3ー004 ~ 妨害
朝食後。
ハツは軽く回復魔法をかけるとふにゃーっと幸せそうな表情で眠ってしまった。
もともと食後ってのは眠くなるもので、そこに弱い回復魔法でリラックス効果、さらに言うと部屋は涼しい。そりゃ誰だって眠る。俺だって見ててつられて眠るところだったし。
眠ってしまっても良かったんだけどね、ここんとこハツと同じメニューだからさ、味とかはそう悪いわけじゃないけど、海草とハツの実と小麦粉なんだよ。な?、たまにならいいけど、続くとちょっとな?、実にヘルシーではあるけれども。
まぁそういうわけで、この間に魚を獲ってこようってね。
川小屋に居たときは文字通り川だったんで、ちょっと特殊な方法だったかもしれないけど追い込んだり、自然に入ってきて出られず貯まっていく川魚を生簀からとってきて料理してたわけだ。
この辺りは、砂浜から沖に50mほどのところに岩がごろごろしていて、天然の防波堤みたいな感じなんだろうか、少し波が穏やかになってる。
んー、まぁ海水浴にはいい海岸なんじゃないかな。すぐ足がつかなくなるぐらい深いけど。
と言ってもそのままどんどん深くなるんじゃなくて、その岩場までは水深3mぐらいじゃないかな、測ったわけじゃないけど、昼間だと底までよく見えるんだよ。
水上魔法でとりあえずひょいひょい歩いてると、海草や魚がちらほら見える。
波に揺れながら水面に手をあてて、索敵魔法で見ると底の砂に潜ってる生物もちょくちょくいるのがわかった。
でもこのあたりの魚って、派手な色だからちょっと食べようっていう気が起きないんだよね…。サンプルとして1匹ずつぐらい獲るかなー、って程度。
その方法だけど、石弾みたいな射出系だと加減がわかんないので、簡単便利な電撃でやってみた。
が…、ぷかーっと浮いてくれば楽なんだけど、そのまま水中を漂ってしまってとるのが手間だった。それと、魔力効率があまり良くない。近くならいいんだけど、底に近づくにつれて何だか妙な抵抗があるんだよね。やりづらいったらない。
そこで、たまたま足下近くを通った魚に、弱めに水上魔法をかけてみた。
するとずぼっと浮かんできてちょっと飛び上がり、そのまま水の上でぴちぴち跳ねていた。面白い。捕まえやすいし。
けどこれ、ハツに見せるとき桶に入れられないな。ま、いいか、水なしにすれば。
こうなったら昔からよく使われてる、でかい石と石ぶつけて衝撃波を…、って思ったんだけどそんな都合よく石がない。海だし深いし。石も魔法で作ってぶつける…?
いやいや、それならもういっその事ダイナマイト漁でいいじゃないか。
というわけで土魔法で細長い樽型の密閉容器を作り、その中に小さい火打石みたいな仕掛けを作っておいて、前にウィノアさんにやってもらった水の分解をし…、というところでふと気がついた。
サンプルで捕まえる程度でこんなのやっていいのか?、と。
だったらサンプルじゃなく、せっかく爆弾(笑)を作ったんだし、ちゃんと食べられそうな魚を真面目に獲ろうじゃないかと考えた。
岩場のところまで移動して、索敵魔法で感知した魚が居そうな場所へ向けて風魔法でひゅーんと飛ばして着水。爆発。
うん、いいなこれ。ちょっと準備に手間はかかるけど。
本当は水中で爆発するようにしたほうがいいんだろうなー、でもやり方がわからん。ぜんまい仕掛けでも作って時限式に…?、使い捨てなのにそんな面倒なことやってられっか。
とにかく水面での爆発でも用は足りたんだ。魚は浮いてきてるようなので拾いに行こう。
ちょっと遠くに飛ばしすぎたかな?、いや、安全のためなんだからしょうがない。
だって手で投げた程度だったら破片が飛んできたりして危ないだろ?、そりゃ障壁ぐらいは張るけどさ、それ抜けて来るぐらいの威力があったらヤバいじゃん。
だから風魔法でひゅーんって飛ばしたんだよ。ひゅーんのつもりだったのがドビューンになってたけども。どう違うんだ、って?、フィーリングだよ!
そして爆破地点、水点?、何でもいいけどとにかく爆破した場所に到着。
途中で水面を走るのが面倒になって、いつもの飛行魔法を使った。いや、波がね、岩場より沖はさ、川よりアップダウン多いんだよ。走りづらいのよ。
それで上から見てすぐわかった。そうか、魚が居そうな場所だと思ったけど、感知したのは鳥が群がってる場所だったのか。それで合ってるんだけどね。合ってるんだけどね。
なんか小魚が散らばってるところに、鳥とでかい魚ともっとでかい魚と厳ついサメみたいなシャチみたいなのが浮かんでた。当然破片も散らばってるし、水の色が少し赤い。
……ああ、うん。やりすぎたみたい。威力ありすぎ。
反省はしてないけど、これ全部回収するのかと思うとちょっと思うところはある。
小魚と持ち上げられる程度の魚はいい。でもこのサメだかシャチだかわからないけど歯がすんごい魚、哺乳類かも知れないけど、これはちょっとハツには見せられないよな、やっぱり。
食べられるのかどうか、町で漁師やってる人にでも訊くか。それまで死蔵だなこりゃ。
それと…、鳥はどうしよう?
