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2ー066 ~ 砦

 3層入り口付近に小山のように折り重なってるトカゲの死体を、身体強化してひょいひょいと超え、3層に入ってみると目の前に首のないボストカゲの死体と、ショートソードでテストしたときのトカゲの死体があった。うん、グロいけどね。今更だし。


 境界門から数歩の距離をあけて、索敵(レーダー)魔法を使ってみた。


 うーん、やっぱり後ろ側、境界門付近は魔力感知し辛いな…。

 さっき吸い取ってるのを確認しちゃったから、余計にそう感じるのかもしれないけどさ。ピンガーの反射も返って来ないし…。


 ま、それはいいとして、3層は行き止まりの部屋2つと、4層との境界がある最奥の部屋にしかトカゲが居ないっぽいな。


 そういえば巣部屋に卵があったりするんだけど、卵って感知できないな。地形にまぎれてるから、確実に卵だとわかる形が転がってでもないと、いや、たぶん石ころと区別がつかないだろうな。

 まぁ卵自体は脅威じゃないし、襲ってくるわけじゃないからいいか。






 「うわ、首がない…」


 そう言ったのはたぶんカエデさん。


 振り向くと、何かぞろぞろ3層に入ってきたようだ。


 「死体は討伐隊に任せてきましたが、いいんですか?」


- ええ。構いませんよ。


 たぶん、素材とかそういう面でいらないのかって意味だろう。


 「これがボスですか…、首はどこに?」


 たぶん周囲や壁などにちらばってる肉片とかがそうじゃないかな。

 と思うけど、言いたくないなー、水魔法で洗い流したいぐらいだ。臭いもひどいし。


- さぁ?、破裂したみたいになっちゃってますから…。


 「あっちに下あごの一部が落ちてるよ?」


 ネリさん…、いいって言わなくても…。


 「凄まじい威力ですね…」


 そうですね。メルさんなんかいつもより近くない?


 「ああいう時のタケルさまはいつも無茶苦茶ですね…」


 溜息をつきながら言うリンちゃん。

 だって加減ってったって、倒せなかったらヤバいよね?

 だから俺としては、確実に倒せるだろう威力でって思って……。

 それはそうと…、


- 2人とも、なんで俺の服つかんでるの?


 「なんとなく…」

 「タケルさまが飛び出しそうで…」


 俺は『飛び出し坊や』か…?


- どこも行かないよ?


 ってか斜め後ろ両側に居られるのはちょっと…。

 つかまれてるせいで体の向きも変えにくいし。


 「ここに剣が埋まってるよー!」


 通路がカーブになってるところの壁を指差してネリさんが大声で言ってる。

 行って見ると壁からショートソードの柄が少しみえてた。なるほど、刺さってるじゃなく埋まってる、か。


- 抜けそうです?


 「周りを掘らないとつかめないよ?」


 ふむ。


- んじゃ風魔法でひっぱりましょうか。


 「ダメ!」

 「「「ダメです!」」」


 全員で即否定?


- え?、ダメ?


 「さっきのを見てしまうと…、ね?」

 「うんうん」


- ちゃんと加減するって…。


 「ダメです」

 「少し大人しくしていてください」


 えー…。

 まぁいいけどさ、ショートソードだし。


 「だってほら…、ねぇ…」


 と、周りを見回す皆。


 つられて見ると天井や壁など、肉片や骨片もちらばってるけど金属っぽいものがある。

 ロングソードの柄だったらしい一部も転がっていた。

 え?、これ全部ロングソードの欠片か?、刃だった部分なのかこれ?、こんなにばらばらになるとは…。


 「一体どうなればこんな風になるんですか…」


 呆れたように言うカエデさん。うん、俺にもわからん。


 「とにかくやり過ぎだってことですよ…」


 右後ろのメルさんが言う。


 「毎度の事ですけど、もう少し加減してもいいと思います…」


 左後ろでぼそっと言うリンちゃん。

 頷く皆。


 何なんだよこの雰囲気…。






- あ、あと分岐の行き止まりと最奥の部屋それぞれにトカゲが2・3匹ずついるんだけど…、


 「居るんだけど、じゃないですよ」

 「そうですよ、調査に来たんですよ?」


 うわーかぶせ気味に言われた。前からカエデさん、右後ろからメルさん。服つかまれてるし動けない。怖い。


- じゃ、じゃぁどうするんです?


