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2ー054 ~ シオリさんの魔道具

 俺とリンちゃんとウィノアさんが手洗いをしてテーブルに着いたんだけど…。


 よく考えたらウィノアさんって手洗いする必要あんの?、あまりにも自然な流れだったのでそのまま手をふいてテーブルに着いたけどさ、半透明の水の精霊が水場で手洗いをして手をタオルで拭いて、ってどう考えても妙なんだけど…。まぁいいか。


 それで、残り4人がどうしてるかというと…。


 まずネリさんはちゃっかりと、もうテーブルに着いてる。

 俺の隣をひとつあけて、座ってるよ。

 そんでテーブルの中央においてあるフルーツが盛られている器から、プチトマトの小さいやつぐらいの赤い実をひとつ摘まんで食べて、ものすごく酸っぱかったのか、『ん~~』って1オクターブぐらい高い声で言ってすごい顔して両手を握り締めてる。


 あの実、何て名前か知らないけどね、レモン並みにすげー酸っぱいんだよ。

 俺も前に知らずに口にしてえらい目にあった。

 お酒とか紅茶とかにいれたり、揚げ物にかけたりするといいんだけどね。


 何ていうのかな、レモンとはまた違った香りがして、これがまた燻製とかにばっちり合う。だからフルーツ盛ってある器にはいつもあるんだよね。


 そんで残りの3人、サクラさんとメルさんは、シオリさんがまだ(ひざまづ)いてるままで、何か言ってるのを(なだ)めてるんじゃないかな、断片的に聞こえてくるのは、『精霊様が』とか、『恐れ多い』とか、何かそんなの。


 もう任せちゃって先に食べていいかな…。

 一応尋ねてみるか。


- サクラさーん!!


 「あ、お先にどうぞー!」


 いいらしい。


- んじゃ先に頂いちゃいましょうか。『いただきます』。


 「「『いただきます』」」


 すっかり食事のときに手を合わせていただきます、って言うのも定着しちゃったなぁ…、元日本人ばかりだから自然とこうなったんだけどね。

 まぁ、俺がやってるからこうなった、とも言える。

 元日本人たちは、だいたいこっちに来てからもう何年も何十年も経ってるわけで、懐かしい、と言いながらも『いただきます』ってちゃんとやるようになった。


 こっちの世界の人だと、信仰によるみたい。

 と言っても今のところメルさんやプラムさん、あとサクラさんもだけどイアルタン教――略称なんだってさ、これ――以外の宗教は知らないんだけどさ。

 あ、そういえばハルトさんもそうだっけ。立場上そういうことになってる、って言ってた。

 だからハルトさんとカエデさんもイアルタン教だけど、さほど熱心な信者というわけではないらしい。そのへんは個々人の裁量だから他人がとやかく言ったりはしないんだってさ。

 結構自由だね。


 サクラさんはこっちでイアルタン教に入信?、って言うのかな、自然と信者になったらしくて、メルさんと同じように精霊に感謝する祈りを食事のときに行ってたみたい。


 それで、イアルタン教のひとは精霊さんに感謝を祈って食べるが、でもここだと精霊さんが目の前に居たりするので、どうにも不思議な感じがするんだそうな。

 だから俺たちの『いただきます』に合わせてくれてるみたい。


 日々行う感謝の祈りとやらは、またいつの間にかあったウィノアさんの泉のところに小さな社ができてて、そこで朝晩祈ってるらしい。

 森の家んとこと同じで、時々ありがたい言葉を授けてもらってるとかなんとか。

 今までどんな教会でも(ほこら)でも、ウィノアさんから声を賜ったことなんて無かったので、そりゃもうものっそい感激してた。メルさんなんかは涙目で。


 でもさ、こんなしょっちゅう出てきたり声かけたりしてたら、ありがたみが薄れないのかな?


