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2ー087 ~ たいりょうの…

 そしてそろそろ1時間になる。


 俺はと言うとテーブルと椅子と屋根を作り、座ってウィノアさんを見ていた。

 もちろん時々周囲への索敵(レーダー)魔法を使うぐらいは…、実は、座る前に1回使っただけでした。


 最初、10分ぐらい経ったので『ウィノアさん、あとどれぐらいです?』と尋ねてみたんだが、

 『タケル様の安全のためにもまだまだ流し込みますよ~♪、しばらく掛かりますのでそちらで座ってお休みになっていてくださいな♪』

 と、楽しそうに言われたのでこうして待っていたが…。


 音からして「ドドドド…」って言ってるあの放水、もうかなりの量がダンジョンに流れ込んでいるはず…、だよな?、どうなってんの?

 ちょっと考えたくないけど、あれ毎秒何十トンとかでしょ見た感じ。ダムの放水かってぐらいだと思う。いや、実際見たことないけどさ。


 それでまぁ、鼻歌でも歌いだしそうな雰囲気の、あ、実際『ふんふふ~ん♪』って聞こえるわ。そんな様子のウィノアさんにそれを訊くのも何だかためらわれたので、リンちゃんに渡された『スパイダー』と小型のの2冊の説明書を読んでたんだけど、技術的な説明が多くてさ、さっぱりわからんのでテーブルに頬杖(ほおづえ)ついてページめくってたらいつの間にかうとうとと居眠りしちゃっててね…。

 バランス崩して首がかくっとなって、はっと気付いたら1時間ぐらい経ってたってわけ。


 で、慌ててウィノアさんを見たらまだ放水してんの。


- わ、すみません!、ウィノアさんまさかあれからずっと…?


 『はい~、タケル様はごゆっくりなさっててよろしいんですのよ?、ふふっ』


 あー、こりゃ居眠りしてたのバレてるな。


 いやほら何ていうかさ、言い訳なんだけど、真夏の午前中に滝のそばって気持ちいいよな?、あと難しい本なんて見てりゃあさ、眠くもなるってもんだろ?

 だよな、言い訳だよな。素直に謝っておこう。


- 気が緩んでました、申し訳ないです。でももうかなりの水量を送り込んだんじゃないですか?、大丈夫なんですか?


 『ふふっ、実はこれ、もうとっくに最下層まで水が届いているんですよ』


 え?、最下層?

 どーすんのそれ。ってか水ひくのに何日かかんの…?


 『タケル様のお手間を省こうと頑張ってみました♪』


 俺が絶句してると続けていわれた。

 これ褒めてって言われてるんだろうけど…、さすがにこれはやりすぎじゃないだろうか。


 大丈夫なんですか、って言ったのは水量もだけどウィノアさん…は平気っぽいな。


- そ、そうですか、もうそろそろいいんじゃ…?


 『それがですねー、どういう訳かあちらのダンジョンにも流れ込んでいるようなのですよ~』


- へ?


 つい変な返事になってしまったが、どういうこと?


 『ここから20kmほど西にもダンジョンがありますよね?、そちらのほうに流れ込んでいるようでしたので、あちらの入り口からも同じように放水しているんですよ』


 えええ?、んじゃウィノアさん2人顕現してあっちでも同じようにやっちゃってるってことですか。


 索敵(レーダー)魔法を使ってみると、確かに西のダンジョンにもウィノアさんが居た。

 ついでに言うとカルバス川にもウィノアさんっぽい反応が2つあって、川の水がものすごい勢いで吸われていた。供給源か…、おっそろしいな、さすが水を司る精霊。


- 中で繋がってたってことですか…。


 『そのようですね~、なのでもう30分ほどお待ち頂ければと』


- あっはい、わかりました。


 って言うしかないよな。もう任せてしまおう。

 俺が言うのも何だけど、中のトカゲたちや竜族たちが哀れに思えてきたよ…。


 ある意味『天災』だよなぁ、水の精霊を怒らせるとこうなる、みたいなさ。


 そういえば川から大量の水を吸い上げて?、いるようだけど魚とかどうなったんだろう?

