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2ー069 ~ 裁きの杖と魔力属性の適性

 サクラさんは川小屋でテキストを見ながら書き込んだりしてたようだけど、他はどこにいるんだろう?、って思ったら裏で水属性魔法の鍛錬をやってるようだ。

 何で裏で?、河原だからか?、あ、洗濯終わってそのまま?、まぁいいか。


 リンちゃんは居ないっぽいな、何か最近忙しそうだなぁ、何やってるんだろう?

 『スパイダー』の改良がどうとか言ってたような気がしたけど。


 ウィノアさんはいつの間にか消えていた。まぁあの精霊さん(ひと)は神出鬼没だからいいか。


 とりあえずシオリさんが起きるまでに、少し『裁きの杖(ジャッジメントケーン)』の予習でもしておくか…。

 川小屋の前に設置されてるテーブルのところまで来て座り、ポーチから『裁きの杖(ジャッジメントケーン)』を取り出してテーブルに置いた。






 『裁きの杖(ジャッジメントケーン)』。

 全長2mぐらいか。大半が木製っぽく見える。木目が見当たらないけど、年季の入った柱や階段の手すりのような手触りだ。

 『(ケーン)』と呼ばれるだけあって、『?』の字のように上部が太く曲がっていて、1辺が目測で5cmぐらいかな、薄くオレンジ色っぽい8面体の宝玉があり、銀色の金属で周囲から中心部にしっかりと支えられている。

 全体的に見ると上部と下部が太くなっていて、真ん中あたりを持ったとき、バランスが取れている感じがする。

 下部は石突きと言っていいのかわからないけど、地面に当たる部分から50cmほどは金属のような鈍い光沢のある素材になっていて、3本のスリットがある。底面からみると三角形の穴とスリットが見える。スリットは三角形の辺の中心部にあいていた。


 うーん、打撃武器じゃないよなぁ、取り回しがしやすいようにってわけじゃないだろうし、何か理由がありそうだ。


 手に持ち上げた感じでは、しなりもせず丈夫な印象がある。そこそこ重量感もあるし。

 なんていうか、見た目の印象通りの重さ?、重すぎず軽すぎない。そんな感じ。


 魔力を少し通してみると素直に流れていく。宝玉にすーっと集められていくような。

 少し魔力を篭めてみても、ゆるめても、抵抗もなく流れていく。


 これ、属性配分がわからないな…。3属性をどういう配分にすればいいんだろう?

 『サンダースピア』の場合だと、2属性の配分は槍が教えてくれたというか、流れやすい配分が2パターンあって、必要な配分がわかりやすいようになってたっけ。あとはそこからの派生なわけで。


 試しにひとつずつ流してみるか?、まず火属性を、ゆっくりと。


 すると宝玉の色がじわじわと赤くなってきた。


 お?、もしかして?、と思って水属性に切り替えてみると…。


 じわじわと青みがまざってくるじゃないか。

 結果的に何色にすればいいのかわからないけど、何となく白になればいいような気がする。


 そうなるように宝玉を見ながら属性配分の調整をしてみる。


 なんかじっと見てたら目がおかしくなってきた。

 ほら、太陽を見たら真ん中に残像が残るみたいなアレ。

 それとか、昼間に目を閉じたらまぶたが透けて赤く見えて、目を開けた瞬間色がよくわからなくなるアレ。


 少し目を閉じて魔力を流すのをやめる。


 目が回復する間に整理しよう。

  ・流す魔力の属性配分に関わりなく素直に流れる。

  ・魔力は宝玉に流れ込んでいく。

  ・宝玉に貯められている魔力に偏りがあると色がかわる。

  ・たぶん白色にすると最低限の発動条件が整うんじゃないかと思われる。

  ・最初はオレンジ色だった。


 ん?、オレンジ色?

 うろ覚えだけど、三原色の表でいうとオレンジって赤と緑の間の黄色と、赤の間だっけ。

 属性で色が変わって、火属性が赤で、水属性が青。んじゃ風と土は何色だ?

