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2ー077 ~ ハニワ兵といっしょ

 昼食後に食休みを少しとって、ハニワ兵を4体作ることにした。

 前衛として使って大丈夫なのかのテストをするためだ。


 前にトカゲ部屋4つの処理をしたときはハルトさんがいたので、俺とリンちゃんそれぞれに前衛としてメルさんを含めた3人の勇者が2人ずつ分かれて行動した。

 今回も同じようにふた手に分かれてトカゲ退治をする。

 しかしハルトさんの代わりと言っては何だけど、シオリさんに前衛させるわけには行かないので、ハニワ兵の登場というわけなんだ。


 リンちゃんが言うには、ハニワ兵は魔力を込めた者または同じ魔力によって張られた結界・障壁や構造物の護衛をするためのものらしく、今回のように別行動をするのなら2体はリンちゃんが作らなくちゃいけないらしい。


 それでリンちゃんが2体作ったんだけど…。うん、顔は俺のを真似たのかハニワだけど、体が重装兵だ。鎧っぽい部分の表面が銀色なんだけど、なんで?


 「リン様のほうがかっこいい!」


 ネリさんが目をきらきらさせて言ってたよ…。

 ああそうかい。俺のはどうせ全身土色のままだよ!


 「せ、性能は同じです。銀色なのは表面だけなので…」


 リンちゃんが言い訳っぽく言ってたけど、見た目は大事だよなぁやっぱり。

 俺も土魔法で表面の金属コーティングができるようにならないと。


 あとで聞いたんだけど専用の銀色にする粉末を使ったらしい。

 そんなのあるなら早く言ってよ…。






 「私でもハニワ兵が使えますか?」


 シオリさんがそう尋ねてきた。近接戦闘に自信がないからか、護衛人形が護ってくれるなら安心だとでも考えたのだろう。


- 土魔法で人形を作って、その魔力が残ってるうちにコアを埋め込んで魔力をさらに流し込むだけですので、それができれば使えますよ?、あ、でもロスタニアに持っていくのはダメですよ?


 「あ、はいそれはもちろん…、やってみてもいいでしょうか?」


 まぁコアはたくさんあるし、作ってみたいならいいんじゃないかな、ということでコアをひとつ渡してみた。


 で、しばらく見てたんだけど…。うん、みんなで。


 「「……………」」

 「……姉さん……」

 「い、言わないで!、分かってるから!」


 最初は(いびつ)な球体が乗っかってる歪な円柱だった。

 『…姉さん、腕と脚は?』ってサクラさんに言われて『これからつけるところなの!』と言い、リンちゃんに『別々に作ると神経回路伝達ができなくなるので一度に作ってください』とさらっと言われて作り直すことに。


 そして次は腕が長すぎて脚が短く、しかも左右の太さがだいぶ違うものができた。

 ネリさんがぼそっと『ゴリラ?』って言って皆が笑いを(こら)えて大変なことになった。

 当然、そこまで体に差があるとうまく動かないのでとリンちゃんに言われてまた作り直し。


 その際、笑いを堪えているのはリンちゃんも同じだったようで、いや、リンちゃんも必死で笑わないようにできるだけ平静を保とうとして話したっぽいんだけどさ。


 「シオリさん、そこまで差異がありますと動作しないと思われますので…」

 「(小声で)サイじゃなくてゴリラ…、ぶふっ…」


 と余計なことを言うのが約1名いたせいでついにリンちゃんも決壊してしまった。

 もちろん俺も。

 その約1名にはデコピンをしておいた。


 むくれるシオリさんに全員で謝り、3度目の正直ってわけじゃないけど、作り直してるところ。


 なのだけどさ…、土魔法で造型するのって、頭で描いたイメージがだいたいそのまま出てくるもんだと俺は思ってたんだよ。

 でもどうやら違ったらしい。


 「タケルさまは地図に描いたりすることに慣れきっておられますので、浮かんだイメージをそのまま魔力操作的に投影できるんですよ…、普通はすぐにできるものではないんです」


 リンちゃんはそう言ってたけど、キミちゃんとした造型してるじゃないか。

 と反論しようとしたら、シオリさんが疲れた表情でぼそっと、


 「リン様が言っても説得力ありませんよ…」


 そう肩を落として(つぶや)くように言うもんだから何もいえなくなった。


 それでそんなに難しいのかなって思ったようで、他の3人も土人形を作ってみることになり、2層最奥の部屋の片隅が妙な雰囲気になってしまった。


 どうしてこうなった?


