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2ー060 ~ 調査と考察

 昼食の準備をしてると、リンちゃんが戻ってきたようだ。


 「あ、タケルさま、食事の仕度でしたら、あれ?、どなたか具合でも?」


 予定していた献立と違うのを見て、そう思ったようだ。


- ネリさんがお腹の調子が悪くなっちゃっててね、見たところそれほど酷いわけじゃないけど、一応ね。


 「そうでしたか」


- リンちゃんここんとこ忙しいみたいだけど、何かあったの?


 「いえ、大したことでは…、『スパイダー』の改良と森の家の事で少し」


 む?、他に聞かせられないことかな。なら今はいいか。


- 午後はちょっと中央東8のダンジョンと大岩のほうの偵察に行ってくるよ。


 「また、おひとりでですか…?」


- うん、身軽なほうが偵察しやすいからね。リンちゃんは皆の訓練を見ててもらうと助かるかな。シオリさんに身体強化魔法を覚えてもらうように話してあるし。


 「なるほど、タケルさまの仰せのままに」


 リンちゃんのことだ、たぶん俺が勇者全員の底上げをしたいって思ってることもわかってるはずだし、そういう点では全部説明しなくていいのは実に楽だ。

 あまり他の勇者たちの前で、勇者全員の底上げ、なんて言いたくないからね。

 だって俺、立場的には一番新米の勇者だし。






 ところでネリさんだけど、普通に川の水を飲みすぎてお腹壊してるだけだった。

 一応、妙な病気ではないことを確認するために、ネリさんの部屋に行って診察したんだけどね。ほっとしたよ。

 言いたかないけど、ほら、何かに感染したとか、寄生虫とかそういうのの心配をしたってわけ。だって昼前に3度もトイレに駆け込んでたんだよ?、ネリさん。それも身体強化して。便利だな、身体強化。


 え?、診察とか役得じゃないかって?、何言ってんだ、元の世界じゃないんだから腹部や胸部の触診なんてしないってば。医者じゃないんだからさ。

 服の上から手をかざしてスキャンしただけだよ。


- ネリさん大丈夫ですか?、心配なのでお腹()せてもらっていいですか?


 「え!?、見せろってそんな!?、だ、大丈夫です!、ちょっとお腹壊しただけで!」


- そのちょっとが何か酷いので、大事に至る前に診察しておきたかったんですけど…。


 「し、診察!?、でもお腹見せるのは…」


 ん?、何か字が違うような。診察って言ってんのに。


- 服の上から手をかざすだけですって。何考えてるんですか…。


 「だって聴診器あてたり触診したりするのかと…」


 何赤くなってるんだよ、真面目に心配して言ってるんだってば。

 こっちも意識するからそういうのやめてくれ。


- カエデさんの時のは骨や関節に異常があるから触れて動かしたわけで、スキャンするときには手は触れませんよ、ほら、毛布めくりますよ。


 「あ…、はい…」


 というやり取りはあったけどね。

 普通に水の飲みすぎで下しただけだったようで安心したってわけ。

 妙な炎症が起きているわけでもなかったので、まぁ今日大人しくしてろって言っといた。


 そして昼食時。


 最初は『お昼ごはんいらない、食欲ない…』って言ってたんだけど、小分けした雑炊を部屋にもってったら香りだけで食欲がわいたらしく、ガツガツ食べ始めたので、ゆっくり味わって食べろって注意した。


 「だってお腹すいてるんだもん」


 さっき食欲ないって暗い表情で言ってたよな?


- おかわりは無いからね?


 「えっ?、そんなぁ…」


 置いてけぼりにされた飼い犬みたいな顔してるし。

 おやつの時に、残りの半分を出すように言ってあるんだけどね、黙っとこう。






 食後。


 出発前にシオリさんに軽い身体強化魔法をかけた。

 以前、リンちゃんが俺にかけてくれたようなのではなく、ちょっとだけ強化する程度で。


 あ、シオリさんはちゃんとチュニックとズボンの、動きやすい服装になってた。

 使わない服はまとめて置いてますって言ってたのであとでリンちゃんに回収しておいてもらうことにした。


 「ズボンを穿()いたのは久しぶりです」


 なんてちょっと照れながら言ってたけど、んじゃ下着の上に直接あのローブっぽいワンピースだったのかな?