 光属性ってのもあるけどまぁそれは置いとこう。


 風と土を試してみるか…。

 と思って目をあけたら、宝玉の色は最初に見たオレンジ色になっていた。

 あれ?、どういうことだこれ。


 宝玉の部分を魔力感知でよく観察してみたけど、そこに魔力を吸収する物体があるということしかわからなかった。


 土属性の魔力を少し流してみたけど、それも抵抗がない。すぅっと入っていく。

 あれ?、持ったときには適性が火水風の3属性だってことは共鳴でわかったはずなのに。

 抵抗があると思ってたんだけどなぁ…、おかしいな…。これはなかなか難物だなぁ…。






 「どうですか?、タケル様。何かわかりまして?」


 そうやって試行錯誤しているとシオリさんが川小屋からでてきたようだ。

 サクラさんも一緒にいる。


- あ、もう大丈夫なんですか?


 「またお手数をかけてしまいまして、申し訳ありませんでした、もう大丈夫です」


- やっぱりまだ飛ぶのには慣れませんか…。


 「……そうですね、移動時間が短縮できる利点は、頭では理解しているのですが…」


 だから橋かけて欲しかったのかも知れないね。

 ネリさんや俺みたいに、飛行機が普通に存在してて乗ったこともあり、テレビなどでは空からの映像なんかが多くあるような世代ならね…。

 でもシオリさんは違うだろうし、飛行機を知らないわけじゃないだろうけど、そもそも乗り物自体がゆっくりとした速度だろうし、こっちの世界でも馬車ぐらいだったわけだからね。


- それに、ウィノアさんが一緒だったせいもあるんでしょうね。


 「いえっ!、それは全く!、全然!、大丈夫です!」


 全否定してるけど、それが逆に肯定になってると思う。

 胸元で首飾りがぽこぽこ叩いてるけど無視無視。


 だって気を失うまで行ったのは、ウィノアさんが居るせいで宗教的緊張と高揚感のせいだよね?、飛行するときの加速とかそういうのだけではシオリさんはもう失神したりしなくなってたんだしさ。


- そうですか。ところでこの杖ですが、なかなか一筋縄ではいかない難物ですね。まだここの宝玉を白くすればいいのかな、というのを何となく感じた程度でしかないです。


 「え?、白くするのですか?」


- え?、そうじゃないんですか?


 まるで初耳だと言わんばかりの驚きようだ。そういう言い伝えとか無いのか…。


 「あ、いえ、宝玉の色を気にしたことはなかったので…、あ!、色が変化するのは普通のことでしたの。それで、特に気にしていなかったというだけで…」


 ふーむ。


- 普段、これを使うときは、あの広範囲攻撃魔法のときだけですか?


 「はい。伝えられている詠唱をして、その間に重点攻撃対象を強く念じていって、最後に目標中心地点に向けて詠唱を終えると発動します」


- なるほど。ちょっとあっちに向けてやってみてもらえます?


 「え!?、いえそれはあの…!、……あちらの地面が凄いことになりますが、よろしいのですか…?」


 あー、確かにすごいことになってたなぁ、ロスタニア防衛地の前の地面。

 こっち側はあまり耕して欲しくないなー、ただの草原だけどさ。今日は風向きがね。


 ハムラーデル側の橋を渡ってちょっと歩いたぐらいの場所なら耕しても問題ないか。

 重点攻撃対象ってのと、目標中心地ってのにでかい的でも作ればいいか。


- そうですねー…、んじゃこっちの橋を渡って少し歩いたところでお願いします。的があったほうがいいんですよね、それも作ります。


 「……わかりました」


 ということで、3人でとことこ歩いて橋を渡ってから、俺だけ走って土魔法で的を用意してると、橋の中央部分にメルさんとネリさんが来ていた。見学かな。確かに橋の中央部は高く作ってあるし、あの位置からのほうが見やすいかもしれないね。


 シオリさんが的を見やすいように、朝礼台ぐらいの石舞台を作って、その上に立ってもらった。


 「あ、あの…、的が多すぎるのですが…」


 周囲の石ころとかも利用して200個ほど作ったんだけど、多かったらしい。


- そこらへんは適当でいいですよ?、全部狙わなくても構いませんので。


 「そうですか、よかった…」


 だって重点(じゅうてん)攻撃対象だし。たぶん小集団の先頭か中心かを狙うんじゃないのかな。ザコの敵全部を個別に狙うことはしないだろうと思って、小さい土柱と中ぐらいの土柱を立てて、中心部分は高い土柱にしておいたんだよ。今までそんな感じで魔物の集団を狙って撃ってたっぽいしさ。


