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2ー063 ~ 巣部屋攻略会議

 「それではほとんどタケル様とリン様頼りなのですね…」


 軽くこれまでの戦闘のやり方を説明されたシオリさんが、呆れたように言う。

 サクラさんたちは返す言葉がないという表情。


 実際そうなんだけどね、でも分岐のときにはちゃんと活躍してもらったりしてるし、部屋を調べたりするときも手伝ってくれてるわけで、そう何もかも俺とリンちゃん任せってわけじゃあ無い、はず。


 どうしてもほぼ音速の石弾で狙撃のようにしてスパスパ倒す以上、あまり前に出られて混戦状態になってしまうと狙いづらいし時間も余計にかかってしまう。

 それに何よりも、前に出て負傷するリスクを考えるとね。

 できるだけ接敵機会は少ないほうがいいんだよ。安全面でも、時間的にも。


 「……タケル様はあまりダンジョン攻略に時間をかけない方針のようですが、盾役を並べて前進する普通のやり方ではダメなのですか?」


- ダメという事は無いんですが…、盾役の兵士さんたちの苦労と危険性を考えるとどうしても、素早く処理していくほうがいいと思っています。

 特に、ダンジョン内ですと、どの程度の人数が盾役として必要なのかが図り辛いんですよ。ぞろぞろとダンジョン内部を縦列で進むことになりますと、先頭で簡単には後退ができなくなりますし、では最適な人数とは何人なのか?、というのが割り出せません。


 「そのために外に部隊をおいて、適宜必要な人数で攻略するものでは?」


- はい。軍隊としてであれば、それが正しいダンジョンの攻略方法なのでしょう。

 でも僕たちは軍隊ではありません。


 「そうです。勇者は軍隊に所属しているのではありません。ですが単独行動には限界があるので軍隊と協力し合って……、やってきたのですが、タケル様はそうじゃないのですね…、はぁ…」


 え?、そこで溜息?


 「そうなんですよ、姉さん。それに今から軍隊…、騎士団と協力してというのも無理があります。

 それに、素早く動ける利点を生かしてやってきたのですから、今更それを変えろと言われても困りますって」

 「それは少数精鋭なのは見ればわかりますけど…」


 シオリさんはそう言って見回すときには呆れ顔だ。


 勇者3人と達人級騎士と精霊だもんな。

 精鋭どころか伝説級だよ。


 「そこで話を戻しますと、姉さんが言いたいのはまともな盾役が居ないんじゃないか、っていうことですね?」

 「そうね、これからは攻略難易度が上がるのでしょう?、だったら構成を見直すとか、各国の軍と足並みを(そろ)えるとか、協力を依頼してみることを考えたほうがいいんじゃないかしら?」


 別にそれがイヤな訳じゃ無い。

 でも何て言うかなー、もっとスマートにやれないかなーって思うんだよ。


 実際ここまでなんとかスマートにできたつもりなんだけどね。

 ああ、合間に遊びが無かったとは言わないよ?


 極論を言えばだけど、光の精霊さんの超兵器をぶっ放して全部消し飛ばしてもいいんだよ。


 竜族を、滅ぼす対象だと言うぐらいなんだもんな、明確に『敵』なんだよ。

 だったらそんな超兵器があるんだから、とっくに討滅しててもおかしくない。

 でもそうなってないってことは、ダンジョン内部に居る竜族には外からでは効果が無いってことだ。

 だから精霊さんたちも手出しができないんじゃないのかな、って思う。


 「あの…、何なら私が盾を持ちましょうか?」


 おっと、メルさんが。

 確かにメルさんなら盾役もこなせるだろう。


 でもなー、俺が何を心配しているか、っていうと、竜族(ボストカゲ)が出てきたときの破壊魔法なんだよなー…。

 魔法障壁を張って、耐えられる強度がとれるのか?、もし耐えられなければメルさんが真っ先にその破壊魔法を食らうことになるんだよ。


 ボストカゲが出てくるまでのことなら、別に盾役が居なくても何とかなる。というか何とかなってたし、乱戦にならないように引くこともできた。


 などと考えている俺の表情を見たのか、メルさんは続けて言う。


 「大丈夫ですよ?、『サンダースピア』なら片手でも扱えますし、身体強化も以前より強くなりましたので大楯(おおたて)を持ちながらでも支障はありません」


 メルさんが大楯(おおたて)ってそれはちょっと見栄え悪くないか?