 まぁ夏っぽいし暑いからそれでいいのかも知れないけどさ、それはそれで何だかなぁ…。

 いやほら、色気ゼロだったけど、そんなので俺にしがみついてたんだよな…?

 今更もうそんなの訊けないけど、何だかなぁ…。


 いや、忘れよう。そうしよう。






 かけた身体強化魔法は1時間ほどで切れると思うので、また必要ならリンちゃんにでも頼んでください、って言ったらまた『そのような恐れ多いことは…』って恐縮してた。

 でももうリンちゃんにはそういう方針だからよろしくって伝えてあるので諦めてほしい。


 身体強化魔法が初めてのシオリさんは、おそるおそるといった雰囲気で軽く走ってみたりしていたが、『少し身体が軽いです』って何だかちょっと嬉しそうだった。


- そうですか、魔力の流れや動きを感じ取ってもらうのが目的なので、弱めの身体強化魔法なんですよ?


 と、念を押しておいた。

 シオリさんは、はっと気付いたように『そうでした…』って呟いてから、神妙な顔つきで体内魔力を探るようになったので、あとはサクラさんたちに任せることにした。


 魔法に関して、何十年ものキャリアがあるんだから、まぁすぐとは言わないけど、自力で使えるようになるのに然程(さほど)の時間はかからないだろうと思う。






●○●○●○●






 しゅばーっと飛んで大岩の上に作った展望台、じゃないんだけど監視台だっけ、その上に立つ。

 ここで広範囲索敵(レーダー)魔法を使う。


 魔物、カルバス川の北にちょこちょこ居る程度だな。こちら側(南側)にはほとんど居ない。

 もちろんこれは地上の話であって、ダンジョンはまだある。

 今までちょこちょこと索敵(レーダー)魔法を使ってみてたけど、西の方では時々トカゲが数匹単位でダンジョン間の移動をしていることがあった。


 ハムラーデル防衛隊のほうは、どうやら今日移動を始めたようだ。

 タイミング的にはちょうどよかったかな。


 とりあえず羊皮紙数枚に同じ地図を描いておいた。






 さて中央東8のダンジョンがどうなってるか、だよな。

 中に入ってみたけど、新たに魔物が生まれる箇所は前回のときに散らしておいたのもあって、そう成りかけているだけだった。分岐は埋めたしな。これならまだ大丈夫。


 1層の最奥の部屋に、トカゲが数匹いるな。

 なら、3層の崩れた部分、通れるようにはしたってことだろうな。


 何だかんだで前回結構数を減らしたし、数匹程度ならさくっと倒して問題の3層のところまで行ってみるか。


 途中数匹ずつ居た程度で、それほど時間もかからず3層の崩れた箇所まで到達した。


 崩れた瓦礫や土砂を両側に避けて通れるようにしたのか…?

 いや、なんかこの手触り、どこかで……。


 あ!、ボス部屋の壁のもろくなってた所と似てるんだ!

 ということはボスがここまで上がってきたってことか?

 こんな通路で攻撃されたらまずいぞ?


 でも3層の探知結果にはボスらしきものは居ないようだし…、埋まった部分に通路だけ作って、また4層に戻ったってことか…。


 とりあえずこの3層も地図を作っておく。

 崩れて埋まった部屋は、ただの通路と分岐だけになっていて、隣接していた10部屋もちゃんと埋まってたようだ。

 中途半端に空間が残ったりしてるかも、って思ってたけど、きっちり埋まってるなら問題ない。分岐や本筋にそれぞれあった小部屋も崩れた影響があったようで、(いびつ)な狭い部屋になっているようだ。前回のように待機してるトカゲは居なかった。


 その奥の巣部屋はそのままあるようなので、調査はここまでにして引き上げよう。






 さっさと外に出て、戻りながら少し考えた。


 ボストカゲとまともに戦った、と言えるのは1回だけなんだよね。

 そのほかはだいたい遠距離でずばっと首んとこぶった切って一撃で倒してるから。


 そん時はボストカゲの眼前に音波を通さないように、ウィノアさんから教えてもらった魔法瓶的な音遮断結界を張ったんだよな…。その直後にボストカゲが口をあけて、で、暴れ出した、と。


 うーん、何かひっかかるんだよなー…。


 トカゲボスのすぐ前に結界障壁を設置したとき、あれたぶん跳ね返ってトカゲボス自身にダメージがあったんだと思うんだよね。だったら狭い空間で使うってのは危険を伴うはずなんだよ。