 そしてシオリさんが詠唱を始めた。


 最初は小さく、そして徐々に杖に流れていく魔力が増えて行く。土属性の魔力以外が。

 配分をよく観察してみると、火属性もあまり多くないようだ。

 『サンダースピア』もそうだけど、必要とされる魔力属性は相互干渉が起きていても問題無いようだ。そのへんが単一の属性魔法と違うところだね。


 そして詠唱の序盤が終わったのか、そのまま詠唱しつつ目標を視線で設定していくかのごとく、見回しているようだ。

 それにつれて宝玉が光を増していき、扇形に魔力の光で照らすように前方に広がった。


 詠唱が長い。俺はもう覚えるのを諦めて魔力操作を観察することに集中していた。


 「……に従い敵を滅ぼすものなり!、天罰(ジャッジメント)!!」


 え!?、そこだけ横文字うわっ!!!






●○●○●○●






 300m先を中心点として、その周囲100m、こちらから見て扇形に広がった地域に、大小同時に落雷。

 凄まじい音と爆風だった。


 咄嗟(とっさ)に障壁を、シオリさんの前あたりと、俺とサクラさんの前あたりに張ったんだけど、土柱の破片が結構飛んできて、障壁がなかったら危なかった。

 ロスタニアの兵士さんたちは盾で防いでたのかなぁ…。


 落雷、と言っても上空から落ちるものではなく、杖から広がった扇形の魔力光ぐらいの高度からの落雷だった。そのぐらいの高さに(もや)のような塊が発生した瞬間、そこからそれぞれの目標に向けて雷撃が落ちたわけで、厳密には落雷とは違うなと思った。


 なるほど広範囲雷撃だ。


 攻撃発生の瞬間、宝玉の色は白く見えたが若干薄緑色っぽい気がした。






 とにかく土埃(つちぼこり)がすごいので障壁はまだ張ったままだけど、今のうちに自分を含めてシオリさんとサクラさんに回復魔法をかけて、耳がおかしいのを治しておく。


 「あ、ありがとうございます」


 軽く頷く。後ろのほう、橋の上にいる2人も回復魔法で耳を治したようだ。

 あんなところに居ても耳がおかしくなったのか。


 シオリさんは朝礼台っぽい台の上から階段をゆっくり降りて、こっちに歩いてきた。

 あ、手すりつければよかったかな、あの朝礼台の階段。


 消耗が激しいんだろう、疲れた表情をしていたので椅子を作って(すす)め、座ってもらった。


 「本当にこれをダンジョン内で使われるのですか?」


- そのつもりです。できるだけ安全に処理したいんですよ。


 「そうですか…、タケル様のご判断にお任せしますが……、詠唱、書き出しましょうか?」


- いえ、大丈夫です、その必要はありません。


 「え!?、まさかあれだけで覚えてしまわれたのですか!?」


 あ、言い方がよくなかった。


- すみません、そういう意味ではなくて、魔力の流れは把握したので詠唱が必要ないという意味なんです。


 あんな古い言い回しっぽい文言で、部分部分は聞き取れたけど、よくわからない単語だらけの長い詠唱なんて何度聞いても覚えられる自信がない。覚えても流暢に唱えられないって。


