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2ー073 ~ 飛行

 昼食らしいものって考えて、柱に貼ってた献立表みたらパスタって書いてあったんだけどさ…。

 やっぱりヒヨコじゃなくてピヨにも食べさせようと思うと、どうにも短いパスタを鳥の(ひな)が食べる姿を想像してしまって食欲が消沈しそうになったので、パスタや麺類は当分の間禁止って羊皮紙に書いて冷蔵庫に貼っておいた。


 元の世界によくあったフィクションでさ、多くの種族が暮らす街の飲食店でそれぞれ特有の食事を()ってる場面なんかがあったりしたけど、知らないとギョっとするようなもの食べてるのが隣や後ろに居たりしてヤバいよな。

 そういう環境で育った、見慣れてる人々からすれば問題ないんだろうけども。


 そういえば元の世界だって、文化が違う他国にアレを食べるのは許せないだとか禁止しろってうるさい連中が居たもんなぁ…。


 ちょっと違うかもしれないけどさ。目の前で食べてるんじゃないならいいじゃないかって思うんだけどね。まぁアレか、他国や他の文化に文句いう文化なんだろうね。ヤな文化だな。






 ところで異世界モノの定番だけど、お米がないんだよなー、ここも。

 麦があるんだから米もありそうなもんだけどね。いや、麦って言ってるけど元の世界の麦とは違うもんだけどさ。だからあったとしてもお米っぽい穀物だろうね。


 光の精霊さんがくれた食料のリストにはお米っぽいものがあるんだろうか?

 前も言ったかもだけど、名前で言われてもわかんないんだよなー、似てる名前ならまだ覚えやすいんだけど、全然似てないんだよこれが。


 リストにある例を出すと、『ドルデ(あっさりした芋)』、『ボカリ(ねっとりした芋)』のように書いてある。少しでも分かりやすいように後ろにリンちゃんが注釈をいれてくれてるんだけどね。元の世界で言うと前者はジャガイモで後者はサトイモ、っぽいものだ。

 なのでリンちゃんが注釈をいれてくれていないものは、名前みてもわからん。

 そもそも覚えられる気がしない。


 なんでかというと、この名前って光の精霊さんたちが使ってる名前を、人種(ひとしゅ)の言葉に当てはめただけらしい。あくまで似てる音なだけで、もちろん精霊さんたちには通じるけれど、例えばメルさんにこの名前を言っても通じない。だからややこしいんだよ。


 一応、ジャガイモっぽいものはメルさんは『ホッタ芋』だったか『オッペ芋』だったか、何かそんなような名前を言ってたけど、地方で呼び名が違うんだっけかな、とにかくあれこれややこしいってことだけは分かったので、俺はもう覚えるのを諦めた。


 豆類も同じような感じで、鞘状態のものと取り出したものと乾燥させたものとで呼び名が違うわけ。元の世界でもほら、『枝豆』、『大豆』って呼び名が違ったろ?、そんな感じで状態によって呼び名が違うんだよ。

 こういうのも覚えようというモチベーションに影響するわけですよ。わかるだろ?、な?


 だいたいリンちゃんが言う名前を覚えてもメルさんには通じないし、シオリさんもメルさんとは違う名前を言ってたりするので、実にややこしい。

 なので俺は料理作ったとしても、『豆と芋のシチュー』とか、『肉と豆の炒め物』とかそんな風に言ってる。

 何の芋かときかれたら『ジャガイモっぽい芋』って答えたりしてるわけ。


 幸い、塩や胡椒(コショウ)やトウガラシは先輩勇者たちのおかげで慣用名として通じる。

 これだけは助かったと言える。ああ、砂糖も通じたっけ。


 味噌っぽいものもある。『バァ』とか『バー』って略称で呼んでるらしいが『味噌』は通じなかった。醤油(しょうゆ)も似たものがあるが通じなくて、バァなんとかって言ってた。

 その『なんとか』の部分に、豆や穀物の種類だとか液体だとかエキスとかそんな意味の言葉が続くようで、だから何種類もある。


 わかりやすい名称で例えるなら、元の世界で大豆のお味噌の白いやつとか赤いやつを白味噌とか赤味噌とか八丁味噌とか田舎味噌とか言うような、そういう感じで名前になってるってわけ。そこに豆の種類などの違いで名前が変わっていくってことらしい。

 味醂(みりん)っぽいものもあった。でも呼び名が違うし光の精霊さんのところにしかない。これも何種類かあるんだとさ。とても覚えられる気がしない。


 これだけ食へのこだわりがあって何でお米がないんだ、って思ったもんだ。


 ま、それはそれとして、豆っぽいものが味付けされた瓶詰めがあったのでそれを適当に肉類と炒めたものをいくつか用意して、切って(あぶ)った黒パンにトッピングするものにした。柱に貼ってある献立と違うけど、まぁいいだろう。






 「献立表と違いますが、これはこれでとても美味しいです」


 誰かが言うだろうとは思ってた。サクラさんが言うとは予想してなかったけど。


 「予定では何だったのです?」

 「パスタだったかと」

 「そうでしたか。私はこちらのほうがいいですね。いろんな味が楽しめますので」


 そういえばシオリさんって品数が少ないと、席に着くときに不満は言わないけど表情が沈むんだよね。たぶん長いことずっと王様たちと過ごしてきたから、品数の多い食事をしてきたせいかも知れない。

 あ、元の世界にいたとき貧乏だったって言ってたっけ、それを思い出すからかな?、考え過ぎか…。


 今日のは気に入ってくれたようでよかった。


 ところでピヨだけど、小さい器に入れてやったら食べてた。

 なんとなく爪楊枝の長いやつをつけておいたんだけど、器用に羽でそれを持って、1粒ずつ食べてたよ…。

 『美味しいです!、ありがとうございます!』って涙目で言ってたけどさ、羽ってそんな器用に物が持てるもんなのか?、アニメというかカトゥーンっていうんだっけ?、アメリカのアニメみたいなやつ、そんなシュールな絵面で言われてもね…。現実感が無さすぎてどうにも…。


 女性陣は『かわいい♪』とか言って表情をほころばせていたけれど、俺はなんか釈然としないものを感じていた。


 それとさ、(ほお)を膨らませてもぐもぐしてたんだけど…。キミ、歯ないよな?、(くちばし)の内側ってもう飲み込むしかないはずだよな?、頬ってないはずだよな?

