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2ー080 ~ ロスタニア東6を終えて

 帰り道。

 傾いた日を背に『小型スパイダー』に乗って移動していく。


 来るときに居た魔物は、今日処理したロスタニア東6ダンジョンから出てきていたんだろう、魔物を見つけることもなくまっすぐ進んでいく。


 「こうして景色を見ていると、ここが魔物侵略地域だってことを忘れてしまいそうですね…」

 しみじみと(つぶや)いたシオリさんに皆が(うなづ)く。


 「国境を割られるほど魔物が頻繁(ひんぱん)に来ていたのに…」

 「あれってどこから来たのかな…」


 どこからって前に海からきて動物を汚染して、あとはダンジョンでとかそういう事かな?


 「そりゃあ、ダンジョンだろう?」

 「ダンジョンまだあるのに、地上にはもうほとんど魔物いないから、何でかなって…」


 ああ、そういう事か。


- たぶん、動物型の魔物は海から来たんじゃないから、かな?


 「あ、そうですね。海から来たのは大型の亀に乗ったトカゲだと記録にありましたし、動物型は当時の記録には出てきていませんね」

 「動物型はもともとこの地域に居たものですか…」

 「そう。時期によって動物型の種類が変遷しています。最初はトカゲと亀だけでしたが、ここにあった国の首都を陥落(かんらく)したあとには犬と羊、それとニワトリですね」

 「ニワトリはまだダンジョンの奥にいますね」

 「ええ。おそらくは、ニワトリとイノシシはトカゲたちにとっても食料になるのではないかと思います。次にでてきたのがイノシシ、クマ、それとサイとサルですね、ロスタニア側にはクマとイノシシが多く、サイとサルはハムラーデル側に多いということですが…、どこから動物を魔物化して連れてきたかに関係があると思われます」


 なるほど。食料にするものと、攻撃に使うものか。角イノシシなんかはどっちにも使えるというわけなんだろう。


 「だから動物型はもうエサにする分しかいないから、外に出して来ないってこと?」


- 東のほうのダンジョンは動物型が多くてトカゲは少なかったけど、西のほうに進むに従ってトカゲが増えてきたでしょ?


 「うん」


- 従えた動物型の魔物を、最初のうちはエサにしていたけど、だんだんと動物型を繁殖させて前に出すようにしたからそういうダンジョンの構成になったんじゃないかな。


 「ふぅん…」

 「なるほど、そう考えると西のほうがトカゲばかりなのも(うなづ)けますね」

 「亀は?」

 「え?」

 「亀も繁殖させたのかな、もう亀あまり見ないけど」


 ふむ。大型じゃない亀はいなかったし、乗ってきた亀を増やしたのかな?


 「記録では途中から亀は出てこないのです」

 「そうなんですか?」

 「ええ。ティルラ方面に出ていた亀は、近年になって現れるようになったものなのですよ」

 「あ!、通路より大きかった亀!、あれやっぱり中で育ててたんでしょ!?」

 「その可能性はありますね」


 まぁあくまで仮説だけど、ありえない話ではなさそうだ。






 それから魔法の話になったりピヨの話になったりしたが、日没近くになって川小屋に到着した。

 行きも思ったが、やはり『小型スパイダー』はあまり長距離の運用をするべきじゃないな。

 『スパイダー』のほうが速度を出せるようだし、急ぐならいっそのこと飛んでいったほうがいい。


 あ、そうか。『小型スパイダー』を飛行魔法で飛ばせば…、いやちょっと魔力消費の面で無理があるな。

 かといって飛行機械を頼むのもなぁ、飛行魔法使ってる俺が言うのも何だけどさ、乗り物はやっぱりダメな気がするしなぁ…。






 「やっぱり小型のほうが移動には時間がかかりますね」


 最初に『小型スパイダー』から降りたメルさんが、伸びをしながら言った。


 ね、ほら言われた。


 「今回は試乗を兼ねていましたので。次回は小型ではない『スパイダー』を使いますよ」

 「あ、不満だったわけでは…」

 「わかっています。あたしも同じように思いましたし」


- 運転のしやすさはどう?