●○●○●○●
せっせと回収作業に勤しんでいたら、でかい魚や鳥の新手がやってきたりして、大変だった。
次からは鳥が群がっているようなところでダイナマイト漁はやめよう。絶対やめようと思いました。まる。
と、精神が退行しそうなぐらい面倒でさー、何がって水上を歩いて魚やら破片やら拾ってる俺を、敵だかエサだかと勘違いしてるのか襲ってくるんだよ。連中。
こっちは追加作業なんて要らないし、鳥に関してはわざわざ撃ち殺すのもアレだからって障壁張ってるんだけど、そこに体当たりしてくんのな。
それで水面に落っこちた鳥を水に引きずり込むでかい魚。ついでに俺の足も狙ってくる。
でかい魚のほうは、フォルムが何となく食べれそうな形というか色というか、なので俺の足を狙ってきた奴はバチっと一発電撃殺法。そのまま回収しちゃうんだけどね。
気絶してるだけだったでかいのとか厳ついのも、いきなり動き出して襲ってくるしさー、びっくりしたよ…。つい電撃魔法をバリバリやっちゃって、周囲の小魚が回収できなくなったけど。
食べられるのかどうかよくわからん鳥についてはあまり回収意欲が起きないんだよなぁ…。強いて挙げれば羽毛ぐらい…?、でも羽毛ってったってこいつらの羽毛じゃないよなぁ。いや知らんけど違う種類の鳥の羽毛でしょ?、寝具とか衣類に詰め込むやつって。
でも突っ込んできて死んだのとか魚に引きずり込まれたのとか、もちろん最初の爆発で死んだやつはちゃんと回収したよ。何となくだけど、倒した責任みたいな?、なんとなくね。
それにしても、頭から突っ込んでくるのは何でなんだ?、攻撃って足の爪じゃないのか?、そのせいで勢いがついてるから障壁にぶち当たって即死してるんじゃないのか?、ってか勢いつけ過ぎだろ…。
そうそう、襲われ始めたとき、つい焦ってハニワ兵に防御してもらおうなんて考えちゃってさ。今思えば何考えてんだ、って笑えるんだけども。
ああ、ハニワ兵は砂浜でたっぷり作ったやつね。ハニワ像のコア穴あけてあるやつ。
砂だけど砂が元になってる岩みたいなもんだから、色は砂色だけど性能は同じはず。
なんせ砂も海水も大量にあるんだからさ、ガラス食器作ったときに大量の砂を集めて、余っても何かに使えるだろうってことで土魔法で固めた砂や海水入りの容器をポーチにストックしてある。
そんでそのハニワ像を障壁の床の上に取り出して、コア突っ込んで起動し、水上魔法かけて障壁解除したらさ、重すぎて沈んでったよ。
その時のハニワ兵ったら、真顔で――表情なんてないただの穴ぽこ顔だけど――平泳ぎみたいにしながら必死で水をかぎ、こっち見ながらそのままゆっくり沈んでいくわけよ。俺の真下でさ。
そんなの見せられたら焦りとか緊張とか全部吹っ飛ぶよ?、おかげで落ち着きを取り戻せたわけ。
水上魔法のせいで、沈み方がゆっくりになってたんだろうね。まぁそんな分析する意味無いんだけどさ。
沈んで見えなくなってしまったハニワ兵のことはともかく、落ち着いて考えれば以前、ウィノアさんに大量の魚をもらったときに、細かい網目状に障壁を編んでザルにし、斜めにしてざーっとポーチに入れた方法を思い出せた。
もう後は鳥が来ようがサメっぽいのが来ようが障壁魔法を操作して、流れ作業のように回収できた。これでしばらくは魚獲らなくてもいいな。
しかし障壁操作って便利だなこれ。いろいろ試せたし、前よりも器用に使えるんじゃないかな。
などと考えながら水面近くを飛んで戻ってきたら、ハツが小屋の入り口に手を添えて立ち、ハニワ兵みたいな顔をしてこっちを見ていた。
「お、お兄さん、今、そ、空を飛んで…?」
- え?、うん、飛んできたんだよ?、ハツを連れてきたときも。
「そうだったの!?、って、ボクも飛んだの!?、知らなかった…」
- じゃあハツの家に行くとき、飛んで行こうか。
「ほんと!?、楽しみ~」
表情がころころ変わって面白いな。顔色からして貧血はかなり改善したようだ。やっぱり回復が早いな、年齢のせいか、この世界特有の事なのかはわからないが。
- ところで、立ってるけどどう?
「あ、うん、もう大丈夫みたい。ありがとう」
- まだ走ったり激しい動きはしないほうが良さそうだけどね。んじゃ魚みてくれる?