 「……は?」


 ああ、そうだろうね。何を言ってるんだコイツは、みたいな目で見られてしまった。

 とにかく手を差し出して、杖を渡してもらった。


 宝玉の色はデフォルトなのかオレンジ色に戻っていた。


 覚えた魔力の流れを忘れないうちに、少し加減して練習しておこう。

 そう思って、土埃の収まった、土柱を立ててあったほうを向いて、魔力を篭めていった。


 「え!?、タケルさんまさか!」


 シオリさんの横に立っていたサクラさんが叫んだ。


 そのまさかです。


 中心地点に()()雷が落ちた。






●○●○●○●






 「どういうことですの!?、し、しかも無詠唱って何ですか!」

 「まぁまぁ姉さん…」


 問い詰め口調のシオリさんを抑えるサクラさん。ありがたい。


 「タケルさんだし…」

 「『サンダースピア』の時もそうでした…」

 「へー、そうだったんだ?、そういえばハルトさんの『フレイムソード』ん時もー…」

 「あー、精霊様が出てきて大変でしたね」

 「うんうん」


 すぐ近くまで来ていたメルさんとネリさんが微笑んで喋っている。

 内容がこれじゃなければ美少女2人が笑みを浮かべて話すという、実に絵になる映像なんだけどね。

 そんな2人の会話を聞いて、益々呆れた様子で俺を見るシオリさん。


 「『の時も』…?」


 と小声で言ってるのが聞こえたけど、今は俺ちょっとこの杖の扱い方についてとっかかりができたところだから、集中したいわけであまり相手をしてる余裕がない。


 といいつつ周囲を見てるじゃないか、って言われそうだけど、魔力感知の目で杖に集中してるから周囲ぐらいは見えてしまうんだよ。


 シオリさんは薄緑色がかっていても発動したのは、詠唱のおかげだろうということがわかった。

 俺のは白色だったからね。やっぱり色を白にするのが肝心だったようだ。


 いや、そうじゃないな。


 あのように扇形の範囲で使うときには白色が基準なんだ。詠唱の補助がある場合には多少色づいていても発動するようだ。


 集中して読み解いていくと、多様な使い方があることがだんだんとわかってきた。

 何せ3属性も適応を要求するほどのモノなんだ。単純に考えて、組み合わせだけでも単一属性・2属性・3属性と7通りになるし、それぞれ強弱の組み合わせを入れると倍以上になるはず。

 それら全てに杖が応えてくれるかどうかは別だけれども。


 「……あの、」

 「タケルさん凄く繊細な操作してる…、たぶん」

 「ネリ様もかなり感知できるようになったのですね、私にも感じ取れるのは半分ほどですが、なるほど、ああやって対話するのですか…、とても勉強になります」


 シオリさんが何か言いかけたが、ネリさんとメルさんが言ったことで黙って俺を見つめているのがわかった。






 しばらくそうしていたが、どうやらお昼近くになっていたようだ。


 「タケル様、みなさん、お昼の用意ができましたよ?」


 リンちゃんが呼びに来たので気付いて後ろを見たら、いつの間にか皆は椅子とテーブルを作って座っていた。

 すっかり俺達のやり方に慣れてしまったんだろうか。いいことだ。


- あ、すみません、つい集中してしまっていたようで…。


 「構いませんよ、タケルさんが『裁きの杖(ジャッジメントケーン)』を使えることがわかりましたし、中央東8の4層を攻略する方法ができたということですから」

 「そうですね、本来なら私がしなくてはならないところを…、タケル様にご負担をお掛けすることになるようで心苦しいです」


 あれ?、シオリさんの態度がまた何だか変わったような。

 俺が集中してる間に何かあったのかな?


 「タケルさんだもん大丈夫大丈夫。それよりお腹すいたよー」


 と言ってたたたっと駆け出すネリさん。それを追うメルさん。

 顔を見合わせて立ち上がり、歩いて戻るサクラさんとシオリさん。


 俺の近くまできてにこにこして見上げているリンちゃん。可愛い。頭なでとこう。


 「それが『裁きの杖(ジャッジメントケーン)』ですか……」


 リンちゃんが俺の手にある杖をじっと見て、何か含みのある言い方をした。


- 知ってるの?


 「いえ、里の近衛の者が持っている杖に似ているもので」


- へー、そりゃそうか、光の精霊さんならありそうだ…。


 「あ、完全に同じじゃないですよ?、彼らの持っているのはもう少し短かった気がしますし」


 光の精霊さんだもんな、軍隊あるって言ってたし、剣や杖だってこういう魔道具であっても不思議じゃない。


- ふぅん…、よかったらその話もきいておいてくれるかな?


 「はい、わかりました」


- 何かここんとこリンちゃん忙しいみたいだから、覚えてたらでいいよ?


 「え?、だ、大丈夫ですよ、よゆーです!」


 と、胸元で両手を拳にして揺らしてる。


- そっか。んじゃ、僕らも戻ろうか。


 「はい!」






●○●○●○●






 昼食のあと、メルさんから質問があった。


 「タケル様、今朝のお話で属性配分を意識して訓練するように言われましたが、無意識に魔力を使った場合の配分というのは、個人の魔力適性に関係していますか?」


 そう言えば今朝、『適性についてはあとで』って言っちゃったっけ。

 他の面々を見回すと、どうやらメルさんが代表して質問したように感じた。


 俺が杖と向き合ってる時間、結構長かったからなー、その間にテーブルと椅子つくっていろいろ話し合ってたんだろう。


- はい。関係します。というよりほぼそれが適性と言っても過言じゃないと思います。


 「であれば、適性というのは当人のクセのようなものでしょうか。ならばそれほど大きな差ではないように思えますが…」

 「でもさっき話したけど、あたしが『フレイムソード』に魔力を篭めたときに火の精霊様が出たけど、ハルトさんだと出ないんですよ?、差がないなら誰でも出るはずじゃないですか?」


