2ー083 ~ タケル建設
それからすぐ近くの浅い川に簡単な橋をかけたんだが、手早くやったのがまずかったらしい。
作り終えて戻ってくる途中、川の土手――と言うほど高いわけではないが、自然にできた土手――の所に立って作業を見ていたシオリさんから見下ろすような立ち位置で言われた。
「今回はアーチ型ではないのですね」
偉い立場の人から見下ろして言われると、しかも女性だし、微妙に怖くなって視線を外す意味もあり、立ち止まって橋のほうに振り返った。
確かに、横からというかこの場所からみるとそうなんだよ。橋脚の上に板が乗ってるだけのように見える。あ、ちゃんと欄干もあるよ。
今回は橋脚が1本ずつで上部をYの字にしているけど、ここからだと少しわかりにくい。
それに、道路面も内側をダンボールのようにしてあって強度をもたせるのと軽量化を図ってて、さらに2層構造という、地味に手間がかかることをやってるんだけど、そんなの中身だから見えるはずもなく…。
道路面だって、板をただ作るのではなく薄すぎたら上面が弱くなるのでそこは考えて作っていて、ただの石じゃないぐらいがっちがちに固めてあるけど以下同文。
言ってみりゃ見えないところにアーチ型がたくさんあるわけなんだけど、これも以下同文。
金属がたっぷり使えるならそこまで工夫しなくったって…、と思ったけど、鉄筋や鉄骨が使えたところでここから見えるはずもないのは同じだな。
うーむ…、これを元の世界の建築を知らないシオリさんにどう説明したらいいんだろうね。
などと考えている間に、微妙に不機嫌さが漏れる雰囲気で、
「橋脚も1本ですし、前のように地質調査…でしたか?、それもしているように見えませんでした。川幅が前より狭いのもわかりますが、拠点と拠点を結ぶ重要な橋なので…、その、お願いしている立場で言いづらいのですが、同じ作っていただけるのなら、できればしっかりしたものをお願いしたいのですが…」
と、まるで手抜きでもしたかのように言われてしまった。
怒るってことはないけれど、しょんぼりだ。
前回のことを踏まえて1本目の橋脚を立てるときに、柱サイズで深くまで掘り、でた土砂はそのまま土魔法で橋脚の形に固めて重力操作で浮かせたまま、掘ったときに魔力の通りやすさから岩盤までの位置に見当がついていたので、それを穴の中に近距離索敵魔法のピンガーを撃って確認したら、橋脚を下ろしながら土魔法で下の杭を構築し、接続したんだけど…。
これをどう説明したものか、と振り向いてシオリさんの隣にいるメルさんを見たが、『え?、私が説明するのですか?』みたいな表情。
小さくうんうんと頷いてお願いしてみた。
「シオリ様、タケル様は恐ろしく複雑な魔法構築をされていたのですが、お気付きではなかったのですか?」
少し表現が挑発的な気がしないでもないが、どうやら説明してもらえるらしい。
え?、何で自分で説明しないんだって?、いやほら、何となく不満を持ってるクライアントに説明する現場技術者みたいだろ?、それもクライアントは年上の女性っていう状況なんだよ。
ああそうだよ、恐縮しちゃってるんだよ!、俺が!
「ではあのように手n…、簡s…、単純な形でも充分な強度があるということでしょうか?」
2度言い直してそれか!、手抜きとか簡素とか言いかけたろ、今…。地味に精神攻撃された気分だ。
「橋脚を立てるときも、単純に土魔法で柱を作っていたわけではありませんでしたし、道の部分も単純な土魔法の構築では無かったのですから…」
そうそう、単純に見えたかも知れないけどちゃんと作ってんだよ…?、土木作業魔法にも慣れてるので、毎回工夫を凝らしてさぁ…。
「どう単純では無いと仰るのです?、メル様」
「…あ、それはその、私ではまだそこまで魔力感知でタケル様の魔法を全て理解はできませんので…、タケル様、できればご説明を頂きたいのですが…、タケル様?」
魔力操作が上達するにつれて、どんどん複雑なことが実現できるようになってるからね。
ちょっと前の俺ならダンボールみたいな構造の壁なんて作れなかったし、考えもしなかっただろう。
もし考えついても、時間も魔力も無駄にかかってしまうだろうね。
今ならネリさんが壊した『スパイダー』の壁に使われていた内部構造、たしかハニカム構造って言うんだっけ?、蜂の巣みたいな六角形のやつ、あれも作れそうだ。
「タケル様?」
とにかく今回の橋はあれこれ工夫して作ったので、過去に架けた橋のどれよりも洗練されてる、と自画自賛したいところだ。
最新技術の粋を凝らした最先端土木建築魔法!、とまでは言わないけどね。
え?、強度計算?、あー…、何となく耐えれるんじゃないかな、っていうのじゃダメかな…?、土木ナメんな?、いやもうそれは素直に申し訳ないと謝るしかないね。
何十トンもの戦車が何両も通るわけじゃないし、人や荷馬車なら混雑してても大丈夫だろう。たぶん。
「タケル様?」
- あっはい!、ぅわ!