 「ボスは倒したのですし、あとは討伐隊と調査隊に任せませんか?」

 「あ、はーい!、あたしたちで倒していいかな?」


 最近、手を上げて発言するクセでもついたのか、ネリさんが勢いよく手を上げて言った。


 「そうですね、討伐隊のほうは後ろの片付けに時間がかかりそうですし、途中の死体も気になります」


 あ、ゾンビ化か。さすがメルさん。

 そうだよね、回収できるならしたほうがいいか。


 「ねね、タケルさんのほう、ゾンビいました?」


 そういえば前回来た時ゾンビになってたのが居たっけ。


- いや、見てませんね…。


 「あたしもメルさんもゾンビ見てないんですよ、もう残ってないのかなーって」


 もしかしたら魔力切れで動かなくなるのかもしれない。


- 居ないなら居ないでいいんじゃないのかな…。


 「えー、前のとき隙間からちょっと見えただけなんですよー?、見たかったなーゾンビ」


- でもトカゲですよ?


 「だって、ゾンビですよ!?、ゾンビ!、何かすごくないですか?」


 さっぱりわからん。


- と言われても…、もう行きますよ?


 「はぁい…」


 何なんだこの子はホント…。


 「あの、ゾンビって何ですか?」


 あー、カエデさんは知らないんだっけ。






 カエデさんに説明したあと、それぞれの分岐の奥、行き止まりの部屋にいるのも処理して、分岐を埋めてしまおうってことになった。


 で、走って行って、メルさんとネリさんが石弾ズドドドって撃って倒した。

 俺は見てるだけで、終わってから死体を回収、俺だけ残って魔力の淀みを崩して散らし、部屋を崩して埋めながら分岐まで戻る。それを2回。


 分岐のところで待っててくれてもいいのに、それも無く、皆もう反対側も終わってて、本筋の4層入り口がある最奥の部屋のほうに移動中だった。

 何となくちょっぴり寂しいとか思ったけど、考えてみたらいつもこうだったよなーって思いなおし、分岐の反対側も同じように処理をして、分岐まで戻ってきたら少し戻ったあたりで皆がお茶してた。ああ、崩して埋めるときの埃対策か。ちゃんと障壁まで張ってんのね。


 「おつかれさまー」


- あっはい、お疲れさま。最奥のところで待ってると思ったんですけど。


 「どうせ戻るのですし、タケルさんを待つならここでいいかと…」

 「最奥だと、タケルさんが4層に入るって言い出しかねませんし…」


- 4層、1歩入って探知魔法を使って地図を作っておいたほうがいいと思ったんですよ。


 「あ、そうですね、地図はあったほうが助かります」


 ということで、4層の地図をつくるためにまた3層最奥部屋へと戻ることになった。

 皆が立ち上がったとき、ネリさんがまたクッキーを頬張りそうになってたので指一本立てて注意したら、しぶしぶ手に持ったクッキーをお皿に戻してた。






 4層に1歩だけ入って少し様子を見る。


 あはは、あっちからも俺の様子が気になるのか皆がこっち見てるな。ぼんやりへろへろ歪んで見えるから面白いぞこれ。でも向こう側からこっち見れないって言ってたよな?


 おおっと、そんなこと言ってる場合じゃなかった。


 索敵(レーダー)やんなきゃ。


 んー、え!?、ボストカゲが何体どころじゃないぐらい居るぞ!?

 あれ1体だけじゃなかったのか…!


 うわー、今までとえっらい差があるぞこれ…、ヤバいんじゃね?

 どうやって攻略するんだろう?、ってそれを考えないとここから先に進めないぞ?


 あ、地図に焼いておくか。あとボストカゲの分布も印を入れとこう。


 奥行き約800m幅500mぐらいか。天井の高さは20mぐらいかな、だいたい決まってるのかもしれない。

 手前が森、いや林って程度かな、奥も同じ。最奥部の壁には、5層への入り口があるな。


 4層から3層や5層方面には石畳がまるで街道のように敷かれていた。

 街道はまっすぐではないけど、森を抜けてるし、幅も広いから少しだけ門の近くのところが見える。高低差はほとんどないけど、少しだけ中央部が高い感じか。


 中央部分に城壁のある遺跡タイプで、城壁の内側は街みたいな構造。屋根はない。広場や大きな構造物にそれぞれボストカゲが1・2体いて、ボス部屋のように一番奥のところは3体。えーっと全部で18体か。