 ああ、そゆことか。そこが気になると。

 でもそんなのはそれこそ精霊さんに訊いて欲しいんだけどなぁ…。

 まぁ相手があの火の精霊さんたちじゃあ、答えてくれるかわからないけどさ。


- 火の精霊さんが出るかどうかはちょっと置いておいて下さい。たぶん好みやきまぐれの要素が大きいと思いますので。


 そう言うと、納得したようなしてないような微妙な表情。わからんでもないけどね。


- あまり複雑に考えなくてもたぶん感覚的にわかってることだと思いますよ。

 適性のある属性魔法については、適性のない属性よりも覚えやすいし魔力操作もしやすいと感じたことがあるんじゃないでしょうか?


 「それが個人の好みやクセというものではないのですか?」


- はい。それが適性だと考えていいと思います。

 意識して属性魔力を操作したり感知したりが、しやすいかしづらいか。

 それは自分の魔力がどの属性に偏りやすいかということですから。


 「それで『サンダースピア』を見つけたときに共鳴したように感じたのですね…」


 得心がいったような表情で頷くメルさんに、軽く頷いた。


- はい、自然にしている状態でも多少の魔力が漏れているんですが、その配分に偏りがある場合、属性を持った品物と響き合うんじゃないでしょうか。


 「あ、魔力感知でもそれがわかるようになると、個人の特定がしやすくなる…?」


 ああ、サクラさんはまだ魔力感知で個人の判別ができなくて詰まってたんだっけ。


- はい、そうですね。


 「だったらそれで個人の適性がわかるんじゃない!?」


 おおう、立ち上がってまで声を大にして言うことなのかそれ?

 ネリさんはよほど適性がどうのって気にしてたらしい。


- そう、かも知れませんけど…、そんな魔道具ないですよ?


 「え?、無いのぉ…?」


 前も言ったと思うんだけどなぁ…。


 「あの…、あるにはあるんですが……」

 「あるんですか!?、リン様!」


 全員がざわっと一斉にリンちゃんを見た。

 でも言いづらそうにしてる。うん。わかるよ。


 だってさ、偏りがあることを検知して表示する魔道具があるとする。

 それが簡単であれば簡単なほど、得意属性や苦手属性を意識してしまうだろう。

 それに、光の精霊さんの里では、魔力は個人識別IDのように使われていたりするものだ。

 もしかしたらあまり個人の魔力を分析したりはしない習慣になっていてもおかしくはないだろう。


 前にちょっとリンちゃんに適性判別ができるような魔道具ない?、って尋ねてたんだよね。

 そんときに、『昔はあった』って言ってたんで、何となくそんな事じゃないかと思ってたわけ。


 何となく許可を求めるような視線で俺を見るリンちゃん。まぁ頷いておこう。


 「簡単な仕組みのものですが、4属性に(かたよ)りがあればそれを表示する魔道具です」


 と言いながらエプロンのポケットから取り出したそれは、つばのある小さな帽子のような形をした丸く平たい物体だった。


 「あくまで偏りを表示するだけのものですので、できれば属性魔力操作の訓練に使用してください」

 「自然な状態での属性が偏っていればそれが適性ということになるんですね?」

 「そう考えてもらってもいいのですが…、とにかく説明をしますね」


 そう前置きをしてリンちゃんが中央の膨らんだ部分、銀色の金属に見えるところに手を置いて、ひとつずつ光らせていった。4つそれぞれを光らせながら、火・風・土・水の順に説明をしていく。


 そしてメルさんに自然な状態で手を置いてもらうと、風と水のところが光った。

 なるほど、強弱の区別がないのか…。

 きっと、わざとそうしてあるんだろうな。


 「あたしもやりたい!」


 もう説明の最初からずっとうずうずそわそわしてたもんなぁ。

 メルさんも苦笑いをして場所をネリさんに譲った。


 「おー!、火と風が()いたよ!」


 何でそんなに嬉しそうなんだ?


 「ねね、タケルさんは?」

 「あ、タケルさまには合わないかと…」


 ん?、あ、そういえばリンちゃんが最初に手を置いたとき、どれも光ってなかったっけ。

 いや、リンちゃんは光の精霊だから光属性に……、あれ?、この魔道具なんで4つしか属性表示がないんだろう?