 あれだけ笑ったりしてたネリさんも、上半身だけが人っぽくて下半身がぐちゃっと潰れているものを作ってしまったり、サクラさんは両脚が繋がっていてしかも厚みがないものを作ってしまったりしていた。

 メルさんだけが唯一、一発で人型の許容範囲に収まるものを作ったが、コアを埋め込んで動かしてみると腕がくっついていたようで認識されず、やはり作り直しとなっていた。


 「なかなかうまくいかないものですね…」

 「イメージに集中すると魔力操作がおかしくなって…」


 極端な話、人型になってればいいのでマッチ棒に手足つけたようなものでもいいはずなんだ。まぁ、あまり細いと強度が出ないだろうけども。


 それで改めて皆が土魔法で人形を作っているところを観察してみると、どうやら魔法が発動して人形が作られる瞬間に、イメージがぶれてしまって安定した魔力操作ができていないんだということがわかった。

 何となくだが、いきなり詳細な人型を作ろうとして失敗しているような気がする。


- みんないきなり格好のいい人形を作ろうとしてませんか?、こんなのでもいいんですよ?


 言いながら段ボール箱を積んで作ったみたいな人形を作り上げた。


 「え!?、そんなので動くんですか?」

 「どっちが前か分からないじゃないですかー」


 目があるほうが前だよ!、まぁ形は確かに前後も左右も対称だけども。

 返事の代わりにコアを埋め込んで動かしてみる。


 「わ、動いた!」

 「でもやっぱりぎこちないような…」

 「それを護衛として連れ歩くのは格好がつきませんよ…?」


- ダンジョンの中だけならこれでもいいぐらいですよ?、ぎこちないのは手足が四角柱だからですね。円柱にするともう少し滑らかに動くと思いますよ。


 「円柱ですか…」

 「うーん…」


- あのですね、言いたいのは頭に描いたイメージを維持しながら魔力操作をするのに、最初から詳細なイメージを使うのは難易度が高いんじゃないですか?、ってことなんですよ。


 「…なるほど……」

 「タケルさんのハニワ兵って鎧を別にしてあとでくっつけてたような…」

 「タケルさまのは参考にしないほうが…」

 「え?、リン様?」


 そう思って四角いの作ったのに…。

 そんなにイヤなのか?、四角柱人形とか円柱人形が。


 「タケルさまは仮に手足を別に作っても、まるで元からそうであったかのように一体化してしまわれます。一度作った物に残ってる魔力を利用できるのですから…」

 「「「あー…」」」


- ハニワ兵の鎧はそうやって作ったけど、今つくった四角いこいつは1回で作ったじゃないですか…。


 「それはカッコ悪いんだもん…」

 「それを参考にしろと言われましても…」

 「ですよね…」


 何なんだ…、他の3人はともかく、ネリさんはロボ好きじゃなかったのか?、こういうのじゃダメなのか…?、わからん…。


 「リン様、リン様のはどういうふうにイメージを維持されてたんですか?」

 「あ、それ聞きたいかも」






 結局みんなリンちゃんに集まってしまった。

 ちぇ、ポール(柱)君はダメだってさ。停止させて分解しとこう。

 ついでに皆の失敗作も分解しておこう。


 「あっ!、みんなの作品が!」


- え?、片付けちゃダメだった!?


 「ダメじゃないけど…、ねぇ?」

 「うん…」


 えー、皆なんでそんな信じられないモノでも見るような目で…?


- 新たに作る作業がしやすいかなって思ったんだけど…。


 「…ありがとうございます」


 サクラさんだけが声に出して、他は複雑な表情をして軽く頭を下げただけだった。

 何なの、この雰囲気…。


 「タケルさまはそちらでお茶でも飲んでお待ちください」


- はい…。


 仕方なく昼食のときに使ったテーブルと椅子のところに行って、ポーチから(おけ)を出して水魔法で水をいれ、手を洗う俺。


 お茶か…、さっき昼食たべて食後にお茶のんでまだそんな経ってないのに…。


 ポール君つくって勧めたのがダメだったのか…?


