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2ー092 ~ 調査へ

 「お待たせ致しました、おい!、その足元の水は何だ!?」


 オルダインさんが軽装備に着替えて作戦室に戻ってきてすぐに、作戦台の下から床に水が広がっているのを見て足を止め、叱責するような口調で言った。


 「水!?、わ!、何だこれは!?」

 「「うわっ」」


 言われて気付いたらしい作戦室に居た兵士さんたちも、甲冑をがちゃつかせてうろたえている。

 ああ、そうだった、俺が氷を置いたんだった。

 もうすこし受け皿を深くつくるんだった。

 直接見えないし、適当でいいや、っていい加減に作ったのが失敗だったな。


 作戦台の下を見たが、こちら側には水が出てないな。

 奥側のほうが少し低いのかな?

 欠陥住宅だな!


- あ、すみません、作戦台の下に氷を置いたのが溶けただけでしょう。


 「「え?」」

 「氷を、ですか…?」


 全員の視線、そして代表して隊長さんが眉を寄せて俺に問いかけた。


- はい、部屋が暑いのでちょいと魔法で。言うのが遅くなってすみません。


 「……そうでしたか、道理で足元がひんやりとしていたわけですよ…、はぁ…」


 肩を落とすように言って溜め息をついた。

 言外に、『驚かせないで下さいよ』と言われている気がする。


 「魔法ってそんな気軽に使えるもんなのか?」

 「いや、ちょっと壁つくるにも大変だって聞いたぞ?」


 ざわざわと小声で喋る兵士さんたちがそんなことを言ってる。

 部屋の端のほうに居た兵士さんが棚から雑巾らしき布やモップっぽい道具を持ってきた。


 「作戦台の下は、板張りをやめたほうがよさそうですな、はっはっは」


 オルダインさんは原因が俺だとわかって安心したように笑っていたけど、兵士の皆さんの雰囲気を和らげようとしてくれたんだろう。


 作戦台の下は、1段だけ棚になっていて、その下は板張りで隠れてるんだよね。

 魔力感知でだいたいの空間があるってわかったんで、そこに氷とトレイを作ったんだけど、足元がひんやりする程度で、大した効果がないって作ってから気がついた。

 だから直接部屋の空気の温度を少し下げたんだけど、そっちはあまり気付かれてなかったようだ。


 「タケル様、お待たせしました。何かこぼしたのか?」


 床の水を吸い取って木製のバケツで絞るという作業をしている兵士さんが2人、部屋の出入り口の近くにいたせいか、着替えて出てきたメルさんが足を止めた。


 「はっ、その、タケル様が氷を作戦台の下に置いたのが溶けたようでして…」


 問われた兵士さんが手をとめて、実に言いづらそうに答えた。

 メルさんは俺をちらっと見て、『何をしてるんですかタケル様…』というような表情をし、


 「そ、そうか、すまんが通るぞ」


 と言って、すすっと通ってオルダインさんの横に行った。


 「どうぞ」


 とその兵士さんは返事をして、邪魔にならないようにバケツの位置をずらしていた。


 リンちゃんも通り抜けて俺のそばまで来たが、何となく慎重に歩いていた。

 もしかして、濡れてると木の床だから滑りやすくなってたのかな。


 メルさんを見ると、(うなづ)いたので出発してもいいってことだろうと解釈した。


- じゃ、早速ですけど、オルダインさん、ついてきて下さい。


 「わかりました」


 作戦室を出るとき、サクラさんとネリさんに「行ってきます」と一声かけたら、サクラさんは「行ってらっしゃい」ってすぐに返してくれたが、ネリさんは「タケルさん…」って何か言いたそうな困ったような寂しげな表情だったが、今はちょっと時間がとれないので足を止めずに通り過ぎた。


