2ー078 ~ 小型スパイダー
「タケルさま、試作品3号ができましたので朝食後にお時間頂けますか?」
翌日、いつものようにリンちゃんに起こされ、着替えなどの身支度をしているとそう言われた。
- 3号っていうと小型バージョンだっけ?
「はい」
- 今度のは変なのじゃないんだよね?
「はい。そう思います」
- わかった。よろしくね。
「はい」
それほど時間もかからないだろうからね。
で、その朝食後。
「新しい『スパイダー』?、見たい見たい!」
そう言って俺を外に押して急かす約1名。
でも目をきらきら輝かせて言うネリさん以外は、全く乗り気じゃない模様。
メルさんは無表情で、俺を押し出すネリさんの後ろからついて出てきたけど。
「今度のは気持ち悪くないと思いますので…」
リンちゃんが申し訳なさそうに腰の重い2名に言う。
「あ、リン様がそのような…」
「そ、そうですよ!、姉さん行きましょう!」
シオリさんはカップの取っ手を持ったままだったので、サクラさんが引っ張ってお茶がテーブルクロスの上にこぼれてしまったようだ。
「「あ!、す、すみません!」」
リンちゃんがささっと布でふき取る。
シオリさんは跪いて謝っている。
あわててサクラさんも同じようにした。
それを見たリンちゃんは複雑な表情だ。
前回『スパイダー』試作品を置いたところあたりまで離れてしまったので、表情やしぐさは魔力感知でわかるけれど、声までは聞こえない。
「何かしゃがんでるみたいだけど何か落としたのかな?」
「いえ、あれは跪いてるのでしょう」
「何で?」
「お茶をこぼしてリン様に謝ってましたよ?」
「リン様そんなことで怒らないよね?」
そこで俺を見られてもね。
- う、うん。
「あ、出てこられるようですよ?」
こちらを見たリンちゃんが小走りになって、後ろの2人も小走りでこちらに来た。
「お待たせしました」
今来たトコ、って言いそうになったけど、言ったらたぶん場がしらけそうだからやめとこう。
- ううん、それで試作品3号だったね、小型化って言ってたけど。
「はい、今お見せします」
そう言っていつものようにエプロンのポケットからにゅるんと出してくれたのは、エンジンルームが前についてる箱バンのような形の、軽自動車ぐらいの乗り物だった。
タイヤの位置に2本ずつ脚がついてる以外は、だいたいそんな感じだった。
屋根の上、後ろ半分が1段高くなっていて、そこに小さな砲台のような筒と土台が載っている。
もしかして、これが設置型投射武器ってやつかな?
「あ、意外とふつーかも」
「普通、なのですか?」
「元の世界の自動車のような…、懐かしい形ですね、脚以外は」
「サクラの時代にはこういうのが自動車なの?」
「はい、脚じゃなくタイヤでしたが。姉さんの時代に自動車ってありました?」
「ば、馬鹿にしないで!、ありましたよ!、私だって見たことぐらいあります!」
「そうですか、すみません。私の頃は1家に1台か2台が当たり前で、これぐらいのサイズの自動車をファミリーカーって言ってました」
「…そういえば前にも聞いた気がするわ。サクラの家にも自動車があったって」
シオリさんは一瞬呆けたような表情になったが、すぐに思い出したのだろう。
「はい、うちは少し裕福でしたし、広かったので祖父と父がそれぞれ。あ、でも祖父のは小さい、ちょうどそれぐらいの大きさの軽自動車でしたよ」
「あ、はーい、うちも2台ありましたよ!」
対抗しなくてもいいのに、ネリさんが言った。
「やっぱり時代の差ってものなのかしらね…」
「あの、タケル様、『じどーしゃ』とは?」
- 馬車などのように馬が牽かなくてもよい車のことです。だから自動の車、自動車という意味です。人が運転して動かすもので、勝手に動くわけではないです。軽自動車というのはそれの小型で重量が軽いものという意味です。
「な、なるほど…」
伝わったんだろうか?