 でもさっきの中央東8ダンジョン3層の、埋まった土砂を掘って通路にした部分では、ボス部屋の壁と共通する痕跡が残ってた…。


 眼下に大岩の展望台、じゃなくて監視台か、つい展望台って言っちゃうな。

 とにかくそれが見えたので、一旦着陸。

 ちょうど椅子とテーブルも作ってあるのでそこに座った。






 仮に、あの時のボストカゲが口を開けたのが、壁をもろくする攻撃だとする。

 そしてそれが、リンちゃんが伝えてくれた話にあった『超音波攻撃』だとすると(2-32話)、ボストカゲの頭骨に何らかの影響がなければおかしいよな…?


 めちゃくちゃ暴れ出したのに、もし骨に影響が出ていてもろくなってたのならそのまま死んでいてもおかしくない、と思う。

 死体はどうしたんだっけ?、もう騎士団のとこで解体処理に出したんだっけ?


 と思い出しながらポーチを探ってリストを取り出してみる。


 あ、これ食材と消耗品しかリストに載ってないじゃん。だめじゃん!

 どのみちボストカゲってリンちゃんが収納してたはずなので、リンちゃんにきいてみるしかなさそうだ。






●○●○●○●






- ただいま。


 「「「おかえりなさい」」」


 川小屋の近くに降り立つと、サクラさんとシオリさんとメルさんがでかい石壁に向かって並んでいたので声をかけた。リンちゃんは、魔力感知によると裏からこっちに来るところっぽいな。


 「身体強化魔法、できるようになりました!」


 シオリさんが嬉しそうに小走りで近寄ってきて言った。


- そりゃすごいですね、もう覚えたんですか…。


 「タケルさんが出てから30分ぐらいで、コツを掴んじゃったんですよ、シオリ姉さん」


 へー、体内魔力の感知や操作は基礎ができてるんだろうねー、『杖の勇者』の名はダテじゃないってことか。


 「それでタケルさんがいつも使ってらっしゃる、石弾の魔法や氷の刃を練習していたのです」


 ああ、それであの壁か、なるほど。


- あの壁はメルさんが?


 「いえ、あれは私です」


 おお?、シオリさんだったのか。ちょっと自慢げ。


 「最初は私が作ったのですが、シオリ様が岩をぶつけて壊してしまったので…」


 メルさんが言い訳っぽく。


 「姉さんのは石弾じゃなくて岩弾ですよ、あんなの反則です」


 サクラさんが暴露、面白いトリオだなこれ。


 「だから大きい壁を作ったじゃないの!、反則って何よ!」

 「石弾の練習なのに、的が小さいからって岩ぶつけるのは反則でしょう!?、それにあんなの石弾でどうこうできる大きさじゃないじゃないですか!」


 なるほど、だいたい流れがわかった。


- まぁまぁ、それで僕の石弾って、自分で言うのも何ですけどあれ結構複雑ですよ?


 最初のうちはライフル回転つけただけだったんだけどね、音速を超えると音がうるさいから工夫したりして、だんだんと威力を上げたりしたせいで複雑になったんだよ。あれは。

 リンちゃんがやってた石弾を真似して改良したものを、今度はリンちゃんが真似したから俺とリンちゃんの石弾は同じものになってる。はず。


 はず、って言うのは細かい制御はリンちゃんのほうが技量が上だから、実は魔力消費はリンちゃんのやってるののほうが効率がいい。微妙な差なんだけどね。


 「はい、ただ飛ばすだけではなく回転を加えるのを練習してたのです」

 「タケルさん、ちょっとお手本をお願いしていいですか?」


- ああ、ゆっくり構築すればいいんですね?


 「はい、お願いします」


- わかりました。あの石壁に向けて撃てばいいんですね。

 まずこうして弾を作って、風魔法で支えたら、同じく風魔法でらせん状に押し出す。


 しゅばっ!と石弾がすっ飛んでいって石壁にめりこんだ。

 加減したけどやっぱり結構な音がするなぁ、石壁だからか食い込んだ周辺は割れて落ちてるし。

 あ、シオリさんが地味に凹んでる。土壁じゃなく石壁作ったのにめりこんだからかな、そのへんは石弾を作る時の密度や魔力を残して強化したりという練度の差だからなぁ…。


- 弾の速度が音速を超えるとすごくうるさいので、加減したんですがどうですか?