 今も俺の正面に座って川魚のフライを食べてるけどさ。


 あれ?、どうも自然すぎて気付かなかったけど、ウィノアさんお箸使えるんだ…。

 しかし毎度思うけど、半透明なのに食べたら見えなくなるんだよね、でももぐもぐしてるし飲み込んでる動作もしてる。不思議…。


 『そのようにじっと見つめられると照れてしまいます…』


- あ、すみません。お箸が使えるんだなーって思って、つい。


 『皆様がお使いになっていましたので、覚えたのですよ。慣れてみればなかなか便利な道具ですね、これ。このお箸はタケル様がお作りになったとか、とても使いやすくて気に入りましたわ』


 そう言って微笑むウィノアさん。正面で見るとすげーきれいだ。

 一瞬見とれてしまいそうになった。

 いつもそうやって居てくれるなら、俺だってぞんざいに…、扱ってるつもりじゃないけれど、丁重に扱うんだけどなぁ…。


- そうですか、気に入ってくれて嬉しいですよ、作った甲斐があります。


 誰用というわけじゃなく、誰が使ってもいいように同じ素材でたくさん作っておいたんだよ。

 竹みたいな素材がポーチにあったんで、魔力操作の訓練のつもりで、お箸に加工したんだよ。そしたら何だか調子に乗っちゃって、満足行くものが出来上がるまで頑張ってしまったってわけ。

 いやほら、太さとか先の細さとか、長さとか重さとか、滑り止め加工とか、あるだろ?、そういうのをね、つい、凝っちゃってね。だからまぁ、気に入ってくれたなら俺だって嬉しいわけよ。

 好みとかもあるだろうから、気に入ってくれたらいいな、って程度だけども。


 「あ、これそうなんですか?、ここんとこお箸が使いやすくなったなーって思ってたんですよー」


 あ、そなの?、ネリさん思ってたなら言ってくれないと…。


- あ、前のは使いにくかった?、そういうのは言ってくれればいいのに。


 「えー、使えなくはなかったし、口に当たったときの感触とか、使ってるときの微妙な手の感じとかそんなのだったしー、いちいち文句なんて言えませんよー?」

 「そうですよ、毎日タダで食事しているのにそんなこと言えませんよタケルさま」


 うは、リンちゃん…。シオリさん連れてきてから機嫌悪いなー…。

 ほらネリさん絶句しちゃってるよ…?

 あーあ、下向いちゃったよ。どうすんのよこの雰囲気。


- まぁまぁ、ダンジョン処理とか手伝ってもらってますし、そのお礼みたいなもんですから、気にしないで下さいね?


 隣のリンちゃんの頭の上から覗きこむようにしてネリさんにフォローしておいた。

 一応リンちゃんには目線で『めっ』ってやっておいた。伝わったかどうかわからんが。


 もうちょっと楽しく食事しようぜ?






