2ー072 ~ ヒヨコの扱い
結局ミドさんの用事はあのヒヨコの件だけだったようだ。
でも時間はあるとのことで、いつものようにテーブルと椅子――この部屋にはそんなものすら無かった――を作ってお茶を用意した。
「儂ら精霊は別にものを食べずとも死ぬことはない。とは言え食べないわけではない。儂は面倒じゃから食べんだけでな。うん。しょっちゅう飲食する光の精霊が特殊なんじゃ。ほう?、これはええ香りじゃ。出されては食べないわけにはいかんな、うんうん」
ミドさんはそうぶつぶつ言いながら、首?、のところだろう毛の中に両手をもぐらせると、がばっと頭部の毛を脱いだ。
え!?、それ被り物だったの!?
脱いだミドさんはオールバックにまとめたこげ茶色の頭髪を後ろで束ねていて、太い眉にしっかりとした眼光を放つ瞳、存在感のある鼻にきちんと刈り揃えられた頬と顎の髭をたくわえた、見かけは壮年の男性だった。とても爺さんには見えない。
でも精霊さんだから実際の年齢はすごいんだろうなぁ、アリシアさんのこと呼び捨てだったし。
背丈はリンちゃんとさほど変わらないが、首は太いし肩と腕はがっちりとした筋肉があるし、イメージ的にはファンタジー作品に登場する鍛治職のドワーフがこんなのだろうと思った。
もっさもさの被り物は、肩から上をすべて包んでいたらしく、脱いだミドさんはオーバーオールの形をしたもさもさの毛皮を着ていた。
なるほど、同じ色のもっさもさだから一体化して見えてたのか。
のんびりお茶タイムになっちゃったけど、ヒヨコは部屋に入れてやらなくていいのかな…?、と少し気になったが、ミドさんもリンちゃんも全く気にした様子がないんだよな…。
ミドさんはリンちゃんが淹れたお茶が気に入った様子で、しきりに褒めていた。
しかしリンちゃんが『茶葉とティーセットを置いておきましょうか』と言ったところまではよかったんだが、湯の温度や時間の説明をすると渋い表情になって『儂には向いておらんようじゃ』と、結局断った。
さっき面倒だから食べないって言ってたっけ。この爺さん、物ぐさなだけじゃないのか?
まぁそれで済むならいいけどさ。
でもお茶とお茶請けに出したクッキーを楽しんでくれたのは確かなようで、いろいろと饒舌に話をしてくれた。
「儂ら大地の精霊は5人しかおらん。その5人でこの世界の大地を維持しておる。といっても儂らが居らねばすぐに世界の大地が崩壊したり、人種が絶滅するわけではない。儂らは百年千年先のためにせっせと魔力を大地のために使っておるというわけじゃよ。うん」
と、仕事とやらの説明をしたかと思えば、
「あのヒヨコめが、儂の顔のところから出て来よって、じゃから修行の一環として復元を命じたら破片がひとつ見つからんなどと仕返しをしよった…、うんうん」
ヒヨコについての話も出た。
「じゃから見つかるまでメシ抜きなんじゃ。うんうん」
- それっていつのことですか?
「はて…?、生まれて間もない頃、儂の助手をしたいと言いよったんで、お前なんぞの未熟者が役に立つかと言ったら、だったら修行つけてくれなどと言ってきよった。うん。じゃから魔力感知や操作の手ほどきはしてやったがな、卵の復元はその一環でもあるんじゃよ。うんうん」
んじゃあのヒヨコ、十数年食事してないってことか…、そりゃ育ちようもないよなぁ。よく生きてるな。ああ、半分精霊だからか。
まぁこの精霊さんも同じように食事してないんだし…。
どう考えてもここに置いておくより連れてったほうがいいよな、あのヒヨコ。いくらなんでも哀れすぎる。でもなぁ、十数年そんな扱いをされてたんだから、うーん、不安要素しかないなぁ…。
しゃべるヒヨコかぁ…、リンちゃんがもうちょっと構ってやってくれそうならいいんだけどね…、ほら、マスコットアニマルっていうんだっけ?、魔法少女ものなどによくあるやつ。あんな感じでリンちゃんの肩や頭の上に乗ってたりすると絵になると思うんだけど…。
とまぁそんな感じで半時間ほどお茶をして、その間ミドさんはよく喋った。
夜半過ぎに来て、あまり長居するのもアレだし、と思ってたけど、この爺さんにはそもそも生活時間というものすら無いんだそうだ。
月の暦、って言ってたけど、それに合わせて担当している各地で大地の活動を活発化させたり、あるいは沈静化したりしているんだそうだ。説明されたがよくわからなかった。
この世界の月というかこの世界のこの惑星の衛星、だな、それは元の世界みたいにでかい月が1つあるというものではなく、十数個の衛星がそれぞれの周期で巡っているようで、それによって複雑に潮の満ち引きだけじゃなく魔力の偏りなどにも関係してくるんだとかなんとか。