 技術的にはおそらくここに居る誰よりも適任なんだけどさ、小さい子にでかい盾持たせて前に出す?、新手のイジメか?、ってぐらい絵面が悪すぎるような気がする。


- あ、いえ、そういう面では心配していません。

 ボストカゲが上がって来るまでならそれでいいと思います。


 「それなら、私が盾役ということでいいのではないでしょうか?」

 「タケルにー…さん、ハニワ兵じゃだめなんですか?」

 「「え?」」


- え?


 珍しくこういう場で皆の視線を集めたネリさんが、ちょっとだけ焦ったような表情で言った。

 それはいいけど今、『タケル人形』っていいかけたな?

 何だよ『タケルにー…さん』ってw

 兄になった覚えはないぞ?


 「盾役」

 「あー…」

 「確かにあれなら…」


- リンちゃん、あれって装備持たせたら使ってくれるの?


 「どうでしょう?、訊いてみます。少しお待ちを」


 部屋の隅に移動して、後ろ向いて片手で電話のジェスチャーをするリンちゃん。


 本来のハニワ兵なら、矛や盾を持ってるもんなんだけどさ、剣とか。

 でも光の精霊さん作の魔法人形コアだし、どうなんだろう?

 盾役というより、むしろ乱戦向きじゃないのかな、こないだも殴ってたし。


 「(小声で)あれは何をしてるのです?」


- (小声で)光の精霊さんの里に連絡をとってるようですよ?


 「(小声で)前々から気になってたんですけど、遠距離通話魔法なんですか?」

 「(小声で)誰と話をしてるんです?」


 知らねーよw、詮索したことないんだよ。


- (小声で)ハニワ兵のコアを作った精霊さん(ひと)じゃないでしょか…、僕もよく知らないんですよ。あまり詮索しないほうがいいかなって…。


 「(小声で)無線…、なんですか?、魔法…?」


 シオリさんだけ、でもないか、メルさんもかな、あのジェスチャーの意味がわかってないんだろうなぁ…。ジェネレーションギャップと言ってもいいんだろうか?

 言ったら叱られそうだから言わないけどさ。


 あ、通話終わったっぽい。


 「大きすぎず小さすぎない大きさであれば盾を持たせてもいいそうです。武器は剣なら認識して使えるそうですが…、いずれもあれはかなりのパワーがありますので、それに耐えられる装備を用意できないのなら、何も持たせないほうが強いんじゃないかと言ってました」


 あー…、あの硬いトカゲの頭部を一撃で破壊してたもんなぁ、殴って。

 殴る瞬間、拳には魔力を集中させてたし。


- それって、装備には魔力を纏わせることができないってこと?


 「はい。手足や胴体にはちゃんと魔力を集中させられるので、攻撃や防御ができるのですが、武器や盾にはそれができないようです」


 すごいな。呆れるぐらい。何か皆も言葉が出ない様子。


- 盾役、させられるのかな…?


 「要人警護用だと言ってましたので、それなりには。

 積極的防御と受動的防御のモードがあるようです。デフォルトは積極的防御だとも言ってました」

 「(もーど…?、でほ…?)」


 約2名ほど単語の意味がわからない人がいるようだけど、説明はあとにしよう。


- なるほど。だから前のときは結界の外に出て戦ってたのか…。


 「はい。受動的防御ですと、結界の外までは出ないかと」


- へー、結界と連動するんだ。


 「タケルさまが結界を張ったなら連動すると思います」


- なるほど。この間のとき、連携して戦ってたように見えたけど、どうなの?


 「はい。複数居るときは相互に連携するようですよ?」


- そうなんだ…。


 高性能だなぁ…。


 「あ、使って下さってると知ってすごく喜んでました」


- そう、こちらこそ助かってます、ありがとうって伝えておいて。


 「はい!」


 嬉しそうだなぁ…。可愛い。癒されるなぁ…。


- んじゃ前衛が必要なときはハニワ兵を出すってことでいいかな?