●○●○●○●






 ロスタニアは『氷の神殿』と呼ばれる白亜の教会があり、イアルタン教の総本山を名乗っているんだそうだ。

 ややこしいんだけど、イアルタン教会本部はティルラ王国の王都ケルタゴにあるんだってさ。まぁ歴史的にいろいろあったんだろう。どうでもいいけど。


 そういう事もあってシオリさんも敬虔なイアルタン教徒なんだとさ。

 彼女は、防衛隊本陣に居ないときはその『氷の神殿』に住んでるらしい。

 そこでは名誉司教って肩書きがついてて、教会の仕事もそう多くはないけれどやってるそうだ。


 ロスタニアでは『杖の勇者』であるシオリさんの影響力はそりゃ大きいので、教会的にも国家的にも大きなイベントのときには演説したりすることもあるんだと。

 まぁ、勇者って長生きだもんね。なかなか見かけの年齢も上がらないし。


 それでその『氷の神殿』だけど、主に(まつ)られているのは水の精霊ウィノアさんなんだってさ。

 あ、余談だけどイアルタン教では光の精霊はルミノ、水の精霊はアクア、風の精霊はヴェントス、火の精霊はカロール、土の精霊はエーラと呼ばれているそうな。

 人間は5大精霊、5属性、って言ってる。


 でもあとで聞いたウィノアさんとリンちゃんの話では、もうひとつ闇属性ってのがあって6属性あるらしい。

 ウィノアさん曰く、『氷の神殿』に祀られているのは、今は水の精霊のみなのだけど、奥の間って言われてる小さな昔の祭壇には、5精霊の姿の像があるんだってさ。


 俺が前に石英ガラスで作ったウィノア像をそこにこっそりすり替えて置きたいから、もうひとつ少し小さめのサイズで作って欲しいって言われたけど、そんなことしたら大騒ぎになるからダメ、ってきっぱり断った。


 あまりしょんぼりしてなかったけど、試しに訊いてみただけって言われた。なんだよ…。試すなよ…。

 その像が各地にあるイアルタン教会の基本像になってて、あまり似てないらしく、ウィノアさん自身はあまり気に入ってないんだそうだ。『雰囲気は出ているけど細かいところがいまいち』とか言ってた。

 でもウィノアさん別にそんなのどうでもいいと思ってるでしょ?、森の家とか川小屋の脇にある小さい泉んとこにその像の小さいやつ置いてあるけど、今までそれについて何か言った事ないし。






 そんなわけで、シオリさんは突然ウィノアさんが出現して頭に響く美しくも清らかな声――シオリさん談――を賜ったことですっかり恐縮しちゃって、俺たちと同じテーブルで食事をするのが恐れ多いって尻込みしちゃってたらしい。


 それで、今までリンちゃんやウィノアさんと同じテーブルで食べてたサクラさんとメルさんも、実は気持ち的には同じように感じてた部分も無いわけじゃなかったので、その気持ちはよくわかる、と。

 特に、メルさんなんてそうと知らずに森の家で光の精霊さんたちと一緒だったわけで、知ったときにはかなり悩んだらしい。知らなかったよ、そんな事…。


 そういう体験談(?)をしながら(なだ)めて、俺たちが食事を終えるのを待ってたんだそうだ。言ってくれれば早く食べるなり、川小屋の食卓に用意するなりしたのに…。






 リンちゃんは川小屋ですることがあるとかで、ウィノアさんにはどこにとは言わないけど戻ってもらった。

 ネリさんは紹介のときのアレの影響か、近づきたくないとかで、家の裏手で魔法の訓練するって行ってしまった。アレかぁ、アレならしょうがないね。


 俺はシオリさんたちが食事をし終えたタイミングを見計らって、お茶でも飲みながら話をすることになったわけなんだが…。

 彼女らが食事をしているテーブルに着くとシオリさんがぎくしゃくしだして、それを普通の状態になってもらうまでが、また難儀した。


 もう俺に慣れてもらうしかない、という謎のアイコンタクトをサクラさんとメルさんにして小さく(うなづ)き合い、緊張を(ほぐ)す意味でもシオリさんに多く話をしてもらうようにした。


 その過程でさっきの、ロスタニアでのシオリさんの話や教会がどうのって内容を聞いたってわけ。






 「まさかタケルさんが精霊様を従えているとは思いませんでした…」


 どうやら『さん』付けに落ち着いたようだ。

 サクラさんもそう呼んでるものな、それに合わせたんだろう。

 俺としては大先輩方には呼び捨ててもらった方が気楽なんだけどね。


- 従えているつもりは無いんですよ。協力してもらってるって感じですね。


 「でも精霊様はそう仰ってはいませんでしたが…」


- リンちゃんに関しては、確かにアリシアさんの命もあって仕えてくれていますけど、僕としては頼りになる相棒のようなものだと思っています。

 ウィノアさんは協力者という立場でしょうか、どちらともいい関係で居れたらいいなと思っていますので、従えているなどとは考えたことはありませんよ。


 あ、胸元がさわさわしてる。

 不自然にならないようにそっと手で押えておこう。

 ダメですよ、出てきちゃ。また場がおかしくなっちゃうから。


 「なるほど、本心からそうお思いのようですね、少し安心しました」


 む、あの魔道具もってきちゃってたのか。手に握りこめば隠れる程度の楕円形(だえんけい)サイズだもんな。

 そういえば置いていく暇なく連れてきたんだっけか。だからって使うか?、バレてないと思ってんのかな…。

 レプリカの杖は置いてきちゃったみたいだけど。


- その魔道具、面白いですね。消費魔力も小さいですし、少し見せてもらってもいいですか?