まぁリンちゃんも待ってるようだし、説明を始めてもらおう。
- んじゃリンちゃん、説明をお願い。
「はい、タケルさま」
にこやかに返事をして皆を少し見回すと、手元にいつ取り出したのやら羊皮紙の束に軽く視線をやりながら説明をし始めた。
「ご覧のように『スパイダー』の小型版です。
脚が前後に分かれているのは、このように扉が開く際に邪魔にならないようにするためです」
そう言って観音開きのように側面の扉を開いた。
なるほど。そう開くのか。
扉の内側には運転席がこちらを向いていて、後部座席は長椅子状で前を向いている。
まんま元の世界にあった自動車のような内部だな。
「運転席はこのように、座って前に向けることができます」
リンちゃんが運転席に乗って前に向けてくるっと90度回転させ、また反転してこちらに向けて降りた。
ああ、そういう車あったっけ。乗り降りしやすいようにってやつだ。
「天井に手すりがありますので、後部座席への乗り降りもしやすくなっています」
なるほど。横幅はともかく、高さはそれほど狭いわけじゃないし窮屈には感じないな。
「シートの背もたれにベルトが装備されておりますので、このように引き出して下に接続して体を固定できます」
へー、シートベルトか。あったほうがいいだろうね。
でも多脚車だし、悪路でもあまり揺れないのはこれまでの『スパイダー』で実感してる。
だからベルトが必要かというと、加減速時にあったほうが安心、って程度だろう。
あ、でもダンジョン内で使うことを考えて作られたんだっけ、これ。
だったら戦闘とか逃げるとかあるかもしれないから、ベルトあったほうがいいね。
「一応5人乗りですが、詰めればもう1人か2人乗っても大丈夫らしいです」
それはさすがに狭いんじゃないかなぁ…。
後部座席がかなり窮屈になりそうだ。助手席に2人、膝の上に乗るとか?
後部座席の後ろにスペースがあるみたいだけど、そこに乗るのかな?
どうせ道路交通法なんてこっちには無いんだから、頑張れば乗れるかも知れないが。
皆もうんうん頷きながら聞いている。
「武装は前に2門、屋根の上に1門、投射砲が設置されています。最大有効射程距離は1kmですが、大型の亀に対してはその半分ほどの距離でないと有効なダメージが与えられないと思われます」
「「「え?」」」
「わー」
「武装!?」
「武装あるんだ!、かっこいい!」
反応が正反対のやつが1人いるな。
「ねね、屋根のこれって武装だったんだ!?、前の2門ってどこ!?」
屋根を指差しながら小走りで前に回りこみ、しゃがんで覗き込むネリさん。
「武装って…、これって戦車なんですか?、タケルさん」
「戦車!?」
- えっと、ダンジョン内での運用を考慮して小型にしたって聞いたかな。
返事しながらリンちゃんに視線でパスをした。
「はい。降りなくても戦闘可能なように、という開発コンセプトです」
「「こんせぷと?」」
- 主旨といえばいいかな、主軸となる考え方とかそういう意味ですよ。
「そうですか。サクラが先ほど言いましたが、『戦車』なのですね」
「ある意味ではそうですね。後部砲は360度回転が可能で、連射速度は秒間3発のようです」
「凄いのか何なのかよくわかりませんね…」
秒間3発か、俺だとどれぐらいだったかな、ちょっと試してみるか。
土壁をにょきっと作って、いつもの石弾の手加減バージョンをスパパパパと撃ってみた。
うん、秒間10発ぐらいか。頑張ればもうちょっといけそうだ。
「……タケルさまと比較すると少ないかもしれませんが、魔道具としてはこれはかなり頑張ったほうなのですよ……」
リンちゃんが呆れ顔で言った。皆も頷いていた。
何なんだよ…、俺が試しちゃダメなのか?