「あの、できればあの橋についてご説明を頂ければと…」
空を見上げて考えてたら下から呼ばれて、そんで下見たら俺の左肘のところを軽く持ったメルさんが、俺を見上げる姿勢ですぐ目の前にいた。めちゃくちゃびっくりした。
抱きつかれたり、お姫様抱っこ――そのお姫様は甲冑着てたけどな!――したこともあったけど、こんな目の前で顔を直視することって無かったからね。
え?、ああ、例の『ウィノア風呂で混浴事件』?、まぁ名前はどうでもいいけど。
あの時はまともに顔なんて見てねーよ。ってか見れるかっての。
繰り返しになるし、俺もあまり詳細には思い出したくないからノーカウント。
そんでメルさんって戦闘民だけど実はスゲー美少女なんだよ。ちっちゃくて可愛くて整ってる。そんでもって最初の頃よりも髪もきらっきらだし肌もきれい。甲冑じゃなくチュニックなのがいい。季節も夏なので少し潤っている感じもとてもいい。って、ノースリーブだった。えー?、そんなのいつの間に。襟ぐりも広く開いているので涼しそうというか、あまり見るのはまずい気がする。
あ、うん、知ってたけど、普段は意識しないようにしてんだよ!、こうして一瞬でも意識しちゃうと魔力感知があるのでそのノースリーブの服1枚だけでその下には何も着ていないとか、ズボンの下はちゃんと下着…、って何その下着…、え?、ヒモパンどころじゃないじゃんそれ、褌のほうがまだ布面積多いんじゃないかってぐらいの、うっわ、ヤバ、エッロ…、ってのがその一瞬で全部わかっちゃうんだよ!
「…タケル様……」
おおっと、ヤバかった。とっさに素数とか考え始めてたよ。
ああ、橋の説明ね。メルさんがしてくれたんじゃなかったのか…。
なぜかほんのり頬を染めて妙に色っぽい表情のメルさんから視線を外し、シオリさんのほうを見ると不機嫌なままだ。って、何その表情…。瞳もなんだか…、いや、考えないようにしよう。
それで?、解決してないの?、やだなー…。
もうちょっと愛想よくしてくれてれば、話しやすいんだけど…。
が、がんばろう。
そうだ、目を合わせないように、隣に立って橋を見ながら説明しよう。そうしよう。
- はい、橋ですね、タケル建設の最新技術を、じゃなくて最先端土木建築魔法の説明をすればいいんですね。
「はい?、た、タケル様?、あ、あの、もしかして急に私が声をかけたのがいけなかったのでしょうか?、あの、落ち着いて下さい、そ、そうです、深呼吸しましょう!」
あ、さっき想像してたのが残ってて声に出しちゃったよ。
メルさんもまるで寝起きでも見られて焦ってるような雰囲気が…。
- あ、すみません考え事してたのを声に出しちゃったみたいです、大丈夫です、メルさんのせいじゃないです
「はい息を吐いてー、吸ってー」
しょうがない、付き合わないと終わりそうに無い。
メルさんの振り付けに合わせて俺もやるか…。
「吐いてー、吸ってー」
シオリさんが『何をしているの?』と言わんばかりの表情をしているのが感知でわかった。
あまり待たせるとさらに不機嫌になりそうだ。
- メルさん、ありがとうございます。大丈夫ですよ、橋の説明をすればいいんですよね?