 「え!?、どうしてそれを…?」

 「シオリ姉さん、タケルさんは魔力感知ができるんですよ」

 「そんな、もっと早く言ってよ…」


 いあいあ、ロスタニア王と話してた時にも使ってたのバレてるんだから、サクラさんが早く言っててももう遅いでしょ。


 「この距離なら私でも魔道具が発動したことがわかりますよ、シオリ様」

 「え!?、メルリアーヴェル様?、貴女達人級の戦闘職でしたわね?」

 「その程度がわからないようでは達人級を名乗れません」


 おお、メルさん胸を張ってすごく得意げに言ってる。

 でもつい最近だよね?、魔力感知できるようになったのって。


 「私にはまだ感知できませんが、シオリ姉さんも含めてここに居るみなさんの位置ぐらいでしたら感知できるようになったのですよ?」

 「へ?、サクラ貴女魔法が使えるようになったの?」

 「初級魔法でしたらもう無詠唱で使えます」

 「な、ど、どういうことなの!?」


 そこからサクラさんとメルさんがここでの生活や魔法関係の訓練のこと、それとシオリさんが気にしていたのかダンジョン処理について質問されたので、そのあたりを大雑把(おおざっぱ)だけど説明をした。

 もちろん俺も少し補足したり、頷いたりはしたけども。






 「ふぅ…、何だかもう驚くことばかりだわ。タケルさんが地図をさっと描いたときにも驚いたけども、サクラが魔法を使えるようになったなんて、魔法が使える勇者は私だけだと思っていたのに……」


 シオリさんは大きく息を吐いて椅子の背もたれに体を預けた。


 「とても信じられなかったけど、タケルさんが魔法で空を飛んで私を連れてきたのだし、信じる以外ないわね、できればそのダンジョン処理に同行してみたいのだけれど…」


 ちらっとこっちを見られた。


- それは構いませんが、ロスタニアのほうに黙っては行けないのでは?


 「そうですね、それもありますが、先ほどの話では、皆さん身体強化で走りながらダンジョン内を駆け抜けているそうではありませんか。

 残念ながら私は身体強化ができないのです。とても付いて行けそうにありませんわ」


 ふーむ。でも魔法が使えるって言ってるぐらいなんだから、覚えればいいだけじゃないのかな。


 「シオリ姉さん、身体強化も魔法なんですよ?」

 「え?、あれは武力でやっているのではなくって?」

 「身体を鍛え武器を扱うことは確かに武力と言ってもいいらしいのですが、それによって体内の魔力を操作し、身体を強化したり武器や防具を強化することは魔力操作であり、魔法なのです」