「私も試していいですか?」
メルさんが真面目な顔をして尋ねたので『どうぞ』と場所をあけた。
別に俺と同じ場所からじゃなくてもいいと思うんだけどね、何となく。
メルさんは真剣な表情で石弾をスパッ、スパッと土壁に向かって4発撃ち、こちらを向いた。
「私で2秒に1発が精一杯ですね。秒間3発というのはすごいことじゃないでしょうか…」
「私もやってみます」
「どうぞ」
次はサクラさんが試すようだ。
「ねー、何してんの?、あ!、試し撃ち!?、あたしもやる!」
- おっと、今はサクラさんがやってるんだから。ネリさんちょっとまって。
「はーい」
土壁のほうに向いてるサクラさんの横に行こうとするネリさんの腕をぱしっと掴んで引き止めた。
- 前のとこに砲門見つかりました?
「へ?、あ、うん、これくらいの筒が左右についてたよ?」
指で輪を作って言う。まるでOKサインのようだ。
そういえば何でこれってOKサインって言うんだろうね?
古い映画で見たことあるけど、実際やってるひとって見たことないんだよなぁ。
- へー、リンちゃん、前についてるのも秒間3発?
「はい、説明書にはそう書かれています」
「秒間3発!?、それってすごくない!?」
「それを確かめようと、こうして試し撃ちしていたんですよ」
「あ、そういうこと!、やるやる!」
ちょうどサクラさんの試し撃ちが終わったようだ。
「私では3秒で1発ですね…、かなり頑張ってみたんですが、構築が厳しいです」
「ついこの間まで魔法が使えなかったことを思えば、充分成長してるのではなくて?」
「そうかも知れませんが…」
そう言って俺をちらっと見るサクラさん。
「タケル様と比べてはなりませんよ、私でも自信無くしますもの…」
「はい…、しかしメル様の技量は凄いです」
「そうね、せめてメル様ぐらい撃てればね…」
「姉さんでもそう思うんですか?」
意外そうに言うサクラさん。
シオリさんだとどれぐらいだろう?、隣でメルさんも興味深そうに見ている。
「あたしだと1秒か2秒に1発かなー」
「「え!?」」
「ネリ、メル様より早いんじゃないか!?」
「え!?、そなの!?、やったー!」
「待ってください!、ネリ様、10発どちらが早く撃ち終えるか競争しましょう!」
「いいよー?、負けないよ?、にっひひ」
「タケル様、合図をお願いします」
やるんだ。しょうがないなー。
サクラさんに目線でネリさんのほうのカウントをしてもらうように頼んだ。伝わったようだ。
- わかりました、準備はいいですか?
「はい」 「はーい」
2人が並んで土壁に正対する。
- 3・2・1、始め!
ストップウォッチとかあればちゃんと計れるんだろうけど、無いからなぁ…。
1秒ってメルさんには伝わってるみたいだけど、時計ってあるのかな。
無いなら意味が伝わらないだろうから、あるんだろうけど、見たことないなぁ。
そこの川小屋や森の家にはホームコントローラーがあるので時計がついてて時間が秒までわかるんだけどさ。
あ、メルさんはそれで知ったとか?、まぁ伝わってるならどうでもいいんだけどね。
一応リンちゃんにも目線で時間見ておいてって頷いてみたけど、伝わったんだろうか?
頷き返してくれてるけどさ。
「10発!」 「10発です!」
おー、ネリさんのほうが少しだけ早いようだ。
「くっ…、負けました…」
「わーい!、メルさんに勝った!」
- リンちゃん、どうだった?
「はい。ネリさん17秒、メルさん19秒でした」
おお、伝わってた。目線で伝わるってこれ、また俺の例の考えがだだ漏れで悟られやすいとかいうあれかー、便利だけど微妙だなぁ…。
「つまりあの『小型スパイダー』搭載の武器は充分優秀だってことですね」
そうだった、最初はそれを試してみるってことだったんだよ。
さすがサクラさん。話を戻してくれたよ。
「そうですね、まだまだ頑張らねば…」
「ねね、タケルさんはどうなの?」
「タケルさまは論外ですので、そろそろ説明の続きに戻っていいでしょうか?」
「「「はい」」」
3人がリンちゃんのほうに近寄っていく。
ネリさんだけは俺の返事を待ってるようなので、小声でこっそり伝えておこう。
- 10発撃つのに1秒かからないぐらいだったかな。
「…え?、うそぉ…」
- いつもやってるじゃないですか、ダンジョンとかで。
「あー、あのたまに連射してるやつ?」
- うん。
「あれって連射する魔法だと思ってたよ…」
- 魔法を連射してるんだから同じだと思うけど?
