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2ー079 ~ ロスタニア東6ダンジョン

 合流して地図に処理済の分岐部分に射線をいれると、今まではあまり気にされてなかったのに、今回は皆が手元を覗き込んでいた。なんだか気恥ずかしい。

 あ、リンちゃんは給仕っぽく俺の分のティーカップをお盆に載せて待っていた。


 分岐が結構あるので俺の仕事が多めの今回は、合流したけどまたすぐ分岐を処理しに行かなくてはならない。


 「何だかタケルさんの担当多過ぎません?」

 「そうですよね、お手伝いできませんか?」


- お手伝いってったって…。


 「例えば、先に魔物を倒しておくとか…」


 ふむ…、石弾を撃つ手間は省ける…かな?


 「あの、タケル様が浄化?、でしょうか?、時々壁を崩している箇所、それがこの地図の印でしょうか?」


- え?、あっはいそれです。全部じゃないんですけど、遠くからでもわかる分は印をつけてます。


 「でしたら、魔物を倒してその箇所を崩しておくだけでもご負担を減らせませんか?」


 なるほど。確かにそこまでしてもらえると随分楽になるな。

 それにメルさんたちにも覚えてもらったほうがいいかも知れないし。


- そうですね、お願いしていいですか?


 「はい!、ネリ様、頑張りましょう!」

 「え?、あたしも?、頑張っていいの!?」


 実は、サクラさんとシオリさんのために、少し手控えしていたんだそうだ。

 はっきり言っては無かったようだけど、サクラさんとシオリさんもそれはわかっていたようで、この時のネリさんの言い方にも別にイヤな顔をすることなく無表情だった。

 まぁ、わかるよね、ネリさんとメルさんが手を抜いているわけじゃないけど、攻撃の手を緩めて余裕をもってるって。


 それに、リンちゃんだって控えているんだし。


 というわけでメルさんとネリさんのペアが俺と一緒に分岐の途中まで行って、枝分かれしている先で俺と別れ、先に魔物を倒したり魔物が湧く淀みポイントを処理したりしてくれることになった。


 そうと決まれば、と、俺は座る時間ももどかしく立ったままお茶を少し口にしただけで移動しようとしたら、またネリさんがクッキーを両手に持ったので、人差し指を立ててからネリさんの目の前に振り下ろして無言で注意しておいた。


 いたずらが見つかった子供みたいな顔してたけど、またすぐ休憩のとき食べれるんだからさ…。


 あ、余談だけど今回のクッキーははちみつ風味のと果物のチップみたいなのが入ってるのがあった。さすがはモモさん、凝ってるなぁ…、美味しかったけど。

 食品部だっけ?、お菓子作るのに1チーム居るとかなんとか言ってたけど、これ俺関係ないよなぁ?、傘下とかさぁ…。

 いやもうどうしようもないんだけどさ。毎日のように食べてるわけで、文句言える立場じゃないし。

 でもなんだかなぁ…、いや今は考えないようにしよう。






 「ではこの分岐で私たちはこっちに行けばいいんですね」


- あ、ちょっと待って下さい。


 場所的にちょうどいいので2人を呼び止めた。


 「はい?」 「ん?」


- ここ、次の小部屋で行き止まりなんですが、ちょうど淀みポイントがあるのでよく見比べて覚えてもらえばいいかなって。


 「あ、そうですね、わかりました」


 ということで一緒に進んで中のトカゲ4匹をさくっと倒す。


- ポイントはそっちに少し離れて倒れてるトカゲの尻尾のあたりです。


 「……はい」


 メルさんはネリさんと少し顔を見合わせて、軽く溜め息をついてから返事をした。

 何だろう?、その間…。


 まぁいいか、とにかく回収を先にしよう。


 「一発で頭に当ててますね…」

 「あんな一瞬で4匹全部一発だよ…、リン様が『論外』って言ってたの実感したかも…」

 「魔力が動いたと思ったらもうトカゲが倒れてましたよね…」

 「うん、ボって音がしたら終わってた…」


 2人は壁じゃなくトカゲの死体のよこにしゃがんでこそこそ喋ってた。


- あのー、回収してもいいですか?