 いあ確かに、喋る時点でおかしいんだが、いろいろ納得いかない。


 もうどーにでもしてくれ、という心境ってこういうのなんだろうなー…。






●○●○●○●






 食事しながら、『中央東8ダンジョンに行く』って話をしたら、やっぱりネリさんとメルさんはついて来るらしい。

 シオリさんは杖のこともあって今回もお留守番をお願いした。サクラさんも同様。


 ピヨだけど、さすがに連れて行くわけにはいかないし、リンちゃんに残られると現地で困るので、シオリさんとサクラさんにピヨのことをお願いしておいた。

 と言っても、普通のヒヨコではないし、リンちゃんが『タケルさまのお部屋で大人しくしていなさい』と言い聞かせていたので、大丈夫だろうということになった。






 食後すぐに、ああ、片付けはサクラさんがしてくれるとの事で、大岩拠点に飛んだ。カエデさんを連れて行かないと、ハムラーデルの兵士さんたちが覚えてくれてないかもしれないからね。


 今回は土魔法で作った長椅子に(つか)める棒も用意して安定して飛べるようにしたというのに、どうして俺にしがみつこうとするんだよキミタチは。


 個別の椅子にしようとしたんだけど、リンちゃんが『長椅子にしませんか?』って言ったんで長椅子にしてしまった俺も迂闊(うかつ)だったんだけどさ…。


 座る順番を、リンちゃん、俺、ネリさん、メルさんという風に、間にネリさんを入れたんだが、ネリさんがしがみついた俺の腕に、さらにメルさんがネリさんごとしがみついてきて、飛び立った瞬間ネリさんが『ぎゃーー痛い痛い!』って俺の横で叫ぶという惨事になってしまった。


 それで一旦地面に降りて、涙目になってるネリさんが自分で回復魔法かけて、メルさんが平謝りして、座る順序を変えて再出発した。

 結局、メルさんの身体強化は、飛び立つとどうしてもONになってしまうようで、もう諦めることにした。


 まぁ、強化を覚えたのが物心ついたぐらいの幼い頃だったらしいし、それから起きてる間はずっと身体強化し続けてたんだから、緊張したりするとどうしてもONになってしまうんだろう。

 『森の家』で訓練し始めてから、普段はOFFにできるようにはなってきているみたいだけど、ずっとクセみたいになってるものを、そんな数ヶ月程度の訓練で直すってのにも無理があるんだろうね。


 と、無理やり納得することにした。そういうのって気長にやるしかないもんなぁ。


 しかし目の前に掴まることができる棒を用意してるってのに、どうして俺にしがみつくんだろう、今回は同じ方向を向いて座ってんだよ?、どう考えても正面の棒を持ったほうが安定しないか?


 とかいろいろ思ったけど、何だか椅子つくってそれが飛ぶ姿ってのもアレだし、もう椅子も要らないんじゃないか?、これ。


 ってか別にそれほど急ぐわけじゃないなら、『スパイダー』に乗って移動したほうがいいような気がする。


 カエデさんを天幕の前に居た兵士のひとに呼んでもらって、出てきたカエデさんにダンジョン行きますよ、って言ったときの複雑な表情を見れば、飛んで行かなくてもいいかーって思ったんだよ。






 というわけで、リンちゃんに『スパイダー』を出してって言ったら、『あっ、装備の追加と機関の改良中でして、今は無いんです。申し訳ありません…』って謝られてしまった。


 まぁしばらく使ってなかったしなぁ、俺のせいだし、無いならしょうがないよ、タイミング悪くてごめんね、って言って頭撫でておいた。


 この時のカエデさんの微妙な表情ったらなかった。

 飛んで行かなくて済むって一瞬思ったんだろうね、正直すまんかった。


 しかし走って行くのもね、たぶん俺たち4人なら結構な速度で走れると思うけど、カエデさんはそれについてこれないだろうし…、といってカエデさんを背負うとか抱っこするってのも気が引ける。

 だから結局、飛んでいくわけで…。


 え?、さっきの長椅子?、降りたときの兵士さんたちの『ナニコレ?』みたいな表情がね…、そっこーで分解したよ。

 普通に(?)飛行魔法(笑)で飛んできたほうがまともな対応だと思った。


 だからもう椅子はやめようと決めた。


 まぁでも気持ちはわかるよ。

 何か飛んできたなーって見てたら長椅子だもんね、それに4人並んで座ってるっていう。

 脳が理解するのを拒否しそうだよね。うん。わかる。

 きっと誰でもそういう表情すると思う。


 だからカエデさん、帰りは馬でも馬車でも自力で走るでも好きにしていいからさ、行きは諦めてね。

 と、説得(?)して同行してもらったんだよ。


 ああ、カエデさんの悲鳴も聞きなれてきたな…。






●○●○●○●






 中央東8ダンジョン前のところに着陸したら、警邏(けいら)中の兵士さんの誰かが呼んでくれたのか、基地隊長の兵士さんが2人ほど連れて走ってくるところだった。


 中の様子を尋ねたところ、現在までのところ問題もなく、壁もそのまま残っているとの事だった。


 「もしや4層の攻略をされるおつもりで?」


- ええ。今日はそのために来たんですよ?