「魚?、どこに…?」
入り口に手を添えたまま軽く首を傾げる仕草がまた可愛いなこいつ。
リンちゃんどうしてるかな…、と一瞬思ってしまったじゃないか。
まぁとにかく横に平らな枠つきの浅い場所を作り、一種類ずつ魚をポーチから取り出して並べた。あまりでかいのや鳥は出さずに。
- 食べられないのがあったら教えてね。
「え?、あ、はい…」
それで中型以下の魚を見せていったが、一応全部食べられる魚のようだ。
やっぱり浜近くにいた派手な色のものは食べないんだそうだ。毒があるとかじゃなく、小骨が多くて身が少ないので普通なら避けるとか、網にかかってしまったら食べずに肥料にするとかそういう意味らしい。
小魚はイワシみたいな感じで、焼いたり干したりするらしい。普通だね。
それを捕食しにくる中型や大型の魚も、網にかかるとうれしい食材だそうだ。でも網を食い破ることがあるそうで、そういうのや例のサメみたいなシャチみたいなのを銛で突いて倒す力量が漁師には必要らしい。
ハツは漁に出たことはないけど、モン爺って人からいろんな話を聞いたんだそうだ。老齢で引退するまでずっと漁師やってたみたいだから、そりゃ熟練どころか達人の域だろうね。
可愛い孫にいろんな話をする場面が脳裏に浮かぶね。
「ねぇ、これって結構沖のほうにいる魚だけど、お兄さんどこまで行ってたの…?」
- そんな沖だったかな…?、岩場のちょっと向こうのはずだけど。
ちょっとじゃないかも知れんが。
「……ふぅん…?」
なんかジト目で見られた。
●○●○●○●
手が魚くさいので洗うついでに、少し早めにお昼の準備をしようか、と言っていつもの土魔法で作業台やかまどっぽいものをにょきっと作り、鍋やフライパンなども作って、魚を|捌き始めた。
ハツはその間じーっと何も言わずに見ていたが、急にくすくす笑い出したのでびっくりした。
- どうしたの?
「だって、全部石なんだもん、あははは」
しょうがないんだよ、台所用品全部リンちゃんのほうなんだから。
それに、後片付けするとき洗わなくて済むっていうか、それぐらい気軽に使えるからなんだけども。
- 金属のが無くてね、ダメかな…?
「ダメじゃないけど…、あ、ナイフは石じゃないんだね!」
作れなくはないけども、あるんだから使うよね、普通。
- これは採取用に買ったんだよ。
たぶんこれはツギの町であれこれ準備したときに買って、ほとんど出番がなかったものだろう。それかティルラかハムラーデルの騎士団で借りたかもらったか…。まぁ名前が書いてあるわけじゃないし、いいじゃないか。
最初の頃に使ってたものは『森の家』に置いてて、その後『森の家』が発展しすぎちゃったせいでどうなったかわからない。
「へー、もうひとつない?」
- ナイフ?
「うん。あったら何か手伝えるかなって」
一瞬考えたが、一人暮らししてたぐらいなんだから包丁ぐらい使えるだろうと思い直した。
- あるよ。じゃあ海草刻んでくれる?
「わぁ、いいの?」
ぱぁっと明るい笑顔で喜んでる。何この可愛い生き物。
- あ、ちょっと待って。
ナイフを置いて手をさっと洗い、小屋の中にかけてあった細長い布でハツの髪をまとめた。
「昨日は気づかなかったけどこれもボクのズボンだったんだね。なんか変な感じ」
- イヤだった?
「ううん、ゆーこーかつよう、だもんね」
楽しそうだ。こっちも何だか楽しくなるね。
- うん。じゃ、そこで手を洗ってこっちで手伝ってくれるかな?
「はーい」
早速魚を焼いたり炒めたり煮たりした。油がたっぷりあるわけじゃないので揚げ物はしなかったけど、切り身に小麦粉つけて焼いたりはしたよ。
薪は使わずに鍋やフライパンの底を直接火魔法で加熱してたら、やっぱり気づいたのか言われた。
「そのかまど、火がついてないよね?」
そう。形だけなんだ。
いやもう今更だしなぁ、薪のカムフラージュしなくてもいいかーってね。
素材に直接火魔法を使わないのは、制御が難しいからだ。その点、鍋底だとほら、電磁調理器みたいだろ?、持ち上げても火力が変わらないけどさ。
- うん、鍋を魔法で温めてるからね。
「なのにかまどは作るんだね、へんなの。あはは」
いいじゃないか。
そうやっていろいろ作っていると、これも言われるだろうなーって思ってたんだけどやっぱり言われた。
「ねぇ、こんなに作っても食べきれないよ?」
- 残ってもここにしまって、あとで食べるから大丈夫。
「それって、魔法の袋だよね?、本に載ってたよ。すっごい珍しいもので、買うとすっごい高いって」
- そうらしいねー。もらい物だから値段は知らないけど、ないしょにしてね。
「あ、うん…。お兄さんって不思議なひとだよね、魔法もすごいし、そんなの持ってるし…、でも全然強そうじゃなくて、普通で…、あっ!、違うの!、怖くないって意味で!」
海草を刻んでもらってたんだけど、ナイフ振り回さないでくれるかな。危ないから。
- 余所見して切ってると怪我するよ?