 「わ」

 「は、はい!、どうぞ」


 あわてて飛びのく2人。

 ん?、何か気になったのかな、そういうの大事だからちゃんと聞こう。


- 何か気付いたんですか?、些細(ささい)な事でも遠慮せずに言ってくださいね?、大事なことだったりするかも知れませんし。


 「あ、いえ、そういうのではなく…」

 「タケルさんがすごいなって…、ねー」

 「一瞬であんなに正確に撃てるようになれるのか、少し自信がないと言いますか…なんというか…」


- 大丈夫ですよ、目の前でやってるんですから、できるもんなんですよ。


 「えー、タケルさん何か適当すぎー」


 いや、適当に聞こえるかもだけど、実際そうなんだけど、ってメルさんも頷いてるし。


 実例を目にするとイメージしやすいし、イメージしやすいとできるって思い込めるのでできるようになりやすいんだけどなぁ…。理論的なものはあとからついてくる、ってのは暴論に近いけども。


- んー、何て言えばいいかな、実例があるとイメージしやすいでしょ?、あとは魔力をどう操作するかですから、できるようになるのも早いかなって…。


 「だからとにかく魔力感知を鍛えるのですか…」


- 基本はそこですね。どうしたって感知できなければこの前の魔力属性もわかりにくいでしょうから。


 「なるほど…」

 「でもあんな早く撃てないよー?」


- そこは練習してくださいとしか…。


 「えー…」


- 剣だって、この世界に来てすぐは今のように扱えなかったでしょ?


 「え?、うん…、それはそうだけど…」


- それが何年もやって刀が扱えるようになってる。


 「そりゃあ…、うん、何年もやってるしサクラさんに教わったし…」


- 僕には刀なんて扱えませんよ?


 「そうなの?、タケルさんだから何でもできるんじゃないかって思ってた…」


- いやいや無理ですって。刀って難しいんですよ?、僕みたいな素人が使ったらすぐ折れるか曲がるかしちゃいますって。


 「あー、そういえばサクラさんもそんなこと言ってたっけ…」

 「そうですね、剣とは動きが違いますね。私でもたぶん扱えない武器でしょう」

 「え?、メルさん達人なのに?」

 「達人級と言っても騎士としてですから、私ですと達人級と認められたのは片手剣に関してだけですよ?、まだ」

 「あれ?、でもメルさん槍じゃん…」

 「一応一通りは訓練するんですよ、騎士ですから。なので扱えなくはないのですが、その、刀というのは勇者様が伝えられた武器でして、曲刀や薙刀(グレイブ)とは扱いが違うのですよ…」

 「そうなんだ…」






 俺が毎日訓練で剣振ってるのはただ型の練習みたいなもんで、まともに戦闘で剣使ったのって、最初のうちに角ウサギと角キツネ、それと小鬼を倒したぐらいなんだよね。

 だからネリさんたちみたいに人間よりでかい角イノシシやトカゲなんて目の前にして剣つかって倒す、なんてとてもじゃないけど自信がない。


 元の世界のイノシシの倍どころじゃないようなもんが突進してくるのを冷静に捌いて切りつけるんだよ?、身体強化ができたってそんなもん無理だって。

 それにネリさんは、今は訓練時しか使わなくなったけど、サクラさんに習って刀みたいな形してる片刃の剣を使ってたわけで、あれだって刃筋とかちゃんとしてないと折れたり曲がったりするんだってね?、まぁ魔力を纏わせてればそう簡単には壊れたりしないだろうけどさ、俺には扱えない武器なんだよね。