 水が引いたあと、魚がいっぱいダンジョンに落ちてたらやだな…。






 そして予告通り30分でウィノアさんは放水をやめ、優雅に歩いて俺のところに来た。

 何となくそうしなくちゃいけない気がしてさっと立ち上がり、椅子を引いて誘導すると、『あら、ふふふ』と微笑んで座ってくれた。そして俺はテーブルをまわって元の席に座った。


 ふとダンジョン入り口を見るときっちり水が張られていて全然出てこないんだけど障壁で(ふさ)いでるっぽいなあれ。


- ありがとうございます、何だかすごい手間をかけて下さったみたいですが…、あ、昨日作ったものです、良かったらどうぞ。


 そう言ってお茶と蒸しパンを(すす)めた。


 『頂きます。手間というほどのことではありませんわ、ふふっ、何だかタケル様が優しくしてくださるのが嬉しいです』


 本当に嬉しそうに笑顔で言い、皿の上の蒸しパンをその半透明で形のいい手でとって口に運んだ。

 俺そんなにウィノアさんに冷たかったっけ?、そりゃ無視したり追い返したりはしたけどさ、乱暴に扱った覚えはないぜ?、これでも。優しくしてるつもりだったんだけどなぁ、これでも。


 『なるほど、美味しいですね、あの子らが食べ過ぎていたのも(うなづ)けます』


 ふむふむと頷いたり感心した様子で他の色の蒸しパンに手を出すウィノアさん。

 そんなに気に入ったならもう1セット出してもいいかな。


 あ、味違いを1つずつお皿に乗せて収納してあるんだよ。小さいタイプのはね。

 大きいのは同じ種類ごとに入れてるけど。


- お口に合ったなら何よりです。それでその、ダンジョンですけどこの水って引くんですか?


 『はい。明朝には多少の泥濘(ぬかるみ)は残りますが、入れますよ』


- そうですか、じゃあ戻りましょうか。


 言って立ち上がると、

 『あら、もうですか?、もう少しゆっくりしましょうよ』

 と言いながら流れるように素早く俺の腕をとって寄り添ってきた。


- あ、そのおやつ、気に入ったのでしたら一皿お土産に出しましょうか?


 『いいえ、食べたくなったらタケル様におねだりします』


- そうですか。


 実にコメントしづらいな。

 お皿の上に余ってるのを、このままお皿ごとポーチにしまいこんでおく。

 テーブルとかはもうこのままでもいいか。何か最近作って放置が多いけど。


- ところで、飛んで帰るんですけど、ウィノアさん?


 顕現したままなんですかね。


 『どうぞ?、せっかくですもの。このまま私も一緒に、だめ?』


 と、寄り添ったまま俺の顔を斜め下から覗き込む。ここんとこあざとい仕草増えてません?


- ダメじゃないです。じゃ、飛びますよ。


 ふわっと浮かび上がって東へ向かおうとしたら、すかさず西のほうを指差して、

 『あちらに島がありますの』

 こないだそう言ってましたっけね、と言おうとしたんだけど、

 『そこは昔、光の精霊たちが住んでいたんですよ』


 え?、と興味を()かれたので浮かんだままウィノアさんの指差す方向を見た。


 『かの者らはほとんどの建物ごと島から引き上げましたが、唯一、塔と広場の柱だけは今も残っているんです』


 ぐいっとかなりの高度をとって、ポーチから双眼鏡を取り出して覗いてみると、確かに島に塔らしき影が見える。いやこれかなり距離あるぞ?、双眼鏡に身体強化を足してなんとかぎりぎりってところだ。