 「そうですね、小型のほうが取り回しがしやすい分、操縦しやすく感じました。いつもの『スパイダー』のほうは重量がありますので」


- なるほど。


 「カーナビあるし、あたしでも運転でき…」

 「ダメ」

 「ダメです」

 「えー」

 「まだ懲りてなかったのか…?」

 「だって楽しそうなんだもん…」


- んー、ネリさん、そんなに運転したいです?


 「うん!」


 懲りてないというか好奇心旺盛(おうせい)というか…。


 リンちゃんは『小型スパイダー』の点検をささっと済ませて(ピンクのリュック)に収納し、俺に目線で合図してさっさと川小屋に戻って行った。

 夕食の用意をしに行ったんだろうね。


- 『スパイダー』って、多くの光の精霊さんたちが苦労して作ってるものだって理解してます?


 「う…、なんとなくは…」


- その精霊さんたちだって、僕たちに使ってもらいたい、役立てて欲しいと思って作ってくれたものなんだよね。


 「はい…」


- それをタダで使わせてもらってるわけで、そんなのをまたすぐ壊されたらって思うとね…、やっぱり大事に使いたいって思うんだよ。


 「はい…」


- 次壊したら弁償!、っていうのも考えたけど、ネリさんお金もってないし…。


 「あ!、商業ギルドに行けば…、少しは……、あるんですけど…」


 じっと見ていたらだんだん声が小さくなった。


- お金を払えばいいって問題じゃないよね?、それに精霊さんに人種(ひとしゅ)のお金渡してもしょうがないんだし。


 『森の家』のほうになら人種(ひとしゅ)のお金も役立つと思うけどね、『スパイダー』の開発はそこじゃないみたいだし。

 まぁ弁償すればいいってもんでもないと思う。


 「…はい……」


- なので、次もし壊したら、川小屋を出ていってもらうことにします。


 「え!?」


 皆もはっとしたようにこちらを見た。


- ティルラの連絡隊がハムラーデルが拠点にしている大岩のところと、ロスタニアの拠点との3箇所を定期巡回するって話があったんですよ。それに護衛としてついて回ってもらいます。


 「なるほど、それはいい。連絡隊なら毎回報告書を作成しなくてはならない。ネリにはちょうどいいんじゃないか?」


 サクラさんが少し意地悪そうな笑いを浮かべて言う。


 「そ、そんなぁ…」

 「何、壊さなければいいんじゃないか」

 「それはそうなんですけど…」


 そこでちらっと俺を見るネリさん。


- もちろん食事も連絡隊のひとたちと一緒ですよ。僕は出しませんし。


 「ええー…、でも川小屋に寄ったときに…」


- 寄ったときに?


 「ご飯だしてくれたりは…」


- そりゃ僕たちが居て食事の時間であれば出しますけど。


 「お弁当とかは…?」


 もう何か壊すの前提になってるよね、この話。


- そこまでは面倒見切れませんよ。もしかして『スパイダー』を壊すつもりですか?、だったら運転させるわけにはいきませんよ?


 「あっ、そんなつもりは無いけど…、でももし壊しちゃったらって…」


- じゃ、壊さないようにしてくださいよ。


 「うん、そうなんだけど…、(小声で)最初のはふざけてて壊しちゃったけど、前のはカエデが運転してたんだもん、あたしが壊したんじゃないのに…」


 む、(うつむ)いて何かぶつぶつ言ってるな?


- それができないってことなら運転させるわけにはいきませんねー、連絡隊の護衛だって立派な仕事じゃないですか、それを罰みたいに言うのは心苦しいんですよ?


 「う…、それはそうなんですけど…」


- まぁ、ここで立ち話してても何ですし、中に入りましょうか。ネリさんはしばらく考えてみてください。


 と言って皆の移動を促して歩きだした。


 「え?、あたしここで考えるの?」

 「違いますよ、タケル様はここで考えろとは仰ってません」

 「あ、そうだよね、よかったぁ…」


 言い方、紛らわしかったかな?、まぁメルさんが言ってくれたからいいか。






●○●○●○●






 川小屋に戻って皆が順番にお風呂に入る。

 今日は俺が最後なので、一旦ピヨの様子を見に部屋に入った。


 今日のピヨ用の昼食にと、机の上に置いてあった甘く煮た豆とパンは無くなっていたので、どうやらちゃんと食べたようだ。


 俺が部屋に入ると、ピヨは籠の中からいつものように首をもたげてこちらをじっと見た。


- きれいに食べてくれたんだね。足りなかった?


