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2ー061 ~ 歴史的らしい

 やっとネリさんが落ち着いた。とても疲れた気がする。

 そこに光電話(?)が終わったのかリンちゃんが近づいてきた。


 「すみませんタケルさま。

 トカゲの死体がきれいな状態で残ることは過去に例がなく、非常に珍しいことなんだそうで、そういう資料は作ってないようです。

 できれば()分けするかそのままを里に送って欲しいと言われました。

 あちらでも調査してみたいとのことです」


- そうだね、僕が調べてもこれ以上のことはわからないし、お任せしたほうがよさそうだね。もってってくれていいよ?、あ、そこの台の上の羊皮紙も渡してもらえるかな?


 と、ハンドソープのボトルを手渡しながら言った。


 「はい、わかりました」


 リンちゃんが手早くボストカゲの死体や切り取った部位、それと羊皮紙を収納していくのを見ながら、土魔法で作ったベンチにぐでーっと座る俺とネリさん。


 いや、俺はともかく、なんでネリさんまで一緒に座ってだらけてんのよ。

 キミ何もしてなかったよね?


- ネリさんは訓練してたんじゃなかったんでしたっけ?


 「あ、うん、メルさんに負けないように風魔法の練習してたんです」


 そうそう、メルさんとかプラムさんって寸暇を惜しんで自主的に訓練するもんね。

 負けないように、って最初から負けてるけどさ、追いつくの大変だよね。


- それで、土球を直接風魔法で操作できるようになりました?


 「訓練し始めてすぐ、タケルさんが帰ってきたのが見えたので…、あまりできなかったんです、だからまだ…」


 ああ、お腹壊して部屋で寝てたんだもんね。


 「ではタケルさま、少し里に戻ってきます」


 あ、リンちゃんが直接持っていくのね。


- あっはい、いってらっしゃい。


 「いってらっしゃいです」

 「行ってきます」


 リンちゃんが川小屋の裏口までささっと走っていって中に入るのを何となく見送った。

 あ、血なまぐさいから河原を洗い流すのもやってくれてたんだ。

 急いでるっぽいのに、それぐらい俺がやってもよかったんだよ?、リンちゃん。


 「リン様の里って、どこにあるんですか?」


- え?、どこだろうね?


 「そんな、隠さなくったって誰にも言いませんよぉ?」


 俺は行ったことはあるけど転移魔法で連れてってもらっただけ。

 なので場所のこと聞いてないんだよね、だから知らないんだよ。


- 隠してないって。ホントに知らないんだって。


 「えー?、ホントですか?」


- うん、ホント。マジでどこにあるのか知らない。


 「あっやしーなー、まぁいっか、リン様の里って言うぐらいだから精霊様がたくさん住んでるのかな」


- うん、大きな街に多くの光の精霊さんたちが集まって生活してる、っぽいよ?


 「へー?、そういえばリン様って光の精霊様の長の娘だって言ってたっけ、お姫様ですよね、メルさんみたいにお城とかに住んでたのかな」


- お城はないみたいだよ?


 「へー?」


 別に口止めされてたわけじゃないけど、これ面倒なことになりそうだから行ってきたってことは言わないようにしよう。


- リンちゃんに前に聞いたんだよ。


 「ちぇ、なーんだ、タケルさんなら行った事あるんじゃないかって思ったのにー」


 ちぇ、って…w

 妙なところで鋭いな、この子は。

 だいたい場所を知ってどうするんだよ。行くつもり満々かよ。


 ネリさんが行くとなるとサクラさんたちも一緒にってことになるに決まってるんだからさ。そうなると宗教的に実にめんどくさいことになりそうだからなぁ…。

 だってウィノアさんがでてくるたびにアレだよ?、アリシアさんやその側近さんたちや役人さんたちに会ったら同じようにするに決まってるじゃないか。

 やだよ俺そんなの毎回宥めるの。


- まぁそれはともかく、風魔法の訓練、あまりできなかったって言ってましたよね。見ますので訓練しませんか?


 「なーんかごまかしてるような気がしないでもないけど、タケルさんが訓練みてくれるならやる!」


 そっかそっか、やる気があるのはイイ事だよ。






●○●○●○●






 1時間ほどでリンちゃんが戻ってきた。


- おかえり。えらく早かったね。何かあった?


