど、よく言えば薄いクリーム色と言えなくも無い。
「おお!、ぜひ!、ぜひ扱わせて下さい。先生はドロシーの恩人でもありますので必ずやご満足頂けるお値段にして見せます!」
あ、いや、そんなんじゃなくて、こっちはある程度のお金が入ればそれでいいんだが…。まぁいいか、やる気になってるみたいだし。でもどれぐらい待てばいいのかなぁ…。
- 何日ぐらいかかりそうですか?
「そうですね…、明日の夜、いえ、明後日の昼には必ず!」
- わかりました、よろしくお願いします。
「はい!、こちらこそよろしくお願いします!」
びしっと立ってお辞儀した。
商人だから商談成立したら握手かなとか思ったんだけどそうじゃなかった。
契約書とかは明後日持って来るのかな。まぁ、いくらになるのか気になるけど、あ、こっちから出向いたほうがいいのかな。明後日になればわかるか。
そしてドロシーを背負い、他の連中は皿を持ってぞろぞろと去って行った。
年配の男性が火種の箱からランタンに火を移し、木の棒で他のランタンにも移していた。それを何人かが持って防砂林の間を抜けて行くようだ。
さてと。
しかし結構量があったのにきれいに食べたもんだ。すっかり空になってるよ、結構でっかい鍋なのに。夕食とか抜いて探してたんだろうな、そりゃ腹も減るか。
それにしても好評だな、つくね海草スープ。また作っとこう。
●○●○●○●
結局俺はお師匠さんの部屋じゃなく、裏に作った小屋で石のベッドの上で眠った。
いやほら、昨夜お皿とか包むのにベッドのシーツとか使っちゃったからね。何となく気が引けたっていうかさ。
そして翌朝。
小屋の外の気配で目が覚めた。
見ると、ハツとミリィが入り口のところの石段に座っていた。
あ、そか、入り口に結界張ってたんだっけ。
って、何でまたミリィは戻ってきてるの?、フラグ立ててなかったはずなんだけど。
- おはよう。
「あ、お兄さん、おはよう」
「おはよー」
何故か2人とも揃って、入り口に手を当てる仕草をしてから、壁が無いとわかるとたたっと入ってきた。ミリィは飛んできたんだけど。
なるほど、おそらく一度入ろうとして結界に阻まれたんだな。
んじゃそれの気配で目が覚めたのか。
- 朝食は焼き魚でいいかな?
「え?、はい!」
「はーい!」
外に桶を作って水を入れ、手を洗ってねと伝えてからテーブルに並べる。
準備をしながら少し話した。
- ところでミリィは何で戻ってきたの?
「あのね、森に壁があって入れなかったの。それで戻ってきたかなー」
- 壁?、崖じゃなくて?
「この小屋にタケルさんが作った壁と似てるかな?」
- あー、結界魔法のことかな?
「それかな?」
じゃあミリィはどうやって出てきたんだろう?
俺の知ってる結界魔法や障壁魔法は、まぁ根本は同じなんだけど、通すなら通す、通さないなら通さない、っていうものだ。出られるけど入れない、ってのは無い。
もしあるのなら、ちょっと見てみたい。便利そうだし。
- ミリィはどうやって出てきたのかな?
だめだ、語尾『かな』がマジで伝染る。言うつもりじゃなくても反射的に出てきてしまう。語尾『うん』と並んでヤバいなこれ。
「ヘビに襲われて、避けたらガンってなったかな?、起きたら閉じ込められてたかなー?」
なるほど、全然わからん。
まぁ状況は何となくわかったような気がするけどそっちはどうでもいい。場所が知りたいんだから。
- それは災難だったね。それで場所は覚えてるかな?
「うん!、アぺルの実を採ってたときだったから、わかるかな!」
アペル…?、アップル、リンゴか!?、あるなら俺も欲しい。
あー、いや、ツギの街でも売ってたような気がするんだけど、元の世界の日本にあったようなリンゴじゃなかったんだ。小ぶりで酸っぱくて、アップルパイに使う西洋のやつに似てるといえば伝わるかな?、そんな感じだったので、もし有翅族の森にあるリンゴが、俺のよく知ってるリンゴだったらいいなという希望を込めて、だ。
- じゃあそこから入れるんじゃない?
「そうなんだけどね、もしその場所が見つからなかったらって思うと怖くなって…、お弁当も食べちゃったし、またお腹がすいて倒れたらって思ったら…」
お弁当?、あの焼きつくねか。あれお土産のつもりだったんだけどな。いいけどさ。
だって見かけからしてそう何個も持っていけないだろ?