 それと一応、メルさん用に大楯(おおたて)を持っていきましょうか。


 「「はい」」

 「わかりました」


- それで肝心の3層の処理なんですが、まず段階的に考える必要があるんですよ、このダンジョンは。


 ここで一呼吸おいた。

 続けてよさそうなので続きを話す。


- 最初の段階として、ボストカゲがでてくるまでなんですが、これは警告音を出されるまでの話でもありますが、何せ数が多いので、どうしても警告音を出されずに殲滅することは難しいと考えています。

 通路が3つに分かれていてそれぞれの先に巣部屋がありますので、分岐側の2本に土魔法でフタをして、4層へと続く本筋を先に処理します。


 何か言いたそうな表情をしたサクラさんとメルさんを目で制しておく。


- ボスが4層から3層に来たとき、対処できる位置なら即座に、優先的に処理しないとまずいので、それができない位置だった場合は、ハニワ兵を囮にしてでも撤退すると覚えておいてください。


 「それほどまでに危険なのですか?」


 サクラさんが代表的に言ったけれど、皆同じように思ってるっぽい。そんな表情だ。

 だよね、今までさくっと倒してるんだもんね、そう思うよね。

 ネリさんは知ってる…、と思うんだけど、何となくこの子は何も考えてないような気がする。でもよくハニワ兵のこと気付いたよね。不思議。


- どうやらボストカゲは一瞬で破壊魔法を構築できるようなんですよ。


 「「「え…」」」

 「破壊魔法…、ですか?」


- ええ。どういう構築かは詳しくはまだわかりませんが、複数の魔力を同時発動できる器官をもっていることがわかりまして、それで破壊魔法を放つようです。

 過去の例から、口を開けた正面に向けて撃つ、ということがわかっています。


 「それが以前、タケルさんがボス部屋の壁が崩れていると仰ってたものの正体ですか…」


- はい。それと前回崩れて埋まったこの部分(と地図を示し)、ここに通路を作ったのもボストカゲのその破壊魔法のようです。


 埋まった部分を、どっちに向けて穿(うが)てばいいのかをどうやって知ったのかは謎だけどね…。

 そのあたりが少し心配な点かな。


 例えば、埋まった部分を反対側から別のトカゲが位置を知らせることができるのなら、土魔法でフタをしても連絡が届くということになる。

 今のところ、ボスクラスでなければ破壊魔法は使えないんだと考えているわけなんだが、もし、そうじゃなければ?、中堅クラスのトカゲでも使えるのなら?


 あの魔法発生器官は、息をそこに通せば破壊魔法が撃てるってわけなんだから、数秒とかからずに息を吸えばまた撃てるってことになる。


 それに対して狭い通路で相対するなんて自殺行為だろう。

 今回崩れた部分なら幅3mの通路ができていたし、それがおそらく破壊魔法の範囲なのだろう。

 通常の通路部分は中型や大型が通れるほどの幅があるが、それでも3m幅の攻撃を避けるには狭いと言える。


 というように不安材料は残っているんだよ。


 「この地図で見るとその通路はまっすぐですね」


- はい、曲げて撃つことはできないようです。


 「いえ、そういうことではなく、この2層と3層の境界のところに対してまっすぐですねと…」


 なんですと?、ふむ…?


- そう言われてみるとそうですね、それでこの途中に繋がって…、だからこの部分だけ変なつながり方をしてる…、ようにも見えますね。


 うーん、元々の通路って少し蛇行してたんだっけ…?

 前回の3層の地図を出して見比べてみよう。


- なるほど…、境界部分に何か法則があるのか、境界部分の位置がわかるのか、どっちかはわかりませんけど、この直線部分は、2層と3層のそれぞれの境界部分をつないだ線上にあるように見えますね。


 定規はないけど、ポーチからショートソードを取り出して添えてみると、確かに直線上にあるな、これ。

 それで元の蛇行していた通路まで開通させた、と見ることもできる。


 分岐のほう、通路の壁までは調べてなかったもんなぁ、調査不足だな…、反省。


 「これって一発でこんな通路ができたのでしょうか…?」

 「それは幾らなんでも…」


- 一発じゃないと思いたいですね…。すみません調査不足で…。


 「あ、いえ、そういうつもりでは…」


 んー、でもやっぱり調査不足だよなぁ…、よし、もっかい調査にいくか。


- いえ、いいんですよ、調査不足だったのは事実なので。

 だからもう一度調査に行ってきます。


 「「え?」」

 「またお一人で行かれるつもりですか?、タケルさま」


- うん。リンちゃんはメルさんを連れて大楯(おおたて)を買って来てくれるかな?


 「そんな!、どうしてあたしを別行動させようとなさるのですか!?」


 う…、迫って来られても…、だってリンちゃん連れてったら誰がメルさんの大楯を調達に行くんだよ…?