 「いえ、私めには充分な量でした。美味しかったです、ありがとうございます」


- 今日することがなくてヒマだったんじゃない?


 「リン様から魔法の鍛錬をしていろとの指示がございまして、皆様がお戻りになるまでずっとしておりましたので…」


 へー、指示がでてたんだ。どんな鍛錬かちょっと興味あるかも。


- そっか。どういう鍛錬?


 「いくつかございまして、ひとつはこのように、飛び続ける訓練です」


 言いながら羽ばたいて浮かび上がり、俺の周りを一周してまた籠に着地した。

 魔力感知の目でよく見てみたが、翼に風属性の魔法を(まと)わせて、周囲の気流を操作して飛行しているようだった。


 鳥類が普通にやっている翼の繊細な動きで、気流を操作する力を魔法で補助したり増幅したりしているのか…。

 これは俺にはできないな、翼がないし。


 それに手と腕でそれをやってしまうと、手が使えなくなるからね。

 やっぱり俺は現状のなんちゃって飛行魔法でいくしかなさそうだ。


 「次に、こちらの道具で属性魔力の切り替えや複数操作をする訓練です」


 と、ピヨが羽で指差すようにした先には、リビングの食卓じゃないほうのテーブルに置いてある、例の4属性で光る円盤の魔道具だった。


- ほう、もうひとつあったんだね。


 「はい、タケル様はすごい速さで切り替えられるとお聞きしました」


- ん?、実際やってみせようか?


 「はい!、できればお願いします」


 ピヨは目を見開いて期待のまなざしだ。羽もぱたぱたさせている。

 何だかかわいいなこいつ。

 そうまで期待されたら頑張ってやろうじゃないか。


 ピヨの近くにその円盤をもってきて中央に手を添え、属性魔力をすばやく切り替えて周囲の石が光るのを順番にくるくると回した。

 そして回転を加速。


 あ、これあまり早いと全部が光って見えるのか。そりゃそうか。


 「……す、すごいです!、ここまでとは想像もできませんでした!」


 籠の上にぴょんぴょん飛び上がって羽をぱたぱた、そんなに興奮するとは…。

 面白いのでちょっと調子に乗ってきた。


- これはこういう使い方もできるんじゃないかな。


 と言って2つずつ光らせて、これもくるくると回転させる。もちろんだんだん早く回し、ついにはさっきと同じように全部光って見えるようになった。


 「……なんと…」


 ピヨは籠の中に着地して(くちばし)を半開きにしている。

 これは呆気(あっけ)にとられている、と見ていいんだろうか?


- 2つじゃなく3つでもできる。


 そして3つ光らせて、これも同じようにした。

 さすがに1つや2つの時よりはちょっと遅いけど、回転速度で全部が光って見えるようになるのは同じだった。

 ボロが出る前にやめとこう。


 「……ほぁ…」


 ほぁ、ってw

 まぁ、充分驚いてくれたようなのでよかった。


- という感じで、期待にこたえられたかな?


 「はっ、期待だなんてとんでもございません!、私めもタケル様ほどに…は全く自信がありませんが、できるように精進します!」


 そんな、涙目で言うようなことなんだろうか?


- そ、そうか、それは良かった。それで他には?


 「はい!、タケル様がやっておられたという、球を浮かせて操作する訓練です」


 そう言ってピヨは籠の外にぴょんと飛び出て机の上で姿勢を正し(?)、左右の羽を前にして土魔法でビー玉ぐらいの大きさの球体を作り、風魔法で支えた。


 ほう、扉を風魔法で開け閉めするだけはあって、安定している。

 が、そこで終わりではなかった。


 さらに水の球を2つ浮かべて土球の周囲を回し始めた。

 ふむ、片方は冷たく、片方は暖かいのか。


 ピヨは真剣な目つきで操作をしている。


 「今のところはこれが限界でございます…」


 10秒ほどそうして回してから土球は分解し、水球は俺がピヨ用にと置いてある水の(うつわ)に入れた。

 そしてその器に嘴をいれて少し水を飲んだようだ。


- 僕がやってたって、リンちゃんから聞いたの?