 どう言えばいいか考えてたらサクラさんが説明し始めたようだ。黙っとこう。


 「そんな、では今まで皆がやっていたことは…?」

 「全部がムダというわけではありません、基礎体力や体術、武器の扱いの訓練をしていなければ、いくら身体強化をしたところで上手く動けないのですから」

 「…そうだったのですか…、では私がいまさら身体強化魔法を覚えたところで、ダンジョンに同行できないでしょう?」

 「そんなことはありませんよ、あのハルトさんだってここで数日訓練をしただけで、初級魔法のいくつかは無詠唱で使えるようになりましたし」

 「ええっ!?、あのハルトが!?、そんな、まさか…!」

 「本当です。何ならその魔道具を使ってください」

 「う…、これは嘘がわかるというものじゃなくて…、あ……」


 あ、話がそこに戻ってくるのね。


 さっき俺に『面白い魔道具』とか『少し見せてくれ』って言われたのを思い出してバツが悪くなったのか、ちらっとこっちを見て言葉が途切れちゃった。


 そしてまるで観念したこそ泥みたいな態度で言った。


 「これは、ロスタニアの名誉のために言っておきますが、決して嘘がわかるものではなく、触れるほどに近くに居る人の身体の状態がわかる魔道具なのです。

 本来は病気や怪我の診断に使うものなのですよ……」


 シオリさんはそう言うと、右手に握っていたものをことんとテーブルの上に置いた。

 それは、『そろそろ次のを出そうかな、もうちょっと使ってからにするかな?』って悩むぐらいのちびた石鹸のようなサイズの楕円形をした物体だった。

 色も黄色っぽいし。洗面台においてあったら石鹸にしかみえない。


 あ、でもうすーく、光が反射する筋がいくつもあるようだ。

 それが魔力的な筋なんだろうか?

 魔道具って(あか)りのやつぐらいなんだよなーって、雰囲気的にどこかでみたような感じがー…?


 あ!、前に試作品『スパイダー』んときのコア!、あ、ハニワ兵のコアもか。

 大きさと色が違うから頭のなかで関連付くのに時間がかかっちゃったよ。

 なるほど、そういうもんなのか。


 いや、仕組みとかさっぱりだけど、雰囲気で。


- 手にとってみても?


 「一応、それもロスタニアの国宝なので、壊さないで下さいね?」


 そんな(おび)えたように言わなくっても…、一体俺を何だと思ってるんだろう?

 こういうのはプロに訊いたほうがいいに決まってる。


- はい、大丈夫ですよ。


 正面すこし右手の川小屋のほうを見てリンちゃんを呼ぼう。


- リンちゃーん! ………あれ?、居ないのかな。む、何ですかウィノアさん、あ、ちょっとちょっとダメですってば、あーもう、なんつー事を。


 胸元をぺちぺちと2回、ウィノアさんの首飾りに軽く叩かれたかと思ったら、襟元からにゅる~~っと半透明の手が生えてきた。

 急いでそれを両手で掴んでる俺。でも止められるわけが無い。


 それを正面から見ていて、絶句というかもう化け物でも見るような目のシオリさん。

 傷つくなぁ…。

 サクラさんも驚いて椅子から落ちそうになってテーブル掴んでるし、メルさんなんて飛びのいて戦闘体勢に入りかけてたよ?、さすがに踏み(とど)まったようだけどさ。


 『だって姿を出すなって言われてましたし、私だってこういうのに興味があるのに、仲間はずれじゃないですかぁ…』


 そこまで出てきちゃってたらもう出てるのと同じじゃん…。

 ほら周囲の複雑な表情ったら…。


- わかりました、でも首飾りから出てこないで下さいよ、出てくるならいつもの泉からで。


 俺の首筋から生えてくるのはホント勘弁してください。

 絵面(えづら)最悪じゃないですか全く…。


 『はーい』


 言うとテーブル上の魔道具に伸ばしかけていたその半透明の手を、しゅるんと首飾りに戻して――俺にはそう感じたわけなんだけど、これ周囲からすると俺の首から腕が生えて、また引っ込んだようにしか見えないよなぁ…やっぱ説明しなくちゃか…――例の泉のほうに魔力反応が湧いた。

 あっちから出てきたってことなんだろう。


- 一応言っておきますけど、これですからね?、首飾りです。僕の身体から出たわけじゃないですからね?


 襟のところのボタンを外して、胸元を広げて3人に見せながら言い訳を……、えー…?


 「「「森羅万象を司り万物の母たる精霊の御名(みな)に感謝と祈りを捧げます。光の精霊ルミノ様、水の精霊アクア様、……」」」


- ちょっとちょっと3人ともストップストーップ!、急に跪いて祈らないで下さい、ものすごく居心地悪いので!、ホントお願いだからやめて?、ちゃんと椅子に座って?