「あ!、はい…」
恥ずかしそうな仕草であとは黙々と作業してくれた。
別に大した失言じゃないと思うけど、慌てたのが恥ずかしかったのかな。気にしなくていいのに。
強そうに見えないなんて、俺自身ですらそう思うし。
少しずつたくさんの種類を『味見する?』って言って食べさせたのが悪かったのか、食べ過ぎたらしい。いや俺じゃなくてハツが。
「美味しすぎるのがいけないんだよ…」
あれこれ食べさせた俺も悪いんだけどね。
だってさ、作って少し味見させるといい笑顔で『美味しいっ♪』って言って食べてくれるんだぜ?、そりゃもう俺だってやる気メーター振り切るぐらいあれこれ作るって。
海草と魚とハツの実、あとは手持ちの果物や調味料と小麦粉だけどさ、魚も新鮮だし、生から炙りからすり身で団子とか、骨せんべいまで作っちゃったよ。
自分で言うのも何だけど、バカだよな、俺。
あれだよ、田舎の爺さん婆さんなんかが孫にやたら食べ物与える理由、わかったような気がするよ。
とにかくハツは小屋で楽な姿勢で休ませておいて、俺はせっせと後片付けと、残ってたハツの実の皮むきをした。
食べすぎとは言っても深刻になるほどではなかったし、1時間かそこらで落ち着くだろう。
●○●○●○●
ハツが起きてきたので魔導師の家に行くことにした。
「本当にきれいに片付いちゃうんだね…」
- 小屋はあのままにしておくけどね。
「石のベッドともお別れだね」
う、それを言うなよ…。
- 固いよね、やっぱり。
「でも少しひんやりしてて、気持ちよかったよ?」
- そりゃまぁ、土魔法で作った石だからね。
部屋には氷を置いたりとあれこれ工夫してすごしやすい温度にしてたしなぁ。
「あ、またお風呂に入りに来ていい?」
- 来ても誰もいないし、あのお風呂はお湯を沸かせないよ?、水も抜いてあるし。
「えー?、お兄さんここに住んでるんじゃないの?」
そんなこと思ってたのか。
- 違うよ、言ったろ?、気づいたら砂漠に居たんだって。そこの小屋はハツを治療して寝かせるのに必要だったから作っただけなんだから。
「そうだったんだ…」
- そんなにお風呂が気に入ったなら今夜また入ればいいさ。じゃ、行こうか。案内よろしくね。
「うん!、案内?、海岸沿いにこっちに行けばあるよ?、え?、行かないの?」
走り出そうとしたハツの腕を急いで掴んでとめた。
だってもう障壁で包んでるんだよ。ぶつかるじゃないか。
- もう飛んでるんだよ。だからじっとしてて。
「え!?、えー!?」
下を見て俺を見て周囲を見てと、忙しいな。
ゆっくりと地上から10mぐらいの高さまで上昇し、ハツが示した方向にすいーっと移動を始めた。
「うわー、高いー!、すごい!、遠くまで見えるね!」
- あっちには町が見えるけど、そこまでは行かないんだっけ?
「うん、手前の林のところにあるの、ちょっとここからだと隠れてて見えないよ?」
- んじゃ少し速度を上げるから、近くに来たら教えてね。
「うん!、え?、下に透明な壁がある…、飛んでるけど、飛んでるけど!」
だからどうしてこの飛行魔法に同行するひとたちは俺に縋りついてくるわけ?、あ、そういえばオルダインさんはそのままどっしり構えてたっけ。
あんなごっつい爺さんに飛びつかれたり縋りつかれたりってのは勘弁してほしいけど。
- ん?
「何か思ってたのと違うよ!?、これは…、何だかがっかりした!」
えー…、そんなことを言われてもなぁ…。
この飛行魔法ほんと不評だなぁ、何故だ?、便利なんだぞ?、荷物だって運べるし座ってても寝転んでもいいから姿勢は楽にできるしさ、速度だって出せる。何ならこのまま水上を滑るように進んでもいい。試した事は無いけどちょっとぐらいなら水中だって潜れるんじゃないかな。どうしてがっかりされるんだ?、解せぬ。
- そう?、便利なんだけどなぁ、これ。で、ちゃんと下を見ててくれないと、ハツの家がどこだかわからないよ?
「あ、そうだった」
俺の腕にしっかりつかまって、下を覗き込むハツ。
そんなに力入れてつかまらなくても、落ちやしないんだけどなー。足の下にちゃんと障壁の床があるのわかるだろうに。
魔導師の家と呼ばれていたハツの家は、防砂林だろうハツの木に背を預ける形で囲まれたところにあって、すぐ前は防砂林が無く、あちこち杭や柱が立っている不思議な雰囲気の場所だった。その向こうには砂浜があって海が見えていた。
一応、動物など妙なものが住み着いていたら困るので、索敵魔法を使っておく。
町の壁からここまでのちょうど中間あたりに何か居るっぽい。大きさからすると人か?、全然動いてないし、魔力も弱々しいんだが…。
家の中には魔道具以外は反応が無かったので、とりあえずハツを降ろした。
- あっちに何か居るみたいだからちょっと見てくるね。ハツは中に入ってて。
「え?、うん…」
もし人だったらあの弱り方はまずいからね。人じゃ無ければいいんだけど。
急いでそこまで木々の間を縫うように飛んで行った。
そこには大きな布で身を隠すように包んで、そのまま倒れたっぽい人が居た。
うわー、人だったよ!、めっちゃ衰弱してるじゃないか。って、布をめくったらボストンバッグぐらいの箱の中に人が倒れてるぞ!?、こっちもすげー衰弱してんじゃん!、こりゃまずい!