 本部を出て外に出るまでの間に、サクラさんが「調査なんだからダメだぞ」って言っているのが聞こえた。

 もしかすると、討伐目的じゃないと許可が必要とかそういうのなのかも知れない。


 ティルラ王国だけがそうなのかはわからないけど、国に所属するといろいろ面倒なことがついてきそうだ。

 そう思うと、どこかに所属するというのも考え物だな。


 あ、でも給料もらわないと食べていくのが大変なんだっけか。

 勇者は冒険者として登録できないからね。


 前に、ツギの街の冒険者ギルドに行ったときは、流れでそのまま調査になって『鷹の爪』のひとたちと一緒にダンジョンに入ったけど。

 冒険者としては登録できないけど、素材も引き取ってもらえる。でも冒険者向けの依頼を受けたりはできないんだってさ。


 あの時は、勇者の代表って立場になってるハルトさんに依頼を出したあとだったので、俺がその依頼を受けに来たんだと勘違いされてああなったんだと、あとで聞いた。


 まぁ、1年未満の見習い勇者は修行の一環としてダンジョンに入れるし、別にどこかに所属していても、魔物を討伐したりは自由にできるらしいけどね。






 歩いて『スパイダー』を停めている広場まで来た。


 「タケル様、これで行くのですか?」


 メルさんが意外そうに尋ねてきたが、もちろんそうじゃない。


- ピヨを置いて出てきたんで、それと『スパイダー』の回収のためですよ。


 リンちゃんが扉の横の鍵穴に例のダミー鍵を挿して扉をあけて入り、すぐにピヨを連れて出てきた。

 俺はピヨを受け取り、軽く撫でながら言い聞かせるように言った。


- ピヨ、これから魔物のいるダンジョンの調査に行くんだけど、まだピヨを連れて行くことはできないんだ。


 「わかりました。私めはどこでお帰りをお待ちすればよいのでしょう?」


 そっか、川小屋って今は誰も居ないんだっけ。

 シオリさんはロスタニアに戻ってるはずだし…。


 あ、だから頑張って飛んできたのかな?、違うか。そういえばピヨの昼食は用意しておいてきたけど、夕食のこと考えてなかったな。

 この新拠点にも小屋があるし、そこでならいいか。

 サクラさんたちに任せよう。


 あ、いやほら、俺たちと変わらない食事をするヒヨコをあまり人に見せたくないからね。


- この近くに小屋があってね、サクラさんとネリさんが知ってるんで、そうだな、ちょっと待ってね。


 立ったまま書ける高さの台を土魔法でさくっと作り、その上にピヨを置いてから、ポーチから羊皮紙を出してさらさらっと伝言を焼き付けた。ペンで書くより早いからね。さらさらって言ったけど音的には『じじっと』で香ばしい香り付き。ありていに言うと焦げ臭い。

 布にパンと川魚の燻製をだして包み、羊皮紙と一緒に紐で結ぶ。


 サクラさんとネリさんは、魔力感知によるとどうやら小屋に戻ったようだ。

 包みを用意している間に、リンちゃんは『スパイダー』を片付けて俺の左後ろで待機してる。


- ピヨ、これはピヨの夕食と、あそこの小屋にいるサクラさんへの手紙だから渡して読んでもらってね。


 「はい、わかりました」


- あ、これ運んで飛べる?