「はい、お願いします。私ではその…、とても複雑だということしか…」
- いえ、あ、それなら一緒に説明を聞いていてください。
と、しょげ気味のメルさんの肩を軽くぽぽんと叩いて、シオリさんのいる土手の上まで歩く。まぁほんの数mだけどね。高低差もそれほどあるわけじゃないし。
- えーっと、まず最初に、1本目の橋脚を作りながら地質調査をしたんです。
「はい?」
- ですから橋脚はしっかり地下10mにある硬い岩の層まで届いています。
「そ、そうでしたか」
- 次に道路部分ですが、あれはただの板ではなく内部はこうなっています。
ポーチから羊皮紙を取り出してそこに道路部分の断面図を描いて見せた。
道路部分は分厚い板ではなく、ダンボール式2層構造になっているんだと説明したが、ダンボールは通じないので波型でアーチがたくさんあるんですよ、それで支えているのでただ一枚の板よりも軽くて強度があるんですと説明した。
あ、そうだ、魔力操作の訓練のときに作った板があったんだった。
ん?、あれ?、ポーチに入れたと思ったんだけど、無いな。分解しちゃったかな。
まぁいいか、無いなら作れば。
目の前でそのダンボール2層構造の手のひらサイズの板と、同じサイズで通常の板を作って、シオリさんに渡した。
- こちらが普通に作った板で、こちらがあの橋の道路部分と同じ構造の板です。重さがかなり違うでしょう?
シオリさんは戸惑ったようだが、俺に言われるままそれぞれを両手にもち、重さを比べていた。
「重さはわかりましたが、軽くすると逆に強度不足になったりしませんか?」
- ある程度の重さは必要でしょう、でも重過ぎると橋脚も増やさねばもちません。
「では橋脚を減らすためにそうしたということでしょうか?」
- ある意味ではそうです。ここはあまり流量の多い川ではないので、橋脚を増やすのは将来的によくないと判断したんですよ。
「どういうことでしょう?」
- 今後この地域が発展するとして、河川は交通に使われることもあろうかと。
「ああ、そういうことですか。それで中央部分はあけてあるのですね」
- はい。あまり川の流れを妨げないようにと。
土魔法で生み出す量を減らすために、流れの中央部分を少し深く掘った土砂を使ったりしてるけどね。
「わかりました。それで強度的な問題のほうは…」
『タケル様が考えて造られたものに、あれこれと何様のつもりです?』
わ!、ウィノアさん!?、って、上!?、え!?、あなた飛べたんですか!?
条件反射的に跪くシオリさんとメルさん。
ウィノアさんはゆっくりと斜めに降りてくるとそのまま俺の横で俺の腕をとった。
『全く、黙って聞いていればお優しいタケル様につけ込んであれやこれやと難癖ばかり…』
- シオリさんは橋や塔を使うロスタニアの人たちのことを考えて、あとで説明するために僕にあれこれ質問してくれているので、悪気があって言っていたわけじゃないんですよ?
『タケル様から賜ったのであれば文句を言わずにただ感謝するだけで良いのですよ』
いやいやそれはちょっと俺も困る。
- それだと不備があったとき困るので、ちゃんと聞いてくれたほうがいいんですって。それはそうとウィノアさん飛べたんですか?
『あ、飛ぶというのとは少し違うのですが、今回はタケル様の真似をして飛んできたのですよ♪』
何でそんな嬉しそうなのさ?
- どこからです?
『そこの川からですよ?』
全然気付かなかったんだが…、あ、例のあれか、リンちゃんにすら気付かせないほどの魔力遮断をする結界魔法か…、あれスゲー難しいんだよなぁ、いまいちよくわからない魔力の流れがあるし、感知できないと模倣もできないから、俺にもさっぱりなんだよな。
なんせ遮断して感知させないものだから、外側からは発動寸前までしかわかんないんだよ。
内側にいても発動したら訳がわからなくなってしまうので、どう維持しているのかが全く掴めない。
素直に教えてと言えばいいんだろうけど、詠唱なんてどうせ精霊語だろうし、理論を説明されたところで理解できる気がしないからね。
魔法に関しては魔力感知を磨いて、模倣して覚えるしかないんだよなぁ…。
一旦覚えてしまえば応用だって改変だってできるんだが、感知できなければ覚えようがない。
ま、それはさておき。
- とにかく、シオリさんは難癖をつけているわけでも文句を言ってるわけでもないんですよ、使う人たちのことを考えて、できるだけ理解しようとして下さってるんですからね?
『それでもタケル様がお困りのご様子でしたので…』
そんな、しょげたようなフリしてもわかるんですからね?