それと、この地域では今日から『ティアラ』と呼ばれる衛星が見える時期に入るんだそうで、その衛星の周囲に浮いている岩石群と合わせて、とても美しいので夜空を見るといい、と勧められた。
何でも1年で一周、この惑星を回るんだってさ。そんでその半年の間に、満ち欠けもするのでなかなか見ごたえがあるとかなんとか。
この爺さん外に出ないんじゃなかったのか?、まぁいいけどさ。
●○●○●○●
帰りに同じ経路を通り、ヒヨコを拾って『ツギのダンジョン』に出て、そこから川小屋へと転移したわけなんだが…、やっぱり一悶着あった。
「ミド爺様に言われたのとタケルさまのご許可を頂けたので、行儀よくするならお前を連れて帰ります」
「は、はい!、リン様に従います!、ですが私めはミド様より何も聞かされておりませんが…」
リンちゃんは、どうやって上ったのかわからないがテーブル石の上に乗っていたヒヨコに対して、人差し指を1本立てて念を押すようなポーズで、冷たい視線で見下ろしながら言い聞かせるように言い、ヒヨコはヒヨコでキリッと姿勢を正し……たのか?、ヒヨコの直立不動姿勢なんてわかんないので雰囲気で、たぶんそんな感じかなと。
とにかく姿勢を正してリンちゃんの言葉に返答をした。
ミドさん出てこないんだもんなぁ…、ちょっと出てきて一言いえばいいのにね。
「爺様がお前を粗略に扱うのはお前にも原因があることなのデス。せっかく爺様が名前をつけようとして下さったのを断ったそうじゃないデスか」
「そ、それはできれば産みの親でありますリン様に、」
「あたしはお前を産んだ覚えなんて無いのデス!」
「そ、そんな殺生な…、リン様のおかげで私めはこの世に生を受けることができたのですよ…」
端で見てると何のコントかギャグなんだろうと思えてきて笑ってしまいそうになるが、2人(?)とも大真面目だから笑っちゃダメだ。頑張ってこらえよう。
しかし狼狽する情けない表情のヒヨコって、俺、初めて見たよ…。
ヒヨコにも表情つくれたんだな…、半精霊だからだろうけど。
たぶん本物のヒヨコには表情無い…、よな?
だいたい『産みの親』なんていうから…。きっかけはリンちゃんの魔力なのかもしれないけどさ。そこは誕生の切っ掛けとか、お力を頂いたとか、言いようはあるだろうに。
「黙るのデス!、いきなり親だの子だの言われるのは心外なのデス!、それに最初のタケルさまへの態度!、半精霊ごときが全ての光の精霊からの尊敬を一身に集めるタケルさまに対して不遜にも程があるデス!、タケルさまの偉大さがわからない時点でお前に価値など無いのデス!、爺様に言われたので仕方なく連れて行ってやるのデス!、反論が許されると思うなデスよ!」
「…ぁ……ぅ……」
よく見たら眉毛と睫毛があんのな。だから表情がわかりやすいのか。考えてみりゃ嘴って表情つくれないもんな、目の周りだけでもこんなに表情つくれるもんなんだな…。
おおっと、あまりの非現実さにアニメでも見てるような気分で見続けてたよ。
黒リンの勢いはちょっと怖いけど、ここらで止めないとかわいそうだ。ってかもう泣いてるし。ヒヨコって泣けるのな。
- リンちゃん、もうそのへんで。
「こういうのはしっかり躾けないとダメなのデス、爺様から引き継いだ以上、此奴の責任はあたしにあるのデス。躾がなっていないとあたしの品位が問われるのデスよ?」
ああそうだった、リンちゃんって俺への態度が悪かったり偉そうだったりする者には容赦がなかったなぁ、最初が良くなかったってことか。
思えばリンちゃんだって最初は似たようなもんだった気もするし…、もしかしてアリシアさんとその御付の精霊さんたちにこうやって厳しく躾けられたのかな?、いやまぁこんなこと訊けないけどさ。
とにかく彼…なのか?、彼女なのかわからんが、ヒヨコも反省してるみたいだし。
- もう充分わかったんじゃないかな。それに時間もアレだしさ、帰ろうよ。
「…タケルさまがそう仰るのでしたら…、わかりました、帰りましょう。おい、お前、タケルさまの寛大なお心に感謝するのですよ?、わかったらついてくるのです、いいですか?」
「わ、わかりました…」
「タケルさまに礼を」
「は?、は、はい!、タケル様、ありがとうございます」
右手?、右羽?、を胸元にあててお辞儀をするヒヨコ…。いや、笑っちゃダメだ。耐えろ俺!
- い、いやいいよそんなの。とにかく帰ろうよ。
もう眠いんだよ。夜中に起こされたし、何かいろいろあって精神的に疲れたし。
記憶ではこっちだったよな、とか思いながら歩き出す。
「タケルさま」
- ん?