 そして普通のトカゲだが、通りを巡回しているのと、ボストカゲの近くにいるのとで40匹ぐらいか…。


 3層から4層に来て警告音を出してたと思うんだけど、それでも全部が動くわけじゃないのか…。


 あ、巡回してるやつが壁の門のところに来る。門に扉がないから見られるかもしれない、さっさと戻ろう。






 「え?、ボスがボスじゃなかったんですか?」

 「ボスがたくさんいるなら、どれがボスなんです?」


 地図を見せて、ボスがいっぱいいた、って言ったらやっぱりこんな反応だった。

 トカゲに訊けとは言えないので、どう言おうか考えてたら、

 「この砦の中央にいる3体のどれかがボスなんじゃないですか?」

 とメルさんが常識的な判断をしたようだ。

 まぁそうだろうね。


 「なるほど、砦に見えますね…」


 言われてみれば確かに砦だよな、扉は無いけど形としてはそんな感じだ。

 実際の砦なんて見たことないけどな!


- とにかく一旦出ましょうか。


 そう言って皆を促し、軽く走りだすとちゃんとついてきたようだ。






 3層と2層の境界のところに到着した。

 改めて見るとひどいな。壁とか天井とか。あまり言いたくないので気にしないでおこう。

 死体は無くなってた。2層のほうに持ってったんだろう。

 皆も無言だった。


 境界門を越えて2層へと戻る。


 2層最奥の部屋はトカゲの死体を並べて検分している兵士さんたちと、討伐隊のリーダーだろう兵士のおっちゃんが数人と焚き火のところで話をしているのが見えた。

 俺達が戻ったのを見て、会話をやめてこちらに向き直ったところをみると、待ってるっぽいので駆け足で近寄った。


 「どうでしたか?、3層は」


 彼がカエデさんを見て尋ねてるようなので、俺は羊皮紙を出して3層と4層の地図をもう一度焼き、4層のところはボスらしき敵影には印をつけていく。

 カエデさんはちらっとこちらを見たけど、俺が返事をしないのがわかったのか、答え始めた。


 「はい、3層の敵はとりあえず倒してきました。あ、ありがとうございます」


 話の途中だけど3層の地図を手渡した。


 「それでこのように、分岐のほうは処理をしましたので3層も1本道になっています。巣部屋にあった卵は全て破壊済みです」

 「おお、それは助かります。それで、もうボスは居ないと見てよろしいのですか?」


 4層の地図もできたので手渡す。

 軽く頷いて受け取るカエデさん。


 「それが、4層ですが、このように……、ボスが18体いる事がわかりました」

 「何ですと?、するとあれはボスではなかったという事ですか?」


 さっきも思ったけど、そろそろ『ボストカゲ』って言い方をやめないとダメだな。

 紛らわしくてしょうがない。


 「そうですね、ダンジョンボスではありませんでした。普通のボスです」

 「ややこしいですな…、他に何か名称はないのですか?」


 2人ともこっちを見た。うん、まぁそうだろうね。


- 『竜族』らしいですよ。


 「え!?」

 「ご存知なんですか?」

 「ハムラーデルの童話なんですが、『竜族』が出てくるものがあるんですよ、まさか、いやさすがにあれでは……」


 当惑している兵士さんたち。後ろにいた人も聞こえたのかざわついてる。

 そりゃそうだろうね。童話に出てくるものが実在したら誰だって驚くよ。


- ちなみにどういうお話なんですか?


 「あ、いえ、少し驚いただけです。童話ですから、あー…、気になりますか?」

 「はい、できれば聞いておきたいですね」


 俺も頷いておく。


 「そうですか、あくまで童話ですが、翼の生えた竜が街に飛来して、口から火を吐いて人々を襲うんですよ」


 普通にドラゴンだよな、そんなのって。


 「それでどうなるんです?」

 「勇者がやってきて退治して終わりです」


 あっけないな。ってか勇者スゲーな。


 「どうやって倒したというのは書かれてました?」

 「いえ、挿絵では剣を持ってましたが…、そこまでは。童話ですし」


 ですよねー。

 カエデさんも不思議な表情で俺を見る。

 期待してるのか?、無茶言わないで欲しい。ああ、だから微妙な表情なのか。


 「それでその、あんな翼では飛べないだろうなと…」


 彼が指差したところには首がない、ん?、翼だけ置いてあるな。

 ああ、持ってくるときに適度なサイズにばらしたのか。なるほど。


 「そうですね…」

 「『竜族』と聞いて一瞬驚きはしましたが、童話と現実は違いますから…」


 でもなー、仮称ガーゴイルだって、石の翼で飛べるわけがないんだけど、空力で飛んでるわけじゃなかったしなぁ…。たぶん魔力だと思うけどちゃんと見る余裕がなかったんだよね。