 河原のベンチ――さっきつくってネリさんと座ってたやつね――に座ってる俺に駆け寄るリンちゃんにそう言うと、リンちゃんはそのままの勢いで俺の横に座りながら飛びついてきた。

 分かりにくいかも知れないけど、そんな勢いだったんだよ。


 「ただいま戻りました!、タケルさますごいんです!」


 鼻息荒くそう言うリンちゃん。当社比120%ぐらいで輝いてる。ように見える。


- まぁとにかく落ち着いて。お茶でも飲みながら。あ、ネリさんも休憩しましょう。


 「「はい」」


 それでいつものように地面から土魔法で河原にテーブルを生やして、テーブルクロスをとりだしてかけると、リンちゃんがポットとカップのセットを取り出してお茶を淹れた。


 「クッキー無いんですかぁ?」


- ないよ。ネリさん今日お腹壊してたんだから夕食まで我慢してください。


 「ちぇー」


- あ、お茶もいらない?、訓練続けてていいんですよ?、メルさんに負けたくないって言ってましたもんねー?


 「あ、ごめんなさいお茶ください休憩したいです、負けたくないけどご相伴(しょうばん)(あずか)らせてください」


 へー、『ご相伴に与る』なんてのがすらっと出てくるなんて意外だな。

 どうせリンちゃんの報告が気になって訓練どころじゃないだろうから、休憩させないなんてことは考えてないけどさ。


- はい。で、リンちゃんどうだったって?


 それでリンちゃんの報告によると、こういう事だった。






 これまで調査の機会もなかったということもあって、半信半疑ではあったが、観測された超音波から上位トカゲつまり竜族の破壊攻撃は超音波によるものだという説が数百年もの間、定説とされていたそうだ。


 今回の発見でその説が大きく覆ったらしい。


 超音波は最初に出る大声のようなもので、気管にある声帯で生じているまさにトカゲの音声なんだそうだ。

 それが声帯周囲の発声器官が動く前兆になっているんだと。

 他のトカゲたちへの合図にもなっているのかも知れない、という事だった。


 それで本題の発声器官だが、魔法詠唱の代わりとなっているものだと判明したそうだ。

 それが破壊攻撃の正体、破壊魔法だった。


 それぞれの管ごとに属性が分かれており、いわゆる複合魔法を同時発声的に生じる器官、それがあの声帯部分周囲の管の集まりであり、管にひとつずつあった魔石と骨の笛の働きだということが光の精霊さんの技術者さんたちが調査した結果だそうだ。


 たぶん、発動中にも、肺から空気を出し続ける必要があるので、中央の気管を絞るか閉じるかしていない限りは、トカゲたちの声でもある超音波は出続けるのかもしれないな。






 「それで小型ですが同様の効果を発生させるものがこちらです。

 模型なので最初の超音波は出ませんし、破壊魔法も発動しませんが、属性の異なる詠唱音波を同時に発生させることで複合魔法が発動する仕組みになっています」


 言いながらテーブルの上に側面が一部透明になっている箱を置いたリンちゃん。

 そのまま発動させて見せてくれた。


 なるほど、空気を送って振動してる箇所がわかるように光ってる。

 透明になってる部分でそれが見えていて、複合魔法は模型の少し前の部分に光る球が現れて、振動箇所の数を変化させ、色や形が変わることで現しているようだ。

 よくわからんけどよくわかった。


 スゲーな光の精霊さんの技術者たち…。

 こんな短時間でそんなものまで…、ああ、もしかしたら例の言葉に出来ない部屋を使ったりしたのかもしれないな。

 それにしてもすごい。と、感心してるとリンちゃんがまた擦り寄ってきた。


 「それもタケルさまがトカゲをきれいに倒されたのと、発声器官について考察されたのが大きなヒントになったと、里では大騒ぎになっているんですよ?

 タケルさまは我々の歴史に残るようなことをいったい幾つ為されるのですか…?」


 リンちゃんは顔は上気してるし目はうるうるできらっきらだ。


 ちょっとまって、歴史に残るようなことだったのかこれ…、ってか幾つってそんなことしたっけ?、俺…。

 尋ねたいけど怖いな、でもちょっとその勘違いをただしておかないと今後もっと大変になっていく気がするぞ?