- もっと近づかないとよく見えませんね。


 『塔の周囲には結界装置がまだ働いているので、近づいて見るときらきらと美しいんですよ』


 む、もしかして前に言ってた空のデートとやらに誘ってるんだなこれは。

 でもあまり遅いと、また『様子を見に行くだけでどうしてそんなに時間がかかるんですか』と誰とは言わないけど文句を言われそうなので、早く帰りたいんだよね。


- じゃあ昼間じゃなく夜に見るべきでしょうね、んじゃ帰りますよ。


 『あっ、昼間見ても美しいんですよ!?、何せあの塔はアリシア様のために光の精霊たちが作ったものですから!』


 更に興味を惹かれるようなことを早口で言うウィノアさん。

 そんな手には乗らずにそのまま帰路を急ぐ俺。


- へー、そうなんですか。


 『ああっ、頑張ったのに、頑張ったんですよ?、ちょっと寄り道するぐらいいいじゃないですか、タケル様~』


 腕を抱えて揺すらないでくださいって。


- 頑張ってくださったのは認めてますって、今は帰らないとまた文句言われるんですってば。


 『ダメなんですか…?』


 しゅんと項垂(うなだ)れるウィノアさん。

 まぁ確かになぁ、認めてるって今言っちゃったし、たまにはお願い聞いてあげてもバチは当たらないか…。


- …んー、わかりました。んじゃ夜にあの島の近くを飛んで戻りましょう。それならいいでしょう?


 『はい♪、わぁ♪、楽しみです~』


 余程嬉しいんだろう、俺の腕を抱きしめて頭を肩に寄せ、って俺の腕ウィノアさんに埋まってません?、何か包まれてるんだけど…。


- 腕を取るなとは言いませんから、普通にして下さいよ。腕埋まってますって。


 『あら?、失礼しました♪』


 しかし何がそんなに嬉しいんだろう?

 ウィノアさん水の精霊なんだからあんな水に囲まれてる島なんて、いつでも見れるだろうに…。


 海岸から5kmほどあけて島があり、島は周囲15kmぐらいかな、向こう側に入り江と砂浜があった。こちら側は岩と崖になっているようだった。

 島はほぼ森のようになっていたし、ところどころ魔力反応はあったから、魔物は居るんだろう。と、思う。


 一応さっき島のほうに向けて索敵(レーダー)魔法使ってみたので、あとで羊皮紙に焼き付けてみようかな。地図にして視覚的に見ればもう少しいろいろわかるかも知れない。

 言われたように結界があったんで、塔自体ははっきりとは感知できなかったけどね。


 塔の高さはあまりないようだ。まぁ近くで見ればわかるか。






 などと考えているうちに川小屋に到着した。


 と、その直前に、裏の砂利河原(じゃりがわら)のところの生簀(いけす)に大量の魚が…。


- ウィノアさん?、もしかしてあの魚って…。


 『はい♪、今日の収穫ですわ♪』


 いい笑顔だなぁ…。


- ですか。ありがたく頂きます。


 生簀のところに降りて、せっせと魚を回収し始めることにした。


 『はい♪、でも入りきらなかった分はどうしましょう?』


 え…、どんだけあんの?


- って、うぉ!、このうなぎっぽい細長いのは要らないんですよ…。


 なんかでかい川魚にくっついてたんだけど、これ食いついてたのか?

 大丈夫か?、はがしていいのか?、触りたくないんだが。


 『あら?、それ高級魚だって聞いてますよ?』


 え…、これ食べんの!?


- えーっと…、この不気味なにゅるっとしたやつですよね?


 元の世界の(うなぎ)だったら俺だって平気だよ。当然食べたことだってあるし。

 でも断じてこれは違う。

 共通点なんて同じぐらいのサイズのものもいて、にゅるにゅるしてるってぐらいだ。

 でかいのもいる。

 倍ぐらいあるやつはもう気持ち悪いよりも怖いな、触手みたいなヒゲあるし。

 だいたいこいつ目どこだよ。口もなんかアゴがないしさ。

 吸盤みたいにくっついてるのか?