 『竜族』だってもしかしたら翼のサイズとか関係ないかもしれないじゃないか。


 天井までの空間があると飛べるものが居るかもしれないって思うしさ。フラグ的にね。

 あ、でも角イノシシと角ニワトリはどっちも飛べなかったっけ。

 そういうのもあるか。


- とにかく『竜族』ってことでお願いします。

 それで今後ですが、どうします?、一応案はあるんですが。


 「そうですね、我々としてはその、『竜族』と直接対峙(たいじ)したことがないので、ここに陣を張るという案と、勇者様方の仰る危険度を考慮して一度地上まで撤退する案の何れにしようかというところです」


- そうですか、できれば『竜族』と対峙するのは避けたほうがいいと思うんですよ、命あってのものですから。


 「はい、ですが一度も戦わずに逃げるのかという者もおりまして…、あ!、いえ、決して勇者様のお言葉を疑うわけではありませんが!」


 俺やカエデさんが眉を(ひそ)めたのを見て慌てたように言う兵士さん。


 「はい、わかってます。そういう人もいるだろうということは。仕方のないことです」


 宥めるように言うカエデさん。俺が何か言う前に急いだような。

 ん?、何か雰囲気が妙だけど、まぁいいか。


 「それで、タケルさんの案というのは?」


 おお、スルーされたんじゃないのか。


- あっはい、あの境界門って魔力を吸うというか乱すんですよ。


 「はぁ…」


 ああ、説明が必要か。


- それで、『竜族』もあの境界門付近では魔法が使えないんです。

 なので、境界門のこちら側で、魔力を吸われず影響のないところから、具体的には今日壁を作ったあたりですね、あれぐらいの距離で、門を囲む壁を作っておこうかと。


 「はぁ…」


 あれ?、何この反応。


- そうすれば、なかなか壊されませんし、もし壊されたら兵士さんたちでも対処ができるんじゃないかと。


 「ああ、そういう意味ですか。この部屋に陣を張って監視ができるというわけですね」


- はい、そういうことです。


 「すると、我々はここに陣を張っても撤退してもどちらでもいいと…」


- そうですね。でも進軍したい人たちには我慢してもらう事になります。


 「ふむ……」


 少し考え込む様子。まぁそこは好きにしてもらっていいんだけどね。

 俺達は一旦戻って、4層の砦とかどう対処すればいいのかを考えて、準備を整えて出直したいわけで、それまでの間はできれば封鎖しておきたいんだよ。


 兵士さんたちが突入したりするのは勝手だけど、『竜族』の破壊魔法への対策手段がないなら無駄に命を失うだけだし、もしそれで多くの兵士さんが死傷した場合あまりいい気はしないからね。


 「わかりました、勇者様の案で行きましょう。我々だって命は惜しいですし、ここには数人の監視を置いて、撤退することにします」


 意を決したように言う彼に、少し安心した。


- そうですか、では早速壁を作ってきます。


 そう言って俺は駆け足で境界門のほうに行く。


 「よろしくお願いします」


 と言って敬礼――姿勢を正して右手の拳を左胸に当てる動作――をしたのが魔力感知でわかったが、振り向いて返礼するのもあれなので、片手を軽くあげるだけにとどめておいた。






●○●○●○●






 分厚い土壁に、監視用の覗き穴をあけておいたんだけど、考えてみたら暗視魔法がないと見えないよなぁ…。


 挨拶をして引き上げ、外に出て、中で倒して回収したトカゲの死体を並べて引き渡し、その間カエデさんはライスさんだっけ?、ライアンさんだっけ?、前線基地隊長のひとと話しているようだ。


 あれ?、何か死体多くないか?

 あっちのほうで並べてるリンちゃんに訊いてみるか。


- リンちゃーん!?、何か死体多くないー!?