 まさかメルさん自身に、新拠点まで走ってって下さいなんて言いづらいじゃないか。


 「でしたら私を連れて行ってもらえますか?」


 いやいやサクラさん連れてったらお留守番がシオリさんとネリさんだよ?、現状それは避けたいな…。そういうのを許すと…。


 「あっ、んじゃあたしも!」


 ほらな?、こうなる。


 「いいですよ、私はまだ戦力になりませんし、ひとりでお留守番してますよ…」


 ちょっと困ったようにサクラさんを見てみる。


 「あ、やっぱり私はシオリ姉さんとここに残ります…」


 伝わったようだ。


 「んじゃ調査はタケルさんとあたしですね?」


 何でそんな嬉しそうなんだ。まだ許可してないぞ?


 「あ、あのっ、大楯なら鷹鷲隊(おうしゅうたい)に常備してますのですぐに戻れますよ!?」


 と言いながら、メルさんがリンちゃんとアイコンタクトしてる。


 「新拠点なら転移ですぐ行って戻って来れますね!」

 「よろしくお願いします!」

 「当然です!」


 リンちゃんが胸張って返事してるし、2人ともめっちゃわざとらしい笑顔だし。

 それは自分たちも行くから待ってろってことですか…?


 ここで『ひとりで行ってきます』なんて言ったらみんな不機嫌になるんだろうなぁ、やだなぁ、でもただの調査だよ?、今回気になった点を調べてくるだけだよ?

 そりゃ途中に遭遇するトカゲは倒すけどさ。


 ひとりのほうが身軽なんだけどなぁ…、でももう断れない弱い俺…、がんばれ俺。


- ……わかりました、シオリさん、サクラさんすみませんがお留守番をお願いします。


 「「はい」」

 「やったー♪」

 「ではメルさん」

 「はいリン様!」

 「(タケル様って案外弱いんですね)」

 「(いつもこんなですよ?)」

 「(もっとしっかり意見を通すひとだと思っていたわ)」

 「(聞こえますよ、姉さん)」


 そこのおふたりさんよ、そういうことは近くでちらちらこっち見ながら言うもんじゃないよ?

 全部聞こえてるよ!?






●○●○●○●






 リンちゃんとメルさんは本当にすぐに行って戻ってきた。

 5分もかかってなかったんじゃないか?、どんだけ急いだんだよ…。


 そのメルさんは革ブーツにチュニック、そして革の胸当てだった。


 いい加減夏が本格的になってきたもんなぁ…。


 そういえば以前は訓練時でも黒い全身鎧だったけど、見かけなくなったし。

 やっぱり暑いんだろうなぁ…


 あ、手にはいつもの『サンダースピア』持参。

 もっていく気満々だね。

 調査だって言ってんのに…。


 他?、ネリさんはいつもの格好だよ。チュニックに革の胸当て。

 チュニックが夏服なんだそうだ。生地が薄いんだとさ。


 ああ、革の胸当ては襟のところまであるタイプね。

 いくつかパターンがあるらしい。よくわからんけど。

 時々こうして違うデザインのを装備してたりする。


 いつの間に入手してるんだろう?、謎だ。


 「タケルさま、準備はいいようですが、『スパイダー』で行きますか?」


- 当初の予定通り、まとめて飛んでいこう。


 「わかりました」

 「「はい」」


 え?、なんで皆よってきて俺にくっついてんの?


- あの…、くっつかなくても飛べますよ?


 「「はい」」「ええ」


 離れてくれそうにないなぁ、暑いんだけど…。

 特に後ろから抱き着いてるリンちゃん。


 もういいや、諦めてさっさと行こう。1・2分の我慢だし。


- じゃ、行きますよ。


 「はい」

 「はいぃぃ!?」

 「はひぃぃ!?」


 だから毎度の事だけどメルさん身体強化ONのまま!

 それでしがみ付くのマジやめてホントそれヤバいから!

 それ他の勇者だったら腕折れるレベルだよ!?

 俺も必死で強化して魔力そっちにとられると飛行制御が大変に!

 うおおお頑張れ俺!


 ちょっと大岩に降りる!


 「あれ?、ここ大岩の上ですよ?」


- メルさん、身体強化切ってくださいね、そっちに魔力の制御とられちゃうと飛行魔法の制御が危ういので…、お願いします…。


 「あ…、はい済みません」


 リソースが、なんて言ってもたぶん通じないだろうしなぁ…。


 「へー、ここ眺めいいですねー、あ、ハムラーデルの人たちかな、天幕いっぱいあるよ!」


 そうだね、飛んでくるとき見えてたけどそんな余裕なかったわ。

 あ、監視所の屋根の下んとこに兵士のひと居るじゃん!


