0-001 ~ 序章の1
―― 某勇者の呟きより ――
「おお、勇者よ、しんでしまうとは情けない…」
目覚めたとたんにこれだよ。お決まりの文句?、そうなんだけどね。はぁ…。
いや、しぬってあれは…。
そんでもってまた所持金100ゴールドだよ…、なんなんだよこれ…。
どんな地獄だよ…。
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これを聞き、日誌に記した者はもう居ない。
彼が勇者という過酷な者たちに対して、それを世話する勇者隊の一員として、後に続く者たちへ知って欲しいという願いを汲んだ当時の隊長が、新たに勇者隊に加わった新人たちに読ませる書類に、これを彼の手記から書き写したものである。
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普通に、という表現はあまり好きではないが、普通に近場の学校に通い、特に何ということもなく部活も頭数でしかないような高校生活だったが卒業、そしてこれまた近場の低ランク大学になんとなく進学し、大した勉強もせず適当にアルバイトやって、ネットから拾いまくった文章をつなぎ合わせつじつま合わせ(のつもりのもの)を提出、渋い顔をした教授に呼びだされたがなんとか卒論をクリア、就職はあちこち面接に行ったが普通に落とされ結局、親の知り合いとかいう人の居る会社に内定もらってこれまたなんとなく就職、上司に同僚に客に振り回されるいう普通に流される生活をしていたのだが…。
ある時、気が付いたらボロい木造の薄暗い部屋で起きた。
自分でもわけがわからないが宿屋の1室だった。
今朝、普通に会社に行こうとして部屋を出たはずなんだけどなぁ…。
何となくとりあえず部屋を出て、ミシミシ言う薄暗い廊下を少し歩くとこれまたミシミシ言う階段があり、降りると揃いの革鎧のようなものを着けた連中に両側から腕を捕まれて連れて行かれた。
- え?、ちょっと、何ですか?
振りほどこうにもがっちり掴まれてる、ごっつい腕の男性2人。
こりゃあ抵抗できそうにないなとすぐに諦めた。
これって拉致だよな、と思い、せめてもの抵抗に『歩けますよ?』とか『腕が痛いのでもう少し緩めてもらえませんか?』とか言ってみたが、まるっきり無視され、堀のような川を渡ってでっかい門を通ったところで止まる。
玄関の扉の前に3人いて、中央のちょっと偉そうな白髪混じりの男性が、一方的に、
『お前は勇者見習いだ、だから見習い装備と当座の資金を与える。
強くなって魔王を倒すのだ。まずは東の森にダンジョンがあるからそこに行け』
と、革の胸当てとごつい革の鞘に入った鉄の剣、それと背負い袋と金貨が入った皮袋を与えられた。
これが噂の異世界転移か?、ひゃっほい主人公キタコレw、俺始まった!?
と浮かれてたこの頃の俺をぶん殴りたい。
まあ浮かれてた気分はすぐに萎えたんだけどね。
でかい門を出て、橋を渡り元来た道はどうだっけとか思いつつ、大通りを歩いて適当な露店で道を尋ねると、店主はこちらを上から下まで舐めるように見たあと、微妙に納得したような表情で、
「ああ、勇者さまですか。ならそこの道を右に曲がって2本目の道を左に行けば勇者の宿ですよ。」
一応は礼を言って歩き出したがなんとなく釈然としなかったな。
だいたい何だよ『勇者の宿』って…。
言われた通りに歩いていくと、確かに上にでっかい看板があった。なぜか読める妙な文字。書けるかと言われるとちょっと自信がないが、『勇者の宿』って書いてある。
海の家のような、1階が飲食店でオープンスペースっていうんだったっけ?、そんな感じでテーブルと椅子があり、さっきの兵士――だよな?たぶん――と別の兵士たちが座ってた。
テーブルの上にはでかい皿に豆?みたいなのが乗ってて、木製のちいさい樽みたいなのがそれぞれ兵士さんたちの前にあった。
酒か?と思ったが酒の匂いがしないし、なんだろうなと思ってたら入り口脇のカウンターにいた店員――エプロンみたいな服装だったのでたぶん店員だろう――が声をかけてきた。
「おかえりなさい、勇者さま。一泊10ゴールドです。」
- え?、ちょっと高くないですか100ゴールドしかもらってないんですけど…。
「一泊10ゴールドです。食事抜きなら5ゴールドです。」
む、でも食事ないと困るしな、仕方ない。
渋々背負い袋に入っていた小さい皮袋のひもを解いて、10円玉のような小ぶりのコインを10枚取り出してカウンターに置く。
「お部屋は階段を上がって廊下の奥の4号室です。」
そう言って『4』と書いてある木切れに革紐で繋がってるでっかいカギを渡された。
なんとなくそのまま部屋に行くことにした。
部屋の扉のでっかい鍵穴にそのでっかいカギを挿したがこれがまたえらい固い。
ドアノブ――だよな?これ。回らないけど――のような取っ手らしき部分を押したり引いたり持ち上げたりしながらなんとかカギを開けた。
ギギギとか音が出たけど大丈夫だよな。
部屋に入ったが、特にこれといってすることがあるわけでも無い事に気付き、背負い袋から革の胸当てを装備し……ようとしたが着け方がわからん、のであとで下にいた兵士の誰かに尋ねることにする。
革の鞘もついてる革ベルトを肩に掛けてるだけだったんだが、これもたぶん何か間違えている気がしたのでついでに尋ねようと思って部屋を出ようとした。
ふと考えて小さい皮袋――面倒なので財布――から10枚の金貨を取り出し、財布はベッドの布団、ってこれ藁にシーツかけただけか、とベッドの間に隠す。
そんでもってよく見ると金貨だと思ってたこれは真鍮だった。もしかして銅貨?これ。やっぱり10円玉じゃん、いや、真鍮って5円玉か。
まぁいいや、もうこれは銅貨ってことにしよう。支給金、少なくね?
部屋に財布を置いたので一応、また苦労してカギをギギギと掛けて出た。
階下の兵士に胸当てと剣鞘の着け方を教えてもらった。
ヒゲ面の兵士さんは苦笑いしながらも丁寧に教えてくれた。
「頑張れよ」
ってバシンと背中を叩かれた。ちょっと涙出たのは痛かったからじゃないと思う。
カウンターに居た店員さんが、
「お出かけですか。ではカギを」
と言ったので渡す。
無愛想だなーとか思ったが、まぁそういうもんなんだろう。
とりあえず言われたように東の森を目指すことにする。
東ってどっちだ?
こっそり修正してあったり。
さらに修正してみたり。