 普通に考えて光属性と5属性で表示するものを作るもんじゃないのか?

 もしかすると何か制約か何かがあったのかもしれないな。


 すげーきらきらした目で俺の手首を持って置かせようとするネリさん。

 まぁいいか、手を置いてみればわかるさ。


- とにかく置いてみます。ネリさん、手を離したほうが混ざらなくていいんじゃないですか?


 「あっ、そうかも」


 混ざらないと思うけど、せからしいので手を離してもらった。


 「あれ?、どれも光らないよ?」

 「魔力を出していないのでは?」


 ああうん、普段は手から出さないように意識してるからね。

 でも今はちゃんと出してるよ、リラックス状態ってやつで。


 「あの、偏りがなければ光らないんです、これ…」


 リンちゃんが恐る恐るといった雰囲気で言った。


- だからこうやって訓練に使うんだよね?


 4つの石を順番に素早く切り替えてくるくると光らせてみた。


 「わ、きれい!」

 「なるほど…、しかしこんなに早く切り替えられるものなのですか…?」


 ふむ。面白いなこれ。2つずつ光らせてくるくる回すとか、3つ光らせるとかでもできそうだ。

 もっと早くできそうだけど、これぐらいにしとこう。


 手を離して下がると、ネリさんが自分でもやってみようと思ったんだろう、さっと手を乗せて光らせる石を切り替えようと頑張ってるのがわかった。

 でも火と風が点滅してるだけで切り替わってない。


 「ネリ、百面相しているだけで切り替わってないぞ」

 「だってこれ難しいんですよ!?、サクラさんもやってみてよ!」

 「いや、私はまだ属性操作がよくわかってないんだって…」

 「なら私がやってみるわ」


 シオリさんが手を置くとすぐに火風水が点灯した。


 「わ、3つ点いた!」


 というネリさんの声を無視してゆっくりひとつずつ点灯させ、4つ目の土を点灯させたところで手を離した。


 「姉さんさすがですね」

 「ううん、タケル様のあれを見てしまうと、自分がいかに未熟か実感したわ」

 「タケルさんですし…」

 「タケルさんのは考えちゃダメだと思う」

 「そうですよ、ゆっくり着実にやっていけばいいのです。シオリ様はちゃんと切り替えができているのですから、それを磨いていきましょう」


 何だろうこの疎外感は。いいけどさ。とりあえず仲良くやってくれてるし。

 それはそうと、リンちゃんにこっそり訊いておこう。


 食卓のところから離れて、リビングのソファーのところに行って座った。

 リンちゃんもついてきた。呼ばなくてすんだよ。






- あれってわざわざ作ってくれたんだよね?、ありがとう。


 リンちゃんは少し驚いたような表情をしたが、すぐに、


 「いえ…、どうしてそう思われたんですか?」


 と問い返した。


- だってあれ4属性しかないよね。


 「……里にあった訓練用のものは5つなのですが、実はもう使われていないのでほとんどが廃棄処分になってまして…、その…」


- 魔力を個人判別に使うようになってから、一般向けのものは廃棄処分になったんだね?


 「はぁ…、お見通しでしたか。はい。なので4属性であれば持ち出してもいいと…」


- それで強弱の表示もなく、ただ差があれば光るだけなんだ。


 「はい。あのようなものしかご用意できず申し訳ありません」


- 充分役立ってると思うよ?、ほら。


 と、食卓のところであれやこれやと試している4人を見る。うん、実に楽しそうだ。

 いいね。そういう雰囲気って。


 「そう……ですね、ありがとうございます、あっ、タケルさま…」


 リンちゃんの腕をひいて隣に座らせ、頭を撫でておく。


- 皆がああやって訓練して、戦力の底上げができるんだから充分だって。森の家に居たときは俺にも必要だったものだけど、今はもう自力で微調整ができるし、問題ないよ。


 「タケルさまの成長速度は速すぎです…、あたしでもあんな速度で属性操作はできません…」


 まぁ、俺だってプラムさんやメルさんの懸命さを見習って、ヒマさえあれば魔力操作の訓練やってるからね。剣の訓練と違って、やろうと思えば手のひらの上や指先でも手軽にできるんだから。