でもまぁ、返答に困っていたのも確かだ。
説明に困っていたんじゃなく、立場が上の女性から詰問されているような状況に困っていただけなんだけど。
でもせっかくウィノアさんが顕現してまで作ってくれた機会なので、有効に使わせてもらうことにしよう。
- 橋の説明に困っていたわけじゃなく、シオリさんにどう説明をすれば伝わるかに困っていただけなので、強度的には鉄の塊をまとめて乗せるので無ければ大丈夫だと思いますよ、シオリさん。
「わかりました、そのようにお伝えします」
シオリさんは跪いて両手はいつものように斜めに交差して胸にあてたまま、顔をあげず俯いて返事をした。
ウィノアさんから顔を上げなさいと言われない限り、あげないんだろうなぁ。
その手のことはもうめんどくさいのでそのままでいいか。
だんだん慣れてきたな、俺も。慣れたくないんだが…。
全く、『ウィノアさんはハウス』と言いたいところだけど、絶対言えないので、さっさと退場してもらうためには、やっぱり出てきたところに返すといいんだろうか?
というわけで、ちょうど俺の腕をとっているから、そのままひょいっとお姫様抱っこでもちあげ……ることができた、良かった。
水みたいに腕が通り抜けたらどうしようって思ったよ。
『ああん、タケル様ん♪』
妙な声を出さないでくれないかな…。
無視してすたすたと川の上までウィノアさんを運んだ。
さっき橋を作ってたとき、水上魔法かけてた効果がまだ残ってるからね。
硬く無く、柔らか過ぎず、そしてひんやりしたウィノアさんはこの季節実に感触がいい。
『タケル様ったら、私をこんなところまで連れてきてどうされるおつもりです?』
帰れ、ってことなんだけど、察してくれないかな…。
返事せずに薄い笑顔でそおっと水に下ろすと、水の上に立つようなこともなく、川に沈んで…、行ってくれないかな?、上半身残ってるんだけど、ここってそんな浅くないよね?、さっき底を掘って深くしたはず。
『何か仰って下さいな』
と、俺の足を掴んで言う。仕方ないなぁ…。
- 帰っても首飾りで話ができるじゃないですか。顕現してるとイアルタン教徒の彼女たちが面倒なんですって。
『タケル様は冷たいです。あんな子のほうがいいのですか?』
あんな子?、『子ら』じゃなく?、どっちのことだろう。
それにしてもまた水の精霊から冷たいって言われたんだが…、俺の足首を掴んでるその手のほうが冷たいよ?、ひんやりしてて気持ちいいけど。
- 比べられるものじゃないんですよ、ウィノアさん、今日はどうしたんです?
『ふふっ、別に、何でもないですよ』
と言うと手を離して水面に沈むようにすぅっと消えて行った。
さっきも言ったけど、居なくなったわけじゃないんだよね。
2人のところに戻ったら、まだ跪いていた。
- もういいですよ、シオリさん、メルさん。
ゆっくり顔をあげ、あまり首を動かさないように目だけで周囲を見て、ウィノアさんがいないことを確認した2人は、ほっとした表情をして同じタイミングで立ち上がった。
顕現してないだけで、俺がつけてる首飾りと共に、常にウィノアさんは居るんだけどね。
それを言うとややこしいので言わないよ。
言ったら驚くかな、それとも青ざめるかな?
いや、絶対言えないけど。
●○●○●○●
なんだかどっと疲れたような気がしたけど、気を取り直して『小型スパイダー』に乗り、できたてほやほやの橋を渡ってロスタニア東6ダンジョンの入り口のところに行った。
そしてそこでまた同じ『物見の塔』を建てた。
ダンジョン入り口を塞いであったのを見て、シオリさんが、
「ここも埋めてしまったのでしょうか…?」
と不安そうに尋ねていたが、隣でメルさんが『いいえ、シオリ様』と前置きしてから説明をしてくれたので、俺は塔の建設をするだけだった。
そしていつものようにテーブルと椅子を作り、今日は屋根もちょいと作って休憩。
さて、どうしようか。
俺としては、ロスタニア東8ダンジョンの1層にちょっと足を踏み入れて地図を作っておきたいんだよね。
昨日トカゲの輸送隊らしき集団を殲滅したので、もしかしたらトカゲに何か動きがあるかも知れないし、東8ダンジョンは初期にできたダンジョンだとわかっている。
だからおそらくはトカゲの巣だろうと予想されるので、どの程度の規模なのか、偵察しておきたいからだ。
予め情報があるのと無いのとでは大違いだからね。
というわけで2人に話してみた。
「なるほど、しかし危険では?」
「いきなり遭遇するかもしれませんし…、今日は戦闘するつもりではなかったので、槍を持ってきていないのです」
そういえば今気付いたけど、胸当てもつけてないよね。珍しい。
ノースリーブだし、いやまぁ涼しそうでいいんだけどさ。
それにさっき知ったけど、それ1枚なんだよね。ああっと、考えないようにしないと。
- お二人はここで待機していてくれていいんですよ。僕一人でちょいと行ってくるだけですから。
「え…?」
「それは…」
- ついさっき索敵魔法を使ってみましたけど、周囲半径30kmに魔物は居ませんし、ほんの10分ほどで戻りますから。
「そのロスタニア東8ダンジョンまではどれぐらい距離があるのですか?」
- およそ33kmですね。
「……わかりました。くれぐれも無理はなさらないで下さいね?、タケル様に何かあると私とメル様が帰れなくなりますので」
- あっはい、それはもちろん。
「それと、メル様に何か武器はありますか?」
- あ、そうですね、ではこれなんかどうでしょう?