 『ええ。昔も今も、人種(ひとしゅ)はそれを有難がって食べているようですが…』


 まぁウィノアさんからすれば気持ち悪いとかは無いんだろうなぁ…。

 『東の森のダンジョン』で見たヌシの人、手がいっぱいあったもんな。正体は何だか知らないけどさ。


- と、とりあえず今は川魚だけポーチに収納します。生簀をもうひとつ横に作りますので、できれば分けていれてもらえると…、って、できます?


 『できますよ?』


 急いで隣にもうひとつ、大きめに生簀を作って川の水を通し、水路にフタを差し込む。


- じゃ、お願いします。


 『はい』


 生簀のふちに立ち、優雅に両手をそっとかざすと、またどばーっと魚が出てきた。

 そりゃあんだけ大量の水を吸い上げたんだから、魚も相当吸い込んだんだろうなとは思うけど…、ちょっと多すぎないか?


 ってのを横目で見ながら俺は選別を、例の魚採りのときに使ったような網の目の障壁を使ってザルのようにして水から魚をあげ、少し斜めにして普通の川魚だけをポーチにせっせと入れていった。


 魚に食いついてるというかくっついてるうなぎっぽいヤツは、ちょっと触りたくないので魚ごと生簀に戻した。


 あとでシオリさんとかに尋ねてみるか…、これ、食べるんですか?、って。






 そして結局生簀をさらにもう1つ追加して作ったはいいけれど…。

 それでもまだあるとかで、残りは川に放流してもらうことにした。


 で、川魚はそれでもかなりの量をポーチに収穫することができた。

 ご存知のように、ポーチにいれるには手で持って突っ込まなくてはならないので、相応に時間もかかったし、めちゃくちゃ腕が疲れた。

 百匹を越えたところでもう数えるのやめたよ。とにかく無心でせっせと入れた。


 で、当然だが川魚だけでそれだけあったんだから…、ね?


 結果、残ったのは3つの生簀にうじゃうじゃいるその正気度ってのが削られそうなうなぎっぽい何か。


 どうしようね?






●○●○●○●






 「ダンジョンの様子を見てきたのですよね?、なのに裏で魚を…?」


 ほら言われた。

 ってかね、気になるなら見に来ればいいじゃないか。って思うよな。


 こっそり物干し台のところから覗いてたらしい。

 俺のほかに誰か居ると感知したようで、来ようとしたら遠目でもすぐにわかるウィノアさんだったから、近寄れなかったんだってさ。さもありなん。


 来られて(ひざまづ)かれても困っただろうしな。うん。


 「アクア様と漁をされていたのですか?」


- いえ、ちゃんとダンジョンの様子は見てきたんですよ?


 「あの大量の魚は…?」


- それはその、実はですね…。


 仕方が無いので現地へ行ってからのことを順番に説明した。


 途中、

 「恐れ多くもアクア様にそのようなことを…」

 とか、

 「アクア様の水攻め…」

 とか、

 「精霊様のお恵み下さったお魚…」

 とか俯いてぼそぼそ言ってたような気がしたが、無視して淡々と説明を続けた。


 「…やっぱり様子を見るだけではありませんでしたね…」


 メルさんには溜め息交じりにそんなことを言われたが、結果的にそうなってしまったので言い返せない。


 話をそらそうと、例のうなぎっぽい何かについて尋ねてみたら、食べるんだそうだ。高級魚なんだそうだ。

 正直言って、俺は食べたくない。というか触りたくない。(さば)く?、そんなの絶対ヤだ。


 だって、魚にくっついてるやつをひっぺがそうとしたんだよ?、にゅるっとした感触はしょうがないと諦めて、さ。

 そしたらあの触手が魚と俺の手に巻きついたんだぜ?、もう絶対ヤだからな!