 とりあえずベンチの端だったので、もう立ち上がることにした。


- リンちゃん、今回のことは里の技術者さんたちの功績であって、俺は関係ないんじゃ…?


 「何を仰いますか!、タケルさまが調べ始めなければこのような発見は無かったんですよ!?、すごい事なんですよ!?」


 リンちゃんはベンチに座ったまま、俺の服をしっかりとつかんで(すが)りつくかのように訴えてくる。

 あ、そんな涙目で必死になってぐいぐいこないで、怖いから。


- だ、だって今までだってトカゲのこと調べようって精霊さんだって居たはずでしょ?


 焦ってるからだってだってって変な言葉に…。


 「こちらの魔法攻撃距離だとトカゲからも破壊攻撃が届くんですよ!?」


 ああ、トカゲも魔法ってわかったんだから、魔法の撃ち合いってことか。

 そうだろうね。


 「だからもっと遠距離から焼き尽くすのが対処手段だったんですよ」


 それで物騒極まりないような武器が里にあるわけだ…。なるほど。

 でも超音波でそんな破壊攻撃ってのに疑問は抱かなかったのかな、って今のリンちゃんにはとても訊けない。


 「多脚戦車だって、過去に存在したものは実用を考慮したものではなかったんです。タケルさまのような運用を考える者なんて居なかったんです!」


 そりゃ小型UFOみたいな乗り物があれば、悪路走行なんて考えなくてよかったんじゃないかな。俺からすればそっちのほうがすごいって思うんだけど。

 でも言えない。


 リンちゃんは俺の腰あたりの服を両手でしっかり掴んだまま、上目遣いで涙目で、声を張り上げて訴えてる。

 その迫力にタジタジの弱い俺。そんな状態だった。

 掴まれてるから下がれない。下がりたいけど。


 「燻製も!、マヨも!、ポーチの改良も!、狙撃魔法も!、広範囲索敵魔法も!、多層多目的結界魔法も!、全部タケルさまの功績じゃないですか!、どうして自覚がないんですか!」


 え!?、いや、ちょっとまって、燻製とマヨは俺が考えたものじゃないでしょ、元の世界にあったもんなんだってば。燻製自体はこの世界にもあったしさ。

 あと、ポーチの改良?、そんなの俺やってないよね?

 広範囲索敵だって、電波みたいな周波数で魔法を扱うってだけで、元の世界の電波レーダーの応用なんだよ。

 狙撃魔法って何?、多層多目的結界魔法?、何それ…。


 何だか俺の知らないところで俺がやったことになってるような気がする、怖い。


 でもこれはこのまま認めるのは罪悪感みたいなものがありすぎる。

 といって今の勢いのリンちゃんを見ながら言うなんてできない……どうするか…。


 あ、そうだこういうときは必殺のアレだ!


 「あっ、タケルさま!?」


 そう、抱きしめてしまえば見ずに済む!


- リンちゃん、リンちゃんが僕のことをそうやって高く評価してくれるのはとても嬉しいんだよ、でも、元の世界にあったものを僕の功績だって言うのは、元の世界でそれを苦労して発明したり作ったりした偉人たちに申し訳がないっていう気持ちもわかってほしい。


 「でもこの世界に広めたのは…」


- 広めたわけじゃないよ、光の精霊さんに伝えただけ。そんなの誇ることなんてできないよ。精霊さんたちにとって大きなことであるなら、僕ではなく元の世界の偉人さんたちをこそ(たた)えて欲しい。


 「多脚戦車もですか?、魔法もですか?、タケルさまの元居た世界には魔法がないって仰ってましたよね?」


 リンちゃんは僕の腹部に顔をうずめたまま、それでくぐもった声で反論する。


- 多脚戦車は存在したよ――工業用には実在したし、創作物上には存在したんだから間違いじゃないはず――。魔法はなかったけど、広範囲索敵も狙撃も多重多目的結界も、全部元の世界の科学技術の応用なんだよ。僕が発見したりしたわけじゃないんだ。