しかしまぁ、一度飢えて倒れたんだから、そうなるのが怖いってのもわかる。この先太らないか心配ではあるけど、それはまぁ今心配するこっちゃ無い。
- じゃあ僕が連れて行けばいいのかな?
「そうしてもらえれば助かるかな?、でもその前に、お腹がすいたかな!?」
だから今朝食の用意をしてるんだろうが。見てわからんのか。
もしかして、食欲妖精か?、こいつ。
食事中、ハツが「大きいひとが居なくなってたんだけど…」って心配そうに尋ねたので昨夜のことを教えてあげた。
「そっかー、元気になったんだね!、よかったぁ…」
そう言って自分の事のように喜ぶハツ。
でも町の人が迎えに来て、連れて帰ったって言ったら少し笑顔に翳りが生じた。やっぱり町の人に何かされたんだろうな。
- それでね、もし、僕が出かけている間にエクイテス商会のひとが来たら、玄関出たところのテーブルの横に小屋があってそこにある食器類は全部売り物です、って伝えてくれるかな?
好評だったつくね海草スープをまた同じでっかい鍋で煮ている間に、小屋作ってそこに石の皿やコップ、スプーンなどをどっさり作っておいたんだ。ループ制御すれば楽にすぐできるからね。
ぼーっと鍋が煮えるのを見ながらアク取りしてたら眠くなるんで、眠気覚ましの意味もあったんだけども。
「え?、お兄さんどこか行っちゃうの?」
- さっきミリィを送って行くって言ってたでしょ?、エクイテス商会のひとは明日のお昼ごろに来ると言っていたけどね。
「うん…」
- もちろん早く帰ってくるつもりだけどね、もしかしたら今日来てしまうかも知れないから、一応ハツにも知っておいて欲しいんだ。
「うん…、わかった。でも早く帰ってきてね?」
- うん、あとでかまどの上にお鍋と、焼き魚などの料理を置いておくから、今日と明日の分ね、あ、かまどの周りに火をおこす魔道具があったけど、あれもう使えないよね?、普段火を使うときどうしてたの?
「あ、それはね、えっと、ボクね、ちょっとだけ火属性の魔法が使えるから」
ほう、そうだったんだ。
確かに今のハツは普通の人よりもかなり多く魔力があるように感じるし、魔法が使えるのも不思議じゃないね。
- そっか、だったら不便じゃないんだね。
「うん、でもお兄さんみたいにお鍋を直接ずっと温めたりテーブルや小屋つくっちゃったりはできないよ?」
- そう?、ハツなら練習すればできるようになるんじゃないかな?
「実はね、お師匠さんにはあまり他人に見せるな、言うな、って言われてたんだけど、お兄さんボクよりも、お師匠さんよりもずっとずーっと魔法が使えるし、だったら言ってもいいかなって、えへへ」
「ねぇ、魔法の話?、あたしも使えるよ!」
- そりゃミリィは魔法が使えないと飛べないんだし。
「え?、ミリィさんも魔法が使えるの?」
- うん。そう言ってるよ?
「へー、じゃあ仲間だね」
「何て?」
- 魔法仲間だね、って。
「あははー、仲間仲間ー」
両手で食べかけのつくね団子を持って踊るようにくるくる飛び回るミリィ。
ふーむ、ピヨは翼で風魔法や土魔法(重力操作)をして飛んでるけど、ミリィは風魔法で自分自身をベクトル操作してるように見えるな。やっぱり小さくて軽いからか。これも真似ができないな、やっぱり。
よく見たら昨夜渡した団子の串(土魔法で作った石の串)を腰の帯に挿してるな。剣のつもりなのかな?、つくね団子を食べるのに使えばいいのに。あ、腰の帯ってお土産のつくねを包んでた布切れじゃないか。
- ミリィ、その腰の帯とか、あ、服もか、つくねの汁で汚れてるんじゃない?
「え?、あ、うん、美味しそうな匂いがするからいいかなー?」
いあいあ、それでいいのか?
- それ、そのうち臭くなるよ?
「臭くなったら洗えばいいかな?」
臭くなる前に洗おうよ。
- そんな匂いをつけてたら鳥とかに襲われるんじゃない?