 「失礼を承知でお尋ねしますが、その人数でですか?」


 正確には俺が杖もって4層でぶっ放すので攻略という点ではほぼ俺ひとりなんだけどね。

 それを言ってもたぶん信じてもらえないし、説明するのもめんd…ではなく大変だろうから、言わずに頷く。


 「あ、あの、私もでしょうか?」


 不安そうに言うカエデさん。隊長さんが言う数に自分も入ってると気付いたらしい。

 俺は別にどっちでもいいんだけど。


 「ふっふ~ん、怖気づいたんだ?」


 そこにニヤニヤして言うネリさん。


 「だ、だって皆さん武器も持ってないじゃないの…」


 視線をさまよわせて言うカエデさん。

 あ、忘れてたよ、中に入ってからでいいかなって。

 メルさんの『サンダースピア』はリンちゃんが預かってるし、今は皆が手に何も持ってない状態だ。


 あれ?、でもネリさんの刀っぽい剣、預かった覚えがないんだけど…。


- リンちゃん、ネリさんの武器預かった?


 「いいえ?」


- ネリさん、武器は?


 「え?、だって持ってきても使わないし…」

 「呆れた…、ネリ、あんた武器も持たずに来たの?、忘れたんじゃないの?」

 「ち、違うの!、忘れたんじゃなくて、使わないからもってきてないの!」

 「あんた何しに来たのよ…」


 そりゃそう言われるよなぁ、あ、数打ちの剣とかもらえないかきいてみよう。


 「あたしは魔法キャラになったから剣つかわないんだもん」

 「何が魔法キャラよ。あんたバリバリの前衛じゃない」


 バリバリとはまた古い表現だなぁ、って、カエデさん昭和の人だっけね。そういえば。


 「もう魔法使いだもん、怖気づいたひとに言われたくない!」

 「べ、別に怖気づいてない!、勇者なんだから!」

 「カエデは別に来なくても大丈夫だから、外で待ってれば?」

 「ゆ、勇者だから一緒に行くわよ!」

 「怖気づいた勇者様は外でお待ちくださいませ~」

 「むー、ネリのくせに生意気!」

 「走るの遅くてタケルさんに抱っこされてたくせに~」


 それ、ブーメランだと思うよ?、ネリさん。

 まぁちょっとほっとこう。


- 隊長さん、刃の欠けた剣とか、数打ちの剣とかあったら分けてもらえませんか?


 「は、はい。は?、勇者様方がお使いになるのでしたら、できるだけいい剣をご用意しますが…?」


 そういう返答になるよね。うん。


- いえ、剣として使うのではないので、壊れてるとか折れてるものでいいんですよ。


 「はぁ…、そういったものはすぐ職人が鋳潰(いつぶ)してしまうのですが…、わかりました、こちらへどうぞ」


 隊長さんは、カエデさんとネリさんを放置してていいんですか?、みたいな目でちらっと見たけど、彼も関わりたくないんだろう、案内してくれるようなので俺はついていくことにした。


 リンちゃんはついてきたが、メルさんは言い争ってる2人のところに残るようだ。

 たぶんあれは言い争っているのではなく、じゃれているようなもんだろうけどね。






 鍛冶職人がまとまっているところに案内されたようだ。

 隊長さんが職人のまとめ役らしいごつい男性に話をしている。

 その後ろでは刃物を研いだり板金を叩いたりしているひとたちが見える。

 まとめ役のひともそうだが、分厚い革を腰にエプロンのように巻いていた。そういう特徴がないと兵士の人たちと変わらない、いや、兵士より(いか)ついんじゃないかな。傷跡だらけだし。火傷の痕か。腕も肩もすごいし。

 そう言やここって最前線なんだった。そんなとこに来られる鍛冶職人がごつくないわけがない。


 隊長さんの話を聞いたまとめ役が後ろの人たちに大声で指示をだして、出来のよくない武器類や金属片を集めてくれた。


 「勇者様がこんなのをどう使うのか知りやせんが、いいんですかい?」


 まとめ役のひとは、しかめっ面で俺に不審な目を向けて言った。

 なるほど、こりゃ見せたほうがいいのかな?、そのほうが信用してくれるだろうし。


- このまま使うのではないので、いいんですよ。こうやって溶かしてしまうので。


 「何だと?、うぉ!?」


 小さく結界障壁を張って近づけないようにしてから、土魔法で穴を掘ってそこに集めてもらった金属類を放り込んで火魔法で一気に溶かす。

 溶けた金属を、弾丸を縦に挿したような穴がいっぱい開いている土魔法で作った型に流し込んでいって、火魔法で熱を奪って固めれば完成だ。

 何を作ったかというと、石弾魔法の石の代わりに飛ばす弾体だ。

 元の世界の弾丸よりは大きめだけど、形は同じようにした。

 魔法で作ると早いね。周囲で見てるひとたちが一様(いちよう)に口をぱくぱくさせてる間に120個の弾丸ができちゃったよ。


 「……ゆ、勇者様だそうだが、俺たちの仕事を奪う気なのか?」


- いいえ。僕には鍛治仕事はできません。こういった簡単な鋳物ならなんとかなりますが、やっぱり職人の技術には敵いませんよ。


 「わ、わかってるじゃねぇか…、んんっ、しかし魔法ってのはすごいもんだな、勇者様ってのは皆さんそんなことができるんですかい?」


 自分たちが追い出されるわけじゃないとわかったのか態度が軟化したようだ。よかった。

 隊長さんが失敗作を買い取るって話をしてたからね。職人としてあまり気乗りはしなかったろうし、もしそれで新たに剣を作るのならそれこそ自分たちの領分が侵されるわけだからね。