大きいほうの人をスキャン、しようとして、何かひっかかるような妨害されてるような感じがした。この感じは、あの砂嵐に包まれてるときに感じたのと同じやつだな。あれより数段弱いけど、似たようなもんだ。
どうやら箱に何かあるようなので、どうせ開けなくちゃ中のちっさい人を助けられないんだからと、無理やり魔法を構築して錠前を壊して箱を開けてわかった。
皮袋に入れられてる石が、魔力操作をジャミングみたいな感じで妨害してるんだこれ。
ということはこれポーチに入れちゃダメなやつだ。
ほら、前にリンちゃんがさ、『生の角は入れられない』って言ってたろ?
だからこういう魔力に影響のあるような物体は入れないほうがいいなってね。
同様の理由でウィノアさんの首飾りもポーチに入れられない。
まぁ、入れたら後で何を言われ要求されるかわかったもんじゃないので入れないけどね!
とにかくこいつを持っていくのもいちいち魔法が妨害されるんじゃ鬱陶しいだけなので、少し離れた木の根元に穴掘って、そこに埋めることにする。
そうしないとスキャンができないからね。微妙に繊細な操作なんだよ、妨害されてちゃやってられん。
あらためて大きいほうの人をスキャン、するまでもなく顔色がヤバい。
血中の酸素が全然足りてないぞこれ。呼吸を確保しないと!、急いで頭部をスキャンして外傷が無いのを見てすぐあごを上げるようにしたらノドがおかしい。
これも急いでスキャン。あ、こりゃまずい。のどに腫瘍があるのに無理にここまで走ったかして腫れがひどくなり、呼吸困難に陥ってる。
とにかく圧迫されてる気管をなんとか、そうか、薄い障壁で内側から広げるか。できるのか?、やるしかない!
ふー、何とか呼吸は確保できたようだ。良かった、自発呼吸してくれて。もう少し遅れたら手遅れになるところだったんじゃないか?、全く無茶するなよって話だよなぁ、おおっと、ちっさいほうの人もスキャンしないと。こっちも衰弱してるし。
どうやらちっさい人は衰弱が酷くて気を失っているだけのようだ。加減がわからないけど弱めに回復魔法かけておこう。
そしてまとめて障壁で包んで急いでハツのところに飛び、ハツにベッドを頼んだら、壁に立てかけてある診療用の寝台を準備してくれた。手際いいな。
あとで聞いたことだけど、昔ここはそういう診療所みたいなことをしていたんだってさ。なるほど、だから入ってすぐのところにそういう寝台があるわけだ。
大きいほうの人をそこに寝かせ、ちっさい人はテーブルの上に布を畳んで置いてもらってその上に寝かせた。箱は邪魔なので入り口近くに置いておく。
土魔法で小さいコップと器をいくつか作って、そこに水や果汁の水割りや昼に作った煮物のスープを入れておく。これで起きたら自分で飲むだろう。
さて、問題はこの大きな人のほうだ。
改めてスキャンしたところ、ノドの異常は何か原因物質っぽい異物が付着して、それで炎症からできものになったんじゃないかと思う。
原因物質はできものに含まれているので、外に穴あけて少しずつ障壁でまとめ、局所的に回復魔法をかけながら取り出していくと炎症もどんどん治った。
取り出したできものの欠片は土魔法で作ったバケツに入れた。
ノドの処置が終わったので、一応他の部位もスキャンしてみた。
俺には腫瘍の良し悪しなんてわからないので、もし転移してたらまずいなーと思いながらのスキャンだったが、どうやら転移はしていないようで安心した。
原因物質と同じような反応が、すごく微細なんだけど腸にあったので、吸収されないように周囲のものを集めてぎゅっと圧縮してちいさな塊にしておいた。そのうち排泄されるだろう。
ついでに熱も下がったようで呼吸が安定したので、これで大丈夫だろう。結構大変で、すげー疲れた。
見ると窓の外がオレンジっぽくなっていた。もう日が沈むところだったのか。道理で疲れるわけだ。
しかし病人が一気に増えたなぁ、と思って診療台の横にハツが置いてくれていた椅子に座る。ぎしっと音がして一瞬焦ったけど、壊れはしなかった。
ふと見ると奥に続く扉のところにハツが立ってて、畳んである清潔な布を胸に抱えて片手で口を押さえて涙を流してた。え?、なんで泣いてんの?
- どうしたの?
「え…?、言葉がわかる…」
「助かったの?、そのお姉さん」
え?
テーブルの上で寝たままのちっさい人がじっとこっちを見ていた。
- あ、うん、処置は終わったよ、あとは安静にしてれば大丈夫。
「よかったぁ…」
袖で涙を拭いて、安心したように言ったハツはおいといて、ちっさい人のほうを見た。
- で、こっちのちっさい人は気がついたんだね。そこにおいてあるのどれでも、ゆっくり飲んでいいよ。
「あなたが助けてくれたのかな?」
ゆっくりと半身を起こしながらなのでそっと片手で支えてあげた。
- うん。と言っても箱から出して回復魔法をちょっとかけただけなんだけどね。
「ありがとうございます。あの、これは?」
と、テーブルに並べたちっさいコップ類を指差した。
- 君に合う食器がないので土魔法で作ったんだけど、だめだった?