「こっちですよ?」
あ、そう。同じ経路だと思ったけど少し違ったようだ。
お約束じゃないんだけどなぁ。
そしてダンジョンに出て、扉から少し離れたところまで歩き、そこでいつものようにリンちゃんは俺に抱きつき、ヒヨコにはペンダントを、渡すのではなくヒモを無造作にくるくる巻きつけて転移したわけなんだが、ヒヨコぐらい肩に乗せてやるとか手で持ち上げてやるとかすればいいのにね。
ペンダントの革紐でぐるぐる巻きにされて、情けない表情をしたヒヨコが哀れだった。
川小屋の部屋に転移した直後、リンちゃんはどこかに連絡を取っていたようで、片手をいつもの電話のポーズにしてリンちゃんの部屋のほうに歩いていった。
仕方ないので俺は、床に転がってるヒヨコの革紐を解いてやり、ポーチから手ごろなサイズの籠を取り出してタオルを敷き、そこにヒヨコを乗せ、籠ごと机の上に置いてやった。
涙目で俺のすることをじっと見ているヒヨコ。
手で掬い上げてタオルに乗せてやるときもおとなしかったし。
こうしてるとただのヒヨコ…、は涙目で見つめてきたりしないだろうけど、まぁ可愛い小動物、あ、鳥か、まぁ可愛いもんだ。
魔力感知でふと気づいたが、なぜか皆はリビングのソファーに座っているようなのでちょっと様子を見に行ったら、4人がそれぞれタオルケットをかけてソファーで眠っていた。
え?、なんで?、どういう状況なのこれ?
よくわからんがまぁいいか、まだ夏だし。
そう思って部屋に戻って寝巻きに着替えようとしたら、ベッドに置いてったはずの寝巻きがない。リンちゃんが片付けちゃったのかな?、と考えてしょうがないからポーチから新たに寝巻き用の服を取り出して着替えた。
明かりを消す前に机の上のヒヨコを見たら、おとなしく眠っているようだったので一安心だ。
●○●○●○●
翌朝。
いつものようにリンちゃんに軽く起こされ、朝の鍛錬だ。
それで建設中だった橋が視界に入って、あ、橋の道路ちゃんとしないとなーとか、欄干どんなのにしようかなーとか、ロスタニア側につながる道路のことも考えて明かりの魔道具をロスタニアに用意してもらうようシオリさんに頼まないとなーとか、いろいろ橋と街道の構想をしてたら、『集中してませんね?』とメルさんに注意されてしまった。
そうだよね、剣振りながら考えるこっちゃなかった。
鍛錬のあと、ひとっ風呂浴びて席につき、リンちゃんが用意してくれた朝食を皆で頂いたわけだが、どうも鍛錬中からちらちらと皆それぞれが視線を向けてたんだよね。
あ、そっか今朝は剣の鍛錬で皆あまり喋らなかったから、何か聞きたいこととかがあっても言えなかったのか。
ああそうそう、言ってなかったけど剣の鍛錬をするときは、俺はメルさんに教わってて、ネリさんはサクラさんに教わるので少し離れてやってる。シオリさんはサクラさんのほうで木刀を振ってるよ。
シオリさんは身体強化を覚えてから、そういう体力づくりにいまさらながらやる気をみせるようになったようだ。
魔法の鍛錬のときはそれぞればらばらだったり、組んでみたりとその時々で適当にやってる。俺に質問が来ることもあるし、それで講義みたいになることもある。
だから魔法のときは気軽にいろいろ話しやすいけど、剣のときは雑談をする雰囲気じゃなくなるってわけ。
それで朝食が食卓に並ぶのに間に合うように、順番にお風呂で汗を流して席につくのが日課ってわけ。のんびり浸かる時間は無いけどね。
「タケルさん、昨夜はどこ行ってたんですかぁ?」
朝食後のいつものお茶のとき、ネリさんがきいてきた。
昨夜戻ったとき、ソファーで4人が寝てたんだから、出かけたの気付かれてたよな、やっぱり。
- あ、ちょっとリンちゃんの用事で、大地の精霊さんのところに挨拶に行ったんですよ。
「「「「ええっ!?」」」」
そんな全員で大げさに驚くようなことなのか?、そうなのか。
「だ、だ、だだ…」
「姉さん、落ち着いて」
「大地の精霊様って、存在したのですか…」
- え?
そりゃ居るでしょ、光や水や火の精霊さんだって居るんだし、皆も見てるでしょ?
だから居てもおかしくないって思わない?、のか?
「イアルタン教の経典にはあるのですが、その他の書物には一切記されて無いのです。それで信者以外の人々からは、『大地の精霊は実在しない』などと言われているのです」
あれ?、火の精霊だって存在しないみたいに言われてなかったっけ?
ハルトさんが、声を聞いたって言っても信じてもらえなかったとか言ってたような。
俺がそう考えたのがわかったのだろう、復活したシオリさんがメルさんに代わって続けた。
「大地の精霊様だけではなく、他の宗教や無宗教の人々からは精霊様の存在が疑問視されているのは確かです。
そもそも精霊様はそう簡単に人前にお姿を現される存在ではないのですよ。
日常的に精霊様と過ごされているタケル様が特殊すぎるのです」
うんうんと頷いているネリさん以外の2人。
そう言われるのも理解できなくはないけどね。
でも俺この世界にきてリンちゃんたちに出会ってから、ほぼずっとだし、ウィノアさんだって毎日風呂入れば出てくるしなぁ…。こっちで見た人数で言うと精霊さんのほうが人間より多いんだけど…。
「そんな表情をされるということは、タケル様はひょっとして精霊様のほうが出会った数が多いのですか…?」
「まさかそんな…!?」
- いやいや、まさかそんなことあるわけないでしょう?、多くの兵士さんたちだって見てますし、そんなに多くの精霊さんが存在するなら、その経典にだってそう書かれているのでは?