 たぶん狙撃魔法ってのは強化した弾頭を超音速で撃ち出す魔法のことだろう。

 広範囲索敵は電波レーダーってさっきも言ったっけね。

 多重多目的結界だってどれのことかわかんないけど、言葉通りのものだとすれば、言ってみりゃ積層強化ガラスや防弾ベスト、フィルタや塗装などあらゆる分野で普通にある技術だ。別に珍しくもなかった。

 だから俺が1から考え、実現したようなものなんて無いんだよ。


 「でもそんなのを魔法で再現とか応用できるタケルさんがすごいんですよ?」


 え、ちょっとネリさんそこで蒸し返さないで…。


 「そうですよ!、タケルさまはすごいんですよ!?」


 あーほらリンちゃんがばっと顔をあげて勢いが戻っちゃったじゃないか。

 こいつめ…。全くほんとに…。






●○●○●○●






 何とか2人を落ち着かせることができた。

 最終的には、夕飯の仕度をしないと、とかでごまかした気がする。


 リンちゃんが興奮ぎみで俺がすごいんだと俺に納得させようとしてたのは、まぁわからんでもない。

 でもネリさんよ、キミは何でリンちゃんと一緒になってコーフンしてんだよ?、わけがわからないよ!






 あ、その過程でポーチの改良ってのが何のことなのかがわかった。

 光属性の時空魔法って以前ちらっと言ったと思うけど、ややこしい理論はすっとばしてざっくり言うと、光の精霊さんがもってる魔法の袋(ポーチ)ってのはそれぞれ固有IDをもってるわけ。それが使用者IDと合わさって固有空間作ってるから今まで共有することってなかったんだってさ。

 むしろ共有することが難しかったってわけ。


 だから魔道具や乗り物の使用者登録などにも使われてたんだけど、俺がそこんとこを魔法的に突破しちゃったんだとさ。説明きいたけど俺もさっぱりわからん。

 ネリさんなんて船漕いでたよ?、俺も眠りそうだったけど、先にネリさんにやられたんでなんとか起きてた。


 で、リンちゃんの説明を簡単に言うと、各人の魔力にはそれぞれ固有の特徴があって、それを魔法的に真似ることでその使用者IDのかわりになる、と。


 うん。元の世界だとよくあるハッキング技術みたいなやつ。

 もちろん、そういう技術が精霊さんに無かったわけじゃない。

 使用者IDを登録できるんだから、再生だってできる。

 それで、以前ちょっと話に出たけど、魔力干渉によって動作が不安定になった魔法の袋(ポーチ)の修理にも使われていたりするわけ。


 光の精霊さんってそういうのを悪用することを考えるひとが居ないっていうか、基本的にみなさん善人なんだよね。

 俺だって悪用しようと思ったわけじゃないぜ?


 今でこそ俺のポーチとリンちゃんのリュック、エプロンのポケットが共有になってるけど、最初はそうじゃなかったわけで。

 ある時、リンちゃんのリュックに入れてた俺の財布が必要なことがあって、俺のポーチ(こっち)側で取り出せないかなーなんて思ったのが発端なんだよ。


 そんでポーチの魔法をよくよく見てると、俺のだけが何か違う。

 当時は森の家に居たってこともあって、モモさんたちのポーチも観察してたから違いがわかったんだよね。

 リンちゃんのもちょっと違ったけど、俺のほどの差は無い。

 で、それが、精霊さん用じゃなくて俺用にしたものだから、使用者IDを識別する部分が他のよりゆるくなってるんだってのがわかったんだ。


 あとはそれぞれの固有IDの差異を、魔法的に真似ればっていう、ほら、アクティブサーチで俺はいろいろ魔力の周波数みたいなのを変化させたりしてたろ?、それの応用でできちゃったってわけ。


 簡単に言ってるけど、これマジで難易度高かった。俺のポーチだからできたってのもあるんだけどね。

 でも一度できてしまえば、あとはそれをこっそり勝手にやってたんだけど、それがリンちゃんにバレて、スゲー叱られて、もうしません、って言ったんで俺のほうは忘れてたんだよ。


 ところがその技術をちゃっかり使われて、俺のポーチとリンちゃんのリュック、さらにエプロンのポケットまでが共有状態になってたんだよね。


 前に『いつの間にかなってた』って言ったけど、気付いた時にリンちゃんに確かめたら、俺がやってたのは不安定だったらしくて、もう安全な技術として確立したので大丈夫ですよ、と思ってたのと違う返事をされた。