 タオルを出して手を拭きながら皆のほうをぼーっと見た。


 『タケル様には私が居るではありませんか、せっかくのお気遣いを無下にするような者たちのことは放っておきましょう』


 桶の水からざばーっと出てきて後ろから抱きつくウィノアさん。

 その手をそっとつかんで離れ、椅子に座ると隣に椅子を寄せて座ってきた。


- 単純すぎるデザインが気に入らなかったってことでしょう、しょうがないですよ。


 『全く、タケル様はお優しいから…、あ、この果物が食べごろですよ、いかがです?』


 どこから出したのか、籠にのったピンク色の果物を出してきた。


- へー…?、あ、なんか甘くていい香りですね、何ていう果物なんです?


 『さぁ?』


 さぁ?、ってw


- どうやって食べるんです?


 『皮をむいてかぶりつくか、切って食べていましたよ?』


 んじゃ切ってみるか。

 ポーチから皿とまな板とナイフを出して、まず半分に切ってみた。

 皮はそれほど硬くなく、すっとナイフが入った。甘い香りが広がる。

 瑞々しい肉厚の身があって内側に空洞があり、そこに種がいくつか毛のようなものに包まれていた。

 種のところをこそぎとって、食べやすいサイズにして皮をむいてお皿に並べ、手を水魔法で流してからフォークを2つ取り出して置く。


- んじゃ頂きます。


 ウィノアさんに言うと『どうぞ♪』とにっこり微笑んだ。

 たぶんどこかでお供えされたものなんだろうなー、とか思いながら(かじ)ってみた。

 切ってる時にも思ったけど、やわらかい。桃みたいな食感だな、甘くて美味しい。


- おお、美味しいですね、これ。


 『お口に合いましたか?、うふふ』


 笑みを浮かべてウィノアさんも食べ始めた。


- へー、これ上下で味が少し違うんですね、それがまた何ともいいですよ。


 種の毛が繋がっていた上のほうは酸味が少しあって、底のほうはすごく甘い。

 最初、縦に切ってよかった。横に切ってたら、切り身ごとに味が違うのができるところだった。それはそれでいいかも知れないけど。


 食べていてふと気付いた。身のほうよりも皮に香り成分が多い。

 むいた皮と種を乗せた器を手元に引き寄せ、身と皮の香りを比べてみたが、やはり皮のほうがいい香りが強いようだ。


 『お気付きになりましたか、その皮は捨てずに利用しているようですよ』


- なるほど…。


 利用、か…。乾燥させたり、絞ったりとかそういうのかな。


- ウィノアさんから時々似た香りがしてますね。


 『あら、うふふ♪、ひ・み・つ、です』


 口元に添えて笑った手を、指1本立てて拍子をとるようにそう言い、すっと立ち上がって桶のところまですすっと歩き音もなく沈んで消えて行った。

 新しいパターンだな。






 「あー!、なんかいいもの食べてる!」


 リンちゃんの講義が終わったのか、ぞろぞろやってきた。


- そちらで手を洗ってきたら、食べていいですよ。


 「はーい!」


 ウィノアさんが置いてった果物はまだあるし、置いてったってことは食べていいんだろう。


 「甘くていい香りですね」

 「どうしたんです?、これ」


- ウィノアさんが来て置いてったんですよ。


 「それでフォークが2つ…」

 「恐れ多いことです…」


 シオリさんは拝むように手を合わせ瞑目して感謝している。


- まぁせっかくですので、美味しく頂きましょう。さっき食べましたけど美味しかったですよ。


 そう言って()き始めようとするとリンちゃんが『タケルさま、あたしが』と言ったので任せることにした。


- あ、皮はあとで使えるらしいのでまとめて置いといてね。


 「はい、香料ですね、タケルさまがお使いになるのですか?」


- いや、別に使うあてはないんだけど…。


 「そうですか、ではこちらで利用しますね」


- あ、うん、使うあてがあるの?


 「はい、石鹸やお菓子の香料として使われていますので」


- そうなんだ、なら任せるよ。


 「はい」

 「川小屋にある石鹸とは香りが違うようですが…」


 メルさんが小首をかしげながら言った。


 「はい、それはまた別の香料が使われていますので…、こちらの香りが良かったですか?」

 「あ、いえ…、時々タケル様からこれに近い香りがしていましたので…」


 ああ、ウィノアさんのせいだな。うん。


 「…なるほど。石鹸、変えましょうか?」


 リンちゃんは少し眉をひそめたが、すぐに表情を消して言った。


 「いえ、それは別に…、あのままでいいです。あれも良い香りですので」


 たぶんウィノアさんのことだ、石鹸を変えたらまた違う香りを使うんだろうな…。

 妙な自己主張だよなぁ。

 でもいい香りだし、お風呂上りに汗臭いだの男臭いだの言われるよりは断然いい。


 いや、実は大学生のときにゼミの先輩のバイトの代理で、リネン会社の配達回りをしたことがあってさ、それでお風呂屋さんだの健康ランドだのに営業時間外の間にタオルやらを配達と受け取りに行ったんだけど、男湯と女湯ってそれぞれ独特の匂いがするんだってそん時に初めて知ったんだよ。