 「あれで加減…?」


 あ、しまったつい口が滑った。


- 違うんですよシオリさん、加減したのは速度で、石弾は今日覚えてもらった身体強化の応用で、魔力を少し(まと)わせて飛ばすことで弾が強化されてるんですよ。


 「あ、装備に纏わせてるのの応用でしたか…」

 「そんな方法が…、だから姉さんに身体強化から覚えてもらったんですか…」

 「なるほど…」


 あ、いやそこは偶然っていうか…、まぁ、納得してくれてるみたいだからそれでいいや。


- といっても離れてしまえば魔力が残る時間は限られているので、そこは魔力操作次第ですが、何もしないよりは弾が鱗や骨などの硬い部分を貫きやすくなるんですよ。


 身体強化だって魔力の密度というか濃度というかを変えて調節するもんだからね。

 そのへんは自分で練習して加減を掴まないとだから説明しづらい。

 メルさんやサクラさんならたぶん、武力って勘違いしてた頃にもできてたんじゃないかな。

 だから三者三様の表情で納得していた。


 が…、

 「ところで『オンソク』とは何ですか?」


 あ、メルさんはそこからか…

 ―― 音速の説明中 ――


 「なるほど、勉強になります…」


 あ、シオリさんもわかってなかったっぽい。なるほどって顔して頷いてるし。

 でも超えると衝撃波がとかの説明は止めておいた。


 リンちゃんがいつの間にか定位置――俺の左後ろね――に来てた。


 ネリさんは…、またひとりだけ裏で魔法の訓練か…ってことはもうお腹は治ったのか。

 できれば仲良くやってほしいんだけどなー…。

 何かシオリさんと相性よくないのがなー、何かきっかけでもあればいいのかも知れないけど、こればっかりはなぁ…、子供ならともかく大人の女性のは俺もちょっと口出ししづらいし…。






 3人には、『あとは各自でやりやすいように練習してみてください』と言って、リンちゃんを連れて裏の河原へ。


 「あれ?、タケルさん何かするんですか?」


 やっぱりネリさん、ひとりで訓練するのが寂しいんじゃないのかな?、わざわざ邪魔しないように回り込んだのににこにこして寄ってきたよ…。

 ここで『ネリさんは訓練を続けてていいんですよ?』なんて突き離すような言い方をするとかわいそうだし、まぁしょうがないか。


- ちょっと気になることがあるので、前に倒したボストカゲを調べるんですよ。


 「へー…?」


 歩いて来る途中でリンちゃんに確認したら、まだ収納したままだったんで、河原のところに置いてもらって調べようというわけだ。


- お腹、もういいんですか?


 「あ、うん、もう大丈夫。なんか昼間に寝てるだけだとうずうずしてきちゃって…」


 子供か。しかし治るの早いな。身体強化の影響とかあったりするのかな?

 まぁ元気になったならそれでいいさ。


 ほらそんな所で立ち止まられたら出すのに邪魔になるでしょ、とジェスチャーでネリさんを誘導して、リンちゃんに合図をした。


 相変わらず見た目がCGかアニメのように、でかい物体、今回はボストカゲの死体なんだけど、それをにゅるんと取り出して置くリンちゃん。

 もう結構な回数見てきたし、俺自身もポーチから取り出したりしてたけど、見慣れる日が来るんだろうか…?、なんて思いながら、メモ代わりに羊皮紙を出し、土魔法でテーブルとトレイ、それとトンカチを作って待つ。


 倒した直後と全然変わってないその頭部に、左手をかざして超音波魔法でスキャンしてみる。ところどころコンコンとトンカチで叩く。


 俺がそうしているところをリンちゃんとネリさんはしばらく見ていたが、ネリさんが小声でリンちゃんに、

 「リン様、あれは何をしてるんですか?」

 と尋ねたら、

 「骨を叩いて音を聞いているようですから黙って見ていましょう」

 「あ、はい…」

 注意されてた。


 そうなんだけどね、微妙な音の違いを聞き分けるような繊細なもんじゃないんだよこれ。

 もし骨がもろくなっていたりするなら、コンコンじゃなくボコボコと鈍い反応になるんだろうし、左手側でスキャンしてるんだから、その距離でなら別に喋っててくれても問題ない。