- 今のところは僕だけですね。それに今回は急ぐので自分で作りましたが、こういうことは本来なら鍛冶職人の方々に注文して作ってもらうものだと思ってますよ。


 「そいつぁいい心がけだ…ですが、俺たちじゃ勇者様のようには作れやせんぜ…ですぜ?」


- あ、普通に話して下さって結構ですよ。見てもらえばわかりますが、ほら、こうなるんですよ。


 土の型枠を消すとばらばらと冷え固まった弾丸が地面に落ちた。

 そのうち5つほどを拾い、彼に手渡す。


 「む?、ああ?、こりゃひでぇ!…いや、勇者様の作ったもんにけちつけるわけじゃねぇんですが…」


 そうなんだよ、成分もいいかげんだし急激に冷やしたからもろいんだ。ひび割れができているものすらある。

 もし火薬で撃ち出したなら狙ったものに当たらないどころか、途中で砕けたりしそうだ。下手すると銃身ごと破裂してもおかしくない粗悪品ってやつなんだ。


- 今回は魔法で投げるだけですから、この程度のものでもいいんですが、それでも粗悪すぎるものは使えないのでもう一度溶かして作り直さなければダメですね。


 土魔法で作った板の上を転がしてみるとよくわかる。

 重心がずれてしまってるのは全く使えない。


 「なるほど、こうしてみりゃ均一じゃねぇのが丸分かりだ」


 使えるのは半分ぐらいかな、こりゃ。

 デモンストレーションと思ってやってみたが、手早くやりすぎた。


 「それで、こいつを俺たちに作れってことですかい?」


 お?、作ってもらえるのかな?

 千個ぐらい注文したいところだけど、俺ってお金あまりもってないんだよね。光の精霊さんの通貨ならまだたっぷり残ってると思うけどさ、人間の国で使えるお金はせいぜい宿屋に泊まったり市場で買い物する程度のはず。


- 手の空いている職人さんがいるなら、千個ぐらい欲しいんですが…。


 と言って隊長さんを見る。びくっと反応された。


 「あっはい。勇者様には助けて頂いたり多くの素材を寄付して頂いたりしましたし、費用はこちらで。はい」

 「そいつはいいが、勇者様、できればさっきの型枠とその…、それは何て言えばいいんですかい?、それをいくつか見本にくれませんかい?」


 ああ、サンプルね。いいですよーほいほいっと。


- あっはい、どうぞ。それと使えそうにないものは置いていきますので再利用してください。


 使えそうなものを拾いながら10個分の型枠を土魔法でちょいと作る。

 だって10個ぐらいのサイズにしないとでかくて重いからね。


 「ありがてぇ、それで千個ともなると少しは時間を貰いてぇんですが、いつまでに作ればいいんですかい?」


- 逆にお尋ねしますが、急ぐとどれぐらいで普通だとどれぐらいかかります?


 「そうだ、ですなぁ…、急ぎだと俺たち全員で3日は欲しいところだが、他の仕事が全部とまっちまうんで、普通だとひと月ってところだ、です」


- じゃあそれで。よろしくお願いします。隊長さんもありがとうございます。


 「わかりました」

 「わかりやした、1週間で半分を納めやす。それでどうですかい?」


- あっはい、お願いします。


 1ヶ月って言ってたのに自分から半分にしちゃったよ。いいのかな…?

 まぁ、お金とかは隊長さんのほうで出してくれるみたいだからいいか。


 帰りにまた倒したトカゲを寄付しよう。黒こげでなければ使えるだろうし。






●○●○●○●






 ダンジョン前のところに戻ってきたら、3人がそれぞれ土壁を前にして石弾を撃ち込んでた。

 何コレ?、どういう状況?、訓練?


 「あ、おかえりなさい」


 それぞれに言われた。


- これどういう状況なんです?


 「あたしが魔法使いだってカエデが信じないから壁つくって魔法撃ってたの」

 「魔法が使えるのと魔法使いは違うでしょ!、って言ったんです…」

 「私はただのひまつぶしです」


 なるほど、わからん。


 それにしてもメルさん…、ひまつぶしで真似して訓練って意味ですよね?


- それで、カエデさんは一緒に入るんですか?、残るなら残っても構いませんけど…。


 「え?、残ってもいいんですか?」

 「ふふ~ん」

 「行くわよ!、私だって戦えるんだから!」

 「あんなひょろ(だま)しか撃てないのに?」

 「ひょろ弾って言うな!、ちゃんと剣もってるし!」

 「ふ~ん」

 「きぃー!、ネリのくせに!」


- まぁまぁ、ストップストップ!、片付けて行きますよ。


 「「はい」」

 「はーい」


 しかし何だろうね、『ネリのくせに』って。

 俺が来る前のネリさんってどんなだったか知らないけど、そう言われるってことは弱かったとか?