 浴室じゃなく脱衣所のところだけなんだけどね、カプセルホテルもそうだったし、風呂に入ってきれいになってるはずだけど、それでも性別の差ってのがあるんだなって思ったわけなんだ。


 ある程度は仕方ないことだろうけど、でももし『タケルさん臭い』とか言われたら精神的ショックは計り知れないので、ウィノアさんのおかげでいい香りがつくならむしろありがたいって思ってる。

 こんなこと誰にも言えないけどね。






 剥き終わって皆が美味しい美味しいって食べていた。

 ウィノアさんがもってきた実は3つで、残ってたのは2つだけど、みんなぱくぱく食べてんの。


 いつの間にか俺が残してた2切れまで無くなってた。いいけどね。


- それで、みんなのハニワ兵…じゃないけど、土人形作りは段落したの?


 「はい、基本的なことは一通り。あとは個別に練習して頂ければと…」


- なるほど…。


 んじゃそれぞれがある程度妥協できる出来のものまではできなかったってことかな。

 ポール君でいいと思うんだけどね、あれじゃ不満なんだろう。

 元の世界で、ポール君じゃないけど箱を積んだみたいな形をした人形(フィギュア)が売れてたような気がしたんだけどなー、目が●で口が▲のやつだっけ…、鼻はどうだったか忘れたけど。時代の差ってやつなんだろうか…。


 俺はハニワ兵でいいや、もう作るの慣れちゃったし。


 そいやハニワ兵って同じ魔力で作られたもの同士で連携するとかなんとか言ってたよな?

 別々の人が作ったら連携しないんじゃないか?、個別の護衛ならいいのかな?、一応それでも連携するのかもしれないな、高性能だし。






●○●○●○●






 3層に入ってハニワ兵2体を前に、それぞれ分かれて2部屋ずつの処理に向かった。

 タケルチームはサクラさんとシオリさんが付き、リンちゃんチームはメルさんとネリさんが付いた。

 石弾の総合力的にはタケルチームのほうが弱いので、俺の分担が少し増える。サクラさんとシオリさんでもトカゲならしっかりダメージは与えられる威力の石弾が撃てるし、あんな大型亀は居ないので問題ないだろう。


 ハニワ兵は期待通りの役目を果たし、後ろから撃ってて多少邪魔になることはあったが、それで近寄ってくるトカゲをブロックしたり倒したりと大活躍だった。

 これなら今後も安心かもしれない。足りないなら数を増やせばいいしな。


 前回の2部屋のときはそれぞれ別の入り口になっていたが、今回は間の壁が一部壊れていたようで、2部屋分のトカゲと一度に戦うことになった。

 しかし1部屋にいる数が前回より少なかったことと、前衛2体と後衛3人だから攻撃の手も多いことで余裕ができたおかげで、先に警告音を出しそうなでかいトカゲを見つけて倒すことができた。


 一応、もし警告音を出された場合はボスである竜族が動き始めるので、その場合は2層まで撤退しようっていう取り決めをしてある。

 その場合はハニワ兵を殿(しんがり)にして撤退するんだけど、ハニワ兵に『後方警戒をしながら付いて来い』って命令すればよく、最悪は『この場を死守せよ』って命令を出せばそこに踏みとどまって頑張るらしい。マジ高性能だよなぁ、置いていくのがもったいないぐらい。


 でもまぁ、今回それをすることなくトカゲ部屋を処理し終え、損壊の少ない死体を回収した。


 部屋を出てリンちゃんたちと合流する前に巡回してる4体がちょうど角を曲がってくるところで待ち伏せをして速やかに処理。これも回収。

 もう1組の巡回4体はボス部屋の裏の通路にいるようなのでリンちゃんたちとの合流を先にすることにした。


 その途中、通路がボス部屋に向かっているところで、ちょうどよく狙いやすい位置にボス竜族が移動したので、氷の刃の曲射をしてみた。今回はあまり曲げてないので速度が出せる。