 だから、2人してじーっと見られてると、なんだかやりづらいな…。






●○●○●○●






 調べてみたが、頭部の骨には異常はなかった。もろくなんてなってない。硬いままだ。


 それとは別に、ノドのところに何か小さい硬いものが密集している部分がある。

 喉仏(のどぼとけ)みたいなもんか?、なんて思ったけど、何か違うようだ。

 スキャン魔法に微弱だけど魔力反応があるんだよな、これ。


 だからか、少し気になる。


 解体用に持ってたけど、全然使ったことがなかったナイフの出番がきたようだ。

 しかしでかいな、頭もでかいが喉も太くてでかい。

 もっとでっかいナイフが欲しいなこれ。


 考えてみりゃ解体作業なんてろくにやってなかったんだから、もう風魔法でスパッと切ってったほうがよさそうだ。

 よし、そうしよう。手とかナイフとかドロドロだし片手で支えながら切るのも大変だもんな。

 ナイフを下に置いて、切った部分を広げたりするのを手で、少しずつ切っていくのを魔法でやろう。

 おお、こりゃいいな、魔法マジ便利。最初からこうやればよかった。

 ナイフいらずだ。






 気管のところ、ごちゃーっとバイパスみたいに複数の管がいくつもあって、その中に骨が混じってる感じ。何だこれ…?

 声帯みたいな部分の周囲だよな、ちょうど迂回するようになってんのか?


 水魔法で少しずつ洗い流し、その気管の器官のところを切り取った。

 体がでかいと器官もでかいなー、とか思いながら土魔法で作ったトレイに載せる。

 それであらためて川のところに持ってって、洗い、トレイに重力魔法をかけて洗い終えた器官をその上にふわっと浮かせてみる。


 「なんか(はらわた)みたいですね、(のど)に変なのあるんですね、トカゲって」

 「気持ち悪いこと言わないでください…」

 「あ、すみません。あたしも前はこういうの気持ち悪いって思ってたんですけど、勇者を何年もやってたら見慣れちゃいました、あはは…」


 ネリさんがリンちゃんと小声で話してる。

 確かになぁ、勇者って切った張ったの生業(なりわい)だもんなぁ、血だの臓物だの見慣れるよなぁ、ネリさんも9年とか言ってたもんな。そりゃあ慣れもするか…。


 ん?、(はらわた)?、そうか管か…。

 管が絡まってるんならほどいてみればいいのか。


 ばらばらにする前に、羊皮紙に現状のスキャン結果を焼き付けて描いておこう。

 こういうときパソコンとかで断面画像とか3Dとかで処理できる元の世界ってすごいよなぁ、やっぱり。


 あー、えーっと、超音波を細く出して移動してそれを重ねて3D画像にするんだっけ?

 うーん、だめだ、俺の処理能力を超えてる気がする。

 だいたい3Dデータにしたところで、それをどこに投影するんだよ。

 投影ってのに無理があるよ。やめだやめ。


 んじゃ絡まってるのをほどくか。

 中央に太い気管があって…、そこにくっついてる管をまず1つ、切り取って…と。

 途中に少しだけ太い箇所があってその中に小さい魔力反応がある骨があるな。


 1本につき1箇所か!?

 切開してその骨を取り出してみた。小さい指の骨ぐらいのサイズだ。

 洗ってつまんで首を傾げながら見る。


 なーんかこういうのどっかで見たことが……。

 うーん、気管のとこのだからこれって空気が通るんだよな…。

 ……あ、おもちゃの笛だ。

 中に小さい魔石というか魔骨が入ってる。


 口つけるのはイヤだから、風魔法で風を送ってみた。

 風の量をいろいろ変化させると、なんか中の魔骨が風で振動して……あ!、これ魔力反応に変化が!、ってことはこれ魔法発生器官だ!、いや発声器官か?、どっちでもいいか…。


 って、え!?、これ全部がか!?


 何か背筋にぞぞっときたぞ?、ヤバくね?

 いやもうこれは死んでるんだからヤバくないけど、そうじゃなくて、トカゲボスって魔法使えるんじゃねーか?、ってことなんだよ。






 「タケルさまどうかされましたか!?」


 俺の顔色が変わったのに気付いたのか、リンちゃんが駆け寄ってきた。


- リンちゃん、里のほうではこういうトカゲの体の資料とかある?