「そうじゃなくて、中身かな?、じゃなくて中身のことです」
ああ、それもそうか。
- んと、左から、水、果汁入りの水、お昼に作った煮物のスープ。
「頂いていいのかな?、じゃなくていいんですか?」
- どうぞ?、お口に合えばいいけれど。
テーブルの上を四つんばいでコップに近づく身長20cmほどのちっさい人。この世界っていろんな人の種族があるのかな。こっちの大きい人は犬みたいな耳と尻尾あるし。人魚とかも居たりして。
それぞれ味を確かめるようにして、ちょっとずつ飲んでる。可愛らしいというか何と言うか。ちょっと耳の形がとんがってるのかな、あと、背中に何か傷跡みたいに2本の線がある。
「あのぅ、お兄さん?」
- ん?
「あ、これ清潔な布です…、けど、要らなかったみたいですね…」
- ああ、それならこっちの大きい人にかけてあげて。まだかなり弱ってるから、あまり冷やすのは良くないし。
「はい、わかりました。それと、お兄さんそのちいさい人の言葉がわかるの?」
- え?、普通に話してない?
「お兄さんは普通に話してるんだけど、ちいさい人が何を言ってるのかボクにはわからないから…」
- そうなの?、言葉が違うのかな?
「あ、そうよ!、じゃなくてそうですよ!、あっちのひとの言葉はわからないけど、あなたの言葉はわかるわ、じゃなくてわかるんですわ、どうしてなんです?」
- さぁ?、通じるならそのほうがいいんじゃないかな?
「はぁ、お兄さんのことはそういうものだと諦めます…」
「それはそうだけど…」
これはあれだ、ピヨと同じだ。
たぶん、この小さい人の言葉には少しだけ魔力が乗ってるんだ。だから俺にはわかるし、俺の言葉にも魔力が乗ってるらしいから通じる。
でもどうしてそうなのか、と言われてもわからん。わからんもんはわからん。説明しようがない。
- それで、どれか口に合ったのはある?
「あっはい、どれも美味しかったかな、じゃなくて美味しいです、できればこっちのスープのおかわりが欲しいかな、じゃなくて欲しいです」
- 普通に喋ってくれていいよ?、でも意識を失うほど衰弱してたんだから、おかわりは我慢してね。もう少し休んで、回復したらまたあげるから。
「はい、わかりました。あ、あの、きいてもいいかな?」
- 何かな?
語尾『かな?』ってうつるな、これ。
「あなたは、その、私を閉じ込めたりしないの、かな?」
- どうして?
「どうして、って、逃げたりしないように?」
首をかしげながら言われてもなぁ…。
- 逃げられるほど元気になったのなら助けた甲斐があったって事だね。今は元気になることを考えて、できればおとなしくしていて欲しいんだけども。
「あのっ、本にあったんです。妖精を捕まえて見せ物にしたり、あ、愛玩用に飼ったりする人がいるって…」
- へー、このちっさい人、妖精さんだったの?
「あ、でも羽がないから…、わかりません」
「妖精?、違うかな、有翅族よ。そしてあたしはミリィ」
- あ、僕はタケル、こっちの子はハツ。よろしくね、ミリィ。
「タケルさんと、ハツね。でもハツには言葉が通じないかな?」
- 通じなくても覚えておいて。さ、ここは安全だから。ミリィを閉じ込めたり見せ物にしたりする人はいないよ。もう一度弱い回復魔法をかけるから、眠るといい。
そう言って畳んだ布の上にミリィを誘導し、手をかざして弱い回復魔法をかけた。
「わぁ、タケルさんの回復魔法ってすごくいい気持ちー、ありがとう」
- どういたしまして。さ、ハツ、奥に部屋があるならそっちで話そうか。
「はい」
奥の部屋は本やビンが並ぶ棚があり、棚からあふれた本やビンが床に置いてある部屋だった。
「散らかっててすみません…」
- これ、ハツはどこで寝てたの?、ベッドの上にまで本が散乱してるけど。
「あ、ここはお師匠さんの部屋で、ボクの部屋は隣なんです…」
なるほど、つまり俺はこの部屋を片付けないと眠る場所がないってことかな。
まぁ、外に小屋作ってもいいし、何とでもなるか。
- 夕食はどうしよう?、昼に作ったのがあるから台所は使わなくてもいいけど、食べる場所がね…。
この部屋にも机はあるけど、物が載りすぎててどうしようもない。
「あ、それがその…、入ってすぐの部屋がそうなんです…」
あー、確かにかまどがあったよ。テーブルは食卓代わりにもなってたのか。
- んじゃハツの部屋…、も散らかってるってことね。
「はい…」
これは、入ってすぐのあの部屋が散らかっていなかったのが奇跡とすら思える。
- 裏口ってあるのかな?、表側は2人とも眠ってるし、通りにくいからね。
「あります。あるんですけど…」
しぶしぶ、と言った様子で先導するハツについていくと、廊下で斜めに倒れている棚が裏口をふさいでいた。
床には割れたビンが散乱していて、何かの残骸もある。本も落ちている。
- 棚を起こせばいいんじゃないの?