 わ、こっちきたよ、しょうがない、挨拶しとこう。


 「お、おい!、と、飛んできたように見えたが、どこから来た!?」


- お騒がせしてすみません。こういう者です。


 ポーチから勇者の鑑札を出して見せた。


 「勇者様!?、お、おい、聞いてるか?」

 「いや?、カエデ様に確認してくる!」


 あ、とめる間も無く走って行ってしまった。


 「すみませんが少々お待ち下さいますか?」


- それがその、中央東8ダンジョンへ行く途中に、羽休めといいますか、小休止に寄っただけなので、その、わざわざここまで登ってこられるのを待つぐらいならこちらが降りますよ?


 「いえ、ここでお待ち下さい」


- そうですか…。


 だめか。

 なんせハムラーデルの兵士さんたちにとっては、俺たちの誰も顔を知らないんだろうしなぁ、しょうがない、待つか…。

 武器を向けられるほどの警戒をされているわけじゃない、一応勇者だって鑑札見せたわけだもんな。


 「あ、あまりうろちょろしないでもらえると、その、あちらの方ですが…」


- え?、あ、ネリさん!、うろちょろするなって注意されたんですけど!


 「はーい」


- すみません、あれでも勇者なんですよ。


 「へ?、あ、勇者ネリ様!?…あ」


 今、『あれで?』か、『あれが?』かどっちかをいいかけたな?、この兵士のおっちゃん。そんな顔してるし。

 うん、気持ちは分かるよ。

 今まで盗賊団みたいな騎士団のところに居たからね、反動で気がゆるんでるんだよきっと。うん、きっとそう。そのはず。


 「あっ!、いや、あー、その、できれば大人しく待っていて欲しいのですが、あちらのテーブルはいつの間に?」


 兵士のおっちゃんも実に言いづらそうに言うなぁ、しかもいいリアクションするし。

 テーブルと聞けばもう振り向かなくてもわかるというか、魔力感知で何してるか見えてるので、リンちゃんがさくっとテーブルと椅子つくってテーブルクロス敷いてメルさんとお茶にしてるんだってわかってる。


- 大丈夫です、無害です。


 「いやしかし、テーブルと椅子…」


- 無害です。


 「そうかもしれませんが…」


- ご一緒にいかがですか?


 「いえ、勤務中ですので!」


 まぁそう言うだろうね。


- では失礼して。


 「あ、いやその…」


- 無害です。大丈夫、ここで大人しくお茶するだけですから。


 「…わかりました」


 大岩の上って、いい風が吹いてるけど、やっぱり屋根がないと暑いなぁ、少しだけ風の温度下げるか…。

 ネリさんもちゃっかりテーブルに着いてるし。

 まぁこれでうろちょろしないだろうからいいよね。






 1杯目のお茶を飲み終えたタイミングで、カエデさんが階段を上がってきたのが見えた。

 一応立ち上がり、手で示して向かい側の席を勧めたら、苦笑いしながら座ってくれた。

 それにあわせてこちらも着席っと。


 「タケルさん、お久しぶりです。足の件ではお世話になりました」


- どうも。わざわざ登らせちゃったようで、すみません。


 「いえいえ、飛んできたって聞いたときは驚きましたけど。

 それで、どうされたんです?」


 驚いたにしては普通だよなぁ、まぁいいか。


- そちらの兵士さんにも言ったんですけど、中央東8ダンジョンの調査に向かう途中で、羽休めというか小休止にちょっと降りただけなんですよ。


 「そうだったんですか。では特に用事があると言うわけでもないのですね」


 何故か安堵の表情。

 あ、そっか。急に空から飛んでやってきたと聞けば火急の用件があるのだと勘違いしてもおかしくないか。

 悪い事しちゃったかな。


- はい、お騒がせしちゃったようですみません。

 確認がとれたようなので、そろそろ僕たちは行きますね?


 言いながら、兵士のおっちゃんを見る。


 「は、はい!、ご武運を!」

 と、敬礼された。


 「あ、中央東8と仰いましたよね?」


- あっはい、そうです。


 「そこなら今、うち、じゃなくてハムラーデル防衛隊が調査に行ってるはずなんですが…」


- え?、それっていつ出られたんです?


 「昨日の早朝に出て、予定ではキャンプ構築して今朝から調査開始だったと…」


- あらま、早くから決まってたんですか?