 言っておくがナマズのヒゲみたいに短いのが2本(だったよな?)じゃないんだぜ、アレ。

 ちゃんと観察してないけど、何本もある。そして長い。

 でかいやつなんてごちゃっと生えてんだぜ?、いやもうマジで。


 巻きつかれた部分、なんかピリピリしたしさー、もう必死で振り払って回復魔法かけたよ!

 あれは何かヤバい。いやピリピリは大したこと無いかも知れないけど、感触とか正気度がヤバい。

 あんなもん調理できるか!、絶対ヤだからな!


 メルさんとシオリさんが『あの触手がコリコリしていて』とか、『宮廷でたまにしか』、『ロスタニアでもなかなか食卓に上がらない』とか言ってんのを、こいつら正気か、って思ってみてたよ…。

 生簀に今たっぷり居ますよ、って言ったら走って見に行ってキャーとか聞こえたけど、それ気持ち悪がったのではなく喜んでたっぽい。信じられん。


 そりゃまぁ?、食文化ってやつだからさ、好きにしてくれていいんだけど、ここだと調理すんの俺かリンちゃんじゃん?

 何度も言うけど、俺は絶対ヤだし、リンちゃんはどうなんだろうね。






 俺としては、でっかい水槽に車輪つけたやつを作ってやるから、どこなと持ってってくれればいいと思ってるんだけど…。


 「え!?、高級魚なんですよ!?」

 「き、寄付してしまうのですか!?、食べないのですか!?」


 戻ってきた2人にそう言ったら思いっきり詰め寄られた。


- あ、いえ、その、調理方法を知らないんですよ…。


 触りたくないとは言いづらいしなぁ…。


 「「そんな…」」


- どちらかご存知でしたらお任せしますけど…?


 「残念ながら…」

 「私も…」


 がっくりしているようだ。このまま諦めてくれないかな。

 だってあの触手がね…。


- ロスタニアとティルラ向けに水槽の車作りますので、食べたいのでしたらそれぞれの拠点でお願いしますね。


 「…わかりました」

 「仕方ありませんね」


 よかった、納得してもらえたようだ。


 「では急いで鷲鷹隊(おうしゅうたい)に伝えてきます!」


 メルさんは言うが早いかダッシュで行ってしまった。


 「あ、あの、タケル様…」


- はい?


 「ロスタニアに連絡をですね、その、報告もありますので…」


 ん?、メルさんみたいに走って行っても大丈夫だと思うよ?、もうこの(あた)りには魔物いないしさ。


- どうぞ?


 とロスタニア方面に向けた手を取られた。

 まさか、連れて行けと…?


 「はい、よろしくお願いします」


- あっはい、わかりました。


 しょうがないなー、まぁずっとそうだったもんね。

 身体強化を覚えたと言っても、まだ不慣れだろうし。


 ずばっと飛んでって、さっさと戻ってくるか。






●○●○●○●






 腕にしがみつくシオリさんを連れてロスタニア本陣まで飛んでいき、シオリさんが報告ついでに荷馬の手配を頼んでいる間、俺はまた例のタライが置きっぱなしの部屋で待つことになった。


 待ってる間、暑いしヒマだったのでタライの上に『裁きの杖(ジャッジメントケーン)』を(たずさ)えたシオリさんの上半身氷像を作ってみた。

 ちょっと服装が神官服ってのにあまり印象がないので適当だけど、そこそこいい出来だと思う。うん、自画自賛だけど、かっこよくできた。


 そしてお茶を飲みながら待つことしばし、シオリさんが『お待たせしました』といって入ってきて氷像を見るなり固まった。

 続いてロスタニア王が入ってきて、『おお、これはまた素晴らしい像ですな』と笑顔で言い、丁寧にお辞儀をして挨拶をしたので、立ち上がっていた俺もお辞儀をして挨拶を返した。


 「溶けてしまいますのに…」


 復帰したシオリさんはそう小さく呟いていたけれど、出来には満更でもなさそうで、照れていたのか俯いた顔が少し赤くなっていた。


 「何でも大量のゾンチィをご提供頂けると伺ったのですが…」


- え?、あの細長くてぶk…じゃなくて、細長い魚のことでしょうか?