「あ、それで海鳥が襲ってきたのかな?」
もう襲われたのか。
- よく無事だったね…。
「鳥ぐらいならワンパンかなー」
と言いながらパンチキックをしゅっしゅっと繰り出してる。
ホンマかいな。と思いながらじーっと見ていると、こっちを見てちょっと照れたように言い直した。
「うそかな。魔法を使って撃退するの。ちょっと痛い目にあわせれば向こうが逃げるかな?」
- そっか、でもそれは洗ったほうがいいね。
「あ、昨日のあわあわがいいかな!」
と言うわけでミリィはお風呂へ。
ハツは食べ終わったあと、荷物整理をするって言って家に入って行った。
俺はミリィのお世話だ。
またお湯つくって石鹸をちょっと泡立てて、服は洗ってやり、やってくれとせがまれてシャワーで洗い流してやって…、ってもう何だかなぁ、俺、何やってるんだろうね?
まぁせっかくミリィを送って行くんだし、きれいにしてやったほうがいいとは思う。
俺も連れていくのにつくね団子の油分まみれの女の子(人形サイズ)を持っていくのは何だかイヤだし。
●○●○●○●
「うわー!、はやーい!、すごい!!、でも風を感じないからがっかりかなー?」
この速度で風を感じたらキミ吹っ飛んでっちゃうでしょ。でもどうしてがっかりされるんだろう?、マジ評判悪いなぁ、この飛行魔法。おかしいなー。
それはともかく肩の上で叫ばないで欲しい。
副音声で聞こえるミリィの本来の声がキンキン耳に響くから。
むんずと掴んで手のひらに乗せて尋ねた。
- で、どのあたり?
ミリィは手の上から四つん這いで下を覗き込み、驚いたように言った。
「え?、もう崖まで来ちゃった、タケルさんすごいのね…、あ、たぶんこっちかな?」
そりゃほんの40km程度なんだし、3分ほどで着くからね。
高度を下げながら崖に沿ってミリィが指差した方向にゆっくり移動をした。
- こっちでいいんだよね?
「うん、たぶん。あ、あそこ、崖からちょっと出てるアペルの木かな!」
俺の左手親指を両手両足で抱えるようにして、片手だけ離して指差している。
有翅族の村に直接送り届ければいいかと思っていたんだけど、ミリィには結界の内側、中心部が霧のように白く濁って見えているようで、崖のあたりしかはっきり見えないらしい。
俺には結界の存在は感じられるが、そんな白い霧なんて見えないので、中心から少しずれた辺りに林冠がぽっかりと開いていて、そこらへんに集落があるんだろうと見当がつく。だが、肝心のミリィが見えないって言うので仕方なくこうなった。
当初の予定通りと言えばそうなんだけども。
その崖からせり出しているアペルの木に近寄ってみると、実がいくつか生っているのが見えた。全然リンゴっぽくない。どちらかというと桃や杏に近いんじゃないかな。あくまで見た目は。
- ああ、結界に穴があるね。木が成長したことで枝の間のところに穴ができちゃったんだろうね。
魔力感知的によく見てみると、この木だけ一部が結界から斜めにはみ出して、また戻っている感じで伸びている。
そして途中の枝に、内側から外に向かって伸びているのがある。
そのせいで結界に穴が生じていて、たぶんミリィはそこから出たんだと思う。
結界の外にある枝にも実が生っていたようだけど、鳥に食われたのか一部しか残っていなかった。種とかは落ちたんだろうね。
結界の外にまともな実があればいくつか持って帰りたかったんだが…。
「え?、どこかな?」
- この枝のところ。ミリィなら入れるんじゃないかな。ほら。枝につかまって進めば。
ミリィを手に乗せたままそっとその穴に近づけて、枝につかまらせると、するすると入って行った。
「あ、本当だ!、入れたかなー!」
- じゃ、僕は帰るから。
「え?、帰っちゃうのかな?」
- うん、あー、もう帰れないかも。
「え?、どういうことかな?」
「おい!、そこで何をしている!!」
あー、やっぱり。
逃げてもいいんだけどね、ミリィが心配だし、見届けたほうが良さそうな雰囲気なんだよね。
「あ!、エイヘーさん!」
衛兵さん?
その衛兵さんは槍を構えたままミリィをよく見るために少し位置を変えて、目を丸くした。
「ん?、何!?、ミリィなのか?、死んだと聞いていたが…」
「え!?、ひどいかなー、ちゃんと生きてるかな!、ほら!」
死んだなんて言われてちょっと不機嫌になりながら、枝から彼のほうにふわっと飛んでくるっと横に手を広げながら回った。
「あっ、おい!、動くな!」
「えー!?、何でかな…?」
槍をミリィに向けたまま怒鳴るように言う衛兵さんの迫力に、ミリィは驚いたように空中停止をした。
「お前本当にミリィか?、羽が無いようだが…」
「羽は落ちたとき取れちゃったかな、でもミリィはミリィだよ?」
「ふーむ、それとそっちのでかい奴は何だ!?」
何だと言われてもね。とりあえずミリィが答えるまで黙って見てよう。
「タケルさんだよ?、ミリィを助けてくれたの。命の恩人かな」
「何だと!?、あいつに唆されて俺たちを捕まえに来たんじゃないだろうな?」
あー、そういう解釈もできるのか…、昨日も誘拐犯だの犯罪者だのと勘違いされたよなぁ、またかよ、こんなのばっかし。
「ひどーい!、そんなことしないよ!、ねー、タケルさん!」
- え?、あ、うん。
「何っ!、言葉が通じるのか!?、ますます怪しいな…、おい、お前そこを動くなよ…」
あ、しまった、つい返事しちゃったよ。って、腰のロープを取り出してどうするんだこいつ!