 メルさんだって達人級って言われるまでには、資質や才能もあったんだろうけど、それ以上に努力してきたはずなんだよ。


 魔法だって同じだと思う。って俺が言うのはおかしいんだろうけどさ。勇者ってのに魔力関係のものがくっついてきたんだと思うけどね。


 もしかしたら『勇者』ってのは魔力関係の素質があるもんなんじゃないのかって、それが基本じゃないかって俺は思ってる。だって俺がこの世界に来て1年近いかな、たぶんそれぐらいだと思うけど、そんなのがこれだけ魔法使えるようになってるんだからさ。俺にできることは全部は無理でも、勇者ならだいたい皆できると思ってる。

 足りないのは少しの理解と、応用だと思うんだけどね…。


 あ、メルさんは武力だと思い込んでいただけで、魔力の扱いをずっとやってきてるから、勇者並みに魔力感知や操作が成長してるんだろうと思う。






- とにかく、話を戻しますけど魔法については勇者には皆同じぐらい魔法の素質があるんですよ。


 「同じぐらい?」


- はい。ついこの間覚え始めた魔法が、もう魔法使いって名乗りたいぐらいに使えるようになってるじゃないですか。


 「うん…、でもタケルさんみたいには使えないよ?」


- そこですよ、確かに科学的な知識などに差があるからそう思うのかも知れませんけど、でも実際目の前で僕が使ってるわけですよね?


 「うん…」


- なら、不可能じゃないって、できるんだって思わないと。


 「えー…?」


- だって、僕より早くこの世界に来て、武力って勘違いしていたにせよ、何年もその武力の扱いを訓練していたんですよ?、それが魔力だったんだって知った今なら、僕より魔力の扱いができて当然じゃないですか。


 「そんなこと言われてもー」


- だからそこは、『後輩勇者ができて、私にできないわけがない』って思わないと。


 「無理無理!、無理だもん、タケルさんみたいにできないって!」


- 知識がないから?、素質が違うから?


 「え?、うん、両方…」


- 素質はたぶん、勇者なら同じだと思うよ。


 「そうなの!?」


- うん。魔法って元の世界になかったでしょ?


 「うん…」


- この世界に来たときついたものなら、勇者は皆同じじゃないかなって。


 「そう…、なのかなぁ…?」


- 証明できないけど、仮にそうだとして、あとは知識でしょ?


 「うん」


- 理解しやすいように、いろいろ伝えてるじゃないですか。


 「そうだけど…」

 「それで『実例』と仰ったのですか…」


- そういうことです。


 俺が詠唱を構築できるならそれを教えて、伝えればいいんだろうけどね。

 でもたぶんそれじゃダメだと思う。

 何でかというと、詠唱ってのはさ、ちゃんと理解しているわけじゃないけれど、属性を指定するだけじゃなくどれだけの量をどう動かすか、そして具現化するためのイメージをどういう形で表現するか、というのを文章にしたものだと思うんだよ。

 それって個人個人で違ってたりしてもおかしくはないし、人によっては神話や自然現象から物々しく構築していたりと、様々なんだよね。だからかえって難しくなったりムダが多かったりするんじゃないか、って思う。人に伝えるには、感知して真似てもらうよりは断然いいんだけども。


 しかし詠唱を覚えるだけだと、それに慣れるまで、理解できるようになるまでが大変だ。

 だから魔力操作を訓練して、自分で思うように使えるようになったほうができることが広がるんじゃないか、と俺は思ってる。


 さっきも言ったけど、目の前に実例があるなら、できるんだって思いやすいじゃないか。

 もちろん理論も、裏づけも大事だろうけどね。


 俺はさ、たぶんリンちゃんの詠唱が精霊語で聞き取れなくて発音もできなくて、それで却って良かったって思ってるよ。今はね。

 だから魔力の流れを感知しようと操作感覚をつかもうと頑張れたんだから。

 そしてリンちゃんっていう実例とお手本が目の前にあったから、できるんだってイメージを描く基本を覚えられたんだから。






- まぁ、あまりここで話してても遅くなるので、その壁のところの淀みポイント、よく見てみてもらえます?