 それで首をかしげたら、溜息とともに説明してくれた。


 どうやら俺のポーチ、いろいろ試したりしたときに複数の不安定な空間が発生していたようで、結構ヤバいことになりかけてたんだそうだ。

 どうヤバかったのかはよくわからん。


 維持魔力がどうのとか、入れたものが行方不明になったかも知れない、ってことだけはわかったけど、まぁヤバいよな、それ。行方不明て。

 時空の彼方にでも消え去ったってことなのかな?、いやよくわからんけど。


 でも俺普通に使ってたよ、って言いかけたんだけど、先に『タケルさまだから普通に使えてたんですよ?』って呆れ半分の表情で言われたんで言えなくなった。


 とまぁそれの事だったってわけ。






 そこで今、思うんだけど、これ別に俺の功績じゃないよなぁ?

 俺のポーチを作るときに、識別仕様を甘く設定しておいた技術者さんのお手柄だよな?


 やっぱり全部俺が1から考えたものなんて無いじゃん。


 そういうのを俺の功績だの歴史に名が残るだの何だの言われたら堪らんぞ?

 何ていうか、光の精霊さんたちに会いづらくなるじゃないか。

 ネリさんまで煽るしさー、リンちゃんが純粋に向けてくる尊敬の念と視線が痛かったよ…。


 おかげで精神的疲労感倍増だった…。


 『お疲れさまでした。これで光の精霊たちからの尊敬もさらに増えましたね。もう光の精霊を従えていると言っても過言ではありません。さすがは(わたくし)ウィノア=アクア#$%&が認めた勇者タケル様です』


 それで夕食の仕度を手伝おうとしたけど、先に風呂へどうぞとか言われて、しょうがないので風呂に入ったら早速ウィノアさんが出てきて首とか肩とか腕とか揉んでくれてるとこ。

 もう反論するのもアホらしくなったので言われるがままになってる。






 結局ボストカゲの攻撃が、指向性が高くあまり広がらずに突き進む破壊魔法だということが分かったってだけで、対策とか倒す方法とか、あの巣部屋が分岐の先にもある中央東8ダンジョンの3層の攻略方法についてを話し合うことができてないままなんだよ。


 今までと同じように処理していくなら、分岐には俺だけが入って、本筋のほうを皆に進んでもらうのだけど、それぞれが巣部屋なんだよね。

 普通の部屋と違って、数が多いのがね…、それと、警告音を出されてしまった場合、まだ対処していないほうの巣部屋から出てこられてしまうと、退路が塞がれてしまうことになるんだよなぁ…。うーん…。


 すると、分岐か本筋かどこかを土魔法で塞いでから対処か?


 本筋側、4層からボスが出てくる可能性も考えておかなくちゃなぁ、どれぐらいの時間でボスが来るんだろう?

 前回、4層から『生』の角を運び込んできたのって、警告音発生からどれぐらいの時間が経過してからだっけ?、結構すぐだったような気がする…。


 ということは、分岐側を両方とも塞いで、本筋側の巣部屋を全員で対処してから、戻って分岐側を順番に対処したほうがいいのか…?


 何にせよ警告音を出されないように、素早く殲滅する必要があるよなぁ…。

 何かいい方法ないかなぁ…。


 しょうがない、食後のデザートのときにでも皆も席についてるし、話をしてみるか…。






●○●○●○●






 おおっと、一瞬目を閉じたら少し眠ったようだ。何か声がする。

 油断した。順番があるんだから早く出ないと。うぉ!?


- って!、これどういう状況!?


 「次は私とシオリ姉さんだったので、タケルさんが出てくるのが遅いんじゃないかと様子を見に来たんですよ。そうしたらアクア様が…、その…」

 『せっかくタケル様が気持ちよく眠っておられるのを起こすなど不敬にもほどがあるのです、ですから同じ湯に入ることを許しました』


 何してくれてんのよ…。

 俺そんなに寝てた?、一瞬だったように思ったんだけど…。

 でもまぁ居眠りなんてそんなもんか。


 「わ、私はサクラ様に呼ばれて……一緒に…」

 「同じくサクラに呼ばれまして、アクア様のお言葉に従いまして…、一緒に…」


 なるほど。宗教がからむと素っ裸でも恥ずかしくないんですかそうですか。

 あれか、ウィノアさんの魔力が感じられる神聖な湯に入る、というのが羞恥心を上回ったってやつか?