- あの魔道具に使われてる石って、『裁きの杖(ジャッジメントケーン)』と同じような性質をもつ石だよね。


 「あ、はい、そうですね、あの杖の外側の石は同じものです」


 外側?、そうかあれ1つの石じゃないのか。すごいな。

 それはおいといて、石の光る色はそういう意味なのか。


 杖でいろいろ試したのでもうわかってたんだけど、火は赤色、土は黄色、風は緑色で水が青ってことか。なるほど。デフォルトがオレンジ色なのは、白に足りないのは火・風・水で、火は少なめにしろっていう意味でもあったということが改めて確認できたな。


 と、納得したような表情を俺がしたんだろう。


 「あ、杖を試される前にあれをお渡しできればよかったんでしょうか…?」


- ん?、大丈夫、自力でなんとかなったから。それにあれについては優先度高くなかったし。


 「そうでしたか…、よかった…」


 あ、メルさんがこっちにきた、何かあったのかな?


 「タケル様、少しよろしいですか?」


- どうぞ?


 「あの、タケル様には属性の偏りが無いという事でしょうか?」


- え?、あ、あの魔道具に触れた時のこと?


 「はい。光っていなかったので…」


- ああ、たぶんあの魔道具で検知できるほどの差じゃないと思ってください。あれはあくまで訓練用の簡易的なものですから。


 「なるほど、そうでしたか…、それでその、タケル様が『サンダースピア』に適性があったのに光らないのはどうしてなのかと不思議に思ったんです」


- 適性についてはですね、さっきの説明では簡単に理解してもらうためにああ言いましたが、実はもっと複雑な条件があるんだと思いますよ?


 とリンちゃんを見る。


 「属性の適性についてはただ強弱だけでは説明のつかない例もあって、完全に解明されているわけではないのですよ」

 「そうだったのですか、なるほど、だいたいああいう理解でいいけれど例外もある、ということですか」

 「はい、そういう理解でいいと思います」


 俺も頷いておこう。

 何となくだけど、俺は土にも光にも、つまり5属性全部に適性がありそうな気がする。

 言わないけどね、何となくだから根拠がないしさ。


 「ありがとうございます。それで『サンダースピア』のためにも、風と水の配分を調整するような訓練に使えるような魔道具はありませんか?」


 ですよねー、あれだと強弱の表示ができないからね。


- そういう用途で言うなら『サンダースピア』で試せばいいのでは?


 「それは危険ではないでしょうか…?」


 毎回ぶっ放すならそりゃ危険だろうけども。

 って、リンちゃんも何でそんな表情?


- あれ?、魔力を篭められるなら、篭めた魔力を戻す事もできるんじゃ無いんですか?


 「そんな無茶な…」


 え?

 とリンちゃんを見る。


 「タケルさまぐらいですよ、そんな器用に出し入れするなんて。普通はできません」


- え、そなの?


 「「はい」」


 えー?


- 俺普通にやってたよ?、剣や服に(まと)わせた魔力を移動させたりしてさ。


 「移動ならわかりますが戻すのは…」

 「タケルさまの移動とは体内や表面ではなく、剣や服の話ですよね?」

 「え?、一度身体から離れたものをですか?」


- 身に着けてるものは離れてないんじゃないかな…?


 「「離れてます!」」


 えー…


- でも手や足だって表面なら…。


 「それは離れてはいないのですよ」


 何故か(さと)すように言うメルさん。それに頷くリンちゃん。


 「タケルさまはおかしいんですよ。剣の訓練のとき、剣に篭めた魔力を、訓練が終わったら身体に戻してますよね?」


- うん…。


 だってもったいないじゃないか。


 「そんなことされてたんですか!?、普通はできませんよ!?」

 「そうなんですよ。でもタケルさまはいとも簡単に、何気ない事のようにやっちゃうんです、」

 「「はー……」」


 溜息つかないでくれるかな…。

 そっか、だから『サンダースピア』を使って訓練するのは危険だって話になるのか。


- だったら、こういう風に左右の手で配分を練習して、それができたら片手で…。


 「それを確認する方法が魔力感知しかないので…」


 ああ、それで魔道具って話だっけ。


 「……自力で訓練していくしかないということですね…」


- そうですね、すみません。


 「いえ。タケル様が特殊だということが改めてよくわかりました」


 と、メルさんはちょっぴりシニカルな笑顔で言った。




次話2-70は2018年10月31日(水)の予定です。

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2019年05月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
なるほど。わかりません。
2020年01月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
同じやん。なるほど。やっぱりわかりません。
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