 「あ、確認してみます。少々お待ちください」


- ちょっと待って、


 制止して、トカゲボスが魔法発生器官を持ってる可能性について話した。

 リンちゃんも、その話が聞こえたネリさんも顔色が変わった。


 「わかりました、里に連絡します!」


 また電話のジェスチャーで通信してるっぽいので待ちながら続きをしよう。


 しかしこれ、落ち着いてみると臭いしいろいろ垂れてくるし、手のぬるぬるべとべとも意識し始めると気持ち悪いな。

 水魔法で軽く流しただけだからなぁ、油分はとれてない。

 川の水でちょっと洗うか。


 うえー、これ石鹸とかポーチから取り出せないな…。


- リンちゃんごめん、石鹸ちょうだい。


 リンちゃんは少し離れたところで電話中(?)だけどこっちを見て頷くと、ネリさんを手招きして石鹸…、じゃないなあれボトル入りのハンドソープか?、をエプロンのポケットから取り出して渡したようだ。

 ネリさんならそういうのも知ってるだろうし問題ないだろう。あ、頷いてるわ。

 駆け足でこっちきた。おお、タオルも渡されたようだ。


 「はい、手だしてください」


- はいはい……ん?


 「あれ?、これ上のとこ押すんじゃないんですか?」


- ああ、上のところを90度横に回さないと押せないんですよそれ。


 さっきリンちゃんから説明あったでしょ?、断片的に聞こえてたよ?

 まさか、こっちに来る間に忘れたのか…?


 「あ、ほんとだ、わ!、足にかかっちゃった、あははは、どうしよう」


- そりゃそっちむいてるのに押せばそっちに出ますって。こっちに出してくださいよ…。


 ずっと手で受けるように構えたままなんだからさ…。


 「はーい」


 手を洗って、ついでに足元においてたさっきのナイフも洗う。

 ふとネリさんを見たら、足にかかった洗剤をタオルで、ってオイ!


- そのタオルって、洗った手を拭くためにもってきたんじゃ…?


 「あっ!、あははは、そうでしたはははは!」


 あっ、じゃねーよ。しかも笑ってるし。

 いいよ、もう…、洗ったあとだしポーチから新しくだすさ。






 「ボストカゲが魔法使えるってヤバくないですか?」


 ネリさんがさっきの話について言う。

 確かにやばいだろうなぁ、どの程度まで使えるかによるだろうけど、熟練のボストカゲが居たらかなり危険なことになりそうだ。


- そうですね…、魔法に熟達したのが居たらとんでもなく危険でしょうね…。


 「タケルさんみたいなトカゲが居たらヤバすぎですよ、っぷふっ!、あはははタケルさんみたいなトカゲははは!」


 こいつ!、どんなのを想像したんだよ、真面目な話してるとこなのに!


 「いたいっひひひ酷いっひひひ…!」


 デコピンしてやった。

 全くもう…。でも下手に危機感もちすぎて暗くなるよりはいいんだろうな、そういう意味ではいい性格してるんだろう。


 「目がぁ!、目が痛いです!、タケルさん!、助けて!」


 へ?、目?、ちゃんとおでこに当てたぞ?、なんで目?、何か入ったのか?


- ちょっと見せて!、手をどけて!、ほら!、こすらないで!


 「目がしみてすごく痛いんですぅぅ…」


 急いでネリさんが押さえてる手の、手首をつかんで顔からはずし、首をあげさせた。

 ネリさんの目元をよく見ようと顔を近づけるといい香り。

 ふと見ると手にタオル、おいおい、あのなぁ…。


- ああ、水で洗い流すのでもう少し我慢してください。


 「はひ…」


- 口とじて息をとめてー


 どうやら目元を拭おうと、手に持ってたタオルで拭いて洗剤が目元についたらしい。

 目が痛いです!、ってそりゃもう自業自得だろう。

 しょうがないので水魔法で洗い流してやった。


 「あっ!、また目が痛いですっ…、なんで!?」


 だからそのタオルで顔を拭くなってのに!、もう!、子供か!




次話2-61は2018年08月29日の予定です。


20181918:文言を追記。> 分岐は埋めたしな。

     表現を変更。> 狭い空間 ⇒ 狭い部屋


20190208:訂正。> だから狭い空間で ⇒ だったら狭い空間で

(訂正前)なんて思いながら、土魔法でトンカチを作って持つ。

(訂正後)なんて思いながら、メモ代わりに羊皮紙を出し、土魔法でテーブルとトレイ、それとトンカチを作って待つ。

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2019年05月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
なるほど。わかりません。
2020年01月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
同じやん。なるほど。やっぱりわかりません。
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