 しかしやはり音で気付かれたのだろう、当たる寸前に反応されてしまった。


- あ…。


 「避けられたのですか?」


 サクラさんが少々驚いたように言った。

 音速とまでは行かないが、結構な速度で撃ち出した氷の刃を避けられるとは思えないんだけどね、俺が『あ…』ってつい声を出してしまったので気になったんだろう。


- んー、たぶん当たったと思うんですよ。倒れたままですし。


 「奥のほうが騒がしくなりましたけど…?」


 不安そうに言うシオリさん。


- 奥にいる巡回4体が騒いでるだけですから、もうそれしか残ってませんし。


 「リン様たちと合流を急ぎましょう」


- あ、ここで待ってればいいですよ、ほら、そこの角から。


 ちょうどリンちゃんたちが角を曲がって来るのが見えたところだ。


 「魔力感知って便利ですね、私もできるようになれるかしら…」

 「姉さん、教本(きょうぼん)には『感知は成果がわかりにくいがこつこつ地道に訓練すべし』とありましたよ?」

 「そうだったわね、どうもタケル様を見ていると実力の差がありすぎて不安になるわ」

 「わかります」


 そういうのは俺が聞こえないところで話して欲しい。

 横で言われたらどうすればいいんだ。


 「タケルさま、竜族を倒されたんですか?」


- と、思うんだけどね、魔力反応がまだあるから油断はできないなってところ。


 「動けない今が勝機かもしれません、行きましょう」


 それもそうか。


- そうだね。行きましょうか。


 それでハニワ兵を前に、警戒はしつつも心持ち急いでボス部屋へと向かった。






 ボス部屋の入り口は通路正面ではなく、両側に2つ、そして部屋の奥側にも2つあることがわかっている。

 巡回4体はボス部屋にいるようだ。


 竜族はまだ横たわっている、微妙に魔力反応があり、4体のトカゲが竜族の周囲にいる。


 片方の入り口からそっと覗くと、4体は竜族を囲んで口をあけていた。

 何をしているんだろう…?、あ!、回復魔法か!?


- 急いで倒しましょう、回復魔法のようです。


 そう言って入り口から一歩入って石弾を撃って4体を倒した。

 瞬間、竜族がゆっくりと首を持ち上げこっちを向こうとした。


 と、両側から石弾がいくつも竜族に向けて発射され、その頭部から側面にかけて穴が穿たれた。一瞬遅れたが俺も撃った。

 こっちに向く前に倒せてよかった。


- まさかトカゲに回復魔法の使い手が居たとはね…。


 「も、もう動き出したりしませんよね?」

 「いくら何でもあれだけ当てたんですから…」


- 魔力反応が消えたので、もう大丈夫でしょう。


 近寄って傷を検分してみた。

 首のところにはっきり傷が残っていた。床は血だらけだった。


- どうやらぎりぎり生きていたのを4体から回復魔法を受けて、なんとか動こうとしただけのようですね。


 「それで動きがゆっくりだったんですか…」

 「このトカゲ、ちょっと大きいんじゃない?」


 ネリさんが指摘したとおり、トカゲ部屋で回収した1体を出して並べてみると、確かに大きかった。


 「確かに。大きい個体は警告音を出せるものでしたね。回復魔法が使えるなら、もしかして破壊魔法も使えるのでは?」


- 今まで魔法を使って攻撃してきたのは居ませんでしたけど、それだと大きめの個体は要注意ですね…。


 「何にせよ回復されては困るので、優先目標であることには変わりありませんよ?」

 「大きめの個体と直接対峙したことってありましたっけ?」

 「ないですね、間に普通の個体が居ますし、大きいのはできるだけ先に倒してきましたから…」


 皆が議論しているのをとりあえずそのままに、俺はリンちゃんに合図して回収作業を始めた。

 あとは壁などに淀みポイントがある箇所を潰して、埋める作業をしなくちゃね。


 「あ、議論はあとにして、周辺調査をしましょうか」

 「「はい」」 「はーい」


 気付いてくれたみたいだけど、別にまだ議論しててもいいんだよ?、とは言わずに地図を見ながら淀みのある箇所を順番に潰していった。

 以前は虱潰(しらみつぶ)しに壁の近くを歩いて探していたが、最近では索敵魔法の時点でだいたいの見当がついているので、淀みポイントまで地図に記しているからね。


 魔力感知専門の訓練は今はしてないけれど、普段やってる魔力操作の訓練で感知も鍛えられてるってことだろう。地味でわかりにくいけど、こういう時には感知力が上がってるんだってことが実感できる。