 首飾りを見た瞬間、サクラさんとシオリさんは椅子から滑り落ちるように降り、メルさんはその場で、3人ともが揃って地面に跪き、両手を胸元で交差して頭を下げて祈り始めるとかどんなのよ。

 あっという間の行動だった。


- シオリさんには当然見せたことありませんでしたけど、サクラさんもメルさんも見たの初めてですか?


 3人とも椅子に着きながら、ハンカチのような布で目元を(ぬぐ)ってた。

 そんな涙流すほどのものなん?、これ。宗教こえーな。

 こりゃおいそれと信者の前で服を脱いだりできないな…。


 そして少しサクラさんとメルさんが顔を見合わせたあと、


 「はい、初めてです…」


 と、落ち着きつつあるけどまだどこか落ち着かない、そんな声で答えた。

 これって宗教的にそんな一瞬で祈りを捧げなくちゃいけないほど重要なアイテムなの?、と訊いてみたいけどそんなこと恐ろしくて知りたくないので我慢我慢。


 そういえばこの首飾りのことを知ってるのは、リンちゃんぐらいだっけ?

 あれ?、でもメルさん俺のこの首飾り見たことあるはずだよね?、2・3度ほど。

 まぁ、この場で言うのはやめとこう。


- そうでしたか、まさかあんなに急激な反応をされるとは思いませんでした。

 それと、ウィノアさんがここに来ますけど、また跪いたり拝んだりしないでくださいね?、話が進まないので。


 だって川小屋の角んところに手を添えて、こっちの様子を覗うように顔半分だけだして見てんのよ。もうシュールというか居た堪れないというか、何やってんの水の精霊…。

 日陰になってるところに半透明の人型(ひとがた)、それが家の角のところからこっちを覗き込んでるって、昼間っからホラーかってぐらいだけど、どうにも仕草が可愛らしくて怖くもなんともない。

 俺は見慣れてるからかもしれないけどね。


 「はぁ…、わかりました」


 と、渋々3人に言わせてから、ウィノアさんを手招きした。


 おお、小走りに、ってウィノアさん走れたのね。雰囲気的にちゃぽちゃぽ言いそうだけど、そんなこともなく、至って普通に。でも足音がほとんど無いな。


 ああ、一部はすごい揺れてたけど、そこは見て見ない振りをしておく。

 言わないよ?、言ったら負けな気もするし。


 そしてテーブルを回り込んで俺の隣にちゃっかり座るウィノアさん。

 椅子をわざわざこっちに寄せて座るんですか。そうですか。


 そして優雅に素早くテーブルに置かれている魔道具に手を伸ばした。


 『これが問題の魔道具ですのね?、ふぅん…』

 「け、決してそれは悪いものではなく、」

 『黙りなさい』

 「も、申し訳ございません!」


 シオリさん真っ青になってテーブルに頭突きして謝った。

 『ゴン!』ってすごい音がしたけど大丈夫か?

 このテーブルって土魔法でがっちり作ったやつだから石と同じなんだぞ?

 でもウィノアさんが『問題の』なんて言ったからだよね。


 『タケル様、これは光の精霊が造ったものですね。若い世代に回復魔法を覚えさせるためのもので、診察をして体の構造や動きを知り、学ぶためのものですよ』


 と、まるでつまらないものだったかのように俺にその魔道具を手渡した。

 ちょっと魔力を通して発動させてみた。

 魔道具に薄く微細に描かれた文様が(ほの)かに光る。

 ふぅん、あっそうか。こういう魔力操作かなるほど。って、横に寄り添ってるからウィノアさんの身体のことが…、うわー、どうなってんのこれ魔力が緻密で超複雑なんだけど。


 『あらん♪、タケル様ったらいやですわ♪、こんなところでご無体な♪』


 いあいあちょっと待ってくれ、たまたま横にくっついてるから発動したときそうなっただけで、他意はないんだっていうか、そういうの声に出して言わないで欲しい。


- ウィノアさん。


 『はーい』


 ちゃんとわかってやってるところがまた何と言うかもう…。


 『この者はそれを応用して嘘を見破る手段にしていたようですね』


 シオリさんはずっとテーブルに頭をつけたままだ。

 頭ぶつけて気を失ってるとかじゃないだろうな?