 「はい!、これはとても良い訓練方法だそうで、光の里でも採り入れているのだそうです」


 そんなのいつの間に…。

 いやもうあれこれが今更だけどね。


- そ、そうなんだ…。


 「球の数を増やしたり属性操作を増やしたりするだけで、段階的に複雑な魔力操作の訓練が手軽にできると評判がよいのだそうですよ?」


 確かにそうだけどね。

 光の精霊さんたちならもっと効率のいい訓練をしていたと思うんだけどねー。

 何もそんなとこまで、俺がやってるからってマネしなくてもいいと思うんだ。


- そっか…、それは聞いてなかったかな…。


 「それであの、できればでございますが、タケル様にお手本を見せて頂ければと…」


- ん?、球のやつのこと?


 「はい、その、お願いできれば…」


 まぁいいけど。

 いつもやってるのは周囲の球が5つだけど、頑張ればもうちょっと増やせるかな?


- こんな感じ?


 なので周囲の球を8つにしてみた。お、結構きついなこれ。

 2つずつを中心の土球の対極に位置して交差するように回し、その外側に、分かりやすいように同じように交差する軌道を斜めにずらして回してみた。

 それで中心の土球を俺の周囲に回す……っと、これはあまり長く続けられないな、さすがにきつい。

 ピヨがさっき10秒ぐらいだったから同じぐらいでやめとこう。


 土球は手に集めてポーチに入れ、水…は洗面台に、光の球も洗面台に置いたが魔力の供給をやめれば程なく消えた。

 リンちゃんがやってたような、長続きする光の球っていまいちよくわからないんだよね。

 今度よくみて覚えよう。


 片付けてピヨを見ると、さっきと同じように呆然と嘴を半開きにして固まっていた。

 回転させてるときはピヨを見る余裕がなかったからね。

 さすがに8つはやりすぎた。6つぐらいにしておけば余裕をもてたんだけど。


- ちょっと球を増やしすぎたかな。いつもは5・6個でやってるんだけどね。


 「はっ、あまりの複雑さに驚きました!、わ、私めは2つでもすぐに限界がきて落としてしまうのです!、た、タケル様は実は大精霊様なのでは!?」


 違います。


- 人間だよ。勇者っていう特別な肩書きがついてるけどね。


 『タケル様、勇者は人間ではありませんよ?』


 え?、ウィノアさん?


- そうなんですか?


 『はい。我々からすると、人種(ひとしゅ)ではあっても人間ではなく、勇者という特別な種族という認識です』


- ああ、寿命とか魔力とかそういう違いですか。


 『そうです。人間とは明らかに異なりますので、別種と考えております』


- なるほど…。


 そういうもんか。超人類ってやつだろう。

 ハルトさんやシオリさんなんて100年近く生きててもあんな見た目だし。

 近くじゃないな、元の世界での年齢を考えたらそれ以上だろうから。

 そっか、勇者っていう種族か。

 そう言われるのもわかる。まぁそれなら仕方ないな。


- とにかく、一応は人種(ひとしゅ)だそうだよ。精霊じゃない。


 「あっ、考えてみれば私めは何と失礼なことを…」

 『そうですよ、いくらタケル様が精霊を従えているとは言え種族云々を問うなど失礼極まります』

 「た、大変なことを!、この通りでございます!、何卒(なにとぞ)!、何卒お許しを…!」


 机の上で土下座…?、なのか?、平伏するヒヨコ。


- え?、ちょっとウィノアさん、従えてませんからね?、何度も言ってますけど、協力して頂いているだけですからね?、それとピヨもそんな大げさなことじゃないから、平伏しなくていいから!