そりゃだって正直に言えないからね。
「そうですね、愚問でした。忘れてください」
「でもリン様の里には多くの精霊様が住んでるって言ってたよね?」
「「え!?」」
ネリさん…、そこでそんな話を出さないで欲しかった。
「そういえばリン様が何度か『里』と仰っておられたのが気になっていました、タケル様は何かご存知なのですね?」
あー、メルさんまで…。
- あ、いや、リンちゃんから聞いた話だから。
リンちゃんタスケテ…、と対面キッチンのところに居るリンちゃんを見た。
「昨夜はその『里』に?」
「いいえ、『ツギのダンジョン』の奥に大地の精霊ミド様の住処につながる扉があるんです。それがほんの少しの時間だけ開くというので、タケルさまをお連れしたのが昨晩なんです」
「そうだったのですか…」
「連れてってくれてもよかったのにぃ…」
「ミド様はあまり人と会うのを好まれませんし、あたしも直前になって連絡を頂いたので、皆様をお連れすることはできませんでした」
- ミドさんはリンちゃんに用があったようで、僕はただ挨拶しただけでしたよ。それほど時間もありませんでしたし。
「拝謁が叶うだけでも栄誉なことですのよ?」
うんうん、と頷いてるみなさん。
ネリさんも頷いてるけどたぶんキミは違う意味だよね?、まぁそれはいいとして…。
あ、ヒヨコのことすっかり忘れていた。
そいやあれって風の半精霊とか言ってたけど、紹介して大丈夫なんだろうか?
- あ、それで紹介しておいたほうがいいのがいるので、つれてきますね。
と言ってささっと席を立つ。
「ま、まさか精霊様!?」
「どうしましょうこのような普段着で!」
慌ててるのが聞こえたけど、スルーしよう。
そいやヒヨコのご飯のこともすっかり忘れてたなぁ、何食べるんだろう?、虫とか?、貝殻砕いたやつとか?、まぁ喋れるんだから直接きけばいいか。
机のところに行くと、起きてはいたようで籠の中のタオルの上に座ったまま、首を持ち上げて俺が近づくのを見ていた。
- おはよう。まだ名前がないのでヒヨコって呼ぶけど、キミ、何食べるの?
「おはようございます。私めのことを気遣って下さってありがとうございます、ぐすっ、勇者のくせに生意気だとか情けないだとか言って申し訳ありませんでした…」
そんなこと言われたっけ?
- まぁそれはいいから。それで、食事だけど何を用意すればいいのかな?
「私めは半分とはいえほとんど精霊でございますので、食事は不要でございます。実際ミド様のところにご厄介になっておりました折にも何も食べておりませんでした」
んじゃ食べないほうがいいのかな、十数年食べてなくて、急に食べたら体おかしくなったりしそうだし?、いや、精霊だから気にしなくていいのか?、うーん、どうしたもんだろう。
と、一瞬考えていたら続けてヒヨコが言った。
「ですが飲食ができないわけではありません。水を啜ったりはしておりましたので、頂けるのであればありがたく頂戴いたします」
なんだか殊勝な態度だなぁ、最初とは大違いだ。
まぁ、この様子なら皆に紹介しても大丈夫そうだ。
- そっか、んじゃここの皆に紹介するから、その籠ごともってっていいかな?
「はい?、籠ごと、でございますか?、できればその、昨晩のようにタケル様のお手で、だ、抱き上げて頂ければその、あ、ありがたいと存じますが…、あ、ありがとうございますぅ…」
頬を赤らめ…てはないけど、照れたような仕草で控えめに言うもんだからついそおっと両手で包んで持ち上げてやった。すると片側の手にすりすりと寄り添い、消え入るような声でお礼を言った。
何だこの可愛い生き物。
「わぁ♪、おっきいヒヨコ!」
連れてって皆に見せると開口一番、ネリさんが言った。
まぁ一番近いところにいるからね。
それで食卓に乗せ、手を離して紹介する。
- まだ名前は無いんですけど、風の、ってサクラさん?
「な!?、何をする!?、おい!、おろせ!、おろせ!」
いきなりサクラさんがヒヨコをむんずと掴んでひっくり返し、じたばたと暴れ叫んでるヒヨコを無視して言った。
「この子メスですね、少し痩せすぎです、ちゃんと食べさせなくてはいい卵を産めませんよ?」
そう言ってまたテーブルの上に無造作に置いた。
「いきなり何をするんだ!、失礼な!、おい!、お前!、聞いてるのか!」
「わぁ♪、羽をぱたぱたさせて鳴いてますよ!、可愛い♪」
「可愛いですね~」
「羽でサクラを扇ぐような仕草が可愛いですね、ふふふ」
ん?、あまりのことにちょっと理解が追いつかなかったんだが、もしかして皆にはこのヒヨコの声がわからないのか?