- なるほど、発汗とかそういうのを見ているってことですか。この魔道具は一種のスキャナーのように働くんですね、さすがは光の精霊さんの魔道具ですね。


 『こういった物に長けた精霊ですから』


- そういうもんですか。


 『はい。タケル様もいくつかお持ちでしょう?』


- そうですね。


 そこでがばっと頭を上げたシオリさん。でも陸に上げた魚みたいに口をぱく…ぱく…?、何か言いたいのかな?、あ、『黙りなさい』って言われたからか。


- シオリさん、喋っていいんですよ?


 ちらっとウィノアさんのほうを見て、ウィノアさんが仕方なさそうに頷いたので話し始めた。仕方なさそうってのは魔力のゆらぎで何となくね。

 ウィノアさんの表情って、見慣れないとたぶん判別つかないだろうからシオリさんにはそれ伝わってないと思う。


 「た、タケル様も同じものをお持ちなのでしょうか?」


- え?、ああ、そういう意味じゃないんですよ、光の精霊さんたちにはお世話になってますので、彼らが作った魔道具を幾つかもっているというだけで、これそのものを持っているということではないんです。


 「あ、あの…、これはそんなにありふれた品物なのですか?」


- んー、たぶん光の精霊さんの里にはたくさんあるんじゃないでしょうか。

 でも人の手に渡っているのはこれひとつかも知れませんね。

 それがどうかしましたか?


 「いえ、その、これでもロスタニアでは国宝なので…」


 ああ、そう言ってたっけね。んじゃロスタニアの国宝って、シオリさんの杖とこれの2つってこと?、まぁ幾つあるかとかどうでもいいけどさ。


- あ、価値を下げるような言い方になっちゃったからですか、そういう意味ではありませんよ、人の手で造れないものであることは確かですし、これが国宝であっても何ら不思議はありません。誤解を招く言い方になってすみませんでした。


 「あ、いえ、そんな、謝って頂くようなことでは…」


 と、両手を細かく広げて振るシオリさん。

 それで顔がちゃんと見えたけど、やっぱりおでこと鼻がちょっと赤い。いやそのおでこんとこコブになってないか?、すげー痛そうなんだけど。


- これ、お返ししておきますね。ありがとうございました。

 それと、ついでに。


 「あ、はい、え?、え?」


 身を乗り出して魔道具を手渡したついでに、おでこのところに手を触れて回復魔法で治しておいた。だって痛々しいんだもん。内出血してるし。

 僕には必要のない品物なんですよってことを暗に伝えてみた。


 シオリさんは額に手をやってから、


 「か、回復魔法?、無詠唱で?、こんな早さで?」


 と、呟いてから、はっとしたようにこちらを見て、


 「ありがとうございます!」


 と、今度はテーブルに頭をぶつけないようにお辞儀をした。


 またぶつけるのかとひやっとしたよ。




20180804:さっき気付いたのですが、この話で100話目のようです。

     だからといって別に何があるわけでもないのです。

     1話分の文字数が増加気味になってますし、過去の投稿分も見直せば分割

     したりもできそうですから、100話なんてそのへんの調整次第かもしれませんし……、

     でも何となく、100話かぁ…って思ったのであとがきに記しておきます。

     あと、活動報告にも書いておこうかなー、ははは……はぁ。


20180806:細かな文言をいくつか修正。

20200517:誤字訂正。 戦闘体制 ⇒ 戦闘体勢


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2019年05月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
なるほど。わかりません。
2020年01月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
同じやん。なるほど。やっぱりわかりません。
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