 『…ふふっ』


 あ!、ちょっと今笑ったよな!?、ロスタニアでもそんな事言ってたけど、全くすぐそうやって妙なほうにもっていくんだから!


- ウィノアさん。


 『はぁい』


- ピヨも。普通にしてて。


 「タケル様がそう仰るのでしたら…」


 と、籠に戻らず机の上で座りこむピヨ。

 ってそれは座ってる姿勢なんだ?、まぁいいや。座ってるってことにしよう。たぶん。


 「タケル様?、食事の用意ができましたが…」


 リンちゃんが呼びにきたようだ。






●○●○●○●






 「結局、ロスタニア東6って1層だけでしたね」


 食後にサクラさんがそんなふうに切り出した。

 シオリさんはロスタニアへの、サクラさんはティルラへの報告書を作成する都合上、要点を確認したいんだそうだ。


 そのためにロスタニア東6ダンジョンの地図をテーブルに広げて、ここはこうだったなどと(なか)ば反省会のような雰囲気で話している中、ネリさんが口を挟んだ。


 「最後あそこ埋めてませんでしたけど、良かったんですか?」


- 大型のものや厄介なトカゲは倒しましたし、角イノシシや角サルなら騎士団やロスタニア兵でもなんとかなると思って埋めなかったんですが…、埋めてきたほうが良かったですか?、シオリさん。


 「え?、あ、いえ、タケル様がそう判断なさったのでしたら、問題ありませんよ?」


 いや俺の判断とかじゃなくて…、まぁいいか。


- あれだけの大きさがあると、埋めるのもちょっと大変という理由もありますが。


 「それもそうですね…」

 「そこで埋められないって言わないところがタケルさんですよね…」


 周囲の皆の首が小刻みで縦に動いている。

 だってそりゃ土魔法で生み出して埋めろって言われたら無理だって言うけど、崩して埋めるなら埋められないわけじゃないわけで…、まぁ言い訳っぽいのでもういいや。


 「それで次はどちらへ向かうのですか?」


 幸い、すぐにシオリさんが言ってくれたので助かった。


- こちらの、


 と隣に広げていた地上の地図を指差して、


- ダンジョンかも知れない箇所が1つ残っていますので、明日はここを調査してもしダンジョンなら今日と同じように処理します。


 「そうですか、わかりました」

 「もしダンジョンじゃなければ…?」


- その時はロスタニア東7ダンジョンはこちらということになりますね。


 「え?、ダンジョン名は既に決まっていたのではなかったのですか…」


- ただの順番ですから、もしここがダンジョンなら、ここがロスタニア東7で、こちらは東8になるだけですよ。


 「そういう決め方だったのですね…」

 「姉さん、こんなダンジョン攻略、いえ、処理なんてタケルさんにしかできなかったのですから、名前なんて気にしても仕方ありませんよ」

 「そうですよ、名前が決まった場合は、そこが処理済か処理中かのどちらかで、過去のものは全て処理済でもうダンジョンは存在しないのですから」


 サクラさんとメルさん、その言い方だとまるで俺が好き勝手にダンジョン名を決めているように聞こえるんだが…。


 「それもそうですね…」


- あの、大岩拠点のところなど、兵士さんたちのために残してあるダンジョンもあるんですが…。


 「あ、そうでした。存在しているのもありましたね」

 「それもタケルさんが処理しちゃったあとだけどね、あはは」


 みんな手伝ってくれたじゃないか。

 俺だけで処理したわけじゃ無い。


 「ダンジョンって、発見したひとが名前つけていいんだっけ?」

 「たいていは、報告を受けた冒険者ギルドがつけているようだぞ?」

 「あ、そうだったんだ」

 「こちらには冒険者ギルドがありませんよ?」

 「んじゃ発見したタケルさんがつけていいってことよね?」


- ロスタニア国境近くのダンジョンはどういう名前だったんです?