一応保護してやるか、なんだかもう昨日からこのヒヨコが哀れすぎて…。
「あっ、タケルさん」
- いやちょっと落ち着きましょうよみんな。ヒヨコも。
そういって両手で包み込んで保護した、涙目になってるヒヨコの頭を親指で撫でてやる。
「タケル様ぁ、こんな辱めを受けたのは生まれて初めてです…、うぅ…」
ああ、そうだろうね。ミドさんやリンちゃんはヒヨコの性別なんて気にしなかったろうし。
よしよし。たぶん言葉通じてないよ。これ。
「わぁ♪、懐いてますねー」
「タケルさんを親だと思ってるのでしょうか…?」
「わ、私めの親は!、あっ、その…、居ないのでした…」
言いかけてリンちゃんにじろっと半眼で睨まれ、言えなかったわけね。
言っても俺とリンちゃん以外には通じないっぽいんだけどなぁ、ほんと哀れだ。
- あのね、これただのヒヨコじゃなくてですね、風の半精霊という珍しい存在だそうですよ。
「風の!?」 「え!?」
「「半精霊!?」」
- それと、皆にはどう聞こえてるか、まぁだいたい想像つきますけど、俺とリンちゃんにはちゃんと喋ってるように聞こえてます。だからサクラさん?
「え?、は、はい」
- あんないきなり掴んで雌雄判別しちゃダメですよ。これでも精霊さんなんですから。失礼だって怒ってましたよ?、さっき。
「え?、あ、あの仕草ってそういう意味だったのですか、ごめんなさい、ピヨちゃん」
「「ピヨちゃん!」」
「ピヨちゃんいいですね!」
「そうね、名前がないみたいですし、ピヨちゃんって呼びましょうか」
おいおい、勝手に決めちゃっていいのか?、当人を無視して。当鳥?、いや鳥じゃないのか、当人でいいか。
- リンちゃん?、この子はリンちゃんに名付け親になって欲しいみたいなこと言ってなかったっけ?
「う…、タケルさまはどうお考えですか?」
んー、そりゃね、半分ぐらいはどうでもいいとか思ってるけどさ、やっぱリンちゃんが切っ掛けで生まれたんだし、何かもう哀れで、ひとつぐらい希望を叶えてやってもいいんじゃないかって思うわけだよ、うんうん。
ああ、また。あのミドさんの『うんうん』っての、伝染るよなぁ…。
- つけてあげたら?
「では『ピヨ』で」
そんな安易な。
「ありがとうございますリン様…!」
え?、それでいいの?
「素敵なお名前を、頂戴…ぐすっ、いたしましたぁ!、生まれて十四年余り、ぐすっ、ようやく念願適ってリン様に、名付けを…うぁぁん、あぁぁん」
俺の両手の上で、蹲って羽で顔を覆うようにして泣き崩れるヒヨコ…。
いい場面なんだけど、絵面がもうなんというか、現実感が無い。
「ねぇこれ、ピヨピヨピーピー聞こえるけど何て言ってるの?」
やっぱり聞こえないのか。しょうがないな、通訳してやるか。
- 生まれて十四年余り、ようやく念願適ってリンちゃんに名前付けてもらえて嬉しいんだってさ。
「え!?、十四年?、この子ずっとヒヨコのままなの?」
皆もびっくりしたように俺を見る。というか俺の手の上のヒヨコを見てるわけだが。
まぁ普通はびっくりするよなぁ。
- 僕も最初は驚いたんだけどね、ミドさんの話では瞬間的にできた空間の隙間に、卵と風の精霊がほぼ同時にはまり込んで、奇跡的に空間の消滅を逃れようと融合したとかなんとかで、かなり珍しい現象らしいよ。それで長いこと卵のままだったのを、リンちゃんが無意識だけど卵に触れて、その魔力で目覚めて孵化したんだってさ。
「健気じゃないですか…、ちょっと感動しました…」
「なるほど…、それでリン様に名付けを…」
メルさんはポケットからハンカチを取り出して目元に当てた。
シオリさんも少しうるうるしてる。
2人は『少し失礼します』とか言って脱衣所へ入って行った。
サクラさんとネリさんはただ感心したような雰囲気。
まぁ俺もだけど、あれだね、感動物語とかが周囲に溢れ返ってる現代人との差ってやつだねこれ。この世界だとそういう物語などと出会う機会って少ないだろうし。
え?、年いくと涙腺が?、ってそんなこと絶対言えないって。
「へー、ピヨちゃん苦労してきたんだねー」
と、ネリさんがヒヨコに手を伸ばし、指先で撫でようとしたが、それにびくっと反応して俺の手の上でそれを羽で叩き落すかのようにした。
「おい!、気安く触れるな!」
「えー、なんでー?」
「嫌がってるんだから」
「あたしもモフモフしたいのにー」
「何だその手つきは!、レディにする手つきじゃないぞ!?」
「これでも女の子なんだから」
これ、言葉が通じてるようだけど、通じてないんだよな。
「あ、だからタケルさんに懐いてるのかー」
違うからね?