 「はい、大丈夫です」


 そう返事をしてピヨは飛び上がって包みを足で(つか)み、教えた小屋に向けて飛んで行った。

 それを見送りながら土魔法で作った台を解除し、数歩ほど離れていたオルダインさんとメルさんのところに歩み寄る。

 リンちゃんもちゃんとついてきている。


- お待たせしました。では行きましょうか。


 そう言いながら、障壁で包んでゆっくり浮かび上がった。

 もちろん、オルダインさんもメルさんもリンちゃんも一緒に、だ。


 浮かび始めると同時にリンちゃんは後ろから俺の腰にしがみつき、メルさんは待ってましたとばかりに俺の腕に、身体強化をONにせずにしがみついた。


 おお、来るとわかっていたのでONにして身構えたのに、珍しい。

 でも油断はできないのでONのままにしておこう。


 「はい、それで走って…、な、姫様?、おおっ!?」


 いきなりしがみついた2人を見て、そして離れていく地面を障壁越しに見て驚くオルダインさん。


- 隊長さんにも言ったんですが、こうして飛んでいくんですよ。あ、しがみつかなくても大丈夫です。透明ですがちゃんと床がありますので。


 「なるほど、障壁魔法というものですか…、しかしこれは凄いですなぁ、この年になって空を飛ぶ経験をするとは思いませなんだ、はっはっは…」


 楽しそうに笑うオルダインさんに微笑んでから、加速に入った。

 立ったままでも大丈夫なようには加減もしているし工夫もしているが、加速に入ると同時にメルさんが身体強化をONにして俺の腕をぎゅっと抱き締めた。


 うん、わかってたよ。






●○●○●○●






 ロスタニア東8ダンジョンの上空近くで静止し、索敵(レーダー)魔法を使って状況を把握するために羊皮紙にこの周辺の地図を焼いておく。

 ダンジョン入り口を囲んだ塀は、今回は崩されていなかった。


 そうしてからゆっくりと降下し、着地した。


- ここがロスタニア東8ダンジョン入り口です。


 「こんなに大きいんですなぁ、すると大型も?」


- そうですね、出入り可能な大きさということでしょう。


 俺はオルダインさんのほうを見ずに、返事をしてからダンジョンに入って行く。

 リンちゃんがすかさず暗視魔法をかけてくれた。


 中はもう水が引いていてところどころ湿っているようだが、その程度なら普通に走れそうだった。

 内部を知るためにまた索敵魔法を使い、羊皮紙に焼いておく。


 変わらず複雑な形状だ。ウィノアさんが洗い流してくれたので、もう刺激臭もないし魔物の死骸も押し流されたのだろう、1層には反応が全くなかった。


- どうやら1層はきれいになっているようですので、2層入り口まで走ります。


 「「はい」」


 最初は加減して走ったが、オルダインさんの様子をみると余裕がありそうだったのでいつもの速度で走った。


 そして2層への境界門に到着。

 歩いて門を抜け、数歩進んでまた地図を作成した。


 前回の地図を出して比較してみたが、行き止まりになっている部分や巣部屋になっている周囲の小部屋にトカゲの死体らしき物体があるぐらいで、生きている魔物はいないようだ。


 洞窟型だというのは前回来たときにも分かっていたし、構造も変化がない。


- 巣部屋に卵があるかもしれませんが、今回は調査なのでそれはいいでしょう。


 「そうですな。しかしこうもきれいに魔物が居なくなってしまうとは、精霊様の水攻めというのは想像を絶しますな…」


 感心したように言うオルダインさんだが、表情はこわばっていた。

 メルさんも同じような表情で頷いていた。


 うん、気持ちはわかるよ。

 トカゲたちからすれば天災レベルの水量だったもんね。あれは。


 その前に俺が雷でえらいことになってる水を流し込んだせいもあるだろうけどね。

 ちょっと言いづらいので言わないけどさ。


 何か胸元で小さくぺちぺち叩かれてるけどスルーだ。


- 行き止まり部分には死骸が残っているようですが、無視して3層へ向かいます。


 「「はい」」


 返事を聞いて走り始めた。

 2層は1層よりも規模は小さいが、3層入り口までの距離は1層よりもある。

 その分、道筋は単純だ。分岐には行かずに最短で走るが、1層のように通路が絡み合っているわけじゃないからね。道のり的には長くなるんだ。


 そして3層入り口に到着した。

 一旦テーブルと椅子を作り、休憩にすることにした。


 いつものようにリンちゃんがお茶とクッキーを出してならべた。


- 3層の地図を作ってきます。お茶でも飲んで待っててください。


 「わかりました」

 「姫様、タケル様とのダンジョン攻略はいつもこのように?」

 「そうですよ、リン様もタケル様も魔法の袋をお持ちですから」

 「素晴らしいですなぁ」


 などと聞こえたが3層へと足を踏み入れた。






 3層は遺跡型、つまり上が高い天井の、石造りの廃墟や残骸があるダンジョンだった。

 とりあえずいつものように地図を作りながら見回すと、高さが目測で6mほどある境界門のさらに上のほうまで、壁に水の跡が残っていた。

 天井の高さが15mあり、それの半分よりすこし上までって、相当な水量だよなぁ…。

 そりゃウィノアさんが怒濤の水量を送り込んでもあれだけ時間がかかったわけだよ。


 なんとなく小声で胸元に『ウィノアさんご苦労様、ありがとう』って言ったら『うふふ、どういたしまして♪』って返事があって、首飾りがにゅるんと揺れた。


 こそばくて身震いしたよ。


 できた地図を見てみると、境界門が2つある。あ、いや、2層に繋がるのを除いてね。

 索敵魔法を使ったときには、何となく境界門っぽいものという認識なんだが、こうして地図に起こしてみるとはっきり境界門だとわかりやすくなる。


 ああ、ここは天井が広い空間だから、超音波っぽい魔法じゃなく、電波っぽい魔法のほうを使ってるわけ。

 俺もうまく説明できないんだけど、何となくそういう使い分けをしないと、うまく行かないんだよね。何がって、反射を受けてイメージする結果がさ、どうも洞窟のような場所だと電波っぽい索敵魔法よりも超音波っぽい索敵魔法のほうがすっきりしたイメージになるので地図にしやすいんだよ。理由なんてわかんないけどさ。まぁそういうもんなんだろう。


 それでこれ、境界門が2つあるとなるとどっちも覗いてみたほうがいいんだろうなぁ、やっぱり。


 とにかく2層に戻ってお茶をしながら話をしてみよう。





次話2-93は2019年04月10日(水)の予定です。


20190403:ピヨに手紙を持たせる場面に少し描写を追加。

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2019年05月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
なるほど。わかりません。
2020年01月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
同じやん。なるほど。やっぱりわかりません。
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