 「はい、私どもはゾンチィと呼んでおりますが、タケル様は何と?」


- 僕は知らない魚ですので、ゾンチーと言うんですか、覚えておきます。


 「あ、ロスタニアではそう呼んでおりますが、例えばホーラードではペトロミィ、ハムラーデルではフォルメスと呼んでいたと存じます」


 なるほど、地方によって名前が違うってやつか…。


 「バルデシアでゾンチィと呼んでいたという記録が残っているのですよ」


 シオリさんが補足した。


- あ、そうなんですか。


 「バルドス、つまりカルバス川の南側ではフォルメスと呼んでいたようです」


 んじゃ同じ川で採れても、北側バルデシア南側バルドスで名前が変わるのか…。

 統一すればいいのに。


 「同じものが各地で異なる名を持つことは珍しくありませんよ」

 「昔はそれで争いになったこともあったようですが、今ではもうそのような争いは起こりません。それぞれの文化を尊重するようになりましたので」


- なるほど。


 まぁそんな名前だので争うなんてバカらしいもんな。


 「それで、荷馬と御者を手配って話でしたが、何頭ご用意すればよろしいのでしょうか?」


- あっはい、そうですね…、


 生簀3つ分だけど、これはハムラーデルのほうにも出さないと問題になりそうだから、それぞれ生簀1つ分ずつでいいだろう。

 ティルラにはホーラードの分も加味して一番大きい生簀の分にするか。


 水をいれた水槽や土台の車は全部土魔法で作っちゃうので相当重いぞ?

 荷馬ってどれぐらいの馬車を()けるんだろう?


- 荷馬って1頭でどれぐらいの馬車を牽けるんです?


 「そうですなぁ、では外で実際にどれぐらいのものか見て頂けますか?」






 ということで1頭で牽く荷馬車、2頭立てならこれぐらい、ってのを見せてもらい、そこから考えて、4頭ぐらい必要かもしれませんと言ったら、一応6頭と御者数人、それと護衛騎士を川小屋に寄越すということになった。


 そのついでに馬車の構造を見せてもらった。

 どうやら板バネのような構造はあるようで、修理中の土台部分ごと、3台分を譲ってもらえた。これは助かる。

 重量があるので、3台分で水槽1つぐらいなら支えて行けそうじゃないかな。たぶん。

 他の所でも同じように土台もらってくるほうがよさそうかな。






 そしてシオリさんを連れて戻り、今度は俺単独でちょいと飛んでハムラーデルの大岩拠点へ行き、カエデさんを介して話をして、そこでも同様に派遣してもらうように頼み、馬車の土台はなかったので荷馬車2台をもらい、また急いで戻った。


 さて、せっせと水槽つき馬車を作らなくちゃね。


 ロスタニア向けには土台部分を並べて水槽を上に作って合体させたようなものになった。

 ハムラーデル向けのは少し小さめの水槽をそれぞれの荷馬車2台分に分ける形にした。

 あとはティルラ・ホーラード向けだが…、やっぱ馬車を貰ってきたほうがいいよな。


 予想される移動距離によって水槽の強度を変えたので、ティルラとロスタニア向けだけ軽く作ってしまった。

 もしかすると水槽のまま首都なり遠くへ持っていくことも考えられるんだから、やっぱりどれもしっかり作らないと移動時の振動でひび割れから決壊、なんてことになったらまずいよな。

 ということでさくっとしっかり作り直した。そのせいでやっぱり重くなった。


 それと、やっぱこういうのは梯子(はしご)をちゃんと取り付けたほうがいいよなー、って思ったので梯子を取り付け、水槽の内側って隅っこで水が跳ねたりするよなー、って思ってしまったので水槽のふちは歩けるスペースができてしまった。


 え?、そんなことするから重くなるんだって?、いや、そうなんだけどさ!