- そういえばよく雌雄判別なんてできましたね。難しいんでしょ?、ヒヨコって。
「ああ、私は道場に通っていたテキ屋のおじちゃんからヒヨコの雌雄判別方法を教わっていたから…」
「てきやって?」
「縁日やお祭りなどで露店を商うひとたちのことだ。ネリは見たことないか?、カラーヒヨコの露店」
「カラーヒヨコ?」
あー、俺やネリさんの時代はもう日本では売られてないからなぁ、海外ではまだあったりするそうだが。
「ああ。ヒヨコのオスに黄色以外の色をつけて愛玩用に売られていたんだ。でもたまにメスが混じっていたりするので、色をつける前にメスはよけて、ある程度育ったら農家などに売るらしい」
「へー…」
「うちの道場でも飼ってたぞ、ニワトリ。小さい頃の私がヒヨコに喜んだからか、そのテキ屋のひとがしょっちゅう元気なのを選んで持ってきてくれたせいで、やたら増えて困ったこともあったぐらいだ。まぁ卵や鶏肉に不自由はしなかったらしいがな…」
その当時いろいろ経験したんだろう、サクラさんは苦笑いを交えて言った。
「しかし十四年もヒヨコのままとは驚きです…」
サクラさんはまじまじとヒヨコを覗き込む。
「ひぃぃ!、た、タケル様!、は、離れて!、離れてください!」
しょうがないので一歩下がって守ってやる。
「あはは、すっかり怖がられてしまったようだ」
「サクラさんがあんなことするからですよー」
「この世界のヒヨコと同じぐらいの大きさだから、普通のヒヨコかと思ってしまったんだ」
- リンちゃん、何でこのヒヨコの言葉が俺とリンちゃんには伝わってるのかわかる?
「ぴ、ピヨの言葉には魔力が乗っているので…、そうですね、アリシア様やウィノアの言葉が音声ではないのと同じ原理なのですが…、何分ピヨはまだ拙く魔力も弱いので、ある程度魔力感知ができなければ伝わらないのでしょう」
なるほど、そういうことか。
それでピヨピヨ聞こえてるのは聞こえてるんだけど、意味もわかると。
- 俺やリンちゃんの声がこの子に伝わってるのは?
「それは、大変不本意ですがあたしの魔力の影響を受けて生まれた存在ですので、あたしの言葉にも多少は魔力が乗っていますから、そのせいですね。タケルさまは無意識にやっておいでですが、本来これはとても難しい技術なんですよ?」
え!?、俺そんなことやってたんだ。
まさかウィノアさんが勝手に魔力乗っけてたりは……しないようだ。
胸元を首飾りにぺちぺち叩かれちゃったよ。
おかしいな、声に出したつもりはないんだが、はっ!?、もしかして俺が思ってることが周囲につたわってるんじゃないかって疑いたくなるようなことが時々あるのって、このせいか!?、うわー、無意識ってことならダダ漏れじゃんか!
ここでリンちゃんをじろっと見る。
あ!、ぷいっと横向いた!、ちくしょー伝わってんじゃん!、なんだよもう!、もっと早く言ってくれよー、結構恥ずかしいこと考えてたかも知れないのに!
「ってことは、魔力感知や操作の技術が上がれば、ピヨちゃんとお話ができるのですね!」
脱衣所に行ってたメルさんとシオリさんが戻ってきた。
「あの、タケル様、先ほどのお話ですが『半精霊』というのはどういう存在なのですか?」
俺に訊くなよと言いたいが、目線でリンちゃんにパスした。
リンちゃんは、仕方ないですねとでも言いたそうな表情を一瞬だけしてから答えた。
「我々光の精霊は永い時をかけて実体化し定着した精霊種です。大地の精霊もそうですね。ところがそれ以外の、水は少し特殊なのでおいておくとして、風や火の精霊は何か媒体がなければ実体化できません。それらが実体化するのに必要なのは濃密な魔力であったり生物であったりします」
ここで一旦きって、まだ俺の手に乗ってるヒヨコを指差した。
「それの場合は、ヒヨコとして生まれる寸前であった生命と、意識が生じるところだった風の精霊、双方が無垢な存在であったことと、いずれもがまさに生まれようとしていた時だったからこそ融合することができた非常に稀なケースです。よって半精霊となりました」
ふむふむ。まぁそこはミドさんの説明もあったし、仕組みは理解できなくとも何となくわかる。
そうして頷く俺たちを見てリンちゃんは話を続ける。
「半精霊というのは通常、生まれたとしても定着しにくくとても短命なのですが、大地の精霊ミド様の濃密な魔力、この場合は彼が物体を保存や保全する仕事部屋に、長く卵の状態で置かれていたため、定着し安定状態になったと考えられます。そこにあたしが不用意に魔力を注ぎ込んだため、孵化へと至ったということになります」
なるほど。だいたいミドさんのせいだな。うん。
「それゆえ、その者、ぴ、ピヨはもともとの風属性と光属性に強い親和性がありますので、ミド様に手ほどきを受けてこうしてあたしやタケルさまとの会話が可能なのです」
「なるほど、特別な存在だということはよくわかりましたが…、風の精霊様なのですか?、このヒヨ…、ピヨちゃんは」
ああそうか、イアルタン教の名誉司教としては、この子をどういう位置付けで見ればいいのかが分からないのか。半分は精霊だけど見かけはヒヨコだし、経典に半精霊なんて記載が無いんだろうし、大きな力を持っているわけでもなさそうだしなぁ…。
「そうだぞ!、風のせ…、すみません黙ります…」
リンちゃんに睨まれて黙るヒヨコ。
「人種が風の精霊に対してどのように考えているかは存じませんが、こうしてニワトリの雛の体を持ってしまった以上、風の精霊とは言えません。かと言ってニワトリでもありません。十四年以上ほとんど飲食せずに存在し続けていられたのはミド様の拠点に居たからですが、精霊種でもあるからです。便宜上『半精霊』と呼んでいますが、厳密には精霊ではないので宗教的にはどう解釈されても構いませんよ?」
うわー、冷たい言い方だなぁ…。
まぁそもそも精霊さんたちって人間の宗教がどうとか気にしないよな。
でもこれ、暗に『我々精霊と同列に扱うのは不愉快だ』って言ってるよね?