 「あ、そうでした」

 「うーん、タケルさんの言うのも何となくわかるんだけど、結局訓練して慣れていけってことよね?」


- そうですね、結局はそうなっちゃいますね、あはは…。


 「まあまあ、私たちはこつこつやりましょう。今はこの壁の違いを感知できればいいんですから」

 「はぁい…、壁?、淀みポイントって言ったけど、うーん…」


 2人が集中しはじめたので少し黙って見てみよう。


 「見た目はただのダンジョンの壁なんだけど…」


 そうだよね。洞窟型だから、普通の硬い土の壁。岩になってるところもある。


 「あれ?、このへんだけ何か凹んでるように感じるけど…?」

 「そう言われてみると、そうですね…、見た目は別に凹んではいませんが…」


 おお…。


- 合ってます。その凹んだように感じるそれが、淀みポイントですよ。そこから魔物が湧くんです。


 「え、魔物でてくるの!?」

 「何度もそう言っていたじゃないですか」

 「そうだっけ?」


 聞いてなかったのか…。


 「それでこの部分をどうすんの?」

 「土魔法で砂にして崩す…、のでしたよね?」


- はい。壁を素材にして土や岩から砂にするイメージですね。


 「土魔法で砂つくるってどうやんの?」

 「テキストには土と石と岩ぐらいしか…」


 2人して困った顔でこっちを見ないで欲しいんだが…。


- だいたい同じなんですけどね…、範囲を決めて、こうやって土魔法で砂を作るとこういう風に砂が壁を素材にしてできるので、あとは勝手に崩れるんですが…。


 「な…、なるほど…」

 「ちょっとこっちの壁でやってみる」

 「あ、私も」


- 普通の壁よりも、淀みポイントの部分だけ、魔力が多めに必要だってことだけ注意してくださいね。


 「へー…」


 へー、ってw

 まぁ、やってみればわかるだろう。






 少々時間がかかったけど、あとはこの行き止まりの小部屋を埋めてしまえばいいので、2人には次の分岐に先に行ってもらって、俺は埋めながら戻っていった。


 さっきの小部屋はたまたまトカゲだったけど、他の場所には角イノシシや角サルも居ることが分かってるので、それも伝えておいた。

 といってもやることは同じだし、あの2人なら大丈夫だろう。


 って、ネリさんまた手ぶらだけど…、まぁメルさんが『サンダースピア』もってるし、問題ないか。






●○●○●○●






 分岐の処理が終わって、もちろん場所は先に進んでいるが、また皆がお茶してるところに戻り、地図に処理済の分岐部分を記入していった。


 メルさんとネリさんは俺より先に合流しているので、席に着いていた。


 あ、ちゃんと飲食する前には手洗いしてるんだよ?、こういうのはちゃんとしないとね。

 最初のうちは驚かれたんだけどさ、元の世界だと当たり前のことだったよね?、こっち来てみんな忘れてたわけじゃないだろうし、どうしてたんだろうね?

 ちょっと訊くのが怖いから言わないけどさ。


 そんなこんなで、広い空間の手前まで来たので、索敵(レーダー)魔法を使って地図に追加しておくことにした。


 目で見える範囲はダンジョン内ではおなじみの、まっすぐじゃない木々が立ち並んでいて獣道のように道があって、その向こう側は崩れた遺跡があったりするような空間だった。

 例によって小さい池と小川がある。


 この川の水ってどうなってるんだろうね?、謎だ…。


 「これって、角イノシシのいる空間でしょうか…」


- そうですね、角サルも木々の間に結構いるようですが。


 「奥のこの壁みたいなのは、遺跡ですか」


- だと思います。


 「どうします?、これって全部倒して埋めるんですか?」

 「奥は行き止まり?」


- トカゲが居ないなら放置でもいいかと思うんですが…、ここに来るまでにトカゲいましたし…。


 「どの点々がトカゲってわからないの?」


- 残念ながら、わかりません。


 「では中を調べるしかないですね…」

 「2手に分かれますか」


- そうですね…。


 「タケルさま、『小型スパイダー』なら早く回れるのでは?」


 うーん、それもアリだよなぁ、でもどうせ見つかったら襲ってくるんだし…。


- リンちゃん、『小型スパイダー』の索敵範囲ってどれぐらい?