「起こすとまた倒れちゃうんです…」
何その欠陥住宅。
床をよく見ると、棚の底があたる部分が一部腐ったのか斜めになっていた。
これは一度棚をどかして、って、どかすスペースがないな。手前も棚が並んでいて狭いし。
しょうがない、取っ手をつくって一旦ポーチに突っ込むか。それで床を補強してまた置き直せばいい。
- しょうがないなぁ…。
つい言ってしまったけど作業開始。
「すみません…、え?、え?」
穴あけて落ちてるヒモみたいなのを結んでポーチに突っ込み、床を引っぺがして土魔法ブロックを作る。その上にまたポーチから棚を出して設置。裏口を開けて、障壁の箱をつくり、土魔法でT字の道具を作って床に落ちてるものをざーっと押し出した。
本はそこから救出して軽くはたき、棚に置く。
ガラスの破片は熱で溶かしてまるめて冷まし、ポーチに回収。それ以外のゴミは外にポイ。
そしてテーブルと椅子をいつものように作って、桶を作って水を貯め、俺は別に水魔法で手を洗ってから昼に作った料理のうちいくつかを出して並べた。
- さ、ハツも手を洗って、夕食にしよう。
「…はい」
気が抜けたように機械的に手を洗って席に着くハツ。
目のハイライトが消えてる気がするんだけど、まぁ、食べれば戻るかな。
裏口の脇に、階段が地下に向かっているのが気になったので、きいてみたらお師匠さんの研究室と薬草などの保管庫があるんだってさ。
普段使わない魔道具類もそこにしまってあるんだそうで、というか扉自体が魔道具なんだそうだ。すげーな、ハツのお師匠さんってひと。
魔力感知に反応があったのは、その地下の道具類だろうね。まぁ相続したのはハツだし、ハツの財産だから見せてもらえれば嬉しいけど、無理にとまでは思わない。
食べ終わると、ハツは部屋の片付けをするといって中に戻ったので、俺はそのまま外に小屋を作って、風呂を設置し、お湯を張っておいた。
裏口から入って、お師匠さんの部屋で片付けをしているハツに近づいてこそっと伝える。
- お風呂の用意ができたけど、どうする?
「もう少しかかりますので、あとで入ります、ありがとうございます」
何だかあの大きい人を治療してからハツの態度がよそよそしくなった気がする。
まぁ、気にしないことにして、んじゃ俺はちょっと気になってた例の皮袋を見てくるか。
ミリィが入れられていた箱は、まぁただ頑丈なだけの箱だったんだけど、あそこにミリィと一緒に入れられていた皮袋2つね。中身は同じ、拳の半分ほどの大きさの石なんだけども。
あの時は急いでいたってのもあって、あまりよく見てなかったからね。
気になるっていうか、あんなアイテムがこれから先、もし多く存在するのなら、魔法が使いづらいだけじゃなく、使えなくなってしまうことだってあり得るわけなんだよ。
俺としては、魔法が使えないとただの兵士にも負ける自信があるわけで、どういうアイテムなのかちゃんと分析して知っておかないと命に関わるかも知れない。
埋めた場所に行き、掘り起こして、といっても枯れ草などをかぶせただけだからすぐだ。皮袋から石を取り出してよく観察してみた。
こうしてよく魔力感知の目で注意深く観察してみるとよくわかるな。
これって、魔力を吸収・放出・反射を繰り返しているんだよ。
もうひとつの石も取り出してみると、同じように3つのフェーズが繰り返されている。
ん?、吸収と放出のフェーズはどっちも同じぐらいの時間だな。強さは大きさ依存か?、まだはっきりしたことは言えないけど、確実なのは吸収・放出・反射の順番か。
2つの石で、反射の時間に差があるように思う。だから2つあると周期がずれるせいで余計に魔力制御が乱されてしまうのか。ジャミングってのは閃いただけだったが、言い得てる感じだな。
しかしもう少しヒントが欲しいな、砕いてみるか?、うん、砕いてみよう。
少し離れて、土魔法で土台とハンマーを作った。そこにジャミング石を持ってきて、よっこらせー!
おお、土台とハンマーの一部が壊れた。吸収されたのか。
これって前にもこんなことあったよな?、そう、『生の角』を砕いた時と同じだ。
生じゃない角は、加工されて魔道具の魔力電池のように使われているって聞いた。
つまり、魔物の角ってのはそれ自体が魔力電池みたいなもん、ってことだ。
でもそこには『反射』は無い。
なら、安易だけど『吸収・放出』する成分と、『反射』する成分は別だとは考えられないか?
割れたジャミング石をよく見比べてみる。
仮定を忘れ、ただ観察するんだ。
細かく、より詳細に……、もっとだ、もっと微細に……!、俺自身の魔力放出が邪魔だ、抑えるんだ、そして周囲に漂う魔力に対しての微細な反応を観察しろ!、そうだ、石の構成要素ごとに、集中しろ、集中………
…
……
………見えた!