説明を聞けば聞くほど哀れな存在な気がしてきた。
精霊的なものだけど精霊じゃない。ニワトリでもない。
そして、精霊種でもあるし、ニワトリでもある。わけがわからんな。
何か居心地悪そうに俺の手に体を摺り寄せてるヒヨコが、モフモフして手触りがいいのもあって、親指で優しく撫でておいた。よしよし。かわいそうになぁ。よしよし。
「タケル様ぁ…」
「あ!、いつまでタケルさまに甘えているのデスか!、タケルさまもタケルさまデス!、あまり甘やかさないでくださいデスよ!、こ、ピヨはこれからびしびし鍛えてやらねばならないのデス!」
リンちゃんはそう言いながら俺の手からヒヨコをむんずと掴み取ると、俺の部屋に入って行った。
「あっ、モフモフが行ってしまった…」
「私もピヨちゃんと触れあいたかったのに…」
ネリさんとメルさんが残念そうにそれを見送っていた。
「…半精霊…、どうすれば…」
シオリさんはまだ悩んでいる様子で、サクラさんはそのシオリさんに何と声をかければいいのかわからなくなってるのか、不安げに見ていた。
●○●○●○●
それから俺のほうはというと、橋の仕上げついでにリンちゃんから借りたほうの杖を試してみたりした。
それがさー、ちょっと用を足してトイレから出たら、リビングにはシオリさんとサクラさんが居たんだけど、シオリさんはでかい経典を広げてテーブルを占領しちゃってて、サクラさんも聖書みたいな本を片手に真剣な表情で議論…、ってほど激しいわけじゃないけど、話し合ってるわけよ。
最初、何の話だろうと思ったらさっきの、イアルタン教として半精霊という存在をどういう位置付けにするかという話だった。
一瞬、『リンちゃんがさっき言ってたし、ウィノアさんに訊いてみます?』と提案しそうになり、口を開きかけて思い直して止めた。危ないところだった。
まず、宗教には関わりたくない。
次に、ウィノアさんが出てきたらまた面倒なことになる。そりゃもう確実に。ここでまた首飾りが胸元をぺちぺち叩いてたけど。
最後に、尋ねたところでどうせ答えなんてリンちゃんたちと大差ないだろうってこと。
考えるまでもない短時間に理由が3つも浮かぶぐらいなんだから、関わらないほうがいいと判断したってわけ。
幸い、2人は俺が何か言いかけてやめたことには気づく様子もなく、そりゃ口を開く前にやめたんだから気付かれたら困るんだけど、ああ、でも俺って思ってることが覚られやすいんだっけ、それを思えばヤバかったかもしれん。
それでリビングにはひじょーに居辛いので外に出たんだが、リンちゃんがヒヨコの障害物付きランニングコースを作って走らせてた。もう何の冗談なんだろうって思ったよ…。
そしてそれを観て応援してるメルさんとネリさん。
ヒヨコは後方から迫り来る球体や、コースに仕掛けられてる罠などにハマりながらもう必死で走ってて、『死ぬ!、死にます!』とか、『無理です!、ひぃぃ!、許してくださいリン様!』とか叫んでるんだけど、たぶん応援してる2人にはピヨピヨ言ってるだけにしか聞こえてないんだろうね、『かわいい♪』とか『がんばれ~』とか笑顔で応援してた。
余談だけど、ただの障害物走じゃなくて、ヒヨコはちゃんと身体強化してるし罠を魔法攻撃したりもしてる。リンちゃんはヒヨコの前方、コース上に新たに罠を仕掛けて行ってるという、なかなか手間のかかる魔力操作合戦をやってるってわけ。
見た目にはヒヨコの障害物走なんだけどね。
あんなので鍛えられるのか?、よくわからん。
2人ともあれぐらいならもう魔力感知できてるはずなんだけど、それをわかっててかわいいとか声援送ってんのかな…?、いや、考えないようにしよう。
だいたい女の子たちがかわいいとかで盛り上がってるところを邪魔するとろくなことがないんだからさ、近寄らないに限る。(※ 個人の意見です)
そういうわけでそれぞれの邪魔をしないようにそーっと離れて、橋の仕上げをしに来たってわけ。
橋はもう土台はあるしアーチもできてるので、あとは道路部分と欄干をつくるだけだったが、利用できる素材が少ないので橋自体の長さの分かなり魔力を消費した気がする。
なので変に凝ったデザインにはせず無難な形だ。土台のある位置には明かりの魔道具を取り付けられるように柱を立ててある。