 「一応、有効射程距離の1kmぐらいは…、でも遮蔽物があるとダメなので…」


 ふむ、木々があるとだめってことか…。


- んじゃリンちゃんとシオリさんは『小型スパイダー』に乗ってこの池の近く、この地点まで行って待機してもらえるかな?


 「わかりました。タケルさまは?」


- 僕はこっちからぐるっと回ってここの集団を見てくるよ。それでリンちゃんのところまで戻ってくるから。

 メルさんとネリさんとサクラさんは反対側からぐるっと回って、池沿いにリンちゃんのところまで行ってもらえますか?


 「「はい」」

 「はーい」


- もし戦闘になったら、倒した魔物はあとで回収ってことで。


 ということで各自行動を開始した。






 俺の回った側は、角イノシシが集団になっていて、見つからないように低い姿勢で飛行魔法(笑)を使って移動して距離をとろうとしたんだが…、近くの木に潜んでいた角サルに見つかってしまい、急いで倒したが騒がしい声を出されてしまって角イノシシ全部が襲ってきた。

 それで仕方なく全部倒すはめになった。


 倒すのはいいんだけど、おかげで回収にやたら時間がかかってしまった。


 角サルが厄介だよなぁ、魔力反応が小さいんだよね。だから木の茂みとかに潜まれると気付くのが少し遅れたりする。

 草原の茂みぐらいならわかるんだけども。


 ああ、ダンジョンの木々って、外の木々と違って魔力反応が多めなんだよ。だからそういうことになる。

 もちろん、動いてくれればすぐにわかるんだけどね。じっと潜まれていると厄介なんだ。


 当然、魔物だからこっちを見つけると襲ってくる。

 でもかなり近くになっていきなり気付いて襲ってくるやつは何なんだ?、眠ってんのかな。よくわからん。

 そのせいで近くから急に襲ってくることがある。


 でもまぁ、だいたい騒いでから襲ってくるので、無言でいきなり飛び掛られるってことがないのが幸い…、なんだろうなぁ…。






 奥のでかい遺跡のところにボスっぽいのは居たけど、竜族ではなかった。

 ただのでかい角イノシシだった。


 ボス角ニワトリのときにも少し思ったけど、一体何食べてそんなに育ったんだろうね?

 何かでっかくなるパワーエサでもあるんだろうか?、まぁ謎だな。


 そんなことを思いつつ、飛行魔法でささっとある程度まで近寄って空中からスパスパっと撃って倒した。

 近くにいた角イノシシの集団もついでに倒しておいた。


 そのまま回収せずに飛んでリンちゃんのいる、『小型スパイダー』のところに行った。


 「え?、ボスいたんですか?」


- うん、でかい角イノシシだったよ。


 「的が大きいなら狙いやすいですね」

 「でもそんな大きいのが突進してきたらさすがに怖いよ?」

 「天罰魔法、落としましょうか?」

 「射線がとれるならこの車の、ではなく『小型スパイダー』の武器で倒せるのでは?」


 ああ…、もう倒しちゃったんですとは言いづらい雰囲気になってしまった…。

 でも黙ってるとさらに言いづらくなるんだろうなぁ、頑張れ俺。


- あ、あの…、


 「いい作戦があるんですか?」


 全員が期待の視線。うわー、言いづらいなー。


- それがですね、と、取り巻きが10数頭いましてね、


 「では距離をとって戦うべきでしょうね」

 「そうですね、この人数ですし」

 「ネリはどうして刀を置いてきたんだ」

 「え、だって出番ないんだもん」

 「使わなくても一応持ってくるべきだろう?」

 「この前に貰った剣なら何本かありますよ?」

 「ほら、リン様にまで気を遣われてしまったではないか」

 「…ごめんなさい」


 どうしよう、戦闘民たちが戦う気満々だ。


 もう倒してしまって回収するのにどうしましょうかって、ボス角イノシシはでかすぎるので解体分割してリンちゃんに回収を頼もうって思ったのに…。


- あー、あのですね、


 「タケルさま?、まさかもう倒してしまわれたとか…?」


 リンちゃんのその言葉で、残り全員が一斉に、戦闘モードのままの目でこっちを見た。

 こえーよ!