「え?、やだ!、何すんの!、あたし何も悪い事してないのに!」
と、一瞬でカウボーイのように輪を作ってミリィに投げて絞り、縛り始めた。
おっと、これは止めないと。
さっと間に手を差し出してエイヘーさんをそっと押した。槍は指の間に挟んだので、押された彼は槍から手を離して下がった。
まぁ、押したせいなんだけども。
- ちょっと待ってください、それはいくらなんでも酷いんじゃないですか?
ロープっていうかタコ糸みたいなのをミリィの後ろでちょいと切って解放してやった。
「そーだそーだ!、カンケンのオーボーだ!」
キミそんなのどこで覚えたんだ。
言いながらまた俺の肩の上に乗ろうとしたので、またむんずと捕まえて手のひらに乗せた。
「お、お前!、て、抵抗する気か!!、そ、それにお、お前、ど、どうやって入った!!」
どうやって、ってそりゃ結界に同調してするっと身を乗り出しただけなんだけども。
むしろ結界よりも枝を避けるほうが面倒だ。場所変えてくれないかな。左足が結界の外なんだよ、姿勢がつらい。これならミリィが肩に乗っても良かった。
もう仕方ない、俺の飛行魔法の障壁は一部解除しちゃったし、このまま結界の内側に入って地面に降りよう。
「タケルさん、結界壊しちゃったのかな…?」
- 壊してないよ?、抜けただけ。
「へー…、すごい、のね…」
- この程度の結界ならどうとでもできるよ。
「何だか悪役っぽいかな、あはは」
失礼な。
「あ!」
微弱な魔力を感じたが、それよりミリィが指差したほうを見ると、衛兵さんが小さな笛のようなものを口に銜えていた。
俺には聞こえない音域なんだろうなぁ、でも魔道具のようだ。
「どうしよう、村の警備のひとたちがきちゃう!」
なるほど、あれはいわゆる呼子笛ってやつか。
まぁ、来てもどうということはないんだけどね。
話がややこしくなりそうだし、いっそのこと村の偉い人んとこまでこっちから乗り込んで行ったほうがいいんじゃないかな。
ミリィは怯えたように俺の親指に抱きついている。
そんなに気に入ったのかな?、俺の親指。
次話3-007は2019年09月06日(金)の予定です。
20200305:あとがきのハツとミリィの項目に追記と変更。
●今回の登場人物・固有名詞
タケル:
本編の主人公。12人の勇者のひとり。
ハツ:
タケルにすっかり懐いてしまった可愛い子。
もう『男の娘』と言っても間違っていない。
タケルの結界にゴン。
額と鼻が赤くなってたのを治したのは実はミリィ。
ミリィ:
有翅族の娘。
羽は無くとも有翅族。
タケルに送ってもらったせいで村の人に信じてもらえない。
同じく結界にゴン。
頭にコブができたのを治したのはハツ。
ついでに首がグキってなってたのも治った。
ミリィはそこまで強い治癒魔法は使えないから。
有翅族の村:
名前はまだ出ていない。森の崖の上の森にある。
結界に守られている。
ドロシー:
倒れていた大きいほうの人。
エクイテスらに連れられて無事に帰宅。
エクイテス:
商人。騎士じゃ無い。
儲け話に飛びついたようだ。
パトリー:
エクイテス商会に雇われた傭兵のひとり。腕は立つらしい。
涙もろいようだ。
パトリーの同僚B:
抜き身剣男。海草つくね汁のおかわりをしまくった。
年配の男性:
たぶん、執事のアベイルさん。
ウィノアさん:
水の精霊。またもや今回も出番なし。
お師匠さん:
ハツの師匠。名前は出てないけどローと呼ばれていた。
なぜかハツは荷物の整理を始めた。
エイヘーさん:
衛兵じゃなく名前らしい。
有翅族の男性。絶賛混乱中。
エイヘー は なかま を よんだ !!