ポーチからこの間ハムラーデルの兵士さんから貰った剣と、メルさん用にとずっと入れたままになってる大楯を出して渡した。
「そうですね、無いよりは良さそうです」
ですよね。余程の集団でも突然襲ってこない限り、1匹2匹程度ならもう魔法で倒しちゃうから近づけないもんね。
- あと、お茶とお菓子を置いておきますね。
「あ、お気遣いなく」
- ではさっと行ってきます。
「ご無事を祈っております」
「行ってらっしゃいませ」
2人は立ち上がってお辞儀をして見送ってくれた。
軽く手をあげるとか振る程度でいいのに…。
いつもの飛行魔法を解除せずにそのままロスタニア東8ダンジョンの入り口に近づく。
見える範囲にトカゲは居ないようだ。
普通なら門番なり置いていても不思議じゃないんだが、たまたま巡回の合間だったりするのかな?、まぁラッキーだと思えばいいか。
飛行状態を解除し、入り口からいつものように15mほど入ってそこで索敵魔法を使って即いつもの飛行魔法で飛び出して上空に退避した。
見える位置にトカゲ4体が来るところだったからね。そこまでほんの100mほどだった。
ゆるくカーブしている通路は幅10mで、100mちょい先には大部屋が繋がっていて、その大部屋は周囲に小部屋が隣接している『巣部屋』だった。
上空で地図を描いてみたが、わかった範囲だけでも巣部屋が12個もある。
最初の大部屋から左右に分岐してそれぞれ2部屋ずつ、その奥には4部屋が並び、その奥に3部屋、つまり巣部屋だけみれば手前から5・4・3と並んでいるわけだ。
そしてそれぞれが網目のような通路で結ばれている。
3部屋の並びの奥には最奥の部屋がひとつあり、そこに2層への境界があるように見えた。
手前の5部屋の両端それぞれ通路が延びていて先が途切れているように見えるが、1層はおそらくそれで全部だろう。
これは処理に手間がかかりそうだぞ…?
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作者注釈:
タケルがヤバかった一瞬、メルもヤバかったようです。
視点を変えて表現するとこうでしょうか。
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メルがタケルに呼びかけたとき、タケルは土手のゆるい斜面の途中で少し上を見て考え事をしていて気付いてもらえなかったので、メルは少し降り、近くまで歩み寄りながら呼びかけた。
目の前まで来て、右手でタケルの腕を軽く揺らして呼びかける。
そこでようやく気付いたタケルが下を見て、「わ!」と驚いたのにメルも少し驚いたが、何とか跳ね上がった心拍を抑えながら言った。
「あの、できればあの橋についてご説明を頂ければと…」
言えたには言えたのだが、そのままじっと見つめられ、動けなくなった。
時間にしてほんの2秒ほどだが、その間、錯覚かもしれないがタケルの魔力に包まれたような気がして、それがまるで優しく抱きしめられたかのように感じられたのだ。
ああ、もうこのまま…、「…タケル様……」、小さく自然に声が出てしまった。
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もちろんメルの錯覚です。
と言ってもタケルほどではありませんが、メルも魔力感知ができますので、自然に放出している魔力を感知することはできます。距離が近いせいでそれを『包まれた』と思ったのでしょう。
深呼吸したのはメル自身のためでもあったのでしょうね。
関係ありませんが、「吸ってー」って言いながら吸うの無理ですよね?
次話2-84は2019年02月06日(水)の予定です。