- あ…、うん…、なんかごめん…。


 つい謝ってしまった。


 1秒ほどの静寂。


 そして皆が肩を下ろしながら溜め息をついた。


 おかしい…、さっさと片付いたんだよ?、空中から全部撃ったんだけど。

 安全に、全長18mぐらいあるボス角イノシシをさ、倒してきたわけなんだけど…。

 何だろうね、毎回毎回、強敵なはずのボスを倒しても、褒められたことがないどころか、雰囲気悪くなるばっかりなのは…。

 ああ、ボス角ニワトリのときは、苦労したけど俺の体調が悪くなったんだっけ。

 褒めるとかそれどころじゃなかったっけなぁ…。


 あれはノーカウントだとして、この魔物侵略地域に来てからは、ボス倒しても毎回こんななんだよなぁ…。


 「そうですか、回収は?」


- あ、うん、まだ…。


 「では回収しに行きましょうか」


 リンちゃんの言葉で皆が無言のまま『小型スパイダー』に乗り込んだ。


 「タケルさま?、乗らないんですか?」


- あっはい、乗ります。


 リンちゃんだけは変わらない雰囲気だった。少し救われたけど、他の皆はこっちを見もしないのな。


 乗りづらい後部座席に乗りこみ、サクラさんにできるだけ触れないように体をちぢこませて座った。いや、なんかそんな雰囲気がぴりぴりと…。






 「うわー、大きいね」

 「こんな角イノシシは初めて見ました…」

 「これ、どうするんです?」

 「解体…、するんですか?」

 「回収するにはさすがに…、分割するしかありませんね」


 そこでこっち見るか…?

 俺がやんの?、そうですか…。


- あっはい、やります…。


 飛行しながら土魔法で穴を掘って首をスパッと切り、大量の血が流れ出てくるのが広がらないようにする。

 横倒しになってる腹の部分の下に土魔法ででっかい穴を掘り、スパッと切って内臓が中に落ちるようにする。


 まぁ、でかいだけで普通の解体と同じだ。

 もういい加減解体にも慣れたとはいえ、ちょっとでかすぎて気持ち悪い。


 魔法がなかったらめちゃくちゃ大変なところだった。全身血まみれになっただろうし。


 みんな結構距離をあけてお茶にしてるようだ。


 ネリさんがこっちを指差して何か言ってるっぽい。

 たぶん、『飛べると便利だね』みたいなことだろう。


 ポーチからロープを出して、足にかけてひっぱりながら風魔法でざくざく切って、土魔法で作った平らな台の上につるしたままもってって下ろす。

 そんな作業を繰り返して、何とか分割できた。


 防水布がたくさんあって良かったよ…。

 包んで縛ったあとは、リンちゃんが無表情でリュックに収納していってくれた。


 食料にならない部分や、もって帰ってもしょうがない頭部などはそのまま穴に落とし、一応土魔法でフタをしておいた。


 ダンジョンだと虫が湧いて大変なことになる前に吸収されていくようで安心(?)だ。

 そもそもほとんど虫がいないからね。


 しかし大変だった。しばらく肉なんて見たくない感じ。


 そいやここってロスタニア側だから、俺たちが食べる分以外はほぼ全部寄付しちゃうんだよな…、こんなバカみたいにでかい角イノシシの骨つき肉、喜んでくれるんだろうか?

 気味悪がって受け取ってもらえなかったら、この苦労が報われないんだけど…。


 受け取ってくれるよな…?




次話2-80は2019年01月09日(水)の予定です。

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2019年05月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
なるほど。わかりません。
2020年01月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
同じやん。なるほど。やっぱりわかりません。
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