 まぁ訊く気はないけどね。


 カエデさんが土壁の前で『うーん』とか『ふぬー』とか(うな)ってて、片付けるのに手間取ってるみたいだったから、俺が手を添えてさくっと片付けておいた。『あ、あれっ?』って首を傾げてたのがちょっと可愛かった。


 ダンジョンに入る直前に3人ほど小さく溜め息ついてたけど、気にしないでおく。


 いつものように入ったらすぐに索敵魔法。前回きたときの地図を見て、違いがないし敵もいないので地図は焼かずに走る。

 おっと、カエデさんのペースに合わせないと。


 腰の剣が邪魔で走りづらいんじゃないのかな?、いや、それぐらいでペースが落ちることはないか。そうじゃないと身体強化して戦闘できないもんな。






 2層最奥のところに到着。そこには4名の兵士さんが詰めていた。

 前回つくった3層との境界門を囲んでいる壁は無事なようだ。

 人数的に、壁に変化があると撤退するんだろう。カエデさんに『変化はありません!』って報告してるようだし。


 壁に作った穴からのぞいてみたけど、トカゲが来た様子はなかった。


 もうとっくに壁は定着しているので、土魔法で出入り口を作って中に入ることにする。

 地面に穴を開けるのと同じ要領だ。


 「「ご武運を!」」


 と、後ろで4名の兵士さんたちが声を揃えて敬礼するのに軽く片手を挙げて返し…たつもりだけど、カエデさんが向かい合って敬礼を返してたので、俺に言われたんじゃなかったかもしれん。


 何だか待ち合わせをしてて挨拶されたからそっちむいて返事したら、違う人の待ち合わせ相手だったような、そんな気恥ずかしい思いを抱えて3層に入った。


 索敵魔法をしてたら後ろでネリさんが、

 「にっひひ、さっきのタケルさん、自分に言われたと勘違いして片手挙げてたね、プっふふ」

 と小さく言って笑い、

 「っプ…、やめてあげてくださいよ、ふっふふふ」

 とメルさんがフォローしてるようでできてなくて笑いだして…。


 後ろを振り向いたら、リンちゃんは壁のほうを向いて肩を震わせてた。


 いっそちゃんと笑ってくれたほうが清々(すがすが)しいんだが…。


 「どうしたんです?、これ。何かあったんですか?」


 入ってきたカエデさんが、口元を手で覆って笑ってる3人を見て言った。


- な、何でもないです、さ、最奥にトカゲが3匹、途中に巡回2匹です。行きますよ!


 う、ごまかしたのがバレバレだな、俺自身そう思う。


 「あ、ごまかした」

 「ネリ様」

 「はーい」

 「?、ほんと何があったんです?」

 「いいのいいの」


 緊張感が無いなぁ…。






●○●○●○●






 3層最奥で、テーブルと椅子を作って座ってもらい、ここからの手順を説明した。

 俺だけが4層に入るって言うと口々に反対されたので、その勢いに負けて全員で入ることになった。


 でも壁沿いに移動して、俺の後ろから動かないことって念を押しておいた。

 もし魔法の余波がきたときに、固まってくれてないと守りきれるかどうかわからないからね。


 例の水雷を使うかどうかは『竜族』やトカゲたちがどう分布してるかを見てから判断したいので、『具体的なことは入ってすぐ索敵(レーダー)魔法(の方)を使って地図を焼いてから決めます、そこからは指示に従ってくださいね』、と改めて念を押しておく。


 リンちゃんに言ってメルさんには『サンダースピア』、ネリさんには手ごろな剣を渡してもらい、俺は『裁きの杖(ジャッジメントケーン)』をポーチから取り出して手に持ち、4層に入った。

 カエデさんが目を見開いていたけど、特に何も言われなかった。慣れてくださいとしかいえないので良かった。




 地図を焼いて、敵の位置を目でも確認する。前回と位置が変わっている集団もあるが、だいたい同じようだ。よし、感覚的にも把握したし、いけそうだ。


 土魔法で足場を作り、林の上に少し出るぐらいの高さに上る。杖からの光(魔波)を邪魔するものがないようにするためだ。


 集団のところには例の水雷を落としたいんだけど、そこだけそういう指定ができないようなので、とりあえず『竜族』っぽいでかいやつにだけシオリさんがやってた天罰(雷撃)を落とすことにする。18箇所か。ならついでにちょっと大きめのトカゲにも落とすか。12箇所追加はいりまーす、みたいな。


 気軽に使ったにしては結構魔力を消費した感じで、スゲー音と衝撃が1秒ぐらいの遅れでやってきた。

 もちろんこっち側は障壁結界で守ってるが、林の木々が爆風で少し揺れたのと、砦の内側で何箇所か壁が崩壊したのがわかった。


 だいたい命中したっぽいな。と思って足場を降りようとしたら、何かが砦の上空にゆっくりと浮かび上がろうとしているのに気付いた。

 ん?、でかいな。あれが『ボス竜族』かな、あの天罰(雷撃)に耐えたのか?、ぎりぎり避けてかすっただけだったのか。


 ということは水雷落としてたら完全に避けられたってことだな。飛べるって厄介だなー。


 でもこっちにはさっきつくった弾丸がある。こんなこともあろうかと、ってやつだな。ふふ。

 砦の上に浮いてきたので、ささっと10発ほど浮かべて音速で発射した。

 射線が通ればほんの400m程度、余裕だね。できのよくない弾丸とは言え金属製だし石弾よりしっかり飛ぶし貫通力もある。ほら落ちた。


 ついでなので右往左往してるトカゲ集団のところには例の水雷を落としておく。

 テストしたときのよりも数段小さい手加減バージョンね。それでも充分な威力あるし。


 杖から影になってる塔の向こう側の一部は天罰(雷撃)を落とせないのでそこに居た集団は無傷だ。だが例の水雷なら壁に囲まれてる部屋や廊下伝いに広がるので届くだろう。壁が持てばだけどね。