「えー?、10連射で1つの魔法じゃなくて?」
- あ、そういう意味?、違いますって、1つの魔法を連射してるんですよ。
「どう違うの?」
大違いじゃないか。
- 10連射で1つだったら途中でとめられないでしょ?
「あ、そっか」
「タケルさまー!」
リンちゃんが『小型スパイダー』の向こう側にまわって呼んでいた。
- はーい、すぐ行きます!、ほら、みんな待ってるんだから。
「あ、はーい」
小走りでリンちゃんのところに行くと、助手席にリンちゃんが座って説明をし始めた。
「こちらのパネルを開いて、投射武器の操作を行います。通常は運転席側で操作するのですが、助手席側でも操作できるようになっています」
ふむふむ。
ダッシュボードの小物入れみたいなフタを開くと液晶のような画面が表示された。
砲塔から見た映像が表示されているようで、照準が中央に表示されている。
「この棒で位置を決めて、こちらの青いボタンを押して発射します。
赤いボタンはロックオンボタンです。
通常は赤いボタンで目標をセットしてから青いボタンで撃つといいそうです。
ロックオンせずに撃つ場合は単発となるようです」
リンちゃんは『棒』って言ってるけどジョイスティックって言うほうが俺には馴染みがある名称だと思った。
それを操作して俺が作った土壁を映したところを見ると、どうやらそれに向けて撃つようだ。
しかしほんと、ムダに凄いな。ムダとか言っちゃダメだけど。
シュバッと音がして発射した弾が土壁に当たった。ドッって音が土壁から聞こえた。
弾の大きさは俺が石弾で普通に使ってるサイズよりも少し大きいかも知れない。
「ロックオンは1箇所しかできません、赤いボタンを他に向けて押せばそちらに目標が移動します。
白いボタンを押すと停止です。棒を動かした場合も停止します」
- もしかして、他の武器のシステムを流用した?
「はい。その通りですが、投射武器への運用はこれが最初ですので使ってみて意見を聞かせてほしいと言われています」
なるほどね。
- ところで前2門と後1門あるけど、これだと片方だけだよね?
「はい。前後の振り分けは運転席側で行います。助手席側に3門割り当てた場合、前を向いて撃つ場合には3門とも、前2門が撃てない範囲には1門だけで撃つようになっています」
- 助手席側は通常後ろの1門だけを割り当てる感じ?