杖だけど、これらの作業をするのにリンちゃんから借りたほうの杖を使ってる。
土木作業をするなら、こっちのほうが『裁きの杖』よりも魔力の通りがいいので効率がよくなるようだ。
石突部分の形状が違うので『サンダースピア』との合体はできないけど、属性の偏りが少なくバランスのいい使いやすい杖、ということだろう。汎用的、とでも言えばいいのかもしれない。
以前、精霊の里で魔法店に寄ったとき、杖には必ずその素材のクセが出ますって話があったけど、そういう『クセ』をできるだけ抑えるように作られているんだろうね。
もちろん、魔力の負荷をかけていくとそのバランスも崩れていく。あくまで通常使用の範囲で使いやすく調整されているという感じがした。
え?、いやほら、射程も延びるんでその範囲いっぺんにやっちまえって土魔法で道路の下地をぶわっと作ったら急に制御が難しくなったんでびっくりしたってわけ。ためしに『裁きの杖』でもやってみたら、こっちは最初からピーキーにできてるので逆にわかりやすいんだよ。
それで分かったんだけど、リンちゃんから借りたほうは、そのピーキーさが急に表われるんだけど、ピーキー加減が同じなんだ。
だから何となく、同じ人が作ったか同じ系統の設計なんだなーって、それで『裁きの杖』のほうが試作品っていうか先に作られて、リンちゃんから借りたほうは量産品または汎用品なんじゃないか、とも思ったんだ。
だからどうってことは無いんだけどね、『サンダースピア』と合体せずに使うなら、リンちゃんから借りたほうでも問題ないなってこと。クセはだいたい掴んだからね。
合体して使うことなんてたぶん無いしさ。あんな超魔法になりそうなもん、どうしろってんだよ。
ということなら、シオリさんに『裁きの杖』を返してもよさそうだ。むしろ一緒にダンジョンに行くなら是非シオリさんにも杖を持っていてもらいたい。使うかどうかは別として、慣れてる杖を持っていたほうが彼女としても安心だろうし、広範囲雷撃の出番は無いはず――長い詠唱するヒマがあるなら撤退するほうを選ぶから――だが、通常の攻撃魔法を使うにも効率や射程の面で有利になるだろうからね。
でも中央東8ダンジョンは、まだシオリさんを連れて行かないつもり。
それには別の理由もあって、皆で行くとなるとあのヒヨコはどうするんだってことになるわけで、ひとりで留守番させておいても問題ないだろうけど、サクラさん含めて2人と1羽?…で残って親睦を深めてくれたらいいな…ってね。
ネリさんやメルさんはかわいいとかモフりたいとかで過度に構いそうだけど、シオリさんならそんなことはないだろうからね。
ヒヨコ扱いに慣れすぎてるサクラさんはそっちの面で心配だけど、もう普通のヒヨコじゃないってわかってくれてるだろうし、大丈夫だろう。
あ、そろそろ俺もちゃんと、ヒヨコじゃなく『ピヨ』とか『ピヨちゃん』って言わなくちゃね。
どうもあの物言いとその名前がしっくりこないんだが…、まぁ、そのうち慣れるか。
今日は本当なら杖のテストも終わったんだし、中央東8ダンジョンの処理を進めたかったんだよね。橋の仕上げに結構魔力使っちゃったけど、午後から行ってもいいかなって思ってる。
ハムラーデルの兵士さんに現場の様子を聞いておきたいし、もし何か問題とかまずいことになってたら…って気がかりでもあるからね。
そのためには大岩拠点に寄って、カエデさんを連れて行くことになるだろうし、そうするとリンちゃんは最低でも一緒にいてくれたほうがいい。
ネリさんとメルさんは…、連れてけって言うんだろうなぁ、やっぱり。そうするとまた身体強化ON状態でしがみつかれるのか…、まぁ訓練だと思って覚悟しておけばいいか。
次もONだったら諦めよう。
さて、そろそろ昼食の準備を…、うん、まだやってるなぁ…。しょうがない、昼食は俺が用意しようか。何にしようかな…?
次話2-73は2018年11月21日(水)の予定です。
20181118:なんとなく訂正。
(訂正前)ヒモを無造作にくるくる巻きつけてから、転移したわけなんだが、
(訂正後)渡すのではなくヒモを無造作にくるくる巻きつけて転移したわけなんだが、
発言中に、大地の精霊「様」が抜けていたので訂正。
20200519:役職訂正。 名誉司祭 ⇒ 名誉司教