 これで残ってるのは普通サイズのが12体か。

 んじゃ全員で掃討しにいきますか。






●○●○●○●






 降りて足場を消し、掃討しにいきますよと軽く説明をし、皆で普通にてくてくと歩いて砦に入っていった。


 入ってたまたますぐ近くにいたトカゲ2匹のうち片方が例の『カッカッカッカ』と警告を発したが、メルさんとネリさんがスパパパと石弾を撃って2匹とも倒した。


 俺?、俺はもう杖もポーチにしまったし、手ぶらで後ろからリンちゃんと一緒についていくだけだよ。死体回収役だね。


 メルさんもネリさんも、近距離なら魔力感知でどこから敵が来るかわかるみたいだし、メルさんはときどき音波的なピンガーを打って感知してるようだった。

 うん。実に頼もしくなったもんだ。おかげで楽ができる。


 「あのー、タケルさん?」


 最初は意気揚々と3人で並んで剣を構えていたカエデさんだが、出番がないと悟ったのかこっちにきて話しかけてきた。


- はいはい?、何でしょう?


 「メル様って近接特化の騎士だったと記憶してるのですが…」


- そうですね、剣の腕は達人級だとうかがってますよ。


 「あれって槍ですよね?」


- そうですね。


 誰が見ても槍って言うだろうね。剣には見えない。


 「全然使わずに魔法で倒してるように見えるんですが…」


- そうですね。


 「外でネリが壁に向かって魔法を撃ってたとき、隣で同じようにしていたのは見ましたけど…、メル様のほうがネリよりすごくないですか?」


- そうですね。


 ネリさんより早くから訓練し始めたもんね。いやーそれにしても驚きの成長率だね。

 お前が言うなと言われそうだけど。主に横のジト目でこっちみてるリンちゃんから。


 「それにネリもあんなに魔法が使えるようになってるなんて…」


- そうですね。


 「わ、私も訓練していけばあのようになれるんですか?」


- そうですね。


 「もー、タケルさんさっきからそうですねばっかりですよ!?」


 おお、二の腕を軽く叩かれた。

 おかしいな、まだ3回ぐらいしか会ってないのに、気安いぞ?、ってそういえば飛行魔法のとき抱きつかれたり、あ、忘れてたけど走るとき抱っこしたりしたっけ。そのせいか?


- ちゃ、ちゃんと聞いてますって。


 「ならいいんですけど…」

 「ああっ!、そっちでサボってないでちゃんとしてよね!」

 「ネリ様前!」

 「はい!」


- ちゃ、ちゃんと見てますって!


 「どうだか。カエデもそっちでいちゃいちゃしてないで倒したやつ確認してよ!」

 「いちゃいちゃなんてしてない!」


 いちゃいちゃしてるように見えるんだろうか?、わからん。

 しかし何なんだろう、この雰囲気のユルさ。


 そんなこんなで残ってるのを倒していってくれた。楽だねぇ。






 「これはひどい…」

 「これ『竜族』?、だったもの?」

 「シオリ様の魔法ですよねこれ。恐ろしい威力ですねこれは…」

 「ばらばらになってあちこちコゲてるよ?」


 天罰(雷撃)が直撃するとこうなるんだろうなぁ、近くにいた普通のトカゲも巻き添えで吹っ飛んでたようで、まだ生きてるものはメルさんとネリさんが手分けして石弾で撃ち抜いていた。

 カエデさんも、まだ息のあるトカゲは剣でとどめを差していた。


 俺とリンちゃんは使えそうな部分が残ってるのだけを回収してる。






 そんなこんなで『ボス竜族』の居た部屋まで来た。


 「尻尾ないよ?」


 たぶん最初の天罰(雷撃)でちぎれちゃったんだろうね。

 それでも飛行できるんだから大したもんだ。俺、ケガしてたら飛行できるかわかんないし。


 あ、でもちょっと見た感じだと、俺の使ってるなんちゃって飛行魔法(笑)と違って、この『ボス竜族』の飛行魔法は自分の体を飛ばすちゃんとした飛行魔法のようだった。

 あまり観察する時間もなかったので、推測でしかないんだけどね。


 なんとなく翼に秘密があるっぽいような気がしたけど、もしそうなら真似なんてできないからどうでもいいや、翼なんてもってないし。

 でもちょびっとぐらいは興味ある。ちょびっとだけね。


 『ボス竜族』の頭部と胸部は弾丸が貫通したあとが残ってて、10発撃ったけどそのうち頭部に3発、胸部に2発しか命中してないことがわかった。

 半分しか当たらなかったのは、弾丸が均一にできていないので、ほんの少しでも中心がズレているとまっすぐ狙ったところまで飛んでいかないからだ。


 石弾の場合は魔法で生成しているのでほぼ均一なんだよ。強化もしてるから安定して飛ぶ。

 やっぱり適当に作った弾丸なだけあるなぁ、金属も混合物だし冷えて固まるときに均一にならないんだろうね、急激に冷やしすぎたしさ。


 あとは特に言うこともなく、使えそうなのだけ回収。『ボス竜族』は証拠としてもっていくことになった。

 俺はいつものように、魔力の淀みの箇所は散らす作業もあるわけで、もちろんちゃんとやっておいた。






 「何かビビとかパチとか言ってるよ?」

 「あの湯気はどこかで見たような気がします」


 例の水雷を落としたところの部屋と外の廊下が例の帯電している湯気で近づけないようだ。

 メルさんが見たのは以前、『サンダースピア』で帯電した霧を発生させた時に見たもののことだろう。あれとは違うんだけどね。見かけは似てるよなぁ確かに。


- あとにして先に5層を見に行きましょうか。


 「え?」

 「5層あったのですか?」


 あったよ。ちゃんと砦の地図を見せたときに話したろ?、話したよな?、だんだん自信なくなってきたけど。


- あるんですよ。裏から出てすぐなので。


 言って歩き出すと皆もついてきた。


 裏門らしきところから出てほんの100mほど。間には表側と同じように木々のまばらな林がある。

 一応覗き込むように様子を見たが、何もいないようなので5層に踏み込んだ。


 数歩離れて索敵(レーダー)魔法。300m四方で草や木が生えていて池がある。魔物っぽいものも結構いる。というか目視でもわかった。角ニワトリと角イノシシの層だ。ボスっぽいものも居ないので、エサ場なのかもしれない。