「そうですね、そのほうがいいと思います」
だよね、運転しながら横や後ろを見ると混乱しそうだし。
ふと運転席側を見ると、ハンドルではなくこれまでの『スパイダー』と同じように2つ握りのついたレバーがあり、それぞれの先端と斜め上の位置にボタンがついていた。
なるほど、どっちかがロックオンボタンでどっちかが引鉄だな。
助手席側の赤と青のボタンみたいなもんだ。
白いボタンがないのは、たぶん押しっぱなしにする仕様なんだろう。
ま、リンちゃんが運転するんだろうから別にどっちでもいいや。
●○●○●○●
そしてある程度設備の説明が終わり、どうせ試乗するならってことで前回『ロスタニア東5』だった場所から細い川を渡った先にある、収束地らしき場所を調べに行くことになった。
ところがこの『小型スパイダー』は5人乗りだ。
定員が決まっているわけじゃないけれど、後部座席はやっぱりシオリさん・サクラさん・ネリさんが並んで座るともう一人は厳しい横幅だった。まぁシートベルトも3人分だし。
そして運転はリンちゃんなわけで、そうすると助手席に俺とメルさんが座るというか、俺の膝の上にメルさんが座るって話になったんだが、そこで少し揉めた。
俺の膝の上、ってのがダメだとかなんとか。
「私の膝にタケル様が座ってもいいのですが、やはり小さい私が上のほうが…、あ、べ、別にイヤだと言っているわけじゃないんですよ!?、…(小声で)いえむしろ嬉しいといいますか…」
と、メルさんが頬を染めて言ったのがもう致命的にダメなんだろう。
俺もなんだかそんな言い方をされたら意識しちゃうからね。
雰囲気的にリンちゃんも半眼でこっち見てたし。
で、結局助手席に座るネリさんの膝の上にメルさんが座るということになった。
俺は後部座席で端に座り、サクラさんが真ん中でシオリさんがその隣だ。
後部座席は少し天井が低いので、膝の上に座ると窮屈かもしれないという理由もある。
メルさん小さいので大丈夫だと思うけどね。
天井が低いのは投射武器の装置がいろいろ詰まってるからだと思う。
そんなわけで走り始めたが、乗り心地は『スパイダー』と大して変わらなかった。
ただし、小型な分重量が軽いので、『スパイダー』よりは揺れを感じた。
でも馬車や元の世界の車のことを思えば、舗装されている道じゃないところを走っているのだし、断然揺れは少ないし加速や減速時もリンちゃんの運転(操縦)が上手いのか、ほとんど気になる揺れなんて発生しなかった。
窓は自動車に比べて小さく作られているのであまり景色を楽しめないが、そもそも荒野みたいな草原と山ぐらいな場所だし、これまで充分見ているので今更目新しいわけではない。
それよりも運転席と助手席の間ぐらいに小さい画面があって、そこに周囲の地図が表示されているのが何ともカーナビっぽいなって思った。
皆はその画面を食い入るように見ていたし。
「わー、カーナビついてるよ!」
と、もう誰かなんて言わなくてもネリさんだと分かるが、喜んでいた。
当然だけど、他の面々はカーナビだのカーナビゲーションシステムだの言われても伝わるわけがないので俺が説明しておいたが、リンちゃんが『だいたい合ってます』って言ったので、地図情報が内蔵されているわけじゃなく、センサーで周囲の地形をそこに表示しているだけなんだろう。
充分すごいんだけどね。
そして川のところまで到着した。
『小型スパイダー』も水陸両用にできているとの事。スゲー。さすが光の精霊さんたちだ。
そろそろとゆっくり水に入り、浮かんで脚を畳む。後部下のあたりで音がしたのでスクリューか何かの推進装置があるんだろう。
リンちゃんがレバーを操作すると推進装置の音が大きくなり、進んでいった。
「これは脚で漕がないのですね」
「このほうがいいですね」
という意見には俺も賛成だ。
脚で漕ぐよりこちらのほうが馴染みがあるから余計にそう思う。
対岸まで100mも無いので脚の届くところまで近づくと、またそろりそろりとゆっくり岸に上がっていった。
これ、下が泥とかぬかるみでも大丈夫なようだけど、つまさきを折りたたんでるのかな?