 「3層でー!、みなさんがー!、今日ー!、倒した分ですよー!」


 あっそう。ならいいのか。

 片手あげてわかったって合図しておいた。


 ああそうか、兵士さんたちが倒した分も回収してあるからか。

 みなさんが、ってそういうことか。

 2層最奥のところで倒して、消えずに残ってた分も幾つか回収してたかもしれないな。


 トカゲはだいたい尻尾からポーチやリンちゃんのリュックに突っ込むって暗黙のルールがあるので、俺が突っ込んだものじゃなくても出しやすい。

 そういう決め事をしていなくても取り出せるんだけどね、分かってるほうがやりやすいんだよ。置く時に向きとか考えなくていいからね。


 最初のうちは近くで見てた兵士さんが口をあんぐりと開けっぱなしで驚いてたけど、並べていくうちに普通に戻った。これも毎度のことだよなー、そいやハムラーデルでこうやって魔物の死体を並べるのって初めてか。


 おっと、ここまでが今日の分か。

 ああ、ポーチに手を突っ込んだら、いつぐらいに入れたものって何となくわかるようになってるんだよ。

 つい最近気付いたんだけどね。だんだん便利になっていくなぁ、いいことだ。


 「タケルさま、こっちは終わりました」


- あ、ありがとう、こっちも今終わったとこ。んじゃ戻ろうか。


 「はい、カエデさんはどうするんです?」


 そうか、送っていかないと。

 ちょうどあっちも話が終わったっぽいな。


 ん?、メルさんとネリさんはあれ何やってんだ?、土魔法で作ったショートソードか?、を、浮かせて…?、ああ、今日俺が剣を飛ばした魔法の話かな、たぶん。


- カエデさん、こっちは終わりましたけど、どうします?、大岩のところまでお送りしますけど。


 「はい、こちらも報告し終えました。送ってもらっていい……やっぱりいいです!、自分で戻ります!」


 え?、何その慌て方。


- そうですか?、遠慮しなくてもどうせ途中ですし、構いませんよ?


 「い、いえいえ、遠慮じゃないです!、大丈夫です!」

 「タケルさま?、途中大岩拠点に寄るのでしたら、ポーチのトカゲの残りを引き取ってもらうことはできますか?」


- ん?、ああ、結構あるんだっけ?


 「はい。容量的には問題ありませんが、中身がトカゲの死体だらけというのは気分的にちょっと…」


 確かに。どうせ俺達には不要だしなぁ、解体するのも面倒だし。


- 何かの役に立つってことは…、ないよね。


 「粉砕して肥料にしていいのなら…、でも相当時間もかかりますし…」


 あー、例のアレか。樽みたいなやつでガガガガって加工するやつ。

 時間かかるよなぁ、あれじゃあ。


- というわけなのでカエデさん、トカゲの死体、ハムラーデル側で引き取ってもらえると助かるんですが…。


 「え?、タケルさんは換金したり皮を売ったりしないんですか?」


- ティルラ側ではしませんでした。だいたい騎士団に寄付してましたね。まるごと。


 「まるごと…、なるほど」


 カエデさんがさっき俺達が並べた死体のほうを見て納得したように言った。


- なので、今更売ったり換金したりってのはどうも……ね?


 「そうですね、ティルラにはタダで引き渡して、ハムラーデルには売るのか、と言われますね」


 くすっと笑うカエデさん。


 「それで寄付ですか。確かに助かりますね、手間はかかりますがジャイアントリザードの革はそこそこいいものですから。それで何体ぐらいあるんですか?」


- 何体ぐらいあるんだっけ?


 と、リンちゃんを見た。

 リンちゃんは、『ん~?』って小さく言って小首を傾げながら、エプロンのポケットに片手を突っ込んだ。


 「ティルラ側に渡してない分も含めていいんですか?」


- ああうん、いいよ、この際だから在庫一掃しても。


 「でしたら…、124体ですね」

 「え?」


- え?、そんなにあんの?


 「はい。引き渡し忘れでしょうか、角サイが3、角イノシシが14、角サルが4、角ニワトリが6、これも含めての数です」


- え?、イノシシとニワトリって結構消費したよね?、解体したりして。


 「はい、なので全部引き取ってもらえればと…」


 リンちゃんがカエデさんを見る、俺も見た。『う…』って一歩下がるカエデさん。


 「…わかりました、大岩拠点で話してみます…」


- じゃ、行きましょうか。


 さっと顔色を変えるカエデさんを見なかったことにして。


 「あ、あの、やっぱり飛ぶのは…」


- メルさーん、ネリさーん、帰りますよー!?