 逆に言うとこういう時でもないと、感知力が上がってるのかどうかがわかりにくいってことだ。プラムさんのテキストはすごいなぁ…。






 4層がないことは分かっているので、奥から順番に崩して埋めていけばこのダンジョンは処理終了だ。

 3層を埋めるのは空間が広いだけあって手間がかかったが、埃まみれになりつつ頑張った。

 障壁を張るタイミングがずれたせいで、口の中とかじゃりじゃり言ってしまい、口を(ゆす)いだり笑われたりもしたが…。


 あ、3層の小部屋に金属鉱石が集められていたのが見つかったのは僥倖(ぎょうこう)だった。

 ネリさんが『金がある!』って騒いでたけど、それ黄銅鉱っていう銅鉱石だからね。金色だけど。金じゃないよ、って言ったら『なーんだ、ちぇー』とか言ってたけど、今は金属不足なので鉱石ならなんでも嬉しいんだよ、って言って褒めておいた。


 鉄鉱石は少なかったけど、銅と亜鉛とアルミニウムがどっさりとれそうだ。

 ポーチから麻袋――っぽい布袋ね――や木箱などを出して、スコップや魔法を駆使してせっせと回収した。スゲー時間かかった。

 皆最初はちょっと手伝ってくれただけで、すぐ『他にもあるかも知れないので調査してきますね』とか言ってぞろぞろ出て行っちゃうんだもんなぁ…。

 リンちゃんは一応皆のほうも何かあったらって思ってついてってもらったので、俺と俺のハニワ兵2体とでせっせと回収作業したよ…。


 もうこの場で溶かして金属だけにしてしまった方が良かったんじゃないか?、ってあとで思ったね。


 おかげで汗だくになった。そこに3層を埋めるときの埃にまみれたわけで、どろどろになった。

 最初気付かなくてさ、袖で顔を(ぬぐ)ったときに分かった。道理でいつもより皆が離れて移動するわけだよ。


 今回飛行魔法(笑)で移動したんじゃなくてよかった。俺もこんな状態でしがみつかれたくないし。まぁさすがにこんなどろどろの奴にしがみついてきたりしないだろうけど。






 外に出て、『スパイダー』に乗るときに皆に露骨にイヤな顔をされたので、ばばっと壁で囲んで自分を丸洗いして普段着に着替えた。夏で良かったよ。

 俺も泥だらけで乗るのはちょっとなーって思ってたのでいい口実ができたと思うことにした。凹んでないぞ?


 何なら先に帰ってくれてもいいんだけどね、俺だけ飛んで帰ればいいんだし。とは言わなかったけどさ、言ったらどうしてたかな…。


 でも待っててくれた。よかった。本当に先に帰られたら少し落ち込むところだったし。


 そういえばこの世界って『生活魔法』みたいなのが無いね。今更だけどさ。

 こういう時、ささっと『浄化』なんてできたら楽なのになーってちょっと思った。


 まぁこの世界の場合、浄化なんて複雑なこと、そんな手軽な魔力消費でできるわけがないんだけどね。






 ともかく、これで『ロスタニア東5』ダンジョンの処理が終わったってわけだ。

 あと、残っているのは収束地らしきものが2箇所、ダンジョンが4箇所だ。


 魔物侵略地域を南北に分断しているカルバス川の南側にダンジョンが2つ、北側にダンジョンが2つと収束地らしきものが2箇所、というのが地図に記してある。


 一応、次はこのまま北側、つまりロスタニア側を進み、支流である細い川を渡って収束地をひとつ調べてから、『ロスタニア東6』ダンジョンを処理する予定だ。


 何度か、予定外のことがあったりして遅れ気味だったけど、ようやく終わりが見えてきたような気がする。


 できればこのまま危なげなく、おおっと、こういう時にフラグめいたことを言っちゃダメだよな。危ないところだった…。




次話2-78は2018年12月26日(水)の予定です。


20190102:いくつか修正…したと思う。

20190117:(誤字訂正)前後も左右も対象 ⇒ 前後も左右も対称

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2019年05月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
なるほど。わかりません。
2020年01月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
同じやん。なるほど。やっぱりわかりません。
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