 こそこそと見つからないように身をかがめ、皆の背中を押して4層に戻った。


 「どうしたんです?」


- 角ニワトリと角イノシシの層でした。トカゲは居ませんでした。


 「なるほど」

 「ふぅん、トカゲってニワトリとか食べるのかな」

 「かも知れませんねー」

 「では大岩ダンジョンと同じように私たちの食料になりますね」


 そういうことになるんだろうなぁ。

 とにかく手出し無用ってことで、外にでることにした。


 「あのパリパリした湯気のところは?」


- あれはもういいかなと。どうせ生きてるトカゲは居ないでしょうし。生き残ってたとしても兵士のみなさんで何とかなるでしょう。


 「そっかー、あーあ、もうちょっと戦いたかったなー」

 「そうですね、少し物足りませんね」


 キミタチね…。


 「最近は外にも魔物が居ませんし、事務仕事ばかりさせられてるので少し身体が(なま)ってきたかもしれません」

 「そういえばカエデ太ったんじゃない?」

 「そんな数日で太りません!」

 「どちらかというとネリ様のほうが丸くなってきたように見えますが」

 「え!?」


 確かになぁ、最初に出会った時と比べると血色も良くなったけど、少し柔らかな印象になったように思う。

 しがみつかれたときのネリさんの腕とかを思い出してみる。うん。やっぱり最初の頃より肉付きが…じゃなくて健康的になったような感じがする。


 「タケル様もそう思ったのではないですか?」

 「ええっ!?」


- あ、いや、こっちみられても…。


 そういう話題をこっちに振らないで頂きたい。

 あ、そうだった俺って考えてることとか覚られやすいんだっけ。うっかりしてたよ。


 あー何かネリさんがジト目で見てる…、メルさんとカエデさんはニヨニヨしてるんだが、こりゃまずい、撤退の一手だ。


- 終わったんですから急いで出ましょうよ!


 と言いながら走りだした俺。


 「ちょ、早!」

 「逃げましたね」

 「逃げましたね」

 「もー、何あの速さ。あんなの追いつけないよ…」

 「さすがはリン様ですね、あれについて行けるなんて…」

 「リン様は特別ですから」






●○●○●○●






 2層最奥のところで『終わりました。5層に角ニワトリと角イノシシがいました』って伝えたら兵士さん4人が4人とも色めき立ったんだけど、普段まともに食べさせてもらってないんだろうか?、欠食児童ならぬ欠食兵士?

 とにかくそれだけ伝えて走って外にでた。


 外でも同じように伝えて、色めき立った兵士さんたちにビビりながら前回トカゲの死体などを並べた場所まで移動した。

 あれか?、欠食兵士ばかりなのか?、だったら数匹角ニワトリと角イノシシを狩ってくればよかったかな?、まぁ自分たちで狩るんだろうな。俺から渡されるよりそのほうがいいだろうし。


 そして、倒したトカゲ類を並べていく作業をした。

 すぐにリンちゃんも手伝ってくれたし、全部で50体分もなかったから比較的すぐに終わった。黒こげすぎるものやばらばらすぎるものの胴体や肉骨は回収してないからね。手足は爪が必要とのことで、見つけたら回収したけど。


 そうして並べてると鍛治のひとがやってきて、試しに作ってみたがどうだろうかと5個の弾丸が入った皮袋を手渡してきた。


 見るとピカピカに磨かれた弾丸だった。転がしてみるときれいに転がる。精度も素晴らしい。

 正直ここまでの出来は予想してませんでした、といろいろな角度から褒めちぎったら顔を赤くして照れていた。

 ごつい中年のおっちゃんの照れる姿とか誰得なんだろうと思いながら、気分よく仕事してくれるならそれもアリか、なんてちょっと思った。


 ついでに銅製と鉛製のものを注文してみた。でも銅はできるが鉛がないらしい。なのでサンプルの5発のような鉄製のものと、銅製の2種類になった。

 もちろん近くにいた隊長さんには承諾してもらったよ。


 真鍮製も欲しかったんで話をしてみたんだけど、真鍮って亜鉛が3・4割ぐらいの銅との合金だったと思うが、その亜鉛がどうにも伝わらず注文しようがなかったので諦めた。


 何で鉄じゃだめかって?、いやダメじゃないんだけどね、貫通力が欲しいときは鉄でいいんだよ。でも貫通して抜けてっちゃうと致命傷にならないこともあるので、今日のような400m未満ならやわらかい素材のほうがいいかもしれないって思ったわけ。

 あまり武器とか詳しいほうじゃないので、何となくだけどね。






 いつの間にかカエデさんたちも出てきていたようで、カエデさんが隊長さんとしばらく話をしたあと、前回と同じく大岩拠点にカエデさんを送ることになった。


 また飛行魔法ですかと引きつった顔をしていたが、俺は今日ちょっと魔力を使いすぎてて、身体がだるい。じゃあ走って出て来るなよといわれそうだが、終わってから落ち着くと疲れがでるんだよ。

 そういうもんだろ?、だからしょうがないんだって。


 それで走って帰りますかといいかけたら、リンちゃんが『あたしで良ければ飛行魔法使いますよ?』と言ってくれたので、リンちゃんに頼むことになった。


 カエデさんも、『リン様のでしたら…』と同行することにしたようだ。

 どういう意味だよ。俺のはそんなにイヤなのか?、いやまぁ今までの経験から、嫌がられてるなってのはわかってたけどさ!