 「ただ東側、西側、と言うだけで特に名付けはされていませんでしたわ」


 ああ、だからこちらの呼び名をそのまま受け入れてもらえたのか。


- そうだったんですか。


 「ええ。タケル様の地図を記録として保管することになりましたので、タケル様のつけたダンジョン名『ロスタニア東3』と『ロスタニア東4』でしたか、それが正式名称として扱われると思います」


 あ、そうだった、地図いっぱい押し付けてきたんだっけ。

 それからあとで返却するだのしないだのの話になって、要らないって言ったから保管するという話になったんだった。


- そうですか、わかりました。


 「そうやって正式名称に番号があるものが決まってしまったのですから、新たに番号を振るのもタケル様の役目ですね、フフフ…」


 フフフってw

 メルさんは何が楽しいのやら、にこにこして言ってるし。

 まぁ、こっちで決めた番号と名前がそのまま使われるのは、便利なんだか何だかよくわからないな。


- 後々のことを考えれば、残ってるダンジョンの番号が飛び飛びだったりする訳ですから、良し悪しですよね…。


 「そこは由来から考えてもらえば済む話でしょう」

 「タケルさんが処理したダンジョンがあるという証拠にもなりますし」


- さっきも言ってましたけど、『僕が』ではなく『僕たちが』ですよ?、そこはちゃんと記録しておいてもらわないと…。


 「はい、報告書にもきちんと書いてますよ?」


- だったらいいんです。


 「あ、あたし『タケルさんと仲間(パーティ)の勇者+王女様』って書いたかも!?」


 おいw


 「大丈夫ですよ、そこはきちんと訂正しておきましたので」


 おお、サクラさんGJ(ぐっじょぶ)


- ありがとうございます。


 「どういたしまして。いくら勇者の報告書とはいえ、あんなのを記録に残すわけにはいきませんから」

 「えー、頑張って書いたのにー、サクラさん酷いぃたっ!」


 (はた)かれてるし。


 「酷いのはネリの報告書だ!、まるで子供向け童話かと思ったぞ!?、直すほうの身にもなれ!」

 「だって星輝団(せいきだん)に出してたときはあれで良かったんだもん」


 ああ、たぶん全く読まれなかったんだろうなぁ…。


 「だろうな、言っておくが星輝団(せいきだん)にはネリの報告書なんて一切残っていなかったぞ?」

 「え!?、ちゃんと提出してたのに!!」


 受け取ってすぐ捨てられたんだろうなぁ…、良かったのか悪かったのかわからんが。


 「だからネリは報告をしていなかったと記録されているな」

 「えーー、酷い!、ちゃんと書いて出してたのにー!」


 ネリさん涙目だ。

 でもなぁ、子供向け童話みたいなのが残って良かったのか?


 「あんな子供が書いた日記みたいなのが報告書として残ることを思えば、処分されていて良かったんじゃないか?」

 「サボってたって思われるじゃんー、うわーん!」

 「その点は仕方ないが、だったらまともな報告書が書けるようになっておくんだな」

 「…うぅぅ;」

 「そうすれば、星輝団(せいきだん)のせいにできるだろう?」

 「あー、そういう事ですか。なるほど」

 「…?、どういうことぉ?」

 「まともな報告書を提出していたのに、星輝団(せいきだん)が処分して上への報告を怠っていた、と言えるようにしておけという事ですよ」

 「おおー、そっかー」

 「だから今のうちに、正しく報告書を書けるようになっておかなくてはならないんだぞ?」

 「う…、あれじゃだめなの…?」

 「ダメだな」

 「頑張って書けるようになりましょう!、ネリ様。私もお手伝いしますから!」

 「うん、私が居る間なら添削もしてやれるしな」

 「そういう事なら私も手伝いますよ?」

 「え…?、あ、うん、ありがとうございます…」


 それから毎晩、リビングでネリさんを囲んで皆が報告書のノウハウを叩き込むことになった。

 もちろんネリさんは毎晩涙目で頑張ってたよ?


 俺?、俺はノータッチ。

 というわけには行かないけど、口出す隙なんてないし、近くで何度か聞いてればだいたいわかるからね。

 それにさ、逆に報告書を童話みたいに書くほうがわからん。


 ある種の才能だったりして…?




次話2-81は2019年01月16日(水)の予定です。

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2019年05月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
なるほど。わかりません。
2020年01月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
同じやん。なるほど。やっぱりわかりません。
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