脚の先のところが単純な爪じゃなかったようだけど。
よくわからんが、何か工夫があるんだろうな。
川を無事に渡ったところでセンサーに反応があったのか、ピピッピピッと音がしてカーナビ画面に赤い印が表示された。
「後部投射武器で撃ちますね」
そうリンちゃんが言って運転席のところを操作すると運転席正面のパネル部分に映像が表示された。助手席のパネルを開いたときに見た映像と同じように照準が表示されている。
ズーム機能があるようで拡大表示をし、ロックオン表示になったと思ったらリンちゃんがトリガーを引いたのか角イノシシと角サルが次々に倒れた。画面の赤い点々が灰色の点々になった。
「わ、早い…」
うん、操作が早かった。
俺がやるとして、あんな風にロックオン、発射、ロックオン、発射と繰り返してすばやく操作できるだろうか…?、慣れないと、いや、慣れてもできるかどうか自信がないな。
自分で撃ったほうが早いし。
ああ、いや練習しなくちゃね。うん。
などと考えている間に、リンちゃんは倒した魔物の近くに『小型スパイダー』を寄せ、ささっと降りて回収をしてまた運転席に戻ってきていた。
「タケルさまの地図ではそろそろ目標の収束地らしき場所ですね」
リンちゃんはポケットから俺が作った地図を取り出し、カーナビ画面と地形などを見比べている。
まぁそりゃ羊皮紙に描いた地図を取り込むような機能でもなければ、カーナビ画面に表示できないよね。
と、思ってるとカーナビ画面の横のボタンを操作して、収束地らしき目標位置を入力したようだ。黄色い×印がカーナビ画面に表示された。高性能だなぁ。
「これはタケルさまの地図を取り込む機能が欲しいですね…」
リンちゃんも同じように考えたようだ。
こりゃあそのうち実装されるかも知れないな。
収束地らしき場所に到着するまでにさらに数匹の角イノシシと角サルを倒した。
入り口付近に潅木や草が生えていて一見するとわかりにくいが、降りて剣でなぎ払ってみるとそこは幅3mほどの穴が開いており、洞窟のようになっていた。
そうか、だから感知したとき洞窟かどうか判断つかなかったんだな。
「ダンジョンですか…」
窓からリンちゃんが身を乗り出して言った。
- っぽいね。
「少し進入してみますね」
と言いながら全員に暗視魔法をかけ、そろそろと入っていく。俺も後ろからついていく。
見かけは自動車っぽいのに多脚型ってのが奇妙な後姿だなぁこれ。いまさらだけど。
後部の窓は横に細長く、あまり大きくはないようだ。
取っ手があるところを見ると、後ろががばっと開くのかな?
入り口から15mほど進んだところで、一旦停止。
「タケルさま、念のために地図をお願いします」
- 了解。
『小型スパイダー』の横を通り少し前に出ていつものように地図を作った。
地図を見る。うん、どう見てもダンジョン化してるな、ここ。
手前のほうはアリの巣状の洞窟型ダンジョンだ、奥のほうは大きい部屋になってるようだった。
こういう形だと奥のほうはもっと近づかないとはっきりわからない。
『小型スパイダー』に戻ってリンちゃんに地図を見せながら手渡す。
「これって奥のほうどうなってるんです?」
- たぶん大きな広い部屋なんだろうと思います、でもこういう形だと反射波が乱れるというか、ちゃんと返ってこないので、もっと近づかないとはっきりわからないんですよ。
「そうなのですか…」
「この部屋までの距離ってどれぐらいですか?」
- 道のりで800mちょいでしょうか。
「え!?、そんなにあるんですか!?」
- ええ。結構広いですね、ここ。
「とにかくテストを兼ねて、ここの分岐まではこのまま乗って行きましょう」
「「「はい」」」
リンちゃんがそう言って運転再開。
前にライトも装備されているらしいが、暗視魔法のおかげで見えるのでライトは点けずに進むようだ。
そして小部屋を2つ越えた通路の先に分岐があった。
俺だけが降りて、分岐の先を処理しにいくことになった。
なんだかなぁ、まぁいつものことだけどね!
分岐を処理して戻り、本筋で皆と合流したら、いつものように皆がお茶飲んで休憩していた。
どうやら『小型スパイダー』は降りて収納したらしい。
「ただ乗っているだけではつまらないので」
「せっかくですから戦闘もしておかなくてはと思ったのです」
「うん、なんか眠くなってくるんだもん」
「そういう訳でした」
そうですか…。
戦闘民だなぁ…。
次話2-79は2019年01月02日(水)の予定です。よい御年を。
といいつつ誤字がっ!;
20181226:誤字修正ついでに文言などを訂正。
20190102:いくつか修正…したと思う。
20191123:わかりにくい文に読点を追加。
20191125:誤字訂正。 内臓 ⇒ 内蔵