1ー009 ~ 身体強化魔法
- 夜までまだちょっと時間があるので、森の拠点に行こうと思う。
「はい」
- 何匹か角ウサギと角キツネを狩って、燻製の準備したらここに戻ってくるつもり。
「あっ、燻製作りですね!」
- ところでこっちに来るとき全然出会わなかったんだけど、リンちゃん何かしてた?
「え?、あ、はい、魔物避けの領域魔法を使ってました」
- あ、やっぱりそんなのあるのね。んで今度はそれを狩るのも必要だから、使わないでね。
「はい、でもその…、まだ効き目が残ってるかもです…」
- え、それってそんな効果残るの?
「一応加減はしましたけど…、あの、魔物の強さにもよるので…」
- あー…、角ウサギと角キツネだからなぁ…、最弱だしなぁ…。
「だいたい半日ぐらい効果が残るかもしれません」
- あらま。それだと探すの時間かかりそうかなぁ、
「でも大丈夫です!、魔力感知も強化支援もお任せくださいです!」
- え?、よくわかんないけど何とかなるのね。
「はいっ!」
- んじゃ行こうか。
「はいっ!」
あ、片付けんのね、って道具も荷物も全部入るのね。スゲーな魔法の袋。
やっぱ物語の定番ってだけはあるわ。
あ、俺の背嚢は入れないで。
●○●○●○●
強化支援ってスゲーのな。
最初感覚わかんなくてさ、ズドーンって木にぶつかったりしたけどさ。
森の拠点まで15分ぐらいだった。たぶん。
走ったりしてるうちにだんだん慣れてきて、そんでもって魔力感知もだいぶ分かってきたんで、もう手を合わせたりしなくてもアクティブソナー使えるぜ、ふははは。
サーチアンドデストロイだぜヒャッハー!
はい、調子に乗りすぎました。
合計15匹ぐらい狩っちゃった。捌くこと考えろってね。ちょっと前の俺に突っ込みいれたい。
んで拠点に戻ってきて捌いてて気付いた。
ズボンの膝から下んとこ、めっちゃズタズタになってた。あと袖も裂けてた。
なんだこれ?、あれか、空き地とか川辺で遊んでて、草とかで切っちゃったりするやつか?
でもリンちゃん何とも無いのね。ずっと一緒に走ってたけどさ。
あ、リンちゃんのローブは鞄の中ね。ついでに俺の背嚢も。
木にぶつかったときに背嚢のストラップ?、っていうのかな?、肩にかける帯ね、片方千切れちゃったんだよね。だから持ってもらうことにしててよかったよ。背嚢もズタボロになってたかもしれなかったんだしさ。
- なんか服がズタボロになっちゃったな、いつ切れたんだろう、やっぱ草とかちゃんと避けないとだめかな。
「違いますよタケルさま。それはタケルさまが早く動きすぎて、服のほうがもたないんです」
- え!?、何それ、人間やめちゃうスピードだったってこと?
「えっと、すごくすごーく早く動かすと、9D@)$JL)Hの$R@ができてJL)HのD@($PG:@YD)$によって、あ、えーっと…」
何だって?、こりゃあれか、精霊語か、全然聞き取れん。
- 落ち着いて。
「はい、ごめんなさい。えっと、魔力がある程度以上ある物体がすごくすごーく早く動くとき、後ろに余剰魔力の渦ができるんです。それと強化魔法の相乗効果で風魔法が自然発生してしまうことがあります」
な、なんだってー!、って言うところだけどたぶん通じないよね。
- へー…、あ!、もしかして剣でもできちゃう?
「はい、魔法を飛ばせる剣技ですね、あるそうですよ?」
おおぅ、斬撃を飛ばすとかロマンを感じるな。絶対使えるようになりたいもんだ。
- お、俺にもできるかな?
あ、興奮のあまりつい『俺』って言っちゃったよ、普段口に出すのは『僕』って言うようにしてるのに。
「剣に魔力を纏わせるか、魔法の武器を使うかで多少変わってくるようですが、強化魔法とのコンビネーションを巧く使えばできると思います」
- おー、これも練習しなくちゃな。
「はい!、タケルさまのためにあたしも頑張ります!」
- んで、ズボンとかズタボロになっちゃったってわけね。こりゃあもう繕うよりは新しいの買うほうがいいな。
「あ、あのっ、服にも魔力を纏わせれば破けないようにできます」
そういうのはもうちょっと早く言って欲しかったなー…。
●○●○●○●
ちょっと多めに狩っちゃったけど、行き帰りの時間が短縮されるなら大丈夫だろう。
そんでせっせと捌きに捌いた、腕がつらい。
んで今は俺特製の塩漬け液を作ってるとこ。
でもこれ壷に入りきらないよな…。壷ちっちゃいのしか無いしな…。
と、困ったような表情で、宿を出るときに井戸から汲んだ水を手鍋で沸かしてたら、
「タケルさま?、燻製って煙で燻すんですよね?、それは何をされてるんですか?」
- ああ、これは燻す前に塩漬けにするんだよ。そうしないと日持ちしないし、下味もつかないからいまいち美味しくないんだ。
「それがタケルさまの美味しい燻製肉の秘密なのですね!」
- ん?、ああ、秘密ってほどのもんでもないけどね、木の実とかいろいろ入れてるけど。
「ところでもしかして、そちらの壷に漬けるんですか?、小さくないですか?」
そうだよ!、小さいよ!、ついでに言うと鍋も燻製箱も小さいよ!、言わないでくれよ、調子に乗って狩りすぎたんだよ…。どうしようね?
- うっ…、そうだよね、入りきらないよね。
「では入るサイズの壷を作りましょう」
な、何ですと?
- え?、作れるの?、もしかして魔法で?
「はい、土魔法で、こんな感じです」
って言うが早いか、地面から壷が生えてきた。何を言ってるかわからないだろうが、俺にもよくわからん。とにかく壷が生えてきた。
おお?、フタもあんのね、ってか模様まで描かれてら。花柄?、細かいな。
- おー、何かすごいね。
「タケルさまも練習すればできるようになりますよ?」
- おお、そっか、でも今はいいや、んじゃ手間かけるけど、鍋と竈も頼んでいいかな?、あと、そこにおいてある燻製箱も、大きめの同じ構造で。
「はいっ!、喜んで!」
と、何かどっかの居酒屋みたいな返事をしたリンちゃん、楽しそうに作ってくれたけど、そうなると小屋が狭いよね、ここ。
- おお、立派なのができたね。でもなんか狭くなっちゃったね、ははは。
竈がでかくなったら後ろとか上とかやばそうだ、火事とかな。
「あっ、そうですね、んじゃ小屋も大きくしましょう!」
両手を合わせて顔のやや斜め下へ、そして笑顔。うん、あざとい、可愛い。
もう好きにしていいよ、楽しそうだし。
- そ、そうね。よろしく。
って言うしかないじゃないか。