 「はい、こちらに拠点を作る計画と同時に、タケルさんの地図がありましたのでダンジョンの位置は分かっていましたし、それで…、あ、まずかったですか?」


- いえいえ、だとしたら僕たちが行ったとき、誰も顔を知らないのでまた面倒だなって…。


 ちらっと兵士のおっちゃんを見たら露骨に横向いて目を合わせないでやんの。

 カエデさんもそれに気付いて苦笑いをした。


 「あー…、でしたら私も同行してよろしいでしょうか?」

 「え~?、いたっ」


 へー、メルさんが突っ込み役に。サクラさんが居ないからか。

 あ、サクラさんみたいにネリさんの頭を(はた)いたわけじゃないよ。

 テーブルの下でぺちっと膝か腿かを叩いたんだろう。

 俺?、俺んとこからは手が届かないんだよ。


- それは願ったりですが、いいんですか?、お忙しいのでは?


 一応、礼儀としてこう言っておかないとね。


 「はい、構いません。調査ですよね?、討伐だの処理だのではなく」


- はい、調査です。


 「なら問題ありません。装備もこのままでいいですし。よろしくお願いします」


- あっはい、こちらこそよろしくお願いします。


 立ち上がってお互いにお辞儀。

 何かこういうのってひさびさな感じ。

 だってさ、付き合い長いわけでもないのに、急にしがみついてきたり、風呂に乱入してきたりとかそんなおおっとぉ、何でもないですよー?、皆さんどうしたんですかー、ほら、僕は普通ですよー?

 余計な事は考えないようにしよう。


- さ、そんじゃ行きましょうか。メルさんは身体強化ちゃんと切ってくださいね?


 「「はい」」

 「ちょっと待ってーふがが」


 あ、またネリさんクッキーを頬張ってるし…、言えば出すってば。もう。


 「あの、それで…」


- はい?


 「その…、飛んで行くの…でしょうか?」


- はい。


 あ、テーブル片付けてるリンちゃんを見て兵士のおっちゃんがアゴ外れそうなぐらい口あけてびっくりしてる。


 「ど、どうすれば…?」


- 近くに立っててもらえればいいですよ、障壁魔法で包んで飛ぶだけですので。

 準備いいですか?


 「「はい」」

 「ふぉほっ」


 ああもう、クッキーの粉飛ばすなよ、きったないなぁ、子供かw

 それ頬張りすぎて噛めないんじゃないのか?


 「ほごっ…」


 保護?、な、うわっ!


 「ごふぉ!、げっほげっほげぇっほ!」

 「ああもうネリ何やってるのよ!」

 「全く…子供ですか…ふふっ」

 「ほげぇっほ!げっほひげほげっっほ!」


 盛大にクッキーの粉と欠片(かけら)を散布したネリさんの背中をカエデさんとメルさんがさすってる。

 リンちゃんがコップに水いれて差し出した。


- もうネリさんはクッキー禁止。


 「ぞんなぁ…」


 涙目なのは()せたからだよね。


- あ、間違えた。ネリさんはクッキー2枚以上同時に食べるの禁止。

 作った人に悪いでしょ?、もったいないし。


 「はい…」


 何でこんなこと注意しなくちゃいけないのか。


- んじゃ気を取り直して、行きますよ?


 と、返事を待たずに飛び上がった。


 「「「はひぃぃ!」」」


 そう叫びながらどうして皆、()()()または飛びついて俺にしがみ付くんだろうね?

 足の下にしっかり床の感触あるでしょ?

 いい加減そろそろ慣れようよ。


 リンちゃんはちゃっかり俺の腰に後ろから抱きついてたけどさ。

 やっぱり下が見えないほうがいいのかなぁ?


 見えないほうが不安じゃないか?


 あと、メルさんはどうしてOFFだった身体強化をONにして抱きつくのか。

 もうすぐ近くだからいいけどさ、ほんとマジやめて欲しいんだけど。

 俺もだんだん慣れてきたのが何だかなぁ…。


 何故かカエデさんまで、場所が悪かったのかネリさんごと抱きついてるんだけど、キミたち仲悪いとかじゃなかったっけ?、大丈夫か?




次話2-64は2018年09月19日の予定です。


20180917:訂正。 クッキーの粉を⇒クッキーの粉と欠片かけら

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2019年05月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
なるほど。わかりません。
2020年01月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
同じやん。なるほど。やっぱりわかりません。
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