たぶん見えた。と、思う。
吸収して放出するのは同じ粒子で、反射するのは別の粒子だ。
そしてそれらが混ざっているせいで、吸収・放出のサイクルが短くなったり長くなったりする。
そりゃそうだろう、反射する粒子は常に反射してるんだ。そしてそれがあると、貯め込む動作それ自体にも作用してしまうから、吸収してもすぐに放出フェーズになってしまう。
の、だろう。あくまで観察したことからの推測でしかないが、俺は研究者じゃないので、ある程度自分なりに納得できるところまでいけばそれでいい。
問題はこいつの対策なんだが…、どうしたもんだろう。
俺ならたぶん、こんな石ころがいくつあっても、あの砂嵐の中に居た時のように、無理やり魔法を使うことはできると思う。あれに比べれば、こんな石ころ程度の妨害なんて可愛いものだと言える。
普段そんなジャミングなんて無いし素直に魔法が使えるから、少しでも邪魔されると違和感だってあるし、魔法が使いづらい、細かい魔力操作がやりづらい、と思うだけなんだ。
本来、体内の魔力を使う場合においては、体内に妨害要素が存在しない限り、周囲の魔力なんてどうでもいいはずなんだよ。
ところが実際は、環境によって魔法の威力や発動時間にも影響がある。場合によってはこのジャミング石や、あの砂嵐の中のように、妨害だと感じたり、人によってはたぶん発動できなかったりすることもあるのだろうと思う。
あー、あれか、となりで音痴なやつが歌うと歌いづらかったりするやつか!
たとえは良くないけど、要するに魔力環境が安定していないと集中しづらいし、そんな訓練なんて誰もしていないから経験がない。だから邪魔されて発動できなかったり、やりづらいって感じるわけだ。
つまり、気のせい、ってことだな!
でも、気のせいであっても、妨害になるのは確かなんだ。
砂嵐のところで魔法を使うとき、ちょっとの魔法でもめちゃくちゃ疲れたもんな。(※)
ということは、誰かが魔法を使おうというとき、魔力制御中にそういう妨害があると、制御が乱れたり集中できなかったりして、ひとによっては失敗するかも知れない。
詠唱に頼っている人であれば、集中しなくてはならない時間も長くなるので、必然、妨害されると発動できなくなることもあり得そうだ。
そう言えばウィノアさんが、『こんな所でいとも簡単に』なんて呟いていたと思うけど、あれは俺が無詠唱だから影響を受ける時間が極短時間なのと、扱える魔力量が大きいせいで、妨害の影響を受けにくいんだろう。
それと、ウィノアさんは言ってみりゃ魔力の塊みたいな存在であって、環境の影響を受けやすいんだろうと思う。かなり特殊な精神生命体だもんな。
ふーむ、こうして観察と考察をしてみると、なかなか興味深い素材だよな、あの砂といい、この石といい。
どうやら魔物サイド――と言っていいのかは判断つかないけどとりあえず――は、反射成分を除去して自分たちに都合のいい魔力を貯めておける装置として『生の角』をつくり、それが空になった『ただの角』を光の精霊さんたちや人種は魔力電池のように加工して使っている、のかも知れない。
あ、光の精霊さんたちの魔道具で使われている魔力電池的なものは、魔物の角を加工したものじゃないかも知れないね。
俺としては、残る要素である『反射』のほうを考えてみたい。
何故か?、そりゃあほら、竜族の破壊魔法を反射できるなら安心して戦えるじゃん?
あ、でもこれらの要素って、ポーチに入れられないか。
いや、でも、常に反射するなら、持ち歩けばいいじゃないか。
そしてその反射を制御できるならさらに良し、これは是非とも光の精霊さんの技術者たちや研究者たちに頑張ってもらいたいところだな。
というところまで分析できたので、俺はもういいや。
え?、対策?、だって俺は気のせいだって結論になっただろ?、俺ならそれで無理やり魔法が使えるんだからさ。妨害?、もう妨害にならないよ。気のせいなんだから。
あ、でも細かい魔力制御をするときは、やっぱり気になると思う。
次話3-005は2019年08月23日(金)の予定です。
20190928:誤字訂正。 自身 ⇒ 自信 (何という見落としを…)
(作者注釈)
>>ちょっとの魔法(※)でめちゃくちゃ疲れた
タケルは無意識に魔力の波長のような要素を調整してしまうので、多少妨害される環境であってもこの程度の感覚で何とかなってしまうようです。
●今回の登場人物・固有名詞
タケル:
本編の主人公。12人の勇者のひとり。
ハツ:
一人称がボクのすっげー可愛い少年。
おや…?、ハツの様子が……
ミリィ:
箱に入れられていた娘。ちっさい人。
有翅族という種族らしい。
そのくせミリィには羽がない。崖から落ちたときにもげたようだ。
港町セルミドア:
港町。町の囲いが見えただけ。今回は名称すら出てこなかった。
ドロシー:
倒れていた大きいほうの人。
今回、名前は出てこないし、セリフもない。
別に仲間を斡旋してくれたりはしないし、
どこかの迷宮に飛ばしてくれたりもしない。
とりあえず命の危険は去ったようだ。
ウィノアさん:
水の精霊。
どうやらこの地域ではあまり力を発揮できないっぽい。
今回出番なし。
リンちゃん:
光の精霊。
名前はちょくちょく出てくるのに出番がない。
ピヨ:
風の半精霊というレア存在。見かけはでかいヒヨコ。
そのうち出番があると思う。
オルダインさん:
ホーラード王国騎士団長。鷹鷲隊と関わりが深い。
本編では言及されていないが、ホーラード王国にはいくつもの騎士隊がいて、
それらはすべてこの騎士団長が統括している。
儀仗兵である近衛騎士団とは命令系統が別。
全国で数人存在する達人級のうちのひとり。
お師匠さん:
ハツの師匠。名前は出てないけどローと呼ばれていた。
ハツにたくさんの本や薬品を遺している。
モン爺:
ローの昔馴染み。元漁師。
今後登場する場面はあるのだろうか?