 皆がリンちゃんの張った結界障壁の床に立った。

 俺はリンちゃんの後ろね。そんでリンちゃんの右側にカエデさん、左側にメルさん。俺の右隣にネリさん。という配置で、リンちゃんが詠唱しはじめた。詠唱!?、まぁいいけど。安定のためかな?


 そして地面から20cmの高さに床にした結界障壁が浮いたと思ったらそのまま急加速した。

 慣性を殺しきれなかったようで、一瞬だけ加速感があり、そのときに俺とリンちゃんは耐えたが、他の3人は一歩後ろに下がった。


 いやちょっとこれ低空飛行すぎだろ!

 3人がスゲー悲鳴あげてるし。ギャーとかヒーとかアアアアとかね。


 時速500kmは出てないけど、300…いや400は出てそうだ。

 近くの景色がすごい速さで移動してる。移動してるのはこっちだけど。

 後ろの土煙がすごいことになっている。


 ってか地面が近すぎて怖い、スゲー怖い。

 俺ですらこれだけ怖いんだ、皆が悲鳴あげて俺にしがみつくのもわかる。でも術者は俺じゃないのにどうして俺にしがみつくんだろう、この人たちは…。


 前に居る術者のリンちゃんは肩幅ぐらいに足を開いて立ち、両腕は斜め下にピンと伸ばして両手のひらを下にむけて不動の姿勢だ。魔力感知の目でみると、(>x<)(こんな)表情してた。目で見てなかったのか!


 あ、右腕にしがみついてたカエデさんの力がぬけた。失神したらしい。急いで右手で支えた。

 次いで左腕のメルさんまで。これで後ろからしがみついてるネリさんまで気を失ったら手が足りないな。


 あ…、結界空間に人肌の湯気が…、うわー、ついにネリさんまで!、この状況は兵士さんたちには見せられない!


- リンちゃん停まってー!、うぉっ!、ヤバっ!


 なけなしの魔力を振り絞って、ってほどでもないけど、反射的に急減速を緩和するように逆向きの力を風魔法で結界に生み出してしまったせいで、リンちゃんの制御を外れたため、結界ごとごろごろ転がって停まった。


 「あうぅ…ひどいですタケルさま…」


- ご、ごめんつい反射的に…。


 「それでこの水は…、ああっ!」


- においで分かったんだろうけど言っちゃダメ。3人とも気を失ってるけどね。


 そう、それほどの量じゃないとは言え、3人が生み出したというか漏らした水分は相応の量なので、転がってもみくちゃになったリンちゃんの結界の中で、仲良く皆がまみれたわけだ。

 俺は小さい子たちの世話をしてたんでこういうのには慣れてるけど、小さい子()ではない()に、しかもまみれるのはちょっと…、という気がしないわけじゃない。早く洗い流したい。


 しかしこれで目を覚まさないとはなかなかの気絶度合いだな。

 などと感心してる場合じゃないので、人肌な温水を水魔法で生み出して全員をざっと水洗いした。

 さらに温風。適当にやったせいで髪もばっさばさだ。


 着たままだと乾きにくいなぁ、3人とも腹部まである革の胸当てをチュニックの上に装備してるので余計に乾きにくい。

 ネリさんはポニテにしてるから頭が全然乾かない。あ、リンちゃんはツインテールを解いたようだ。久々に見るなー、ツインテールを解いたリンちゃん。


 とか思ってたら順番に目を覚ましたようだ。


 「わっふ、何ですかこの風」

 「わー何これ何これ」

 「うーん、到着?、したんですか?」


 起きたようなので風を緩める。


- 大岩拠点はあっちです。すこし手前で降りました。土ぼこりまみれだったので軽く洗おうと思ったら水魔法の制御に失敗しまして、それで乾かしてたんです、すみません。


 適当にでっちあげた。リンちゃんがジト目でこっちを見ている。

 それを皆は水浸しになって乾かしていたことだと思ったようだ。


 「うわーん、髪ほどいて乾かして欲しかったかもー」

 「まだ下着が濡れてます…、胸当ての下もぐっしょりですよ…」


- もう少し温風あてます?


 「い、いえ、もうすぐそこなので戻って着替えます」

 「しかしどうしてこんなことに…?」

 「リン様の飛行魔法で飛んでて、低くてすごい怖かったよ?」

 「あっ、そうでしたね。それで耐えていたはず…、あ!、気を失ってしまったのですか、私たちは…」


- そうですね、とにかく大岩拠点に行きましょうか。


 「はい」

 「はーい」

 「(小声で)騎士にあるまじき失態を…」

 「メルさん、行きますよー」


 そこから走って大岩拠点に行ったが、カエデさんはともかく俺たちは別にここに用事があるわけじゃないよなーってことで、そこからは俺の飛行魔法で帰った。

 走って帰ることも考えたんだけど、まだ服も乾いてないし、早く帰りたいとネリさんたちが言ったせいでもある。

 おかげで川小屋に戻ったときかなり身体がだるかった。


 いつもなら大したことのない身体強化もだるかったし。強化ONでしがみついてくる誰かさんのせいだけどな!




次話2-74は2018年11月28日(水)の予定です。

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2019年05月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
なるほど。わかりません。
2020年01月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
同じやん。なるほど。やっぱりわかりません。
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