 おそろしいな宗教って。


 この湯船って、入ってすぐのとこには段差があって、そこに腰掛けて半身浴みたいにできるようになってる。

 壁際にもそういう段差があって、俺はそこに腰掛けて壁にもたれてたんだけどね。


 で、シオリさんとサクラさんとメルさんは、俺と向かい合うように座ってて、両手を斜めに交差して胸元にあてるいつものお祈りポーズで、ずっと祈ってたっぽい。


 まぁ、両手で胸を隠してるようなもんだし、エロシーンでもなんでも無いな、うん。

 これは相手してられないな、と思ってそっと横手から上がろうとした。


 「精霊様の素晴らしいお力を全身で身近に感じることができてとても幸せです」

 「タケルさんは毎日このような幸福に浴されていたのですね…」

 「私もタケル様と毎日ご一緒したく思います」


 と、3人ともいい笑顔で寄ってきたんだけど。当然全裸で。

 そして羞恥心をすっかりどこかに置き忘れてきてる3人。だから謎の宗教的微笑のまま、胸とか隠してないから丸見えなんだけど!

 怖ぇよ!、一瞬だけ見てその恐怖が性的な興味をぶっちぎりで突破したから一瞬しか見てないよ?、とかそんな事考える余裕なんてない!、ちょ、メルさん手を離して、アナタ身体強化ONのままじゃん!、もう出たいんだけど!、逃げたい、マジで。


 お、解放された。

 と思ったらウィノアさんが間に入ったっぽい。


 『おさわり厳禁ですよ?』


 と後ろから抱きつく始末。

 言い方がアレだけど、言ってる当人が抱きついてどうすんだよ。いあまぁ抱きついてるのは半透明の上半身だけで、湯船のお湯全体がウィノアさんみたいなもんだから、いまさらなんだけども。それはそれ。


 しかし後ろを見たくないな…、さっきちらっと見てしまったけど、映像的インパクトがアレすぎて夢に出そうだ。あの何とも表現しづらい微笑みで迫る全裸の美女3人。

 まるで何かに…、いや、これ以上考えるのは危険だ。思い出したくない。


 そりゃ俺だって健康な成人男子なんだから、3人の裸に興味がないわけじゃないけどさ、こういうのはちょっと…、全力で離脱したい。


- うぃ、ウィノアさん?、俺もう上がりたいんだけど。


 何とか言葉を(しぼ)り出した。


 『はい♪』


 解放してくれたので急いで歩いて脱衣所に逃げた。

 腰にタオル巻く余裕なんてなかった。タオルを掛けてた手すりは彼女らの側だったし。


 「あっ、精霊様のお力が消えて行きます…」

 「「「森羅万象を司り万物の母たる精霊の御名(みな)に感謝と祈りを捧げます。光の精霊ルミノ様、水の精霊アクア様、……」」」


 うひー、扉の向こうで3人が祈り出したよ!

 荒い曇りガラスの向こう、肌色の物体が跪いてるのがわかる。

 扉が開けっ放しにならず、ゆっくり自動で閉じていくタイプでよかったよ…。

 扉もでかくなったもんなぁ、などと現実逃避してる場合じゃない!


 普通、眠ったら溺れる危険があるわけなんだけど、その心配はいらない代わりにこんな危険なことになるとは思わなかった。


 湯船では絶対に眠らないようにしよう!




20180903:語感がいまいちなので訂正。

     心配はいらないけど代わりに ⇒ 心配はいらない代わりに

20180912:ネリらしく?、訂正。

     あやしいなー ⇒ あっやしーなー

20180916:「指向性の狭い」という表現に違和感を覚えるという意見が2人の知人からあったので訂正。

     結局ボストカゲの攻撃が、指向性の狭い

      ⇒ 結局ボストカゲの攻撃は、指向性が高くあまり広がらずに突き進む


次話2-62は2018年09月05日(水)の予定です。

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2019年05月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
なるほど。わかりません。
2020年01月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
同じやん。なるほど。やっぱりわかりません。
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