 で、またティルラ新拠点までひとっ飛び、すると鷲鷹隊(おうしゅうたい)の人たちがメルさんと一緒に荷馬車を用意しているのが見えたのでその近くに着地した。


 「あっ、タケル様」


 俺に気付いたメルさんが駆け寄ってきた。


- あの荷馬車に水槽を載せるんですか?


 「はい、そのつもりですが…」


- ではあれと同じのをもう2台用意できます?


 「え?、1台では持ちませんか…?」


- かなりの重さになると思うので。


 「…わかりました、あと2台用意します!」


- あ、それで…、


 相変わらず素早いなー、追いかけるか。


 メルさんのところに行き、荷馬車の荷馬以外を先に収納して持って行きますよ、って話をするととても喜ばれたが、荷馬車があとで使えなくなるんだけどなー、言いづらいなー、完全に使えなくなるわけじゃないけどさ。

 荷台部分を土魔法で取り込んじゃうから、なんだけどね。

 ばらして足回りなどは再利用できるだろうから、まぁいいか、黙ってよう。






 まぁそんなこんなで、それぞれの国別に水槽荷馬車を用意して、生簀を土魔法で持ち上げて中身をどばーっと移しておいた。


 分量?、もうそんなの適当でいいじゃないか。いや俺数えたりしたくないし。


 そんでもって川小屋の前にそれら水槽荷馬車を並べておいた。

 どうやってか?、そんなのポーチに収納してまた置いただけだよ。


 ああうん、生き物でも魔力が少ないと収納できるからね。

 魔力が多いものは収納するとポーチの空間魔法に干渉するからダメって言われてる。


 多い少ないの判断は、まぁだいたいこれぐらいならOKとか、魔物の死体を入れるときに最初のうちに教わったんだよ。

 一応、ポーチには安全弁のような機能(セーフティ)があるので、例えば馬なんかは入れようとしても反応しないようになってるそうだ。


 でも俺のポーチは、リンちゃんが言うには一応そういう安全措置があっても、俺が軽く突破しそうだから念を押しておかないと、リンちゃんが気付いた頃には大変なことになっちゃうかも知れないとかで何度も何度も言われちゃったよ。

 信用ないなー俺。






 とにかく俺は大量のうなぎっぽい何か、ああ、ゾンチィだとかフォルメスだとかそんな名前だったっけね。それが処分できるならそれでいい。


 え?、食べたいなんて思わないって。あの触手が手に絡みついたときの感触が生々しく記憶に残ってるからね!


 そういうのが無ければ、調理済みであれば食べたかも知れないけどね。


 食わず嫌い?、いいんだよそれでも!


 あー、もし食卓に出てきたら…、活け作りや姿焼きとかじゃない限りは、…食べますよ。ええ。食べますとも。


 出されたらしょうがないじゃないか。





次話2-88は2019年03月06日(水)の予定です。


20190227:いろいろ訂正…ですが…

 (訂正前)待ってるんだけど ⇒ (訂正後)待っていたが

 (訂正前)あの水量 ⇒ (訂正後)あの放水

 (訂正前)はずなんだけど ⇒ はず…、だよな?(訂正後)

 (挿入)鼻歌でも歌いだしそうな雰囲気の、あ、実際『ふんふふ~ん♪』って聞こえるわ。そんな様子のウィノアさんにそれを訊くのも何だかためらわれたので、

 (訂正前)ページめくってたんだけど ⇒ (訂正後)ページめくってたら

ここで前に訂正した覚えのある部分がWeb側では直ってないと気付きました。どうやらUP分のバージョンが古いものだったことがわかり、全面改訂。いやはや申し訳ない。

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2019年05月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
なるほど。わかりません。
2020年01月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
同じやん。なるほど。やっぱりわかりません。
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