 「「はーい」」


 たたたっと駆け寄ってきたのでぶわっと包んでささっと飛んだ。


 「「ひゃぁぁああ!」」 「あはははー」


 何か笑い声が混じってるような。

 皆しがみついてくるんだよなぁ、何度も言うけど、足の下には障壁がしっかりあるだろ?、じゃなきゃ浮いてから飛びつけないよな?、

 そしてメルさんはやっぱり身体強化ONだった。もうね、わかってたよ。






●○●○●○●






 大岩の拠点で、しばらく呆けてたカエデさんがよろよろと責任者のいるらしい大きめの天幕に入っていくのを見送った。


- メルさん、しがみつくのは構いませんが、身体強化はOFFにしてくださいね?


 「はい…」


- 飛ぶの、そんなに怖いですか?


 「あ、いえ、その、下が見えるのは怖いです…」

 「あたしもう慣れたよー?」


 キミには聞いてない。さっきスゲー笑ってたろ?


- ふむ…、下が見えなければ平気ですか?


 「と思います…」


 ふーむ、そういうもんなのか…。


- 下が見えないほうが不安じゃないですか?


 「え!?、そうなんですか?」

 「タケルさまはご自分で障壁を張ってるからそう思うんですよ…」


- なるほど。土魔法で箱作ってそれで飛べばいいのかな…?


 「それってもう乗り物ですよね?」


- それもそうか。


 「飛行するたびに乗り物作るんですか?」

 「それってもう飛行魔法って言えないような…」

 「箱に乗って飛ぶタケルさん…?、プーあははは痛いひひひ酷いひひひ…」


 どんなのを想像したんだコイツは。

 でも確かに滑稽なことになりそうだよなぁ…。


 うーん、試しに川小屋に戻るときには土の板にしてみるか…。

 あ、カエデさんが出てきた。


 「タケルさん、あちらの広場に並べてくださいとのことです」

 「よろしくお願いします」


 と、天幕からぞろぞろ兵士さんたちが出てきて頭をさげた。


- あっはい、んじゃリンちゃんも。


 「はい、タケルさま」


 それでぞろぞろ歩いてって、広場でリンちゃんと2人、せっせと死体を並べた。


 「このように状態の良い素材を…、本当によろしいのですか?」


 と、改めてカエデさんに尋ねてる偉いひとっぽい兵士さんの声がした。

 そっちを見て頷くと、カエデさんも軽く頷いて返す。


 「いいそうです」

 「そうですか、ありがとうございます。とても助かります」

 「あ、その、お礼はタケルさんに…」


- 聞こえてますのでいいです。こちらも在庫処分ができて助かってますし。


 2人はどう返したものかと顔を見合わせて、苦笑いをしていた。






 多少時間がかかったが、並べ終えた。

 「こんなにきれいに倒された角サイは初めてです」

 と、並べてる途中、隣でメモをとってた兵士さんが言ってたけど、これも毎度の事なので適当に返事しておいた。


 さっきは討伐隊の兵士さんたちが倒したものや、メルさんとネリさんが石弾で倒したのも含まれていたので、あまりきれいではない死体もまざっていたが、今回のはほとんど俺やリンちゃんが倒したものばかりだ。


 だから素材としては価値も高いんだろう、メモをとってた兵士さんも、カエデさんの近くの責任者っぽい人も、にこにこしてたよ。

 自分で解体しないなら、きっと傷のない皮や素材がお金に見えたことだろう。


 俺はティルラのほうで、連続で多く解体をする兵士さんたちの(なげ)きを聞いてるしその表情も見ているので、こっちで解体役をさせられる兵士さんたちのことを思うと少し申し訳ない気持ちもある。


 実際、何の騒ぎだと近くの兵士さんたちが遠巻きにして広場を眺めている表情は、あまりいいとは言えないものだった。

 あ、でも最後に角イノシシと角ニワトリを並べたときには喜んでたね。


 やっぱり肉なのか?、肉がいいのか?




次話2-67は2018年10月10日(水)の予定です。


20181009:言葉が足りない文を訂正。

 (訂正前) 俺はティルラのほうで、連続で多く解体をする兵士さんたちの嘆きも見ているので、こっちでも解体役をさせられる兵士さんたちのことを思うと少し申し訳ない気持ちもある。

 (訂正後) 俺はティルラのほうで、連続で多く解体をする兵士さんたちのなげきを聞いてるしその表情も見ているので、こっちで解体役をさせられる兵士さんたちのことを思うと少し申し訳ない気持ちもある。


20181011:表現を変更。

 (訂正前)我々だって無謀は避けたいと思いますし

 (訂正後)我々だって命は惜しいですし

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2019年05月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
なるほど。わかりません。
2020年01月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
同じやん。なるほど。やっぱりわかりません。
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